ブラウン管は映らない

作者:ゆうきつかさ

●埼玉県某所
 地上波アナログテレビ放送の終了……それはブラウン管テレビにとって、死刑宣告にも等しい事だった。
 何故ならブラウン管テレビでは、地上デジタルテレビ放送が映らない。
 そもそも、そんなモノが存在する前から、この世にいたのだから、映せるわけがない。
 それ故に、誰からにも必要とされなくなった。
 代わりに来たのは、薄型テレビ。
 しかも、みんな大喜び。
 『今度のテレビは映りがイイ』、『しかも、ゴーストも映らないし』と大絶賛。
 用済みと化したブラウン管テレビは、処分費用をケチッた持ち主が、車に乗せて山奥にポイである。
 だが、ブラウン管テレビは、諦めていなかった。
 強い思いを胸に秘め、必要とするモノが現れるのを、ジッと待ち続けた。
 その思いに引き寄せられるようにして、小型の蜘蛛型ダモクレスが現れた。
 蜘蛛型ダモクレスはブラウン管テレビに機械的なヒールを掛け、ダモクレスに変化させた。
「テレビィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 次の瞬間、ダモクレスと化したブラウン管テレビが、耳障りな機械音を響かせ、山を滑り降りていくのであった。

●セリカからの依頼
「カシス・フィオライト(龍の息吹・e21716)さんが危惧していた通り、埼玉県某所にある山中で、ダモクレスの発生が確認されました。幸いにも、まだ被害は出ていませんが、このまま放っておけば、多くの人々が虐殺され、グラビティチェインを奪われてしまう事でしょう」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
 ダモクレスが確認されたのは、埼玉県某所にある山の中。
 この場所に捨てられていたブラウン管テレビがダモクレスと化してしまったようである。
「ダモクレスと化したのは、ブラウン管テレビです。ダモクレスと化した事で、ブラウン管テレビはロボットのような姿をしており、自分の事を捨てた人間達に復讐をするため、山を滑り降りようとしています。今のところ被害は出ていませんが、このまま放っておけば、間違いなく街に繰り出す事でしょう。そうなれば、罪のない人々の命が奪われ、沢山のグラビティチェインが奪われてしまうでしょぅ」
 セリカが真剣な表情を浮かべ、ケルベロス達に資料を配っていく。
 資料にはダモクレスのイメージイラストと、出現場所に印がつけられた地図も添付されていた。
「とにかく、罪もない人々を虐殺するデウスエクスは、許せません。何か被害が出てしまう前にダモクレスを倒してください」
 そう言ってセリカがケルベロス達に対して、ダモクレス退治を依頼するのであった。


参加者
ルピナス・ミラ(黒星と闇花・e07184)
カシス・フィオライト(龍の息吹・e21716)
綾崎・玲奈(アヤカシの剣・e46163)
アクア・スフィア(ヴァルキュリアのブラックウィザード・e49743)
山科・ことほ(幸を祈りし寿ぎの・e85678)
佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)
オズ・スティンソン(帰るべき場所・e86471)
リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)

■リプレイ

●埼玉県某所
「今回ダモクレスと化したのは、ブラウン管テレビですか。これまた古いタイプの物がダモクレス化した物ですね」
 綾崎・玲奈(アヤカシの剣・e46163)は仲間達と共に、埼玉県某所にある山の中にやってきた。
 この場所はハイキングコースとして知られているものの、今はその時期ではないらしく、辺りにまったく人気はなかった。
 その分、辺りを警戒しておく必要がなくなったものの、それでもネットリと不気味な気配が纏わりついてくるため、安心する事は出来なかった。
「うーん、これは難しい問題だよね。でも、地上デジタルテレビ放送が映らないのは、テレビとして死活問題かな」
 カシス・フィオライト(龍の息吹・e21716)が、自分なりの問題を述べた。
 だからと言って、ブラウン管テレビに問題があった訳では無いのだが、映らないテレビを置いておくほど、無意味な事はない。
 それに加えて、その場所に薄型テレビを置く事になっていたのだから、なおさらである。
「ブラウン管テレビって、丸い硝子が光るけれど、電球を大きくしたもの……とは違うんだね。軽く情報を調べてみたら、『デジタル→アナログの変換機があればこの古い機械でも映る』という事みたいなんだけど……」
 オズ・スティンソン(帰るべき場所・e86471)が、複雑な気持ちになった。
 だが、事前に配られた資料を見る限り、ブラウン管テレビの所有者は、薄型テレビの方が格好良くてスタイリッシュであったため、捨てる事に対してまったく未練も躊躇いが無かったようである。
「……いまや、薄型テレビが流通していますので、古いタイプは破棄される運命にあるのかも知れませんね」
 ルピナス・ミラ(黒星と闇花・e07184)が、何処か遠くを見つめた。
 そう言った意味で、ブラウン管テレビに罪はない。
 ただ、家に新しいテレビが来ただけ。
 ……それだけの理由。
 だが、それだけの理由で、捨てられた。
 何処も壊れていない状態で……。
 何の不都合もなく、何年も一緒にいた事など、忘れてしまったかのように……。
「確かに、家電製品は、年々新しいものが販売されていますからね。ブラウン管テレビだと、流石に新型には太刀打ちできないでしょう」
 アクア・スフィア(ヴァルキュリアのブラックウィザード・e49743)が、何やら察した様子で答えを返した。
 どんなモノでも、新しい方がイイに決まっている。
 厚型より、薄型。
 アナログより、デジタル。
 それがテレビであれば、なおさらである。
「あった、あった。もう完全に廃れてしまったものだと思っていたけど、まだ残っていたものもあるのね」
 そんな中、リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)が、ブラウン管テレビの存在に気づいた。
 それは急な斜面に生えた木の根元にあり、悲しげな様子でこちらを見つめているように思えた。
 おそらく、リサが立っている場所から投げ捨てられたのだろう。
 ブラウン管テレビには沢山の泥がついており、それが余計に悲壮感を増幅させているようだった。
 しかも、ブラウン管テレビは、一台だけでは無かった。
 一瞬、『ご家族の方ですか……?』と聞いてしまいそうなほど、ブラウン管テレビが棄てられていた。
 おそらく、最初の一台が呼び水となって、他の者達もブラウン管テレビを捨てるようになってしまったのだろう。
「……あっ! この箱の形をしたテレビって、上に猫が乗っている写真を見たことあるよー!」
 その途端、山科・ことほ(幸を祈りし寿ぎの・e85678)が、瞳をランランと輝かせた。
 ……あれは絶対、欲しいヤツ!
 何としても、ゲットせねば……。
 自分のモノにしなければ……!
 そんな思いが、ことほを前に進めていた。
「ブラウンカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!」
 次の瞬間、ブラウン管テレビがみるみるうちに形を変え、ダモクレスとなってケルベロス達の前に現れた。
 ダモクレスはロボットのような姿をしており、まるで昭和アニメの主人公機のような見た目であった。
「あんたに必要なのは復讐じゃないわ! この地デジチューナーよっ!!」
 その行く手を阻むようにして、佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)が地デジチューナーをデデーンと掲げた。
 しかし、既に手遅れ。
「ブラウンカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!」
 ダモクレス自身も動揺した様子で、二度見した後、『いや、もう遅いって! こんな姿になった後に持ってこられても! いや、嬉しいよ。嬉しいけど……遅いって!』……。
 そんな声が聞こえてきそうな勢いで、ダモクレスが耳障りな機械音を響かせた。
 そして、御約束とばかりに、ビーム。
 団体様の予約が、ギリギリで断られ、行き場を失った料理の如く、大胆で投げやりであった。
「随分と虫の居所が悪いようだね。まあ、確かに……。いまさら来られても困るって気持ちもあると思うけど……。こっちもここで倒されるつもりはないからね。そっちがその気なら、手加減はしないよ」
 すぐさま、カシスが山の斜面を滑り降りるようにして、ダモクレスが放ったビームを避けた。
 カシスが避けたビームは、そのまま木々を薙ぎ倒し、爆音を響かせながら弾け飛んだ。
「行きますよ、ネオン。サポートは任せましたからね」
 その間に、玲奈がボクスドラゴンのネオンに合図を送り、ダモクレスを取り囲むようにして敷いた。
 それに合わせて、ネオンが属性インストールを使い、仲間達の支援に回った。
「僕らも行くよ、トト。……援護よろしくね」
 続いてオズがウイングキャットのトトと連携を取りつつ、微かな希望を掴み取る冒険家の歌を歌い出した。
 その指示に従って、トトが仲間達のまわりを飛び回り、清浄の翼で援護した。
「うぅーん、下手に叩くと調子良くなりかねないわね……画面映りとか」
 そんな中、レイが複雑な気持ちになりつつ、ダモクレスに視線を送った。
 おそらく、無傷で回収は無理。
 そうなると、狙いは他のブラウン管テレビ。
 だが、戦い方を間違うと、他のブラウン管テレビも、纏めてドッカーンなので、注意が必要であった。
「た、確かに……。で、でも、このまま戦わない訳にもいかないし……。藍ちゃん、どうしよう……って、あのダモクレス、ビームを撃ってきたんだけど!」
 その途端、ことほが驚いた様子で声を掛け、反射的にサークリットチェインを発動させた。
 それと同時に、ケルベロスチェインを足元に展開し、魔方陣を描く事でビームを何とか防いだ。
 それと入れ替わるようにして、藍がデットヒートドライブを仕掛け、ダモクレスを牽制した。
「ブラウンカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!」
 次の瞬間、ダモクレスがボディの中に収納してあったアンテナ型のアームを伸ばし、フェンシングの如くザクザクと突きを繰り出した。
「そんな攻撃で私達が怯むと思っていましたか? すべて叩き潰すだけです」
 それを迎え撃つようにして、アクアがハンマーを砲撃形態に変形させ、竜砲弾でダモクレスのアームを叩き潰した。
「せっかくだから、大蛇の力を見せてあげるわ」
 その間にリサがダモクレスの死角に回り込み、へびつかい座の形に並べた光からオーラを飛ばした。
「ブラウンカァァァァァァァァン」
 その一撃を喰らったダモクレスがバランスを崩し、木々を薙ぎ倒して転倒した。
「それでは、貴方のトラウマを、このナイフに映してあげましょう」
 その隙をつくようにして、ルピナスが惨劇の鏡像を発動させ、ナイフの刀身にダモクレスのトラウマを映し出した。
 そこに移っていたのは、ブラウン管テレビを観ていた者達。
 それがダモクレスの前で具現化され、『うわっ、重っ!』、『このゴースト、どうにかならない?』、『ねー、叩いても、映らないんだけどー』等の声が響いた。
「ブ、ブ、ブ、ブラウンカァァァァァァァァァァァァァァァァン!」
 その言葉に傷ついたダモクレスが、悲鳴にも似た機械音を響かせ、背中の発射口から大量のミサイルを飛ばしてきた。
 それはブラウン管型テレビの形をしており、地面に落下したのと同時に、爆音を響かせて大量の破片を飛ばしてきた。
「ブラウン管型のミサイルって地味に質量すごそうじゃない?! うぇぇ、痛そぅ……」
 それを目の当たりにしたレイがドン引きした様子で、大量の破片から逃れるようにして物陰に隠れた。
「確かに、これ以上ミサイルを撃たれたら面倒ね。これで動きを封じてあげるわ」
 その間にリサがダモクレスの死角に回り込み、尋常ならざる美貌の放ち、その呪いによってダモクレスの動きを封じ込めた。
「さぁ、断罪の時間だよ。もちろん、覚悟は出来ているよね? まあ、出来ていなかったとしても、やる事に変わりはないのだけれど……。それでも、聞いておくべきだと思ってね」
 その隙をつくようにして、カシスが断罪の千剣を発動させ、無数に光の剣を創造した。
 その剣は罪を浄化する力を宿したエナジー状のモノで、ダモクレスの身体を何度も斬りつけ、鎧の如く頑丈な装甲を剥ぎ取っていった。
「……まだまだ終わりませんよ」
 それに合わせて、ルピナスがダモクレスの逃げ道を塞ぎ、暗黒剣の嵐(アンコクケンノアラシ)を仕掛け、エナジー状の剣を無数に創造し、ダモクレスの装甲をガリガリと剥ぎ取った。
「これで吹っ飛んでしまいなさい!」
 そこに追い打ちをかけるようにして、玲奈がボルトストライクを仕掛け、ダモクレスを拳で殴りつけて爆破した。
「ブ、ブ、ブラウンカァァァァァァァァァァン!」
 その一撃を喰らったダモクレスが、真っ黒な煙を上げて、ガックリと膝をついた。
「さあ、覚悟はいいですか? これで決めますよ!」
 次の瞬間、アクアがスターゲイザーを仕掛け、流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りで、ダモクレスのボディを貫いた。
「ブラァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
 それと同時に、ダモクレスが断末魔にも似た機械音を響かせ、大爆発を起こして機能を停止させた。
「何とか倒す事が出来たけど、このままゴミを放っておく訳にもいかないよね? せっかくだから、撤去しておこうか」
 そう言ってオズが山積みになっていたブラウン管テレビを、せっせと運び始めた。
「そうだね。でも、撤去するより、持って帰ろうかな。ここ最近の任務でブルーレイ→トランシーバー→ブラウン管っていう順番に攻略したから、記録媒体・通信機・映像再生機が手元に揃ったから……。もうさ、これは秘密基地ごっこに使うしかないっしょ!」
 そんな中、ことほがゴキゲンな様子で、ブラウン管テレビを抱え上げた。
 レイも山積みにされていたブラウン管テレビを品定めした後、お気に入りのデザインを見つけ、鼻歌を歌いながら持ち帰るのであった。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年9月2日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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