残暑厳しいこの頃ですが

作者:久澄零太

「やはり暑さに打ち勝つ為には辛さが必要だと思うんだよ」
 鳥さんは相変わらずの……あ、こいつただのビルシャナじゃないぞ! 見ろ、頭から向日葵が咲いてる!!
「暑さに辛さをぶつけて相殺することで涼を得て、さらに発汗作用で体の内側から涼しくなる……実に素晴らしい」
 じゃあ何でお前アイス屋のチラシ持ってんだよって話になるわけだが。
「ただでさえクソ暑いのにアイスクリームなど愚の骨頂、断じて許されるものではない」
 まさかの、教義に反する人を、ボッコボコにするタイプの鳥さんだ!
「行くぞ同志達! このユグドラシルっぽい唐辛子の旗の下、人々を脱水症状から救うのだ!」
『イェスホット! ノーアイス!!』

「みんな大変だよ!」
 大神・ユキ(鉄拳制裁のヘリオライダー・en0168)はコロコロと地図を広げて、とあるアイスクリームショップを示す。
「暑い時こそ辛い物を食べるべきってビルシャナが現れて、信者を引き連れてアイス屋さんを襲撃しようとするの!」
「あら、話のわかりそうなビルシャナじゃない」
 アウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)は寝返りそうな気配があるが、大丈夫だと信じよう。
「今回のビルシャナは暑い時にアイスを食べて無理に体を冷やしたり、わざわざ喉を渇かしたりするのが許せないみたいで、このお店の店員さんを狙ってるよ。頭から向日葵が咲いてるのが見えたから、攻性植物に寄生されてるんだと思う!」
 いつぞやの戦いで、一部の鳥さん達は空の巣症候群みたいなアトモスフィアに包まれたが、そこに光世蝕仏っつー色んな意味でやべー鳥さんが来て、ユグドラシルの為に動くように仕向けて元気付けるんだとかなんとか。
「敵は攻性植物っぽく、手羽先から蔓を伸ばしてみんなの動きを邪魔してきたり、光合成して元気になったり、向日葵からビームを撃ってきたりするよ!」
 攻性植物っぽいとは一体……。
「それから、信者は八人いるけど、普通のビルシャナと同じように説得すれば目を覚ましてくれるみたい。キーワードは、涼しくなる甘い物だよ!」
 敵さんが辛党だからね、こちらは甘さをぶつけるしかない。とはいえ、辛くなければ甘味にこだわる必要はないようだ。要は涼しくなる食い物ならよし。
「今回の敵は普通のビルシャナより強力だよ。その分、凶がフォローに入るからね!」
 名前を出されて、待機していた四夜・凶(泡沫の華・en0169)が恭しく一礼するが……恐らく彼が活躍する事はないだろう。なんかもう、分かるだろ? な?
「いつものビルシャナと雰囲気は違うけど、やってる事は同じだからね。落ち着いて、確実に倒してきてね! せっかくだし、すぐに決着がついたらそのままアイス食べてきても、いいかも?」
 などと白猫はサービス券を取り出す……どう見ても日頃から行ってる気配が漂うが、番犬達はスルーしておくのだった。


参加者
若生・めぐみ(めぐみんカワイイ・e04506)
アウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)
エヴァリーナ・ノーチェ(泡にはならない人魚姫・e20455)
北條・計都(凶兆の鋼鴉・e28570)
ルフ・ソヘイル(嗤う朱兎・e37389)
クロウ・リトルラウンド(ストレイキャリバー・e37937)
長久・千翠(泥中より空を望む者・e50574)

■リプレイ


 エヴァリーナ・ノーチェ(泡にはならない人魚姫・e20455)は絶望した。全てはこの日のために整えてきた。しかし、今までの苦労は水泡に帰し、その華奢な両肩に借金だけが残った。
「なーんでぇえええ!?」
 号泣するエヴァリーナだが、ユキは半眼ジト目で渡されたリストを見る。
「明らかに過剰申請だもん、コレ」
 説明しよう!暴食の化身エヴァリーナさんは百十トンにも及ぶ食料を現場に、それも経費で持ち込もうとしてユキに申請を蹴られたのである!!
「もう用意しちゃったんだよ!?」
「今月のノーチェさんのお給料の査定に響くんじゃないかな……」
 説得に必要なものに対して経費が降りるのであって、説得を名目にして食費を浮かそうとするからこういうことになる。
「このままじゃ私、来月のお給料日まで何も食べられない……!」
 絶望のあまり、双眸から涙を流すエヴァリーナの肩を、ぽんと叩く救世主。
「うちで食べればいいじゃない。あなた、外食多いでしょう?」
 あ、違う。急逝手、アウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)さんでした。その調理の腕で何人が犠牲になった事か……。
「いや違うの。姉さんは普通に料理上手ではあるんだよ。ただ、『ひたすらに辛くなる』から味が分からなくなるだけで……!」
「ちゃんと旨味【辛味】を感じてるじゃない」
「それしか分からなくなるから嫌なんだよぅ!!」
 姉妹の間には、越えられない壁があるようだ。
「くっ、こうなったらユキちゃんの貴重なデバイス使用シーンを撮影してフォロワー数を伸ばすしか……」
「どーん!」
「なんでぇえええ!?」
 スマホを向けようとしたエヴァリーナだったが、ユキに突き飛ばされて落ちていく……。
「懲りないんだから……」
「エヴァがごめんなさいね。お詫びに今回の手土産を……」
「それこそあっちのノーチェさんにあげればいいと思うよ!?」
 ユキはやや食い気味に下を示したとか。


「今日はアイス食べに行くだけの簡単なお仕事っすね」
 シルフィリアス・セレナーデ(紫の王・e00583)は完全になめた様子である。アイスだけに。アイスだけに!
「やかましいっすよ」
 あっはい、さーせん。
「行くぞ同志達!」
「そこまでっす!」
 アイス屋に特攻を仕掛ける鳥さんの前に、シルフィリアスが立ち塞がる!
「唐辛子の辛さって舌が痛くなるっすよね。でも水を飲むと辛さが広がって逆効果だということはよく知ってるっすよね」
「ふっ、それがどうし……」
「そこでアイスクリームっす」
「振ったんなら話を聞いて!?」
 鳥さんのコメントをスルーしたシルフィリアスが伊達眼鏡をすちゃっ。
「アイスクリームに含まれるたんぱく質が辛さを緩和するとともにその冷たさも辛さを感じにくくする効果があるっす。つまり、暑いから冷たいアイスを食べるんじゃないっす。辛い物を食べるためにアイスを食べる必要があるんす!」
「アイスを食べると喉が渇くと言いますが……砂糖が過多なものなら、そうかもしれませんけど、高級なものはそんなに気にならないはずですよ?」
 若生・めぐみ(めぐみんカワイイ・e04506)は背後に九匹の愛妖精を従え……え、本物は一匹だけ?
「ナノッ!」
 今喋ったお前やろ。
「ナノッ!?」
 本物のらぶりん以外は八機の浮遊機。それぞれがコンテナを搭載しており、冷気を発しているのか、ノロノロと白煙を吐き続けている。
「疑うのでしたら、試しにどうぞ? いろいろな味がありますよ」
 めぐみの合図でコンテナが一斉に展開。色とりどりの氷菓子を前に。
「果実のシャーベットとしてスイカ、オレンジ、イチゴ、メロン、マンゴー。アイスクリームが食べたい方に甘さ控えめのビターチョコ、抹茶、微糖コーヒー……王道のバニラをあえてはずして、喉が渇きにくいラインナップを揃えてみました」
 らぶりんが支えるコーンに、めぐみはスイカとイチゴのシャーベットをカポり。
「さ、どうぞ?辛くはないけれど、辛味を感じそうな赤でまとめてみました」
「いらん!我々はアイスなどには屈しない!!」
 めぐみの色仕掛けならぬ、アイス仕掛けに屈しない信者を前に、アウレリアがエプロンを巻く。
「話が分かりそうな方がいると聞いて今の私の全力を尽くさせて頂くわ」
「ちょっ、待ってください!?」
 アウレリアが取り出した番犬印の収納箱を見た北條・計都(凶兆の鋼鴉・e28570)が慌てて彼女を止める。
(この義姉妹ベクトルは異なるけど二人とも振り切れてるやつだ……!)
 信者が生還できない結末を予感した計都は鳥さんを示して。
「今回は辛さで人々をなんとかしようとするビルシャナですから、辛味じゃ絶対に説得できません!!」
 食欲が旺盛すぎるエヴァリーナと、激辛マシーンアウレリア。噛み合うようで決して重ならないマイロードを突っ走る二人を止めなければなるまいと、ツッコミ役の魂が燃える計都。その熱意が伝わったのか、アウレリアが思案顔。
「辛味では、唐辛子では駄目だと言う事は……」
 ほっと、計都が胸を撫で下ろした直後。
「それを凌ぐ真なる美味、この世全ての辛さを超越した新たな辛さで持って挑まなければならないわね」
「なんで!?」
「辛さを追及するならば唐辛子は外せないけれど……美味なる食材は唐辛子だけではないわ。胡椒、山葵、山椒……この地球上のあらゆる美味【辛味】を融合させ研鑽と調理を重ねた末に作り出した真なる美味…… 辛さを越えて涅槃へと導く味……」
 計都、お前はよくやったよ。ただ、ツッコミ先が辛味の深淵的な何かだったんだよ。
「いやこれ放置したら、確実に死人が出ますよ!?」
 なおも彼女を止めようとする計都の肩に、手が置かれる。振り向いた先にいたのは、(顔見えないけど)爽やかな笑顔でサムズアップするアルベルト。
「まさか、あなた……!」
「下がれ同志達。あれはもはや辛味ではない。辛さを求めるあまり、『痛味』でなければ味覚が反応しなくなった、辛党のなれの果てだ……!」
 アウレリアを最優先抹殺対象と認識した鳥さん、辛味を求めるあまり道を違えたアウレリア、愛する妻の狂気から民間人を守ろうとするアルベルト……辛味を巡る三つ巴大決戦が、幕を開けた!


「汗をかくだけかいて水を飲まなかったら死ぬだろ……」
 辛味の激闘を見なかった事にして、長久・千翠(泥中より空を望む者・e50574)が取り出したのは白濁した麦茶?のような液体が詰まったボトル。
「ということで冷やしラーメン持ってきたぞ」
 これ調べててびっくりしたんだけどさ、冷やしラーメンって日本各地にあるのな。
「俺のは山形発の醤油味だぜ……つっても、最近はわりと何でもありなんだけどな」
 水で固まった麺をほぐして保冷してきたスープを注ぎ、信者の前へ。
「脱水症を予防するには塩分も大事なんだと。あとしっかり食うことな?ラーメンなら塩分も取れるし、冷たいから夏バテ気味でも食べやすい。そしてスープは水だから飲み干せば一切問題ないな!」
「アウトー!!」
 味方からのツッコミ入りましたー。
「スープまで飲んだら塩分過多で喉がカラッカラになるじゃないですか!」
 本日のツッコミ、計都さんです。
「ふ、やはり夏場には辛味しか……」
「辛味で発汗を促すんじゃない!ただでさえこの猛暑で汗による脱水がひどいんだから!」
 信者側にもツッコんで、肩で息をする計都は氷水が入ったバケツを引っ張り出し……どこから?こがらす丸から。
「そこで唐辛子の代わりに用意したのがこちら、冷やし野菜!キュウリやトマト、茹でトウモロコシなど取り揃えてみました。水分は勿論、夏に嬉しい栄養も満点ですよ!もちろん甘いスイカも用意していますのでご安心ください」
 バケツの中には、氷の下に野菜が冷やされており……価格が高騰しているスイカも入っている、だと?
「手に入れるのには、苦労しました……」
 フッと遠くを見やる計都。あんまり店においてなかったんだろうな……。
「待って、高いのがセーフなら私のも……」
 黙れブラックリスト【エヴァリーナ】。お前のは桁がおかしい。
「今私の呼び方おかしくなかった!?」
「ささ、カオスに巻き込まれる前に信者の皆さんもどうぞ」
 計都はスイカを切り分けて、サッと塩を一振り。
「こうして塩を振れば、甘さが引き立つとともに発汗で不足しがちな塩分も補えて一石二鳥。さあ、レッツ丸かじり!」
「待て、お前だって塩をかけたのにスープで塩分過多はおかしいだろう」
 おっとここで千翠が食いついた。
「塩を舐めるのがありなら、スープだっていいだろう。ここはラーメンを食うべきだ」
「だからスープに使われてる塩の量は桁違いでして……」
 見解の違いから千翠と計都が衝突しているのを横目に、クロウ・リトルラウンド(ストレイキャリバー・e37937)はやれやれと頭を振って。
「熱くなっちゃって……ただでさえ暑い日なんだから、口の中くらい涼しくありたいよ……」
 塩分に関する熱弁をぶつけ合う成人男性二名をあきれ返った目で見た未成年女子は、太陽機から具現化された副腕に氷塊を構えて。
「唐辛子は汗を流して体温を下げるけど、その前の工程でまず体温は上がるんだ!ただでさえ外気温が暑いのに体温まで上がったら、熱中症で済まないレベルにまで陥るよ!?ゆで卵が生卵に戻らないみたいに!」
 クロウは氷塊をマンモス型装置の背中に押し込むと、スイッチオン。
「暑いときにはやっぱり冷たいもので涼むのが健康で文化的な生き方だよ!ほら、作りたてのかき氷を食べよう!シロップも各種用意したから!」
 ずらっとシロップ瓶を構えるクロウ、その瞬間に両肩を二つの手がぽむん。
「ん?」
「「かけすぎ注意!!」」
 千翠と計都からの忠告に、クロウはすっと両手にかき氷を持ち上げて。
「えっ濃い味だと喉が渇く?じゃあプレーンで召せ!いただけ!」
 おいコラなんで三つ巴が増えてるんだ!?
「うう……あちぃっす!」
 ルフ・ソヘイル(嗤う朱兎・e37389)のコメントは、果たして気温に対してのものだったのか、それとも荒ぶる番犬に対してのものだったのか……。
「俺も辛いのは好きな方っすし、発汗効果があるからってのは分かるっすけど……やりすぎっすね……長毛兎の俺がそんなことしたら溶けるっす」
 夏の名物、伸びるウサギって奴だろうか……。
「もう散々言われてるっすけど、脱水症状から救うのに必要なのは辛さよりもミネラルと水分と涼しい日陰!!夏の病を辛さで相殺出来る訳ねぇ~っすよ!」
 ギロリ、鳥さんとアウレリアから鋭い眼光が飛んできた。
「ヒッ!今、なんか背筋に冷たいものが走ったような……」
 振り返ってはいけない、そんな気がして決して後ろを見ようとはしないルフの背中を、鳥さんとアウレリアがキュピーン☆
「ほ、ほ~ら!甘くて冷たいアイスっすよ~……辛さに我慢するよりさっぱりした甘さの方がお腹にも優しいっすよ~?」
 ドストレートに甘いアイスを取り出したら、今度は計都と千翠がキュピン☆
「ひぇっ!?あ、甘すぎないアイスっすよ~……」
 糖分的な意味で目を付けられかけたルフがガクガクブルブル。
「なんで俺こんなに狙われてるんすか?」
 偶然が重なって、周りに喧嘩売る形になったからじゃないかなー?
「ルフさんは何も間違ってないっすよ」
 そんな彼に声をかけたのがシルフィリアス。
「そもそも食事というのは実用性だけじゃなく食を楽しむという目的もあるんすよ。世の中食べたいものを楽しく食べるのが正しいんす」
「賛同してくれるのは嬉しいんすけど、その姿でそんなこと言われても……!」
 説得には何の関係もないポテチ食べてるシルフィリアスに、ルフは頭痛を覚えたとかなんとか……。


「おかしいわね、あなたも辛さを求める者でしょう?」
「貴様のそれはもはや味覚ではない、痛覚だ!」
 アウレリアのリボルバーと鳥オバケの向日葵が同時に光を放つ。二人の中心でぶつかり合う重力鎖は爆ぜ、伸ばされた蔓が爆煙から飛び出せば、アルベルトが片腕に巻き付け強引に引き寄せ、アウレリアが容器の『中身』を鳥オバケの顔面に叩きつける。
「『辛』に更に付け足した味、新たなる概念……『幸』さぁ、どうぞ召し上がって」
「スナギモッ!?」
 その様から目を逸らし、冷やしラーメンをすするエヴァリーナ。
「……あ、これ冷やし野菜入れても美味しい」
「たどり着いたのは、シンプルな答えでした」
 計都が冷やしトマトをスライスして、千切りしたキュウリをラーメンに乗せれば、千翠はトマトを素手で握りつぶして、コンソメを加えてスープの味を変更。
「飯に必要なのはバランスだからな。野菜とラーメンを合わせれば完璧だ。そら、トマト冷やしラーメン一丁あが……」
「おかわり!」
「速ぇ!?」
 作った傍から完食されて千翠の眼が見開かれると、フッと凶が死んだ目をする。
「その人の調理役になると、滑車を回すハムスターの気分になりますよ……」
「それどんなに作っても意味がないってことじゃ……!?」
 シルフィリアスがポテチぱりぱり、めぐみにもらったスイカシャーベットに砕いたポテチをトッピングして頬張りつつ。
「ていうか、ほっといていいんすか?」
「今近づいたら、辛味の巻き添えになるから……あ、果物シャーベットモリモリで!」
「まだ食べるんですか!?」
 めぐみの持ち込んだフルーツシャーベットを、片っ端から特盛にしたアイスの塊を頬張るエヴァリーナ。呑気にアイス食ってる妹だが、戦況は芳しくない。ていうか……。
「あの料理、辛いだけで効果がないんじゃ……そうだ!ワカクサなら、辛味属性になってダメージを緩和できるはず!……って、ワカクサ?」
 きょろきょろ見回すクロウが、はっとして。
「まさか……」
 予備で持ってきたコンテナを開けると……。
「やっぱりバニラアイスのケースに体ごと突っ込んでる!バニラ好きにも程があるよワカクサ!?」
 照れるなって顔するバニラ模様がついたワカクサだが、褒めてない。
「攻性植物っぽいビルシャナ……なんだか不穏な気配がしますが、それと反比例するかのような和やかさ!」
 計都が言うくらいには危機感がないが、アウレリアのドレスがビルシャナ光線に焼かれて脚が露わになり、アルベルトが嫁の脚を前に昇天したところで、ルフは思う。
「辛いやつマシマシにし過ぎたら粉とか汁とか目にはいったら涼しくなるどころか痛いし熱いんじゃ……あっ……」
 アウレリアと目があった。
「いざ食べてみるとそうでもないのよ?」
「ひっ!?お、俺はニンジンシャーベットで十分っす!」
「なにぃ?アイスだとぉう?」
「なんで鳥さんまでこっち向くんすかぁあああ!!」
 今回のルフ、完全に被害者だなぁ。
「そう思うんなら助けて欲しいんすけど!?」
 悪いな、素麺を喉に詰め込まれる気がして近づけないんだ。
「え、そんな危ない人……」
 エヴァリーナが『賄賂』って書かれた紙で束ねた乾燥素麺を構えていた。
「いたっすね……」
 ルフは何も見なかったことにして、一足先にお店の中へ。
「キャロットフロマージュシャーベットを一つ……ふぅ」
 窓際の席に着き鳥さんを眺めて、チーズの濃厚なコクから引き立てられる人参の甘みに舌鼓を打ちながら。
「あれ、今回の鳥さん強くないっすか?」
 いつもこんなもんよ?記録に残ってないだけで。
「そういう事なら、いっちょやるか!」
 パンと頬を張り、千翠が日本酒『鳥殺し』を一気飲み。空瓶を投げ捨てれば、強烈な酒精から幻覚を見るも、それは彼の眼にはとどまらず。現実世界もまた紅葉並木に姿を変えて、異形の退路を断つ如し。
「酒が見せるは夢か現か、されどわが身は虚構にあらず!」
 千翠がラーメン持ち込むために用意してた台車を『つまむ』。
「目にもの見せよう、是より先は酒豪の夢なり!」
 台車の端っこを親指、人差し指、中指の三点で支えて、シューッ!高速スピン台車が鳥さんのヘッドにクリティカル!
「せせりっ!?」
 吹き飛んだ先で、めぐみがにっこり。
「じゃ、分からず屋な鳥さんは屠殺のお時間ですね?」
 手刀で首を狙うも、これは回避。だけどなんか焦げ臭い……。
「え、ちょ、燃えてる!私の向日葵燃えてる!?」
「よし、ワカクサ!忍法変形の術!!」
 クロウの胸元に若草がドッキング。まさか、今日はくのいち衣装で来たのって……?
「いや、これは暑いから!!」
 ニパッと笑ったところで、胸が開き砲撃が放たれる……が、それは計都の背中へ。
「行くぞ、こがらす丸!」
 こっちも合体したところで、結局背中に直撃してるんですが!?
「クロウの砲撃と俺の炎!二つ纏めて持っていけ!!」
 娘からの攻撃で加速した計都は青い炎を伴い異形をシューッ!さすがは機人親子……。
「俺は地球人です!?」
「でも父さん、ヘリポートで機人って自己紹介してなかった?」
 違和感なさ過ぎて誰もツッコまなかったな……天高く吹き飛んでいった鳥さんは空中で凍結。そして蔓が燃え尽きると。
「とーりやー」
 シルフィリアスの声に合わせて、爆発四散……季節外れの雪を降らせるのだった。
「よしお仕事終わったねアイスたべよー!ここからここまでくーださい♪」
『まだ食べるの!?』
 メニュー一覧をなぞったエヴァリーナに番犬一同からツッコミが来るものの。
「お仕事上がりのスイーツは別腹なんだよ!」
 何故かドヤるエヴァリーナなのだった。

作者:久澄零太 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年9月4日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 6
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