残された思い出

作者:ゆうきつかさ

●都内某所
 時代の流れと共に、必要とされなくなったデジタルカメラがあった。
 総画素数は、60万画素。
 記憶媒体は、1MBのフラッシュメモリー。
 記録できる画像サイズは、640×480ピクセル。
 電源は専用ニカド電池か、単3電池6本。
 すべてが時代遅れのシロモノであり、今となっては使い道に困るほど、ロースペックなデジタルカメラであった。
 だからと言って、何処かが壊れていた訳では無い。
 むしろ、今でも現役。
 必要とされれば、トラブルなく動くほど、問題のないモノだった。
 その残留思念に引き寄せられたのか、廃墟と化した屋敷に、小型の蜘蛛型ダモクレスが姿を現した。
 蜘蛛型ダモクレスは、デジタルカメラに機械的なヒールを掛け、ダモクレスに変化させた。
「デジカメェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!」
 次の瞬間、ダモクレスと化したデジタルカメラが、耳障りな機械音を響かせながら、廃墟と化した屋敷の壁を突き破った。

●セリカからの依頼
「青凪・六花(暖かい氷の心・e83746)さんが危惧していた通り、都内某所にある廃墟と化した屋敷で、ダモクレスの発生が確認されました。幸いにも、まだ被害は出ていませんが、このまま放っておけば、多くの人々が虐殺され、グラビティチェインを奪われてしまう事でしょう」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
 ダモクレスが確認されたのは、都内某所にある廃屋敷。
 この場所にあったデジタルカメラが、ダモクレスと化してしまったようである。
「ダモクレスと化したのは、デジタルカメラです。おそらく、年代的なモノですが、今となっては使い物にならない程、残念な仕様のようです。だからと言って、このまま放っておけば、被害は甚大。罪のない人々の命が奪われ、沢山のグラビティチェインが奪われる事になるでしょう」
 セリカが真剣な表情を浮かべ、ケルベロス達に資料を配っていく。
 資料にはダモクレスのイメージイラストと、出現場所に印がつけられた地図も添付されていた。
 どうやら、ダモクレスはフラッシュをピカピカさせながら、ケルベロスに襲い掛かってくるらしく、色々な意味で注意が必要のようである。
「とにかく、罪もない人々を虐殺するデウスエクスは、許せません。何か被害が出てしまう前にダモクレスを倒してください」
 そう言ってセリカがケルベロス達に対して、ダモクレス退治を依頼するのであった。


参加者
バジル・ハーバルガーデン(薔薇庭園の守り人・e05462)
七隈・綴(断罪鉄拳・e20400)
綾崎・玲奈(アヤカシの剣・e46163)
青凪・六花(暖かい氷の心・e83746)
リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)
 

■リプレイ

●都内某所
「まさか私が危惧していたダモクレスが本当に現れるとはね。これも何かの縁だろうし、しっかりとこのダモクレスを倒すわよ」
 青凪・六花(暖かい氷の心・e83746)は仲間達に声を掛けながら、ハンズフリーライトを照らして、廃墟と化した屋敷に足を踏み入れた。
 廃墟と化した屋敷は、しばらく人が住んでいなかったらしく、大量の埃が舞い上がり、カビのニオイがネットリと纏わりついてきた。
「それにしても、まだ使えるのに放置してしまうのなんて勿体ない気がしますね。デジタルカメラは、最新の物ほど仕様が良いのは確かでしょうけど、古いデジカメも別に、使えない程酷いって訳でも無いと思うのですが……」
 綾崎・玲奈(アヤカシの剣・e46163)が、複雑な気持ちになりつつ廊下を歩いていった。
 事前に配られた資料を見る限り、ダモクレスが確認されたのは、屋敷の奥。
 かつて屋敷の主が趣味部屋として、利用していた場所だった。
 だが、室内は蜘蛛の巣の楽園。
 そのため、大量の埃とカビをドレスの如く身に纏ったケルベロス達の身体に、沢山の蜘蛛の巣をヴェールの如く纏わりついてきた。
「まあ、記録媒体は年々進化していくから、古いタイプが破棄されていくのも、仕方のない事なのかも知れないね」
 リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)が、悲しそうに答えを返した。
 実際に、この場所に放置されているデジタルカメラは、最近の記憶媒体には対応しておらず、無理やり使ったとしてもエラーが出てしまうため、こうなってしまったのも、ある意味で運命と言えた。
「それでも、大切な思い出を残してくれる事には変わりはありません。それを放置するなんて、少し酷い気が……」
 七隈・綴(断罪鉄拳・e20400)がハンズフリーライトで辺りを照らしながら、信じられない様子で口を開いた。
 おそらく、デジタルカメラの中に、データは残ったまま。
 もしかすると、それは以前までこの家に住んでいた者達にとって、不要なモノだったのかも知れない。
 だが、そのデータを記録した者にとっては、大切な思い出。
 その温度差を考えてしまったせいか、少しだけ悲しい気持ちになった。
「特に欠陥品でも無かったのに捨てられた無念の気持ちは分かりますけど、だからと言って罪のない人々に危害を加えてはいけません。やはり、被害が出る前に倒すしかありませんね」
 バジル・ハーバルガーデン(薔薇庭園の守り人・e05462)が、自分なりの考えを述べた。
 それだけデジタルカメラにとっては、辛い仕打ちだったのかも知れないが、その怒りをぶつける相手は、もういない。
「デジカメェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!」
 次の瞬間、ダモクレスと化したデジタルカメラが部屋の壁を突き破り、ケルベロス達の前に姿を現した。
 ダモクレスは機械で出来たクモのような姿をしており、カメラのレンズをズームさせながら、ケルベロス達の様子を窺っていた。
「今のうちに逃げ道を塞いでしましょう。面倒な事になる前に……!」
 その隙をつくようにして、バジルが仲間達に声を掛け、ダモクレスのまわりを囲もうとした。
 だが、廊下は狭く、通路を塞ぐようにして、ダモクレスが陣取っているため、その背後を塞ぐ事は困難だった。
 それでも、気持ちだけはダモクレスの背後を塞いでおり、逃がすまいという気持ちで見えない壁を作っていた。
「さぁ、行きますよ、ネオン。共に戦いましょう!」
 すぐさま、玲奈がボクスドラゴンのネオンに声を掛け、ダモクレスに攻撃を仕掛けていった。
 それに合わせて、ネオンが玲奈を援護するようにして、属性インストールを発動させた。
「デ、デ、デシタルカメラァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
 その事に危機感を覚えたダモクレスが耳障りな機械音を響かせ、カメラのフラッシュのような光を放ちながら、ケルベロス達に対してビームを放ってきた。
「……って、ちょっと! すっごく眩しいんだけど……。ま、前が見えない……!」
 リサが身の危険を感じて、素早く目を閉じ、崩れ落ちるようにして、しゃがみ込んだ。
 それと同時に、ダモクレスの放ったビームがリサの頭上を通り抜け、背後にあったモノに当たって爆発した。
「デ、デ、デ、デ、デジ・デジ・デジカメェェェェェェェェェェ!」
 そこに追い打ちをかけるようにして、ダモクレスが再びフラッシュのような光を放ち、ケルベロス達に対してビームを放ってきた。
「そう何度もフラッシュを焚かれても困るんだけど……。目がチカチカして、戦闘どころじゃなくなっちゃうから……。少し大人しくしてくれるかしら」
 そのビームを避けるようにして、六花が壁際を駆け抜けるようにして助走をつけ、ダモクレスにスターゲイザーを放って、フラッシュ部分もろともビームの発射口を破壊した。
「デ、デ、デ、デ、デー!!!!」
 その事にダモクレスがショックを受け、怒りの感情を剥き出しにしながら、激しく脚をバタつかせた。
 それは、まるで巨大な駄々っ子。
 そのたび、大量の埃が舞い上がり、大量のゴキブリがパニックに陥って、物陰からワラワラと姿を現した。
「こ、これは、ちょっと……無理です。ごめんなさい……」
 それを目の当たりにした綴がドン引きした様子で身体を仰け反らせ、逃げるようにして壁にペタッと背中をつけた。
 大量のゴキブリは綴達を無視して、カサカサと耳障りな音を立てながら、ダモクレスがいる場所とは反対側の物陰を目指して、大行進をするようにして姿を消した。
「デジカメェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!」
 その間にダモクレスが背中に収納されていた乾電池型のアームを伸ばし、辺りにあるモノを叩き壊しながら、ケルベロス達に迫ってきた。
「……と言うか、なんで乾電池型? もう少しマシな形があったでしょ? それなのに乾電池型って……。これ……斬っても大丈夫よね? 火花とか散ったりしないわよね?」
 それを迎え撃つようにして、六花がチェーンソー斬りを仕掛け、チェーンソー剣の刃で、ダモクレスのアームを切り裂いた。
「……ひっ!」
 その途端、大量の火花がパチパチと散ったため、六花が身の危険を感じて飛び退いた。
「このアームを破壊するのは、骨が折れそうね。だからと言って、このまま放っておく訳にはいかないのですが……」
 リサが警戒した様子で間合いを取りつつ、クリスタルファイアを発動させ、熱を持たない水晶の炎で、ダモクレスのアームを切り刻んだ。
 それと同時に、ダモクレスのアームが、バチバチと火花を散らし、真っ黒な煙を上げた。
「大丈夫ですか、緊急手術を施術しますね。少しの間だけ、ジッとしていてください」
 そんな中、バジルが心配した様子で六花達に駆け寄り、ウィッチオペレーションで魔術切開と、ショック打撃を伴う強引な緊急手術を行って傷を癒した。
「デ、デ、デ、デジタルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
 その邪魔をするようにして、ダモクレスが耳障りな機械音を響かせ、残ったアームを振り回しながら、ケルベロス達に突っ込んできた。
「ここから先には行かせません……! 例え、どんな事があろうと、絶対に退きません!」
 その行く手を阻むようにして、玲奈がグラインドファイアを仕掛け、ダモクレスの身体を炎に包んだ。
「デ、デデ、デデデ……デデデデデェェェェェェェェェェ!」
 その途端、ダモクレスがパニックに陥った様子で、燃え盛る炎を消し去ろうとした。
 だが、炎を消す事はまったく出来ず、あちこちのパーツが火花を散らして、次々と吹っ飛んだ。
「こんなモノがあるからいけないんです! 全部破壊してしまいしましょう」
 その間に、綴が一気に距離を縮め、ダモクレスに旋刃脚を放って、ドカッと乾電池型のアームを蹴り飛ばした。
 その拍子に乾電池型のアームが壁にザクッと突き刺さり、バチバチと火花を散らして爆発した。
「デ、デ、デジタルカメラァァァァァァァァァァァア!」
 次の瞬間、ダモクレスが耳障りな機械音を響かせながら、デジタルカメラ型のミサイルを飛ばしてきた。
「雷の障壁よ、仲間を護る盾となって下さい!」
 すぐさま、バジルがライトニングウォールを展開し、雷の壁を構築して爆発の衝撃から身を守った。
 そのおかげで大量の破片が飛んできても、誰ひとりとして傷つく者はいなかった。
「しばらく痺れていればいいわ」
 それに合わせて、リサがライトニングパルスを発動させ、高速で流れる電気信号を放ち、綺麗な電気の光を輝かせつつ、ダモクレスを痺れさせた。
「デ、デ、デ、デ……」
 その影響でダモクレスは身体をまったく動かす事が出来ず、ビリビリと痺れた様子で身体を小刻みに震わせた。
「もうミサイルは撃たせませんよ!」
 その隙をつくようにして、綴が大器晩成撃を繰り出し、ミサイルの発射口を破壊した。
「デ、デ、デ、デ、デ……」
 それでも、ダモクレスがミサイルを発射しようとしたが、上手く飛ばす人が出来ずに内部爆発を起こし、無防備なコア部分があらわになった。
「これで終わりにしましょう。最後の、この一撃で!」
 次の瞬間、玲奈がボルトストライクを仕掛け、自らの拳でダモクレスを殴りつけた。
「デデデデデデデェェェェェェェェェェェェェェェェェ!」
 その一撃を喰らったダモクレスが断末魔を響かせ、大爆発を起こしてガラクタの山を築き上げた。
「ふぅ、何とか終わったわね。それにしても、この中……凄く埃っぽいし、ニオイが凄い……。早く帰ってシャワーでも浴びましょう」
 その途端、六花がホッとした様子で、仲間達に声を掛けた。
 みんな埃とカビのニオイと、蜘蛛の巣と汚れで大変な事になっており、早くこの場から退散したい様子であった。
 そのため、六花は仲間達と共に新鮮な空気を求めるようにして、廃墟と化した屋敷を後にするのであった。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年8月30日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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