晩夏の華

作者:崎田航輝

 花紺青の空に、光の華が咲き誇る。
 小気味良い震動と、様々な形を取る輝き。その華やかさと美しさに、人々の歓声も愉しげに響いていた。
 季節の終わりが近づいてきたことを示すように、涼しい夜気に満ちる夜。
 夏が下り坂になってきたからこそ、夏らしい時間を求むように──人々は祭りへと足を運んでいた。
 晩夏の夏祭りは、最盛の頃に比べて少しだけ穏やかで。
 時に食べ物に、時に遊戯に、屋台を楽しんでは空に煌めく花火も眺めて──楽しく賑わいながらも、思い出と次の季節への展望を抱くよう、人々はゆったりと時間を過ごしてゆく。
 けれどその中に唯一人──招かれざる咎人が踏み入った。
「あァ、なんとも愉しいじゃねぇか」
 これだけ餌が溢れてるんだからな、と。
 愉悦の笑みを見せるそれは、鎧兜の罪人エインヘリアル。
 季節の風も、光の華も、そして人々の命も。あらゆるものを破壊しようと、その巨躯の男は──人々へと刃を振り上げた。

「夏も少しずつ……終わりに近づいて参りましたでしょうか」
 夜のヘリポート。輝島・華(夢見花・e11960)は藍空を見つめながら呟いていた。
 ええ、とイマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)も頷いて視線を下ろす。
「季節の変わり目が近づくと、少し寂しい気持ちもしますね。そんな時期だからこそ、お祭りなど楽しみたいところですが──」
 ただ、そんな晩夏の夏祭りのさなかに、エインヘリアルが出現することが予知されたのだと言った。
「現れるのはアスガルドで重罪を犯した犯罪者。コギトエルゴスム化の刑罰から解き放たれて送り込まれる、その新たな一人でしょう」
 このエインヘリアルは人々は襲おうとするだろう。
「それを看過するわけには、いきませんね」
「ええ。ぜひ、皆さんの力を貸してください」
 華の言葉にイマジネイターも頷き、説明を続ける。
「戦場は市街に伸びる道です」
 開けた環境でもあるので、戦いに苦労はしないだろう。此方は道に現れる敵を、迎撃する形を取ればいいと言った。
「人々の避難は事前に行われます。皆さんは戦闘に集中してください」
 周囲の景観も護れるはずですから、とイマジネイターは続ける。
「無事勝利できましたら、皆さんもお祭りなど楽しんでいってはいかがでしょうか」
 屋台に花々に、花火。季節の終わりも段々と見え始めてきた時節、夏の思い出を作っておくのも良いのではないでしょうかと言った。
 華は頷いた。
「とても楽しそうですわ。そのためにも、守るべきものを守らねばなりませんね」
「皆さんならばきっと成功できると信じていますから。健闘をお祈りしていますね」
 イマジネイターはそう言葉を結んだ。


参加者
御巫・かなみ(天然オラトリオと苦労人の猫・e03242)
輝島・華(夢見花・e11960)
レヴィン・ペイルライダー(己の炎を呼び起こせ・e25278)
小柳・玲央(剣扇・e26293)
ローゼス・シャンパーニュ(赤きモノマキア・e85434)
山科・ことほ(幸を祈りし寿ぎの・e85678)
メロゥ・ジョーカー(君の切り札・e86450)
オズ・スティンソン(帰るべき場所・e86471)

■リプレイ

●祭夜
「夏のシメといえば名残惜しい夏休みと夏祭り!」
 だよね、と。提灯で照らされた道へ山科・ことほ(幸を祈りし寿ぎの・e85678)はぱたぱたと走ってゆく。なんか韻踏んじゃったけどわざとじゃないよー、と上機嫌な声でくるりと回ってみせながら。
 眺める景色は無人だけれど、賑わいの残り香は漂っていて。歩み入るメロゥ・ジョーカー(君の切り札・e86450)も視線は愉しげだ。
「お祭り、いいよね」
 もちろんそれ自体も楽しいものなんだろうけれど。
「何というか、人々の纏う独特の……空気? あれすごく好きだなぁ、小粒のマジックにも良く合いそうで」
 愉快げに瞳を細めながら──それでも次には、呑み込んでいたかのように、口元に寄せた手に刃を握って引き出して。
「早く堪能したくてうずうずしちゃうから──君とはすぐにサヨナラしたいね?」
 言って振り返った、その先。
 がちゃりと、道を踏みしめて現れる鎧兜の影がいた。
 罪人、エインヘリアル。獰猛な視線で見下ろすその巨躯に──ローゼス・シャンパーニュ(赤きモノマキア・e85434)は朗々と声音を響かせる。
「問答は無用とて戦士の礼は在ろう。──我らはケルベロス、暴虐者を討つもの。いざ尋常に相対して貰おうか!」
 銃身を構えて勇壮な戦意を漲らす。
 その姿を目に、罪人も刃を構えていた。
「成程、今日の餌は番犬か。いいぜ、やってやる」
 言うが早いか、踏み込み剣を振り上げる。
 だがことほは怯みもせずにふっと瞑目する。
「夏休みの最後は守ってみせる。……宿題は……あいつは置いてきた、この先の戦いについて来れそうもない……! みんな、いくよ!」
 きりっと目を見開くと、煌めくエクトプラズムで先ずは防護を張った。
「ああ、祭り楽しむためにも──手早く片付けさせてもらうぜ」
 同時、銃口を向けるのはレヴィン・ペイルライダー(己の炎を呼び起こせ・e25278)。
 ゴーグル越しの視界に捉えるのは巨躯の腕。
 剛速で振り下ろされるその標的も、寸分違わずフロントサイトに収めて──射撃。フラッシュを閃かせながら手元を貫く。
 罪人は痛みに一歩引こうとする、が。
 既に小柳・玲央(剣扇・e26293)が背後に廻り、包囲を完成させていた。
 だけでなく軽やかにステップを踏み、剣にしゃらりと弧を描かせて。夢幻を魅せるかのように優美に剣舞を踊る。
 その幻は揺蕩う色彩となってローゼスを纏い、力を増幅させていた。
「さあ、頼むよ」
「承知した」
 応えるローゼスが一閃、眩い光弾で巨躯を穿ってゆく。
 罪人はよろめきながらも剣風を返す。が、
「ブルーム、参りましょう」
 ふわり。
 花を香らすよう、嫋やかな足取りで、けれど力強い眼差しで輝島・華(夢見花・e11960)が立ちはだかった。
 傍らのライドキャリバーも呼応して前へ奔り、共に衝撃を庇い受ける。
 そのままブルームが花吹雪の轍を描き、敵へスピンを見舞えば──華自身は杖から無数の光の花を巻くように、小さな雷光を閃かせて回復と防護を兼ねていた。
「私も、お手伝いしますっ……!」
 御巫・かなみ(天然オラトリオと苦労人の猫・e03242)も手を翳し、きらりと輝く魔力の盾を顕現。華へと同化させることで傷を癒やしていく。
 さらにかなみの肩から翼猫の犬飼さんも飛翔。扇ぐ爽風で治癒を進めていた。
「……さて、僕らもいこうか」
 と、翼猫のトトに語りかけるのはオズ・スティンソン(帰るべき場所・e86471)。トトが癒やしの風を吹かせると、自身は細指でハープを爪弾いて。
(「勇者様に刃向かう事になるけれど、僕はちゃんと戦えるかな」)
 麗しい容貌に仄かな憂いを浮かべながらも──紡ぐ旋律は美しく、皆を万全に保った。
 罪人も連撃を狙う、が。突如出現するように、視界の上に飛んでいたメロゥが降下。蹴撃と斬撃を畳み掛ければ──。
「お願いするよ」
「うん、どんどんやるよー!」
 ことほが眩い雷撃を放ち巨躯を麻痺に陥れる。
 罪人が足掻こうと身じろぐ、その頃には懐に玲央。
「手加減はしないよ」
 声音は涼やかに、放つ拳は頑強に。打突が鎧を貫いて血潮を散らせてゆく。

●決着
「……痛めつけてくれるぜ」
 血溜まりの中で罪人はよろめく。
 苦痛混じりの声音は、しかしそれ以上の憎しみを抱いていた。
「見てろ……お前達も人間も、切り刻んでやる」
「いいえ。そのようなこと、させません」
 道端で、季節の果てまで美しく咲き誇る夏の花。その立ち居にも似た凛然さで、華は罪人を見据える。
「ここに在るのは楽しいお祭り。その邪魔はさせません。皆様は、私達がお守りします!」
「その通り。蛮行はここまでだよ」
 玲央はとん、と地を蹴って巨躯へ迫った。
 剣も扇もあるけれど、花火のリズムはない。ならばクライマックスは駆動音でも利用しようかと、握るのは鋭利な電動剣。
 刹那、唸る音色を反響させながら連閃。鎧を裂き肉を断ち、命を抉る。
 後退する罪人へ、メロゥはスカーフを飛ばしていた。直後、腕に被されたそれが風に外れれば──巨躯の鉄甲が消え失せて、代わりには小さなコイン。
 『扇動奇術:不等価交換と贈り物』──よく見れば、鉄甲を力尽くで剥ぎ取った跡があるけれど。
「ちょっとばかり、強引だったかな?」
 その程度はご愛嬌。露わになった膚を、メロゥは鎌を振るって斬り捌く。
 呻く罪人はそれでも剣風を放ってくるが──。
「藍ちゃん、今だよー!」
 ことほのライドキャリバー、藍が前へ奔り、風を切り開くように衝撃を抑え込んでいた。
 余波を受けた仲間へは、ことほがしゃんと杖を一振り。
 先端を淑やかに地に触れさせると、癒やしの力を樹木として伸ばし──『桜の樹の下』。はらはらと吹き抜ける花吹雪で苦痛を祓ってゆく。
 時を同じく、かなみは手を組んで祈りを上げた。
 ──困難にも打ち勝つ力を……!
 それは『ヒーリングレイジ』──空から光が差すように、眩い癒やしの祝福が訪れ藍が万全となる。
「レヴィンさん、こちらは大丈夫です……!」
「ああ!」
 応えるレヴィンは罪人へ銀色の銃口を突きつけていた。精神を鋭く研ぎ澄ませ、弾丸が通る射線を見通すようにして。
 ──視えた!
 刹那、銃声を響かせ『精密射撃』。巨躯の胸部を貫き血飛沫を上げさせる。
 唸りながら罪人も刃を振り回す、が。
「どれほど刃の鋭さを誇ろうと、我が守りは通させぬ」
 ローゼスが振り撒くドローンの郡が、壁となって剣撃を抑え込む。だけでなく、ローゼスは翔び舞う小型機の間から銃身を伸ばして──。
「貴様はここまでだ」
 弾ける光を宿した弾を射出。罪人の剣身を中央から粉砕した。
 その頃にはオズが蛇の半身を這わせて巨躯の横合いへ。罪人ははっとして下がろうとするが──。
「……悪いけれど、逃す事はできないよ」
 オズは翼を大きくはためかせ、風を掃いて零距離へ。撓らせた尾を鞭の如く振るい、鋭い一閃で巨体を宙へ吹き飛ばす。
「後は、お願いできるかな」
「ええ」
 そっと応えて手を伸ばすのが華。
 掌の中で耀いた魔力は、花を咲かせ、ほどけさせ、無数の花弁を抱く風を作り出した。
「これで、終わりですわ」
 はらりと流れ、翔んだ花びらは渦巻いて巨体を包んでゆく。『風に舞う花弁』──鮮烈に鋭く、切り刻む衝撃が罪人の命を絶った。

●光華
 笑顔と愉しげな声が交わり、祭りに華を添えていく。
 戦いの跡を癒やした番犬達は──人々に無事を伝えて平和を取り戻していた。
 祭りも早々に再開されて、既に辺りは賑やかしい。だから皆が歩き出していく中、玲央も散策を始めていた。
「さて」
 方向を決めず漫ろ歩く、けれど目当ては決まっている。
 何よりこれを見ておきたかったから、と、空を仰ぐと──。
 どん、どん、と。
 丁度小気味好い音が伝わってきた。
「始まったね」
 宝石のような瞳に、映すその光は……鮮やかな紅に、眩い黄色、そして煌めく蒼。
「うん──」
 炎で、華で、瞬間だろうとそこに在る。
 人の暮らしが生み出した、灯りの文化だって……自然のひとつだと思うから。
「良いね、花火は」
 牡丹に菊。
 彩りを楽しんで、形を覚えて……十分に楽しんだ後は屋台でもと歩みを再開。
 苺飴など甘いものを少々と、花をモチーフにした小さい灯りを見つけて購入。花火の音色の中を、ゆったりと歩んでいった。

「レヴィンさん、どこから行きますか?」
「そうだなぁ──」
 暖かな提灯の灯りと行き交う人々。かなみの隣で祭りの景色を見回して、レヴィンは少々逡巡していた。
 二人はこれから一緒に巡り始めるところ。とりあえずどこかで遊んでいこうかと、思った所でレヴィンの目に映ったのは──。
「お、射的じゃん!」
 台に乗ったコルク銃と景品の棚。銃は得意だし、景気づけにもなるだろうとやっていくことにした。
(「良い所も見せられそうだしな……!」)
 そんなことも考えつつ、お金を払ってコルクを詰める。
 かなみも一緒に始めるけれど、最後まで中々当たらず……此方に期待を向けている。そんな視線も感じつつ、レヴィンよーく狙って──かちっ。
 ……弾はお菓子セットから外れた虚空へ。
(「ってなにぃ!? クソ外ししたー!!」)
 おほんと咳払いして二発目。弾は同じく景品の横へ。
 更に三発目。弾は遥か彼方へ。
「……」
「あ、そっか」
 微妙な沈黙に、かなみはぽんと手を合わせる。
「銃が得意なレヴィンさんなら景品全部とっちゃいますもんね」
「え……?」
「そうすると他の方が射的出来なくなっちゃいますから、だからわざと外したんですね!」
「……」
「すごいです!」
 その言葉は慰めではなく……キラキラとした瞳でレヴィンを見ていた。
「……ああ、うん、その通りだ、ハハハ」
 レヴィンは否定するわけにも行かず、何となく空笑いする。それをかなみは尊敬するように……犬飼さんはじとーっと見つめていた。
(「やめてくれーオレをそんな目で見ないでくれー!」)
 レヴィンはいたたまれず走り出す。
「あ! 花火やるみたいだぜ、ほらほら行こうぜ!」
「え? わぁ、本当です!」
 見れば、どぉん──と音を響かせ、空に華が咲く。
 実際、それは綺羅びやかで美しく……ドタバタはしたけれど、そんな時間も愛おしくなるようで。
「また、来ような」
「はいっ!」
 最後には恋人らしく、手を繋ぎ。ゆったりと祭りの時間を過ごしてゆく。

 吹く風の涼しさに、遠くない秋が薫る。
 もう夏も終わりかなと思えば、心は少し寂しいけれど──それ故に最後まで夏を堪能したいから。
「よろしければ、お祭りを見て回りませんか?」
 そう声をかけた華に、オズとメロゥ、そしてことほも頷いていた。
「勿論、たーっぷり遊ぶよー! 何か忘れてるのは……気のせい気のせい!」
 と、ことほは宿題のことはうっちゃりつつ歩み出す。
 実際、宿題もちょっとしか残していないので、思い出しても気に病まず……瞳に映るのは祭りの景色だけ。
「さー、どこから見ていこっかー?」
「ふふ、楽しみだね」
 と、続くメロゥも地球の祭りに参加するのは初めてで、愉快げだ。
「映画とかでは見たことはあるけれど……見るのと経験するのとでは別物だろうからね」
「……そうだね。不思議な光景だ」
 オズも静かに応えて視線を巡らせる。
 提灯の淡い灯りに、かろりと鳴る人々の下駄。屋台から漂う香りも含め、全てが新鮮に映るから。
 そんな皆の様子に微笑んで、華も歩き出し──屋台を目指す。
「お祭りを楽しむのに必須なのは……やはり、屋台の食べ物でしょうか。一緒に、何か頼みませんか?」
 焼きそばとかラムネ美味しいですよ、と勧めると──ことほは勿論と応え、オズとメロゥもそれにあやかることにする。
 早速購入した焼きそばは、ソースの香りと鰹節がなんとも香ばしく。
「ふむ、とても美味だね」
「こういう場所で食べると、一層おいしいんだよねー」
 メロゥとことほが啜って頷けば、オズもその美味を味わって、成程と納得の表情。
 それからたこ焼きに林檎飴にと食べ歩きをしてみつつ──ラムネを飲んで、皆でそのしゅわりとした冷たさを楽しんだ。
「そして夏の締めと言えば、花火です」
 と、華が歩んで行く先。
 道の向こう、川の流れる傍から光が打ち上がるのが見えた。
 ひゅるると笛の音を響かせて、空に昇っていくそれは──高空で大輪を咲かせて、眩い円を描いてゆく。
「花火! やっぱり醍醐味のひとつだよね!」
 その眩さに瞳を細め、メロゥは表情を和らげた。
「……おお、音と空気の振動がこんなに伝わるものなんだね。目だけでなく全身で感じられるから、印象と魅力も高まるのかなぁ。ふむふむ──」
 今後のマジックにも活かせるかもと、メロゥがメモしていると……華はオズにも視線を向けている。
「いかがですか? 綺麗ですよね」
「……うん」
 オズはそっと頷く。
 光の鮮やかさは勿論だけれど。空に向けた砲撃で破裂する火花を『花』と表するのは、オズにとっては意外な価値観でもあった。
「……モノは使いようとはよく言ったものだ」
 そんな様子に、ことほも目を向ける。
 二ヶ月前にはコギトエルゴスム奪取の作戦に参加していたことも思い出して。メリュジーヌの人たちがこうして近くに居ることに感動を覚えた。
「あれからそんなに経ってないけど、もう一緒にこうやって過ごせるんだねー」
「それも……皆のおかげだね」
 オズは花火と祭りの景色を心に留めてゆく。
 全てが真新しくて眩暈がしてしまいそうだけれど……それでもここには確かに平和があるのだからと。
「ありがとうございます」
 華は皆へ言った。良い夏の思い出を作れたことに。
「また来年、です」
 眩い空を見上げる。夏が、彼方へ過ぎてゆく。

 ローゼスは屋台を巡っていた。
 呼び声と芳香、活発な空気に誘われて、葡萄飴やベビーカステラを見つければ購入して。収穫物のビニール袋を提げつつ、冷えた赤ワインのタンブラーを片手に歩んでいく。
「ワインにはやはりフランクが一番でしょうか……と」
 ふと仰いだ。
「そろそろ花火の予感。眺めの良い場所を見つけて置かねば」
 決めれば周囲を見回して見分する。
 けれど……そこに迷子の子供があれば、身長を生かして肩車して。
「これで、見つけやすいでしょう」
 言って、その子の親を見つけて連れていってあげる。
 そんなことを何度か繰り返すうちに花火が始まるけれど……頼られるのも悪いものではないと、困り人がいなくなってからゆるりと歩み出して。
「この頃になるとなんとも不思議な気持ちになります」
 どん、どん、と。
 上がる光の華を見上げつつ、葡萄飴の甘味と共にワインを味わう。
 愉しげな雰囲気と美味。
 それが夜に溶けてゆく心地。
「何かが去ってゆくのを惜しむ、と言うのでしょうか。これを夏の終わりの空気と言うのですね──」
 その情緒を深く感じるように、ローゼスは花火を見つめていた。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年9月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 3
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