カルナバル!

作者:藍鳶カナン

●ねずみ復活! なのでチュ!!
 夏が終わりゆく匂いがした。
 朝の草原を撫でてゆく風は爽やかで、昨日より涼やかで。けれど機械脚でとっことこ歩む宝石ことコギトエルゴスムにとっては、熱風だろうが涼風だろうがまさしく何処吹く風。
 だが、爽やかな風がさわりと夏草をそよがせた瞬間、機械脚の宝石にきゅぴーんと熱烈な煌きが燈った。コギトエルゴスムが見つけたのは真っ白でころんとまるっこい玩具ねずみ。
 ある時は尻尾をふりふりしながら猫の前をしゅぴぴっしゅぱぱっと駆けめぐり、ある時は大人しく動かないと見せかけ、猫が叩けば途端にぴゃっと跳ねてしゅぱっと駆けだすというランダムモードとタッチモードを備えた、猫用おもちゃのねずみだった。
 けれど何故かあるとき電池を抜かれ、それからずっと玩具ねずみはひとりきり。
 そんな玩具ねずみに機械脚の宝石がキラキラきゃっきゃと融合して、きゃっきゃうふふと色々しているうちに、おっきな玩具ねずみとして生まれ変わる。
『チュチュ! チュッチュチュー!!』
 高らかに誇らかに、『ねずみ復活! なのでチュー!!』とでも言いたげに鳴いて、玩具ねずみは朝の草原をしゅぴぴっしゅぱぱっと駆けだした。素早い。めっちゃ素早い。
 どんどん素早くなって、『ねずみは! 風になるでチュ!!』的に鳴いた、瞬間。
 玩具ねずみの赤い瞳の端に、ひらっと猫が映った。
 それは何処からか風に舞ってきた仔猫のポストカード。だったけど、
『にゃんこが来たでチュ!』
 とでも言うように玩具ねずみは急停止。ポストカードの前をうろちょろし、草原の岩やら灌木やらの陰にかくれて尻尾や顔をちらっちらっ。元の玩具であった頃の習性でにゃんこに遊んでもらうべくサービスしたけれど、その茶トラの仔猫は玩具ねずみに眼もくれない。
 なのに仔猫は毛糸玉に猫ぱんちしてるのだ。ポストカードの中で。
 猫に遊んでもらうために生まれたのに、猫が遊んでくれない。そんなジレンマがあたかも毛糸玉への嫉妬の炎のごとく渦巻いて、
『もういいでチュ! あんたなんか知らないでチュ!』
 仔猫にそう叫ぶかのように、玩具ねずみは赤い瞳に涙をためてぷるぷるした。
『ねずみは、ねずみは、ほかのにゃんこを探しにいくんでチュからー!!!』
 涙を振り絞って駆けだした。涙というか多分夏草についてた朝露だけど、とにかくそんな感じで玩具ねずみは再び風になった。それはもう、めっちゃ素早い風になった。

●カルナバル! 作戦でいこうにゃん!!
 何その憎めない玩具ねずみダモクレス。
「って言うか、何か色んな意味で放っておけないんだよその子……!!」
 予知を聴いたクラリス・レミントン(夜守の花時計・e35454)はぷるぷるうずうずした。前に猫用の玩具ねずみがダモクレスになるかも、なんて話をした時は発条仕掛けのねずみの話をしたような気もしたけれど、
「このコギトエルゴスムは電動のほうがお好みだったみたいです! けれどどっちにしろ、猫用の玩具ねずみに着目してたクラリスちゃんのお手柄なのは間違いありませんっ!!」
 笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)が力強く言いきった。
「この玩具ねずみ、最初は元の猫用おもちゃっぽさが強いんですけど、そのうちにだんだんダモクレスっぽさが強くなって『人間を殺してグラビティ・チェインを奪うでチュ!』って感じになっちゃうんです! だからその前に、みんなで倒してあげてくださいっ!」
 力強く拳も握ったねむは今からヘリオンで急行すれば相手が草原にいる間に捕捉できると語る。近隣への避難勧告もばっちり、なので心おきなく戦えるのだけれども。
 問題は、この玩具ねずみがめっちゃ素早い風、すなわちめっちゃ素早いキャスターであることだ。それはもう素早くて、ヘリオンデバイスでパワーアップしたスナイパーでも命中率100%に届かないかも、なんて具合らしいのだが、
「でも! この玩具ねずみは猫相手だと遊んでもらうためにサービスしてくれるんです! ネコ科ウェアライダーさんやウイングキャットが相手なら、予知で視えたみたいにばっちり素早さを手加減してくれちゃいます! 他のみんなも――」
「ああん合点承知にゃん! つまりはこういうことにゃん!?」
 何処からどう聴いても日頃から使い慣れている風情で流暢なにゃんこ語尾を駆使し始めた真白・桃花(めざめ・en0142)が、右手でにゃんこの付け耳、左手でにゃんこの着ぐるみを映したスマホをばばーんと掲げれば、『それですにゃん!!』とねむが太鼓判を捺した。
 猫耳つけたり着ぐるみにゃんこになったりすれば!
 皆にも玩具ねずみのサービス精神が発揮されるよ!
「ふふふ~。クラリスにゃんは猫耳と着ぐるみどっちが好きかにゃん?」
「むむむ、これは悩むかも……どっちも可愛いにゃん!」
 猫好きクラリスも秒で馴染んだ。ねずみと遊べるにゃんこに! 私はなるにゃん!!
 朝の草原は涼しそうだし、着ぐるみでも快適に遊べるに違いない。
「とはいっても、めっちゃ素早いキャスターから素早いキャスターになるって感じなので、みんなは最初から手加減なしで戦ってあげてくださいにゃん! 今の玩具ねずみにとっては戦いも遊びみたいですし、『にゃんこ達が! 遊んでくれるでチュ!』っておめめキラキラ大喜びで応戦したりうろちょろしたりすると思いますにゃん!」
 玩具ねずみが繰り出す技は、相手の首に魔法の鈴をつけちゃう範囲魔法と本人はどうやらマタタビ粉だと思っているらしい催眠ガスの範囲攻撃。そしてあわあわしながら損傷や状態異常を回復しちゃったりするっぽい。
 にゃんこがいっぱい! となれば、玩具ねずみは草原を駆けめぐるようにうろちょろし、あちこちの岩とか灌木からちらっちらっとかしてくるに違いない。それならこちらも草原を駆けめぐり、岩や灌木から跳んだり跳ねたりしてお相手しようか。
「ふふ。ずっとひときりだったっていうし、皆でめいっぱい相手してあげなきゃね。というわけで、皆でにゃんこになって、玩具ねずみと遊びにいこうにゃん!」
 撫子色の瞳を煌かせたクラリスが仲間達に呼びかける。
 それはきっと、玩具ねずみとケルベロスにゃんこ達のカルナバル。
 本来の意味ではなく、にゃんこの姿でおまつりみたいな楽しいひとときを。


参加者
アリシスフェイル・ヴェルフェイユ(彩壇メテオール・e03755)
カルナ・ロッシュ(彷徨える霧雨・e05112)
プルトーネ・アルマース(夢見る金魚・e27908)
ヨハン・バルトルト(ドラゴニアンの降魔医士・e30897)
クラリス・レミントン(夜守の花時計・e35454)
八点鐘・あこ(にゃージックファイター・e36004)
リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)

■リプレイ

●スーパーにゃんこ大戦☆カーニバル!
 夏の終わりは誰しも感傷的になってしまうもの。
 だけど夏が終わりゆく朝の草原で誕生した玩具ねずみダモクレスは、誕生から僅か数分で感傷とかそういう問題じゃないくらい傷ついた。ぐっさりざっくり傷ついた。
『もういいでチュ! あんたなんか知らないでチュ!』
 めいっぱいサービスしてもちっとも遊んでくれない仔猫(のポストカード)にそう叫び、
『ねずみは、ねずみは、ほかのにゃんこを探しにいくんでチュからー!!!』
 涙(草原の朝露)を振り絞って駆けだした玩具ねずみ! ああ、そんな少し過去の光景がありありと胸に思い浮かぶ傷心ねずみの風になりっぷりを朝の空から見下ろせば、いつもは地獄の番犬たるクラリス・レミントン(夜守の花時計・e35454)も、
「全力でにゃんこと化すしかないじゃない! というわけで、ねこねこ隊出動だにゃん!」
「出動なのです! みんなでにゃにゃっとネズミと遊ぶのです! にゃー!!」
 お耳と尻尾のにゃんこデバイスとおてての肉球(猫の手ミトンだよ!)でばっちり白猫と化して、この世に生を受けた時からきっちりネコ科な虎っこウェアライダー、八点鐘・あこ(にゃージックファイター・e36004)達とともに空から跳ぶ!
 跳んだ! にゃんこが、跳んだ!!
 だが傷心のねずみはあまりにも素早い風になりすぎて、澄んだ朝空から数多のにゃんこが舞い降りるよりも速く駆け抜けてしまったけれど、そこは心配御無用!!
 ――ここにいないにゃ♪ そこにいないにゃ♪ そうだとすると あそこかにゃ♪
 生粋の仔虎感満載な尻尾をぴんと立て、可愛い童謡っぽいけれども獲物に対するネコ科の執念を前衛陣に宿らす歌をあこが歌えば、ぴゃっと跳ねた玩具ねずみが振り返り、
『にゃんこが! いっぱい来たでチュ!!』
 と言わんばかりにぱあああっと顔を輝かせた。
 ケルベロスにゃんこ達を映した赤い瞳があんまり嬉しげにキラキラするものだから、
「ええ、いっぱい来たのにゃん。私達がいっぱい遊んであげるにゃん!」
 釣られて笑みを零したアリシスフェイル・ヴェルフェイユ(彩壇メテオール・e03755)も猫耳と猫尻尾デバイスをぴるっと震わせ、肉球ぷにぷにおてて(猫の手グローブだよ!)で朝露きらきらの草叢に猫ぱんち! すると朝露とともに白銀の粒子がぱあっと弾け、
「そのとおりにゃん、めいっぱい遊ぶつもりにゃから――風よ、嵐を告げるにゃん!!」
「黄金騎使あらため黄金騎猫が、思いっきりねずみ君を捕まえちゃうにゃーう!!」
 超にゃんこ感覚を幾重にも覚醒させる煌きを纏った、スナイパーにゃんこ達が跳んだ!!
 着ぐるみにゃんこパーカーに猫耳も猫尻尾もぴこぴこなデバイスで確りばっちり決めて、にゃんこ詠唱も完璧に決めたカルナ・ロッシュ(彷徨える霧雨・e05112)が召喚した氷晶の嵐が玩具ねずみにキラキラ襲いかかったなら、こちらもキラキラな黄金に煌く猫耳と猫尻尾デバイスを朝の風に躍らせたアンゼリカ・アーベントロート(黄金騎使・e09974)が流星の後ろ足でねずみをぎゅむう。
 二連続の足止めを喰らった玩具ねずみはその途端、
『にゃんこ達が! 遊んでくれるでチュ!』
 そんな歓喜にぷるぷる身を震わせるように、彼ら後衛へ金色の魔法を炸裂させた!
 だがしかし!!
「ああん、凛々しいいちまるにゃんこちゃんが可愛さ爆上げ! なのにゃん!」
「にゃ!? わたしもちょっと鈴が欲しくなってきちゃったの、でも今は我慢するのよ!」
 真白・桃花(めざめ・en0142)を護った白猫ボディスーツ着用なテレビウムがにゃんこなドヤ顔で振り返れば、その首元で金色の鈴がちりん。相棒とお揃いの白猫スタイルで翔けるプルトーネ・アルマース(夢見る金魚・e27908)が朝露っぽいカプセルを放ったなら、他の仲間からもちりんちりん。
 ――ヨハンが!
 ――クラリスにゃんが!
 ――にゃんこになった恋人が、首に鈴つけてちりんちりん鳴らしてる……!!
 お互いの不意打ちの可愛さに恋人達の時が止まったのも一瞬のこと、カルナの盾となったクラリスとお医者にゃんこヨハン・バルトルト(ドラゴニアンの降魔医士・e30897)は鈴をちりんちりん言わせつつ、
「皆に自浄の加護と、狙った獲物を逃さない射手座の加護を!」
「カニかまおやつ、もとい蟹さんの癒しと護りを!」
「「あげちゃうにゃん!!」」」
 肉球ふにふにおてて(ヨハンのは肉球つき手袋だよ!)でふにっと握った星剣で、前衛と後衛に射手座と蟹座の聖域を描きだす! 星の輝きの先に見えるのは、朝露っぽいけれども殺神ウイルスたっぷりなカプセルをしゅぱっと躱した玩具ねずみが岩陰に跳び込む姿!
 そこからねずみが尻尾や顔をちらっちら――してみれば。
「にゃあん」
 猫耳も猫尻尾もデバイス完備なリリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)が、誰かを見倣った尻尾ぴこぴこしつつ、両腕をうにょーんと前に突っ張るにゃんこの伸び。ちらりと獲物を見れば、『来るでチュ? 来るでチュ?』的な感じでこっち見てる!
 こくんと頷いたリリエッタはじりじりと後ろに下がって、
「勿論、いくのにゃ!」
『チュー! やっぱりでチュー!?』
 いきなりのジャンプでねずみを押さえ込み、至近から猫だまし的に気咬弾をぱあん!!
『チュー!!??』
「チャンス! ですにゃん!!」
「私も構って! 遊んで欲しいにゃん!」
 強烈な衝撃にぴゃあっと跳ねたねずみを思いっきり竜鎚を揮ったカルナの轟竜砲が撃墜、淡い黄と紫煌く光の糸で中衛に自浄の加護を齎して消える繭を紡ぎつつアリシスフェイルが夏草に跳ねたねずみの眼前に躍り込むが、その隙に蔓草でじゃれつこうとしたアンゼリカを玩具ねずみはしゅたっと回避!
「しまったにゃ! スターゲイザーとストラグルヴァインって……!!」
「ん。どっちも敏捷グラビティだから、続けて使うと見切られるにゃん」
 けれどその時には高々と跳躍していたリリエッタが降り落ちて、電光石火の蹴撃で獲物を貫いていた! だがしかし!!
 玩具ねずみが『やばいでチュやばいでチュ』的にあわあわおぶおぶすると、何故だか色々回復して――損傷や異常から解放されたねずみはくるりんしゅたっ! と跳ね起き、草原へ駆けだして、岩やら灌木やらの陰に跳び込んではちらっちら。
「どうしてあれで治っちゃうのかにゃん? って、そっち行ったにゃん!」
「不思議だにゃん、あぁでもその狩猟本能を刺激しまくる動き……堪らないにゃん!」
「合点承知! 堪らないねずみにゃんを捕まえるのにゃん!」
 玩具ねずみを追って跳んだら朝露も跳ねて、冷たさに笑みを咲かせたアリシスフェイルが流星の煌きを三重につれて降り落ちたなら、星の重力を刻まれつつ岩陰から転がり出た玩具ねずみを猫の手からにゃにゃっと爪を覗かせたクラリスの猫ひっかきがすっぱりお出迎え。次いで『にゃにゃにゃにゃ!』とばかりに桃花の制圧射撃が爆ぜたなら、
「これぞ! スーパーにゃんこ大戦なのですにゃん……!!」
 わくわくうずうずと瞳を輝かせたあこが、威嚇にゃんこっぽいトライバル模様がクールに艶めくバイオレンスぎにゃーを掻き鳴らす! あこも仲間も奮起させる護りのメロディは、紅瞳覚醒ならぬ――猫目! 覚醒!!(瞳孔しゃきーん!!)

●スーパーにゃんこ大戦☆カルナバル!
 夏の瑞々しさを残す緑の草原で真っ白なねずみとケルベロスにゃんこ達が追いかけっこ。涼やかな朝の風が舞うたびに、皆が跳んだり跳ねたりするたびに、青い夏草の匂いや冷たい朝露が弾けるのが楽しいけれど、
「ここはひとつ、待ち伏せ大作戦にゃん!」
 確りこんもりした石楠花の灌木に飛び乗ったカルナは、ちょっと香箱座りも試してみつつ身を伏せて、わくわくうずうず我慢の仔。もふもふマッチョなウイングキャットと連携して思いっきりじゃれつくあこを誘うように玩具ねずみが灌木の陰を駆け抜けたなら、
「今だにゃん!」
「わたしもいただきなんだよ!」
 石楠花からにゃあんと跳んだカルナが氷晶の嵐とともにねずみをキャッチ! 真っ向から機を掴んだプルトーネも時空凍結弾をずばーんと玩具ねずみの眉間に決めれば、その途端、
『チュッチュー!』
「にゃー!!??」
 唐突な金色魔法の炸裂! あたかも突然キュウリに出逢ったにゃんこの如き大ジャンプで跳び退るあこ! 虎もそうなっちゃうの!? と瞬きしつつクラリスがリリエッタの分まで魔法を引き受けたなら、その首元でやっぱり鈴がちりんちりん。
「くっ、何という誘惑にゃん……! それでも! きらきらうるるんお薬にゃん!!」
 恋人の愛らしさに眼を奪われそうなるのを重低音でぐっと堪え、ヨハンが癒し手の浄化を乗せて揮うは愚者の黄金とも猫の金とも呼ばれる黄鉄鉱! 猫の金はきらきらと薬液に融け点眼薬の如く前衛陣の感覚を研ぎ澄ます靄を生み、
「ありがとヨハン! きらきらうるるんお薬パワーで、猫ぱんちにゃあん!!」
『きらきらうるるんパンチでチュー!?』
 撫子色の瞳をきらきらさせたクラリスが猫の手にぐるるんっと白銀の煌きを巻きつけて、玩具ねずみの護りを穿つ猫ぱんち!! 急所直撃×サービス精神でぴゃああっと吹っ飛んだ相手を更にケルベロスにゃんこ達が追う! ここはこちらも猫っぽいしぐさとかでねずみのサービス精神に応えたいところだけど、
 予め動物知識を駆使してお勉強してきたアンゼリカの学習成果が告げている!
 友人の翼猫を観察させてもらったアリシスフェイルの観察結果が告げている!
 狩りをするにゃんこのいかにも猫っぽいしぐさと言えば! お尻ふりふりであると!!
「だがそれは流石に……」
「上級者向けすぎるのにゃん!」
「ああん大丈夫なのにゃん、そういう時こそ尻尾なのにゃん!」
「「それにゃー!!」」
 騎士の矜持や乙女の恥じらいに心揺れていた二人の猫尻尾がぴこーん!
 玩具ねずみがしゅたっと着地した瞬間に、ぐぐっと獲物を狙う構えで猫尻尾をふりふり。『チュ!?』と赤い瞳が嬉しげに煌いたところで一気に躍りかかったのは、冴え冴えとした月光を思わす輝きで相手の勢いを鈍らすアンゼリカの光と、軽やかな蹴撃の軌跡から迸ったアリシスフェイルの炎! 三重の炎が玩具ねずみへと燃え上がった次の瞬間、空から天使なにゃんこが舞い降りる……!!
「流石はにゃんこアリシスさんなんだよ! わたしとみーちゃんで応援してるからねー!」
 猫耳をぴるんっとさせて舞い降りた天使は翼猫を抱いた咲宮・春乃(星芒・e22063)!
「あっ、春乃お姉ちゃん!」
「えっ! 春乃にゃん!?」
「そう! 可愛いにゃんこ春乃の応援、今日は私が独り占めさせてもらうのにゃん!!」
 花菖蒲の上でぴるんっとする猫の耳、にゃんこ春乃の登場にプルトーネやカルナの猫耳もぴるっとするけれど、今日の彼女はアリシスフェイルの応援隊! 蜂蜜色の瞳を煌かせれば猫耳もぴるんぴるん、可愛い友の応援で高揚する心のままに跳び、
「春乃の分まで、私と遊んでにゃん!!」
 ――あなたが、楽しいあなたでいられるうちに。
『ッ、チュー!!!!!』
 流星となったアリシスフェイルが力いっぱい玩具ねずみに跳び込めば、歓喜とびっくりが入り混じった声が響き渡り、
「読めたにゃん、ねずみ君。君の弱点は――」
「ずばり! 斬撃ですにゃん!!」
『チュー! ばれたでチュばれたでチュ!!』
 同じく流星となって斬りつけるような蹴撃を浴びせたアンゼリカと、実際は破壊だけれど斬撃の振りして爪を見せつけたカルナの竜爪撃に玩具ねずみがあわあわおぶおぶ。またもや色々回復するけれど、
「えい。猫ぱんちにゃ」
『チュー!!』
 リリエッタの猫だまし気咬弾からは逃れられない!
 絶大な威力×サービス精神でぴゃあっと吹っ飛んだ玩具ねずみをケルベロスにゃんこ達の猛然たるじゃれつきが追い、
「斬撃が弱点なら、今度こそこれを当てちゃうの!!」
「ええ、我らウィッチドクターの真髄、ここでお見せしましょうにゃん!!」
 招き猫のようにくいっとした手の中にきらきらを生成したプルトーネが、ふわっと掌上に毛糸玉を乗せるようにきらきらを生成したヨハンが、一気に撃ち込んだきらきらがねずみを穿てば神殺しのウイルスを秘めたカプセルが弾けて、
『チュー! マタタビをプレゼントでチュー!!』
 クロスカウンターの如くマタタビもとい催眠ガスがぼふっと爆ぜたが、護り手達がそれを抱きとめ、
「にゃあん。ヨハンのカプセル楽しそうなのにゃん、もっと出して欲しいのにゃん!」
 満面の笑みで振り返ったクラリスが彼の許へ跳び込んでくる!
 ああ、あの冬の昼下がり、猫カフェで出逢ったメインクーンみたいに、
 ――僕もどっしり構えて、クラリスにゃんを受け入れるべきなのでは……!?
 猫耳猫尻尾、そして肉球手袋ともっふりマフラーで白衣のメインクーン気分になっていたヨハンは一瞬そう思ったけれど、彼女の猫の手から出てる! 爪が出てる!!
「待ってクラリスお姉ちゃん! これを――!!」
 そう! クラリスの猫ひっかきはシャドウリッパーなのである!! 間一髪で天使の翼を羽ばたかせたプルトーネがミモザ咲く春風で彼女の催眠を吹き飛ばせば、同じく仲間の盾となってマタタビもとい催眠ガスを抱きとめたあこが頭をふるふる。
「流石はマタタビなのです! お礼に本物のネコ科の爪をお見舞いするのですにゃ!」
『チュー! にゃんこ達に引っかかれちゃうでチュー!!』
 星の加護で催眠を克服しながら跳んで、正真正銘の仔虎のおててから爪をにゃっと出したあこが獣撃拳を見舞えば、付き合うように跳び込んだ翼猫も爪でざっくり追撃。ぴゃあっとサービス精神で倒れたねずみは即座にあわあわおぶおぶ回復するけれど、癒しの威は大きくウイルスに殺されて、
「にゃあん。ちょっと退屈してきちゃったにゃ」
『チュ!?』
 愛らしいあくびとともにリリエッタがころんと転がれば、慌てて彼女の前でうろちょろとサービス精神を発揮! した瞬間!!
「えいえい。猫きっくにゃ」
『チュッ、チュー!!』
 抱きぐるみよろしくねずみに抱きついたリリエッタの猫きっくというか旋刃脚が炸裂!!
 心底びっくりしたようにぴゃあああっと跳ねた玩具ねずみは草原に駆けだして、やっぱり期待するような眼差しでこっちをちらっちらっと振り返ってくるものだから、思わず笑みを零してカルナも駆ける。
 岩から灌木へと跳んで跳ねて、翔ぶように駆ければ弾む風とも遊ぶよう。いつもみたいに竜の翼で飛翔するのとは違った心地で大きく跳躍し、猫ぱんち代わりの轟竜砲をずがーんと決めればにゃあんと胸を張り、
「僕は誇り高いドラゴニアンですけど、偶には猫になってみたい日もありますからにゃん」
「ふふふ~。でもわたしににゃんこ語尾を仕込んでくれたのはカルナにゃんなのにゃん!」
 桃花の速撃ちにぴゃっと跳ねたねずみを再び追いかけ、弾けるように皆と笑って。
「道理でカルナも中々にゃんこ語尾が流暢だと思ったのにゃん!」
「そういうアリシスも確り板についてきたのにゃん!」
 ――あなたにも気に入ってもらえたかにゃん?
 白銀の巨大鋏を模した刃を咲かせたアリシスフェイルがそう訊ねるように玩具ねずみへと躍りかかれば、空をも絶つその斬撃と同時に彼女の背後から高く跳躍したクラリスが、影の猫ひっかきで見事にすっぱり。
『チュ~!!』
「あことも! 遊んでくださいなのです!!」
 嬉しげにころんころん転がっていったねずみは毛糸玉を手にしたあこにじゃれつかれて、実は爆破スイッチなそれをふにっとされた瞬間にぼばばばん!! 至近だけども遠隔爆破を喰らった反撃にぼふんとマタタビっぽいアレを溢れさせたけれど、猫の金がきらきらと煌くヨハンの靄に綺麗に払われ、煌きを重ねるようにカルナの氷晶の嵐が踊る。
 玩具ねずみはますます楽しげにうろちょろするけれども、満身創痍のその姿は間近に迫る終焉を物語っていて、
「少し寂しい気がするのにゃん」
「同感ですにゃん。けれど……」
「うん。遊びもおまつりも、永遠にはできないのにゃん!」
 竜の青年達の言葉に猫尻尾をぴんと立て、指揮者の如く猫の手を振ればクラリスの許から七色に輝く五線譜が朝の風に舞った。一気に飛び乗り滑るように翔ける光と音色の路の先は玩具ねずみの許! プリズムの煌きと即興の歌を連れ、満開の笑顔で跳び込んで。
「とっても、とっても楽しかったにゃん!」
『チュー、チュッチュチュー!』
 心から伝えれば、突撃を受けとめたねずみも『うん、楽しかったでチュ』と応えるように鳴いて、きらきら舞う七色の煌きにとけるように消えていく。
 ――君が次も玩具ねずみとして生まれてくるのなら。
 ――本物のにゃんこ達にモテモテでありますように。
 記念写真とりたいの、と手を振るプルトーネに皆の瞳が向いて、写真いいね、と猫尻尾をぴこぴこさせつつ傍らを見上げたクラリスの瞳に映ったのは、ヨハンの頬に伝う煌き。
 えい、と頑張って爪先立って、
「尻尾ぴこぴこしてみたら、こんな気持ちになっちゃったにゃん」
「…………!!」
 誰も気づかぬうちにほっぺちゅーで涙を掬い、真っ赤になった彼の手を引いたなら。
 玩具ねずみとケルベロスにゃんこ達のまつりの思い出を、大切に撮りにいこう――。

作者:藍鳶カナン 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年9月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 0
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