魔草少女が変身中

作者:大丁

 同じ学区に住んでいるというだけで、兄妹どころか、親戚ですらなかった。
 いつの頃からか、2歳年上のその男を『おにいちゃん』と呼んで、慕っていたのだ。
 ミドリは今日、おにいちゃんが同級生の女から告白されて、はいと返事したところに出くわしてしまった。
 頭がぼーっとなり、家までどうやって帰ったのかわからない。気付けば、自室で机に突っ伏し、泣いていた。
 そして、『おにいちゃん』への感情が、兄へのそれではなかったと自覚した。
「もう、こんな町には住んでいられない」
 深夜になって、ミドリは部屋を抜け出す。
 だが、おにいちゃんの家の前まで来て、迷うのだ。
(「そもそもどうして、告白を受けたりなんかしたの!」)
 愛憎がひっくり返ったとき、播種者ソウが出現する。
「さあ、ミドリちゃん。魔草少女に変身して♪」
 周囲は花畑にかわり、ミドリの身体は光に包まれる。

 軽田・冬美(雨路出ヘリオライダー・en0247)は、いきなり核心を話す。
「ヘリオンをぶっ飛ばしていくから、ちょうど魔草少女への変身中に駆けつけられるのお」
 誰彼となく、「え?」と疑問を返した。
 そういうのは、妨害できないものなんじゃないか、と。もし可能だったら、こちらが一方的に攻撃できてしまう。
「変身中の少女はクルクル飛び回るから、言うほど無防備じゃないみたい。変身空間にはお邪魔できても、花びらとか謎の光でできた、いわゆる変身エフェクトに当たると、ダメージがある上に、みんなもハダカになるから油断しないでねえ」
 むしろ、難易度が上がってる気がする。
 今回の事件は、ユグドラシル・ウォー後に姿を消していたデウスエクスたちの活動によるものだ。
「『攻性植物の聖王女アンジェローゼ』が、配下の『播種者ソウ』を使って、親衛隊である魔草少女の戦力を増やそうとしてる。ミドリちゃんは、魔法の小動物っぽいソウに騙されたうえに、攻性植物の種を植えられて変身し、本当は恋する『おにいちゃん』を殺してしまう」
 阻止するためには、変身中のミドリを倒すしかないが、彼女を助ける方法もあるという。
「手順があるので、気をつけてねぇ。まずは、いっしょに飛び回っている播種者ソウを、スナイパーによる『部位狙い』で撃破して。変身は止まらないけど、ミドリに語り掛けることが可能になるから。家出なんかしなくてもいいって説得するの。ミドリが言葉に納得したなら、グラビティで撃破しても種だけが滅ぼされて、変身は止まる。わかったかな?」
 確かに、準備しておくことは多そうだが、やってみる価値は十分にある。
「さ、残りはヘリオン内で相談することにして、乗った乗った」
 冬美はコマンドワードを叫んだ。
「レッツゴー! ケルベロス!」


参加者
日柳・蒼眞(無謀刀士・e00793)
機理原・真理(フォートレスガール・e08508)
盟神探湯・ふわり(悪夢に彷徨う愛色の・e19466)
エメラルド・アルカディア(雷鳴の戦士・e24441)
ルティア・ノート(ヴァルキュリアのブレイズキャリバー・e28501)
白焔・永代(今は気儘な自由人・e29586)
小柳・瑠奈(暴龍・e31095)
カフェ・アンナ(突風はそよ風に乗って・e76270)

■リプレイ

●変身空間での狙撃
 花びらが列を成す。
 全天周に万華鏡を映したような花畑で、ミドリは小動物と背中合わせで回っていた。
 眠ったように目を閉じ、花びらの流れに翻弄されて、首をグラつかせる。
 体型はあらわなものの、虹色の光が肌を覆い、裸をほのめかす程度に抑えているのだ。
 背にぴったり寄り添っていた、播種者ソウだが、シャボンのような半透明がまとわりついて、両者に隙間ができた。
 ソウの意思でないのは、口元の歪みが証明している。
「……ケルベロスだね」
 にらんだ先の空間に、日柳・蒼眞(無謀刀士・e00793)が滑り降りてくる。禁縄禁縛呪が、小動物を掴みだしていたのだ。
 ソウは、じたばたと足掻いて、御業の手から抜ける。
「変身中の演出空間に割り込んでくるなんて、お約束がわかってないぞう」
「朝の良い子の魔法少女アニメを、お前のような外道が語るんじゃない」
 万華鏡を、炎が横切る。ルティア・ノート(ヴァルキュリアのブレイズキャリバー・e28501)だ。
 纏っているのは、聖女と騎士とを重ねたドレスアーマー、そのカタチのまま、燃え盛っている。
「少女をそそのかし、恋していた相手を殺させるなんて許せませんね」
 レッド枠の子の変身演出ではなく、インフェルノファクターによる自前の炎だ。
 空間に、続々と参集してくるケルベロスたち。
 対する花びらの列も数を増やして、服脱げに巻き込んでくる。
 ディフェンダーのカフェ・アンナ(突風はそよ風に乗って・e76270)は、できるだけ演出攻撃を拾おうとする。だが、数も種類も多い。
 バラが散れば上着はバラとなり、桜が舞えば下着は桜となる。
「抑えこみ、ますっ……!」
 パイルバンカーを真正面で低く構えた。杭にはイボ式ストッパーのある、特別製。
 後端を下腹に押し付け、気迫を込める。
 小柳・瑠奈(暴龍・e31095)は忍者スーツだった。
 鎖帷子というより、網タイツなエロかっこよさ。そこへ、梅や牡丹が掛かる和風の演出効果。
「二段変身できそうな調子だけど、さ……。騙されないよ!」
 気合いで拒否する。
 花びらに混じって、くだものも周遊し始めた。メディックのエメラルド・アルカディア(雷鳴の戦士・e24441)が発現した、黄金の果実だ。
 蒼眞(そうま)と、白焔・永代(今は気儘な自由人・e29586)。ふたりの男性の服が消え去ったとき、虹とは別の光が果実から発せられ、腰のあたりを金にする。
 彼らの場合、形が判っちゃったら、意味ないから。
 永代(えいたい)は、さらなる金を撒く。仲間たちへのメタリックバーストだ。
 花びらを被った盟神探湯・ふわり(悪夢に彷徨う愛色の・e19466)は、ミニスカ丈の巫女服だけでなく身体ごと消えた。
「ふわりはね、あなたの事も愛してるの。見えなくてもいつだって隣にいるし、いつだって愛してあげるの」
 声が聞こえて、ソウはキョロキョロし、後ろから実体に抱きつかれた。
 不意打ちで相手を足止めする、『別離の後に訪れる、愛しい君との素敵な再会(イナイ・イナイ・バア!)』。ハダカの胸の感触に、小動物はニヤケ顔。
 だが、今度はソウの姿が、ふわりの腕の中で消えて、離れた場所に再出現する。
「ふー、危ない、危ない。キミみたいな子は魔草少女には選べないんだ」
 播種者が前足で額の汗を拭う傍らで、リボンが渦を巻いていた。変身空間内の、ファンシーな演出効果にまぎれて、主のはずが油断した。
「――全部、捉えたですよ」
「胸が大きすぎると……グハァッ!」
 リボンが、小動物の胸を貫く。
 うねるその吹き出し元をたどれば、機理原・真理(フォートレスガール・e08508)のフォートレスキャノンの砲口に繋がっていた。
 まぎれるようなビームの動きも、『スナイピングアーマーブレイクキャノン』の予測によるプログラミングの成果だった。オウガ粒子の金属増加も助けになっている。
 生々しく血を吐いたあと、播種者ソウは消滅した。今度こそ撃破だ。
 それでもやはり、ミドリの変身は止まらない。そして、真理の白いフィルムスーツも、お腹のあたりから上下に向かって、輪切りのように消滅していくのだった。
 金色っぽいエフェクトが掛かって。
「白焔さん、アルカディアさんと間違えて脱がしてるです?!」
「いや、マジで違う……」
 犯人は、黄色いタンポポの花びらと、白い綿毛が飛ぶ演出であった。

●言葉を
 変身演出効果による攻撃が降り注ぐなか、全員でミドリの説得にかかる。
 普段は、オドオドした話し方のカフェが、必死の声をあげる。
「ミドリさんっ……! このままだとあなたは、おにいちゃんを、自分の手で殺してしまいます!」
 真理とエメラルドは、シルエットになっている自分の胸を抱いて。
「大好きだった人が他の人と付き合っちゃうの、ココが痛くなるって、分かるのです」
「おにいちゃん殿への敵意を、播種者ソウによって植え付けられたとしてもな」
 女の人生の先輩として、瑠奈(るな)とふわりは思いをはせる。
「恋はいつでも難しいモノさ。特に、自分で初めて自覚したヤツは、ね」
「失恋に終わっちゃうのは、とっても悲しい事なのー……」
 だんだんと胸を開いて、エメラルドは力説した。
「そのつらさを乗り越えるなら、ミドリ殿は益々魅力的な女性へと育って行くはず」
「ひとまずお兄さんと距離を置くのは間違っていないかもしれませんね。ですが、家出までする必要はありませんよ」
 ルティアの譲歩に、蒼眞のなかでの引っ掛かりが、問いとなる。
「そもそも、他の女と付き合うおにいちゃんと一緒の町にはいられないと思ったなら、何で今そのおにいちゃんの家に来ているのかな?」
 初めて、ミドリに表情らしきものが浮かんだ。ハッとしたように、まぶたを開ける。永代は、核心を掴んだと思った。
「異性として好きになったその気持ちは、伝えるべきだよん」
「どれだけ親しい方相手でも、人の想いは『言葉』にしなければ伝わらないものです」
 カフェが言い添えると、ふわりの明るい笑顔が、もっと明るくなった。
「もしかしたらー、ミドリちゃんも告白したら、おにいちゃんは先に告白してきた同級生の人に『ゴメン』って言って、ミドリちゃんを好きになってくれるかも知れないの!」
「あるいは、相手の迷惑になるかもしれない。……でも、そういう事も受け入れてくれたり、甘えさせてくれたりできる人だから、君は好きになったんじゃない? だから、きっと大丈夫」
 永代は、厳しくも優しく語り掛け、真理はまことに信ずるべきことを示した。
「貴女が大好きだったその人が変わったわけじゃないのです」
 ケルベロスたちは、いつしかミドリを応援する立場に立っていた。そして、カフェが叫ぶ。
「何度も、何度も何度も、何度でも! 言葉を尽くしてお兄ちゃんと勝負しましょう!」
 ついに、ミドリの唇が動いた。
「わたしが、おにいちゃんに……告白?」

●解放
「よし、言葉を届けられたぞ!」
 蒼眞たちが安堵の息を漏らすのも束の間、せっかく紡がれた声は、次の瞬間には悲鳴に変わっていた。
「きゃああっ!」
 花びらが寄り集まり、魔草のコスチュームになろうとしている。
「ミドリさんの変身を、絶対に止めてあげましょう!」
 ルティアは全身の炎を、愛用の鉄塊剣に移した。
 すでに演出効果のなかを突破してきたゆえ、ドレスアーマーのカタチを失うと、身体のライン、スタイルの良さが明らかになってしまう。
 正義のためならば、足先まですべて、ブレイズクラッシュに注ぎこめる。
 いっぽう、花びらはシュミーズのようなアンダースーツに変わりつつあった。炎の鉄塊剣は、ミドリの肌を傷つけずに、スーツを切りとばす。
 再び、裸体となった背中に、カフェはパイルバンカーを構えて、接近した。
 デッドエンドインパクトは、螺旋を噴射させる突撃だ。
「内に溜まってるものがあるなら、出し切るべきですよ……」
 説得の段階はすぎても、カフェの感情はまだ、激しく渦巻いている。ミドリといっしょに回転しながら、背に頬を這わせて囁いた。
 種を摘出する杭は、前後上下に振動させている。
「おにいちゃん……わたしは、ウッ! くう」
 ブワッ。
 螺旋状を噴き出させ、途切れなく万華鏡にたなびいた。
「好き……だ、よ」
 少女の苦悶が、和らいでいく。
 魔草の宿主の解放を恐れたのか、変身を強制する力が強まった。
 バラが花弁でなく、トゲ付きの茎でもって螺旋を跳ね除け、ミドリの足先から巻き付いたのだ。カフェも引き剥がされてしまう。
「咲き誇る白の純潔なのですよ!」
 真理は、そう名付けている攻性植物を、ストラグルヴァインの蔓にして追わせた。
 植物同士の戦いは、ミドリの大腿をめぐって展開する。バラがスパッツとして支配するのを、剥ぐ攻防だ。
 少女はもう、『種』に抵抗する意思を、表情に出していた。ふわりは、抱きつける距離まで、たどり着く。
「ふわりも応援するしー……お顔も変身なの?」
 花弁が頬を撫でると、魔草的なメイクが施されるのを見た。
 リップやアイシャドウなどに別れて寄ってくるようだ。ふわりは、ワイルドブレイドで腕を大太刀にして、メイク係を近づけないよう、斬り払った。
「お化粧とかアピールの仕方とか、ミドリちゃんには、もっとお似合いがあると思うの!」
 全天周に漂っていた植物は、その数を減らしている。
 奴らから、いっきに救出する手立てとしては。
「ここらで、路線変更といくか」
 蒼眞は、斬霊刀を大上段に振りかぶった。
「土曜の深夜も日曜朝のうち、深夜枠アターック!」
 絶空斬で斬った。
「光がなくなれぇ!」
 体型だけを写していた虹のような光は消え、肌の色が戻ってきた。
 全員ぶん。
「いいぞ、蒼眞殿! 『種』の支配を減じている!」
 エメラルドは、ランスを抱えて空間の天面から、急降下する。
 ミドリの首元には、蝶ネクタイが形成されつつあった。
 本来は、アンダースーツの上にデコレートされるものなのだろう。直接、肌に巻かれて、やや浮いている。
 ランスインパクトの穂先は、正確にネクタイだけをちぎると、そのほかのアクセサリー類にもプレッシャーを与えて、装備されるのをけん制した。
「どうだ! ……本格的に裸になってしまったが、ここで退くわけにはいかん」
 空間の底部で折り返す。
 飛びかう男女の姿を見上げると、湧き上がるモヤモヤ感は否めない。永代の姿に、つい個別の視線を送ってしまった。
 ニコっと笑い返されて、親指を立てられる。
「形勢は良い。戦いに集中しろ、と言うんだな」
 エメラルドは、あえて堂々と体を開いてみせた。
「本当は、恥ずかしがってんの、まるわかりだよん。それは後で何とかなるとして」
 永代は、フェアリーブーツのフォーチュンスターを蹴り込む。命中すれば、魔草コスチュームも消滅させる、星型のオーラ。
「ミドリちゃん、これは、ノーカウントだから安心して欲しいよん」
 変身を妨害するというか、服を着させない感じになっている。
「一人の女の子として勝負する相手は、おにいちゃんだから。その時は、ドーンとねん」
「初恋の、思い出に残る尊さ、よ」
 瑠奈が影のクナイを無数に投げた。忍者スーツの胸元にギュッと詰め込んでいた膨らみは、タイツが破けてとっくに弾け出ている。
 謎の光も退治されたから、先端も無修正。覚悟を決めて、トドメにいく。
 影は、花びらを縫い留める囮だ。本命の、光の一本が、いま。
「BEFORE I FORGET(キセツハツギツギシンデイク)……!」
 ミドリの心臓の位置に、すとんと刺さった。
 刃先に種をとらえ、傷跡も残さず胸から抜け出て、クナイは煙と消える。
 撃破により、再びミドリのまぶたが閉じられると、瑠奈は優しく抱きしめる。
 薄いところのつぼみに、豊穣なる突起を当てて。
「がんばりな、仔猫ちゃん。何せ、女の子なら誰しも通る道だからね」

●帰路
 変身空間が解除され、周囲の景色は、深夜の住宅地に戻った。
 ミドリは元通り、私服になっている。寝ぼけたような様子で、『おにいちゃん』の家の門柱から離れる。
 足取りはフラフラしているし、意識がはっきりしていない。でも、自宅の方に向かっているから、部屋を抜け出した後のことは、夢の中のこととされるだろう。
 明日がどんな日になるか。
 それは、ミドリしだいだが、説得の言葉が届いた以上、善きものであろう。
 確信しつつ、見送るケルベロスたちだった。
「のは、いいのですけど、何故に私たちは、裸のままなんです?」
 真理は、ライドキャリバーの陰に隠れて抗議する。
 言われて、エメラルドとルティアの女騎士は慌て始めた。誇りにする鎧がない。
 今更かなと、瑠奈は首をすくめ、ふわりとカフェは突っ立ったまま。
 すると、永代がコートを人数分用意していて、ササッと配ってくれたのである。
 蒼眞は、着るあいだも不安だろうと、バイオガスを軽くまいた。
 どうしたんだ、すけべコンビのはずが。と、依頼への同行を繰り返した幾人かの女子がいぶかしみながらも、素直にコートで裸身をつつむ。
 少女のことを思ったら、ちょっと、やさしい振る舞いがしたくなった。
 並んで立つ、見返り男子。
 イケメンの素地はある『おにいちゃん』たちなのだった。

作者:大丁 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年9月5日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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