夏の果てに抱く思い

作者:ほむらもやし

●夏の果て
 8月の最後の週末に行われる夏祭り。
 昼間には子どもたちのお神輿が街を回り、夕方からは花火大会。
 神社の境内にはたくさんの出店が並び、すもう大会や大声で叫ぶのど自慢大会のようなイベントもある。
 田舎ならどこにでもありそうな、代わり映えのしない夏祭りかも知れない。
 それでも。この土地に住む人にとっては、祭りの準備をするのも、イベントに参加して遊ぶのも、神社に足を運んで花火を見るだけでも、なんだか分からないけれど、秋に向かって良いことが起こりそうな、うきうきした気分になれる。
 つまり、この街では、夏を締めくくる大事な祭りだった。

「福井県の小浜市にある神殿。日本では神社というのね。――が正体不明のデウスエクスの襲撃を受けて困っているそうなの。今から向かうのだけど、良かったら、みんなの力を貸して貰えないかしら?」
 ロクサーヌ・ヤースミーン(メリュジーヌのブラックウィザード・en0319)は、自学で使っている、中学生向けの社会科地図帳を開いて、京都府と滋賀県の境目の北側あたりを指さした。
「人的被害はなかったらしいわ。ただ、神社に続く参道と石段が破壊されて、予定していた『夏祭り』というイベントが出来そうもないと、皆、がっかりしているそうなの」
 参道や石段の破壊は徹底されていて、ひどい地滑りを起こしたかのような有様。
 あちこちから泥水が流れていて重機も入れず、復旧作業の着手も出来ていない。
 しかし、ケルベロスがヒールを掛けに来れば状況は一挙に変わる。

「ケルベロスになってから、まだ日も浅いし、いろんなことをしてみたいわ。ヒールを掛けるだけで、人助けになる超簡単だし良いと思わない?」
 ここまで言うと、ロクサーヌは集まってきたケルベロスたちの顔をジーッと見つめた。
 参道と石段さえ通れるようになれば、そこを通って子どもたちがお神輿を運び、街をねり歩く。
 夕方からは花火大会。
 神社は小高い山の上にあるため、海上に上がる花火がとても良く見える。
 夜空に上がった花火が、漆黒の海面に、映る様子は夏を締めくくるには丁度良い思い出になるかも知れない。


■リプレイ

●ヒールの時間
「これはひどいです」
 華輪・灯(幻灯の鳥・e04881)は剥き出しになった赤土の斜面を見上げて眉をしかめた。
 大量の樹木の破片。そこに石材と泥が混じりこんでいて元の形が想像出来ないほど。
「ただの嫌がらせにしては、念を入れた壊し方よね」
 灯共に現場に足を踏み入れた、ジェミ・フロート(紅蓮の守護者・e20983)は応じながら、アイズフォンを発動する。ネットの上に残っていた神社の石段や参道の画像もすぐに見つかった。
「あった。もとはこんな感じの場所だったのね」
 ジェミはそう言うと、掌の上に被災前の画像を表示させる。
 石段はとても高い高校球児が足腰の鍛錬にも利用するらしい。
「なるほど。元の形を参考にすれば、幻想が入り込む余地が少なくなるのね」
 ロクサーヌ・ヤースミーン(メリュジーヌのブラックウィザード・en0319)は納得した顔をする。
「写真があると、やっぱりやりやすいよね」
「あまり難しく考えてもややこしいからのう。大抵はえいっとヒールを掛ければ大丈夫じゃろう?」
 端境・括(鎮守の二挺拳銃・e07288)は言う。
 あれこれ考えるよりも、少しでも早く神社の危機を救いたい――その気持ちの方が強いようだ。
「そうだな。始めるか。早く安心させてやろうぜ。皆、祭りを楽しみにしてるんだろ?」
 比良坂・陸也(化け狸・e28489)は獣人のスタイルのまま、ヒールを発動する。
 誰も手を着けられなかった瓦礫の周囲が光を帯びて華やいだ気配に包まれる。それを見て、不安な気持ちを抱いていた人たちから大歓声が上がる。
「大人にゃ悪戯、子供にゃお菓子。化け狸は子供にゃ甘く、大人には辛い。お前はどっちだ」
 創造されたお菓子が、色鮮やかな光の中に不規則に出現しする中、童話の世界の如き色彩が泥にまみれた瓦礫に伝播して命を宿されたか様に動き出す。
「ここから先は大変そうですが、がんばりましょう」
 バジル・ハーバルガーデン(薔薇庭園の守り人・e05462)が気合いを入れる。
 参道の先は跡形も無く破壊された石段のあった場所。赤土の斜面になっていて、足場を確保しながらのヒールはとても手間が掛かりそうだ。
「だいじょうぶ! 一挙に石段も直してゆきます!」
 灯は明るい声とともに四枚の羽根を羽ばたかせて、飛び上がる。
 陸也やバジルがヒールの届かなかった場所にヒールを掛け始める。
「承知したわ。私も上の方に掛けてゆくわね」
 灯のヒールの届かないさらに上方にはロクサーヌが向かう。
 だが足りない。濡れた赤土の斜面は不安定でヒール修復した部分が再び崩れそうに見える。
 そこに救いの手が続く。
「ヒール作業もにぎわっているようですね」
「ええ、おかげさまで」
 レフィナード・ルナティーク(黒翼・e39365)とグレイシア・ヴァーミリオン(永久の娯楽と堕落を望みし者・e24932)の声がしてヒールによる修復が上方に拡大して行く。
「いい調子だ。あと少し完成しそうだな」
「このスピードなら祭りのほうも大丈夫そうよね」
 グレイシア・ヴァーミリオン(永久の娯楽と堕落を望みし者・e24932)、次いで、リュシエンヌ・ウルヴェーラ(陽だまり・e61400)も空に飛び上がる。
 地上から見上げるのとは違う、緑の森と群青の海が見えた。修復された石段を登りながら、残された破壊の爪痕を癒してゆくケルベロスの仲間の様子は童話の一場面を思い起こさせる。
「もう終わったのか? すごい」
 空と陸からの立体的なヒールによって参道と石段は短時間かつ見事な出来栄えで修復される。
「おおきに。ケルベロスのみなさん! もう大丈夫です!」

●夏の残り香
 修復を見物していた人たち石段を上がって来て、偶々ちょうど石段を登り切った所にある鳥居にあたりに居た、キース・アシュクロフト(氷華繚乱・e36957)に感謝の言葉を掛けてくる。
「花火があまるまでには時間があるが……こんな雰囲気の祭りも久しぶりだ」
「そうだな、皆といっしょにヒールをすると言うのもいいものだね」
 気楽な甚平スタイルのグレイシアは、神社の奥に向かう子どもたちに掌を挙げて応じつつ目を細める。
「揃いの半纏ということはお神輿の担ぎ手でしょうか? お祭りらしくなってきましたね」
 レフィナードも浴衣姿である。ともに集まったキースとグレイシアも旅団「Ghost church」の友人だ。
 夏も終わりとは言っても陽射しは強い。海に向かって吹く風が、浴衣の透け感のある生地に当たって、団扇であおがれるような心地良さを感じさせる。
「……浴衣は日本に来てから偶に着ているが……少しは慣れてきただろうか」
 ゼノア・クロイツェル(死噛ミノ尻尾・e04597)は夕立を連想させる、灰地に白ストライプの浴衣姿だ。
 開口部が広く風がスースーと抜けるため落ち着かない気もするが、周りを見渡せば、浴衣や甚平、半纏姿の者が多かった。
「ゼノの浴衣も似合っているよね」
 ニュニル・ベルクローネス(ミスティックテラー・e09758)は嬉しそうに言う。そしてかけ声とともにお神輿を担ぐ子どもたちに向けて、携えたマルコ、ピンククマぐるみの腕を振って見送った。
 お神輿が街に行ってしまっても、ケルベロスが大勢来ているため神社を訪れる人はいつもよりも多い。
 その人出を当て込んで出店が次々と営業を始める。
「どうしたのですか?」
 バジルは神社の奥の方に行く道すがら、同じ出店の前を行ったり来たりしているロクサーヌに気がついた。
「みなさん、とても器用ですわ。動きも素晴らしいです」
「速いだけじゃなくて、形も同じって確かにすごいですよね」
 夏祭りがどういう行事かを知っている者には見慣れた光景でも、初めて見る者には全てが珍しいのは当然だ。
「たこ焼きは爪楊枝をこのように突き刺して、食べるのですよ」
「ありがとう。この細い棒を使うのですね。指でつまんで食べるのかと――」
 ロクサーヌは嬉しそうに目を見開いて、たこ焼きはひとくちで頬張るには熱すぎることも体験しながら、バジルと言葉を交わす。

「浴衣は気持ちがいいですね」
 久々に浴衣に袖を通したレフィナードにも、日暮れ時の肌に当たる風の心地よさを実感できた。
「やっぱり雰囲気出てくるね。りんご飴の赤色とかすごく赤く見えるな?」
 独りで来ていたらこんな気持ちにはならかっただろう。グレイシアは仲間と一緒に遊びに来ているという気持ちの高まりからか、興味の赴くままに歩き回り、そしてりんご飴が並ぶ屋台の前で足を止めた。
「大中小いろんなサイズがあるんだね」
「……! りんご飴……は定番だよな、皆で食べるか?」
 黄味を帯びた電球の光に照らされる、鮮烈すぎる強い赤色。
 キースはレフィナードとグレイシアの分もということで、好みで3本を買い求める。
「これは本当に食べ物とは思えない赤色だな……まるで石榴石だ」
 硝子のような艶をもつ表面はパリパリとしていて噛めばシャキッとした食感。りんご飴は当たり外れがあるとドキドキしていたグレイシアも納得の表情をしている。
 小腹が満たされれば、次は遊びたくなってくる。
 またしてもグレイシアが出店の前で立ち止まってジーッと中を見つめている。
「ん……射的か? なら、いくつとれるか勝負だな。別に大きさで競うでも良いが?」
「今度は勝負ですか? お手柔らかにお願いしますね」
 年格好が近いせいか張り合うグレイシアとキースに目を細めつつ、レフィナードは花火までの時間を確認する。
「FPSゲーで鍛えたオレの腕ナメてもらっちゃ困るよぉ」
「ならば俺は狙撃手の本領、見せてやるさ」
 なお此処の射的には当てても、まず落ちない景品が含まれている。
 つまり大物狙いに拘れば必ず負けるという罠がある。勝負はそれに気づけるかに掛かっている。

 祭りには途切れること無く人々がやってくる。そしてケルベロスと気づかれると一緒に写真を撮らせて下さいと何度も声を掛けられて、息をつく暇もない。
「写真、いいよ。折角だから、灯ちゃん、シアちゃんも一緒に写ろう」
「じゃあ私はわたがしとりんご飴も一緒に」
 初対面の人とも気さくに言葉を交わしているジェミがとても素敵に見える。
 同時に折角2人でお祭りに来たのだから、2人だけの時間も過ごしたい気がする。
「ところで、出店で食べる焼きそばやたこ焼きって、どうしてこんなおいしいのかしら。もしかして、可愛い子が一緒だからー?」
 心の内を覗かれたような気がしてドキリとする。
「え、なんですか? ……ふふふ、私の魅力のおかげだと。い、言いたいのでしょうか!」
 けれども、すぐに軽口と気がついて、脱力したふりをしつつも、ノリのよい言葉で応じる灯。
「そんなに美味しいなら食べてみたいです。私のりんご飴とわたがしも分けてあげますから」
 お金さえ払えば好きなだけ買うことは出来るが、好きな人に分けて貰ったものは特別な価値がある。それがおいしく感じる「どうして」の理由かも知れない。

「たこ焼きに焼きそば……フランクフルトにトウモロコシも食べるぞ」
 出店の飲食物の全制覇を狙わんばかりの勢いのゼノアはひそかに注目の的となっていた。
「そんなに買ってもボクはあんまり食べられないよ……?」
 赤い花柄に襟色が黒の華やかなミニ浴衣――似合っていると自信を持って選んできたのに、ゼノアは食べてばかり、食べることにしか関心が無いような気がして、何となくもやもやする。
「ふふっ、どう、似合うかな?」
 ピンククマぐるみのマルコを抱っこしたままくるりと一回転。電球の黄色っぽい光に照らされて、浴衣の花柄の赤色がいっそう鮮やかに見える。
「……ん? 祭りと言うのは屋台飯がメインではなかったか」
 邪気の無いきょとんとした表情のゼノ。ニュニルは彼の口の周囲にソースがついているのが気になってそれを拭ってあげる。
「そうだよね。ゼノは食べるのが大好きだよね。ボクも、少しずつ分けて貰おうかな」
 買い込んだものの中のひとつ、たこ焼きに手を伸ばし。
「……うん、おいし♪ 急がなくても大丈夫だよ」
 楽しみかた気持ちの表し方はそれぞれ。みんなどこか違っている。
 いろいろなことを分かち合って、お互いに分かりたいと思うから、分かりあえる。

●祭りの夜
 浴衣姿のケルベロスの情報がSNSで拡散したこともある神社には人がどんどん集まってくる。
 ウリル・ウルヴェーラ(黒霧・e61399)とリュシエンヌは、境内にある海の見える展望台を目指していた。
 展望台のほうにはお店も無く、灯りも少なめだ。そのためか此方まで来る人は少ない。
「あれ、今夜のルルは大人しいね?」
 ついこの間まではまだ明るい時間だった気もしたが、暗くなるのが早くなって来た印象だ。
「こっちのほうは人が少ないのね。もっと来ているかと思ったけれど」
 弱々しい外灯の光に夜の空を想像させるウリルの浴衣の模様が闇に瞬く本当の星のように、ベージュ色のパナマ帽が夜空に浮かぶ小舟のように見えて、そのオシャレさに、リュシエンヌはドキリとする。
「……で、うりるさん、浴衣姿とってもステキよ? 手、つないでもいいよね?」
「そう褒めてもらえれば嬉しい。ありがとう。ルルも浴衣が似合って可愛いよ」
「ありがとう」
 握った手の指先に少し力を込める。カッコイイ旦那さまとお似合いって思われたい。
 今日はお淑やかに行こうと決めた。
 展望台と出店が並んでいる場所はあまり離れていなかったが、周囲の静けさによってそれは実際の距離よりも遠くの出来事のように感じられる。

「広島焼き? まあいいか、おおきに」
 陸也の注文にお店の人の手が一瞬止まるが、すぐに広島風お好み焼きを差し出して来る。
 そこに別の出店に行っていた括が後ろから顔を出す。
「たい焼きを買ってきたのじゃ。お、広島風お好み焼きじゃのう。平凡な祭りと聞いておったが本当になんでも売っていて、すごいのう」
 各地の名物にはちょっと拘りのある括は感心したように言う。
「結構買い込んだな、飯はこんなもので良いか。食ったら金魚掬いだよな?」
 にこりと微笑みで返す括。鮭獲りで鍛えた腕を見せようと子どものような胸を張る。
 ただ人出も多くなってきているから、遊ぶなら早い方が良いかも知れない。

 金魚掬いの店はすぐに見つかったが、たくさんの人で賑わっていた。
「時間がかかりそうだな」
「そのようじゃな」
 陸也の呟きにと軽く頷いた括は赤い浴衣姿のジェミが挑戦しているのに気づく。
「よーし。シアちゃん、今度こそ金魚取ってあげるー!」
「おぬしらも金魚掬いにきておったのか?」
 脇には灯もいる。椿をあしらった浴衣が似合っている。そして近くにある破けたポイの数の多さを見て色々察した。
「うっ! 報われることを祈るのじゃ……」
 そう告げて、目線を逸らすと上機嫌のゼノアとニュニルが居た。
「……ん、やったね♪ ボクたちの戦果は上々だよ」
 ニュニルはクマぐるみを肩に乗せたまま、透明のビニール袋を掲げてみせる。
 中には水が入っており3匹の金魚が泳いでいる。
「こんなに小さいんじゃ観賞用だよ。……大きく育てないと可食部なんてほぼないよな……」
 そんなタイミングで、不穏な台詞をうやむやにするように、尺玉が連続して打ち上げられる。
 花火大会の開始だ。
 200メートルを超える尺玉が次々と開花する様は迫力があり花火大会の開始を告げる号砲に相応しかった。

 高台のベンチに腰を下ろして、海の方を見ていたウリルとリュシエンヌはその瞬間を確りと捉えていた。
 空の星とも街の灯りとも違う、大輪の光が広がって、少し間を置いて聞こえてくるポンという音。そして儚く散るように落下の軌跡を描きながら消えて行く中、新たな光が空に向かって昇って行く。
「うりるさんっ! 見て! たまやー!」
 上昇から開花までの時間は短い。
 感情のこもったテンションの高い声に、ウリルは両眼を見開く。
 瞬間、一際大きな尺玉が花開いて、光る雪が降っているのかと錯覚するような明るさが来る。
 立て続けに明滅する光の中に、大声をあげてしまったリュシエンヌの横顔が繊細な硝子細工のように照らし出されて、どこかで読んだお伽噺に出てくるお姫様を思い起こさせた。
「あはは、花火に負けないくらいの大声だったね。いいと思うよ、それで」
 ハレのイメージを演じるのも素晴らしいけれど、祭りの夜は自分らしく楽しまないともったいない。

 花火が始まると人の流れは変わり、展望台周辺は見晴らしのよさを求める人で賑やかになってくる。
「花火ってこんなに近くに見えるものなのか?」
 噴水のように迫って来る輝きが光る筋を曳きながら消えて行く。
 実際には離れた場所で打ち上げられていることぐらい理解している、レフィナード、共に並んで鑑賞しているグレイシアとキースにも、目の前で光が乱舞しているように錯覚する。
「こう、手を伸ばせば、触れそうなのに、触れないんだね……」
「花火は儚い幻だから美しい。だが違うものもあるだろう」
 海に映る光も降り注ぐように見える光も幻だが、光に照らし出されるグレイシアの横顔は、彼がそこに存在する証明だとキースは確信する。
「……いつ見ても、花火は美しいな……」
「夏の風物詩、ですね」
 終わり行く夏、3人の表情はどこまでも幸せそうだった。

 美しいものに触れてみたい。しかし触れれば手垢がつき、繊細さ故に壊れてしまうことも。美しいものは不可侵であると感じることもある。
 手をつないで散歩しながら、花火を楽しんでいるのは灯とジェミ。
 結局金魚は、不自然なほどに1匹も掬えなかった。わざと掬わなかったのかも知れない。
「いつか、消えるものにも……意味はあるよね」
 つい今まで楽しそうに笑っていたジェミの呟きに灯は驚いて、無言で空を見上げる。
 輝いていた花火が消えて、暗くなった空に、別の花火が上がって再び輝く。
 それが繰り返される。
「……きっと、いっぱい意味があったから、私とジェミさんが今、ここにいるんだと思います」
 灯はそう応じてから、ぎゅっと手を握り返す。
 2人が今、生きている場所には、過去に違う誰かが、いたのかも知れない。
 そしていつかは未来の誰かの居場所に変わるのだろう。

「様々な色が混じり合って、空に花畑が広がっているように見えますよ――いい思い出になります」
「私もそう思うわ。ここは本当にいいところよ」
 バジルはロクサーヌが古い人魚の石像の前で説明書きを読んでいるに気がついた。
「八百比丘尼の伝説ですか。不思議な話もあるのですね」
 そこに陸也と括が上機嫌で歩いてくる。
「おぬしら、何をしてるんじゃ?」
 わたあめを持った括の手首には淡く光るブレスネットがついている。
「括さん、それ綺麗ですね」
「うむ。いい勝負だったのじゃ」
 バジルの言葉に、子どものような笑みで応じる括。
「そちらの綺麗な笛のようなものは何ですの?」
「これはじゃな……」
 説明をしようとしたタイミングで、大きな尺玉に続いて、今度は噴水のように小さな花火が連続して爆ぜる。それはまさに夜の海から咲き上がる星々。
「……わぁ綺麗ですね」
 皆、しばし見つめてから、皆がいる展望台の方へと歩き出す。
 夏の果ての、素敵な時間はもうしばらく続きそうだ。

作者:ほむらもやし 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年9月17日
難度:易しい
参加:12人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 1
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