酷暑滅殺! 砕氷機婦人フラッペ!

作者:木乃

●ヤッパーリ・フラッペ・ガ・イーノ
 40℃に迫る、異常な酷暑に日本国民のほぼ全員が辟易していることだろう。
 バカでかい主語を用いても、否定できないレベルの熱気に、氷菓子の売れ行きも近年稀に見るレベル。
「らっしゃーい、氷屋さんの新鮮なカキ氷を用意したよー!」
 氷屋でも店頭にサンシェードをかけつつ、額に汗を流して涼をもとめる市民に、新鮮な氷を販売。
 午前中の販売を一旦切り上げると、自分も涼みに行こうと店主は店の奥へと引っ込む。

 ――その隙を見計らったかのように忍び寄る『金属粉のような鈍く光る胞子』
 胞子が電動砕氷器に潜りこむと、不自然なほどの大きく揺れ動く!
『――ヒョーッホッホッホッホ!!』
 カキ氷マシーンは、バラのように幾重にも重ねた氷雪のスカートを伸ばし、つららじみたピンヒールで大地に立つ。

●おのれ、ダモクレス!
「ふぅ、この暑さ……まさに殺人的ですわね。問題はそれにつけこんで攻めてくる勢力もいること、でしょうか」
 けだるげに溜め息をつきながらオリヴィア・シャゼル(貞淑なヘリオライダー・en0098)は(仕事中にもかかわらず)カキ氷をつつく。
 ジェミ・フロート(紅蓮の守護者・e20983)も、放熱ファン代わりに小型扇風機を向ける。
「それで、氷屋さんのすっごいカキ氷マシーンがダモクレス化したのよね?」
「そうですわ。店頭を離れたおかげで被害は出ておりませんが、このまま放置すれば、氷漬けにされた市民を砕いて、グラビティ・チェインに変換して回収するでしょう……どうもこれまでの家電ダモクレスとはすこし毛色が異なりましてよ」
 それを防ぐためにも「強奪を目論む怪人ダモクレスを撃破してほしいのですわ」とオリヴィアは要請する。

「名称は『ヤッパーリ・フラッペ・ガ・イーノ』としますわ。見た目は中世の女性貴族じみたシルエットでして、本体の氷砕器……カキ氷マシーンに申し訳程度の上半身と氷の重厚な葉っぱのスカートに、氷でできた細長いピンヒールをつけています」
 オリヴィアは「長いのでフラッペで構いません」というが、それだけでよかったのでは……というケルベロスの視線はスルーして。
「フラッペはスカートの一部を飛ばして動きを鈍らせますわ。さらに氷のピンヒールで相手の傷口を凍らせようとしたり、ピンヒールを飛ばして防具を脆くさせようとしますわよ」
 さしずめ、その足運びはバレリーナ。
 湖の上を踊るように、軽やかで優雅な舞踏によって翻弄してくるだろう。

「ねえ、さっき『すこし毛色が違う』って言ってたけど……どの辺が違うの?」
 これまでと大差ないように感じてジェミが質問すると、オリヴィアもようやく違いの説明を始める。
「どうもフラッペは『金属粉のような胞子に憑依された』ようですの、これまではダモクレスのコギトエルゴスムが取り憑いていたのですが……」
 それ以上は予知でもわからなかった、とオリヴィアは細い眉を垂れる。

 概要説明を終わろうとしたとき。
「やはりダモクレスか、いつ出発するのだ? 余も同行するぞ!」
 割り込んできたのはオリヴィエ・マクラクラン(タイタニアの妖精王・en0307)、話は聞いていたらしい。
「余も涼やかな風を堪能しながら快適に過ごす、異論は認めぬ!」
 いや、その格好で『快適に過ごす』のは無理でしょ。
 騒々しく乗り込んできた妖精王も乗せて、ケルベロス達は夏空の下をヘリオンで移動する。


参加者
機理原・真理(フォートレスガール・e08508)
ジェミ・フロート(紅蓮の守護者・e20983)
エマ・ブラン(ガジェットで吹き飛ばせ・e40314)
伊礼・慧子(花無き臺・e41144)
佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)
国東塔・蘭理(独り言の多いインキャ・e86421)

■リプレイ

●その通りでございます
 ヘリオンを飛び降りた瞬間、夏らしい蒸した空気が身を包んだ。
 アスファルトの熱気を避けて、ケルベロス達は公園の入口付近に降り立つ。
 それと同時に、上空からビームが照射され――新造されたばかりのヘリオンデバイスを装着。
「まったくもうー本当にひどい暑さ、酷暑滅殺!」
 水着にショートパンツ&タンクトップ姿のジェミ・フロート(紅蓮の守護者・e20983)はげんなり気分を吹き飛ばすように一喝。
 周囲を見渡す機理原・真理(フォートレスガール・e08508)は周辺住民に避難を呼びかけに行こうとするが、
「……歩道にも誰もいないのです」
「声かけはかえって不安にさせそうですね。しかし『機婦人』ってワードに知人を思い出すのですが、どのようなダモクレスなのでしょう?」
 人っ子ひとりいない様子に、伊礼・慧子(花無き臺・e41144)が殺界を発生させて人避けする。
(「コギトエルゴスムではない『なにか』……うむむ、新型の予感がします」)
 慧子の隣では、国東塔・蘭理(独り言の多いインキャ・e86421)が独り言を呟いていた。
「紫外線に被曝しても色素を蓄積不能な出来損ないの皮膚が呪わしいわ。このままじゃ赤く焼け爛れて醜い姿を晒す事に……え、お前にはお似合い?」
 ……彼女の名誉のためにいうと、無意識に口を突いて出ているものである。

 人払い中にエマ・ブラン(ガジェットで吹き飛ばせ・e40314)はゴッドサイトを試運転。
 白銀のブレストアーマーを輝かせた装いは、パレオ付きの水着にも見えるが、ヴァルキュリアの民族衣装だという。
「すごーい! この遠くにあるマーカーがフラッペで、すぐ近くのがみんな……」
 強化ゴーグル越しに映るビーコンも感度良好。
『非戦闘状態』に限られるが、索敵する際は強力なサポーターとなりそうだ。
 きょろきょろ見回していると、普段着のオリヴィエ・マクラクラン(タイタニアの妖精王・en0307)がエマの視界に入る。
「オリヴィエさん、夏服ないの? それともお洋服にこだわりがあるの?」
「……うむ」
「そうなの!? タイタニアの妖精王すごい!」
 そんな中、佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)は、考えこむオリヴィエの横顔をじーっと見つめていた。
 涼しげな目元、煌めく金髪と珠の肌……貴公子を思わす佇まいにレイの感想は、
(「オリヴィエさんって……(黙ってれば)イケメンよね!!」)
 誉め言葉になるかはさておき。
 熱視線を受けるオリヴィエは神妙な面持ちで口を開いた。
「もしや、外に出たほうが暑かったのでは?」
 Exactly。

●対決、砕氷機婦人!
『ヒョーッホッホッホ!』
 例の高笑いを聞きつけてみれば、アンバランスな機械婦人がヒールを鳴らして闊歩していた。
 上半身は砕氷機がほぼ剥きだし、下半身はその数十倍を誇る幾重にも重なった氷のスカートと鋭いピンヒールで占めている。
 見つけるや否や、エマはグラビティでロケットランチャーを作り出す。
「いっくよー、ファイアー!」
 白と黒のフィッシュテールスカートを揺らすエマが榴弾を放ち先制。
「プライド・ワン、行くですよ」
 つづけて真理がライドキャリバーのプライド・ワンとともに突撃、ミサイルを射出。
 炸裂する弾頭をくぐり抜けるジェミも水着姿となり、ジェットパックで勢いを付けた飛び蹴りをぶちかます。
「わお、ちょっと火力凄すぎなんじゃないかしら? オリヴィエさん回復お願いね!」
「心得た。では余は支援に回ろう」
 爽やかに宣言しているがこの妖精王、すでに汗だくである。
 プライド・ワンにグラフィティを施すオリヴィエらに、フラッペは軽快なフェッテから、
『ヒョッヒョッヒョー』
 スカートを構成する氷を遠心力でまき散らす!
 猛暑の中でも冷気を放つ氷塊に、真理達の手足が凍るより早くレイが爆風で吹き飛ばし鼓舞する。
「涼みたいけど痛いのは嫌だなー……でも、暑さにもデウスエクスにも負けてなんてやらないんだから!」
「上手く冷気だけ残せたらいいのですが」
 ステルスツリーで慧子が前衛を強化する中、蘭理がフラッペの背後に回り込もうとする。
 その間も脳内から語りかけてくる『親友』に、蘭理は卑屈な言葉を返す。
「どうして夏の青空って精神をダウンさせるの? ……え? これを満喫出来る陽キャの皆様への醜い嫉妬と吸血鬼設定で喜ぶ精神年齢の低さのコンボ? ……死にたい」
 ……どこまでも自虐がすぎる。
 くたびれたレザーブーツ状のデバイスで機動力の向上した蘭理に、前も後ろを関係ないとばかりに機婦人は氷柱を放つ。
 新たなヒールを生やすと、カカトを鳴らすフラッペは踊るように飛びかかり、ジェミ達と本格的に応戦し始めた。

 華麗な脚捌きのプリマが振りまく氷雪と、異常な熱気の温度差に汗が自然としたたる。
 肌に浮かぶ汗は玉となり、衣服や地べたに落ちていく。
 蒸し暑い世界の中、気温など意にも介さぬフラッペは立体的な機動をみせた。
『ヒョヒョーッ!』
「ここはお任せを!」
 ジェミの頭上に垂直落下してくる機婦人を、慧子のアームドアームが受け止める。
「『機婦人』と聞きましたが……呼称が同じだけ、のようですね」
 心なしか残念そうに呟き、バトルオーラの出力をあげて守りを固めた慧子は鋭く一閃。
 スカートの裾を斬り落とし、過剰放熱(オーバーヒート)を狙っていく。
「よーく狙いをつけて……てーっ!」
 砲撃モードの竜槌を担ぐエマはゴッドサイトのマーカーに合わせ、軽やかな足取りのフラッペに砲弾を撃ちこむ。
 動きを鈍らせるお返しに、遠心力で勢い付けたヒールをエマに飛ばす。
「見えたぞ、そこか!」
 射線上に割り込み、オリヴィエのヒダ襟はしっとりして、うなだれている。
 汗で張りつく髪にも構わず氷のピンヒールを受け止め、
「タイタニアの妖精王すごい! ディフェンダーの鑑!」
 ――その勇姿に感動するエマだが、動機はだいぶ不純である。
 果敢に挑む者が多い中、攻め手が思うように奮っていないのが蘭理。
 理力のグラビティのみを使用しているために、フラッペにクセが『見切られて』いたのだ。
「なんで動きが予測されてるみたいに当たらないの? ……そうね、私が卑劣で人の不幸を喜ぶような見下げ果てた存在だからよね」
 水晶の炎をすり抜け、サイコフォースで狙われた足場から飛び退き、フラッペは蘭理の頭上へと大きく跳躍。
「っ、早い!?」
「国東塔さん、伏せて!」
 蘭理に迫るフラッペを真理がデバイスで受け止める。
 無表情を保つ真理は攻性植物で絡めとると、主人の動きに呼応し、アクセルを過熱させたサーヴァントが追い打つ。
「狙うなら一石二鳥よね♪ いけいけー!」
 アシストに専念するレイは光の蝶を放ち、花びらのオーラに囲まれつつ前中衛を支援。
 レイから強化を受け、限界まで引き絞った戦斧をジェミがフラッペに叩きつけた――!
「バッキバキに砕いちゃうんだからーっ!」
 鋭い刃が食い込み、スカートは粉微塵となって地べたを跳ね転がる。
『ヒョ、ヒョホ……ッ!』
 ――隙間から細長いヒールが覗き、スカートの補充が序盤に比べて追いついていないことは明白だった。

「かなり消耗してきたようです、一気に押しきるのです」
「あ、わたしも涼みたいー!」
 真理はミサイルポッドから焼夷弾の弾幕を展開し、後方から入れ替わるようにエマがアイスピック代わりの細身剣で滅多刺す。
 小気味よい、氷の砕く音を響かせるエマを氷柱ごと蹴り飛ばし、そのままフラッペはスカートの氷片を飛び散らせていく。
「うまく冷気だけ残してヒールしちゃうんだからっ。あたしの実力なら楽勝ねっ……たぶん」
「むしろ余は動き回って暑くなってきた気がするのだが!?」
 練気でレイが治療する間に、氷を受けた前衛とオリヴィエは歌で凍結を引き剥がす。
「ちょこまかちょこまか……飲食店のゴミ捨て場に湧いてるゴキブリみたい」
 鬱屈とした表情をする蘭理は手にするオーブから暗黒魔法を解放。
 漆黒の鎖は濁流となって流れだし、広域にひろがる黒鎖がフラッペの細い足腰を絡めとっていく。
「冷気はたっぷり堪能させてもらったわ、あとは」
 拳を真っ赤に輝かせ、ジェミは重心を低くさせると、
「その中身――見せてもらうわよ!」
 重力を込めた掌底をスカート上に乗っかる、本体部分めがけて放つ!
 突き上げるように放たれた掌打に、フラッペの上体部分は大きく亀裂が走った。
『ヒョ、y、ヒ、ho、ョ……――』
 エラー音じみた高音をあげて、フラッペは霧のように夏風の中へ散っていく。
 真夏の大騒動はひとまずの収束を迎えた。

●深まる謎
 件の氷屋に向かうと、店先でカキ氷マシーンを探して慌てふためく店主の姿があった。
 慧子達が口頭でデウスエクス化したことを伝えると、旧式の手動カキ氷マシーンを引っぱり出してご馳走してくれることに。
「結局、『胞子』がなんなのか……よく解りませんでしたね」
「一緒に消えちゃったみたいだし、ほんとになんなのかしら?」
 店内で扇風機の前を陣取りつつ、カキ氷を突きながら先ほどの調査を慧子とジェミは振り返る。
 同様の事件は今後も増える可能性が高い、調査はもっとじっくり時間をかけてもいいのだろう。
 氷屋の近くを探していた蘭理も調査を終えて、店内に入ってきた。
「……この近くにもなかったわ。アスファルトで焼けたカエルくらいしか見当たらなかった」
 地の底から這い出したような溜め息をついて、蘭理はその脚で店の隅に座る。

「ねえねえオリヴィエさん、銀河級美少女の作ったカキ氷どうどう?」
「美味しいよ。しかし、レイ嬢のカキ氷はすごい色合いだね……?」
「えへへー、シロップ全部がけよっ!」
 真っ黒シロップのカキ氷を頬張るレイにオリヴィエは目を丸くさせた。
「なんで暑い日のカキ氷ってこんなにおいしいんだろうねー」
 シャリシャリと氷を頬張り、エマが素朴な疑問を口にする。
 ひんやりした喉越しを堪能していると、店先にカキ氷を求めてやってきたチビッコ達の姿が。
「店長さん、お客様が来たですよ」
 新しい氷を用意していた店主を真理が呼ぶと、再び氷を削りだす音が聞こえてくる。
 ガリガリガリガリ……涼しい音を堪能しながら、イチゴ味のカキ氷を口に運ぶ。

作者:木乃 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年8月31日
難度:普通
参加:6人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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