かき氷の弾幕シャワー!

作者:星野ユキヒロ


●かき氷機の目覚め
 夏。日差し煌めく千葉県の砂浜に、解放されていない日なのか今日は人の姿はない。そんな閑散とした浜辺にぽつんとたたずむ海の家に置いてあるのは電気かき氷機。まぶしいほどに青い空の中を、その機械に向けて金属の粉のようなキラキラと輝くものが飛来してきた。獲物を探す捕食者のように不自然に近寄ってきた輝くものがかき氷機を包むと、すごい速さで成長するツタ植物が機械のボディを這い上りその形を変えていく。
『ガリガリ、ガリガリ~!!』
 植物は寄り集まり、太くたくましいかき氷機の足として機能し始めた。かき氷機は移動手段を持ち、奇妙な鳴き声を上げながら歩き始める。

●攻性植物系かき氷機ダモクレス討伐作戦
「かき氷機のダモクレスが千葉の浜辺で動き出すようヨ」
 ヘリポートにケルベロス達を集めたクロード・ウォン(シャドウエルフのヘリオライダー・en0291)が今回の事件の概要を話す。
「前からこなしてきた廃棄家電事件とはちょっと毛色が違うネ。攻性植物の胞子が現役の機械に取りついて変化させているヨ。幸いまだ被害は出てないのコトだけど、放っておいてみすみす多くの人々に危害を加えさせるわけにはいかないし、その前に現場に向かって撃破してほしいアル」

●攻性植物系かき氷機ダモクレスのはなし
「このダモクレスは寄生した植物が足となって歩き回るダモクレスに変化しているアル。攻撃の仕方は、削った氷をこちらに向けて浴びせかけてくるようなスタイルになってるようヨ。寒くなったり、服がびしょびしょに濡れたりする可能性が高いから、服が透けるのが心配なら中に水着でも着てくのがお勧めアルネ。浜辺は開放してない日アルから、一般人の避難にもそれほど気を配らなくても大丈夫ヨ」
 クロードは手持ちの端末で航空写真を見せてくる。確かに一番近くの店がそこそこ遠いので間違ってきた人もそこで開いていないことを知るだろう。

●クロードの所見
「この事件、ユグドラシル・ウォーで逃げ延びたダモクレスの勢力によるものってことも考えられるヨ。そうだったら手掛かりを逃す手はないアル。張り切ってやってきチャイナ!」
 立ち去りかけたクロードが「あ、そうそう」と振り返る。
「ヘリオンデバイスが使えるカラ、使ってみるのも一興ネ……『加油!』」
 クロードが指を鳴らすと呼応するかようにヘリオンが光を放ち、ケルベロス達を照らし出した。


参加者
源・那岐(疾風の舞姫・e01215)
マイヤ・マルヴァレフ(オラトリオのブレイズキャリバー・e18289)
グレイシア・ヴァーミリオン(永久の娯楽と堕落を望みし者・e24932)
キース・アシュクロフト(氷華繚乱・e36957)
ウリル・ウルヴェーラ(黒霧・e61399)
リュシエンヌ・ウルヴェーラ(陽だまり・e61400)
佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)
メロゥ・ジョーカー(君の切り札・e86450)

■リプレイ

●無人の浜辺で
 太陽がギラギラと照り付ける浜辺、ゆらゆらと足元を陽炎でゆらめかせてケルベロス達が到着した。
「暑い……残暑、というやつか。日本は何だってこう暑いんだ……既にこの場で熱中症ではないのか……汗もひどい」
 だらだらと汗を流しているのはキース・アシュクロフト(氷華繚乱・e36957)。白シャツとハーフパンツ型の水着というビーチスタイルとはいえ、ホッキョクギツネの彼にはこの暑さは辛いだろう。
「最近物凄く暑いですからねえ、ああ、お耳の裏から熱気が……」
 そんなキースの耳の後ろをぱたぱたとあおいでやっているのは源・那岐(疾風の舞姫・e01215)。服の下に着こんでいるホルターネックの青い水着が首元からチラ見えしている。
「んー……あっついねぇ……お仕事だからちゃんとこなすけど――こう暑いとねぇ……ダモクレス、ちゃんと氷で涼ませてよねぇ?」
 扇がれている相棒を横目で見ながらグレイシア・ヴァーミリオン(永久の娯楽と堕落を望みし者・e24932)もサーフパンツの上に着たパーカーの袖を肩口まで捲って暑さを逃がした。
「毎日暑くていやになっちゃうの。そんな時にかき氷機に取り憑くなんてヒンヤリしてありがた……じゃなくて、しっかり倒すのよ!」
「ほんとうに毎日暑くて溶けそうだった……涼しくなれるならある意味大歓迎ではあるね」
 サーヴァントのムスターシュをにゃんにゃんとあやしながら言うリュシエンヌ・ウルヴェーラ(陽だまり・e61400)の服の下の黒レースの水着が、これまた黒のサーフパンツのウリル・ウルヴェーラ(黒霧・e61399)は気になる。最愛の妻の水着がダモクレスの攻撃で透けすぎやしないだろうか。
「中に水着を着込んでいるからこれで濡れても平気……なのはいいんだけれどこの浜辺暑いなぁ! なんかそもそもの僕の服装が根本的に間違っている気がするぞぉ!!」
 暑い中、メロゥ・ジョーカー(君の切り札・e86450)の装いはタキシードにシルクハット、伝統的マジシャンスタイルで全くぶれない。
「問題! 涼しい思いをしながら濡れても問題のない服っていうのは? なーんだ、つまり水着のことね♪ ばっちり着てるからいくらでも大歓迎!」
 佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)は水辺のアルバイト制服に、金髪ツインテをキラキラと揺らし今日も元気いっぱいだ。
「夏っぽい事したーい、ね、ラーシュ! 太陽!海!かき氷! 冷え冷えダモクレスはどんと来い!」
 これまたしっかり水着を着てきたマイヤ・マルヴァレフ(オラトリオのブレイズキャリバー・e18289)がサーヴァントのラーシュと輝く浜辺を走っていくと、やがて件の海の家が見えた。

●うごくかき氷機
『ガリガリガリガリ!!』
 煌めく浜辺にそのダモクレスはたたずんでいた。
「かき氷は凄く食べたいですが、氷の弾幕は流石に一般人に被害が出ますよね。何とかしましょう」
 ゾディアックソード、貫く赫灼のアンタレスで那岐の描いた守護星座が前衛を守る。
「あちこちいかないように足止めしておくよ! ラーシュもよろしくね!」
 マイヤが流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りで先制攻撃! ラーシュはマイヤに属性をインストールする。
『ガリガリガリ~!!』
 かき氷機ダモクレスはおかしな鳴き声をあげるとマイヤに向けてキンキンのシャワーを浴びせかける。
「おっと! つめたい!」
 颯爽と立ちはだかったメロウのタキシードに、冷水シャワーが直撃した。
「さすがに冷たそうだ、しっかり涼むためにも気を抜かない程度に楽しませてもらおうか、『もう戻れない』」
 ウリルの声と共に暗闇が横たわり、虚無の淵から次々と出てきた黒い手がダモクレスを追い立てる。
「急に冷たいの浴びると心臓がびっくりしちゃうから……ね」
 リュシエンヌがまた、ケルベロスチェイン、Lierreで守護魔方陣を描いて中衛を守った。ムスターシュが清浄の翼でメロウを回復する。
「濡れようが透けようがお構いなし。だって俺男だから~、こう言う時楽でいいよねぇ」
 それを横目で見ながらグレイシアもまた後衛に守護星座の加護を撒く。
「ヘリオンデバイス、クロードのヘリオンの時は『加油!』って言うのかしら! パワーアップな便利アイテムとして使うわ! ン、弓の引き金ってどこにあるの?」
 クラッシャーのレイはジェットパッカー型のデバイスを装着した状態で元気よく叫ぶ。多少迷ったがそのまま妖精弓につがえた矢を放って追尾させた。
「僕のデバイスはこれか、体力の底上げを忘れずにね」
 ディフェンダーのメロウは巨大機械腕型のデバイスを装着している。尋常ならざる美貌の呪いで相手の動きを止める。
「まずは足止め、道理だな」
 暑がっているキースだが、初手は落ち着いてスターゲイザーでの足止めにかかった。
 一度の冷水シャワーではまだ暑さは落ち着かず、陽炎はゆらゆらとゆらめいている。戦いは始まったばかりだ。

●氷結スプラッシュ
「こう暑くては戦闘に支障の出ない範囲なら濡れるのもまた乙なものです」
 那岐は銀の髪を水しぶきのようにひらめかせ、相手を侵食する影の弾丸を放つ。
「水着を着たから濡れてもバッチリ!」
 マイヤがガネーシャパズル、Triangulumから竜をかたどった稲妻を解き放った。ラーシュもタックルで援護する。
『ガリッ!! ガリガリガリッ!!!!』
 鳴き声と共にガリガリと何かを削る音を立てていたダモクレスが急にケルベロス達に向けて削った氷をぶちまけてきた。それは前衛にいたレイに向かって噴出されたが、後衛のリュシエンヌが放った時空凍結弾が氷の噴霧を再び凍結させ、四方に飛ばした。
「うりるさん!かき氷降ってきたのっ!」
「シロップでも持ってくればよかったな」
 輪を飛ばすムスターシュを尻目にウリルは何の味がいい? などと二重に甘い言葉を妻と交わして戦線に戻る。そして足止めのスターゲイザーを重ね掛けした。
「ああ~、あっついあっつい……ほらほらぁ、氷を追加してあげるからちゃんとかき氷作りなよぉ」
 夫婦の熱に当てられて額の汗をぬぐうグレイシアがゾディアックソードに宿すのは氷の星座みずがめ座。そのオーラは氷の効果を宿しダモクレスに飛ぶ。
「倒すのは……じゅーぶん涼んでからね♪ いくわよートルネード投法!!」
 氷に巻かれたダモクレスに向けて、空高く舞い上がったレイが懐から取り出したデリンジャーをぽいぽいと投げる。霜が降りているかき氷機にカンカンとあたり地味に痛そうなダメージを与えた。
「暑さの限界だブリザード起こすぞ異論は認めん!! 咲き誇れ氷華ァア!!」
 キースもまた愛の熱さに当てられており、半ばやけくそのように叫ぶと高速回転する氷結輪から冷気の嵐を噴出させて熱を反射する砂浜ごと敵を凍り付かせる。
「さぁさぁご注目あれ、今日も楽しい手品の時間だよ。お代は見てのお帰りだけれど――見たのなら、無事には帰れないかもね」
 灼熱の砂浜にキラキラと輝く氷片の中踊るマジシャンは真夏の幻影のよう。ダモクレスへ投げた一枚のトランプは、メロウが指を鳴らすと蜃気楼のごとく掻き消え、敵の脚部を貫きながら再び出現する。
 キラキラ、キラキラと。戦いは浜辺を煌めかせながらまだまだ続く。

●暑さ寒さも
 激しい攻防戦が続いた。太陽は空の頂点へと昇りさんさんと照り付け、吹き上がる氷はケルベロス達の頭上に降り注ぎ、全員の服をびっしょびしょに濡らして水着を透かせた。
「さて披露するのは我が戦舞が一つ……逃がしませんよ!!」
 那岐の舞に無数の朱色の風の刃が敵を襲い、その動きを鈍らせる。
「もっともっとだよ! 上を向いて、きっと願いは叶うから」
 マイヤが空を仰ぐと、晴れた昼間の空なのにキラキラ輝く流星が、星の群れが、空を満たして眩く映す。かき氷機ダモクレスのボディにかかっていた効果がずしりと重みを増してのしかかった。
『ガリガリガリガリ……ガリガリ!!!』
 ラーシュの追撃を受けながら足を曲げ縮ませ、一気に氷の飛沫を解き放つダモクレス。なりふり構わない攻撃は後衛のキースに向かって飛んでいく。前衛のディフェンダーがかばう間もなく直撃した!
「ぐあぁっ!!」
 白シャツをバキバキに凍らせて吹っ飛ぶキース。
「欲しいのかぁお前、ええ? オレ特性の氷でギンギンにしたこの冷たぁ~いヒールが欲しいんだろォ? あっはァ~~♪ しょうがねえなあ、ほぉーらご褒美だァ!」
 相棒の負傷で急にスイッチが入ったグレイシアが言葉責めと共にキースの凍傷を癒す。
「……グレイシア……お前の冷気だったら俺っ……(BS治って)イけそうだ……!!」
「キース…暑さで頭変になった? 大丈夫? 引くわ」
「俺だけ滑ったみたいじゃないか!!」
「ゴメン、ゴメン。面白かったよぉ」
 寸劇のようなものを繰り広げながら二人は戦闘に舞い戻る。
「何をやってるんだあそこは……」
 自分たちもたいがいいちゃいちゃとしていたのだが自覚のないウリルはあきれたように呟くと、エクスカリバール、Rafaleを投げ、攻撃した。
「こんなにまぶしい砂浜で氷遊び、はしゃぎたくなってもしかたないの、でももう動かないで……あらら、私も滑っちゃったかも。お願いムスターシュ」
 リュシエンヌはそうフォローすると煌めく粒子で敵を縫い留めようとしたが、外してしまう。よし来たとばかりにムスターシュがフォローした。
「まあ俺もいつもふざけてるわけじゃないさ」
 すっかり回復したキースが氷の結晶と星屑を蹴り上げて飛ばす。その威力はおふざけではすまない。
「冷え冷えの金属、直接触ったら冷たいやけどをしそうなものだけどねえ」
 メロウが尋常ならざる怪力によって、敵の肉体を素手で引き裂き、溢れた生命エネルギーを啜った。引き裂かれたダモクレスの外殻から内部があらわになる。
「ふっふーん、そっちが冷水弾幕シャワーならこっちは塗料のシャワーよ! 超Popでサイケに塗装してあげる。あたしのセンスの虜にしてあげるんだから!」
 レイのペイントラッシュが飛び散り、かき氷機をビビッドでサイケに塗り替える。毒々しい塗料が中枢機械のいけないところに浸み込んで……取りついている植物も無事ではない!
『ガガ……ガリガリ……ピ』
 停止したダモクレスの周りにまき散らされたかき氷の山にサイケな塗料。それはまるで悪夢のフラッペのようで。
 やがて、戦闘中は耳に入らなかった蝉の声がケルベロス達にも聞こえてきた。敵は沈黙したのだ。
 戦いは終わった!

●真夏のひとひら
 あれぇ、ここめっちゃ濡れてんじゃん。なんでぇ?
 ケルベロス達がヒールやクリーニングを終えて一息ついていると、レジャーの一般人たちがどやどやと浜辺に入ってきた。どうやら無事が確認されたので急遽営業することになったようだ。
「そういうことなら海を満喫したいわね。イケメンも……いっぱいいるし、ふへへ。これは目の保養になりそぅ。このためにお仕事頑張ったんだもん。Let'tイケメンうぉっちんぐーーー!! うはー濡れるお体、さいっこぅね。でもカップルの邪魔はしないわよー!生ものには触れないのがあたしの鉄則っ」
「……あ、やっぱり暑いね、ダメな暑さだね。いろいろ種もあるから服は脱ぎたくなかったけれど、仕方ない……少し水着で過ごしていこうか」
 レイとメロウはばっと鮮やかに水着になると、浜辺を歩いていく。幼さをほのかに残しながらも健康でしなやかな肢体のまぶしさは夏すらも目を覆いそうだ。
「戦ってすぐはあんなに冷えたのにあっという間に暑いな。オレの冷気を潮風に飛ばすぜ。どうだ?」
「ああ、涼しいな。このまま風に吹かれて帰るか」
 グレイシアとキースは冷気を含んだ風に吹かれて帰路についた。
「せっかくなので泳いでいきたいですね。水着も着てるし」
 青いビキニになった那岐は美しさに目を奪われる男たちの視線もなんのその、異様に綺麗なクロールで沖へ泳いでいった。
「ムスターシュもぺそぺそになってるな。良く拭かないと風邪をひいてしまう。ルルも体が冷えすぎてない?」
「うりるさんの髪を先に拭かなくちゃ! ルルの大好きなお務めなの」
 ウリルとリュシエンヌはお互いを気遣い合い、あったかいタオルでくるみあっていた。
 そんな仲間たちを見渡しながら。
「ラーシュ楽しかったね! 楽しかったね! まだまだ暑いけど、頑張れる気がする」
 相棒をタオルで包んで、マイヤは今日という日を振り返り喜ぶのだった。

作者:星野ユキヒロ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年8月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。