罪人、ソースの匂いに誘われて?

作者:神無月シュン

 暑い日が続き、今日も浜辺にはたくさんの海水浴客が訪れていた。
「いらっしゃい」
「おにーさん、焼きそば一つ」
「はいよ」
 海の家から香るソースの焦げる匂いに、食欲を刺激され買いに訪れる人が後を絶たない。
 そこへ地響きと共に身長3mもあるエインヘリアルが姿を現した。
 エインヘリアルもまたソースの匂いに誘われた……訳ではなく、狙いは海の家に集まった人の方。
 エインヘリアルがオーラを纏った拳を振るうと、瞬く間に人々が薙ぎ払われ砂浜に血だまりを作っていく。
「ウオオオオオオオオオオオオオオオォ!」
 叫びをあげ、まだ足りないとエインヘリアルは次の海の家へと向かって歩きだした。


 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)から知らせを受け、霧矢・朱音(医療機兵・e86105)たちは急ぎ会議室へと集まった。
「朱音さんの予測通り、エインヘリアルの虐殺事件が予知されました」
「やはり、きましたわね」
 このエインヘリアルは、過去にアスガルドで重罪を犯した凶悪犯罪者で、放置すれば多くの人々の命が無残に奪われるばかりか、人々に恐怖と憎悪をもたらし、地球で活動するエインヘリアルの定命化を遅らせることも考えられる。
「あまり時間はありません。急ぎ現場に向かい、このエインヘリアルの撃破をお願いします」

 現場の浜辺には、たくさんの海水浴客が訪れていて、エインヘリアルの現れる海の家にも大勢の客が集まっている。
「地面が砂の為、避難させるにしても思う様に走れず避難に時間がかかることが予想されます。避難を上手く進める方法か避難中のエインヘリアルを足止めする方法、どちらかを考える必要がありそうです」
 出現するエインヘリアルは1体のみで、使い捨ての戦力として送り込まれているため、戦闘で不利な状況になっても撤退することはない。
「このエインヘリアルは自身にオーラを纏い攻撃を繰り出してきます。それと、どうやら理性を失っているらしく、こちらの言葉は届きません」
 そうなると、挑発による誘導は期待できない。そのことを踏まえて作戦を考える必要がありそうだ。

「折角海に行くのですから、無事に事件を解決したら、海水浴を楽しんでくるのもいいでしょう」


参加者
ルピナス・ミラ(黒星と闇花・e07184)
天月・悠姫(導きの月夜・e67360)
シルフィア・フレイ(黒き閃光・e85488)
佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)
霧矢・朱音(医療機兵・e86105)
 

■リプレイ


 肌を刺す様な日差しの中、暑さを忘れようと海辺ではしゃぐ人々の声が聞こえる。
「うわーっ! 人がいっぱいねーっ」
 余りの人の多さに佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)が驚きの声をあげる。
 海水浴客を羨ましそうに眺めるケルベロスたち。しかし今は海で遊ぶ余裕はない。
「私が危惧していた通り、エインヘリアルが現れるみたいだね。こんなところで、誰一人として死者を出させる訳にはいかないわ」
 霧矢・朱音(医療機兵・e86105)が呟く通り、遊ぶよりも先にエインヘリアルの襲撃に備えなければならない。
「海の家といえば焼きそばが定番ですよね。ですけど、その香りに殺意まで持ち込まれては迷惑ですし、エインヘリアルはさっさと倒しましょう」
「ソースの香りに誘われるのは構わないけど、そこで殺戮を行うのは、放ってはおけないわね」
 漂ってくるソースの香りに釣られ海の家の前に並ぶ人たちを見つめ、気合を入れるルピナス・ミラ(黒星と闇花・e07184)とシルフィア・フレイ(黒き閃光・e85488)の2人。
「折角、海に来たんだから楽しまないとね。一般人を死なせて、悲しい思いはしたくないし」
 遊ぶのは事件を解決してからね、と自身に言い聞かせるように天月・悠姫(導きの月夜・e67360)は目を瞑った。

 ライフセーバーの気分で海水浴客を眺めて数分、海の家の裏手からエインヘリアルが姿を現した。
 真っ先に動き出したのはレイだった。
「みんな落ち着いて退避よーっ」
 エインヘリアルの元へと走りながら、すれ違う海水浴客たちに『割り込みヴォイス』を使って避難を呼びかけていく。
「避難の方は任せたわ」
「私たちはエインヘリアルの足止めへ向かうわね」
 そう言い残し、レイを追って悠姫と朱音が駆け出していく。
「任せて」
「さぁ、私たちも避難誘導を始めよう」
 3人の背中を見送り、ルピナスとシルフィアは避難誘導に動き始めた。
 焦れば焦る程、砂に足を取られ思う様に前に進めない。それによって早く避難しなければと更に焦る。
「安心してください。わたくしたちが必ず守ります。ですから、落ち着いて歩いてください」
 焦りの悪循環を断ち切る様に『隣人力』を使ってルピナスが皆に声をかける。その言葉に勇気付けられ、徐々に皆から焦りが消えていった。
 その様子に安心したルピナスは、避難が遅れていた老人を背負い避難所へと運んでいった。
「わーんっ!」
「あらら、どうしたのかな?」
 泣き出していた女の子を見つけ声をかけるシルフィア。
 どうやら避難の最中に両親とはぐれてしまったらしい。泣き続ける女の子にシルフィアは頭を撫でながら話しかける。
「君はお馬さんって好きかな?」
「ぐすっ……うん」
「そっか、それじゃあ特別にお姉さんに乗せてあげよう」
「あっ……お馬さん……」
 ようやく泣き止んだ女の子はシルフィアの下半身――黒い馬の身体を見て声をもらす。
「よいしょっと、大丈夫だよすぐお母さんたちの所に連れて行ってあげるからね」
 シルフィアは女の子を抱き上げ、自分の背中へと乗せると避難所へと走り出した。
「ありがとう。馬のお姉ちゃん」
 シルフィアは女の子を無事に両親の元へと送り届け、女の子へ手を振ると避難途中の人々の元へと戻っていった。


 海水浴客の避難が始まった頃、エインヘリアルの前に3人のケルベロスたちが立ち塞がっていた。
「ここは通行止めよ。誰一人として殺させるわけにはいかないわ」
 そう言って武器を構える朱音。
「ウオオオオオオオオオオオオオオオォ!」
 雄たけびをあげ邪魔だと睨みつけるエインヘリアル。
「理性を失っているみたいだから何を言っても無駄みたいね」
 無表情でエインヘリアルを見つめ悠姫が呟く。
 こちらの言葉を理解できたならば、挑発して注意を逸らすことも出来たかもしれない。それが通じないというのなら出来る事は一つ。
 攻撃をもってエインヘリアルをこの場に釘付けにする。悠姫、レイ、朱音の3人はエインヘリアルとの戦闘を開始した。
「簡単には通してあげないんだからっ」
 無視して通り抜けようとするエインヘリアルの足に、レイの槍が突き刺さる。
 痛みに顔をゆがめながらエインヘリアルの放った拳がレイを吹き飛ばす。
「霊弾よ、敵の動きを止めなさい!」
 悠姫が圧縮したエクトプラズムをエインヘリアル目掛けて撃ち出す。
「光の城壁よ、仲間を護る力となれ!」
 その間に朱音がレイの治療を行っていた。
「いたたー」
「大丈夫?」
「これくらいへーきよ」
 レイは立ち上がると光の翼を暴走させ、全身を光に変えエインヘリアルへと突撃する。
「魔導石化弾よ、その身を石化させてあげるわ!」
 悠姫がガジェット『不思議なポケット』を拳銃形態へと変形させ魔導石化弾を放つのと、エインヘリアルがオーラの弾丸を放ったのは、ほぼ同時だった。
 弾は空中で交差。魔導石化弾はエインヘリアルの肩へと命中し、オーラの弾丸は悠姫の腕へと喰らいついた。
「オオオオッ!?」
「うぐっ!」
「すぐに治療するわ」
 朱音が悠姫の元へと駆け寄ると、すぐに回復行動に移る。

 戦闘開始から5分。守りの要である2人の不在で、エインヘリアルの火力に押され始めていた。
 それでも悠姫、レイ、朱音の3人は攻撃の手を緩めずに、エインヘリアルと戦い続ける。ここで稼ぐ1分1秒が多くの命を救うのだと。
 戦いが続く中、遠くから声が聞こえてくる。
「遅くなりました」
「避難は無事終わったよ」
 それは、待ちに待った仲間の声だった。


 ケルベロスたちが合流を果たし、形勢逆転……とまではいかず戦況は五分といった所。
「その身を内部から破壊してあげますよ!」
 ルピナスは螺旋を籠めた掌でエインヘリアルに触れ、内部破壊を試みる。
「あんたは素手みたいだけど、こっちは銃でもなんでも使わせてもらうわよ!」
 レイはバスターライフルを構え、凍結光線を発射。エインヘリアルは光線を浴びた個所から凍り付いていく。
「あなたに届け、金縛りの歌声よ」
 シルフィアの歌声が呪いとなって、エインヘリアルを襲う。
 歌声を不快に感じたエインヘリアルは、シルフィア目掛けて拳を振り下ろした。
「光の城壁よ、仲間を護る力となれ!」
 けん制に悠姫が銃弾を放ち、その隙に朱音は最前線に光の城壁を出現させた。
 攻防を繰り返すケルベロスたち。攻撃をされては回復し、互いにダメージは蓄積していく。そんな中、不意にチャンスが訪れた。エインヘリアルの体が痺れ、動きを止めたのだ。
 その隙を逃さないと、ケルベロスたちは総攻撃を開始した。
「無限の剣よ、我が意思に従い、敵を切り刻みなさい!」
 ルピナスが詠唱し現れたのは無数のエナジーの剣。ルピナスの意思に呼応し、無数の剣はエインヘリアルの体を切り刻んでいく。
「いくわよートルネード投法!!」
 レイは空高くへと舞い上がると、懐から取り出したデリンジャーを振りかぶってエインヘリアルへと投げつけた。
「パズルに潜むドラゴンよ、その魔力を開放せよ!」
 シルフィアの掲げるガネーシャパズル『トリックチェイン』から、竜を象った稲妻が放たれると、竜は一度上空へと飛び上がると急降下でエインヘリアルの頭上から襲い掛かった。
「わたしの狙撃からは、逃れられないわよ!」
 形状変化させた『不思議なポケット』を構え悠姫が引き金を引く。放たれた弾丸は真っ直ぐエインヘリアルの額を撃ち抜いた。
「オオオ……オ……」
「周囲の地面ごと、貴方を叩き潰してあげるわ!」
 泡を吹きながら倒れるエインヘリアル。そこへ目掛けて朱音が飛びかかった。振り下ろされた強靭な腕はエインヘリアルと共に周囲の地面をも叩き潰す。
 その一撃を最後に、エインヘリアルは二度と起き上がることは無かった。


 戦いが終わり、ルピナスは周囲の傷跡を修復していく。
「エインヘリアルは倒したから、もう大丈夫よ」
「安心して海水浴を楽しんでね」
 シルフィアと朱音が避難所で事件の解決を告げると、浜辺や海の家に活気が戻ってくる。
 折角海まで来たのだ。このまま帰ったのでは勿体ない。水着へと着替えたケルベロスたちは海水浴を楽しむことにした。
「こういう暑い日に海水浴をするのって、気持ちいいですね」
 ルピナスは波に身をまかせ海を漂っていた。
「折角の海だから、皆で楽しもうね。普段は暑い日が続くから、こういう涼しい場所も嬉しいわね」
「海水浴はあまり行ったことが無かったけど、折角だから楽しみたいわね」
 悠姫と朱音は何をして遊ぼうか相談を始める。
「わぁー、水が冷たくて気持ちいいね!」
 皆で遊ぶため、下半身を馬形態から人形態へ変えたシルフィアは気持ちよさそうに海に足をつけていた。
「いざ海水浴……じゃなくて海の家で食べまくるわ♪」
 皆が海で遊んでいる中、レイは一人海の家へと足を運んでいた。
「焼きそば、かき氷、イカ焼き……それと丼物も何かないかな」
 お品書きと睨めっこしながら、注文するものを選んでいく。
「これでイケメンも居たら最高なんだけど……そうだっイケメンください」
「はい、ラーメンおまち」
 イケメンの代わりに出されたラーメンに納得いかないと愚痴をこぼしつつ麺をすするレイ。
「こっちにいたのね」
 レイ以外の4人も休憩にと海の家へと集まる。
「わたくしは焼きそばで」
「私も焼きそばで。ここに来た時からソースの香りがしてて、我慢するの辛かったよ」
「わたしも焼きそばにしようかな」
 店先で焼いている焼きそばの香りに抗えずに皆焼きそばを注文して食べる。
 そしてデザートにはかき氷。
「うう……キーンとする」
 アイスクリーム頭痛に悩まされながら皆で食べるかき氷は、何だか特別な感じがした。
 皆が食事を終えると海の家を後にし、浜辺の方へと移動。何をして遊ぼうかと話し始める。
 結果、意見は分かれそれならば全部やってしまおうと、ビーチバレーをしたりサンドアートに挑戦したりと、ケルベロスたちは思いつく限りの遊びで海を満喫したのだった。

作者:神無月シュン 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年8月24日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。