早朝に開幕! エクストリームスイカ割り!

作者:星垣えん

●えくすとりーむ
 南国の風が香る、早朝の砂浜。
 溢れ出るサマー感が訪れる者を昂揚させるそこで、一羽の鳥ボーイが十人程度の男女を前に爽やかに話していた。
「スイカ割り、しようぜ!!!!」
『うおおおおお!! スイカ割りだーーーー!!!』
 鳥ボーイのすこぶる軽い誘いに、水着姿の信者たちが万歳と諸手を上げる。
 鳥さんの腕には、ビーチボールのように大きい立派なスイカが収まっていた。まんまるフォルムと、緑と黒のストライプに、信者たちの興奮は止まらない。
「夏といえばスイカ割り! ただスイカを割るというだけの単純な遊びだが……しかし皆がひとつになって楽しめるのがコイツのすごいところだ!」
 でけぇスイカを掲げる鳥ボーイ。
「しかも楽しいだけではなく、そのあとに美味しいスイカを食べられるところもポイントが高いね! わいわい遊んでわいわい食べる! これぞまさに一石二鳥!」
「すげぇ! すげぇぜスイカ割り!」
「夏の遊びといったらコレ一択ね!」
 鳥ボーイの強弁にすっかり聞きほれてる信者たち。夏の暑さって怖いよね。
 持参した荷物から何本もの木刀を取り出した鳥ボーイは、それらを信者たちに配り、目の前にひろがる白い砂浜に向き直った。
 ――否、『白い砂浜』と言ったのは訂正しよう。
 緑色だった。
 鳥ボーイと信者たちは緑一面の砂浜を、恐ろしいほど大量のスイカが置かれてロクに地面も見えなくなっている(というか全面ブルーシート敷いてる)砂浜を、満足げに見つめていた。
「徹夜で並べた甲斐があったな」
「壮観っすねぇ……」
「あー早くこれを振り回したーい!」
 うっとりと目を細める鳥と男信者の横で、女信者がぶんぶんと木刀を素振りする。
 鳥ボーイは木刀を肩にかけ、信者たちを振り返った。
「ようし行くぞみんな! エクストリームスイカ割りの始まりだぁぁーー!!」
「ふぅぅぅぅーーーーーー!!」
「やったるぜええぇぇぇぇ!!!!」
 ずどどどど、と駆けだした猛者たちの脚が砂浜を揺らす。
 砂浜に置いたひとつのスイカを割るのではなく、砂浜を覆い尽くす大量のスイカを割りまくる――それが鳥ボーイ推奨の『エクストリームスイカ割り』なのである!!

●スイカがあるなら行くしかない
「今日はスイカを取りに行くんだね」
「広義で言えばそうですね」
 夏空の下のヘリポートで早くも水着姿になっとるリリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)に、イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)があっさりと頷いた。
 早朝の海辺にビルシャナが現れたとかゆー話だったと思ったが気のせいだったようだ。
 猟犬たちはさっきまでイマジネイターから聞かされていた話を記憶から追い出した。スイカ取りに行く仕事だって言われたし仕方ないよね。
「しかし現地にはビルシャナの影響を受けた信者もいるので、スイカを食べる前にそちらの対処はお願いします」
「むぅ、信者がいるんだね」
 水着をお披露目してくるくる回っていたリリエッタが、ぴたりと止まる。
「どうすれば改心してくれるのかな」
「そうですね……僕の考えですけど、信者たちに割らせる暇もなく皆さんがスイカを割りまくる、というのはどうですか?」
 一案として、イマジネイターが言った。
 ビルシャナの言い分は『スイカ割りは楽しいからやるべき!』というものだ。それに賛同した信者たちが彼に従っている。
 だがスイカを割れなければ『楽しい』とは思えないだろう。ならば信者たちにスイカを割らせず『楽しくない』と思わせれば、きっと彼らは目を覚ますはずである。
「リリたちでエクストリームスイカ割りを乗っとるんだね」
「そうです。ビルシャナはともかく、一般人の信者たちがケルベロスである皆さんに敵うはずはありません。皆さんが全力でスイカを割れば彼らは興ざめするはずです」
 イマジネイターの言葉に猟犬たちは頷いた。
 砂浜一面のスイカを、持てる力のすべてを用いて割りまくる。
 いやもう仕事が簡単すぎてなんか怖くなるぐらいですよね。
「朝早いので海辺にはビルシャナと信者たち以外には誰もいません。存分にスイカ割りを楽しめますから、どうぞ皆さん、遊んできてくださいね」
「たくさん遊んで、スイカを食べようね」
 にこりと笑うイマジネイターの横で、リリエッタが二丁拳銃を構える。
 かくして、猟犬たちはエクストリームスイカ割り大会に出場するのだった。


参加者
琴宮・淡雪(淫蕩サキュバス・e02774)
ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)
シフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532)
セレネテアル・アノン(綿毛のような柔らか拳士・e12642)
シデル・ユーイング(セクハラ撲滅・e31157)
リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)
大森・桔梗(カンパネラ・e86036)

■リプレイ

●夏の不審者
「いくぜぇー!」
 砂浜へ駆けだしてゆく鳥とその他。
 だが彼らは、木刀でスイカをぶち割ることはできなかった。
「グリューエンシュトラール!!」
「ああーーーっ!!?」
 唐突に飛んできた魔法の波動が、スイカをごっそり持っていったからである。
「スイカ……!」
「魔法少女ウィスタリア☆シルフィ参上っす」
「しれっとポーズ決めてるんじゃねぇぇ!!」
 したり顔でロッドを掲げる魔法少女――シルフィリアス・セレナーデ(紫の王・e00583)に怒りの形相を向ける信者たち。
 入念に準備した楽しみを奪われたのだ。無理もない。
 だが時間は有限。
 そう思い直した信者たちは改めて、スイカの海へと振り返った。
「手刀でバシバシ割っていきますよ~!」
 両手をぶんぶんしてるセレネテアル・アノン(綿毛のような柔らか拳士・e12642)が、無断でスイカを割りまくっていた。
「うおおおーーい!?」
「俺たちのスイカーー!」
 セレネテアルを止めるべく駆け寄る信者と鳥。
 だが、その行く手にシデル・ユーイング(セクハラ撲滅・e31157)が立ち塞がる。
「邪魔をするなー!」
「スイカ割りは夏の風物詩、その点には異論ありません」
 鳥が声を荒らげるも、シデルは毅然として退かない。
 夏の砂浜でなぜかウェディングドレスを着ている女は、ぐっと鳥に近づいた。
「ですがこんなに用意して、ちゃんと全て美味しく処理できるのですか?」
「えっ」
「今はコンプライアンスが厳しいのですよ?」
「いや、それは……」
 シデルに凄まれるたび縮んでゆく鳥。
 早くもバチバチの空気感である。
 ――が、そんなのどこ吹く風のリリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)とミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)は波に足をつけて遊んでいた。
「スイカ割り、友達とやったことあるけど楽しいよね」
「リリちゃん、一緒に楽しみましょうね」
 並んで歓談する二人は、揃って水着姿である。リリエッタはセーラー風なチューブトップビキニが愛らしく、ミリムはイエローグリーンの柄物ビキニがちょっと大人の雰囲気。
 そして後方で刀をぶんぶんしてるシフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532)。
「実は私、スイカ割りは初めてなんですよねぇ。なんだか楽しそうです」
「手当たり次第に割り放題、というのもまた良いですね!」
 隣で如意棒を素振りしていた大森・桔梗(カンパネラ・e86036)がパッと笑う。
「日頃の鬱憤を晴らすためにもこう、力の限りー」
「ええ、力の限りー」
 晴れやかな笑顔で得物を振りまくる桔梗とシフカ。
 ミリムはふふっと笑った。
「このやる気ならば負けはしませんね!」
 勝利を確信するミリム。
 しかし彼女には、一点だけ懸念することがあった。
「ちょうど西瓜を回収したいところだったのよね。そろそろ残機も減ってきたから……」
 五メートルぐらい横で、頭にスイカのガワ被ってる不審者がうろついているのだ。
 琴宮・淡雪(淫蕩サキュバス・e02774)である。
 己をスイカガールと称する25歳は、涎たらしてる鶏の彩雪と一緒に辺りのスイカを入念にチェックしている。
「たくさんのスイカが割られるって心が痛みますわ……グラビティで強化してあげたりできないかしら……」
(「あの人、気絶でもさせたほうがいいような……」)
 かなり本気で悩んじゃうミリムだった。

●一方的すぎるぜ
 ところでスイカ割りは猟犬たちの圧倒的優勢でした。
「てええぇーーーいっ!!」
「ぐあああーーっ!?」
 空気を震わす大爆発が起こり、何十というスイカが爆散する。
 その爆心地にいるのは、ミリムだ。
「誰が一番に早く多くスイカをクラッシュするか……勝負ですよ皆さん!」
 爆発物の巻きついた鈍器を地面に叩きつけるミリム。炸裂した衝撃で周囲のスイカが吹き飛ばされ、赤い雨が降りそそぐ。
「このままでは俺たちのスイカが!」
「ならこっちに狙いを変えるんだ!」
 ミリムの無双に慄いた信者たちが、逃げるように方向転換。
 しかし!
「えいっ」
「ぐああーっ!?」
「スイカぁー!!」
 リリエッタの発射した一発のゴム弾がスイカを貫く! 勢いよく跳ねた汁に目をやられた信者が絶叫し、スイカを奪われた信者が泣き出さんばかりに叫ぶ!
「おのれぇ! 我々のスイカを!」
「ばんばん割っていくよ」
「あぁーやめてぇーー!?」
 二丁拳銃から嵐のようにゴム弾をばら撒くリリエッタ。弾が命中したスイカはごろごろと転がり、玉突きの要領で連鎖的に動いて信者たちの木刀から逃げてゆく。
「なんとゆーテクニック……!」
「もはや俺たちに勝ち目は……」
「諦めるな! せっかく用意したスイカを勝手に割られていいのか!」
「喋っていいとは言ってませんよ」
「はいすみません!」
 絶望気味の信者たちを鼓舞してシデルに叱られる鳥(正座中)。
「そうだ……あれは俺たちのスイカ!」
「割られてなるものかー!」
 教祖のお言葉を聞いた信者たちが希望を胸に立ち上がる。
 しかし現実は非情だ。
「楽しい! これすっごく楽しい!」
「スイカを割るのって爽快ですね!」
 シフカが刀でざくざくと、桔梗が如意棒でパカパカとやりまくっていた。
 一振りで何個ものスイカを破砕する二人の勢いに、息を呑む信者。
「なんというパワーとスピード……!」
「けど、あの得物では近くしか叩けないはずよ! 私たちはこっちを――」
「皆さんは小玉スイカとかカットスイカで我慢して下さい」
「あーーっ!?」
 女信者が狙いをつけたスイカを、伸ばした如意棒でぶっ叩く桔梗。さらにシフカも鎖を鞭のように振り回し、的確に信者周辺のスイカをぶち割ってゆく。
「たのしいー! シフカいっぱい割るー!」
「畜生! 無邪気な顔で!」
 無慈悲に獲物を横取りされ、くずおれる信者たち。そしてそれをスルーしてキャッキャしてるシフカ。この女ホントふとした拍子で幼児退行しやがる。
 ところで、信者たちは別に一塊で行動しているわけではない。
 むしろ一団だと効率が悪いので別動隊も頑張っているのである。
「これでもくらえっすー」
「うおあああーーーー!!?」
 シルフィリアスが魔法をぶっ放しまくる中、頑張っているのである。
「拾ってくるがいいっすー」
「あいつ楽しんでやがる! 愉悦ってやがるぅ!」
 乱射される魔力砲(威力は抑えてある)を左右に避けながら全力疾走するとかいうスタントシーンを演じる信者たち。
 そのうちの一人が、無傷で転がっているスイカを見つけた。
「スイカァァ!」
 飢えた獣の目で飛びかかる信者。
 しかしそこへシデルが滑りこみ、木刀を白刃取りで受け止める!
「そのような遅い動きではスイカが止まって見えますよ」
「くっ! いつの間に……!」
「隙ありです~」
「あぁっ!?」
 シデルの背後にセレネテアルが現れ、手刀でスイカを寸断する。
 で。
「このシャキシャキ感とあっさり感が良いですよね~!」
「ふむ、熟し具合も甘みも程よいです」
「食ってる!」
 見せつけんばかりにスイカにむしゃぶりつくセレネテアルとシデル。
 奪いたてのスイカを眼前で食うとかいう無法に、さすがの信者も語気を荒らげた。
「もう勝手に割るな! てか動くな!」
「動くな、ですか~? しょうがないですね~!」
「真空波!?」
 その場で腕をぶんぶんさせ、遠くのスイカを斬るセレネテアル。
「斬撃を飛ばすのもやめろォ!」
「えぇ~。しょうがないですね~」
「気合を飛ばすのもやめろォ!」
 氣を飛ばしてスイカを割るセレネテアルの肩を掴み、ゆさゆさする信者。
 そのさまを遠くから見ていた他の信者たちは、がくっと膝をついた。
「実力差ありすぎだろ……」
「割れる気がしねえ……」
 およそ勝ち目のない争いだと知り、意気消沈の信者たち。
 そして彼らの周囲を歩き回るスイカガール。
「さあ、西瓜たち! 頑張るのですわ!」
 せっせとピンク色の花弁を地面のスイカへ振りまく姿は、やはり一級の不審者だ。
「スマホ取ってきて通報しないと」
「そうだな」
 落ちこんでいた信者たちも謎に冷静になる始末である。
 だが、彼らが実際に通報することはなかった。
「狙いをミスったっすー」
「きゃああーっ!?」
 彼方から飛来したシルフィリアスの魔法が直撃したからである。
 普通に吹っ飛ばされて砂上を転がった淡雪は、よろよろと立ち上がった。
「セレナーデ様……」
「いやあくまで事故っす。いつも誤射される側だからたまには誤射する側をやりたいなんてことは全く思ってないっすよ」
「ギルティ!!」
 べちん、と顔面に乳パッドを投擲されるシルフィリアス。
 その後もぐかもがないか決戦が行われたことは言うまでもない。

●どいつもこいつもフリーダム
「くっ、まだ一個も割れてない……!」
「つまらないスイカ割りになっちゃうね。でも手加減はしないよ」
 焦燥の顔で辺りを見回す信者たちを尻目に、リリエッタが拳銃をぶっ放す。ゴム弾でハスラーよろしく自在にスイカを動かす少女に信者たちは翻弄されていた。
「割り放題だと思ったのにどうして……」
「私たちと相対したのが運の尽きでしたね!」
 ふぅ、と額のスイカ汁を拭ってニヤリするミリム。
 このままであれば信者たちに思い直させることができるだろう。
 猟犬らがそう確信したときでした。
「べごっ!!?」
「む、むぅ、スイカガールにも当たっちゃったや」
 リリエッタの撃った一発の跳弾が運悪く、淡雪に命中してしまったのだ。
 倒れはしなかったが、しばし沈黙する淡雪。
 で。
「やってくれましたわね、スノウ様!」
「わっ」
 二秒後にはリリエッタに絡みつき、背後から耳をはむはむしていた!
「むぅ、怒らせちゃったみたいだよ」
「リリちゃん、そんな平然と!?」
 ノーリアクションではむられるリリエッタを見ながら、アックスを構えるミリム。
「いま助けますリリちゃん! おらぁああああああああああ!!」
「おっと危ないですね」
「なっ!?」
 横合いから飛びこんできたシデルが、食べ終わったスイカの皮でミリムの重い一撃を受け止める。
「どうしてスイカの皮……」
「盾になるものがこれしかなかったので」
 眼鏡をくいっとやるシデル。
 颯爽と現れて淡雪を助けた彼女は、しかし振り返ると「あっ」と声を漏らした。
「何だスイカガールでしたか。失礼しましたミリムさん」
「まったく……守る相手は選んで下さいね?」
「ひどい言われようですわ!?」
 引き下がるシデルに小言をぶつけるミリム。自分の扱われ方にスイカガールはちょっとショックを受けたが、すぐ立ち直るとミリムに飛びついた。
「ケモミミぺろぺろ!!」
「ぎゃあーーっ!?」
 スイカの人の魔手に落ち、耳をぺろぺろされるミリム。
 とかやってる一方。
「あっちにいっぱいあるからシフカいってくるね!」
「危ないことはしないで下さいね」
「はーい!」
 シフカと桔梗は超平和にスイカ割りを満喫していた。鎖と刀をぶんぶんしながら走っていき、桔梗に見送られるシフカはもう精神が3歳児ぐらいになっている。凶器持った3歳児がいるって時点でもう危ないよね。
 やがて姿が遠くなったシフカがスイカ相手に無双シーンを始めると、桔梗は一息入れるためにその場に腰を下ろした。
「スイカばかりだと飽きてしまいますからね。いただきます」
「普通に弁当食ってる!?」
 麦わら帽子とゴーグル着けてもぐもぐと弁当食いだす桔梗。その異様に近くの信者たちは思わずツッコんでいた。ツッコミ役が彼らしかいなかった。
 だって周りにいる面子ときたら。
「あっ、それは私が目をつけていたスイカですよ~!」
「コケーッ!」
「そちらが実力行使すると言うのなら……私も本気を出します~!」
「コケェー!?」
 スイカを狙う彩雪と壮絶な戦いを繰りひろげ、口に含んだスイカの種を弾丸よろしく撃ちだすとかいう芸を見せているセレネテアルだったり。
「そういえばスイカ割って目隠ししてやるものっすよね」
「こ、こっちくんなぁぁぁーーーー!!?」
 両目をリボンで覆い、バットのごとくマジカルロッドを振り回して鳥さんを追いかけるシルフィリアスだったりなのである。
 ツッコめるはずもなかった。
 むしろツッコミが要るのは彼女らのほうだった。
 鶏と鳥の悲鳴を聞きながら、冷たいドリンクを喉に流す桔梗。
「少し休んだら、お仕事を再開しましょうか」

●鳥さんは行間で割られました
 なんやかんや鳥さんが死んで一件落着した砂浜。
 猟犬たちは、鳥さんが遺してくれた大量のスイカで打ち上げに勤しんでいた。
「スイカ食べ放題っすー」
「たくさん食べますよ~。暑い夏ならいくらでも食べられる気がしますっ」
「コケー!」
 凄まじい勢いで貪っているのは、シルフィリアスとセレネテアルだ。半分にしたスイカに顔を埋めんばかりである。コケコケ言ってるのはシルフィリアスの髪が齧ってるスイカを奪おうとトライしてる彩雪だ。たぶん後で誤って噛まれると思う。
「運動したあとのスイカは美味しいですね、リリちゃん!」
「ん、甘くて美味しいね。お土産に少し持って帰ろうかな」
「いいですね! なるべく綺麗なやつをゲットしましょう!!」
 瑞々しいスイカにかぶりつき、わいわいするミリムとリリエッタ。荷物からタッパーを取り出す親友を見てミリムも張りきって状態の良いスイカを探し出した。
 ビーチを奔走する二人を見ながら、シデルは中身をくりぬいたスイカの器から伸びるストローに口をつける。
 潰したスイカに少々の塩を入れた、手製のドリンクである。
「ふむ、塩分もとれて夏にぴったりですね」
「確かにこれは美味しいですね」
 一緒に賞味していたシフカが、感心して頷く。
 が、彼女にはひとつ気になることが。
「ところで私ちゃんとスイカ割ってました? スイカ割りを開始してからの記憶が全く無いんですが」
「誰より割っていましたよ」
「そうですか。ならいいです。あ、良ければ食べた後の皮をいただけますか? 漬物や酢の物で使えると聞いたので試したいんです」
「どうぞ。たくさんありますから」
 すぐ横に積まれてるスイカのガワの山を指すシデル。
 その量にシフカが歓喜するのを聞きながら、桔梗は少し離れたところで休んでいた。
 パラソルとテーブルと椅子という、超バカンス装備で。
「スイカの生搾りジュースは夏の定番ですよねー」
 ずずずー、とスイカ器からジュースを飲む桔梗。
 これ以上ないほど夏を満喫するタイタニアは、少しの眠気に誘われてそっと瞼を閉じた。
 すると聞こえる。
 仲間たちの賑やかな話し声、ささやかな波の音。
 そして――。
「あなたたちも西瓜マスクを買いなさい? 今なら三つ買えばさらに五個プレゼントしますわ!」
「いや買わねえよ!?」
「てかどこで使うの!?」
 スイカのガワを押し売りして元信者にドン引きされている淡雪さんの様子が。
 桔梗は、手で耳を押さえた。
「聞かなかったことにしましょう」

作者:星垣えん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年9月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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