冷え冷えぱーりぃ!

作者:芦原クロ

 連日の暑さに耐えきれず、エアコンを最新のものに買い替える者が多い夏。
 とある浜辺の隅っこに、不法廃棄された電化製品が山積みになっていた。
 エアコン、扇風機やサーキュレーター、ソフトクリーム製造機まで有る。
 廃棄されたそれらの上を、小型ダモクレスが徘徊している。
 僅かな間、動き回ったのち、エアコンに入り込む。
 他の電化製品を次々に組み換えて変形し、四足歩行の巨大な機械と化す。
 同時に、周囲の蒸し暑かった温度ががくっと下がり、とても涼しく快適な温度に変わった。
 もちろん、近くの海水も冷え冷えだ。
『冷たいを、お届けしたい! 暑いから! 僕で涼んで欲しい!』
 誰か居ないだろうかと、徘徊し始めた。

「肥後守・鬼灯さんの推理のお陰で、予知が出来た。不法投棄されていたエアコンが、ダモクレスになる。幸い、人通りがほぼ無い隅のほうだから、避難誘導の必要は無いな」
「これって、退治する意味は有るんでしょうか?」
 霧山・シロウ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0315)が予知した内容を話し終えると、肥後守・鬼灯(度徳量力・e66615)が率直な問いを投げる。
 困ったように片手で目元を覆い隠し、短い溜め息を吐く、シロウ。
「退治する意味、か。無害そうに見えるが、ダモクレスだ。多くの人々を虐殺し、グラビティ・チェインを奪うという目的に、変わるかも知れない。放っておかず、撃破して欲しい」
 そう言いながら、色々なフルーツが入ったバスケットを配り始める。

「ソフトクリームは、材料が必要なようだ。投入口に入れた果実の、ソフトクリームが出来るぜ。つまり、メロンのソフトクリームが食べたければ、メロンを投入口に入れる。コーンやカップ、自分好みの食材などは各自、持参してくれ。ちなみに、バニラは牛乳だけで良いみたいだな。……こいつの涼しい範囲は、五六間で言えばざっと20畳ぐらいか。かなり涼しい。海の水温も下がるぜ」

 ダモクレスを囲んで、涼しさを満喫したり、ソフトクリームをたくさん食べたりしていれば、ダモクレスが弱体化するかも知れない。
 弱体化すれば、一気に攻撃が出来るだろう。

「被害が出る前に、ダモクレスを倒してくれ。それと、ソフトクリームはかなり美味いようだ」


参加者
パトリシア・バラン(ヴァンプ不撓・e03793)
源・瑠璃(月光の貴公子・e05524)
カヘル・イルヴァータル(老ガンランナー・e34339)
アリッサム・ウォーレス(花獄の巫竜・e36664)
肥後守・鬼灯(度徳量力・e66615)
佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)

■リプレイ


『誰かー、僕で涼んでー! 冷たいを、お届けするよ!』
 ひと気の無い砂浜をうろうろしながら、呼び掛けているダモクレス。
「ダモクレスなんだけど、涼ませてくれる存在は物凄く有難い」
 現場に到着し、源・瑠璃(月光の貴公子・e05524)は白い半袖シャツに青い綿の短パン姿でダモクレスに近付く。
 気温が一気に下がり、ひんやりとした空気に包まれる。
 冷えすぎた場合に備え、長袖の薄いパーカーを持って来ていた瑠璃が、試しにパーカーを羽織る。
 パーカーを着ても涼しく、むしろ丁度良いぐらいだ。
「真夏の冷え冷えパーティー……! こ、これは、強敵との死闘の予感が致します」
 アリッサム・ウォーレス(花獄の巫竜・e36664)は冷え過ぎ対策のブランケットを手に、微かに身を震わせる。
 涼しすぎて人を駄目にするという意味なら、強敵といっても過言は無いだろう。
「油断せずに、万全を期して挑みましょう」
 アイテムポケットに色々な物を詰め込んで来た、アリッサム。
 水着や海遊び用のグッズまで有り、満喫する気、満々だ。
「涼しさを満喫スレバ弱体化スルデスって!? イこうイこうスグヤろう!!」
「涼めば弱体化するのね……この時期になんてお得なダモクレスなのかしらっ」
 パトリシア・バラン(ヴァンプ不撓・e03793)と佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)は嬉々として、ダモクレスに接近。
 蒸し暑かったのが嘘のように、一瞬で涼しい気温に変わる。
『あー、良かった、人が居たー。僕で涼んで欲しいな!』
 ようやくケルベロスたちに気付き、人懐っこそうな声を出す、ダモクレス。
「日除けのパラソルも設置してヨシ! 楽しむとするかのう」
 カヘル・イルヴァータル(老ガンランナー・e34339)もノリノリで、堪能する気だ。
「皆で仲良く冷え冷えぱーりぃーをしましょう!」
 肥後守・鬼灯(度徳量力・e66615)が、仲間たちに声を掛ける。
 冷え冷えぱーりぃの、始まりである。


「暑くて暑くてやる気が出ないところダッタンダ!」
「最近異常といえるほど暑いからね……」
 パトリシアの発言に、瑠璃は分かる、というように頷く。
「日本の夏は蒸し暑いので、この時期は苦手なのです。でも今日は、涼しく快適な夏を満喫致しますね」
 アリッサムも悩ましげに話題に参加し、後半は嬉しそうに微笑んでいる。
(「この猛暑に涼しくなる電化製品はホント便利でええのう」)
 カヘルは目を閉じ、鷹揚に頷いていた。
(「ダモクレスを倒す前にその恩恵を十分に得るとするわい」)
 胸中でそう続けたあと、カヘルはまず、持参したスイカを投入口へ放り込んだ。
「わしは夏の定番を用意したんじゃが、スイカのソフトクリームになるじゃろうか」
『任せてー!』
 カヘルの疑問に対し、ダモクレスは無邪気な声で答えた。
(「敵だけれど凶悪な性悪ではないみたいだし、思い切り涼んで満足させてあげたいな」)
 鬼灯はダモクレスを注意深く観察した結果、優しい気持ちに辿り着く。
 器を持参して来たレイは、カヘルが投入したスイカが、ソフトクリームになって出て来るのを待機。
 数秒も経たぬ内に、果汁たっぷりのスイカソフトクリームが、器の中へ盛りつけられた。
「美味しそう!」
「さて、味見じゃ」
 瞳を輝かせるレイの前で、カヘルはスイカソフトクリームを、一口含む。
「かなり美味いわい」
「かーなーり美味しいソフトクリーム!? 食べる食べる!!」
 カヘルの感想を聞き、嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねている、レイ。
 人数分のスイカソフトクリームを作って貰い、カヘルは仲間たちに配る。
「これは……スイカの甘さがたっぷり詰まってます」
「風味も爽やかですね」
 アリッサムと鬼灯は仲良く感想を言い合い、美味しそうに完食。
(「肥後守さんとアリッサムさんが良さげな雰囲気だから、邪魔しないよう黙ってソフトクリームに集中するわ」)
 恋愛話が好きなレイは、2人の邪魔にならないように、黙々とソフトクリームを味わっている。
 が、目は口程に物を言うもので、視線はちらちらと2人の様子をうかがってしまう、不器用なレイ。
「バニラエッセンスとワッフルコーンと牛乳でバニラソフトクリームを吐き出させマス」
 パトリシアはより本格的にしようと、バニラエッセンスを用意。
「まずは味見」
 ざくざく食感のワッフルコーンと、バニラソフトクリームの相性の良さを堪能する、パトリシア。
「次はグラスにソフトクリームを出させて、チョコシロップやフルーツも添えて、パフェ的なモノが出来上がれ!」
 後半は、願望を強く込めて。
 パトリシアの願いは叶い、フルーツパフェが完成した。
「パフェ……! なるほど、色々とアレンジ可能なんですね」
 関心を示したアリッサムは、ソフトクリームの材料やジュース、炭酸飲料、コーヒーなどを、小さなポケットから次々と取り出す。
「一杯果物持ち込んで、色んなソフトクリーム作って食べよう。ソフトクリームフロートもいいなあ」
 年相応に甘いデザートが大好きな瑠璃は、次々と果物を投入口へ入れてゆく。
 いちご味、バナナ味、キウイフルーツ味や、パイン味、桃味……などのソフトクリームが次々と作られてゆく。
 カヘルの相棒のボクスドラゴンは、食いしん坊なようで、新しいソフトクリームが作られると、投入した相手にすり寄り、食べたいという様子でねだっている。
「器と果物だけ持って無限生産ねっ♪ ……食べたいのは分かったから、ちょっと待ってなさいってば!」
 レイはすり寄って来る、愛らしいボクスドラゴンをなだめながら、果物を投入口へ放る。
「えへへー、まずはベタにソフトクリームっ。実家にいっぱいあるから、遠慮なく食べちゃって♪」
 葡萄や梨や桃のソフトクリームが作られると、自分の分を確保しつつ、レイは他のメンバーにも配った。

「涼しいのですー。ああああ」
 鬼灯は扇風機の前に陣取り、扇風機に向かって声を発し、変化して聞こえる自分の声を楽しんでいる。
『扇風機も使ってもらえて嬉しい!』
 上機嫌の、ダモクレス。
「定番のバニラやチョコ、苺、マンゴー……ミックスにして、色々な組み合わせを試すのも良いですね」
 仲間たちからシェアして貰ったソフトクリームを味わったあと、アリッサムはまだまだ食べられる勢いで、新しいソフトクリームをどんどん増やしてゆく。
「パフェやフロートにするのも美味しそうです」
「勿論、用意してきた炭酸飲料にソフトクリームも入れてフロートにしちゃう。ああ、幸せ」
 アリッサムの言葉が耳に入ると、瑠璃は早速フロートを味わい、美味しさに喜んでいる。
「作ってみたいのは、さっぱりとした柑橘類を中心に、グレープフルーツやレモンのアイスと……」
 夏にピッタリな柑橘系の果物を鬼灯は使い、牛乳を入れてバニラを作るのも忘れない。
「グレープフルーツなどはシャーベット状にしてもらえますか?」
『頑張る!』
 鬼灯のリクエストに、元気いっぱいで応える、ダモクレス。
 口当たりがさっぱりとした、シャリシャリ食感の柑橘系シャベーットに、濃厚なバニラが加わる。
(「これは美味しい!」)
 早速食べ始めた鬼灯は、あまりの美味しさに感激し、仲間たちにも同じものを作り、分け合う。
「ソフトクリームもええのう」
 カヘルは様々な味のソフトクリームを分けて貰い、沢山食べてから、体を震わせた。
「この歳じゃから多く食べると即! 腹が! ナイアガラの滝になるがのう!」
「大丈夫ですか? ブランケットをどうぞ」
 腹を抱えているカヘルに、アリッサムがブランケットを手渡す。
 冷たいものを食べ過ぎてお腹を壊さないように、と。用意していたのだ。
「海の温度も下がって、遊ぶのには丁度良さそうですね」
「お腹が満足シたワ。日光はさえぎらない、のよネ? だとしたら涼しく日焼けが出来るんじゃない?」
 アリッサムは海へと泳ぎに向かい、パトリシアは水着姿でサンオイルを塗って寝そべった。
 涼しい中で日焼けを満喫する、パトリシア。
「食べて涼んだ後に運動をして、汗をかいたらまた涼む……なんて幸せなぱーりぃなのでしょう」
 海からあがったアリッサムは幸せそうに呟いてから、ふとなにかを思いつく。
「ちょっと買い出しに行って来ます」
 数メートル先に有る、海の家を目指してその場を離れる、アリッサム。
「こんな機会滅多にないし……熱いものも食べたいっ!」
 レイもアリッサムと同じ欲望を抱え、アリッサムの後を追う。
「シメにわしの本名、缶ビール!! もちろん未成年のお子様には飲ませられぬコレ! 数缶ガンガン冷やしてもらうんじゃ!」
 一定の箇所の温度を更に下げて貰い、缶ビールが冷えるのを楽しみに待つ、カヘル。
「真夏にキンキンに冷えた缶ビールを飲むのはきっと格別に違いない……! ガチガチに凍ってたらションボリするがのう」
 カヘルの心配は、杞憂に終わった。
 置いていた缶ビールは凍ることも無く、カヘルの望み通り、キンキンに冷えたのだ。
「イッツァ、cool beer……」
 喉を鳴らして一気にあおり、深く息を吐いてから、満足げな笑みを浮かべて呟く、カヘル。
「源さんが持っているのは、ヨーグルトですか?」
「そうだよ。変わり種として用意してみたんだよ。果物と一緒に入れると美味しそうだと思って」
 瑠璃の持っているものに興味を抱いた鬼灯が問い、回答を貰うと想像力を働かせる。
「どんな風になるのか、考えただけでわくわくしますね」
「ちょっと待っててね。バニラと、持って来た果物を併せてパフェも。用意した蜂蜜をかけて完成、と」
「美味しそうですね。僕も頂いていいでしょうか?」
 瑠璃と鬼灯は楽しそうに言葉を交わし、瑠璃が作ったパフェを貰って味わう、鬼灯。
 そうしている内に、レイが湯気の立つラーメンを買って戻って来た。
 少し遅れて戻ったアリッサムは、どうやらコンビニにも足を運んだようだ。
「冷え冷え空間で、ラーメンや鍋焼きうどん等の熱々なものを食べる贅沢も味わってみたかったので」
「あたしも熱々のラーメン買って来たわ! 甘いとしょっぱいを交互に!」
 アリッサムの言葉に、レイが続く。
 暑さを感じさせないほど、冷えた浜辺で、熱々のラーメンや鍋焼きうどんを食べる。
 なんという贅沢だろうか。
『僕、ちゃんと冷たいをお届け出来た? みんな涼めた?』
 ダモクレスの問いに、肯定の声を返すメンバー。
 すると、ダモクレスは満足したのか、それっきり何も言わなくなる。
 涼しかった空気が、少しずつ、元に戻り始めていた。
 弱体化を察し、鬼灯はお礼を込めてダモクレスを布巾で拭き、綺麗にする。
 他のメンバーは素早く、戦闘態勢に入った。
「涼ませてくれてありがとうね」
「バビロンストレッチ・TGで気持ちよく逝かせてアゲルワ」
 瑠璃とパトリシアが、攻撃を繰り出す。
「十分弱らせたかのう? 名残惜しいが、労いつつ達人の一撃をたたき込むかのう」
「倒すのなんて可哀想だけど、ありがとうって感謝してから、お仕事を終わらせるわね」
 カヘルとレイが続き、苦しまないように一気に畳みかける。
「満喫させて頂きました。あつあつ炎系グラビティで、一気に攻めます」
「ありがとう。とっても涼めましたし、美味しかったですよ!」
 アリッサムと鬼灯が感謝の気持ちを込めて攻撃し、ダモクレスは塵と化した。


「うーん……冷たい物を食べ過ぎて、まだ頭がキーンってなってるなあ」
「涼しい空間で快適な日焼けが出来マシタ!」
 片手で頭を抱えている瑠璃とは対照的に、快活なパトリシア。
「海水浴も楽しみたいですね」
「私も、もう一泳ぎしたいです」
 鬼灯とアリッサムが海に入り、2人は仲良く泳いでいる。
「海水浴より浜辺で遊んでよっと。砂の城を作るわよー!」
 レイはせっせと、砂遊びに夢中になっていた。
「今度はそこの海の家でアツアツの焼きそばを食べに行かぬか? 料金はわしの財布からみなの分を出してやるぞい」
 各々の楽しみが終わるまで、缶ビール片手にのんびりと待っていたカヘルが、仲間たちを誘う。
(「帰る際に、目についたくらいのゴミは片付けるのが……ダモクレスにとって一番の弔いになると思います」)
 鬼灯は優しい気持ちを抱えながら、仲間たちと共に、今度は温かい食事へと向かった。

作者:芦原クロ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年8月23日
難度:普通
参加:6人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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