夏祭りなんて絶対許せないッ!

作者:芦原クロ

 祭りが開催されている、とある地域。
 広場では飲食物の屋台が並び、食欲を誘う良い香りが漂っている。
 ステージには太鼓が設置されており、初心者でも上手く叩けるよう、教え役も居てくれる。
『くそがぁーッ! ただでさえ暑くてイライラしてんのに、太鼓とか叩いてんじゃねーよ! うるせーんだよ! カップルもキャッキャウフフしやがって! 視界に入ると、イライラすんだよ!』
 突如現れた異形の者が、無茶苦茶な主張を押し付け、一般人を襲撃した。

「柄倉・清春さんの推理から、事件が予知された。個人的な主義主張により、ビルシャナ化した人間が、夏祭りを開催している所を狙うようだ。ビルシャナ化した人間にとって、かなり近くで毎年開催されるので、襲撃対象になったんだろうな」
「加害者側に回ったら終わりじゃね?」
「我慢の限界を迎えたんだろうな」
 柄倉・清春(不意打ちされたチャラ男・e85251)の問いに、霧山・シロウ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0315)が短い溜め息と共に答える。

 このビルシャナに、配下は居ない。
 一般人の数が正確に分からない為、避難誘導は時間が掛かるので、人払いをしてから敵の出現ルートで待機していたほうが良い。

「このビルシャナは一般人の目に触れない裏道を通り、夏祭り会場へ向かうようだ。裏道で待機し、ビルシャナの姿が見えたら……この駐車場まで誘導してくれ。駐車場には誰も近寄らないよう、警察などに協力して貰っているぜ」
 分かりやすいように、地図に出現ルートに線を、駐車場には丸印を書き加える。
「ビルシャナは、あんたさん達のほうを優先する。一般人には気付かれない程度の方法で、ビルシャナの注意を引きつけてくれ。駐車場まで誘導出来たら、なるべく多くの人数で、ビルシャナにインパクトを与えれば、戦意を喪失させることが可能だ」
 カップル同士で仲良くしたり、夏祭りの良さを語ったりすれば、ぼっちなビルシャナの主張など、複数のリア充の前では無力と化す筈だ。
「……ビルシャナとなってしまった人は、救うことは出来ない。だが、これ以上被害が大きくならないように、撃破をお願いしたい」


参加者
大弓・言葉(花冠に棘・e00431)
ハル・エーヴィヒカイト(閃花の剣精・e11231)
モヱ・スラッシュシップ(あなたとすごす日・e36624)
エリザベス・ナイツ(焔姫・e45135)
柄倉・清春(あなたのうまれた日・e85251)
 

■リプレイ


「駐車場には人が寄らないようになっているらしいな」
 敵が通る裏道で、ハル・エーヴィヒカイト(閃花の剣精・e11231)が念の為、殺界形成を展開する。
 これで一般人が巻き込まれる確率は、ゼロに等しい。
「皆と夏祭りにわくわくする大作戦なの!」
 作戦名を作った大弓・言葉(花冠に棘・e00431)は、物陰に隠れて待機。
『おのれカップル! おのれ夏祭り! けしからん! イライラするぜぇーッ!』
 直後、憤慨しながら裏道を進んで来る敵が目視出来た。
(「夏祭りか。気晴らしには丁度いいだろう」)
 敵がこちらに気付くのを見計らってから、ハルは思案しつつ、隠れて待機している言葉とエリザベス・ナイツ(焔姫・e45135)に合図を送る。
「これからの夏祭り楽しみだねー!」
 エリザベスが目を輝かせ、敵に聞こえるよう、快活に言い出す。
「夏の祭り…で御座いマスカ。それはもう、毎年楽しみにしておりマス」
 浴衣姿のモヱ・スラッシュシップ(あなたとすごす日・e36624)は、ほぼオタク向けのイベントが行なわれる、逆三角形の建物や長蛇の列に想いを馳せていた。
「この先に穴場があんだよねぇ。打ちあがる花火がすっげー綺麗に見えっかんさ」
 同じく、浴衣姿の柄倉・清春(あなたのうまれた日・e85251)が、メンバーに声を掛ける。
『夏祭りを楽しむ気が満々じゃねーか! 待てそこの集団、停まれ!』
 敵がぎゃあぎゃあと喚くが、停まる筈も無く。
 メンバーは楽しそうに夏祭りについて話しながら、駐車場方面へと向かう。
 わめきまくる敵が、後を付いて来るのを気配と声で確認し、決して振り向いたりはしない、ハル。
 こちらの呼び掛けや存在も気にならないほど、会話に夢中な集団だと判断した敵は、むきになって追い駆け、やがて駐車場へあっさり誘き寄せられた。


「どこから回ろうかしらねえ。かき氷食べて涼みながらとか?」
「かき氷を片手に、お祭り会場を散策……楽しそう」
 言葉の楽しい悩みに、即座に反応する、エリザベス。
 楽しそうにしてもらおうと、麦わら帽子をハクに被らせ、両手に綿あめを持たせている。
「ぶーちゃんにはおこづかいとお面を持たせるの!」
 言葉から小遣い500円と、お面を貰ったぶーちゃんは、ものすごく瞳をきらきらと輝かせていた。
 根は常識的な言葉だが、今回は友人たちと夏祭りを楽しめるので、ハイテンション気味だ。
『食い物なんて全然楽しくないッ! かき氷なんて家で食ってりゃいいだろ!?』
 夏祭りを馬鹿にする敵の発言に対し、モヱがゆっくりと敵へ接近する。
「夏祭りの商業効果は侮れマセン。屋台を生業としている人々にとっては稼ぎ時で御座いマス」
『屋台を生業……』
 モヱが言ったことを口にする、敵。
 そこまで考えていなかった為か、敵は衝撃を受けたかのように、目を丸くしている。
「皆で屋台を巡り食べ歩き、色々美味しいものを楽しめるからな。屋台有ってこそのものだな」
 ハルが同意を示して、頷く。
「まずは、たこやきとかやきそばで腹ごしらえ、とかね」
 夏祭りに屋台は欠かせないというように、言葉が言い、他のメンバーも頷いている。
 敵はケルベロスたちを見回し、己のぼっちさに勝手に傷つき、精神的ダメージを負っていた。
 間を置き、敵は清春に狙いを定める。
 相づちを打つだけで、特に主張と呼べる言動を、まだ見ていないからだ。
『おまえなら分かるだろ!? そんな悪そうな顔してんだから周囲と溶け込めないだろ!?』
「今はみんなで楽しむ流れっしょ」
 仲間を見つけようと必死な敵に対し、バッサリ現実を突きつける、清春。
「それはそれとして、……デートがお気に召さないのデスカ?」
 崩れ落ちそうになる敵だが、モヱの問いに目をカッと見開いた。
『俺に屋台の大切さを教えてくれた浴衣美人のお姉さん! キャッキャウフフしてる、うるせーカップルが嫌いなんだけど、お姉さんが俺と夏祭りデートしてくれるなら考えを改めても良い!』
 そう言いながら、モヱに手を伸ばそうとする敵。
 その手がモヱに触れる前に、素早く、かつ力強く掴んだのは、清春だ。
「俺の大切な恋人に触ろうとしてんじゃねーよ」
『痛い、痛いから! ってか、え? 恋人?』
 清春とモヱを交互に何度も見る、色々と痛々しい敵。
 モヱは、ほんのりと頬を赤く染めている。
(「キター! いいねいいね、柄ぽんくん!」)
 ひそかに2人を全力で応援している言葉としては、いいぞもっとやれ的な気持ちである。
「二人っきりで誕生日のお祝いしたばっかだしねぇ」
「頂いた首飾りは、嬉しい言葉と共に在りマス」
 敵に見せつけるように、モヱへと微笑みかける、清春。
 こっそりと身に着けていた、チェーンを通してネックレス状にしたプラチナリングを、モヱは赤面しながら見せる。
「ありがとねぇ。オレも、モヱちゃんから貰った扇子、大事に持ってるよ」
 浴衣の帯に大切そうに挟んでいた扇子を、視線で差し示しながら、モヱの腰を抱き寄せて隣り合う、清春。
 鋼鉄の貴婦人、の二つ名を持つほどに、普段はクールで落ち着いているモヱだが、頭を傾けて恋人の肩に預けるほど、今回はデレデレである。
「デートは、別に夏祭りに限った話ではないの、では……?」
 そう言いつつ、なにかを思い出して耳元まで赤面し、モヱは初々しい反応を見せた。
『くっそおおおッ! 浴衣ップルめーッ!』
 見せつけられているような気になり、精神的ショックを受けた敵が、叫ぶ。
「カップル効果、すごいねー」
「あの2人が居て、良かったな」
 エリザベスが感心し、思わず呟くと、ハルは聞き洩らさず、同感の意を伝える。
(「夏祭りの楽しさをアピールして、さっさと片付けて夏祭りを楽しむとしよう」)
 ハルが視線を送ると、エリザベスはハルの考えを汲み取り、やる気を出す。
「ハクやぶーちゃんにも食べさせてやりたいな、エリザ?」
「うん! でも、夏祭りは食べ物だけじゃないよー!」
 話をハルが振ると、エリザベスが元気良く答える。
「射的とか切り絵とか?」
「うんうん、射的をして、それから金魚すくいして……」
 言葉の問いに応じ、エリザベスは指折り数える。
「ああでも林檎飴とか、おやつもあるからお腹のバランスも考えないと……遊ぶなら、お腹いっぱいになる前に、かな?」
『夏祭りの……楽しそうな話は、もう止めろ……』
 キャッキャウフフ状態の言葉たちを前に、消え入りそうな声量で敵は訴える。
「夏を思いっきり楽しみたーい!」
「いやーん、エリザちゃん! 私も楽しみで夢いっぱいなの!」
 目を輝かせているエリザベスは、言葉とハイタッチをして、お互いにとても楽しそうだ。
「皆で回るなら、きっと楽しい時間になる事だろう」
「夜は長いわけだし、恋人の時間はあとでたっぷり堪能すっかんねぇ」
 ハルの発言に続いて、余裕の態度でリア充アピールをする、清春。
 敵はもはや動く力も無く、ぐったりしていた。
「弱体化したな。最高火力で攻めて、さっさと仕留めよう」
 敵が完全に弱体化したのを確認し、ハルは仲間たちに伝えた。
「コイツ倒して、夏祭りを満喫だな」
 容赦無く、清春は敵を思いっきり殴る。
「祭りという集客効果が人々の経済を潤すのデス」
 最後の教えを口にし、モヱは収納ケースと共に敵を攻撃した。
「ぶーちゃん、お面とおこづかい落とさないように気を付けてね」
 言葉も、ぶーちゃんやハクと共に、敵を攻撃する役に回る。
「合わせるぞ、エリザ。我が内なる刃よ集え……!」
「とどめは任せてね、ハル! 一気にいくつもり!」
 ハルとエリザベスが剣舞の奥義を繰り出す。
「合の剣・閃花水月ッ!!」
 2人が同時に声をあげて。
 魔術と剣の究極の一撃が、阿吽の呼吸で繰り出される。
「さよならだ」
 ハルが一言放ち、敵は反撃する間も無いまま、消滅した。


 後片づけを終えてから、広場で出店を見て回る、メンバー。
「皆で夏祭りを愉しみマショウ。食べ歩き、屋台遊び……ええ、色々」
 きっちり着付けした浴衣姿で、ゆっくり歩く、モヱ。
 女性陣の中では背が高めなモヱだが、人波に攫われないようにと気遣い、歩調を合わせて隣を歩く清春。
「こーしてれば攫われないからねぇ」
 清春は悪戯っぽく笑み、モヱの手を優しく握って繋ぐ。
 不意打ちを食らったモヱの頬が、赤みを増す。
「お祭り本番なのー! まずはたこ焼きかしらね、ささっと食べられるし」
 言葉はテンション高く、たこ焼きの屋台を発見して素早く買いにゆく。
(「今回は後輩パワー全開で、慣れない敬語を使って、先輩たちに屋台のお菓子を奢って貰っちゃおっと!」)
 エリザベスはあれもこれもと選んでは買って貰い、出店のお菓子がたくさん詰まったビニール袋を、両手にいっぱい抱える状態になる。
「サーヴァントには林檎飴をプレゼント! 今日もお疲れ様! エリザちゃんは、両手が塞がってるから食べさせてあげるねー!」
 言葉は購入したたこ焼きをエリザベスに食べさせ、仲睦まじく接している。
「ハクには美味しい林檎飴をプレゼントー……!」
 言葉やエリザベスから、林檎飴を貰ったハクは嬉しそうだ。
 足元で、「500円じゃ足りないっスぅ!」と訴えかけるように、じたばたと暴れている、ぶーちゃんの姿が。
 どうやら、祭り会場に着いてから気付いたようだ。
 そんなぶーちゃんをハルが拾い上げ、歩みを進めながら、お菓子を食べさせてあげる。
「ハクやぶーちゃんはともかく収納ケースって、何か食べるんだろうか?」
「餌付け出来るぜー。収納ケースにはオレの屋台飯わけてやんぞー」
 餌付け? と、一瞬だけ疑問符を浮かべる、ハルとモヱ。
「ほらほら、もっとみんなでお祭りを楽しもーじゃん!」
 りんご飴や、わたあめを食べて歩きながら、時折、屋台以外の場所に視線を向け、なにかを探している清春。
「エリザには以前の礼もかねてしっかり奢らせてもらおう。……たこ焼きのソースが付いてるぞ」
「ハルは頼れるお兄さんだし、他のみんなも大好きな旅団の先輩たちだし、嬉しくて楽しい……!」
 口元を拭いてくれるハルに対して、エリザベスは楽しそうに笑顔を浮かべる。
「射的やヨーヨーすくいなどで勝負するのも悪くないな」
 しばらく食べ歩きを堪能して楽しんでから、ハルがぽつりと零す。
「そしたら勝負なの!」
「私もまぜてー!」
 言葉とエリザベスが声を揃え、清春とモヱも共に参加する。
「1つでも多く景品を獲れた人が勝ちね!」
「はいはーい、そんじゃ合図出すぜー。よーい、始めっ」
 言葉がやる気満々でコルク銃を構えると、スタートの合図を出してから、清春もコルク銃を持つ。
 予想外の咆哮へコルクが飛んだり、景品に当たるだけだったり、景品を見事に撃ち落としたり、と。
 メンバーは和気あいあいと射的を楽しみ、そのあとはヨーヨーすくいに興じる。
 全力で遊びを楽しんだ清春は、視線をさまよわせていた。
「何かお探しデショウカ」
「んー。よさげなとこを探してるんだよねぇ……あ、見っけ」
 他のメンバーが遊びに熱中している間に、清春はモヱの手を優しく引いて奥のほうへ向かう。
「あれ、カップルの二人がいなくなってる……」
「カップルがはぐれた? そっとしておこう」
 言葉が気付くと、ハルは邪魔をしないようにと空気を読む。
「うふふ、探さないどこっと」
 自然と顔がにやけてしまう、言葉。
「探さないほうが良いんだねー。あ、輪投げが有るよー、遊ぼう!」
 楽しそうなエリザベスは、まだまだ遊ぶ気だ。

 一方、少し静かな場所まで移動した清春は、モヱを後ろからそっと抱きしめる。
「誕生日に肝心なこと言い忘れてた。愛してるよ、モヱちゃん」
 耳元で囁かれて、赤面するモヱだが、自分の気持ちもきちんと伝えたいと思い、振り向いて清春の瞳をじっと見つめる。
「ええ、ワタシも――愛してイマス」
 清春の想いに応えた後、2人の影がゆっくりと重なった。

作者:芦原クロ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年8月18日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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