海底掘削、『暴食機構』

作者:七尾マサムネ


 海底にて、謎の巨大生物が蠢いていた。
 いや、その全貌を把握するものがいれば、それが生き物ではないと気づくはずだ。
 まるで島が動いているようだが、昆虫にも見える頭部の上に、掲げられた謎の回転刃。
 腹部分は歯並びの良い口からなっていて、そこから飛び出すのはクジラの上半身。そして、巨体を支える無限軌道。
 機械だ。それも、デザイン的にはかなり歪な。
 海溝と呼ぶには浅い、海底の谷間部分に入り込んだ機械は、回転輪で辺りを掘削中である。削りだされた鉱物は、すぐさまクジラの口が飲み込んでいく。
 謎の巨大機械の地道な作業は、人知れず続いていた。


 ケルベロス大運動会の後。
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002) がケルベロス達にもたらしたのは、ユグドラシル・ウォー後の各勢力の動向だった。
「その1つがダモクレスの動きです。海底において、巨大ダモクレスが鉱物資源を掘り出している事が判明しました。この巨大ダモクレスの機能及び外見には、植物的な要素が散見されます」
 この一件が、大阪城から脱出したダモクレスによるものである可能性は高い。
 どのような用途であるにせよ、ダモクレス勢力に、資源を渡すわけにはいかない。そこで採掘を行っている巨大ダモクレス……『暴食機構グラトニウム』を破壊し、作業を阻止して欲しい、というのがセリカの依頼だった。
 セリカがケルベロス達に提示したグラトニウムの外見は、良くも悪くも個性的なビジュアルだった。
 色々なもののパーツを寄せ集めた、という印象が強い。
「グラトニウムの主な攻撃手段は、上部のはしご状部分に搭載された、歯車状の刃です。また、胴体部分を構成するクジラの口から冷凍光線を吐き出して、離れた対象を凍らせてしまいます。遠近対応は万全です」
 グラトニウムは単機で稼働しており、サポートメカなどは伴っていない。また、意志はあるものの会話などを行う様子はない。
 なお、海中での戦いは、ケルベロスにとって特別な負担とはならないので、臆することなく戦闘行動をとって欲しい。
「グラトニウムは資源掘削用ダモクレスのようで、戦闘用ではありません。冷静に攻撃を加えれば、破壊する事は難しいことではありません」
 そしてセリカは、次なる説明で、依頼を締めくくる。
「皆さんがヘリオンから降下したタイミングで、『ヘリオンデバイス』を起動します。新たなる力は、皆さんの勝利を一層確実なものとしてくれるでしょう」


参加者
神門・柧魅(孤高のかどみうむ缶・e00898)
キルロイ・エルクード(ブレードランナー・e01850)
イリヤ・ファエル(イカロスの翼・e03858)
機理原・真理(フォートレスガール・e08508)
円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214)
イッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)
ナターシャ・ツェデルバウム(自称地底皇国軍人・e65923)
ディミック・イルヴァ(物性理論の徒・e85736)

■リプレイ


 ヘリオンから出撃するケルベロス達の背中を押したのは、力強い言葉だった。
「『ヘリオンデバイス・機動』!」
 セリカのコマンドワードだ。
 緑のワンショルダービキニ姿の円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214)は、用意していたカメラとマイクで、ちゃっかりセリカの勇姿の撮影に成功していた。
 ヘリオンからの光を受け、サーヴァント以外のケルベロス達に装着されるヘリオンデバイス。全身にみなぎる力は、決戦仕様。
 デバイスを見つめる、好奇心と自信に満ちた忍者が一人。
 この時を楽しみにしていた、水着姿の神門・柧魅(孤高のかどみうむ缶・e00898)だ。
 そのデバイスの形状は、ジェットパック。新たな力のお試し戦に、喜び勇んで海へとダイブ。
「キレイだなあ、真夏の吸血鬼!」
 イリヤ・ファエル(イカロスの翼・e03858)が、柧魅の飛翔姿に、称賛を贈る。
 そして、突入した海の世界。機理原・真理(フォートレスガール・e08508)が周囲を索敵する。悠々、海中散歩も束の間、海溝に蠢く巨大な影を捉えた。
 真理の視界の中、近づくほどに存在感を増すダモクレスは、無機と有機の寄せ集め。
 グラトニウムの外観に、キルロイ・エルクード(ブレードランナー・e01850)がおどけた調子で一言。
「おーおー、いつにも増してブサイクなラジコンが来やがったな。望み通り解体して廃品回収業者に高く売りつけてやるぜ」
「ふむ、如何にもバケットホイールエクスカベーター、有機的? 貪欲に能力を取込んでいるようだ」
 イッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)が、キメラめいた『勇姿』に感心したような声を上げる。
 ケルベロス達が遠目に見た限り、グラトニウムは手当たり次第に掘削、鉱石を吸い込んでいるようだ。
「我等グランドロンもこうした仕事は担ってきたねぇ」
 ディミック・イルヴァ(物性理論の徒・e85736)は、グラトニウムが質より量を重視しているのを確認しながら、しみじみ呟いた。
 純戦闘用でないというところもなかなか憎めないが、敵性存在である以上、刃を交えるのも致し方ないか。
 しかしながら、ナターシャ・ツェデルバウム(自称地底皇国軍人・e65923)にとっては、また別の意味を持っているらしい。
 この敵は、故郷の地底皇国の大半を喰らい、壊滅させた仇。記憶の中、朧げなだけだった形は、実際に相対する事で鮮明になり、ナターシャに確信をもたらしたようだった。


 海溝のグラトニウムが、突如作業を中断した。
 原因は、ディミックだ。両腕に装着したアームドアーム・デバイスで資源に干渉し、掘削作業の妨害にかかったのである。
 ディミック用にアジャストされた追加アームは、色、形状ともに元のボディと違和感なくフィットしている。
 続いて、キアリのレスキュードローン・デバイスの出番だ。
 視界に入り込むプロペラ付き黒猫……ドローンを捕捉し、グラトニウムのセンサーが明滅。掘削作業を中断し、キアリのドローンの方へと巨体を転身、追跡を開始した。
 平地で待つキアリの元を目指し、誘導を継続するドローン。
 そこに、イッパイアッテナのドローンも加わった。ドローンとして固定されたデバイスの装甲は、堅固だ。たとえ攻撃されようとも、一、二度なら耐えられるはず。
 敵、そして二機のドローンの状況は、ナターシャの装着したゴーグル……ゴッドサイト・デバイスで逐一把握されている。
「くく、新しいデバイス、流石だな」
 平地で控える柧魅が、胸を躍らせている。自分もジェットパックで突撃したいと逸る心を、一応抑えて。
 やがて、グラトニウムが、移動を停止した。待ち構えていた真理達を、排除すべき敵として認識したのである。
 掘削が任務とはいえ、作業を妨害する障害を排除するのはやぶさかではない。グラトニウムは、ケルベロス達への攻撃行動に移った。
 飄々とした表情の下、キルロイの胸に殺意が目覚める。ダモクレスへの抑えきれぬ負の感情。
「こんな奴が予知にかからずにひっそりと活動したままだったと考えると、ぞっとしますね……! 見つけた以上は逃がしませんよ!」
 ヘリオンデバイスからみなぎる力に身をゆだね、イリヤが、敵へと向かった。
「これ以上侵略者にこの星の大地を利用させはしない!」
 イッパイアッテナもまた、ドワーフの鎧装騎兵としての矜持をもって、敵の目的の阻止に挑む。
「資源を勝手に持ってっちゃう泥棒、絶対させないのです」
 真理の改造チェーンソー剣が、唸りを上げる。回転する巨大な刃をくぐり抜け、パーツの結合部を断裁していく。
 巨体で大地を揺るがし、進軍するグラトニウム。迎え討つディミックは、アームを地面に打ち付け、味方の前に城塞を構築した。地面よりそそり立つ光の壁が、仲間達を防衛する。
 グラトニウムの直上、キルロイが流星となって加速、接近する。
 激突の衝撃がグラトニウムのフレームを駆け抜け、無限軌道にまで到達。地面が陥没する。
 キルロイの離脱のため、レスキュードローンで敵の注意を逸らしながら、イッパイアッテナが言霊を味方に放った。大地の加護を届け、破壊の力を高める。
 敵の足元に接近する小さな影は、イッパイアッテナのミミック『相箱のザラキ』だ。無限軌道に牙を立てる。
 キアリの和ロック調な詠唱に合わせ、仲間達が漆黒空間に包まれる。それは歌の終了とともに解除された後、舞い散った白の花弁の加護を与え、皆をパワーアップさせていた。
「さぁ、それじゃあレディの前だからね。カッコよくやらせてもらおうか」
 イリヤは気取った所作とともに、軽口一つ。
 小さな片翼を拡張する地獄が、グラトニウムに叩きつけられた。重量を伴った炎が巨体すらも容赦なく押し潰す。
 更に伝播した炎は、各部から噴出し、巨体に被害をもたらしていく。
 すると、グラトニウムのクジラが口を開く。直後、高出力のビームが射出された。
 味方を狙う射線上に飛び出したのは、真理だ。ここはアームドアーム・デバイスの出番。
 一対の巨大腕を交叉させ、ビームを防御。ビームの照射をしのぎ切る頃には、真理の体は冷気で白く染まっていた。
 真理の安否を気遣う仲間達に、ライドキャリバーのプライド・ワンがライトを青に明滅させ、無事を伝えた。
 ならばよし。ジェットパックの加速で、一気に柧魅が敵に接近した。
 すれ違いざま、忍術を叩き込む。グラトニウムのクレーンが灰の光を放った後、真紅の爆砕が炸裂した。
「くっくっく、今宵のオレはいつも以上に魅力的だな」
 大火力で巨体がかしぐのを眺め、柧魅はご満悦。
「地底皇国の無念……今こそ晴らさせてもらうぞ!」
 暴れ回る敵を見据えていたナターシャが、一段高い場所から切りかかった。日本刀の斬閃が、グラトニウムの無限軌道を切り裂いた。


 巨躯と破壊力を存分に振るい、グラトニウムは暴れ回る。
 その無限軌道が、イリヤへと接近する。迫るは回転刃。
 対するイリヤは、アームアームド・デバイスを展開。刃を白羽取りの要領で受け止めると、斬撃の衝撃を浴びながらも、巨体を押し返した。
「レディはもちろん、仲間にも傷はつけさせませんからね!」
 イリヤの防御の隙に、接敵したのは、真理だった。プライド・ワンに騎乗し、グラトニウムをズタズタに切り裂いていく。
 真理は、アームドアームを杭打機のように使う事で、変則的に動き回り、敵を翻弄する。
 その間にディミックは、デバイスアームの間に生成した虚無球体を、敵目がけ投じる。通過した部分がそのまま抉れ、消失。
 ディミックの技を喰らい、重量バランスを崩すグラトニウム。
 戦況をうかがうキルロイのそばに浮かび上がるのは、マインドウィスパー・デバイス。形状は、女性型の黄金の炎、その一部だ。
 キルロイの視認した情報はこのデバイスを通じて、他の仲間達にも共有されていた。
 そして今こそ、攻め上がるチャンス。デバイスで皆に合図を送ると、銃剣を構え、キルロイが先陣を切った。グラトニウムの外装を突破。
 内部を駆け巡り、銃を撃ち尽くし、剣で斬り尽くす。グラトニウムの全機能を破壊するように。
 決着へと向かう仲間のため、キアリが分身の術を駆使。味方の傷を治療し、戦線の維持に努める。
 その分の攻撃は任せてと、切りかかるオルトロス、アロンの頭上。
 煌めく星の欠片を振りまきながら、イリヤが華麗にその身を回し、キックを決めると、クジラに大きな星型を刻みつけた。
 悶える暴食機構。
 回収した資源を自らのエネルギーに転じたのか、出力が上昇する。力を振り絞るようにして、ケルベロス達に食らいつく。
 無事な場所を見つけるのが難しいほど損傷したグラトニウムの胴体を、『朱初月』に包まれた柧魅の拳が打ち破る。
 柧魅はそのまま飛翔し、眼下のナターシャをビームでけん引した。
 イッパイアッテナが、一対の戦斧を振るって立ちはだかるクレーンを寸断、道を拓く。
「ナターシャさん、後は任せましたよ!」
「そう言うことだ。行って来てくれ!」
 柧魅がジェットで敵上方へと導くと、勢いをつけてナターシャを射出。
 仲間の応援を受け、ナターシャがいく。
 狙いは、皆が切り裂いた損傷部。ナターシャは、日本刀ではなく地底皇国軍用シャベルを、敵に突き立てた。
「吐き出せ……全部! 貴様が奪ったもの全て、あるべき場所に、返せ!!!」
 一気呵成に、グラトニウムを掘り進めるナターシャ。やがてその身は、コアに到達し……。
 暴食機構が、爆散した。これまでに蓄えた資源の数々をまき散らして。
 クジラから溢れた悲鳴めいた声が、しばらくの間、周囲を震わせていた。


 戦いを終えて。
 イッパイアッテナは、デバイスの能力や機能を確認していた。仲間が駆使した機能の使用感なども聞き、今後の参考にする。
 これが故郷復興の兆しになれば。ナターシャは宿敵の残骸を前に、内心、一区切りがつくのを感じていた。
「さて、あとは、始末だな」
 ナターシャに頷き、イリヤがすっかりスクラップとなったグラトニウムを確認する。
 このまま放置していれば魚の住処にもなるかもしれないが、真理達には別の利用価値があった。
「回収機ならこれを使っている奴がいるはず。マップとか表示の機能ないかな……?」
 柧魅が、形を残した内部に入り込み、生き残った機能を探す。
 皆と協力して端末や、頭脳に当たるコアパーツを回収したキルロイとキアリは、『情報の妖精さん』で情報を引き出す事を試みた。
 暴食機構が集めた資源を何処へ運ぶつもりか解れば、ダモクレスたちの次の動きに先んじられるかもしれない……というのがキアリの考えだ。
 結果、大阪城から脱したジュモー・エリクトリシアンの命を受けていたこと、そして途中までだが移動経路が判明した。
 情報が断片的なのは、ジュモーが情報にセーフティをかけていたのかもしれない。
 一方ディミックは、先ほどの資源エリアを調査していた。
 元々、ディミックは、アスガルドで採掘を生業としていた身だ。ここで採掘できる資源の種類や、自分の魔法への活用法に興味がある。
「逆に地球戦力の資源として活用できるかもしれないしね」
 そうして、一通りの調査を終えた一行は、得た情報を分析すべく、作戦行動を終了。帰投するのであった。

作者:七尾マサムネ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年8月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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