32型の秘密!?

作者:大丁

 雑居ビルの出入口わきには、スタンド型の電子看板が出されていた。
 各階の案内や、広告をループで流している。
 大人の背丈よりやや低く、いわゆる32型液晶ディスプレイが、縦向きに配置されていて、幅は50センチほどになっていた。
 けれども、街路に人通りはなく、ディゾルブやワイプといった効果で切り替わるそれら表示物を、眺める者もいない。
 孤独に立ち尽くすかのような屋外電化製品。そのボディに、粉のような何かが降ってきた。
 鈍く光りながら、各部に侵入していく。
 金属の支柱だったはずのスタンド基部が、ツタをより合わせたような形に変化する。
 ツタは無数に増えていき、持ち上げたディスプレイ部を、3mの高さに届かせた。裾も広がり、ムチのように波打ち、地面を這って雑居ビルの前から離れる。
 その姿は、液晶画面を頭にした巨大イカが、通りを闊歩しているかのよう。
「ミロ~! ミロ~!」
 唸り声が、電子看板ロボとしての主張をした。

 軽田・冬美(雨路出ヘリオライダー・en0247)は、ヘリポートにケルベロスたちを集めていた。事件解決の依頼をする。
「屋外用の電子看板が、ダモクレス化して暴れるのお。廃棄家電事件と違って、攻性植物の能力が合成されてる。幸い、付近に一般人はいなくてね。被害はまだ出ていない。ヘリオンをぶっとばしていくから、現場につき次第、ダモクレスを倒してねぇ」
 説明によれば、電子看板ロボの武器と攻撃は、ツタによるムチ叩きだ。近くの1体か、離れた数体の防御力を低下させる。
 よし、敵のとこへ向かうぞ、とタラップへ踏み出しかけた者が、ふと疑問を口にした。
 ダモクレスに攻性植物の要素が混じっているのは理解した。じゃあ、電化製品に由来する攻撃はないのか、と。
「そうねぇ。グラビティじゃないんだけど、液晶ディスプレイ部に、戦闘の様子が静止画でスライドショーされるくらいかな。たぶん、広告を人々に知らせる使命が残留してるの」
 であるなら、防御力の低下状態を、見せつけられる危険はあるわけで。
 冬美は、意に介さず、手招きする。
「さぁ、さぁ。相手はユグドラシル・ウォーで逃げ延びたダモクレス勢力かもだから、手掛かりまで逃しちゃダメよぅ。急いで、急いでえ……レッツゴー! ケルベロス!」
 その瞬間、ヘリオンに備わった、新機能が発動した。お馴染みの掛け声が、コマンドワードになっていたのだ。
 ケルベロスたちの、新たな戦いが始まる!


参加者
空鳴・無月(宵星の蒼・e04245)
機理原・真理(フォートレスガール・e08508)
ロディ・マーシャル(ホットロッド・e09476)
神宮・翼(聖翼光震・e15906)
エメラルド・アルカディア(雷鳴の戦士・e24441)
白焔・永代(今は気儘な自由人・e29586)
巻島・菫(サキュバスの螺旋忍者・e35873)
皇・露(スーパーヒロイン・e62807)

■リプレイ

●デバイス装備
 路地は、自動車ならば、やっと行きかえるほどの幅で、それに面して雑居ビルが立ち並ぶ。
 レスキュー・ドローンが、ビキニアーマーの女性を乗せてホバリングしてきた。エメラルド・アルカディア(雷鳴の戦士・e24441)の、剥き出しのお腹には汗がつたっているが、見とがめる者はいない。
 フロア面積の狭い店舗がひしめき合う区画で、昼日中は営業していないところも目立つ。
(「通行人は皆無だ」)
 エメラルドが心に呟くと、了解と返事が返ってきた。機理原・真理(フォートレスガール・e08508)のマインドウィスパー・デバイスに中継してもらっている。全員同時並行での会話は、良好のようだ。
「戦場の状態を思念で逐一情報共有できるかも試してみるのですよ」
 真理自身は、電柱のてっぺんに立っていた。白のフィルムスーツの上から、革ジャケットとミニスカートを身に着けている。
 白焔・永代(今は気儘な自由人・e29586)が通信に入ってくる。ゴッドサイト・デバイスによれば、周辺で人のいる建物は僅かである、と。
(「ならば、このビキニを痴女呼ばわりはされまい。……はあ」)
 間を置かず、神宮・翼(聖翼光震・e15906)の報告が。
「戦場のおおよその外周は見回りしたよ。チェイスアート・デバイスもまあまあね。……エメラルドちゃん、残念そうじゃない?」
 ため息の出所は、焦って。
「そ、そんなハズは……!」
「うん。思考通信だから、うっかりしてると本音が漏れちゃうのかもねん」
 永代(えいたい)は頷きつつ、ダモクレスが向かおうとしている先では、やがて人出がでてくるから、やはり敵の動きを止めて、撃破しよう、との決定を下す。
 ゴッドサイトに、路地で待機しているプライド・ワンが示された。真理のライドキャリバーで、配置は永代と同じくスナイパーのはずだ。
「サーヴァントにはヘリオンデバイスないのねん」
 真理の立つ電柱の周囲に、ケルベロスたちは集合してきた。皇・露(スーパーヒロイン・e62807)が、マントをなびかせながら飛んでくる。
 まさに超人の飛びポーズ。マント裏のジェットパック・デバイスによる効果だ。
 後にはビーム牽引で浮力を得たアームドアーム・デバイスで、巻島・菫(サキュバスの螺旋忍者・e35873)と、空鳴・無月(宵星の蒼・e04245)がついてくる。
 菫(すみれ)は、ファミレス制服とエプロンだ。またしても、バイトの途中で抜けてきた。無月(なづき)のアームは小さめで、あとは常用しているフィルムスーツだ。
 狭い通りの四辻を曲がって、うごめく蔦のダモクレスが、姿を現す。菫は、眼鏡をかけ直し。
「イカみたいなダモクレスですか。イカ焼きだったら嬉しいんですが」
「んー……イカというか、クラゲというか……?」
 無月は、記憶していた。攻性植物としての特徴も持つダモクレスといえば、試作段階と思わしき機体が出現したはず。
(「技術が……確立されつつあるのかな……?」)
 その推察には、いくつか同意の思念が返ってくる一方で。
「あー、アイスとか食べたいよねん。イカ焼きみたいに熱いモノじゃなくて」
 永代だ。菫もバイト制服のせいなのか、メニューで考えがち。
「でしたらまず、大生ジョッキを。あ、イカだからって、触手で責めてきたりしませんよね?」
 ツタのうねりをみれば、ムチ叩きも触手責めと大差ないのでは。
 そして、頭部にあたるディスプレイには、地上からのアングルで、ケルベロスたちの布陣が映っている。
 翼(つばさ)は、エアシューズと一体化したチェイスアートで、ビルからビルへと、跳ねるように現れた。
「植物合成っていう個性が割とどうとでもよくなる能力よねー」
「いかにも。某動画みたいに、コメントが弾幕みたいに流れなくってよかったですね」
 菫の発想に、真理は素早く検索をかける。
「あのダモクレスは元の看板の仕様を引き継いで、スタンドアロンです。ネットには繋がってないのですよ」
 でも、やっぱり戦闘中の静止画をなるべく人様には見られたくない。
「撮るだけならまだしも、何で周りに見せようとするですかね……」
 真理は、ジャマーの翼に頼んだ。
「うん。やっぱり念のため、バイオガス使うね。残念でなければ」
 エアシューズの跳ねはそのままに魔導装甲からバイオガスを散布する。
 レスキュードローンを連れ立ったエメラルドと永代もガス帯の内側に抜けてきて、電子看板ロボを見下ろせる位置につく。
「おや、ロディ殿はどこいった?」
「戦闘後のことで、ご用意なさってましたわ、たしか」
 ロボ頭が、画像を更新しても、7人しかいない。エメラルドの問いに、露(つゆ)の考えが通じるところで、ひときわ大きくバイオガスがかき分けられた。
「ゴメンよお。通してもらうぜ!」
 ロディ・マーシャル(ホットロッド・e09476)が、ジェットパックを背負っているのに、地面を走って突撃する。
 スターゲイザーの態勢になり、ジャンプキックを、蔦の基部にみまった。
 敵の進攻は、ともかく止まる。

●戦闘飛行
 ロディは、スターゲイザーを蔦の束にかましたが、残りに無数のムチ叩きとなって襲いかかられた。
「ぐわー」
 元がどんな衣服だったのかわからなくなるほどの全裸。
「えー、なにやってんですか?!」
 モップ武器からドラゴニック噴射で、菫が急降下する。
 スマッシュでムチを払いのけ、アームドアームで、ロディの身体を掴み出す。
 だが、蔦の一本が、まだロディの一本に巻き付いている。露が破纏撃(ハテンゲキ)のエネルギーを手に纏い、握りつぶす。
「はあああああーー!!」
 その、蔦のほう、を。
 ハダカ男子を、レスキュードローンに乗せると、エメラルドは紅瞳覚醒を歌って奮起させる。無月は、その様子にジト目を向けながらも、オーラを分け与えた。
 真理の小型ドローンも、治癒に集まってくる。
「女性陣に被害が出るよりはマシだ。……悪いか」
 結果、手厚い救護でロディは無事だ。ちょっとばつが悪そうに、とった戦法を明かす。
 ビーム牽引があるなら、全員が飛行ポジションとなる。敵にとっては『ムチ叩き強』が届かない。そこで、ロディひとりだけ飛んでなければ、ダモクレスは喜んで近接攻撃するだろう。ダメージ全部を引き寄せられるかもしれない。
 考えを受信して翼は、ドローンまで滑ってきて、直接抱きついた。
「ロディくんありがとう!」
「いや、みんなのためだって、みんなの」
 別に思考が漏れたわけでなく、恋人を思ってなのだと、みんなが承知していた。
 露は、千切った蔦を放り捨てて。
「でも、単独を狙ってくるムチ叩きは強力で、厄介すぎますわね。さきほどのような、ヒールのフォーメーションがとれるとはいえ、全部の攻撃にロディさん一人で立ち向かうのはおやめになって」
 会話しながらも、戦いは続く。翼は、ロディをひと撫ですると、ロッドを手にした。
「そうそう、みんなで攻撃して、ちゃっちゃとやっちゃいましょー♪」
 ファミリアシュートを向かわせる。ロディが蹴ったところを、さらに抉って、足並みを乱させる。
「んー、真夏の昼間だからある意味服が破られて涼しい……?」
 永代がドンマイと、起き上がって飛行をはじめたジェットパック一丁のロディに手をふってから、轟竜砲を撃つ。
 足止め作戦で一致協力だ。
「涼しい訳ないねん。流石にここまで暑いと直射日光防げる方がラクそうだねん」

●画像と妄想
 3mの高さに持ち上げられていると、液晶ディスプレイは言うほど大きくは感じなかった。
 ビル上まで延びてくるムチ打ちにグラビティで応じるうちに、永代にはむしろ、基部のサイズこそが本体に思えてくる。
「これからはこういうデカブツ相手の依頼も増えてくる感じ? ……んー、ド派手な戦闘は嫌いじゃないよん」
 飛行するケルベロスの皆を対象にしてくるおかげで、『遠ムチ』には減衰効果も見込めた。
 加えて、ビル間を跳ねる靴を履いた翼には、蔦と蔦の隙間をくぐり抜けられる。
「あたしの肌はそう簡単に見せてあげないのでした! 残念!」
 服破りの受け役は本来、アームを生やした二人だ。無月は、フィルムスーツにくらう。
「ダメージは……軽微だね……」
「エプロンとソックスを残すとは……こやつ、できる!」
 菫は、バイト制服のワンピが破かれる。エプロンひもから、背中とお尻が出ているので、下着もセットでやられたらしい。
「私もヘンなふうに服が破かれてるのです?!」
 輪切りになって倒れた電柱から飛び退いた真理は、上着とスカートを身につけたまま、中のフィルムスーツだけ無くなっている自分に気がついた。
「あ、ロディくんの画像が消えてくよ」
 翼が指差し、さっきまで関心の薄そうだった永代が食いつく。
「ふんふん、これが広告の……ワイプ機能とかだねん」
 注視すれば、32型もまだまだ大画面だ。全裸画像が、ロディと入れ代わりながら無月のそれになる。
 静止画のはずの小さな胸が、揺れた。
 映っている本人が路上に降り、星天鎗アザヤを突き立てている。
『摩天槍楼(マテンソウロウ)』が、アスファルトを砕いて群生し、電子看板ロボの蔦の、一本一本を刺す。それで、支えていたディスプレイに、乱れが生じたのだった。
「足元……注意……。……もう遅いけど」
 隠しもせずに、ダモクレスと対峙する無月。画像の胸と実物を、注意深く比較している永代。
 荒れた路面をプライド・ワンが走ってきて、鎗に拘束された蔦をキャリバースピンで基部から踏みちぎっていく。
 サーヴァントに相手させた隙に真理は、傾斜した電柱をすべって接敵すると、グラインドファイアを蹴り込んだ。
 主従がそろってスライディング着地をきめ、敵を仰ぎ見る。
「どうで……す?!」
 無表情のままなのに、頬だけ赤くなった。
 またしても画像が切り替わり、不可思議な紋様が表示されていた。タテスジを開いたピンクの丸、のような。
 ジェットパックのロディが、鼻血をふいて墜落する。
 真理は、履いてないミニスカートで蹴った瞬間を、撮られたらしい。驚くあまり、その恥ずかしい表示を、仲間にマインドウィスパー・デバイスで送信してしまった、らしい。
「ぐわー」
「つ、露は、見たってへっちゃらですわ!」
 言いつつ、ビーム牽引を乱しそうになり、マントが絡まった。残った蔦が伸びると、露の上半身ごとくるんでしまう。
「おしりは、やめてくださいませんことー!」
 バチバチとムチ叩きの連打が、尻肉を震わせる。ヒロインコスは引き裂かれ、幾スジもの腫れが走り、スライドショーは様々な角度から、その様を提示する。
 乱打は、他のケルベロスにも向かってくる。
 それは、妙に生々しかった。エメラルドは、ビキニアーマーの上下を瞬く間に叩き落とされて、全裸で飛びのく。
 しかし、背後をビル窓に阻まれてお尻を押しつけると、その内側から無数の視線を感じた。
「な、中に人が……あうう!」
 全身をムチ打たれるところを、見物されているのだ。
「貴殿ら、見るな!」
(「本当は、見て」)
 痴女が、痛みに悶えるところを。
「そうはならんでしょ、バイオガスが効いてるんだからねん」
 永代の言葉が割り込んで、エメラルドは正気に返った。
「え? なんだったのだ?」
「お騒がせしたです。デバイスの中継がまだ調整しきれてないのですよ」
 真理は、自身の動揺と、露への仕打ちにあてられて、エメラルドの妄想が垂れ流されただけと説明する。
 蔦の攻撃は、現実では菫が庇っていた。
「我が軍には最終防衛ラインたるエプロンが……って、めくるんかい!?」
 アームドアームで押さえる。まくれそう。その攻防に、今度は菫の混乱した思考が溢れ出す。
(「きゃー。穴があったら入りたいですね。入れたいでは……あるけどない。そこで生大一丁」)
「菫ちゃん、入れてるときもないし、大ジョッキもまだまだねん」
 永代は、よく受け答えできるな、とまわりは変な感心をした。戦法は、命中率を確保できたとみて、威力重視にシフトしている。
「妄想はともかく、新装備のお陰で戦力も上がってるし。余裕でトドメいっていいよん」
 ルーンディバイドで蔦をざっくり刈る。ロディもなんとか戦線復帰して、ブリッツバヨネットを振り回した。
 希望どおり、翼は無事に避けきった。ロディの援護に遠隔爆破を講じる。
「乙女の怒りを叩き込むからね!」
 ディスプレイの背部から、火花が散って、煙が噴き出した。
 現在、映っているのは、結局めくれたエプロンの中身。その液晶に、露は怪我を押して、お尻を当てる。
「破纏撃ですわー!!」
 高エネルギーと尻圧に、32型は割れた。
 蔦は干からびて、元の金属シャフトに戻り、ビルに囲まれた路地の、焼けたアスファルトに、ガタンと倒れたのだった。

●戦い終わって
 真っ昼間の街中の、路地に突っ立っている格好が意識されて、無月は急にモジモジとしはじめた。
「う……。ふあ……」
「お着替えなら、十分にご用意してますわ。ロディさんの簡易更衣室に」
 露が、無月の手をひいていく。
 一応、着ている感じの菫と真理は、戦場の片づけを始めた。菫のアームドアームが電柱を立てると、ヒールドローンがつなぐ。
「まるごとヒールをかけるより、効率的なのですよ」
「終わってみれば、それほどイヤーンな責めは受けませんでしたな」
 男子用の簡易更衣室には、ロディのほかに翼も潜り込んでいて。
「被害にあってないだろ?!」
「ううん。あたしを思って危険に飛び込んでくれたのが、嬉しかったの。だから、異常がないか、見させてね♪」
 自分がしたいだけとも言える。服を着るどころか、二人ともハダカになって。
 路地を低空で見回るレスキュードローンの上でも、エメラルドと永代がつながっていた。
「ゴッドサイトで人が来ないのはわかってるから、平気だよん」
 妄想の伝播だけで、エメラルドにも被害は無かった。それがかえって、不完全燃焼なのでは、と永代は理解している。
「それとも、見られたい? 冬美ちゃんに連絡すれば、デバイスは解除されちゃうよん?」
「……あう」
 生真面目な女騎士は、締め付けを強めた。

作者:大丁 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年8月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。