信じる鳥は救われた?

作者:質種剰

●人生最悪あるいは最良の日
 その日、『占い唯一主義ビルシャナ』は、深く落ち込んでいた。
「どうしよう……今朝のテレビの星座占い、ランキング最下位だった……」
 ——ゴメンなさい。最下位は牡牛座のあなた! 今日はやることなすこと全部空回りしてしまいます。忘れ物と事故に注意しましょう。ラッキーアイテムは転職情報誌でーす!
「私は、このまま占いの結果に身を委ねて生きていて良いのだろうか。今朝の結果は、占いに傾倒していては身を滅ぼす、破滅したくなければ別の道を歩めという警告ではないのか……」
 事故と転職情報誌、何気ない占いの結果をここまで深読みして重く受け止めるのも珍しい。
「ええい。こうなれば望ましくはないが、いっそ自分で自分を占って……!」
 ヤケになった様子で懐からタロットを取り出すビルシャナ。鳥の鋭く長い爪で器用なものだ。
「ああ、心を落ち着けなければ、視えるものも視えぬ……世界の逆位置!!?」
 かようにしょうもないことで——否、ある意味己が教義に忠実すぎるが故に自分で自分を追い詰めて——進退窮まっているビルシャナへ、救いの手が差し伸べられた。
「焦らずともよい……」
 『光世蝕仏』である。
「ユグドラシルとの同化こそ、衆合無をも越える唯一の救済である。全てはユグドラシルと共に在らん」
 光世蝕仏はそれだけ告げると、袈裟をも突き破って咲くタマスダレらしき花びらやふさふさと密生していた黄金色の羽毛を撒き散らしながら、天へ昇っていった。
 平たく言えば新たな拠点まで飛んでいっただけなのだが、その神々しい姿は占い唯一主義ビルシャナへ力を与えた。
 そして。
「えー、人生にお悩みのそこの貴方、タロット占いは要らんかね。開運アイテムは要らんかね。徳の高い光世蝕仏の花と羽を包んだお守り袋、今なら初回1万円で……」
「ちょっと君、ここで勝手に店を出されちゃ困る……ぐあっ!?」
「邪魔するでない」
 すっかり元気を取り戻した占い唯一主義ビルシャナは、駅前で勝手に占い商法をしながら、諌めにくる警備員などを返り討ちにしていた。


「攻性植物によって強化を施されたビルシャナが、事件を起こすようなのであります」
 小檻・かけら(麺ヘリオライダー・en0031)が、困った様子で語り始める。
「犯人は、個人的な主義主張によってビルシャナ化してしまった元人間でありまして、何よりも占いを信奉しているのであります」
 栗山・理弥(見た目は子供気分は大人・e35298)の調査によって存在が確認されたそのビルシャナは、名を『占い唯一主義ビルシャナ』と言う。
 奴は駅の出入り口に陣取って占いを始め、注意しようとした一般人に危害を加えるという。
「皆さんにはその駅前へと先回りなさってビルシャナを迎え撃ち、しかと討伐して頂きたいのであります。このビルシャナ、攻性植物によって戦闘力が強化されてますからお気をつけくださいね」
 占い唯一主義ビルシャナは、何より異端者を敵視しているため、ケルベロス達が占いなど信じないだのかと声高に叫べば、商売の手を止めてその主張に聞き入るはずだ。
「ビルシャナの周りには、彼の主張に影響されたお客さんが8人います。ですが、ビルシャナの演説を聞いて間もないせいか、未だ完全には開眼していません」
 それ故、ビルシャナ化した人間の主張を覆すようなインパクトのある主張を行えば、戦わずして配下になりかけのお客さんを無力化、人間へ戻す事ができるかもしれない。
「お客さんたちは、ビルシャナが撃破されるまでは戦闘に参加して皆さんへ襲いかかるでありましょう。ただし、一番先にビルシャナを倒せば助けられるであります」
 戦闘時に配下が多くなれば、それだけ戦いで不利になるため要注意。
 また、ビルシャナより早く配下を倒してしまうと往々にして命を落としてしまうことも、決して忘れないで欲しい。
「占い唯一主義ビルシャナは、ビルシャナ経文とビルシャナ閃光を用いて攻撃してくるであります」
 理力に満ちた破魔の光である閃光は、複数の相手にプレッシャーをもたらすかもしれない遠距離攻撃。
 敏捷性が活きた謎の経文は、遠くの相手を催眠状態にする事もある単体攻撃だ。
「8人の配下は、買ったばかりのお守りに力があると信じて投げつけてくるであります」
 もっとも、説得にさえ成功すれば配下は正気に戻るため、ビルシャナ1体と戦うだけで済む。
「明王の影響を受けているお客さんたちは、理屈だけでは説得できないかもしれません。重要なのはインパクトでありますから、そんな演出をお考えになるのもオススメであります」
 ——今回ならば、やはり『占いを信じたせいで酷い目に遭った』体験談が必須だろう。
「開運消しゴムの力だけではテストで良い点は取れなかったとか。占いやおまじないの指標に頼って恋人を得たけど、彼の気持ちまで占いの影響下に思えて疑心暗鬼に陥ったとか」
 他にも、テレビや雑誌の占いコーナーのアドバイスに従ったところ、まるで漫画のように次々と不運に見舞われたなどなど。
 星座占いや血液型占いがすっかり日常生活に溶け込んでいるからこそ、誰しも面白エピソードのひとつやふたつはありそうだ。
 もし、生まれてこのかた占いに踊らされた経験がない場合は、『(占いに頼らず)自分で決めて良かった』と思うエピソードでも、かなりの説得力を発揮するだろう。
 例えば、案外姓名判断に頼りがちな子どもの名付けを、何にも頼らず自分たちで考えてくれた両親。
 占いで決めるよりも親の気持ちが伝わってくる今の名前に感謝している。
 あるいは、志望校だったり2人から同時に告白された時など、『自分で決断したからこそ出した答えに自信が持てる』という事態は多いはずだ。
「どうぞ、悲惨だったり笑えたり、あるいはシリアスなご決断だったりするエピソードを、臨場感たっぷりに語って差し上げてくださいませ♪」
 かけらはにっこり微笑んでから、
「『暗夜の宝石』攻略戦で皆さんがビルシャナ大菩薩を滅ぼしたのを皮切りに、ビルシャナの一部がユグドラシルへ信仰を変えたのかもしれませんね……強敵ですが、皆さんのご武運をお祈りします」
 ケルベロス達を彼女なりに激励した。


参加者
日柳・蒼眞(無謀刀士・e00793)
フレッシュ・ボーン(裏路地に蔓延る影・e27332)
栗山・理弥(見た目は子供気分は大人・e35298)
月白・鈴菜(月見草・e37082)
秦野・清嗣(白金之翼・e41590)
ファラハ・アルワーキ(オウガの光輪拳士・e50604)

■リプレイ


 駅前。
「さあさ、光世蝕仏開運グッズはいらんかね!」
「テメェ誰に断ってココで商売してやがンだ、ア゛?」
 ビルシャナが大声を張り上げているところへ、ズカズカと割って入っていくのはフレッシュ・ボーン(裏路地に蔓延る影・e27332)。
 決して、ケルベロスはこの鳥からショバ代を徴収しにきたわけでは無いのだが。
「ここァうちのシマ……じゃねェ……つ、つい昔の癖が、ナ?」
 気を取り直して、両の握り拳をビルシャナの方へ突き出すフレッシュ。
「お得意の占いで右か左か占ってみナ」
 信者になりかけの一般人らは、不安そうにビルシャナを見つめた。
「ひ、左!」
 ビルシャナは水晶玉越しにフレッシュを見て反射的に叫ぶと、
 ゴスッ!
 お約束とばかりに、フレッシュから間髪入れぬ左ストレートを喰らっていた。
「げほっ……」
「当たって何よりじゃねェか。どんどん占ってみろや?」
「う、うむ。何々、ラッキーアイテムは……鉄パイプ!?」
「おう。よくわかったナ。俺の鉄パイプナ?」
 す、とビルシャナの頭に影が射して、当然鉄パイプも振り下ろされた。
「鼻割り箸って知ってっか?」
 さらには、ビルシャナが机の上に立てた筮竹を奪い取って凄んでみたりと、やりたい放題のフレッシュ。
(「占いで何を選ンでもどっちみち酷ェ目に合わせてやりゃ、身をもってワカるだろ」)
 彼の思惑自体は、信者らを説得する方向性として間違っていない。
「コイントスで勝負決めてやってもいいぜ」
 ビルシャナが素直に飛ばしたコインを待ち受けてる間に殴り飛ばすところなどは、喧嘩慣れしたチンピラそのものだが、
「へっ、占いばっかで今が見えてねェヤツにはいい薬だ」
 彼には彼の道理があるようだ。
「へーぇ、ボーン君て占いは結構信じちゃう方?」
 フレッシュと飲み友達の秦野・清嗣(白金之翼・e41590)は、のほほんと友人の暴れっぷりを眺めていた。
「俺らもゲンっつーのは大事にするけどよォ。それァやっといた方が自分でも余計な心配とか考えずに自信持って色々やれっからするンだ」
 占いっつーのは迷って迷って最後の最後に頼るンだよ——と、真面目に一家言打てる事からも、フレッシュの信念が窺える。
「んでナ? 結果が気に入らねェ時はその反対をやりゃいい……結局、てめェのハラはてめェで決めンだよ」
 実際、殴ったり脅したりだけでなく真面目なことも言えるようで、フレッシュのシンプルな論理は清嗣や信者らを感心させた。
(「そもそも占いで自分を鼓舞できなかった時点で、アウトじゃないのか?」)
 と視線を移す清嗣は、占い唯一主義ビルシャナに対して——ヘリポートで伝えられた情報を元に、身もふたもない事を思っていたりする。
「占いは、断定したりしないよな。何々ではないですかって言って、当てはまる所が出てきたらそこを畳み掛けるだけだ」
 ともあれ、テレビや雑誌でよくある星占いの万人向けな内容を例に挙げて、
「でも、それを藁にも縋る想いの人間は当たってるって信じるワケ」
 誰にでも当て嵌まるような曖昧な文言へ何故人は一喜一憂するのか、ざっくばらんに解説してみせた。
「だから妄信してればいつか破滅ってね。それ利用する悪徳占い師も居るしねぇ」
 さらりと怖い事をのたまう清嗣に影響されて、ざわつく一般人信者たち。
「こ、光世蝕仏様は悪徳占い師ではない!!」
 空気の変化を敏感に感じ取ったのか、必死で反論するビルシャナ。
「占い聞いても結局は、自分で考えてどう行動するかが大事だろ?」
 清嗣は勢いに乗ったまま旗先を制して言いくるめるべく、ビルシャナのみならず信者らへ聞こえるように言い放った。
「何でも言えるけど、そこで立ち止まって自分で考えることをしなくなったらさ、人生もう自分の物でもなくなるし、何やってるかも分からなくなるんだよ」
「自分で考える事が大事……」
「自分の物じゃない人生……」
 ここまで言われてようやく『占いに支配された人生とその破滅』がリアルに想像できたのか、信者たちの表情が曇る。
「そもそもそこで偉そうにしてる鳥さんよ……占いオンリーでは救われなかっただろ?」
「ぐっ……」
 ビルシャナはビルシャナで、占いだけ信じれば全て上手くいくという持論と光世蝕仏との板挟みに陥って、本気で苦悩するのだった。


 ドシャァッ!
「……ねえ蒼眞……お天気占いは知ってる……?」
 日柳・蒼眞(無謀刀士・e00793)は、相変わらず月白・鈴菜(月見草・e37082)に蹴飛ばされてヘリオンから落下してきた。
「飛ばしたものの倒れ方で天気を占うものよ……」
 そんな鈴菜の無表情ゆえの迫力から目を逸らして、膝の埃を払いつつ立ち上がる蒼眞。
「……占いでどんな結果が出たとしても学校や仕事やらを休める訳でもないだろうに……」
 ビルシャナへ至極まともなツッコミを入れた。
「本日の運勢は最悪で何をやっても上手くいかないと出ているから休ませてくれ、と言われて休ませてくれる所はかなり少ないと思うぞ……」
 とても、今しがたまで機内で小檻へおっぱいダイブしていた男のセリフとは思えない。
「……占いといえば、一昨年の初詣ではおみくじをそれぞれ別の神社で買ったけど、二回とも大凶が出た事があってな……」
 ふと、蒼眞は遠い目になって遠くない過去について語り出す。
「どちらも行動注意とか痛い目に遭うとか書かれていて、その場で痛い目に遭ったから結構当たっていたのかもな?」
 話を聞いていた鈴菜の目つきがさらに鋭くなったのは気のせいか。
「だけどまあどちらも俺が女の子にちょっかいを出した結果だし、その後殴られたり地面に沈められたけど何も問題は無い。少しの間だけはいい思いもしたからな」
 ちょっかいを出されたヘリオライダー女子2人や、今初めてその話を知った鈴菜にとっては問題だろう。
「もしおみくじに書かれた事を律儀に守って自重していれば、当然そのいい思いも出来なかった筈だ」
 けれども堂々とほざく蒼眞の論理には、背骨が自身のセクハラという点を除けば、充分な説得力がある。
「占いで悪い結果が出たからってそれを避けてばかりいたら、幸せまで逃すってことか」
「占いって信じすぎるのも良くないのね」
 信者たちはすっかり蒼眞の話術に引き込まれて、自分で行動する大切さを再認識し始めた。
「世の中の大抵の事柄は、やって反省するかやらずに後悔するか、でしかないんだしな」
 己が欲望の赴くままに生きている蒼眞だけに、その言葉には重みがある。
 今まで散々に積み重ねてきた、反省と満足感という名の重量が。
「……相性占いってあるじゃない……?」
 相方の演説か終わったところで、次は鈴菜が口を開く。
「……それで、もし好きな相手との相性が最悪だったりすれば……どうするのかしら……?」
「即刻別れる方が身のためである!」
 断言するビルシャナとは対照的に、信者らが困惑した様子でざわついた。
「だ、大丈夫よ。そんな時のための開運グッズでしょ。悪い運を浄化してくれるのよ!」
 中にはそんな反論をする信者もいたが、鈴菜は続ける。
「なら……占いに従って相性最高の相手を……好きになれるの……?」
 ぐ、と息を飲む信者たちとビルシャナ。
「……私はそんなのは嫌よ……相性がどうのじゃなくて……その人だから好きになったのだから……」
 鈴菜は情のこもった口調で熱弁を奮う。
「……それに……相性が悪いから何なの……?」
「それは、例えば喧嘩が絶えないとか、事故に遭うとか」
「……それは好きな人が意図的にやっているとでも……?」
 痛いところを突かれて、信者たちはおろかビルシャナすら反論できない。
「……私が好きになった人は……そんな事はしないわ……いつも私の事を大切に想ってくれているわ……」
 これらは全て蒼眞作の台本なのだが、鈴菜の演技力と感情論そのものの説得力が信者たちを圧倒した。
「……それに……たとえどんなに酷い目に遭うとしても……一緒にいてくれるならそれだけで私は幸せよ……」
 実際のところ、鈴菜自身にこれらの自覚は無いはずだが、酷い目に遭うという文言に妙な現実味を帯びている気もしなくはない。
「……それと……これは相性占いだけではないけれど……」
 しんと静まり返った信者らへ向かって、鈴菜は淡々と語りかける。
「……どんな占いでも……探せば違う結果のものもあるわ……何を信じるのかは……自分で決めれば良いだけなのではないかしら……?」
「何を信じるかは自分次第……」
 好きになった人を信じると自ら断言した鈴菜のアドバイスだけに、その言葉は重く信者たちの胸を打った。


「テレビの星座占いな……あれ同じ日でもチャンネルによって、順位とかアドバイスが全然違うのはどうしてかの?」
 次いでおもむろに疑問を口にするのは、ファラハ・アルワーキ(オウガの光輪拳士・e50604)
 異国情緒溢れる煌びやかな衣装とエキゾチックな雰囲気を纏った、オウガの美女である。
「いちど真逆の事を言われた時など途方に暮れたものじゃ」
 プラプータから地球に移り住んでしばらく経つからか、ファラハはすっかり日本の文化にも馴染んだ様子で、誰もが思う素朴な疑問を代弁した。
「あるある……」
「占いが人を導くのなら、なにゆえ余計に迷わせようとしてくるかの?」
「占いにもそれぞれ流派があるからな」
 と、ビルシャナだけは鈴菜やファラハの問いかけに惑わされず踏ん反り返っていたが。
「そうよね。朝や夕方の十二星座や誕生月ランキング、どれを見ようかいつも迷うもん」
「雑誌の星占いもてんでバラバラだし」
 信者たちは今までの説得によって占いへの猜疑心を充分掻き立てられていた。
「その点筋肉は嘘をつかぬ」
 ならば、とファラハは彼らの解脱——否、宗旨替えの後押しをすべく、自信満々に言い放つ。
「鍛えれば鍛えた分、必ず応えてくれるのじゃ」
 ふんわりしたパフスリーブの袖をめくって立派な力瘤を作ってみせれば、それを見た信者たちから歓声が上がった。
「たとえ占い通り不運が訪れたとしても、鍛え上げた筋肉があれば大体何とかできる!」
 言葉だけを聞けば、ファラハの持論は相当な暴論に聞こえることだろう。
「さらに己が肉体に自信を持つことで、不運の方から遠ざかって行くのじゃ」
 だが、見目麗しい美女でありながら現実に日々鍛錬を欠かさないファラハが言うからこそ、深い含蓄も出るというもの。
 言うなれば、実際に強靭で引き締まった肉体を手に入れたファラハ自身が、筋肉万能論の何よりの根拠なのだ。
「修行、そして筋肉! これぞ未来を切り開くラッキーアイテムよ!」
「おおおおおお……!」
 ファラハの宣言に心底感じ入ったのか、呼応する信者たち。
 占い絶対教が筋肉万能教に取って代わられる日も、遠くはなさそうだ。
 さて。
「俺占いとか全然見ないからなー……女子とかが占いキャーキャー言いながら見てんのとか、よく分かんねーし……」
 栗山・理弥(見た目は子供気分は大人・e35298)は、そんな男子らしい感想をぼやいていたが。
(「……いいや、案外馬鹿にできないのか……いやいや!)
 嫌でも思い出すのは数年前の記憶。
 縁切神社の初詣で大凶を引き、そのおみくじの内容——待ち人待ってないのにわんさかくる——が何故かぴたりと的中して、ショタコンビルシャナに出会いまくった負の輪舞曲。
「これは知人の話なんだが」
 そんな悪夢を振り切るように、さっさと説得を始める理弥。
「……そいつ、昔好きな人がいて、その人との関係で悩んでた時に軽い気持ちで占いサイト登録してみたらしいのな」
 いかに他人の話とはいえ、元よりさっぱりした性格の理弥にしては珍しい内容なだけに、それだけ彼の信者らを助けたい気持ちがよく表れているといえよう。
「そしたらその人こそ運命の人です的なこと言われてすっかりその気になって、言われるまま相談料払い続けて、指示通りのおまじないを次々やってみたんだと」
 ここだけ聞いてもその後の展開が簡単にわかりそうなものだが、
「うわぁ……」
 信者の反応は明らかにドン引きする者と、
「凄いじゃん!」
 目を輝かせる者と半々な辺り、ビルシャナの洗脳の恐ろしさもよくわかる。
「でもいくらやっても全然恋が実る気配はないし、なんかおかしいと思った時には既に数万くらいつぎ込んでたって……」
「ああ~……」
「おまけに、その好きだった人には結局遊ばれてただけで、全然運命の人でも何でもなかったっていうオチつきだ」
 流石に全てのオチを聞いてのリアクションは、やっぱりなという呆れの溜め息と、知人を気の毒がる同情の溜め息の大合唱であった。
「知人はまだいい方で、世の中には占いに大金つぎ込んで大損する奴もいるからなー……ま、占いは望みを叶えてくれるものじゃないってことだな!」
 そんな彼らへ、理弥は非情な占い商法の現実を懇々と語って聞かせた。
(「ほんと占いとかって望みを叶えてくれるもんじゃねえよな……」)
 ともあれ、理弥の複雑そうな溜め息をよそに、
「占い信じるのやめる……不幸になりたくないし」
「大損したくもないしね」
「痛い目に遭っても嫌だし」
「私、体を鍛えようかな……」
「彼氏と相性最悪とか言われたけど気にしない事にするわ」
「占いに縛られない人生を歩くわ」
 信者になりかけていた一般人たちは口々に占いを見限って、無事ビルシャナの魔の手から逃れた。
 後は孤立したビルシャナをぶちのめすだけという段階になって、ケルベロスたちの頭上が突然閃光で照らされた。
「氷晶放出」
 ヘリオンデバイスである。
「TRPGゲーマーとして言えるのはどんなに出る確率の低いダイス目だろうと出るときは出るって事だ」
 早速ジェットパック・デバイスで加速した蒼眞が、ビルシャナへ一太刀浴びせる。
(「占いよりも物理のフワフワの方が最高だと思うんだよね」)
 清嗣は響銅を一般人の方へ向かわせて避難誘導を任せると、自分は懺悔自新を発動。
 足に履いたチェイスアートで追跡するまでもなく、ビルシャナを撹乱している。
(「にしても、光世……? 何やら聞いたことがあるような無いような?」)
 ファラハはメジェリーナの属性不明な息に合わせて自分も飛び蹴りをかましつつ、光世蝕仏について記憶を手繰っていた。
「しぶといようなら空から唐竹割りでもすっかナ」
 デバイス初装着が新鮮なのか楽しそうに鳥を殴っているのはフレッシュ。
「いっっけー!!」
 最後は理弥がどこからともなく取り出したやかんをビルシャナの顔面へ見事命中させて、ついに息の根を止めたのだった。
「力こそパワーとは地球人もうまく言ったものよの。身体を鍛えるに限るのじゃ」
 すっかり打ち解けた様子で一般人らと語らうのはファラハ。
 清嗣も怖い思いをした彼らへ飴を配る傍ら、万札を握りしめてはぼうっと空を見上げるフレッシュに気づいて、微笑ましく見守っていた。

作者:質種剰 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年8月23日
難度:普通
参加:6人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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