黄泉の門

作者:そうすけ


 ブレイザブリクから死者の門へと続く転移門の内側、焚かれた青火が異次元の通路をほのかに照らし出す。通路の両壁に人の形をした影が群がっている。影は死者の怨念、いや生への未練が作り出したものだ。冥府より吹く風に舞いあげられた青い火の粉を浴びながらも、影は微動だにしない。奥からゆっくり近づいてくる音に気をとられている。

 シャラン、カラカラカラ……シャ、カラカラカラカラ……。

 死者の泉の門番である『門』が、剣を引きずりながら異次元の通路をさ迷い歩いていた。『門』は血でまだらに染まった赤黒い甲冑を身にまとっており、鼻を覆いたくなるような生臭さを漂わせている。兜の奥の瞳は白く濁り、虚ろだった。
 彼はいったい幾つ目の『門』なのか。
 たとえ地獄の番犬に食い殺されたとしても、また新たな『門』が出現し、死者の泉を守る。『門』には、死者の泉に取り込まれて『死を与える現象』へ昇華する以前の記憶はない。『門』になってからの記憶も。あるのは、再生されて壊されるまでの、記憶と呼ぶにはあまりにも短い思いだ。
 だが、体は痛みを覚えている。繰り返し繰り返し、体に刻まれる痛みだけは、忘れたくとも忘れさせてもらえなかった。
 『門』は足を止めると、虚ろなまま右に左にと体をゆすった。
「おぉぉぉぉ……」
 『門』の口からこの世のものとは思えぬ禍々しい声が洩れる。
 悪臭とともに広がる声には、通路の壁に群がった影たちですら震えあがった。


 ヘリオライダーのゼノ・モルス(サキュバスのヘリオライダー・en0206)は、パワーアップしたヘリオンの前でケルベロスたちを迎えた。
「集まってくれてありがとう。みんなもう聞いていると思うけど、今年の大運動会が成功したことにより、ヘリオンに新しく『ヘリオンデバイス』が搭載されている。今回の作戦が『ヘリオンデバイス』を使う初めての実践になる。よかったら使ってね」
 『ヘリオンデバイス』とは。
 ヘリオンに装備された『常駐型決戦兵器』で、これまでケルベロス・ウォーでしか使えなかったケルベロスの強化が、ヘリオンを伴う戦いではいつでも使えるようになるというものだ。
「さて、作戦の前景から説明していくね」
 ケルベロスは、死神と合同で陥落させたブレイザブリク要塞の探索を進めていたところ、ブレイザブリクの隠し領域より死者の泉に繋がる転移門を発見する事に成功していた。
 ちなみに、転移門の発見者はリューディガー・ヴァルトラウテ(猛き銀狼・e18197)だ。
 その後、この隠し通路が、双魚宮「死者の泉」に繋がっている事までは確認できたのだが……。
「そう簡単に『死者の泉』には近づけさせてくれないだよ」
 ゼノは腕を組んだ。ケルベロスの前進を妨げるものについて、憮然とした表情で語る。
「『死者の泉』は、倒しても倒しても蘇る『門』に護られている。限度はあるけどね。で、この『門』をどうにかしない限り、僕たちはいつまでたっても『死者の泉』に近づけないというわけ。しかも、ここの攻略には時間をかけられない。エインヘリアル側に気づかれて、ブレイザブリクと死者の泉のルートを封鎖されてしまうからね……」
 そこで、戦力を大きく割り当てて、『門』の撃破を行うことになったというわけだ。集中して繰り返し『門』を叩くことで、エインヘリアルたちが気づく前に『死者の泉』に到達するのだ。
「『門』の正体は、死者の泉に取り込まれたエインヘリアルの門番、『死を与える現象』が実体化したものだよ。だいたい、黒い鎧をまとったエインヘリアルの姿で、ブレイザブリクから死者の門へと続く転移門の内側、異次元の通路を彷徨っている」
 戦闘はその魔空回廊のような異次元的な通路内で行われる。
 通路では『門』の戦闘力が数倍に強化されている為、ケルベロスであっても苦戦は免れないだろう。
「みんなが相手をする今回の『門』は、『ゾディアックソード』を装備している。ソードに秘められた力のほかにも、身にまとう鎧の力も使うよ」
 鎧から刃のように突き出た『痛みの記憶』が、『門』に肉薄する者の身と心を傷つけるという。
 ほかに使う技は、『ゾディアックミラージュ』と『星天十字撃』の二つだ。
 そうそう、とゼノは声をあげた。
「戦いの場には周りに死者の魂というギャラリーがいるけど、彼らはただ見ているだけで攻撃はしてこないから安心して。……といっても、『門』自身がめちゃくちゃ強いから、油断しないこと。それで、倒したら、次に『門』が再生する前に戻って来てね」
 『門』の再生回数には四十二回の制限があるようだ。つまり、四十二回倒せば、新たな展開が開ける。
「死者の泉に直通するルートが開けば、いよいよエインヘリアルとの決戦だよ。さあ、気合いを入れて行こう!」


参加者
平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)
ステイン・カツオ(砕拳・e04948)
シルディ・ガード(平和への祈り・e05020)
リビィ・アークウィンド(緑光の空翼騎士・e27563)
副島・二郎(不屈の破片・e56537)
 

■リプレイ


 幾多の剣が陽光を弾いてまばゆく輝く。
 五人のケルベロスを乗せたヘリオンは、東京八王子市、元『東京焦土地帯』奥にある磨羯宮ブレイザブリクを目指して飛行していた。回転するブレードが夏の熱い空気を叩くように割って、前へ進む。
「もうすぐだよ、準備して」
 ヘリオライダーのアナウンスを聞きいたケルベロスたちが、降下の準備を始めた。
「ゼノさん、ゼノさん、ヘリオンデバイスを発動させる、コマンドワードって言うのがあるんだよね!」
 シルディ・ガード(平和への祈り・e05020)は、わくわくした様子でヘリオライダーに訪ねた。大運動会の成功を受けて、ヘリオンに新しく装着されたデバイスと、それがケルベロスにもたらす効果が気になって仕方がないのだ。
「ねえ、なんて言うの。やっぱり戦隊ものの必殺技シーンみたいに叫ぶの?」
 ゼノは照れくさいのか、ごにょごにょと口の先だけ動かして誤魔化す。
 微笑みを浮かべたリビィ・アークウィンド(緑光の空翼騎士・e27563)が助けに入る。
「あとすこしの我慢ですよ。ゼノさん、新装備、どこまで使いこなせるかわかりませんが精一杯務めさせていただきますね。さあ、後へもどってお楽しみの降下に備えましょう」
 平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)は軽く体をほぐしながら、死者の泉に思いをはせた。
(「ちょこちょこ名前は聞いてたけど、実際どんなところなのかなー?」)
 後部座席に戻って来たリビィたちを目の端に捕える。
(「彼女は行ったことがあるのかなー?」)
 死者の泉は、定命化する以前のヴァルキュリアたちが異世界デスバレスを覗き、『エインヘリアル』となる古強者の魂を探していたところだ。探索中に『死者の泉』に魅入られ、記憶を失った者も多いと聞く。幸い、彼女は違うようだが。
 和の思いが伝播したのか、隣で副島・二郎(不屈の破片・e56537)がぽつりと零した。
「……門になり果てたモノ、か」
 黒騎士という存在に自分のあり様を重ねて見てしまう、二郎の思いは複雑だ。
 和が独白めいた口調で言う。
「たしか『門』……黒騎士は、双魚宮にいた門番のエインヘリアルが、死者の泉に取り込まれて『死を与える現象』へ昇華した存在でしたよねー」
「ああ、四十五回の再生限度つきのな」
 ステイン・カツオ(砕拳・e04948)が鼻を鳴らす。
「限度ありとはいえ、デウスエクスが蘇るとは。厄介極まりないでございますね。まるで黒くてしぶといアノ害虫……、ゴキそのもの」
 ヘリオンのドアが開き、夏の風が勢いよく吹き込んできた。
 勢いよく立ち上がると、真っ白なエプロンをはためかせながら降下口へ向かう。
「私のメイド魂にかけて、デウスエクスGはぶっ殺す! それではみなさん、異次元の通路に湧く害虫駆除に参りましょう」
 ゼノがヘリオンデバイス発動のコマンドを叫ぶと、空へ身を投じたケルベロスたちの体を光の粒子が包み込み、それぞれに応じた武器に変化した。


 着地はいつもよりスムーズでソフトだった。空中で、二郎がさっそくレスキュードローン・デバイスを起動させたのだ。
「なかなか便利だな。怪我人の搬送や保護に活躍してくれるだろう。メディックに相応しいデバイスだ。問題は、このドローンがオレとどこまで離れることができるのか――」
「ねえねえ、聞いてー。すっごく足が軽い。ぐっと足が速くなってる」
 感動にはずんだ声が語尾にかぶさった。
 シルディだ。地上に到着するなり、ドローンを飛び降りてブレイザブリクの入口までひとっ走りして戻ってきたのだ。おろしたての靴を履いた子供のように、チェイスアート・デバイスを纏った足でとんとんと地面を蹴り飛んではしゃいでいる。
「開発がすごく大変だったと思うけど……本当にすごいよね、これ! ゼノさんのコマンドが風の音でよく聞こえなかったのは残念だけど」
 リビィは、機械仕掛けの巨腕――アームドアーム・デバイスを装着した腕をあげて、ブレイザブリクを指示した。
「さあ、行きましょう。デバイスの真価はデウスエクスとの戦闘中に発揮されます。お相手を待たせるのも失礼ですし」
 そうだね、とシルディ。
「死神さんとの約束から少し時間が空いちゃったけど、忘れてないって事を行動で示さないとね!」
「ようし、頑張るよー!」
 和があげた声と腕に、みんなのそれも追随した。
 すっかり調査されつくした要塞内部を走り抜け、ケルベロスたちは発見された転移門をくぐり、青火が揺らめく異次元の通路に入った。意外と高さと広さがある通路の中は、外の気温と異なり、ひんやりして過ごしやすい。いや、むしろ寒い。
 体をぶるりと震わせて、ステインが言う。
「まあ、暑いよりは戦いやすいですね。ありがてぇことでございます。さては死者の魂の仕事ですか。何もしてこないそうでございますが、中に知り合いがいらっしゃるかもしれません……あんま会いたくねえ」
 具体的に誰、とは言えないが、これまでに倒したデウスエクスを含め、会えば恨み言の百や二百、マシンガントークで浴びせてくるだろう顔がいくつも頭に浮かぶ。
 そうなったら即、洗剤を含ませたタワシで頬の肉をこすり抉るように殴りつけ、黙らせるだけだが。
「壁ごと洗浄してやる……って、幽霊に漂白剤は利きましたか?」
 和は柔らかく黒髪を揺らして、ステインに目を向けた。
「どうだろうねー。やってみたことないから、ボクには判らないなー。それより、『門』はどこだろうねー?」
 行けどもいけども、泉にも『門』にも突きあたらない。時折、蒼くうねる壁に黒い死者の影がよぎるだけだ。目に見える風景にほとんど変化はなかった。
「そうだ。これでちょいと調べてみようー」
 和は額にあげていたゴーグル――ゴッドサイト・デバイスを降ろした。
 目に見えない重力の細く長い鎖が、蒼くうねる異次元通路の壁を突き抜けて、蜘蛛の巣上に広がっていく。
 もちろん、これはものの例えだ。ゴッドサイト・デバイスの装着者は非戦闘状態にあるとき、自分を中心とした半径一キロ以内にいる『全ての敵味方』の位置を、地形を無視しておおまかに把握することができる。
「いた。こっちに向かってきているー」
 とたん、カラカラと何かを引きずるような甲高い音が聞こえてきた。曲がり角から、黒い風がぶぁっと吹きだした。たちまち通路の両壁を死者の霊が覆う。
 シルディはミッションレコーダーのスイッチを入れて録画を開始した。壁を覆う死者の霊を録っておけば、後で死者の泉について何か新しい情報が得られるかもしれない。
「下がってください。私たちの後へ」
 目に闘志の炎を燃やして、リビィとステインが前に出る。
 『門』が姿を現した。
「うわ~、すでにボロボロ。でも、ボクたちは黒騎士さんのこと、見くびらないよ。全力で倒すからね。まずはステインさんから、命中率アップだ!」
 シルディが手にしたガネーシャパズルが、カシャカシャと音を立てて展開、開口する。無数の小さな光の蝶が飛び出して、ステインを中心に渦巻いた。
「おお、蝶の羽ばたきに気が研ぎ澄まされる。攻撃を外す気がしねぇでございますよ」
 ステインは高い天井すれすれまで飛び上がった。ジェットパック・デバイスの効果波及により、他の者たちの体も空に浮く。
 因縁の敵、ケルベロスの姿を認めた『門』が、剣を体の横で立てて構え、突撃してきた。
 和は慌てることなくドラゴニックハンマーを振り上げる。高いところで金属ロックが外れる音がした。
「そこで止まってー」
 腕が和の胸の高さに降ろされたときには、拳に龍頭が乗っていた。『門』に向けられた口に光の粒が集まり始める。
「開幕どっかんなのー!」
 竜が吼えた。
 光で満ちた通路を轟音が激しく揺さぶる。
 ――ぐ、おおおお……っ!
 叫び声がして、闇が光を切り裂いた。一拍遅れて、青を凍らせて固めたような黒に、無数の光点が灯る。
 凍てついた星座の煌めきが、ステインとリビィに襲い掛かった。
 リビィは両肩に装着したショルダーシールドを広げると、ステインの前に出た。巨腕を体の前で揃えて壁をつくり、自分自身を守る。
「アークウィンド!」
 二郎はチームの守人にグラビティの盾を授けた。
 通常よりも人数が少ない。デウスエクスを相手に戦うとなれば、二重、三重の防護は必須だ。
 ピシピシと氷が割れるような音がリビィの全身を襲う。
「盾は簡単に抜けるとは思わないでくださいね」
 攻める音が止むと同時に巨腕を開いた。
「いつの間に!!」
 恐らくは前の攻撃を放つと同時に接近してきていたのだろう。手の届く距離に『門』がいた。
 ゾディアックソードが壁の死者の霊を切り裂きながら、振られ――。
「避けろっ」
 二郎の声に頭よりも体が先に反応した。すでにデバイスの効果で飛んでいたにも関わらず、光の翼を広げて上へ飛び逃げる。
「ひょえー!」
「うわーっ!」
 シルディと和の足の斜め下が、斬撃でぱっくりと割り裂かれた。黒い割れ目の中でリブラが光る。
「下だ、アークウィンド」
 再び二郎が叫ぶ。
 『門』は剣先で床を切り裂きながら、ゾディアックソードを振り上げた。剣に宿ったスコーピオがリビィを狙う。
「隙あり!」
 ステインは急降下すると、剣が振り切られる直前の、『門』の体と剣の間に開いたわずかな隙間に身を滑り込ませた。力強く床を踏み込んだ左足で、全体重を乗せた拳を『門』の腹にぶち込む。
 剣先が届く直前に大地が割れるように重い音が響き、『門』が体をくの字に曲げた。パラパラと音を立てて砕かれた鎧の破片が落ち、黒い瘴気が流れ出る。元はエインヘリアルのはずだが、体は見えない。そもそも、まだ肉体が残っているのか?
 ステインは拳に息を吹きかけ、黒い瘴気を払った。
「Gはこうしてぶっ叩くのが一番でございます」
 『門』のふがいない姿を、壁のギャラリーたちが隙間風が立てるような薄気味のわるい声で笑う。
「わぁ、気持ち悪い。うごうごしてるよ……」
 シルディは死者の影の動きを薄気味悪がりながら、光る蝶を飛ばしてリビィを癒した。つづけて自分の体の周りに光る蝶を飛ばす。
 『門』は殴られた腹を抱えてうずくまったままだ。微かな肩の上下がなれば、死んでいると思うだろう。
「あんがい弱かったね。このまま一気に倒しちゃおう」
「いえいえ。油断は禁物でございます。Gはしぶといですよ。死んだと見せかけて、いきなり動き出す――って、テメーなに逃げてやがる。待ちやがれ!!」


「ここはボクのチェイスアート・デバイスの出番だね!」
 シルディから韋駄天の足を得たケルベロスたちは、いきなり逃げ出した『門』を追って飛んだ。
 現れたときの、のそりとした動きとは対照的に、『門』の逃げ足は速い。が、ケルベケスたちも以前とは違う。
 追跡を始めてものの数分で、ケルベロスたちは『門』に追いついた。
「Gさんは焼き殺すのもありじゃないかなー」
 和が、にこやかに、さらりと怖いことを言いながら印を結び、きる。
「ということで、かみさまー、燃やしちゃってくださーい!」
 体よりしみだした半透明の「御業」が、『門』の背に炎の玉を投げつけた。
 やった、と思った瞬間、『門』が体を燃やしたまま壁を駆け上がった。
 飛行状態の敵を見て、普通では攻撃が届かないと判断したのだろう。『門』は逃げたのではなく、天井が比較的低くなっている所までケルベロスたちを誘い出したのだ。
 『門』は天井近くまで駆け上がると、ケルベロスに向かって跳んだ。リビィとステインたちの頭の上を越し、口をОの形にして驚愕するシルディに迫る。
「こいつ――」
 二郎は振り返りざまに九尾扇を振って、守りの風を起こした。
 シルディの体を取り巻く風の渦が、敵の剣先をわずかにそらす。
 『門』は落下しながら首を後へ回した。
 虚無の目が二郎を捉え、心の奥底にしまい込んだトラウマを揺さぶり起こした。
「うわぁぁっ!」
 二郎は身がよじれるような苦悶の叫びをあげ、顔に巻かれた包帯を指でむしり取り始めた。
「獣……よ、よせ! 顔が、顔がぁ……」
 リビィがしっかりと腕を掴んで、顔から手を引き離した。
「二郎さん、気をしっかり保ってください。シルディさん!」
「任せて」
 ガネーシャパズルを飛び立った光の蝶の群れが、二郎の顔を優しく覆い隠した。
「やだー。飛んで向かってくるなんて、本物みたいー」
 和は電光石火の早業で戦乙女の朱槍を繰り出した。
「害虫はびりびりつんつんなのー!」
 着地した『門』が動き出す前に、槍が発する稲妻で痺れさせる。
 身もだえしながらも、『門』は星座の煌めきを解き放った。
「そんな苦し紛れの攻撃で、この盾を砕けると思ったら大間違いです!」
 リビィが、ショルダーシールドを広げて仲間たちを守る。
 二郎も重力の盾でリビィの傷を癒し、守りを強化した。
「取り乱してすまなかった。さっさと仕留めてしまおう。通路の様子が変だ」
「そういえば、死者の影が見当たりませんね。てっきりついてこれずに、遅れているだけだと思っておりましたが……知り合いの顔を見つけてしまう前にいなくなってくれてようございました」
「それが、あまりよろしくなさそうだぜ」
 言葉を待っていたかのように、一つ、また一つ、通路の灯りが奥から消え始めた。蒼いうねりが止まり、弾力を失った壁や天井から黒い破片がパラパラと落ちる。
 『門』が、ゾディアックソードを支えにして立ち上がった。
 リビィが竜頭砲に変形させたドラゴニックハンマーで狙い撃つ。
「嫌な予感がします。もしかして、『門』が倒れると同時に異次元通路も姿を変えるのでしょうか」
「ありえるね。でも、二郎さんのドローンにボクのデバイス機能が加われば、安全に脱出できるよ。ね、二郎さん!」
「あ、ああ……だが、急いだほうがよさそうだぞ、シルディ」
「OK。んじゃあ、ボクが『門』さんの武器を押さえてる。トドメを頼むね、ステインさん」
「かしこまりました。最後は派手にぶちかまして見せましょう」
 シルディは、顔の横で軽く握った拳を招くように三回動かした。
 ニャン、ニャン、ニャン。
『起きて、大地のネコさん。遊び相手がそこにいるよ!』
 どこからともなく現れた粘土のネコさんが起き上がり、ゾディアックソードに飛び掛かった。
 じゃれつく粘土ネコに邪魔をされ、『門』は攻撃はおろか、防御できなくなった。
 右腕を突き出したステインが、ロケットのごとく目標に向かってかっ飛んでいく。
『ぶち抜けろ、あほんだらぁ!!』
 文字通り、『門』は腹をぶち抜抜かれて倒れた。
「わーい! ヴィクトリー、なのー!」
「和さん、喜んでいる場合ではありません。はやく乗ってください」
 リディが手を差し伸べる。
 全員がレスキュードローンに乗り込んだとたん、異次元通路が目に見えて変形し始めた。
 シルディが出口を指さす。
「んーー、GO!!」

作者:そうすけ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年8月22日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
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