紺碧と黄金

作者:崎田航輝

 優しい波音が響き、潮風が涼しさを運ぶ。
 陽光に煌めく海が美しい時節。浜辺に面した緩やかな高台に、爽やかな空気に交えて甘い香りを漂わすカフェが建っていた。
 淡い色合いの屋根が可愛らしいそこは、テラスから望める美観ばかりでなく──季節折々の美味が楽しめることでも有名。夏も真っ盛りを迎える今の時期は、マンゴーを使ったスイーツが人気だった。
 艶めくタルトに、果実もたっぷりな黄金色のかき氷。ピューレとクリームの色合いが美しいミルクレープに、旬の果物満載のパフェ。
 ソフトクリームにプリン、ジュースにスムージーとメニューはよりどりみどりで。海辺を散歩する者も含めて、多くの人々が甘味と海風に誘われて訪れている。
 ──が。
 そこに地を踏みしめて歩み来る、招かれざる咎人が一人。
「青空に海、気持ちいい空気じゃねえか」
 ああ、狩りにぴったりだぜ、と。笑みに隠さぬ殺意を表して、陽光を鎧兜に反射するそれは罪人エインヘリアル。
「食事を楽しもうってんだろ。なら俺にも、楽しみを分けてくれよ」
 鋭くも長大な槍斧を大きく掲げると、始めようぜ、と。言葉と共に地を蹴って、人々へと穂先を振り下ろした。

「マンゴーが美味しい季節ですね」
 夏の日の眩いヘリポート。イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)はケルベロス達へそんな言葉をかけていた。
 何でもとある海辺のカフェでは旬のマンゴーを使った品が人気のようで、多くの人々が訪れて賑わっているのだとか。
 ただ、とイマジネイターは声音を真剣にする。
「そこにエインヘリアルが出現することが判ったのです」
 アスガルドで重罪を犯した犯罪者。コギトエルゴスム化の刑罰から解き放たれて送り込まれる、その新たな一人だろう。
 放置しておけば無論、人々が危機に晒される。
「そこで皆さんには、この敵の撃破をお願いします」
 戦場は店の前に伸びる海辺の道。
 道に沿ってやってくる敵を、此方は迎え討つ形となる。
「人々については事前に避難が行われます。皆さんは戦闘に集中できるでしょう」
 景観にも傷つけずに倒すこともできるはずですから、とイマジネイターは続ける。
「無事勝利した暁には、皆さんもお店でマンゴーなど楽しんでいってはいかがでしょうか」
 数多くのメニューが揃っており、旬の風味を存分に味わえるはずだ。また、海もすぐ傍なので浜の散歩などしてみても涼めるでしょうと言った。
「そんな憩いのためにも是非、撃破を成功させてきてくださいね」
 イマジネイターはそう声音に力を込めた。


参加者
瀬戸口・灰(忘れじの・e04992)
ミント・ハーバルガーデン(眠れる薔薇姫・e05471)
火倶利・ひなみく(スウィート・e10573)
ランドルフ・シュマイザー(白銀のスマイルキーパー・e14490)
カシス・フィオライト(龍の息吹・e21716)
ノチユ・エテルニタ(夜に啼けども・e22615)
人首・ツグミ(絶対正義・e37943)
ラグエル・アポリュオン(慈悲深き霧氷の狂刃・e79547)

■リプレイ

●夏風
 折角の食事に赴いたのに人間の一人も居ない。
 槍斧を携えた罪人は、道の只中で違和を覚えて見回していた。
 だが幾ら見ても獲物の姿はない。然もあろう、一帯の人々は既に逃げ終わり、代わりにそこに居るのは──。
「はぁい、仰る通り食事に参りましたよーぅ♪」
 こつん、と。
 ブーツで地を踏み眼前に現れる人首・ツグミ(絶対正義・e37943)。くふ、と、零す笑みは美しくも酷薄で。
「鹵獲して力を頂くか、魂奪って喰らい尽くすか──どちらがいいか選ばせてあげましょうかーぁ?」
「……番犬」
 罪人は目を開きながら、微かに怒りを滲ませる。
「俺が、食われる側だって言いてえのか」
「少なくとも、お前の楽しみの為に死んでやれる人間は一人も居ない」
 死すべき咎人には、欠片の慈しみもなく。立ちはだかるノチユ・エテルニタ(夜に啼けども・e22615)も冷めた声と視線を注いでいた。
「折角の景色も台無しだ」
「……何?」
「見苦しいって言ってるんだよ」
 投げられた言葉に、罪人は武器を握り締める。
「……死にてえなら、お前らから喰らってやる」
 同時、言葉と共に走り込んでくる。だから瀬戸口・灰(忘れじの・e04992)は軽く息をついてみせていた。
「邪魔は叩き切る、か。食事の楽しみはマナーあってのものだぜ。知らないなら教えてやろうか?」
「はっ、これが俺の作法さ!」
 罪人は構わず柄を振り上げる。
 が、その頃には灰が黒色歯車から黒鉄の粒子を飛散。宙に輝きを瞬かせて仲間の戦意を研ぎ澄ませていた。
 直後には、その輝きを身に帯びたミント・ハーバルガーデン(眠れる薔薇姫・e05471)が、地を蹴って跳躍。
 爽風に薔薇が舞うかのように、軽やかに宙で翻って。
「電光石火の蹴りで、痺れてしまいなさい!」
 靴を纏う魔力の茨を尖らせて鮮烈な蹴撃で膚を抉り裂く。罪人がよろめけば──。
「カシスさん」
「うん、任せて」
 紅の竜翼で風を縫い、豪速で迫るのがカシス・フィオライト(龍の息吹・e21716)。一度翼を大きく開き、即座にはためくことで猛加速すると──。
「その動きを、封じてあげるよ」
 前方へ回転しながら冷気を棚引かせて飛び蹴り。巨体の足元を凍結させながら払い、体勢を突き崩した。
 そこへツグミが機械腕で打突を繰り出せば、罪人は血を零して後退。その頃には包囲も完成し──見回す罪人は呟きを零す。
「手加減はなしってわけかよ」
「他人様のSummer Timeを邪魔立てするたあ、許しちゃおけねえからな」
 一歩前へ出ながら、ランドルフ・シュマイザー(白銀のスマイルキーパー・e14490)は己の拳を握り込んでみせた。
「Gelatoが溶ける前に片付けてやるさ」
「……言ってくれるな。デザートは俺のもんかも知れないぜ」
 罪人が槍を水平に構える、が、ランドルフは露ほどの怯みも見せずに。
「テメエに狩らせる命も、喰わせるマンゴーもココにはねえよ。──あの世で柘榴でも齧ってろ!」
 刹那、風の如く跳躍。逆光に銀毛を煌めかせながら、眩き蹴撃を叩き込んで巨体を大きく下がらせた。
 罪人は呻きながらも斬風を返すが、灰とノチユ、盾役がしかと衝撃を抑えれば──。
「治療はこちらに任せてもらおうかな」
 夏の空気の狭間にも、冬を香らす涼しげな声音を響かせて。ラグエル・アポリュオン(慈悲深き霧氷の狂刃・e79547)が鎖を繰っていた。
 氷を連ねたそれは、波打ち踊る程に清らかな氷気を揺蕩わせる。
 治癒に専念する役回りなら、平素よりも狂気に苛まれるリスクも低い。その安堵が一層所作を淀みなくさせるように──描く魔法円で加護を齎し傷を祓った。
 ノチユが紙の蝶を翔ばし、抗魔の星屑を振り撒かせて前衛を護れば──灰も頭の上の翼猫、夜朱へ視線を上げて。
「頼むぜ」
 ひと鳴きして応えた夜朱が治癒の風を扇ぎ、皆を万全へと保ってゆく。
「これで、ひとまず問題なさそうだ」
「それじゃあ、わたしが敵を抑えておくねっ!」
 声と共に駆け抜けて罪人へ迫りゆくのが火倶利・ひなみく(スウィート・e10573)。
 足取りは軽快に、瞳は真っ直ぐに。棒付き飴型の槍をくるりとその手に携えて。魔力をパステルカラーの雷光へと輝かせると。
「これでも──くらえっ!」
 瞬間一閃、鋭利な刺突を繰り出して、眩い衝撃で巨躯をその場に縫い止めた。
 そこへツグミが刃を奔らせ斬撃を刻めば、跳んでいたミントが焔を靡かす蹴撃。火の粉と共によろけた巨体へ、灰も魔力の光を蹴り出して衝撃を重ね──。
「行けるか」
「勿論!」
 こくりと頷くひなみくが、下がらず拳に光を湛えて連撃。掬い上げる打突で、巨体を宙へ吹き飛ばす。

●決着
 倒れ込んでいた罪人は、苦渋の吐息と共に立ち上がる。血を滴らせながら、それでも零す声音には愉悦が滲んでいた。
「……やってくれるぜ。だが、斬り合いも悪くねえ」
 この後に人間を狩れるなら尚更楽しみだと。
 浮かぶその笑みに──ラグエルは息をつく。
「楽しみ、か。確かに……人の楽しみを奪うことにかけては優秀だよね、エインヘリアルってヤツは」
 いい加減懲りてほしいものだよ、と。
 呟かれた言葉に、罪人は首を振る。
「楽しみを求めることを、やめる謂れはねえな」
「だったら、こちらが遣ることも同じだよ」
 カシスは言いながら、真っ直ぐに見据えていた。
「食事は分けても良いけど、楽しみは分け与える訳にはいかない」
「そうだよ! 今日は沢山マンゴーが食べられる、マンゴー祭りなんだよ!」
 頬を膨らませながら、ひなみくも鋭い鎌を握って走り出す。
「それを邪魔させたりしない──という訳で、お前は此処でたおーす!」
 刹那、大きく振り被ったその刃を投擲。弧を描かせながら飛翔させ、巨躯の腹部を抉り裂いてみせた。
 畳み掛けるよう、灰は戦輪に蒼き冷気を湛えて──。
「夏の海に鎧兜は見てるだけで暑苦しいんでな!」
 瞬間、蹴り出して宙を奔らせ、零下の斬撃で鎧を捌いてみせる。
「大体、食事の席で暴れる奴は出禁になるに決まってんだろ。食事するならそのデカい武器もどうにかしろっての」
「これは、俺の命さ……!」
 苦悶しながらも罪人は槍を振り下ろす。が、そこへランドルフが銃口を向けて。
「海に鎧兜着けてくるSilly野郎だけに力はまだまだ有り余ってるみてえだな。なら──コイツに限るぜ!」
 放つ銃弾が穂先を弾き飛ばし、腕を跳ね上げさせた。
 そこへミントも美しきパイルバンカーを直上に掲げて──。
「雪さえも退く凍気を、その身に受けなさい」
 稲妻が閃くように、極寒の氷を纏った杭を打ち下ろして巨躯の肩を貫く。ミントの視線を受けたカシスもまた、地面に触れんばかりの低空から飛び上がって。
「華麗なる一太刀を、見せてあげるよ」
 月弧の斬撃を煌めかせ脚を斬り払った。
 よろけた巨躯へ、カシスはそのまま間を作らずにエナジー状の光の剣を無数に創造して──『断罪の千剣』。
 ──さぁ、断罪の時間だよ。
 降り注ぐ刃で巨躯を穿ち貫く。
 血潮と共に、罪人は歯噛みながらも槍を投擲してきた。
「俺は自由の身だ。断罪とは、嫌われたもんだな……!」
「嫌いだよ。お前みたいな奴等のことが、全員」
 狩りと称して刃を振りかざして、笑顔も全部摘み取るような奴等が、と。
 ノチユは退かず相対する。それがこの敵を殺す為にできる事ならば──慣れぬ陽光に目が眩んでも、仲間を庇うことは忘れずに。
「……!」
「傷はすぐに治すからね」
 敵がはっとする一瞬、既にラグエルは氷色の魔力を凝集。薄く蒼に耀く氷の刃と糸を形成し──刻まれた傷を縫合していった。
 塞がった傷へ、最後に粉雪の如き冷気を振りかければ──痛みも苦しみも、傷の跡まで残らず体力は万全。
 直後にはノチユが敵へ距離を詰めて。
「陽の光を拝めるのは、これが最期だ」
 昏く鋭く、『夜の背』を見せる一閃で巨躯の視界を眩ませる。
 それでも罪人は殺意を収めなければ──ツグミが歩み寄っていた。鹵獲か魂を奪うか一度は問うたけれど、首を振って。
「……くふ、ふ、やっぱり前言撤回しますよーぅ。力も魂もぐしゃりとまとめて刻んで……美味しいとこだけ糧にして差し上げますぅ」
 敵は絶対悪。
 なら、それを討つものは正義──如何なる手段を用いようとも。
 ツグミの揺らがぬ信念が、躊躇わぬ粛清を実行させる。
 瞬間、魔術回路を解放し、歪な魔力の翼を揺蕩わせて。超強化を齎した一撃──『遺伝子組み換えの残骸』。巨躯の胸部を抉り、巨大な風穴を開けた。
 血を吐く罪人へひなみくは『謳う怪物』。碧の目をした怪物を顕して、優しく、愛を嘯きながらその巨体を破壊していく。
 斃れゆく巨躯へ、ランドルフも引き金を引いていた。
「夏はまだまだ盛りだが、テメエにゃ『終わり』をくれてやる! 喰らって爆ぜろッ!! コギトの欠片も残さず逝きな!!」
 刹那、炸裂する『バレットエクスプロージョン』が罪人を白色の焔に飲み込んでゆく。
「念入りにブチ砕かせてもらったぜ、テメエなんざ魚の餌にもなりゃしねえ」
 煙と火の粉、その全てが晴れる頃には罪人の残滓も残っていなかった。

●夏の甘味
 波音の聞こえるカフェに人々が賑わう。
 事後処理の後、すぐに店は営業再開の運びとなっていた。
 既に番犬達も各々の時間を楽しみ始めており──ツグミも甘い香りに引き寄せられて、店内の一角に座っていた。
「さぁて、お楽しみタイムですぅ!」
 声音はわくわく、瞳は爛々と。
 期待を隠さずにメニューを開いて──。
「甘いものは即ち正義! ですからーぁ」
 早速頼んだのはミルクレープ。
 薄い生地の層に、マンゴー色の鮮やかなピューレが美しく。クリームと共に幾重にもなっている様は正に芸術で。
 はむりと一口齧れば、味も勿論。
「んんん、ミルクレープってどうしてこう幸せの味がするんでしょうねーぇ……!」
 ピューレの甘味は濃密で、仄かな酸味に新鮮さが薫る。
 クリームの優しい味わいも、包み込むようにまろやかで。生地の柔らかな歯ごたえがアクセントになっていくらでも食べられた。
「では、次はこれと、これと……」
 と、食欲は未だ旺盛。くふ、と舌で唇を拭ったツグミは、全制覇の勢いで注文を続けていった。

 ランドルフはマンゴープリンを頼んで実食中。
 ぷるりと艶めく黄金色を、スプーンで掬って一口。快い滑らかさと共に、濃縮された甘味が口に広がって。
「Delicious!」
 満足げな吐息を零しながら、二口三口と、早々に平らげてゆく。
「コイツのSweetness……戦いの後にピッタリだぜ」
 更にジェラートは、きんと冷える冷たさが温まった体に心地良く。爽やかさに、ランドルフも切れ長の瞳を柔く細めていた。
 勿論満腹には遠く、店員呼び止めて。
「Refill more!! PuddingとGelatoのおかわりだ、出来るだけ即行で頼むぜ!」
 夏に映えるマンゴーのスイーツを、ランドルフはまだまだ頼んでは、舌鼓を打ってゆく。

「さて。ビーチで暴れた後だし、冷たいものが食べたくなるよな」
 と、灰は夜朱と一緒にカフェへ。涼しい一角に着くと、まずはパッと思いついたかき氷を頼んだ。
 置かれた器には、濃い橙が綺麗な氷と、果実がたっぷり。
「フルーツがのってるようなのはフラッペだっけ?」
 呟きつつも早速一口。
 ふわふわの氷はさっと溶けて、甘い果汁の風味を香らせる。果実は瑞々しくて、蕩ける程柔らかいから、氷と一緒でも食べやすくてどんどんいける。
 だからこそ──。
「一気にキーンとくるんだよなぁ」
 冷たさと共に、特有の感覚が訪れる。
「これもまた、かき氷の醍醐味って言えなくもないか」
 頭痛は頭痛だから少し動けなくなるけれど……と、その隙を狙って夜朱がさっ、さっ、はむり。
 素早い動きでマンゴーの切り身を取って味わっていた。
 ごろごろと美味しげな鳴き声が聞こえると、灰は微笑んで。
「主人の痛みより食い気だよ、全く」
 呟きつつもその姿を眺めて……自分もまた、美味しい冷たさを味わってゆく。

 天井でシーリングファンが回り、窓を見れば海が燦めく。
 夏の風合い豊かな店内へ、ミントも訪れていた。
「とてもいい雰囲気のお店ですね」
「そうだね」
 同道するカシスもまた見回して、声を穏やかにする。この寛げる空気と、そこに居る人々──その日常を護れた実感と共に。
 それから窓辺の席で向かい合い、メニュー選び。
「マンゴーか、久々に食べるから楽しみだね」
「ええ。私はマンゴープリンが食べたいですね」
 ミントは淡い表情ながら、写真をぐっと覗き込んで早々に決める。頷いたカシスもタルトを選び、一緒に注文した。
 やってきた品は、窓から零れてくる陽射しにきらりと煌めいて。
「美味しそうだ」
 果実がふんだんに乗ったタルトを見て、カシスは表情も愉しげ。
 早速タルトを一口頂くと──さくっとした生地は少し硬めで、じゅぷりと蕩ける果肉は柔らかで。
 もぐもぐと食べながら、カシスはうんと笑みを見せた。
「とても甘くて、美味しいね」
「そうですね。本当に」
 と、ミントもマンゴープリンをはむりと食べて、その至福を味わっている。とろりとした食感と共に、小さな果肉も入っていて、噛むほどに果汁が溢れて。
「黄金色のプリン、この濃厚な甘み、まさに贅沢な逸品ですよね」
「プリンかぁ、それも美味しそうだね」
 ミントの口から伸びるスプーンを見て、カシスも少々興味深げ。折角だからと自分もそれを頼むことにすると……ミントもメニューを開いた。
「なら、私もタルトを頼んでみましょう。他にも、パフェなどシェアしましょうか?」
「いいね。どうせなら存分に味わっていこう」
 というわけで更に注文。
 カシスはプリンの美味さに確かにと頷き、ミントもタルトの甘味に感心の様子。
 パフェはアイスも果実もひんやりとしていて……二人は暫し夏の味を楽しみながら過ごしてゆく。

 ノチユは巫山・幽子を誘って店内へ。
 海が見える席で、燦めく水面を望みながら──かき氷にタルトにパフェに、幽子の食べたいもの注文。自身はミルクレープと紅茶を頼み……卓に並んだ品々を眺めて。
「どれも豪華だね」
「はい、美味しそうです……」
 瞳を輝かせながら、幽子もこくりと頷いていた。
 早速食事を始めると、かき氷をさくさく、タルトをかぷかぷ、タルトもあむあむと大事に食べていく幽子の姿を、ノチユは少々眺める。
「美味しい?」
「はい、とても……」
 幽子が微笑みを返すから、ならよかったと、ノチユも自分の物を一口。濃厚なクリームとピューレが、何処までも甘くてびっくりするけれど。
「ん……美味しい」
 一息ついて、暫し涼風に寛いだ。その後食事が終われば──。
「浜辺の散歩をしようか」
 ノチユの言葉に幽子も頷き、二人で海辺へ出て歩く。
 ふとノチユは、戦場だった道を見上げる。ひきこもりも、だいぶ成長したとは思うけど……暑い日の戦闘はやっぱり疲れる、と。
 それでも疲労は隠しながら……隣への好意は隠さずに。
「貝殻、見つけたよ」
 美しい彩のそれを拾う。掌に置かれた幽子は、嬉しそうにしながらも……自分もと同じくらいに綺麗な一つを見つけて。
「これで……お揃い、です……」
 そっとノチユに渡してみせた。ノチユはうん、と受け取って……また二人で歩み出す。

 目の前にはぴかぴか耀くマンゴータルト。
「ふふん……♪」
 浮き立つ気分で少し視線を横にずらせば、美しい橙のマンゴージュース。
「ふふふん……♪」
 甘い香りと鮮やかな色彩。カフェの席に座るひなみくは上機嫌な面持ちで──テーブルに置かれた品を見つめているところだった。
「ああ~、マンゴーがいっぱいの、マンゴー祭りなんだよ!」
 楽しみにはしていたけれど、実際に目にすれば食欲も一入。お留守番中のミミックへのお土産も考えたいけれど。
「でもまずはこのタルトを一口……あーん……~~~! おいしい~~~!!」
 つるりと蕩ける果肉、淡く塩気を帯びた生地。そのマリアージュが得も言われぬ甘みを運んで無二の美味しさだ。
「すっごく美味しいんだよ! やっぱり夏はマンゴーなんだよ~!」
 笑顔も果実に負けぬほどに輝いて。
 更に数点注文し、しかと味を確かめると──。
「タカラバコちゃんへのお土産は、マンゴーのタルトとプリンに決まりなんだよ」
 いっぱい食べるから沢山買おうと、一品数点ずつ購入して。両手に荷物を提げながら、ほくほく顔でひなみくは帰路につくのだった。

「折角だから……何か楽しんでいこうかな」
 というわけで、ラグエルはカフェの一角に着席。かき氷にジェラートと、金色が映える冷たいスイーツを注文していた。
 かき氷はほわりと融ける優しい舌触りで、ジェラートはミルクの香りがまろやか。どちらもふんだんに使われた果汁が快い甘味を運んでくれて。
「うん。冷たくて、良いな」
 そうして暫しのんびり堪能した後は、お土産にマンゴーの果実を数個購入。お店の人に食べ方や簡単に作れるスイーツのレシピを尋ねた。
「でしたら……」
 と、万能用途のフルーツソースや、更にソルベやシフォンケーキの作り方を教えてもらって、ラグエルはメモ。後で弟や友人に振る舞おうと計画する。
「後は……もしもの時のために」
 更にマンゴープリンもお土産に追加して。
 情報に美味にと、しっかりと持ち帰る物を手に入れて、ラグエルは帰り道へと歩んでいくのだった。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年8月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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