鉄人拾参号

作者:紫村雪乃


 木漏れ日を浴びて、男が横たわっていた。
 人間ではない。顔を覆う特殊ラバーの半分が消失し、髑髏を思わせる鋼の骨格が露わとなっていた。電子眼に光はない。アンドロイド型のダモクレスであった。
 そのダモクレスの胸に小鳥がとまっている。憩っているかのように鳴いている。
 とーー。
 突然、小鳥が飛び立った。何かに怯えたように。
 そのダモクレスの足もと、黒衣が揺れた。女である。これは死神であった。不気味なその顔に生気はない。
 死神は球根のような『死神の因子』をダモクレスの機体に植え付けた。
「さあ、お行きなさい。そしてグラビティ・チェインを蓄え、ケルベロスに殺されるのです」
 死神は告げた。
 瞬間、ダモクレスの電子眼に赤い光が灯った。ゆらりと立ち上がる。
 すでに死神の姿はなかった。すると小鳥が舞い降り、ダモクレスの肩にとまった。
 そのことに気づいたダモクレスが手をのばす。邪魔だとばかり握り潰しーーいや、まるでガラス細工をあつかうように、そっとダモクレスは小鳥を手で包み込んだ。
「ーー翔べ」
 ダモクレスが手を開いた。飛び立った小鳥が蒼空を目指す。
 俺もどこかに飛んでいきたい。そうダモクレスは思った。がーー。
「俺もいくか」
 やはり彼はダモクレスであった。殺戮のため、巨大なガトリングガンを軽々と片手で引っさげてダモクレスは歩き出した。


「死神によって『死神の因子』を埋め込まれたデウスエクスが暴走してしまう事件が起きることが分かりました」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)はいった。
「『死神の因子』を埋め込まれたのはダモクレ一体。機体名は拾参号といいます。死神が選んだだけあって、強力な個体のようですね」
 ダモクレスが歩む先は東京近郊の市街地。多くの人間が集まる場所を狙っているのだった。
「死神の因子を埋め込まれた拾参号は、大量のグラビティ・チェインを得るために、人間を虐殺しようとします。殺戮が行われるより早く、拾参号を撃破してください」
 セリカはいった。今から行けば森林の中で拾参号を捕捉することができるだろう。
「拾参号の攻撃方法は?」
 問うたのは凄艶な女であった。和泉・香蓮(サキュバスの鹵獲術士・en0013)である。
「ガトリングガンです。グラビティもそれ。ケルベロスのものより強力ですが」
 それと、とセリカはケルベロス達を見た。
「この戦い、普通に戦うだけでは死神の思惑に乗ることとなります」
 拾参号を倒すと、拾参号の死体から彼岸花のような花が咲き、どこかへ消えてしまうのだ。
「死神に回収されてしまうのです。ですが、拾参号の残り体力に対して過剰なダメージを与えて死亡させた場合は、死体は死神に回収されません」
 セリカはいった。そしてケルベロスたちを見回すと、
「人々を殺戮しようとするダモクレスを見逃すわけにはいきません。撃破をお願いします」


参加者
ラインハルト・リッチモンド(紅の餓狼・e00956)
源・那岐(疾風の舞姫・e01215)
武田・克己(雷凰・e02613)
空鳴・無月(宵星の蒼・e04245)
彩咲・紫(ラベンダーの妖精術士・e13306)
湯川・麻亜弥(大海原の守護者・e20324)
香月・渚(群青聖女・e35380)
嵯峨野・槐(目隠し鬼・e84290)

■リプレイ


 森の奥に続く道が見える位置で物陰に潜み、八人のケルベロスたちは敵の到来を待っていた。
「何度も戦ってはきましたが、死神の因子を埋め込まれた相手と戦うのは憂鬱ですね」
 男がつぶやいた。
 端正な顔立ちの青年。が、人間ではなかった。ウェアライダーであった。名をラインハルト・リッチモンド(紅の餓狼・e00956)という。
「殺すことでしか相手を救えないとは」
「……それも仕方ありません」
 彩咲・紫(ラベンダーの妖精術士・e13306)はきっぱりと言い切った。が、鮮やかな紫の髪が揺れるその優しげな美貌はどこか翳りをおびている。紫は続けた。
「事情はどうあれ、そのダモクレスが殺戮を行おうとしている以上、斃さないと。死神の動向がなかなか掴めないですし、此方も死神の思惑通りになるわけにはいきませんから」
「そうです。ダモクレスに一般人の殺戮などはさせませんよ。それ以前に、死神の思惑通りになるのも癪に障りますし」
 紫と同じゴシックロリータドレスをまとった少女がいった。こちらは海を映したかのような綺麗な蒼髪である。名は湯川・麻亜弥(大海原の守護者・e20324)といった。
「確かに癪ですね」
 玲瓏とした美しい娘がいった。源・那岐(疾風の舞姫・e01215)といい、しなやかな肢体の持ち主である。
「外見は優れた銃の使い手、ですかね。相変わらず死神の企みは性質が悪い。他種族さえも手駒にしますか」
 麻亜弥は吐き捨てた。武人の気質をもつ麻亜弥は卑怯者が嫌いなのである。
「色々思う所ありますが、死神の思うようにはさせません。因子ごと倒させて頂きます」
 麻亜弥がいった。
 その時だ。前方から男が歩いてきた。
 人間ではない。顔を覆う特殊ラバーの半分が消失し、髑髏を思わせる鋼の骨格が露わとなっていた。アンドロイド型のダモクレスーー拾参号である。
 人影を求めるように、拾参号は道を進んできた。が、拾参号は足を止めた。視線の先に八人のケルベロスを見つけたからだ。
「人間……ではないな」
 そう言うと、拾参号は火器を握り直した。巨大なガトリングガンだ。
「ガトリング砲か」
 武田・克己(雷凰・e02613)がつぶやいた。猛禽を思わせる鋭い視線を拾参号の得物にむけ、冷静に分析する。
「弾速よりなにより脅威なのはあの連射性。が、それゆえに照準もつけづらいと思うが、ダモクレス相手にその常識が通じるかどうかは未知数だな。まぁいい。鉄砲玉だろうが、斬り捨てて近づく。それだけだ」
 この場合、克己はニヤリとした。
 敵は格上のダモクレス。圧倒的に不利な状況だ。だからこそ面白い。
「まいる!」
 克己は地を蹴った。稲妻の軌道で拾参号に迫る。
 その克己の瞬速の疾駆を捕捉できる人間はいない。が、拾参号は人間ではない。正確に克己の動きを捉え、ガトリングガンの砲口をむける。
「さすがは。……なら、覇龍で弾丸を斬りおとし、距離を詰めるまで」
 克己の腰から銀光が迸り出た。覇龍を抜刀したのである。
 その瞬間、拾参号がトリガーをしぼった。ガトリングガンが火を噴き、無数の弾丸を吐き出す。
「ふん!」
 克己は覇龍を舞わせた。乱れ飛ぶ弾丸を切り捨てる。がーー。
 格上のダモクレスの放つ弾丸だ。いかな超人存在たる克己であってもすべての弾丸を切り捨てることは不可能であった。
 刃をすり抜けた弾丸が克己をズタズタにする。この場合、しかし克己の笑みはさらに深くなった。敵が強ければ強いほど、逆境にあればあるほど、克己の笑みは深くなるのだった。
 とーー。
 突如、弾丸の嵐が止んだ。がくり、と血まみれの克己が膝をつく。
 その克己に朧に輝く蝶がとまった。克己の傷が見る間に癒えていく。
「すまん。助かった」
「気にする必要はない」
 ピラミッド型のパズルを手にした華奢な少女がこたえた。そして閉じた目を拾参号にむけた。
「屍人ですらなく、物言わぬ残骸からのサルベージとはな。ダモクレスというものも、死神も、私にとってはよくわからない不気味な者たちだ」
 少女ーー嵯峨野・槐(目隠し鬼・e84290)はいった。その槐の閉じた目の隙間から、その時、ちろりと地獄の業火が溢れ出た。


 拾参号が何故ガトリングガンの斉射をやめたのか。それは背に強烈な一撃を叩き込まれたからだ。
 拾参号が振り向いた。その眼前、蹴りの反動を利用して舞い降りた麻亜弥が告げた。
「まずは動きを奪ってあげますよ」
「動かずとも」
 拾参号は砲口を向けた。
「お前を蜂の巣にすることはできる」
 いうと、拾参号は再びトリガーにかけた指に力を込めようとした。
「……させない」
 瞬間、鉄身の後背を痛烈な衝撃が襲った。疾駆した紫が瞬時に肉迫し、光の軌跡を空に刻んで蹴りを命中させたのだ。
 隕石の落下を想起させる破壊力。さすがに拾参号がよろめいた。
 その拾参号の姿を見つめ、香月・渚(群青聖女・e35380)は、その勝ち気そうな綺麗な顔に翳をにじませた。
「ずっと動かなかったダモクレスが動けるようになったと思ったら、死神に利用されるなんて運命、残酷だね。せめて、死神の手駒にさせない様にしよう」
 渚は顔を上げた。その顔からはすでに翳りはぬぐい去られている。紫瞳をキラキラと輝かせると、
「さぁ、行くよドラちゃん、サポートは任せたからね」
 渚は歌い出した。灼熱色の歌声が戦場を震わせ、ケルベロスたちの血を奔騰させる。
 その間に黒髪紅瞳の娘が地を馳せていた。無表情といっていい整った顔には戦士にありがちな興奮の色はない。あくまで淡々と娘ーー空鳴・無月(宵星の蒼・e04245)は星刀『蒼龍』を鞘ばしらせた。
「どこかに飛んでいきたいって思ったの、このダモクレス…? そう…それは哀れだけど、倒すしかないから」
 疾る剣光は月輪を空に刻んだ。無月の神速の斬撃を喰らった拾参号の顔がわずかにゆがむ。
 それは苦痛のためではなかった。拾参号に痛みを感じる機能はない。ではーー。
 次の瞬間、拾参号の顔から表情が消えた。ガトリングガンを無月にむける。
 反射的に無月は横に跳んだ。が、逃げ切れるはずもない。
 弾丸の嵐が無月を襲った。その無月の前に滑り込んだ影がある。ラインハルトであった。
「これも役目と割り切ってますが…」
 ラインハルトは喰霊刀をたばしらせた。縦横無尽に刃を疾らせて弾丸をはじく。がーー。
 ラインハルトもまた克己と同じであった。さばききれない弾丸がラインハルトを切り裂き、えぐる。
 ボクスドラゴンのドラちゃんが属性をインストール。が、回復が間に合わない。
 その時、竜が吼えた。


 那岐の手のパズルが開いた。迸り出た稲妻が竜の形をとり、拾参号に襲いかかる。
「鉄の機体だから逃げられませんよ!」
「く……」
 紫電をからみつかせた拾参号が不愉快げにもがく。確かに機械の身体に電撃は効果的であった。
「オウガ粒子よ、仲間の超感覚を覚醒させよ!」
 渚が叫んだ。その身を覆う武装生命体が銀光を放つ。
 眩い光粒子がケルベロスたちを吹きくるんだ。刺激された進化エネルギーが肉体を駆け巡り、ケルベロスたちの感覚を超人域にまで押し上げた。
 瞬間、克己が間合いを詰め、紫電をからみつかせた神速の刺突を打ち込んだ。
 正確な狙いで重い衝撃を与えると同時に、克己はふっと息を吐いた。
「どうだ、俺の突きは? 風雅流千年。神名雷鳳。この名を継いだ者に、敗北は許されてないんだよ」
「ならば、この俺が敗北の二字を刻んでやろう」
 拾参号がガトリングガンをむけた。さすがに克己の顔色が変わる。
 ガトリングガンが吼えた。炎の嵐に吹かれ、無残に粉砕された影が転がる。
 それは、しかし克己ではなかった。彼をかばって疾り込んできたライドキャリバーーー蒐であった。
「何っ!」
 拾参号が呻いた。機械がケルベロスを救ったことに愕然としているようだ。
 その一瞬の隙を紫は見逃さない。拾参号の眼前に立つと、高々と巨大な戦斧を振り上げた。刻まれたルーン文字が発光する。
「その硬い身体を、かち割ってあげますわ」
 蕾のような唇から物騒な言葉を吐き、紫は戦斧を振り下ろした。ルーンの呪力をまとった一撃が鋼の機体に強烈な殴打を喰らわせる。
「たいした力だ」
 たたらを踏みつつも、拾参号はふっと笑った。
 その疲れたような笑みを哀れと思いつつも、拾参号の斜め背後、僅かな死角から、無月は迅雷の突きを放った。が、機械の正確さと速さで拾参号がガトリングガンの砲身で無月の一撃をはじく。同時に拾参号は蹴りを放った。
 大型トラックの激突。単純な力のみのダモクレスの一撃に、無月が吹き飛ばされた。樹木をへし折り、ようやく停止。
「力だけでも化け物というわけですか」
 ラインハルトが放った気の弾丸が拾参号の腕に着弾。狙いのそれたガトリングガンの砲弾が無月の近くの樹木を粉砕した。
 その一瞬後のことだ。槐がスイッチを押した。
 爆発。
 渦巻く七色の爆煙がケルベロスたちに吹きつけた。細胞が賦活化され、ケルベロスたちの血が奔騰する。
「それほどの力がありながら自らの意志ではなく、死神の走狗となるとは」
 爆煙に朧に浮かぶ美影身。那岐であった。
 敵ではあるが、ダモクレスの戦闘力は一流。それなりの敬意を込めて、那岐は斃す意志を超越存在に託した。
 こたえたそれーー御業は放った。灼熱の炎弾を。
 咄嗟に拾参号は左の掌をかざして防御した。炎弾が撃ち抜き、拾参号の二指がちぎれ飛ぶ。
「この炎に、焼かれてしまいなさい」
 摩擦熱で赤熱化した脚を麻亜弥は跳ね上げた。が、拾参号の反応の方が速い。
 跳ね上がった麻亜弥の足首を拾参号は損傷した手でがっしと掴んだ。ミシリッと異音を発したのは麻亜弥の足首と拾参号の手である。
「可哀想だが、死んでもらうぞ」
 拾参号がガトリングガンの鈍く輝く砲口をむけた。麻亜弥がもがくが、逃げることは不可能だ。
 ガトリングガンが死の熱弾を吐き出した。引き裂かれた肉片と鮮血が舞う。麻亜弥のーーいや、ドラちゃんの。癒やし手の使命を捨て、麻亜弥をかばったのであった。
「何っ!」
 またもや拾参号が呻いた。刹那である。
「放しなさい!」
 炎の尾をひいて紫の脚が疾った。燃える蹴撃が拾参号の左手首を粉砕、戒めを解かれた麻亜弥が跳び退った。


 地に着くと同時に麻亜弥は再び地を蹴った。砲弾のように跳んだのは後方ではなく、むしろ前。その手には鮫の牙を思わせる獰猛な暗器が握られていた。
「海の暴君よ、その牙で敵を食い散らせ!」
 麻亜弥が暗器を舞わせた。真紅の刃光が流れ、暗器が拾参号を切り裂く。
「くっ」
 拾参号の身体から黒血がしぶいた。いや、血と見えたものはオイルであった。そうとわかっても、あまりに無残な拾参号の姿である。
「もういい…もう休んでいいだろ!」
 ラインハルトが叫んだ。が、血まみれに見える拾参号がガトリングガンをかまえた。まだ戦意は失われていない。
「……まだやるのか」
 ラインハルトは哀しげに目を伏せた。そのラインハルトの周囲に真紅の剣が現出する。
 鮮血剣・烈火。ラインハルトの血と魔力によって作り上げられた魔剣である。
 拾参号ガトリングガンが吼えた。ラインハルトの鮮血剣が唸りをあげる。
 空で無数の弾と刃が噛み合った。激突の衝撃に空間そのものが震える。
「……やはり動きをとめねばなるまい」
 吹き荒れる衝撃波に髪をなびかせ、閉じた目を拾参にむけた槐がつぶやいた。
 拾参号のガトリングガンは強力だ。とどめを刺すためには、そのガトリングガンを封じなければならなかった。
 そう槐は読んだ。
 鍛錬の果てに槐は視力を失った。が、それを補ってあまりある戦闘勘を鍛錬は彼女に与えたのである。
 槐の指がパズルを組み替えた。かちりと音がし、開く。
 秘密は解かれた。解放された稲妻が閃く。
 雷竜にうたれ、拾参号の機体が一瞬フリーズした。
 好機。
 槐がつくってくれた、その一瞬の隙を渚は見逃さない。
 ドラちゃんが身体をはって仲間を守ってくれた。ならば、ボクは勝利への道標となろう。世界で一番熱い歌になるんだ。
 渚はライトニング・バーストのスイッチを押した。
 爆発。それは渚の情熱であったかもしれない。
「さぁ、援護するから強力な一撃をお願いするね!」
「私も」
 鮮やかな爆煙の中、那岐が踊る。
 霊地を守護する一族の族長である彼女の得意と戦法は剣舞と神楽舞であった。そして、今披露する舞いこそ風の舞姫の御神楽・白百合。手の仕草、足の運び、目線、そのすべてが真言であり、呪文であった。
 ああ、と舞いつつ那岐は嘆いた。
「死神に目を付けられたのが彼の不幸だったのでしょうか。ダモクレスゆえ、後々の討伐は避けられないでしょうが、もっとましな散り方があったでしょうに」
「その思いと力、わたしたちが預かっていく」
 爆煙から無月が足を踏み出した。克己もまた。どん、と踏みおろした足が大地を砕いた。
「いくぞ!」
 同時に跳んだ。克己と無月が。
 一度に圧倒的なダメージを与え、息の根をとめる。そのためには拾参号が動けぬ今、 同時に攻撃をぶちあてるしかなかった。
「木は火を産み火は土を産み土は金を産み金は水を産む! 護行活殺術! 森羅万象神威!」
「……行こう。華空……わたし達の力、刻んで果てて……!」
 大地の気を覇龍に凝縮、克己が斬りかかった。無月の槍が縦横無尽に舞う。
 その時、拾参号の呪縛が解かれた。が、凄まじい剣と槍の攻撃に翻弄され、ガトリングガンをむけることができない。
「終わりだ!」
「……さよなら」
 克己が十文字に拾参号を切り裂いた。無月の槍が拾参号の胸を貫く。
「くはっ」
 のけぞった拾参号の顔が上をむいた。澄み渡った蒼空が拾参号を見下ろしている。
 跳び退った二人は、その時、拾参号の顔に笑みが浮かんだような気がした。が、すぐに爆発が拾参号の顔を隠してしまったため、それを確かめることはできなかった。


「皆さん無事ですか?」
 静寂を取り戻した森の中、麻亜弥が周囲を見回した。傷ついてはいるが、仲間は無事のようだ。
「死神の因子はどうなりましたでしょうか?」
 紫が誰にともなく問うた。拾参号を斃した今、最も気になることである。
「大丈夫です」
 こたえたのは那岐であった。彼女は結末を見届けたのである。確かに死神の目論見は粉砕されたのだった。
 ラインハルトはしゃがみこんだ。金属の欠片を拾い上げる。拾参号の欠片だ。
「お疲れ様、貴方は自由です」
 欠片にラインハルトが語りかけた。
 その時、小鳥が舞い降り、欠片にとまった。そこで拾参号が笑っているような気がして、そっと那岐は目を瞑った。

作者:紫村雪乃 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年8月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。