豆と麦酒の収穫祭

作者:坂本ピエロギ

 都市郊外のとある広場を、祭りの熱気が包んでいた。
 時刻は正午の少し前。場内の随所で、真白い湯気が立ち上っている。
 何やら食欲をそそる湯気の出処は、テーブルに鎮座する大笊。そこに山と盛られたのは、翡翠を思わせる緑の鞘――そう、枝豆であった。
 この街は枝豆の名産地として知られ、毎年この時期には収穫祭が開かれるのだ。
 大地の恵みに感謝を捧げ、旬の豆を麦酒と共に頂くこの催しは、街の内外から多くの人が訪れる。茹でたての枝豆が立てる香気。麦酒の杯を乾す音。惜しみなき舌鼓と共に、人々は夏のひと時を過ごしていた。
 だが、そこへ――。
『ヒヒッヒヒ! シャバの空気は最高だなァ、オイ!?』
 会場の外れから現れたのは、一振りの斧を担いだ大男。惑星アスガルドから放逐された、罪人エインヘリアルであった。男は斧を一振り、傍で腰を抜かした青年の命を奪い去ると、悲鳴をあげて逃げ惑う人々を手当たり次第に惨殺していく。
『まだ足りねえぜ! もっとだ、もっとグラビティ・チェインをよこせやァ!!』
 狼藉の後には、ただ累々たる屍が残るのみ。
 血で染まった広場で、男はひとり重力鎖の輝きに笑みを浮かべるのだった。

「……以上が、得られた予知の全てです」
 昼のヘリポートで、ムッカ・フェローチェは静かに告げた。
 事件が起こるのは某都市郊外の広場だ。収穫祭の会場に出現したエインヘリアルの男が、グラビティ・チェインを求めて殺戮を働くのだという。
「皆さんには、このエインヘリアルの撃破をお願いします。市民の避難誘導は現地の警察に依頼してありますので、周辺の人払いは必要ありません」
 現場となるのは会場に隣接する駐車場。ケルベロスが着く頃には無人になっており、車両もすべて退かされている。敵は一振りのルーンアックスを得物とし、相応の火力を誇るが、しっかり対策をして臨めば苦戦する相手ではないとムッカは言った。
「戦いが無事に終了すれば、広場でのお祭りが再開されます。折角ですから、仕事の疲れを癒されては如何でしょう」
 そう言してムッカの話題は、任務完了後の事へと及ぶ。
 すなわち、豆と麦酒の収穫祭についてだ。
「収穫祭では、枝豆や麦酒を存分に楽しむことが出来ます」
 朝方に採った新鮮な枝豆に塩を塗してさっと茹でれば、とびきりのご馳走が出来上がる。艶やかなエメラルドグリーンの煌めきは、若々しい豆が宿す生命力そのものだ。青空の下、湯気と格闘しつつホクホクを頬張り、気づけば空の鞘が大皿へ積み上がるだろう。
 新鮮、出来立て、盛り沢山。そのうえ美味。盛り上がらない訳がない。枝豆に舌鼓を打ちながら、キンキンに冷えた麦酒をグイッと喉に流し込もう。もしも小腹が寂しければ、会場に用意されたサイドメニュー各種も卓に彩りを添えてくれる。
 現場の天気は快晴だが、気温は高くはない。
 涼しい日陰で涼みながら、夏のひと時を満喫してきて下さいねとムッカは話を終えた。
「さあ、説明は以上です。皆さん搭乗の準備を」
 そうしてムッカは一礼すると、ヘリオンの搭乗口を開放する。
「収穫を祝うお祭りを守るため、どうか力を貸して下さい。皆さんの健闘を祈ります」


参加者
カトレア・ベルローズ(紅薔薇の魔術師・e00568)
七星・さくら(緋陽に咲う花・e04235)
ゼノア・クロイツェル(死噛ミノ尻尾・e04597)
鞘柄・奏過(曜変天目の光翼・e29532)
花見里・綾奈(閃光の魔法剣士・e29677)
アクア・スフィア(ヴァルキュリアのブラックウィザード・e49743)
グラハ・ラジャシック(我濁濫悪・e50382)
ディミック・イルヴァ(物性理論の徒・e85736)

■リプレイ

●一
 雲一つない青空の下、穏やかにそよぐ夏の涼風。
 そんな好天に恵まれた収穫祭の会場へ、ゆらりと迫る影があった。母なる星を放逐された大男――罪人エインヘリアルである。
『チッ……地球人どもめ、どこに隠れやがった!』
 苛立ちを隠そうともせず、大男は舌打ちした。
 会場の片隅には、緑色の豆と酒樽が何やら大事そうに積まれている。だがそんな物では、飢えは満たされない。まずは手頃な獲物を屠って、グラビティ・チェインを得なければ――そう思った大男が、斧を手に会場へ踏み入ろうとした、その時だった。
「待てや、おい」
『あァ?』
 ふいに背後から呼び止められて、振り返る大男。その眼前に立っていたのは、砲撃形態の竜鎚『悪心』を担ぐオウガ――グラハ・ラジャシック(我濁濫悪・e50382)である。
「『酒は知己に遇うて飲み、デウスエクスは殺す』。違ったっけな? まぁいい、死ね」
『てめェ――チッ!』
 グラハの悪辣な笑みと共に、竜砲弾が発射された。
 大男は斧を盾代わりに間一髪で直撃を防ぐと、足止めを受けた体で態勢を立て直す。
 気づけば彼の周りはグラハだけでなく、隊列を組んだケルベロスによって囲まれている。収穫祭を守るために集いし地獄の番犬達によって。
『くそ……五月蠅ェやつらが来やがった!』
「逃がしませんわよ?」
 大男はルーンアックスを手に攻撃態勢を取った。だが、一手早くカトレア・ベルローズ(紅薔薇の魔術師・e00568)がエアシューズで疾走、大男の懐へと潜り込み、流れるような跳躍から流星の蹴りを叩き込む。
「その素早い動きを、封じてあげますわ!」
『ほざけケルベロスがァァァァ!!』
 ルーンの光を宿した斧が、唸りを上げて迫る。
 刹那、鞘柄・奏過(曜変天目の光翼・e29532)は大男の間合いへ飛び込むと、手にした如意棒で切り結び始めた。味方へは一撃も通さない、そんな決意を心に宿して。
「貴方の強み……縛らせてもらいますよ」
 奏過が放った『雷鎖絶手』の一撃が、血濡れの斧に絡みついた。
 大男は力任せで斧を奮い続けようとするが、雷状のグラビティは囚人を拘束する鎖の如く彼を捕え、その攻撃力を奪い去って行く。失われる力を押し留めんと、大男が必死でギリリと歯を食いしばった刹那、
「余所見とは、随分と余裕だな」
 気づけば大男の懐へと、無音の影が飛び込んでいた。
 ゼノア・クロイツェル(死噛ミノ尻尾・e04597)だ。彼は袖口から放った鎖で大男の腕を締め上げながら、表情を変えずに言葉を投げる。
「外の空気は心地よいか? しかし番犬の領域に触れた以上、直ぐに退場して貰う」
『ぐ……おぉぉ……!』
 鎖を掴んだ男の腕が、ふいに意に反して笑い始めた。
 ゼノアが己の鎖――『蛇噛みの鎖』に仕込んだ神経毒が回り始めたのだろう。それを見たディミック・イルヴァ(物性理論の徒・e85736)は、間を置かず護法覚醒陣を発動した。
「かつて主従関係にあった種族に弓を引くのは、いささか気が引けなくもないが――」
 皮肉めいた口調のディミックだが、その動きに一切の迷いはない。
 癒しに特化したポジションに陣取る彼は、破剣をもたらす光で前衛を包むと、奏過の負傷を破られた服と共に回復していく。
「これも枝豆と麦酒のため。害為すならば容赦は出来ないねぇ」
「その通り! 日本の夏が誇る黄金コンビが活躍する、素敵なひと時を邪魔するだなんて、たとえお天道様が許してもわたしが許さないわよ!」
 息を合わせるように口を開いた七星・さくら(緋陽に咲う花・e04235)は、枝豆と麦酒への想いを込めて、『星翼』のグラビティでディミックらの後衛を包んだ。
 翼のように広がるオーラが破剣の力を伴って、困難を打ち砕く力を与える。そこへ続くは花見里・綾奈(閃光の魔法剣士・e29677)の散布するオウガ粒子だ。
「行きますよ夢幻。一緒に、頑張りましょう……!」
 支援態勢は万全。あとはただ攻めるのみ。
 綾奈の翼猫がもたらす清浄の翼を浴びたアクア・スフィア(ヴァルキュリアのブラックウィザード・e49743)は、ルーンアックスを構えて突撃。ルーンの光で傷を癒す大男めがけ渾身の一撃を振り下ろした。
「この一撃で、止まってもらいます」
 地を揺さぶる振動と共に、大男の保護が砕け散る。

●二
 それからの戦闘は、一貫してケルベロスの優勢で進んだ。
 対する大男は、途切れる事なく降り注ぐ猛攻にじわじわと追い詰められていく。
 ブレイクルーンで得た破剣は、次の瞬間にはブレイクで消し飛んだ。力に任せて振り回す攻撃は、ディフェンダーの分厚い守りに阻まれた。回復支援を飛ばす後衛を狙おうにも、斧のリーチは届かない。
 覆しようのない劣勢。その現実を、否が応でも受け入れざるを得なかった。
『ま、負ける……この俺が……!?』
「ふむ。少々、気づくのが遅いのではないかな?」
 ディミックは起動した八識システムの阿頼耶光を、一斉に発射した。網膜を焼く閃光に包まれ、反射的に動きを止める大男。そこへ迫るのは、日本刀『艶刀 紅薔薇』を抜き放ったカトレアだ。
「その傷口を、更に広げてあげますわね!」
 カトレアの絶空斬が空の霊力を帯びて、大男の腕に生じた傷口を捉えた。
 利き腕を籠手もろとも切り裂かれ、武器を扱う力を更に封じられるのも構わずに、大男は生への執着も露わに斧を振りかぶって跳躍。ゼノアの頭上に斧を振り下ろした。
『潰れろやァッ!!』
「危ない、です……」
 綾奈が光の翼を広げ、即座にゼノアへの攻撃を庇う。
 力任せの攻撃を浴びて、そのまま地面へ叩きつけられる綾奈。だが積み重ねた武器封じの影響で、受けたダメージは重くない。綾奈は再びオウガ粒子を散布しながら、前衛の仲間へ小さな、だがはっきりとした声で告げる。
「行きましょう……決着を……」
「暑いでしょうから、一気に冷やしてあげますね」
 即座にアクアの氷結輪が、意志の力で射出された。
 クリスタライズシュートの一撃は大男の胸板を切り裂いて、噴き出した血もろとも傷口を凍結させていく。息を合わせ、さくらが浴びせるのは避雷針の電撃だ。
「さぁ、ガンガン攻めるわよ!」
『こッ……の……』
 真っ赤な泡を吐きながら、目を血走らせる大男。
 ギラつく斧の刃に敵意と殺意を込め、更には服を破るルーンの力を宿そうとして――。
 麻痺に痺れたその手から、斧が滑り落ちた。
「勝負あり、ですね」
 奏過はオウガメタルを左腕に纏い、敵の間合いに飛び込んだ。『鬼瓦』――肩に現れた鬼の貌がギラリと不吉に笑い、鋼鬼の拳に変じて大男の鎧を剥ぎ取る。
(「とどめを、頼みます」)
 奏過が視線を向けたのは、最前列に控えるグラハとゼノア。
 二人はほぼ同時に地を蹴ると、大男の心臓にグラビティの刃を狙い定めた。
「酒を『命の水』と言い始めたのは、元を辿りゃ中世までいくらしいが――」
 ふいにグラハは、冥途の土産とばかり大男へ語り掛ける。
 酒は水とは違うもの。まさしく、飲む者が不老の薬だと感じるほどに。つまりは何が言いたいかというと――。
「そんな有難い酒をとっとと存分に飲みたいってことだ。邪魔すんじゃねぇよ雑魚がよ」
 言い終えるや、悪心の自然発火装置が起動。深手を負った大男を派手に炎上させた。
『ぐ、が、あああぁぁぁぁっ!!』
「あと3、4人もいれば良い戦いにもなったろうが――」
 ゼノアは古代語の詠唱を吟じながら、火達磨になって転げ回る大男へ言葉を投げる。
 流罪に処された罪人の最期に、微かな憐憫を覚えながら。
「独りで流された時点で、お前の運命も決まっていた」
 石化光線が、心臓を貫いた。
 断末魔の野太い絶叫が、ぴたりと止まる。
 そして骸となった大男が消滅すると同時、祭りの場は再び平穏を取り戻した。
「怪我人もいなくて何よりですわ。さあ、修復を始めましょうか」
 戦闘終了と同時、カトレアらケルベロスは駐車場をヒールしていく。
 消えてしまった車止めは、ディミックが白線を引き直した。最後の仕上げ、アクアが魔力を込めたシャボン玉を吹けば完了だ。
「水よ、光よ、煌く万華鏡の様に皆に届け」
 弾けるシャボン玉が、青空の下で虹色に煌めく。
 彼方から吹く涼風に乗って、収穫祭の賑わいが聞こえてくる気がした。

●三
「それでは、任務の完了を祝って――」
「豆と麦酒の収穫祭を祝って!」
「「乾杯!!」」
 掲げられた杯が、重い音を立ててぶつかり合った。
 唇に触れる、柔らかな泡の感触。そのまま、ごっ、ごっ、という音を立てながら、冷たい麦酒を勢いよく喉の奥へと流し込む。
「っっぷはー! 任務を終えての一杯は最高だわ!」
 さくらはジョッキを軽々と一杯乾すと、歓喜の声を上げた。
 会場で炊かれた鍋からは、青々とした枝豆が湯気を立てて上がる。採れたての豆から漂う青い香りはまた鮮烈で、それだけで杯が進みそうなほど。さくら達の大笊に盛られた枝豆も先程上がったばかりのものだ。
「いい匂いだわ……!」
「枝豆と麦酒、とても美味しいですわね」
 鞘の端を摘まんだ指に力を入れれば、翡翠色の豆が熱々で飛び出してくる。シンプルだが決して飽きがこない味に、さくらとカトレアは黙々と舌鼓を打った。美味しい枝豆。冷たい麦酒……それらを作ってくれた人達に感謝を捧げる収穫祭は、いまや大盛況だ。
「一粒一粒が、芯まで美味しいですね。農家の方々の手間暇が感じられます」
 一方、そんな二人の向かいでは、奏過もちびりびちりと麦酒を嗜みつつ、茹でたての枝豆をじっくりとかみ締めるように味わっている。
「冬夏青青……私達がやるべき事はいつでも変わりません……っと」
 冷たい麦酒を啜りつつ、奏過は仲間達へと目を向ける。この1年で、地球には多くの味方が加わった。中には地球で初めての夏を迎える者もいる――ディミックのように。
「アスガルドでは縁がなかったが、このような宴も良いものだねぇ」
 生命の維持に食事を必要としないディミックも、今は同世代の定命の人々に倣い、慰労のひと時を楽しんでいた。2mを超えるロボット型ボディの彼は、指先よりも小さい枝豆を、慣れた動きで取り出していく。
「かつての依頼で取った杵柄、という奴かな」
 無骨なアームで取り出した枝豆を食し、ジョッキの麦酒をぷはぁと乾す。
 成程、これが労働の後の一杯というものか――しみじみ呟くディミックの肩を、旅団仲間のグラハがぽんぽんと叩いた。
「『命の水』も悪くねぇな。元は蒸留酒を指す言葉だが、なぁに旨けりゃ問題ねぇさ」
「ふむ。人が真水のみならず酒を飲む理由……分かる気がするよ」
「酒とくりゃツマミも要るな。折角だ、コイツも食うか?」
 そう言ってグラハが差し出したのは、枝豆のがんもどきだ。磨り潰した豆腐を卵と一緒にすり合わせ、ひじきを混ぜて油で揚げた一品で、これまた実に酒と合う。
「有難う。いいのかな?」
「なぁに、一つや二つ構いやしねえよ」
 そう言って笑うグラハの卓には、優に5人前はあるがんもどきが、ホカホカと湯気を立てていた。巨体を誇るオウガの彼は、食べる量も半端ではない。ましてそれが、美味い麦酒で機嫌の良い時ならば猶更の事だ。
「……美味ぇなぁ」
「ああ。種であり生命そのものの豆……育てたそれを分けて頂くのは、また格別だねぇ」
「ほらほら、良かったらこっちの料理も食べて!」
 そう言ってさくらが差し出したのは枝豆コロッケ。ほくほくジャガイモに枝豆をたっぷり詰込んで揚げた、魅惑の一品だ。狐色のパン粉は気をつけないと口の中に刺さりそうな程にカリカリで、枝豆と芋の歯応えの妙が実に楽しい。
「これは後を引く美味だ。色々な枝豆料理があるんだねぇ」
「ああ。この味、確かに守る価値がある」
 3人のやり取りに頷くゼノアは、先程からコーラ片手に枝豆を満喫していた。
 お供をするのはフライドチキンとポテト。育ち盛りの十代とあって、食欲も旺盛だ。笊に手を伸ばすたび、大盛りの枝豆があれよあれよと嵩を減らしていく。顔にこそ出さないが、猫耳や尻尾はご機嫌そのもの、先程から右に左にと揺れるのに忙しい。
 一方、綾奈とアクアもまた、新鮮なフルーツジュースをお供に枝豆を楽しんでいる。
「収穫祭の開催を祝して、乾杯です」
「乾杯です。枝豆、美味しい、ですね……」
 アクアはオレンジジュースを、綾奈は隣でアップルジュースを。
 冷たく甘酸っぱい味に喉を潤しながら、二人が枝豆の鞘を相手に格闘するうち、綾奈の手から勢い余って飛び出た一粒を、夢幻がぱくりとキャッチする。
「夢幻、凄いです」
「お見事! ナイスキャッチ、ですわ!」
 カトレアの拍手に、ご機嫌の夢幻。青いリボンを揺らして喜ぶ翼猫を綾奈はそっと撫で、静かに笑顔を綻ばせた。
「ふふっ。とても楽しい、収穫祭ですね」
 そうして楽しい宴が始まり、少し経った頃――。
「おや、ディミックさんは? 七星さんとゼノアさんの姿も見えませんが」
「ああ、さっき料理を探してくるとか言ってたがな」
 追加の麦酒を運んできた奏過に、グラハがそう答えた矢先である。
「お待たせー!」
 噂をすれば何とやら、さくら達が枝豆料理を抱えて戻って来た。
「手頃なものを見繕ってきた。……良ければ、皆で食おう」
「枝豆料理、実に興味深いね。選ぶのが大変だったよ」
 そう言ってゼノアとディミックも、運んできた料理をテーブルに置く。
 さくらが運んできたのは枝豆のコブサラダ。レタスにアボカド、トマトにチキン。そこに枝豆で濃緑の彩を添えた一皿だ。油で胃がもたれないよう、軽めの物を選んだという。
「おお……とても美味しそうです」
 目を輝かせる奏過。いっぽうゼノアが運んできた料理はと言えば、枝豆と一緒に豚挽肉と高菜漬を炒めたものだ。塩気を含んだ高菜と、鷹の爪でピリ辛に炒めた挽肉の刺激的な香りが容赦なく本能に訴えかけてくる。きっと旨みが枝豆の芯まで染みている事だろう。
「俺の胃袋が選べと言った料理だ。味は保証する」
「こりゃ参った。また酒が欲しくなっちまうじゃねぇか」
 ニヤリと笑ったグラハは、早くも麦酒をジョッキに開けていた。
 彩り豊かなサラダ。そして枝豆の高菜漬け炒めとくれば、もう一品――そう誰もが思った矢先である。ディミックが、両手に提げた御櫃と大笊をずいっと掲げてみせた。
「枝豆ご飯だ。どうかな? もちろん主役の枝豆も一緒だよ」
 嗚呼、嗚呼。何と素敵な顔ぶれだろうか――そうして誰が言うともなく、ケルベロス達は支度を開始した。次なる宴が待ちきれない、そう言わんばかりに。
「ふふー、もう最高ね! 天国だわ、楽園だわ!」
「重畳、重畳。酒も十分ある、思いきり飲もうじゃねぇか」
「さあ皆、今一度祝おう。任務達成と、大運動会の成功もね」
 そうしてケルベロス達は、麦酒を、ジュースを注いだ杯を打ち鳴らす。
 いざ、この素晴らしい一日に。
 共に戦った、最高の仲間達に――。
「「乾杯!!」」

作者:坂本ピエロギ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年8月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 3
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