魔狼、月に吠える

作者:雷紋寺音弥

●月明かりの誘い
 宮城県大崎市。県内第三位の人口を誇り、交通や産業の要所となる中規模都市。
 農地に工場、そして商業サービス施設から温泉街まで。それら全てが、互いに資源を共有し合って産業を回す、代表的なバイオマスタウン。
 その日は、月の美しい夜だった。昼間の喧騒から解き放たれ、夜の帳が降りた街。その静寂を破るようにして、街の一角より建物を崩して現れる白い影。
「……Woooon!!」
 月明かりに誘われるようにして現れたそれは、近くのビルの上に飛び上がると、街中に響かんばかりの声で高々と吠えた。咆哮が拡散し、建物の窓が激しく震える。ほんの一声で窓ガラスが粉々に砕け散り、車が宙に舞い上がる。
 半壊した街を見回して、金色の瞳が怪しく輝いた。彼の者が次に狙うもの。それは街中を半狂乱になって逃げ惑う、大崎市の人々の命だった。

●目覚めし鋼の牙
「召集に応じてくれ、感謝する。カシス・フィオライト(龍の息吹・e21716)の懸念が的中した。宮城県大崎市に、巨大な狼の姿をしたダモクレスが現れることが予知されたぜ」
 例の如く、敵は大戦期に封印された巨大ロボ型ダモクレス。その性質は今までの巨大ロボ型ダモクレスと大差ないが、しかし戦い方には少しばかり気を配った方がいいと、クロート・エステス(ドワーフのヘリオライダー・en0211)は集まったケルベロス達に念を押した。
「今回も、確認だけはしておこう。復活した巨大ロボ型ダモクレスは、グラビティ・チェインが枯渇した状態にある。それを補うために街の人間の虐殺を開始し、7分が経過すれば魔空回廊を開いて撤退する」
 その7分間の間に、敵を撃破しなければならない。しかも、敵は全盛期の力を取り戻していないとはいえ、一度だけフルパワーでの攻撃を使用することもできる。
「フルパワー攻撃を使用すれば、敵も反動で少なくないダメージを負うからな。そこを狙って叩くのがセオリーだが……あまり事前の準備に時間や手数を欠いていると、今回は苦戦を強いられるかもしれないぜ?」
 復活した狼型のダモクレスが得意とするのは、回復を主体とした搦め手だ。一見、そこまで強くなさそうに思えるが、制限時間を課せられた今回のような戦いでは厄介な相手となる。
「回復を続けるだけで、敵はお前達から受けたダメージを、かなりの割合で修復してしまうからな。おまけに、回復はパワーのチャージも兼ねているから、放っておけばフルパワー攻撃に威力を上乗せされて、こちらの壁を突破され兼ねないぞ」
 加えて、こちらのグラビティの威力を中和して減衰させる特殊な音波を咆哮として放って来るため、何もしないでいると、どんどん火力を低下させられてしまう。おまけに、間合いの関係から敵のグラビティはこちらの加護を悉く破壊するため、自己強化で身を固めて一気に畳みかけることも難しい。
 そして、何よりも恐ろしいのが、その牙による攻撃だ。血に飢えた魔狼の牙は獲物に食らいつくと同時に、その生命力を吸収し、自らの糧にしてしまう。
「正直、7分間耐えて逃げ切るだけを考えるなら、敵の方が圧倒的に有利だ。相手に合わせて、こちらも少しばかり前のめりな戦い方をして行かないと、まんまと逃げられるかもしれないな」
 超回復やエネルギーチャージに加え、加護の破壊とグラビティの威力減衰、そして体力吸収まで兼ね備えた厄介な相手だ。正に、狂える月の如く、こちらの陣形や作戦を惑わし、崩壊させる。だが、それでもここで敵を見逃してしまえば、大﨑市の人々は無残にも殺され、敵の戦力強化にもつながってしまう。
「こんな面倒なやつを見逃したら、後で何をするか分からないからな。戦い難い相手だとは思うが……なんとか、7分以内にやつを撃破して欲しい」
 街の人々は事前に避難しているので、避難誘導を行う必要がないのは幸いだ。最後に、そう言って締めくくり、クロートは改めてケルベロス達に依頼した。


参加者
水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)
ジョルディ・クレイグ(黒影の重騎士・e00466)
カトレア・ベルローズ(紅薔薇の魔術師・e00568)
カシス・フィオライト(龍の息吹・e21716)
塩谷・翔子(放浪ドクター・e25598)
ペル・ディティオ(破滅へ歩む・e29224)
エリザベス・ナイツ(焔姫・e45135)
柄倉・清春(不意打ちされたチャラ男・e85251)

■リプレイ

●白狼、吠える
 宵闇の街に響き渡る咆哮。ビルの上から月を背に街を見下ろすのは、金属の身体を持った白い獣。
「俺が危惧していたダモクレスが本当に現れるとは驚いたね」
 自分でも予想外だったのか、カシス・フィオライト(龍の息吹・e21716)は少しばかり複雑な気持ちで、ビルの上の白い影を見つめて言った。月の明かりに照らし出されたその姿は、機械でありながら神秘的な何かを感じさせるも、人々に仇名す存在である以上は倒さねばならない。
「ククク、コンクリートジャングルに機械の狼ねぇ。冗談にしちゃぁ、あんまり面白くねぇな」
 強敵を前に、柄倉・清春(不意打ちされたチャラ男・e85251)は滾る何かを抑え切れない様だ。獣というなら、自分も同じ。互いに、野生の闘争本能のような何かを刺激されるのだろうか。
「Woooon!」
 ケルベロス達の姿を捉え、鋼の白狼が高々と吠えた。その叫びが周囲に広がると同時に、建物の窓ガラスが次々と砕け散り、道端に止めてあった車がひっくり返って吹き飛んだ。
「無機の木々立つ都会の森に、機械の狼、あらわれいずる、ねぇ……。情緒というには、ちょいと物騒だな」
 帽子を押さえつつ、水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)が刀を抜いた。が、何故か腕に力が入らない。白狼の咆哮によって、グラビティを発動させるための力を中和されてしまったのだ。
 幸いなのは、攻撃が拡散したことにより、個々の被害がそこまで大きくなかったことだろう。しかし、被害をゼロにすることはできず、誰かしらが咆哮の影響を受けてしまうことは、致し方のないことでもある。
「とても恐ろしそうな姿をしていらっしゃいますわね。ですが、ここで逃がす訳にはいきませんわよ」
 運良く咆哮の影響を受けなかったカトレア・ベルローズ(紅薔薇の魔術師・e00568)が、炎の蹴りを繰り出した。夜空を染める紅蓮の爆発。もっとも、その程度で破壊される白狼ではなく、身体を炎に包まれながらも、ビルからビルへと飛び移り。
「逃がさぬぞ! 我が嘴を以て……貴様を破断する!」
 高々と飛び上がったジョルディ・クレイグ(黒影の重騎士・e00466)が、敵の脳天に戦斧の一撃を叩き込んだ。
「白狼のような外見なのは好ましいが、懐いてくれない凶狼を飼ってみようと思うほど余裕も無いのでな。殺処分と行こうか」
 ビルの谷間に落下した白狼へ、ペル・ディティオ(破滅へ歩む・e29224)が刃を抜いて一気に迫った。間合いの関係から、彼女は咆哮の影響を受けていない。少しでも火力が欲しい時に、この状況は貴重でもある。
 夜空の月を撫でるかの如く、美しい円弧を描きながら、ペルの斬撃が白狼の装甲を削った。飛び散る火花が闇に映え、白狼の叫びが夜空に響き。
「街の人は避難してるなら、こっちは全力で戦えるね……! ハク、みんな……ダモクレスを倒して、この街の平和を守ってみせましょう……」
「シロも、ちょいと踏ん張ってもらうよ」
 エリザベス・ナイツ(焔姫・e45135)と塩谷・翔子(放浪ドクター・e25598)が、それぞれの相棒に向かって告げる。まずは、あの咆哮の影響を取り除かねばと、翔子が仲間達の後方で極彩色の爆発を巻き起こすが。
「……ああ、こいつは駄目だね。やっぱり、拡散しちまうか」
 敵の攻撃が拡散するのと同じように、翔子の繰り出した爆風もまた、拡散して上手く効果を発揮しなかった。互いに、狙った相手へ狙った効果を発動させられないのであれば、運の絡む戦いになるのが、少しばかり不安でもあり。
「翔子さんの力だけに頼るわけにはいかないね。だったら……その回復力を、奪い尽くしてあげるよ」
 すかさず、カシスが対デウスエクス用のウイルスが入ったカプセルを、白狼の口内へと放り投げる。その効果は有機生命体だけでなく、機械の身体を持つダモクレスでさえも侵食するという優れもの。
「Uu……Guuuu……」
 身体を蝕まれたことに不快感を示しつつも、白狼が静かに立ち上がった。空を流れる雲が月を隠し、辺り一面が影に包まれる。
 今宵の風は、些か生暖かく不愉快だ。ベタつくような何かを肌に感じながら、地獄の番犬と機械の白狼の、互いに退けぬ戦いが始まった。

●狂月の脅威
 超常の力を駆使し、互いに人知を超えた戦いを繰り広げるデウスエクスとケルベロス。彼らの戦いは、その得意とする間合いによっても技の効果や性能が少しばかり異なる。では、攻撃や防御ではなく回復に特化した間合いを好む者が相手となる場合、普通は何を想像するだろうか。
 回復といえば後方支援。直接戦闘は不得意で、おまけに打たれ弱いイメージが強い。が、グラビティを駆る者達にとっては、その常識は必ずしも当てはまるとは限らない。超絶的な回復力を得る代わりに攻撃力が低下することもなければ、むしろ癒しの力を攻撃に向けることで、どのような攻撃でも相手の加護を簡単に破壊してしまうことができるのだ。
 封印が解け、再び人類の前に姿を現した白狼も、その特性を存分に発揮してケルベロス達に攻撃を仕掛けて来た。ビルの谷間に響く咆哮は、グラビティを中和するだけに留まらず、彼らの身体に纏った加護を容易に破壊してしまう。
 加えて、厄介なのが回復だ。カシスの攻撃で直接的な回復行為こそ妨げられているものの、しかし牙を使っての体力吸収はどうにもならず、思っていた以上に戦いを長引かせられていた。
「そういや、こいつら、復活したばかりって話だが……何処に収納されてたんだろうな? ダモクレス陣営にいるのなら、エネルギー枯渇ってのは、変な話だと思うしよ……」
「んなこと知るかよ。それに、こいつらはオラトリオに封印されてたんだろ? 今の今まで、本拠地にも戻れないでお寝んねしてたんだから、寝起きで機嫌悪いのは当然じゃねぇか」
 鬼人の疑問に、清春がさも当たり前のように答えた。言い方こそ粗野だったが、この場合は彼の方が正しい。大戦期にオラトリオによって施された封印は、単に地面の中にダモクレスを埋めておしまいというわけではなく、彼らを地下深くで完全に眠りにつかせ、本星との連絡さえ取れない状態にしていたのだから。
「……ってなわけで、無駄なお喋りは、ここまでだ! ちまちま防ぐことを考えねーで済むのは都合がいいぜ」
 どの道、そんな謎には大して興味もないと、清春は爪で白狼に襲い掛かった。そちらが獣なら、こちらも獣だ。果たして、どちらの本能が勝っているか……清春の関心は、目下そちらの方にしかないのかもしれない。
「やれやれ……。しかし、まさかこうも意思疎通までできない相手とはな」
 呆れたように刀を構え、鬼人もまた敵へと斬り掛かって行く。だが、先に受けた咆哮の影響から未だ立ち直れていないため、どうにも手応えが浅い。バラ撒きに対してバラ撒きで回復する策は、一つの隊列にいる人数が増えれば増える程、互いに狙った相手へグラビティの効果を届かせることが難しくなってしまうからだ。
 それでも、単体に絞って回復すれば問題なさそうに思われたが、残念ながらその役を担う翔子には、鬼人を気遣っているだけの余裕がなかった。
「大丈夫かい? あんまり無茶されると、こっちもフォローしきれないよ?」
「問題ない。この程度のダメージなど、想定済みだ」
 翔子の懸念を一蹴し、立ち上がったのはジョルディだった。既に、彼の身体には無数の傷が刻まれ、その力も大きく減じられてしまっている。なにしろ、敵の咆哮の大半を彼と翔子の相棒であるボクスドラゴンのシロで受け止めているため、どうしても負担が大きくなってしまう。
 同隊列に多数の人員を並べた場合の、もう一つのデメリットがこれだった。相手のグラビティの影響を受けなくなるのは良いが、守りに回る者が少なかった場合、仲間を庇えば庇う程に守り手への負担が一極集中する。そして、人数が多ければ多い程、単発での攻撃を受け止めた際よりも、総ダメージ量は多くなってしまう。
 このまま戦っていてもジリ貧だ。敵は回復グラビティを使うことで、その身に力も溜めている。出力を上げられた状態で、これ以上の攻撃を食らい続ければ、今に誰かが倒れるかもしれない。
「いい加減に、その厄介な力を破壊させてもらおうか! エネルギーチャンバー頭部接続! 視線誘導ロック完了!」
 全身に流れるエネルギーの奔流を一点に集中させ、ジョルディの瞳が開かれる。そこから放たれるのは、あらゆる加護を打ち砕く魔眼の輝き。いかなる力を纏おうと、全てを射抜く魔眼の前には無力と化す。
「喰らえ! 全てを貫く魔眼の一撃……Mega Blaster!! ”Balor”!!」
 月の光を払い飛ばし、魔眼の輝きが白狼を貫いた。そこを逃さず、続け様にカシスが再びカプセルを投擲し。
「よし、次はこれだ!」
 除去されたウイルスに、再度白狼を感染させる。これで、万が一の際にも回復を阻害できると踏んでいたが……しかし、追い詰められた白狼は、月に向かって高々と吠え。
「Uuu……Wooooo!!」
「なっ……連続回復!?」
 敵の思わぬ行動に、カシスは思わず目を疑った。
 ウイルスの効果で回復力こそ制限されているが、それさえも今の行動で除去されてしまった。おまけに、敵は再び力を溜め、今にもこちらに飛び掛かって来そうな勢いだ。
「これは……いけないわ! 集中攻撃か……せめて、あの力を破壊しなくては!!」
 何かに気付いた様子で、エリザベスがウイングキャットのハクと共に、白狼へと斬り掛かった。だが、力を溜めた一撃や、鉄をも鰹節の如く削り取ってしまう爪を受けても、白狼は止まることはなく。
「……迂闊でしたわね。今の私には、あの力を破る術は……」
 続けて敵の纏った月の力を破壊しようと試み、しかしそれが上手く行かないであろうことに、カトレアが歯噛みした。同じく、カシスもカプセルを握り締めるも、それを投げてよいかどうかは迷っているようだった。
 相手の加護を破壊する術を持つのは構わない。問題なのは、その性質。他に主要とするグラビティと属性が被れば、万が一の際に咄嗟の判断で繰り出そうにも、相手に動きを見切られてしまう。
「噛み癖が悪いな。その牙へし折ってくれる」
 ならば、せめて攻撃力だけでも相殺してやろうと、ペルが棍を構えて殴り掛かった。これで、相手は出力が低下し、技の威力向上は望めないはず。後は、その身に纏った加護さえ破壊してしまえば、敵は全力を発揮できない。
「我が切り札が魔眼だけだと思うな!」
 杭打機の先端を回転させ、ジョルディが迫る。こんなこともあろうかと、彼は万が一に備え、敵のグラビティ効果を破壊するための技を二つ用意していた。
「Guu……Guaaauuu!!」
「……ぬぅっ!!」
 だが、そこは敵も譲らない。杭打機の先端をしっかりと咥え、そのままジョルディを振り回して、近くのビルに叩きつけた。
「まったく、往生際の悪い奴だ」
「どうやら、もっと派手にぶっ壊して欲しいみてーだな」
 こうなれば力で抑え込んでやろうと鬼人と清春が同時に仕掛けるが、それでも白狼は止まらない。このままでは、最後の最後で本当に誰かが倒れるかもしれない。嫌な予感が、それぞれの頭をよぎったが……まだ、最後の手段が残されていた。
「行くよ、シロ。あいつに、あれを撃たせるわけにはいかないからね」
 相棒のボクスドラゴンと共に、仕掛けたのは翔子だった。彼女の本来の役割は回復だが、それを攻撃に転じれば、加護の破壊に使えるのは彼女も同じ。今まで、散々に翻弄してくれたお返しとばかりに、翔子の力が雲を呼ぶ。
「全て洗い流されちまいな」
 月の光を黒雲が覆い隠し、凄まじい豪雨が白狼のいる場所だけに降り注いだ。続けて、シロの放ったブレスが命中し、水飛沫を上げながら爆発する。今度は確かな手応え、確実に敵が纏った月の力を砕いたはずだが……果たして、それでも諦めることなく、白狼は全身の部品を撒き散らしながらも、牙を剥き出しにして爆風から飛び出して来た。
「Wooooo!!」
「させぬ! 重騎士の本分は……守りに有りぃぃぃぃぃぃぃっ!」
 全力で飛び掛かって来る白狼の前に、ジョルディが盾を構えて立ちはだかった。その盾さえも貫き、身体に深々と突き刺さる牙。全身の力が凄まじい速度で奪われて行くのを感じ、ジョルディは吹き飛びそうになる意識を辛うじて保ちつつ、強引に白狼の牙から身体を捻って脱出した。

●咆哮は月夜に消え
 最後の最後で白狼が見せた、その身の破壊も厭わない全力攻撃。だが、使用すれば自らも傷つく諸刃の剣でありながら、しかし白狼の損傷は、思った以上に少なかった。
「おいおい、どうなってるんだ? 今のが全力じゃなかったのか?」
「出し惜しみ……ってわけでもねーよな? どうなってやがる?」
 鬼人や清春が首を傾げたが、それこそが、この白狼の真の恐ろしさ。敵の生命力を吸収するための攻撃を全力攻撃に用いることにより、反動で受けるはずのダメージを軽減する。つまり、実際は殆どノーリスクで全力攻撃を繰り出せるわけであり、それもまたこの白狼が、厄介な敵である理由のひとつだった。
 残り時間は、もう1分もない。次の攻撃で仕留めねば、敵はまんまと魔空回廊を開いて逃げ延びてしまう。
「ここが正念場ですね。……ハク、みんな、最後まで諦めないで!!」
 ハクのリングが白狼に炸裂する中、エリザベスの願いと歌が雷鳴を呼ぶ。その稲妻に合わせ、カシスが多数の光の刃を解き放ち。
「さぁ、断罪の時間だよ。無数の刃の嵐を受けよ!」
 一枚、また一枚と、白狼の装甲を削いでいった。それでも、まだ倒れることのない白狼だったが、ケルベロス達とて決して逃すつもりはなく。
「散々暴れておいてはいそうですかと逃がすと思うか? 消し炭になれ!」
「その身に刻め、葬送の薔薇! バーテクルローズ!」
 雷鳴を自らの手に手繰り寄せてペルが殴り掛かれば、そこに合わせてカトレアの剣が美しいバラの紋様を刻み込む。瞬間、最後の一突きが決まると同時に、白狼の身体は木っ端微塵に弾け飛び、周囲に紅い炎が広がった。
 その光景は、まさしく嵐の中で散る薔薇の花の如く。雲に隠された月の光は、もはや白狼の叫びに応えることもない。
「……終わったか。しかし、見た目に反してとんでもないやつだったな」
 瓦礫の中から身を起こし、ジョルディが呟いた。
 回復を主体としながらも、スタンドアローンで戦える強さを持った者ほど厄介な相手はいない。そんな現実を、まざまざと見せつけられる戦いだった。
 やがて、雲が晴れたところで、ケルベロス達は簡単なヒール作業を終えて街を後にする。再び夜空に輝き始めた月からは、しかし白狼を呼び覚ますような、魔性の輝きは消えていた。

作者:雷紋寺音弥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年8月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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