華麗

作者:藍鳶カナン

●華麗
 群雄割拠の乱世に、彗星のごとく現れた者がいた。
 数多のインドカレー専門店が乱立し、飽和状態となりながら覇を競うとある街の郊外に、華麗に完成して華麗に開店していたのはタイカレーの店。しかも数あるタイカレーの中から唯ひとつ、マッサマンカレーのみに全てを賭けたマッサマンカレー専門店である。
 嗚呼! 華麗なるマッサマンカレーよ!!
 時は十六世紀、アユタヤ王朝の時代にタイを訪れたペルシア人の影響を受けて誕生したと一説には言われるマッサンマンカレーは、アメリカの某サイトで『世界で最も美味な料理』第一位に輝いたことでも話題になった華麗なる逸品、すなわち人類の至宝……!!
 華麗な夕暮れにまろやかな光をとかしたかのごとき彩のそれは、カルダモンやシナモン、八角や生姜といった数多のスパイスをふんだんに使い、落花生やカシューナッツ、ココナツミルクやパームシュガーなどが加えられることで奥深いコクと程好い辛さをまろやかに包み込む甘さを醸しだした後引く美味。
 癖になるエキゾチック風味と秘められし甘酸っぱさはナンプラーやタマリンドの賜物で、これらが華麗なる調和を奏でるマッサマンカレーが華麗なるジャスミンライスと出逢う様は数多のひとびとをとりこにするに違いない。
 事実このマッサマンカレー専門店は大繁盛。
 だが夏のある日、この店に未曽有の危機が訪れた。
 黄金に輝くおっきな孔雀が押しかけてきたのである。
『華麗なる数多の英雄、綺羅星のごときインドカレー専門店達が覇を競うこの街において、マッサマンカレーなどという蛮族が名を上げようとは片腹痛い……何たる愚挙! この街、この世に存在すべきカレーは華麗なるインドカレーのみ!!』
「そうだ! 華麗なるインドカレーだけが俺達を高みに導いてくれる至高の存在!」
「そうよ! 華麗なるインドカレーを食べることで、私達は更に華麗になれるの!」
 黄金のおっきな孔雀――すなわちビルシャナは信者達の声援を受け、輝く飾り羽を華麗にふぁっさあと広げてみせた。
『我こそは華麗なるインドカレー以外絶対許さない明王! 我はマッサマンカレーを奉じる愚かな店に、華麗なる正義の鉄槌を下すものなり!!』

●華麗なる衝撃
「そんなわけで! みんなの出番ですっ!!」
 夏空のもと笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)はヘリポートに元気溌剌と声を響かせて、みんなの出番こと今回の任務について語り始めた。
 今回の任務はマッサマンカレー専門店の前でビルシャナを待ち受け、撃破すること。
 問題なのはビルシャナに賛同する信者達だ。
 戦いとなれば彼らはビルシャナの盾として参戦する上、普通に倒せば死んでしまう。
 だが、戦う前にビルシャナの教義を覆すようなインパクトある主張ができたなら、彼らはビルシャナの教義から解き放たれるはず。それが叶えば敵はビルシャナのみ!
「信者さん達は華麗なるインドカレーを食べたら自分達も華麗になれるって信じてます! だけど冷静なツッコミとか現実的な指摘とかは『真の華麗さを理解できぬ蛮族どもよ』って憐れまれてしまうので効きません!」
 最も効果的なのは相手の土俵にあがってしまうことだ。
 目には目を、華麗には華麗を。
「というわけで、みんなが『華麗なるマッサマンカレーのおかげで自分達はこんなに華麗になった!』みたいなのを華麗に見せつけてあげるのがオススメですっ!!」

 つまりこうだ!!
 華麗にヘリオンから降下した華麗なケルベロスが豪奢なマントを華麗にばっさあと翻し、
『今日も華麗に決まってしまったな。ああ、華麗なるマッサマンカレーを食すたびに輝きを増す己の華麗さが恐ろしい……!!』
 とか華麗に語ってみたり!!
 華麗なる婚礼衣装で華麗に登場した華麗なる美男美女が、
『フッ……私達は華麗なるマッサマンカレーが縁で、華麗なる運命の出逢いをしてね』
『華麗なる交際を経て、このたび華麗に華燭の典を挙げる運びとなりましたの……!』
 とか華麗に微笑んで見せたり!!
 大切なのは理屈でも真実でもなく華麗なるインパクト。華麗な装いを凝らし華麗なる振る舞いや華麗なる台詞で魅せて、華麗なるマッサマンカレーから始まる華麗なる王女と騎士の華麗なる王朝ラブロマンスとかを繰り広げちゃってもいいのである!!

「バラバラに華麗っぷりを見せつけるよりも、みんなで一丸となって華麗に盛り上げるのが効果的だと思います!」
 避難勧告は手配済みなので、みんなが華麗っぷりを見せつけている間に一般人さんたちもばっちり避難できちゃいます、と付け加えるねむ。インパクトが重要なのはそれもあってのことだ。
「華麗に荘厳な歌とか音楽で盛り上げたり、華麗なるエフェクトが出るヒールグラビティを演出に使うのもいいかもしれませんっ! あっでも攻撃グラビティはアウトです! 攻撃はビルシャナとの戦闘になってからどーんとお願いします!!」
「合点承知! わたしは『ああん○○さんってばとっても華麗なの~!』って確りばっちりみんなの華麗っぷりを盛り上げる係でいきますなのー!!」
 己の適性を確りばっちり把握している真白・桃花(めざめ・en0142)の尻尾がぴこーん!
 更に、そうだみんなの華麗っぷりを動画で撮ってもいいかしら~? とか言い出す彼女の尻尾がぴこぴこきゃっきゃしはじめた。
 この店に訪れる危機を華麗に解決したなら、皆で華麗なるマッサマンカレーをどうぞ。
 馬鈴薯と一緒にほろほろに煮込まれる肉は、鶏、鴨、牛の三種類からひとつを選べ、この季節ならカラフルな夏野菜の素揚げがトッピングされる。
 合わせるドリンクは、練乳をたっぷりと加えたアイスティーかアイスコーヒー、あるいはマンゴージュース。変わり種ならタマリンドジュースを、甘味なしならジャスミンティーをどうぞ。練乳好きならタイ風クレープのロティに練乳アイスをトッピングした華麗に激甘な食後のデザートを楽しむのもいいだろう。
 そうしてまた一歩進むのだ。
 この世界を、デウスエクスの脅威より解き放たれた――真に自由な楽園にするために。


参加者
愛柳・ミライ(明日を掴む翼・e02784)
片白・芙蓉(兎晴らし・e02798)
アイヴォリー・ロム(ミケ・e07918)
イズナ・シュペルリング(黄金の林檎の管理人・e25083)
ヨハン・バルトルト(ドラゴニアンの降魔医士・e30897)
クラリス・レミントン(夜守の花時計・e35454)
金剛・小唄(ごく普通の女子大学生・e40197)
ミレッタ・リアス(獣の言祝ぎ・e61347)

■リプレイ

●華麗なる衝撃
 華麗なる空間だった。
 美しく編まれた籐が照明を抱くラタンボールランプが優しいあかりと華麗な編み目の影で彩るパーティールームはアジアンリゾートで一夏のバカンスを過ごすコテージのリビングを思わせて、ウォーターヒヤシンスを編んだソファにアイヴォリー・ロム(ミケ・e07918)が身を沈めれば背も天使の翼も華やかなタイシルクを纏うクッションに受けとめられる。
「ああ、ここが神の与え賜うた楽園なのですね……!」
「ええ、ここが人類の至宝を心ゆくまで堪能するための楽園ですとも……!」
 華麗なる演技の余韻がさめやらぬ風情の友にミレッタ・リアス(獣の言祝ぎ・e61347)も楽しげな笑みで合わせ、籐のフレームを硝子が彩るテーブルとその奥の大型ディスプレイへ期待の眼差しを向けた。至宝が揃ってから上映されるのは先程幕を閉じたばかりの物語。
 劇中と現実の苦難を乗り越えて華麗なる大団円を迎えた――王朝ラブロマンスだ。
 満を持して人類の至宝が運ばれてきたなら皆に歓声が咲く。優美な白磁の器に湛えられた至宝こそは、華麗な夕暮れにまろやかな光をとかしたかのごとき彩のマッサマンカレー!
 麗しくもまろやかな夕暮れでまず眼を惹くのはトッピングされた夏野菜の素揚げ、艶めく紫紺の茄子に鮮やかな赤と黄のパプリカが夏らしく、夕暮れの水面を彩るココナツミルクの油が赤唐辛子やスパイスの色をとかしこみ、赤橙の宝石めいて煌く様も美しい。
 熱く甘やかに立ち昇る香りはココナツと数多のスパイスのもの、
「ほんと、異国や異世界の料理って感じ……! シナモンと八角――スターアニスかな?」
「エスニックで、エキゾチックで……馴染みがないのに美味しいと解るのが不思議ですね」
 華やかに溢れる香りの異国情緒にクラリス・レミントン(夜守の花時計・e35454)が瞳を輝かせ、ヨハン・バルトルト(ドラゴニアンの降魔医士・e30897)が深く感じ入れば、
「これが! ジャスミンライス……!!」
 別の器で添えられた真白なライスに愛柳・ミライ(明日を掴む翼・e02784)がいっそうの歓声を咲かす。それは香り米と呼ばれる最高級のインディカ米で、ただ水で炊く、あるいは湯取りで茹でるだけで素晴らしく芳醇に香り立つのが特徴だ。
 ライスにも彩りを求め、玄米なり黒米入り雑穀米なり、ターメリックライスなりを添える店もあるが、ここではジャスミンの花のごとく真白なジャスミンライスこそが極上の彩り。
 それぞれがグラスを手に取ったなら、
「フフフ、うっかり何でもできそうな気分でヘマしかけたけれど、私達の勝利よっ!!」
 ――華麗なる勝利に、乾杯!!
 片白・芙蓉(兎晴らし・e02798)の音頭で皆の硝子が軽やかに鳴った。勝利を得たものの惜しむらくは擦り合わせの甘さや一部の認識の甘さで危うい場面もあったこと。
 予定とはグラビティ構成が異なっていた金剛・小唄(ごく普通の女子大学生・e40197)は重大な認識の甘さもあって理想の展開は叶わずに。
「私も謎の万能感で破綻させそうに……はっ! もしかしてこれもビルシャナの力!?」
「戦闘能力はたいしたことなかったけど、だったらほんと強敵だったね、あの明王!!」
 勿論ビルシャナにそんな力はなかったが、今は濡れ衣を着ておいてもらうことにしよう。
 ある種の固定概念からなのかイズナ・シュペルリング(黄金の林檎の管理人・e25083)は信者へマッサマンカレーの美味を語ることに情熱を注いだが、双方とも要点は味でないため意味がなく、王朝ラブロマンスでの役の詳細はその場で決めればいいかなと思っている間に物語は怒涛の流れで華麗なる大団円を迎えていた。
 ただの遊びであったなら、なりゆき任せを楽しむのもいいだろう。
 然れどこれは、襲撃された店のみならず信者達をも救えるか否か、そしてビルシャナとの戦いの行方を左右する運命の分かれ道。『詳細おまかせ』と己以外に運命を委ねてしまえば己自身で華麗に運命を変える力を手放すことになる。
 だが、大画面では語り手のごとき風情のイズナの言葉で物語が幕を開けた。
 ――二つの国は敵対する大国同士。
 ――話なんて通じないし、通じるなんて考えたこともなかったの……。
 夏空のもと華麗な涼風を運ぶようなスイスカウベルの音色、夏風に舞いあがり透明に煌く花々が、華麗なる王朝ラブロマンスの開幕を告げ、国境付近での村祭りの様子を告げる。
 村祭りで出逢った若き男女、マッサマンカレーの話で意気投合した二人の正体は、
『あの殿方が、イエローカレー帝国の皇太子だったなんて……!』
 若き娘、グリーンカレー皇国の皇女クラリスが嘆いたとおり、敵対する大国の皇族同士。微行先での運命の出逢いと禁断の恋に悩める皇女が纏うのは国の象徴たるグリーンカレーを思わす若草色のドレス、そこに不思議な光沢を重ね彼女の可憐さを引き立てる白銀の羽衣が流体金属の生命体であるとは観客(ビルシャナ信者)達も気づくまい。
『姫! お忍びはおやめくださいと、あれほど! ああ、わたくしがついていれば!!』
 口惜しげに若草色のマントを翻す様さえスタイリッシュに、護衛の女騎士アイヴォリーが皇女を諫めるものの姫の恋心は募るばかり。若草色のリボンを身体に巻きつけ、揺れる心を表すように跳ねる兎が不意に立ち止まれば、ズームアップが不安げな兎の瞳とひくひくするおひげを捉え――、
「ナイス撮影テクよ桃花! 可愛いわ! 私!!」
「ああん芙蓉さんの華麗なる可愛さはばっちり撮り逃しませんともー!」
 動物変身で出演した芙蓉に褒められた真白・桃花(めざめ・en0142)が尻尾ぴこぴこ。
 なお、サウンドエフェクトは芙蓉のテレビウムが動画で担当しているが、サーヴァントは自分で適切なSEを選ぶ判断力を持たない。事前に芙蓉がどれだけ指示できたかが勝負だ。
 夏空のもと開幕した王朝ラブロマンスの舞台は華麗なるマッサマンカレー専門店の門前、東側のグリーンカレー皇国の場面から大きく跳ねた兎が西側のイエローカレー帝国へ観客の視線を誘導すれば、
『侵攻のため自ら偵察に赴いた敵国で出逢った乙女が、まさか皇女だったとは……!』
 高貴な黄に絢爛たる金が豪奢な刺繍を施すマントを翻した皇太子ヨハンが、やはり禁断の恋に苦悩していた。確り馴染んだ軍礼装も山吹の地に金の鳥舞う腕章も、彼が飾り物でなく実際に軍を指揮していることを示す。皇国へ侵攻する、帝国軍を。
『嗚呼、あの笑顔! 彼女と共にマッサマンカレーで晩餐の時を過ごせたら……!!』
 天に嘆願すべく腕を伸べ、強い願いそのままに輝く癒しの光を彗星のごとく迸らせるが、その腕の儀礼用手甲に踊るのは華麗なる炎の意匠、二国間の戦火を表すよう、赤きリボンを纏う兎が跳ね――恋人(舞台でも現実でも)の熱演に見惚れていたクラリスがふと瞬いた。
 己も自前の装いだが、質実剛健な彼が物語のために誂えたかのようなこの装いは。
「改めて観ると細かいとこまで凄いの、これモードとかの変身じゃないよね!?」
 そう、スタイリッシュ変身などではないので今も軍礼装のままのヨハンは、今だけ作法を置いて両肘を卓につき、口の前で手を組む何処かの司令のごとき様相で告げた。重低音で。
「――便利ですよね、旅団ショップ」
 嗚呼! 華麗なる数多の英雄、綺羅星のごとき旅団ショップ達よ……!!
 華麗なるセンスを持ち合わせた華麗なるケルベロス達によって華麗にプロデュースされた華麗なる逸品の数々! それらは何時いかなる時もケルベロス達の味方であり、このような時には大いにその真価を発揮する、華麗に強力無比な攻城兵器となるのである!!
 変身を活かしたいけれど変身時の装いを考える余裕がない、そんな時でもこれら華麗なる逸品達は、華麗に買い求め、ただ装備するだけで自らを華麗に演出してくれるのだ。華麗に合理的かつ、数多の品を吟味した妥協なき事前準備の成果が、今ここに発揮される――!!
 舞台では更に華麗さを加速させるよう、
『ああ殿下! これまでの皇国への侵攻を思えば、御身の苦悩も無理からぬこと……!!』
 創作の世界では執事のスタイルとしてお馴染みのモーニングコートを着こなし、隙のない白手袋で理知的に煌く片眼鏡に触れ、一目で皇太子の有能な側近と解る姿を体現してみせるミレッタの好演が炸裂!!
「!! もしやミレッタ、貴女のこの華麗に完璧な側近スタイルも……!?」
 大画面でいっそう華麗に映える友にアイヴォリーがはっと身を強張らせたなら、冷たくも華やかに香るジャスミンティーのグラスを片手に、ミレッタが華麗に微笑んでみせた。
「――便利ですよね、旅団ショップ」
 しかもこのモーニング実はケルベロスコートで、戦闘が始まるや颯爽と脱ぎ捨てクールな狙撃手へと変貌したミレッタが、白鋼の鎚で撃つ轟竜砲や呪いを具現化した夕暮れ色の鎖で足止めしてくる様はビルシャナも歯噛み(嘴で)するほど華麗であった。
 だが明王戦はひとまず置こう。
 今は、華麗なる物語が教義というビルシャナの牙城を突き崩すところを――!!

●華麗なる祝宴
 夏空のもと熱演するのも高揚感が半端なかったが、空調が心地好い涼しさを保ってくれる屋内で華麗なる美味に舌鼓を打つ今の幸福感も天元突破しそうなほど。
 熱く甘やかに香り立つ至宝を口に運べば、真っ先に口中を満たすのは南国的なココナツと八角やシナモンなど香りの甘い香辛料の風味、その奥からカレーらしい香辛料が覗いたかと思えば、奥深いコクと甘さに、圧倒的な旨味が押し寄せる。
「これが……人類の至宝ですか……!!」
「そうですとも、華麗なる人類の至宝! なんて美味!!」
 華麗なる美味の裡で柔くほろりとほどける鶏の旨味にヨハンが瞠目すれば、ナンプラーの発酵の旨味に鴨の脂の甘味が絡みゆく様にアイヴォリーの笑みが咲く。舌鼓をうちたくなる秘められしタマリンドの酸味がじんわり辛味を連れてきた頃に茄子の素揚げを一齧りすれば熱い夏野菜の甘さが迸り、きゅっと眼を瞑ってクラリスは余韻を堪能した。
「これはクセになっちゃう、病みつきになっちゃうよね……!」
「本当に……! ああ、ほっくり崩れる馬鈴薯も最高……!!」
「やぁんやぁん、ジャスミンライスと交互の永久運動も最高なのです!」
 後引く、というか引きまくる美味にミレッタが心も兎耳も震わせ、口に含むだけでも芳香溢れるジャスミンライスとマッサマンカレーの咲き誇るような調和にミライもめろめろ。
「美味しいよね! そういえば芙蓉は何のお肉にしたの?」
「選べなかったからおまかせにしたら、鶏が来たのだわ!」
 お揃いだねと破顔したイズナの手には、甘いシナモン色がほんのり氷を透かすタマリンドジュース。砂糖入りのそれは濃厚な風味と甘さにローズヒップにも似た酸味を感じさせて、癖は強いけれどマッサマンカレーとの相性は抜群。張りきったからおなかすきまくりよっと芙蓉も健啖家ぶりを発揮して、皆の様子にヨハンは改めて眦を緩めた。
 軍務に精励する皇太子は、古き戦士の家系に生まれ鍛錬漬けの日々をすごした己と何処か重なって、大画面で客観的に観るのが不思議な心地。その画面では今、彼の許へ現れた魔女帽子がお揃いの使い魔ウイングキャットを連れた華麗なるカレーの魔女、小唄が祝福を齎す場面。予定の癒しの光でなく満月の光に包まれた彼女がグリーンカレーとイエローカレーを両国の統合のごとく合わせ、
『全てを解決するのは、愛と平和と華麗なマッサマンカレー!』
『殿下は剣ではなく、思い出輝くマッサマンカレーを手にすべきということですね!』
 高らかに宣言したところで皇太子の側近ミレッタが予め準備していたマッサマンカレーを華麗なる超合金製のシルバートレイ(某旅団ショップ謹製)で掲げてみせた。
「ミレッタさんの機転で救ってもらって、本当によかったです……!」
 謎の万能感に満ちていた小唄だが、グラビティは万能にあらず。
 可愛いものの幻影で癒す彼女の術でカレーの幻は創りだせず、直前で実物(レトルト)のグリーン&イエローカレーを用意する必要が生じた上に、気力溜めやルナティックヒールでそれらをマッサマンカレーに変えられるはずもない。
 場面をテンポよく繋ぐことを常に意識していたミレッタがいなければ、『やはり華麗なるインドカレー以外は無様なものよ』と敵に哂われ皆の尽力すべてが水泡に帰したはずだ。
 一方、皇女クラリスのもとへはマッサマンカレーを示す夕暮れ色のリボンの兎が。
 天啓を得た皇女の願いに驚愕しつつも宮廷料理人ミライは腕が鳴るとばかりに笑み、
『生半可な覚悟じゃ火傷しますよ。ですが姫の心がそれほど熱いのなら、作りましょう!』
 耐熱性に優れたコックコートと厚いエプロンの重武装を纏えば、天使のアリアデバイスが骨をも割る中華包丁、否、重厚なるクレーバーナイフへと変化する!
 新鮮ゆえに鮮やかなフレッシュハーブの香りや青唐辛子の辛味を活かすグリーンカレーと香りも風味も凝縮されたドライスパイスを丁寧に炒め具材や調味料とじっくり煮込むことで奥深い味わいを引き出すマッサマンカレーは真逆の存在。だが、
『――美味しいものに、国境はないのです!!』
 存分に溜めをつくって顕現させるのは属性の力によるジャスミンの花々の盾、専門店の前ゆえに容易に入手できたマッサマンカレーを素早く盾の裡で手にして差し出せば、
『ああ、グリーン、イエロー……そんな枠組みは些細なこと!』
 自国の象徴を頑なに愛していた女騎士アイヴォリーも一口で陥落、
『華麗な美味しさでほら、世界が輝いてゆく!!』
 若草色のマントを風に躍らせれば裡から覗くは華麗なるマッサマンカレーを思わす赤銅の闘気の輝き、国境へ靴先を向ければ光の花々が舞う。イエローカレー帝国側でもミレッタが華麗なるマッサマンカレーを皇太子に手渡し、光の花々で主君の背を押して。
『さあ殿下、今こそ味の領土を超え、両国に笑顔の花を!!』
 礼を言うと告げた皇太子が竜の翼を広げれば、
『今や我が望みは、ただひとつ!!』
『そう、マッサマンカレー愛に国境はないの!!』
 凛然たる声音と掲げた白樺のタクトを思わす杖で皇女も鋼の意志を示す!
 二人の再会は国境の思い出の村、竜の翼で翔んできたヨハンが両腕を広げればクラリスが迷わずその中へ飛び込み――愛と幸福に満ちた二人の表情がズームアップ!!
「ひゃあああ! 桃花ー!!??」
「ま、真白さん、なんと……!!」
「ナイス撮影テクです、桃花! これは永久保存版ですね!」
「ああん確りばっちりぬかりはありませんともー!」
「やぁん、ここはやっぱりどアップ! ですよね!」
 この後のラストでの成功を確信したからこそのパフォーマンスを披露した恋人達の頬へと熱が咲き、瞳を輝かせたアイヴォリーとミライが歓声を咲かせれば、
『貴女への愛と終戦の証に、マッサマンカレーで華麗なる祝宴を!』
 大画面で皇太子がそう宣言すると同時に二人の頭上高くへぽーんと跳ねた(テレビウムがぶんなげました!)兎の芙蓉が突如、ひとの姿へ変わる――!!
『両国の争いで呪いをかけられてたけれど、華麗なる和平で呪いが解けたわ!!』
 響き渡る声とともに背に咲き誇るは華麗なる七色の爆風、同時にスタイリッシュモードを展開できなかったのは残念だが、透明にきらきら煌く花々が皆を祝福するよう降り注ぐ。
「フフフ華麗すぎるサポートだったのだわ、流石ねイズナ!」
「種族特徴や防具特徴の変身って一手必要だから、グラビティと同時には無理なんだよね」
 動物変身も一手費やすのだが解除はノーカウントなのが幸いだった。なお先のクラリスも凛とした風は揮わず純粋に凛と振舞っただけである。
 大画面では、あの兎さんが、と感極まった皇女が白樺のタクトを掲げ、
『マッサマンカレーの美味しさは強い絆を生み、奇跡を起こすの!』
『煌くマッサマンカレーの存在が、愛と平和の燈火となったのだ!』
 皇太子が天に広げた鋼雲へ光を奔らせれば雲と光が弾け、煌く光の粒子とグラスハープを幻想で潤したかのごとき、アルモニカを思わす音色が辺りを満たすクライマックス!!
 ――華麗なる至宝よ永遠に! 万歳!!
 彼がまだ駆け出しケルベロスだった頃を思い出し、あのヨハンが、と感涙に咽ぶ芙蓉。
「今はこんなに仲睦まじい彼女がいるなんて……大きくなったわね! ヨハン!!」
「そうですね……片白さんと知り合った頃から5センチくらいは背が伸びたでしょうか」
「今はこんなに仲睦まじい彼女がいるなんて……器が大きくなったわね! ヨハン!!」
 同じく感慨を抱いたらしい青年の生真面目な応えに芙蓉が華麗に言い直せば、皆の笑みも弾けて溢れて、舞台に美味に戦闘にと話の花も咲いた。信者達すべてが正気に返れば途端にビルシャナとの戦いが勃発したが、
「手を携えた両国に敵うものなど存在しない……という感じでしたよね?」
 悪戯な笑みを覗かせたミレッタに、勿論! と返る声。
 熱々ぱりぱりのロティの熱に練乳アイスがとろりと蕩けて艶めいて、切り分けて頬張れば生地の裡からは完熟バナナ。熱で甘さを増すのは練乳アイスも同じで、飛びっきりの甘さに心も兎耳もいっそう震わせ、美味なる幸福に天を仰いだ。
 ――ビバ・華麗……!!

作者:藍鳶カナン 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年8月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 0
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