ホカホカ御飯に勝るモノなし!

作者:ゆうきつかさ

●都内某所
 水と米さえ入れれば、美味しい御飯を炊く事が出来る全自動炊飯器があった。
 しかもファジー機能を売りにしており、どんな古米であっても、美味しく炊ける事をアピールしていたようである。
 だが、実際にはそこそこ美味しく炊けるだけで、ギリギリ合格点レベル。
 そのため、クレームにはならなかったものの、『次から、ここのメーカーの商品は買わない』と購入者に決意させてしまうレベルであった。
 それが原因で在庫の山を抱え、そのメーカーは廃業してしまったようである。
 その後も、全自動炊飯器が保管された倉庫は放置され、人々の記憶からも忘れられていったらしい。
 そんな中、拳ほどの大きさがある蜘蛛型のダモクレスが現れ、全自動炊飯器に機械的なヒールをかけた。
「スイハンキィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィイ!」
 次の瞬間、機械的なヒールによって、全自動炊飯器がダモクレスと化し、耳障りな機械音を響かせながら、倉庫の壁を突き破って街に繰り出すのであった。

●セリカからの依頼
「氷岬・美音(小さな幸せ・e35020)さんが危惧していた通り、都内某所にある倉庫で、ダモクレスの発生が確認されました。幸いにも、まだ被害は出ていませんが、このまま放っておけば、多くの人々が虐殺され、グラビティチェインを奪われてしまう事でしょう」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
 ダモクレスが確認されたのは、都内某所にある倉庫。
 この場所にあった全自動炊飯器が、ダモクレスと化してしまったようである。「ダモクレスと化したのは、全自動炊飯器です。このままダモクレスが暴れ出すような事があれば、被害は甚大。罪のない人々の命が奪われ、沢山のグラビティチェインが奪われる事になるでしょう」
 そう言ってセリカがケルベロス達に資料を配っていく。
 資料にはダモクレスのイメージイラストと、出現場所に印がつけられた地図も添付されていた。
 ダモクレスはホカホカの御飯を炊きながら、ケルベロスに襲い掛かってくるようだ。
「とにかく、罪もない人々を虐殺するデウスエクスは、許せません。何か被害が出てしまう前にダモクレスを倒してください」
 そう言ってセリカがケルベロス達に対して、ダモクレス退治を依頼するのであった。


参加者
雪城・バニラ(氷絶華・e33425)
氷岬・美音(小さな幸せ・e35020)
サイレン・ミラージュ(静かなる竜・e37421)
日下・魅麗(ワイルドウルフ・e47988)

■リプレイ

●都内某所
「どうやら、美音が危惧していたダモクレスが現れたのですね。このまま放っておけば被害も増えてしまいますし、ここできっちりと倒しておきましょう」
 氷岬・美音(小さな幸せ・e35020)は仲間達と共に、ダモクレスの存在が確認された倉庫にやってきた。
 倉庫の周辺は異様な空気に包まれており、ケルベロス達を飲み込む勢いで、身体に纏わりついてきた。
 その影響もあってか、まわりにはまったく人の気配がなく、まるでゴーストタウンのような感じになっていた。
「今回の相手は全自動炊飯器のダモクレスですか。できれば美味しいご飯が炊ける炊飯器の方が良いですが、相手はダモクレスですからね」
 サイレン・ミラージュ(静かなる竜・e37421)が、何処か遠くを見つめた。
 事前に配られた資料を見る限り、全自動炊飯器はファジー機能を売りにしていたようだが、あまりにも機能がファジー過ぎて、美味しさよりも無難という感想の方が勝っていたようである。
 そのため、これといったメリットもなく、あまり必要性が感じられなかったため、だんだん売れなくなってしまい、在庫の山と化してしまったようだ。
 だからと言って在庫の山を処分するには、莫大な金が掛かってしまうため、倉庫の中で深い眠りにつく事になってしまったようである。
 そう言った意味で、ここは墓地。
 浮かばれない全自動炊飯器の霊(?)が彷徨う危険な場所と化していた。
「確かに、ダモクレスの炊いたご飯って、何だか危なそうだね」
 日下・魅麗(ワイルドウルフ・e47988)が、苦笑いを浮かべた。
 もしかすると美味しいかも知れないが、まったく身体に害がないという保証はない。
 最悪の場合は、身体の何処かに支障が出てしまう可能性もあるため、気を抜く事が出来ないというのが本音であった。
「それにギリギリ合格点レベルなら、あまり使いたいとは思わないわね」
 そんな中、雪城・バニラ(氷絶華・e33425)が、殺界形成を発動させた。
「スイハンキィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 次の瞬間、ダモクレスと化した全自動炊飯器が、倉庫の壁を突き破り、耳障りな機械音を響かせながら、ケルベロス達の前に陣取った。
 ダモクレスは全自動炊飯器がロボットになったような姿をしており、美味しそうな御飯のニオイを漂わせながら、攻撃を仕掛けるタイミングを窺っているようだった。

●ダモクレス
「さぁ、行きますよ、アンセム。頼りにしていますね」
 すぐさま、サイレンがウイングキャットのアンセムに合図を送り、ダモクレスの攻撃に備えた。
 それに合わせて、アンセムが勢いよく翼を広げ、ダモクレスの攻撃射程内から離れるようにして、空高く飛び上がった。
「スイハンキィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 その事に気づいたダモクレスが耳障りな機械音を響かせ、超強力なビームを放ってきた。
 だが、それは御飯の塊。
 その上、ホカホカ。
 ビームのように見えるが、実際には御飯であった。
 おそらく、ここに丼があれば、一粒残さず、キャッチしたかも知れない。
 しかし、ケルベロス達は考えた。
 果たして、ダモクレスの作る御飯が、マトモであるか、という事を……。
 場合によっては、毒。
 例え、美味しかったとしても、裏がある。
 そもそも、何処で米を調達したのか、疑問が残る。
 ダモクレスにいた場所にあったのは、米ではなく、ゴミ。
 その事から考えて、ゴミから米を作り出し、ビームとして発射している可能性が高かった。
 もちろん、それは可能性の問題。
 絶対に、そうとは限らない。
 それでも、警戒しておくべきであると、ケルベロス達の本能が告げていた。
「スライムよ、敵を丸呑みにしてしまいなさい!」
 即座に美音がレゾナンスグリードで、ブラックスライムを捕食モードに変形させ、ビーム状の御飯を飲み込ませた。
「……」
 幸い、ブラックスライムに変化はない。
 この様子では、毒もない。
 だが、相変わらず、御飯の正体は……謎!
 その状況で、ご飯を食べたいと思うケルベロスは、ひとりもいなかった。
「スイハンキィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 それと同時に、ダモクレスが耳障りな機械音を響かせ、再び超強力なビームを放ってきた。
「氷の属性よ、皆を護る盾となりなさい」
 すぐさま、バニラがエナジープロテクションを発動させ、氷属性の盾で超強力なビームを弾いた。
 その途端、大量の米が飛び散り、雨の如く降り注いだ。
 それは、まるでライスシャワー。
 しかし、何か違う。
 根本的に違う。
 それ故に、思わずツッコミを入れてしまう程、別モノであった。
「霊弾よ、敵の動きを止めちゃって!」
 その間に、魅麗がプラズムキャノンを発動させ、圧縮したエクトプラズムで大きな霊弾を作って、ダモクレスに撃ち込んだ。
「スイハンキィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 その一撃を喰らったダモクレスが怒り狂った様子で、体内に収納してあったしゃもじ型のアームを伸ばしてきた。
 しゃもじ用のアームは、そのまま隣の家に突撃しそうなほど大きく、見るからに凶悪ッ!
 御飯をすくうというよりも、相手を叩き潰すのに、適したサイズであった。
 その状況で、何か御馳走をしてもらえると考えるケルベロスは命。
 真っ先に感じたのは、命の危険。
 死亡フラグがピコンと立つ音を耳にしながら、ケルベロス達が警戒心をあらわにした。
「まさか、そのしゃもじで、私達を殴るつもり? そもそも、そのしゃもじは人を殴るためのモノじゃないでしょ?」
 バニラが嫌悪感をあらわにしながら、ダモクレスの攻撃を避けた。
 それは正論であったが、ダモクレスは気にしていない。
「スイハンキィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 それどころか、耳障りな機械音を響かせながら、まるで餅をつくようにして、何度もケルベロス達めがけて振り下ろした。
「重力を宿した狼の拳を、受けてみろー!」
 その隙をつくようにして、魅麗がダモクレスに獣撃拳を叩き込んだ。
「スイキンキィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 それはダモクレスにとって、予想外の一撃。
 思わず御飯が釜から飛び出してしまう程の衝撃に、ダモクレス自身も戸惑っている様子であった。
 だが、魅麗に迷いはない。
 そのまま釜をヘコませるほどの勢いで、ダモクレスを殴り飛ばした。
「この炎では、ご飯は炊けないですかね?」
 その間に、サイレンがグラインドファイアを放ち、ダモクレスの身体を炎に包んだ。
 それはダモクレスの全身を包み、キャンプファイアの如く勢いを増した。
「スイハンキィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 だが、ダモクレスは怯まない。
 未だに戦意を失っておらず、グツグツと音を立てながら、ケルベロス達を威嚇した。
 そのため、炊き立てと言うよりも、怒り沸騰。
 蒸気機関車の如く噴き上げた蒸気で、辺りが真っ白になるほどだった。
「どうやら火力が足りなかったようですね。それなら、もう一度!」
 そこに追い打ちを掛けるようにして、美音もダモクレスにグラインドファイアを放った。
 この時点で、炊き立てかどうかは関係ない。
 とにかく、足止めしなければ、命はない。
 最悪でも大火傷を負ってしまうため、美音に迷いは微塵もなかった。
「スイキンキィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 それと同時に、ダモクレスの身体が燃え上がり、焦げ臭いニオイが辺りに漂った。
 それはダモクレスにとって、最も屈辱的な事。
 いくらファジーであっても、米を焦がした事はない。
 それが誇るべき事であり、ダモクレスにとっての自信であった。
 しかし、釜の中に米は、明かに焦げている。
 それは中身を見なくても、明らか。
 シュレーディンガーの猫的な考えをする余地すら無いほど、辺りに焦げ臭いニオイが漂っていた。
「ス、ス、スイハンキィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 その事が引き金になって、ダモクレスがおにぎり型のミサイルを飛ばしてきた。
 おにぎり型のミサイルは、アスファルトの地面に落下すると、弾け飛んで大量の米を飛ばしてきた。
 この時点で、おにぎり型のミサイルではなく、普通におにぎりを投げたような感じになっているが、あくまでおにぎり型のミサイル。
 何処か不自然な感じのするおにぎりなので、一応ミサイルのようである。
 ただし、そこまで凝った事をせず、普通におにぎりを投げても、同じような結果になるため、その事に意味があるのか謎であった。
「なんて勿体ない事を……。それよりも、これは米なのでしょうか。何か別のモノのようにも見えますが、と、とにかくモノを粗末にしたら駄目です!」
 それを目の当たりにしたサイレンが雷刃突を繰り出し、雷の霊力を帯びた武器で、神速の突きを繰り出した。
「スイキンキィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 すぐさま、ダモクレスがしゃもじ型のアームで、自らの身を守った。
 しかし、守っているのは、前面だけ。
 それ以外は、隙だらけ。
 咄嗟に身を守った事もあり、他の部分を護る事まで、考える事が出来なかったようである。
「さぁ、これで爆破してあげるよ」
 その事に気づいた魅麗が、ボルトストライクを仕掛け、自らの拳で殴りつけた。
「スイハンキィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 次の瞬間、ダモクレスが断末魔にも似た機械音を響かせ、大爆発を起こして完全に機能を停止させた。
「何とか倒す事が出来たようね。……とは言え、このまま放っておく訳にもいかないけど……」
 そんな中、バニラが深い溜息を洩らした後、ヒールを使って辺りのモノを修復し始めた。
 結局、御飯の正体は分からなかったが、それを知ったところで、幸せになる事はないだろう。
 むしろ、このまま何も見なかった事にして、忘れてしまう事が自分のためでもあった。
「せっかくですから、美味しい御飯でも食べにいきましょうか」
 そう言って美音が何やら察した様子で、仲間達を食事に誘うのであった。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年7月30日
難度:普通
参加:4人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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