アトランティック・ブルー

作者:藍鳶カナン

●アトランティック・ブルー
 明るく透きとおる碧や青。
 眩い夏の陽射しが波も水面も輝かせる南の海を覗けば、海の底に帆船が見えた。
 嵐で沈没したと見えるそれは無残にマストが折れた姿で、割れた酒樽や木箱を散乱させ、沈没時に零れたらしい金塊や真珠があたりに散らばっているのだが――何やらちょこちょこ不自然だった。
 一見は大航海時代の帆船、だが大西洋なり地中海なりカリブ海なりなら今も当時の帆船が幾つも沈んでいるだろうが、ここは太平洋の日本近海、というか割とすぐそこに海辺の街が見える場所。帆船そのものもつい先日進水したばかりのような新しさで、沈没時に破れたと思しき帆も白さを保ったままゆうるり海中にたなびいている。
 それもそのはず、この帆船は海辺の博物館が地域の町おこしのために展示品の目玉として大航海時代の帆船を再現した船。実際の航海能力は持たぬ、言わば実寸模型同然の船だが、完成直後の嵐で岸から流されあっけなく沈んでしまったという、涙なしには語れない物語を持っていた。金塊やら真珠やらも展示用のフェイク品。
 引き揚げの費用を工面できなかったという後日譚も涙を誘った。
 が、海辺の街も博物館も転んでもただでは起きなかった。遊覧船の底が硝子張りになったグラスボートで沈没船観光ツアーを組み、沈没船そのものを新たなダイビングスポットにと売り出す計画も動き始めている。いずれも南の海の美しさがあればこそ。
 けれど美しい光が海中世界に揺れるある日、機械脚の宝石が海底を歩いてきた。
 機械脚の宝石――すなわちコギトエルゴスムは沈没船に乗り込み、展示品のひとつである海賊の機械人形に融合する。海賊の帽子といえば誰もが想像する立派な三角帽子を被った、船長と呼ばれていた彼はダモクレスとして生まれ変わって、模造刀から巨大な刀へと生まれ変わったカトラスを船の甲板で揮った。
 途端に生じるのは地上なら暴風となるだろう激しい破壊の水流。
 満足気に頷いた海賊は巨大なカトラスを肩に担ぎ、新たな宝を求めて一歩を踏み出した。
 彼が奪うべき宝は勿論、ひとびとの命と、グラビティ・チェイン。

●マーメイド・ブルー
 明るく透きとおる碧や青。
 透明な碧や青に光が踊る南の海の底で、海賊の機械人形がダモクレスに生まれ変わる。
 予知の光景で彼がめざすのは当然、『割とすぐそこ』の海辺の街だが、
「激しい暴風ってか水流と一緒に巨大カトラスで周囲を薙ぐ範囲攻撃とか、魔法のラム酒を呷って派手な炎を吐く範囲魔法とかを使ってくる相手でね、上陸されたら海岸一帯の被害が甚大だってのと、周辺住民の避難完了が間に合わないから――上陸は、待たない」
 天堂・遥夏(ブルーヘリオライダー・en0232)はそう告げて、ケルベロス達をあらためて見渡した。今回彼が皆に望むのは、迎撃ではなく、襲撃。
「全速でヘリオンを飛ばせば敵がまだ沈没船の甲板にいる間にその上空に到着できるから、そのまま一気に降下して、そこで戦って仕留めて欲しいんだ」
 海中でもケルベロスであれば全く問題なく戦えるのは皆が識るところ。
 潜水用の装具があってもいいが、あってもなくても戦闘での有利不利は一切発生しない。
 呼吸せずともケルベロスは戦闘可能であるし、何より、多少の息苦しさなど忘れてしまうほど血沸き肉躍る戦いが待っているはずだ。
「たとえ本物じゃなくても、沈没した帆船で海賊と戦うのって浪漫じゃない? 決して弱い相手じゃない、ってか結構厄介な相手だけど、それでこそ燃えるってひとも多いよね?」
 巨大カトラスで薙ぐ追撃を備えた範囲攻撃、炎の範囲魔法、それらに加え魔法のライムを齧って損傷や状態異常を修復するヒールも持つ敵は、術の効果を重ねるのに長けている。
 要するにジャマーだ。追撃も炎もキュアも厄介度が跳ね上がるはず。
 船も損傷するだろうから、無事に海賊を撃破できたらヒールもお願い、と遥夏は続けた。敵を船から引き離そうとすれば此方を無視して街に向かいかねないし、沈んでいるとはいえ海辺の街と博物館の新たな観光資源だ。
 船を傷つけないように戦うのも不可能だろうから、勝利後のヒールが最も無難。
「とは言え、そもそも勝利そのものがそう簡単なわけじゃないと思うけど……あなた達なら全力全開、油断せずとも楽しみながら戦って、確実に勝利してきてくれる。そうだよね?」
 挑むような笑みに確たる信を乗せ、遥夏はケルベロス達をヘリオンに招く。
 さあ、空を翔けていこうか。海賊のダモクレスが誕生する、南の海へ。


参加者
ネーロ・ベルカント(月影セレナータ・e01605)
キルロイ・エルクード(ブレードランナー・e01850)
ニケ・セン(六花ノ空・e02547)
アイヴォリー・ロム(ミケ・e07918)
藍染・夜(蒼風聲・e20064)
ヴィルト・クノッヘン(骨唄葬花・e29598)
死道・刃蓙理(野獣の凱旋・e44807)
高塚・湊斗(地球人の土蔵篭り・e85255)

■リプレイ

●アトランティック・ブルー
 夏空から跳んで、水の惑星を抱きしめにいく。
 潮風を一気に突き抜け、夏の陽射しを連れて跳び込む先は眩い光が踊る南の海。
 派手に空へ躍る波飛沫、煌きの奔流となって水面をめざす気泡達、全身も純白の翼も擽る海水と気泡の流れにネーロ・ベルカント(月影セレナータ・e01605)は青玉の双眸を細め、明るく透きとおる碧や青の彩り揺らめく南海の底に沈んだ帆船の姿に大いに心も擽られた。
 海洋国家として名を馳せたヴェネツィア育ちの身としては見逃せぬ浪漫。そのうえ船では海賊が待つとなれば、
「倒せば俺達は英雄? なんてね」
「いいねぇ。賞金稼ぎが好みだが、なってやろうじゃねぇか英雄に」
 仮面の下で笑んだキルロイ・エルクード(ブレードランナー・e01850)が猛然と加速し、至るところは海底に沈む帆船の甲板で巨大なカトラスを担いだ海賊ダモクレスの許、
「黒ひげだか赤ひげだか知らねぇが、海賊の末路なんざ縛り首以外ありえねぇからな!」
『いい度胸だ、やれるもんならやってみやがれ!』
 爆ぜるような殺意に大喝で返すかのごとく海賊が応戦するが、巨大カトラスが受けたのは残像の剣、敵が気づくより速くカトラスを潜ったキルロイが超高速斬撃で獲物を斬り刻む。精鋭かつ速度に優れる彼ゆえに決まった初撃に続き、青き光の波紋が揺らめく海底の船上に星の聖域や黄金の果実が輝く加護を噴き上げれば、
「わたくし達も海賊かもしれませんよ? 貴方の命も財宝も、全て略奪して差し上げる!」
「宝も航路も奪い合いといこうか。やぁキャプテン、宜候と言いたいところだけど――」
 冒険譚の舞台が壮麗に彩られる様に笑み咲かせ、アイヴォリー・ロム(ミケ・e07918)が狙い澄まして轟かせるのは開戦のラッパ代わりの轟竜砲、過激な狙撃が海賊の肩に炸裂した瞬間、針路を違えているよと悪戯に笑む藍染・夜(蒼風聲・e20064)の鎚が凄まじい加速を得て揮われた。天裂く代わりに海を割る噴射とともに船縁付近にいた海賊を折れたマストの基部へ強かに叩きつけたなら、拍手喝采のごとく弾ける無数の泡。
 数多の煌き弾ける海を星空と成すよう翔けるはニケ・セン(六花ノ空・e02547)の流星の蹴撃、狙いは確かなれどミミックと力を分かつゆえに星の重力を刻めなかったのは御愛嬌と笑みを覗かせ、
「ねえ船長さん、一緒に遊ぼうよ」
『我輩とガチでやり合いたいなら仲間の後ろに隠れず前に出てくるんだな、小僧!』
 そう言われた心地になったのは、以前梅花の苑で少女エインヘリアルに似たようなことを言われたから。確かにカトラスの届かない後衛じゃ対等な『遊び』とは言えないなと思った刹那、魔法のラム酒を呷った海賊が激しい黄金の炎をニケ達後衛へ迸らせた。
 明るい波間から射す光が揺らめく碧と青の海中に眩い黄金の灼熱が踊る。
 仲間の誰にも心を繋がぬゆえ完全に出遅れた高塚・湊斗(地球人の土蔵篭り・e85255)が海底の戦場に跳び込んだのはその時のこと、反射的にニケを庇って受けた炎は海中ながらも凄まじい灼熱で初陣の娘を灼く。まだ練度の浅い身、護り手でなく防具の相性も悪ければ、耐久力の三分の一近くを焼き尽くされていただろう。
 仲間との連携を大事に、と漠然と思いはすれど、実際に戦術に組み込むなり仲間達と心を繋ぐなりしなければ実地での連携は難しい。
 心を繋ぐ必要性を語ってくれた仲間に勉強になりますと応えたというのに、湊斗が今心を繋いでいるのは戦場にいない相手だけ。ともに戦う仲間に繋がねば意味がないのだ。だが、
「独りで戦うんじゃなく、皆を頼っていいからな、高塚の嬢ちゃん!」
「痛手は俺が癒すから、さあ、いっておいで、湊斗嬢」
 湊斗を援護する位置から銃砲で敵へ凍結光線を撃ち込むキルロイ、自身とアイヴォリーが炎を躱したと見るや即座に癒し手の浄化を乗せた星の聖域を湊斗へ展開するネーロ、二人の激励を正確には汲み取れずとも何となく察して、
「……はい! 頑張ります!」
 栄えある初陣の初撃は、達人の一撃で。
 明るい碧と青にすべてが染まる南の海、光が揺らめく海中世界に突如生まれた丸い影は、死道・刃蓙理(野獣の凱旋・e44807)が創造した巨大な泥濘球のもの。直前に打ち込まれたヴィルト・クノッヘン(骨唄葬花・e29598)の黒き蓮の刻印を躱した海賊の頭上から落ちた泥濘が三重の麻痺で敵を冒しつつ爆ぜた。盛大に泥が飛散する様に海を汚してしまうかもと危惧した次の瞬間、心配御無用とばかりに巨大なカトラスが刃蓙理ごと辺りを薙ぐ。
 重い刃の衝撃の直後、光も彩も水も泥も何もかも巻き込んで爆ぜ飛ばす暴流が襲いくる。幾重にも荒れ狂う暴流から夜に護られ、ヴィルトが掌中のパズルから雷竜を放ったけれど、海賊は無造作に刃を揮い、稲妻の竜をあっさり断ち割った。
 先程は僅かに力及ばなかっただけ。
 だが今のは完全に、ヴィルト自身の愚策が原因で攻撃を見切られたのだ。
 治癒阻害の呪いを叩き込む彼独自の黒蓮も、稲妻の竜も強靭な力を基とする技同士。敵に見切られると解りきっている術を続けて決め打ちする失態は果たしてこれで何度目か。
 幾度も、何年も繰り返すこの悪癖と、己に慢心して戦術を磨かぬ考えの甘さを改めねば、
「そりゃ、俺はただの役立たずになっちまうわな……!」
 暴流の余波で大きくはためくのは海中に折れたマストの帆、碧と青の水中に揺らぐ巨大な帆を躱すよう跳躍すれば、刃蓙理の瞳に映ったのは海賊に断ち割られた雷竜が甲板をV字に裂き焦がした痕。それならこちらは十字をと両手に星剣を閃かせ、
「二刀の剣技……くらわせてあげる……」
『むう、小癪な小娘が!』
 海賊の頭上から喰らわせるのは海も帆船をも揺るがす星天十字撃、敵は巨大なカトラスで受けるが轟竜砲に砕かれた肩の軋みゆえに押し負ける。十字斬りの衝撃とともに機械の身に奔るはまたもや三重の麻痺、
「完璧です刃蓙理! ああ、これぞ血湧き肉躍る海賊戦の浪漫……!!」
 好機を掴んだアイヴォリーがゆうらり踊る帆の下を滑り抜けるようにして、海賊の脇腹へ鋭い旋刃脚をキルロイの氷ごと叩き込めば、間髪容れず夜も下段から蹴撃をと見せかけ、
「三次元的な攻撃には対応しづらいようだね、キャプテン?」
『何っ!?』
 一瞬で取り回した月の閃華、三日月めく大鎌の刃で上段から隼のごとき一閃で急襲した。敵を逃さぬ宵隼歌、足止めが永続せぬと識るからこそ、二種のホーミングを駆使して挑む。痛打を浴びた海賊が堪らず掌上に顕すは癒しのライム、然れど緑の柑橘は七重の麻痺ゆえに転がり落ち、海中の甲板に弾んで紺碧の海へ消えて。
 ――さぁ、心躍る駆け引きをしようか。

●マーメイド・ブルー
 美しい碧と青がとけあう南の海の水中世界、そこに鮮やかなライムグリーンの果汁が迸る様が確り視認できたのは魔法のライムであるがゆえ。強力な癒しと絶大な浄化を齎す果実を二度目で齧ること叶ったのは、果たして当の海賊と猟犬のいずれにとって幸運だったのか。
「勿論わたくし達ですとも! 貴方もわたくし達も、戦い足りないのは同じでしょう?」
「楽しそうだね、アイヴォリーさん。船長さんもだよね? 当然俺もだけど」
 明るい碧と青が光と彩を増す海中に天使の翼を咲かせて舞いあがるアイヴォリー、ならと滑るようにニケが甲板を馳せて、立体攻撃を意識しつつ撃ち込む二人の過激な狙撃は二連の轟竜砲。爆ぜる衝撃と気泡の中を躍るように転がってきた酒樽も水流も足掛かりにした夜も海中へ跳べば、星の眼差しと交錯したのは青玉の眼差し、
「海に沈む石像なんてのも一幅の絵のようじゃない?」
「それはもう、是非とも再現したい浪漫だよね。俺も一手乗らせてもらおうかな」
 愛しきアドリア海には大航海時代どころか古代ローマのガレー船も沈んでいるし、地中海全体を見れば古代都市そのものが海中に没した場所だって幾つもある。海中から石像が引き揚げられたなんて話も珍しくはなくて、だからこそより鮮明な浪漫がネーロの胸に咲いた。
 眼差しだけで正確に意を交わし、一瞬で左右に展開した夜とネーロが海賊へ撃ち込むのは古代語魔法ペトリフィケイション。南の海の碧を輝かせつつ翔けた二条の光が海賊の両肩を貫き、硬い石の色に染めれば、俺の代わりにお願いと望んだニケに応えた桐箱風ミミックもエクトプラズムの打ち出の小槌で石化の一撃を叩き込み、
「石像ですか……それなら、これで……」
 色々察した刃蓙理が青の世界に澄んだ紺青を落とす帆の影をするり泳ぎぬけ、背から脇を掻き斬ったなら、刻まれた禍を幾重にも跳ね上げられた海賊の肩から顔まで石化が奔る。
「鉄屑と合成樹脂の海賊野郎もなかなか洒落てきたじゃねぇか!」
 嘲るように笑ってキルロイが妖精剣を突き立てたなら裡から海賊の腹が爆裂して、赤黒い劫火に鋼のかけら煌く水中を翔けた湊斗が高速演算で導いた敵のうなじに一撃を喰らわせ、海賊の護りを砕いた。
 そして、一手ストラグルヴァインを挟んだヴィルトが治癒阻害の黒き蓮を命中させたのが此処に至って漸くでのこと。悪癖がなければ敵の回復前に治癒阻害を刻めていたはずだ。
 海賊は黒蓮の刻印を然して気にとめた風もなく、
『しゃらくせぇぞ、小童どもがぁ!』
 前衛陣へ大喝を轟かせるかのように巨大なカトラスを揮う。刃の猛威が生む激しい暴流が甲板やその上の酒樽木箱を砕きロープや破れた帆を舞い上げて、海底に散らばる金塊真珠も舞い上げれば、流れの余波にくるり舞うよう身を任せながらアイヴォリーが純白の翼を金に輝かす魔法陣を展開した。
 世界で唯ひとりアイヴォリーのみが揮える骼冠(グランヴヌール)は、色違いならぬ効果違いの二種揃え。ひとつは追撃、ひとつは足止め、前者のつもりで後者を携えてきていたと気づいた時は焦ったけれど。
 初陣の湊斗も確り肝に銘じている見切り効果を何年戦っても理解していない者がいるのは流石に想定外だったが、だからこそ、轟竜砲に加えてもうひとつ足止めがある現状は、
「幸運だったかもしれません。結果オーライというものです!」
「災い転じて福となす? けれども後で、おしおきタイムにしようか」
「ぴゃー!?」
 叫びが笑みに代わって泡沫の真珠になって水中世界を彩っていく。
 辺りに煌く金塊も真珠もフェイクだけれど泡沫の真珠は本当の宝物、そして艶めく笑みを覗かす夜こそがアイヴォリーにとっては世界で唯ひとつの財宝で、ゆえに彼を見つけた己はもう立派に海賊、なれどまだまだ欲しいと思うから、勝利を奪うため迷わず獲物を射抜く。爆ぜる深い紅はグロゼイユとポワヴラードが奏でるハーモニー、湊斗の分までも暴流を引き受けた夜が激しい気泡の噴射で海中を彩る鎚の強打で更に深紅の花を咲かせれば、
「今日も睦まじくて何よりだ、御二人さん。その調子で息の合った連携を見せてくれよな」
 暴流を土蔵篭りならではの力で引き裂いて相殺したキルロイが磊落に笑い、翻す銃口から峻烈な凍結光線を海賊へ迸らせた。愛し合う者達の幸福を願う心も、ダモクレスへの激しい殺意も、どちらも紛う方なき彼の本質。
 碧と青の水中世界を青白く輝かせる凍てる輝き、鮮烈な光線に撃ち抜かれた海賊が顔面を石化させたまま魔法のラム酒を呷り、盛大に吹いた黄金の炎で反撃すれば、
「いやもう、海賊っていうか道化師とか大道芸人の域じゃない?」
「顔が石でもラム酒呑んで炎を吹けるって、いっそ天晴れだよね」
 南海を彩る氷の煌きと眩い黄金の灼熱を涼やかにネーロが踊らせる天使の極光が彩って、海流を撫でるよう翳したニケの掌から顕現した幻影竜の炎が海底も帆船も輝かせつつ海賊を呑み込んでいく。青い水底の船上に描きだす星座の輝き、水中に華やかに柔らかに翻らせる極光の紗、海の冒険譚を癒しで彩っていくのはなかなか楽しくて、
 ――さながら今回俺は、皆を助ける魔法使いかな?
 純粋な笑みを零すネーロの眼前で、アイヴォリーの時空凍結弾が更なる氷花を咲かせた。
 誰もの心を躍らす冒険譚、なれど永遠に終わらぬままではいられない。
 襲いくる暴流からキルロイを護るだけで湊斗は全身を引きちぎられる心地になるけれど、彼女自身への暴流は夜が引き受け、外套で大きくその威を殺す。纏うは赤葡萄酒めいた彩、海賊の手にはゴールドラム、なれど、
「ホワイトラムのダイキリで作るみぞれも、夏の涼にぴったりだよ」
『そいつもいいが、我輩はポンセ・デ・レオンがお気に入りでな!』
 刃とともにそんな酒談義を交わす心地で揮う隼の一閃で海賊の黄泉路を拓けば、
「探検家のカクテルか、機械人形の分際で悪くない趣味してるじゃねぇか!!」
「お酒の味は、まだわかりませんが……美味しそうな気配は、わかります……」
 直感的に察したキルロイが深々と刃で機械を穿った裡からは海賊を断罪する凄絶な劫火が噴き上がり、赤黒い炎の輝きを越えるよう海中へと舞った刃蓙理が冒険譚の世界そのものを震わす十字の剣閃を振り落とす。
 純白の翼が震えるのは震動のみならず、金の鳥籠で抱いた憧憬の昇華ゆえ。
 ああ、わたくしはずっと、こうやって――!!
「ふふ、勝利の美酒が恋しくなってきました。華々しく終幕を彩らねば!」
「それじゃあ、最後の審判といこうか」
 運命からも解き放たれる心地でアイヴォリーが魔法陣から撃ち放つ輝きが海賊を貫けば、高揚のままに笑みを深めたネーロが魔導書の一節をなぞる。
 仲間の助言どおり皆と心を繋いでいれば、自分も流れるような連携に加われただろうか。憧憬と悔恨が綯い交ぜになった湊斗の眼差しの先に顕現したのはもうひとりのネーロ、否、彼の双子の片割れ、その幻影。
 双子の詠唱、彼方からラッパの音色、海中でそれを聴いたのは錯覚かもしれないけれど、裁きの光が海賊を海の藻屑と変え、跡形もなく消し去ったのは――紛れもない、真実だ。

 南海の碧と青に、極光の碧と青が舞う。
 天使達が降らせる光に一瞬桃色の輝きが翻れば、星の聖域や黄金の果実の輝きと重なった癒しが沈没船を幻想の珊瑚達と財宝で彩った。咎人の血は甲板を掠めて癒して、色鮮やかな幻想の魚の群れとなり、沈没時に折れた箇所は癒せずとも朱き鎖の影と清けし月影の癒しが戦いの傷に触れれば幻想の人魚達がマストをくるり舞いあがって、気泡の煌き弾ける笑みが皆に咲いた。
「ね、皆で祝杯をあげに行こうではないか」
「そりゃあいい。高塚の嬢ちゃん……湊斗嬢には俺から奢らせてもらおうか」
 片目を瞑ってみせる夜に打てば響くとばかりに返るキルロイの笑み。
 仔細は伝わらずとも湊斗も祝杯の気配を察した様子で笑み返すから、彼女にも仲間と心を結び合う素晴らしさを識る日が来ますようと願ってアイヴォリーも微笑んで、大切なひとと手を繋ぎあったなら、皆でいざ。
 冒険譚のフィナーレへ、宜候!!

作者:藍鳶カナン 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年8月6日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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