理奈の誕生日~集合、世界のアイス!

作者:雷紋寺音弥

「最近、なんだか暑くなって来たよね。こういう時こそ、冷たいものが食べたくならないかな?」
 実は、そんな願いを叶えるために、最適のイベントを発見した。そう言って成谷・理奈(ウェアライダーの鹵獲術士・en0107)がケルベロス達に告げたのは、とあるデパートの特設ルームで開催されるという、『世界のアイスクリーム祭り』の話だった。
「当日は、世界中の有名なご当地アイスとか、面白い創作アイスが格安で食べられるんだってさ! これはもう、行くっきゃないよね、絶対!!」
 ソフトクリームやイタリアンジェラート、フルーツの風味たっぷりのソルベは勿論のこと、ディープ・フライ・アイスクリームやスパゲッティアイス、クロクリームにフライドポテトアイスクリームなど、面白いアイスやキワモノまで実に色々なアイスが食べられる。
「あ、そうそう! 会場でアイスクリームのコンテストもやってるみたいだから、気になる人は参加してみるといいかもね。アイスクリームを溶けないように持って行くのが、ちょっと大変そうだけど……」
 まあ、その辺はクーラーボックスと保冷剤があればどうとでもなるので、あまり気にしなくても良さそうだ。受付さえ済ませれば誰でもエントリーできるので、世界のアイスに対抗して、自分のオリジナルアイスで挑戦してみるのも良いだろう。
 食べて楽しく、作って楽しい。そんなアイスクリーム祭りにて、甘く涼しい一日を過ごしたい人はいませんか?


■リプレイ

●アイス色々
 世界のアイスが一堂に会するお祭り会場。様々なアイスが並ぶ中を、ルラ・フトゥーロ(微睡のアセンブリ・e29360)とルソラ・フトゥーロ(下弦イデオロギー・e29361)の二人は、目移りしながらも歩いていた。
「アイス食べたいでありますよ! 世界のアイスクリーム! たくさんいろいろであります!」
 ルソラの目に映るのは、美しい色をした様々なアイス。果物の果肉を直接使っているのだろうか。オーガニックを唱っているものも多く、健康にも良さそうだ。
「よし、これに決めたであります! 果肉いりのジェラートいただくであります!」
「ソラはいつも即決ね。何の果肉?」
 早速、近くの店で売られていたアイスを購入しているルソラにルラが尋ねた。そうしいている間にも、ルソラは既に一口目を堪能し、その味に感動を覚えていた。
「んん~おいしいであります……! ぶどう味のジェラートでありますよ」
「ん、と……最初はさっぱりいきたいから……」
 一足先にアイスを楽しんでいるルソラとは反対に、ルラはなかなか決められないようだ。濃厚で甘い香りのアイスも良いが、最初はもう少し上品な口当たりのものを食べたいようで。
「そうね、これにしようかしら?」
 そんなルラが選んだのは、淡い桃色をした薔薇のソルベ。薔薇の味……というよりは、香りがするアイスなのだが、傍から見ているルソラには、どうにも味が想像できなかった模様。
「薔薇? 薔薇味でありますか?」
「ええ、そうよ。一口ずつ交換しましょ?」
 そんなに気になるなら、試してみるのもいいだろうと、ルラはルソラと互いのアイスを一口ずつ交換した。
「こ、これは……!?」
 今まで、食べたこともなかった上品な香りと口当たり。なるほど、アイスの世界は広いのだと、ルソラはしばし感心したまま固まっていた。
 さて、一通り堪能したら、やはり次のアイスが気になるというもの。なにしろ、ここは世界中の様々なアイスが揃っているのだ。オーソドックスなものだけでなく、それこそ風変わりな色物まで。
「ソラ、見て、たい焼きの口にソフトクリームが乗ってる。あっちはコーンがラングドシャ……アイス本体以外も色々あるのね」
「あっ! あそこのパフェみたいなアイスも美味しそうでありますよー!」
 変わり種を見つけ、ルソラはルラの手を引くと、パフェアイスの方へと引っ張って行った。チョコレートに山盛りのナッツがトッピングされたそれは、なんともインスタ映えしそうな一品だ。
「姉君にも1口どうぞであります!」
「二つ目まで食べちゃうの? ……そうね、アイスだし二つくらいなら大丈夫」
 こういう時は、お腹の具合を気にした方が負けである。ルソラからパフェアイスを一口だけもらい、ルラは自分もかき氷を注文した。タピオカとミルク、そして小豆で冷たさを中和し、程よい口当たりにしたものを。
「はい、ソラも一口どうぞ」
「おお、感謝するであります、姉君! う~む……しかし、たい焼き見た目のインパクトすごいでありまする」
 互いに様々なアイスを満喫しながら、存分に祭りを楽しむ二人だった。

●誰にも負けない一品を
 アイス祭りの会場には、様々なアイスが溢れている。それぞれ、個別に食べても美味しいのだが、そうなると試してみたくなることもある。
「成谷さんは15歳の誕生日おめでとうだね。喜んでお祝いさせてもらうよ」
 そう言って、影渡・リナ(シャドウフェンサー・e22244)が成谷・理奈(ウェアライダーの鹵獲術士・en0107)に渡したのは、実にカラフルな色合いのスペシャルアイス!
「うわぁ、凄い! これ、本当にもらっていいの!?」
 見たこともない色合いのアイスに、理奈は興奮気味だった。目の前にあるのは、まるで夢の世界から飛び出してきたような七色のアイス。だが、果たしてこんなアイス、会場で売られていただろうか?
「あ、これね。わたしが作ったオリジナルなの」
 なんと、リナは会場で手に入れたアイスを自ら組み合わせ、オリジナルアイスを作っていたのだ。ベースになったのは、サツマイモを使ったアイスクリーム。ただのサツマイモではなく、紫芋を使っているのだろう。他にも、サツマイモには様々な種類があるようで、本当に芋が材料なのかと思うくらい、カラフルなアイスが揃っている。
「今年で15歳、もうすぐで大人かな?」
「お、大人!? う~ん……それはまだ、ちょっと早い気もするけれど……」
 昔は16歳で成人とされていた時代もあるが、しかし今は、もう少しだけ子どもの時間が長くある。もっとも、16歳といえば、欧米ではレディ。大人の仲間入りができる年齢に近づいたのは、少しばかり嬉しくもあり。
「これだけアイスがあると世界の広さを感じるよね♪」
 そんな中、リナが食べているのは、フライドポテトにアイスクリームとチョコソースをかけたもの。なんでも、台湾代表のアイスらしく、敢えてポテトに塩を振らずに、甘いものをかけて食べるのだとか。
「ポテトにアイスかぁ……。面白い組み合わせがあるんだね」
 いったい、どんな味がするのか、理奈は興味津々だった。そんな彼女の気持ちを察してか、リナはアイスの付いたフライドポテトを理奈に差し出した。
「良かったら、このアイスもどうかな?」
「えぇ、いいの!? やったぁ!!」
 カラフルで可愛らしいアイスもいいが、風変わりなアイスもまた面白い。会場を探して回ってみれば、もっと面白いアイスと色々出合うことができそうだ。

●二人は受験生
「理奈、お誕生日おめでとう。これで理奈もわたしと同じ15歳になったのね。……ん?」
 お祭り会場で理奈を見つけ、まずは祝辞を述べた円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214)。だが、理奈の年齢を口にした時、ふと何かに気が付いた様子で足を止めた。
 理奈とキアリは同い歳。そして、キアリは現在中学三年生。つまり……理奈も中学三年生であり、二人とも高校受験の真っ只中!
「ねぇ……高校受験を控えた中三の夏にこんな風に遊んでいて、わたしたち……大丈夫なのかしら……?」
 こうしている間にも、ライバル達は塾や予備校の夏期講習に通い、猛烈な勉強をしているかもしれない。その結果、差はどんどん開いてしまい、いざ新学期が始まった際には絶対に越えられない壁が立ちはだかっているのではあるまいか。たった一日のことではあるが、それでも受験生としては不安になるのだ。
「う~ん……でも、たまには息抜きしないと、やる気もなくなっちゃうよ?」
 もっとも、理奈はあまり深く考えていないようで、勉強のことなどすっかり頭から抜けていた。
 ちなみに、これは余裕があるからではなく、単に何も考えていないだけだ。世の中は広いので、エリート街道を進むことさえ考えなければ、後は学校のテストで赤点でも取らない限りは、どこかの高校にはいけるだろうという安易な考えである。
「――え、えぇいっ、折角の理奈の誕生日に無粋なことを考えては駄目よね! 今日は思い切り楽しみましょう」
 そんな理奈に触発されて、キアリも半ば強引に、自らの不安を振り払った。
 どうせ、祭りは今日の一日だけ。理奈の言う通り、少しは息抜きもしないと、勉強の能率も悪くなる。
「プレゼント代わりに何か奢ってあげるわ、理奈。何か食べたいアイスはあるかしら!?」
「え、いいの!? そうだなぁ……あっちのトリプルアイスを食べてみたいかな」
 キアリに問われ、理奈が指差したのは、コーンの上に山盛りにされた三段重ねのアイスクリーム。ボリューム満点の逸品だが、しかしバランスが悪いのが玉に傷。
「はい、お嬢さん達、お待たせ! 落とさないように、気をつけるんだよ」
(「お、落ちる!? や、やっぱり、こんなところで遊んでいたら……ハッ! ダメダメ、今はそんなこと考えちゃダメ!」)
 店員からアイスを渡された瞬間、キアリが一瞬だけ不安そうな顔をした。やはり受験生である以上、『落ちる』という言葉には敏感であり。
「あ、そこ、誰かの落としたアイスが垂れてるよ。滑らないように気をつけてね」
「ひぃぃぃっ! お願いだから、落ちるとか滑るとか言わないでぇ!!」
 理奈に足元を指差され、思わず震え上がるキアリであった。

●今日は鳥はお休みです
 アイスクリーム祭りの会場に到着するや否や、周りの様子を入念に観察するリリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)。アイスを探している……にしては、なにやら目つきが鋭い気が。
「こういうところ、鳥がよく湧いて出るけど今日は大丈夫そうだね。んっ、理奈のお誕生日邪魔されないでよかったよ」
「じょ、冗談じゃないよ! こんな日にまで、変態の相手なんて勘弁だから!!」
 リリエッタの言葉に、理奈が思わず身を震わせた。どうやら、いつものお約束でビルシャナが現れるのではないかとリリエッタは警戒していたようだが……今回は、そんな心配もなさそうなので安心だ。
 とりあえず、今日は鳥のことなど忘れて存分に楽しもう。まずは世界のアイスの中でも珍品を扱ったコーナーへと、二人は足を進めて行き。
「醤油豆、ウニ、イカスミ……。変わった味のアイスだね」
「こっちのは……アイスの天ぷら? ……どうやって揚げてるんだろう、これ……」
 謎のご当地アイスや、どうやったら作れるのかさえも不明なアイスまで。ズラリと並んだアイスの山を掻き分けて進めば、その先にあったのは特大サイズのホールケーキアイス!
「ん、アイスもケーキになるんだね」
 感心した様子でリリエッタが眺めていると、店員がアイスを切り分けてくれた。折角なので、理奈のアイスには『Happy Birthday』のデコレーションを。アイス会場で発見した、スペシャル誕生日ケーキだ。
「うわぁ、ありがとう! それじゃ、いただきま~す!」
 口の中に運べば、ふんわりとした食感が舌の上で溶けて消えて行く。いつもは色々と大変な目に遭っている理奈だったが、今日くらいは何も考えずに楽しんでも良いだろうと、鳥のいない休日を堪能するのだった。

●これが究極のアイスだ!
 アイス祭りの会場では、アイスコンテストも行われている。一般客の飛び入り参加も可能であり、それだけにコンテストには、様々なアイスが出品されていた。
 アイスを出しているのは、その大半が有名なパティシエールか、あるいはブログでオリジナル創作料理を公開しているブロガー等であった。が、そんな中に混ざり、一際異彩を放っている者が。
「わははは! どいた、どいたぁ! アイス様のお通りだぁ!」
 巨大なミルク缶を転がしながら現れたのは、ルル・サルティーナ(タンスとか勝手に開けるアレ・e03571)だった。二重底になったミルク缶には牛乳がたっぷりと入っており、それを外側から氷で冷やしたものを、実に三本も転がしているのだ。
「お、おい、何だあれ?」
「牛乳アイス……なのか? それにしちゃ、随分と大仰だけど……」
 会場にいる参加者だけでなく、これには審査員達も唖然としていた。クーラーボックスに入れてアイスを持ってくるのが一般的な中、ミルク缶ごとアイスを持ってくるなど前代未聞だ。
「ふっふっふ……これはアイス誕生秘話に端を発する、由緒正しき製造方法! ララ乳特製、三色アイスをご賞味あれ!」
 もっとも、そんなことは全く気にせず、ルルはミルク缶をドカッと置いて、中に入っているアイスを取り出し、配り始めた。
(「まったく……理奈嬢のお誕生日会に行くって言うから、また訳分からん闇ゲーム始めると思って付いて来たのに、ミルク缶運ぶの手伝わされたばかりか、コンテストに参加だと……?」)
 そんなルルの様子を、陰ながら見守るルイス・メルクリオ(キノコムシャムシャくん・e12907)。今回も、何か変なことをやらかさないかと心配だったので、お目付け役としての意味もあるのだが。
(「しかも、材料は酪農家に直接交渉して手に入れた一級品って……絶対、毎日見ていたグルメバトルアニメの影響だろ……」)
 無駄に素材の質にこだわっている辺り、本気は本気なのだろうが、少しばかりやり過ぎな気も。なんとも不安が募るルイスだったが、牛乳の質だけは本物なので、そこは安心できそうだ。
(「まぁ、あの嬢ちゃん、酪農に対する技術と熱意『だけは』大人顔負けだから、アイスは旨いと思うんだが……」)
 問題なのは、アイスの色だ。配られたアイスを眺めつつ、ルイスはなんとも難しい顔をしている。
 確か、ルルは『3色アイス』と言っていた。が、実際に目の前にあるのは、どれも見た目に大差のないバニラアイス。その疑問は審査員達も同じだったのか、3つのアイスを前に、どう反応して良いか分からないようだ。
「おい、これ……本当に3色アイスなのか?」
「全部……バニラアイスですよね?」
 ルイスの不安は的中し、ルルのアイスを前に、審査員達がどよめき始めた。なんとも嫌な流れだが……果たして、ルルはそんな彼らの反応さえも先読みしていたのだろうか。
「どう見ても一色だって? 手元のアイスをよーく見てみるんだな! これは乳脂肪分が異なる3種のバニラアイスをソフトクリーム機から練り練りしたもの! 同じ白色でも、クリーム色・銀白に近い白・乳白色と、それぞれの食感が絶妙なハーモニーを醸し出す、白三色のミックスソフトクリームなのさ!」
 同じ白でも、微妙に色合いも味も異なるのだ。後は、ゴチャゴチャ言わずに食べてみればわかる。そう言って、ドヤ顔を決めつつ、ルルは更にアイスを無差別に配りまくり。
「おっと審査員の理奈嬢、このアイスはまだ完成品じゃない。仕上げに細かく砕いた、ドライ苺を振りかけるんだ! さぁ、おあがりよ!」
「えっ!? あの……ボクは別に、審査員じゃないんだけど……」
 折角、出されたのだから、とりあえずは食べてみるか。審査員達に混ざって理奈が言われた通りにドライ苺を振りかけ、食べると……口の中で濃厚な甘さと微かな甘酸っぱさが混ざり合い、なんとも素敵なテイストに!
「うわぁ、美味しい! これ、手作りなんだよね!? どうやったら買えるの?」
「ふっふっふ……そんなこともあろうかと、ちゃ~んとチラシを用意して来たのだ!」
 もはや、コンテストの優勝など関係なしに、ルルはアイス販売のチラシを配り始めた。そのチラシに書かれている値段をみて、にわかに沸き立つコンテスト会場。が、しかし、周囲からは早くも注文が殺到する中、ルイスだけは不安そうな表情を崩そうとはせず。
(「これ、原価とか損益分岐点とか、ちゃんと考えて価格設定してる? 通販受付中ってちらし配ってるけど、100円ってどこから出た金額!?」)
 恐らく、ルルは経営のことなど何も考えず、適当に庶民的な値段を付けたに違いない。買う側からすれば嬉しい限りだが、しかし作る側や売る側からすれば堪ったものではない。
(「まさか勝手に注文取りまくって、製造ラインがパンクの後、夏休み返上で工場稼働……なんてことにならないよね? ……ホントに大丈夫?」)
 この流れは、どう考えてもヤバい結果になるパターンだ。製造ラインをフル回転させるため、農場の全員で徹夜の作業。どう考えても割りに合わないブラック労働だが、ルルは本当に何も考えていないようで。
「よっしゃぁ! これで先約100件目! 予約数は……やったね! 1万個越えたよ!!」
 もう、完全に絶望しかない未来を暗示する言葉がルルの口から放たれたことで、ルイスは目の前が真っ暗になった。その後、彼らの経営するララティア乳業がどうなったかは……まあ、ご想像にお任せすることにしよう。

作者:雷紋寺音弥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年8月8日
難度:易しい
参加:7人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 2
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