夜穹に咲く

作者:崎田航輝

 紺瑠璃の空に光の華が咲く。
 眩い粒子の尾を引いて、美しい黄や橙色を見せるのは菊。紅に青、碧色が鮮やかな色彩で点描の形を作るのは牡丹。
 八重咲きの花に、枝垂れた形、無数の小花。快い響きと震動と共に、光で夜天を染めていくその催しは──花火大会。
 清らかな水流が揺蕩う河原の傍で、次々と美しき輝きが打ち上げられていた。
 夜の暗さを華々しく彩る風物詩に、人々も多く訪れて。
 空と川面に耀く彩を眺め、並ぶ屋台に美味を求め、川風に涼み──夏夜の時間を穏やかに、そして賑やかに過ごしている。
 だがそんな季節の憩いの只中に、夜陰から踏み出すように顕れる影が一人。
「ハッ、賑やかじゃねぇか」
 まるで自由への祝砲だ、と。愉快げに声を零しながら、砂利を踏みつけるそれは罪人──エインヘリアル。
「楽しく狩りができそうだ。ひとり残らず、頂いていくぜ」
 口の端を持ち上げて、喜色を浮かべて刃を握ると──獰猛な殺意を込めて振り抜いて、眼前の人々を切り捨てていく。
 悲鳴が劈けば、なお歓びを露わにして──罪人は無数の血の花を咲かせていった。

「夏らしい日が増えてきましたね」
 こんなときには花火など眺めたら楽しそうです、と。
 夜のヘリポートにて、イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)はケルベロス達へそんな言葉をかけていた。
 何でもとある街の河原にて花火大会が開かれているらしく、例年の行事ということもあって多くの人々で賑わっているようだ。
 ただ、とイマジネイターは声音を真剣にする。
「そこにエインヘリアルの出現が予知されてしまったのです」
 アスガルドで重罪を犯した犯罪者。コギトエルゴスム化の刑罰から解き放たれて送り込まれる、その新たな一人だろう。
 放置しておけば無論、人々が危機に晒される。
「そこで皆さんには、この敵の撃破をお願いしたいのです」
 戦場は河原にほど近い場所。
 平坦な砂利道が続いている環境で、戦いに苦労することはないはずだ。
「人々については事前に避難が行われます。皆さんは戦闘に集中できるでしょう」
 景観にも傷つけずに倒すこともできるはずですから、とイマジネイターは続ける。
「無事勝利した暁には、皆さんも花火大会を見ていってはいかがでしょうか」
 花火を眺めたり、川辺を散歩したり、屋台を楽しんだり。夏らしい夜の時間を過ごしていくことが出来るはずだ。
「そんな時間のためにも是非、撃破を成功させてきてくださいね」
 イマジネイターはそう声音に力を込めた。


参加者
泉賀・壬蔭(紅蓮の炎を纏いし者・e00386)
ノチユ・エテルニタ(夜に啼けども・e22615)
妖山・椛(護るものは心の帰るところ・e25364)
小鳥遊・涼香(サキュバスの鹵獲術士・e31920)
ネフティメス・エンタープライズ(手が届く蜃気楼・e46527)
四季城・司(怜悧なる微笑み・e85764)

■リプレイ

●光華
 夜天に開く花は、瞳に眩く耳に心地良く。
 すぐに散ってしまうけれど、その光の残滓を味わうように四季城・司(怜悧なる微笑み・e85764)は暫し空を仰いでいた。
「花火──空に打ち上がる火の芸術と言ったところだね」
「いいですよねー。これぞ夏の風物詩って感じで」
 と、妖山・椛(護るものは心の帰るところ・e25364)も夜を見つめる。
 今の輝きは祭りが中断される前の最後の花火。既に人々の避難も進み、辺りには静寂が降り始めていた。
 無論、それは程なく予知の時間が訪れるからに他ならず。
 椛も視線を降ろして──。
「──人が集まるとデウスエクスが湧いて出てくるのもある意味風物詩ですが」
 砂利道の先、暗がりから顕れる巨躯の姿を捉えていた。
 それは剣を握って歩む罪人エインヘリアル。風情に合わぬ鎧兜に、泉賀・壬蔭(紅蓮の炎を纏いし者・e00386)は息を吐く。
「どこの世界も同じだな……夏になると問題児が出てくるのは……」
「そうですね。こんな風物詩は願い下げなので、ぱっとお片付けしてしまいましょう」
 椛が言って前へ踏み出せば──ああ、と肯き続くのがアンゼリカ・アーベントロート(黄金騎使・e09974)。
 さらりと髪を揺らす風に夏の旺盛を感じる。そんな日が増えてきたからこそ──それを妨害する無粋な輩は排除してみせようと。
「夏の虫というには大きな相手だがね」
 言いながらも迷いなく、一息に距離を詰めると跳躍して──。
「さぁ、黄金騎使がお相手しよう」
 太陽が舞い降りるかのように、巨躯へ鮮やかな叩き込んだ。
「……っ、番犬か」
 蹈鞴を踏む罪人は、痛みに顔を顰めている。だが次には嗤いを浮かべ剣を握り直した。
「自分から獲物になりにくるとはな。楽しい狩りになりそうだ」
「──ああ」
 と、否定もせず返すのは壬蔭。
 包囲を進めながら、続けて投げるのは挑発の言葉だ。
「同意だな……楽しく獲物を狩れそうだ」
「……死ぬのは俺の方だって言いてえのか?」
 罪人が目を細めて一歩踏み出す、と──その視界に煌めく星屑の影。
「そうだな」
 と、それは冷めた声で眼前へ迫るノチユ・エテルニタ(夜に啼けども・e22615)。流星を描くよう、光を帯びた棍で打ち据えながら言葉を向ける。
「少なくとも、僕らの内のひとりでも殺せないなら狩りなんてできっこないな」
「侮ってくれるじゃねぇか!」
 呻きながらも、罪人は刃を振りかぶる。
 が、そこへ銃を握った手を伸ばすのがラウル・フェルディナンド(缺星・e01243)。
「譲らないさ」
 柔らかな風が疾風へ移りゆくように、穏やかな声音に戦意の鋭さを交えさせて。放つ弾丸を眩く弾けさせ、満月の如き閃光で巨体を後退させた。
 その一瞬に、小鳥遊・涼香(サキュバスの鹵獲術士・e31920)が光の粒子を揺蕩わす。
 風に乗った魔法の輝きは、仲間の体へ溶けることで超感覚を目覚めさせ、戦いへの意志を研ぎ澄ませていた。
「みかげ、お願い」
「ああ」
 同時、壬蔭が疾駆。与えられた力を活かすよう、迅風の速度で蹴撃を見舞う。
 よろめきながら、罪人はそれでも強烈な剣風を返してきた。
「纏めて、狩り尽くしてやる……!」
「……もう、エインヘリアルってこんなのばっかりなんですか」
 と、その嵐の中でも揺らがずに頬を膨らませるのはネフティメス・エンタープライズ(手が届く蜃気楼・e46527)。
「というか何人罪人送ってくるんですか。地球を流刑地か何かと勘違いしてるんじゃないですか?」
 失礼しちゃいますねまったく、と。
 ぷりぷりと呟きながらも──炎雷赫く蛇腹剣を踊らせて光の円陣を描いていた。
 その眩さが防護と癒やしを与えると、椛も清廉な風を吹かせて治癒を進め──涼香の翼猫、ねーさんも羽ばたいて皆を万全に保っていく。
 罪人は軽く舌打って後ずさる、が、それも許さぬように壬蔭は挑発の声を飛ばした。
「本気(マジ)で来いよ。準備運動にもなりゃしないぞ。それともお前の攻撃……本当にその程度なのか……?」
 呆れともつかぬよう言ってみせると、罪人は誘われるままに刃を翳すが──。
「遅いよ」
 その頭上へ翼を輝かせて翔ぶのが司。
「花の嵐に、閉じ込められると良いよ」
 美しい剣閃を奔らせると無数の花弁を踊らせ巨躯を取り巻く。
 その間隙に涼香が『青嵐』。夏を連れ葉を散らすかのような、力強い風でアンゼリカの背を押していた。
「攻撃は、お任せしてもいいかな」
「勿論だ」
 勇壮に応えるアンゼリカは、敵へと腕をのばす。
「お見せしようか──」
 人々の危機を守るケルベロスは、ただ1度の敗北も許されない。故にアンゼリカは戦う術に抜かりはない。
 武術と銃技、そして──。
「この『光』を!」
 瞬間、冴え冴えと閃くのは『凍れる光』。
「魂を凍らせたまえよ!」
 放たれた輝きは荘厳に、神々しく。巨躯の心を照らし出し、畏怖を与えて膝をつかせた。

●夜闇
 罪人は立ち上がりながらも、苦しげな声を零す。
「全く……散々だぜ。折角祝砲も上がる夜だったのによ」
「祝砲か」
 ノチユは花火を想起するよう碧紅の瞳を空に向けてから、すぐに視線を戻した。
「自意識過剰なんじゃないの。世界がお前を、祝福する訳ないだろ」
「──花火はね、皆が楽しむためのものだよ」
 と、涼香も静かに声を継ぐ。
「そして、一瞬で咲いて消えるの。本当はあなたに気をやってる暇なんて無いんだよ?」
「……見下してくれるじゃねぇか」
 罪人は怒りを滲ませ踏み込もうとする。
 だから涼香は、そう、と小さく目を伏せた。どうしても暴れたいなら、と。
「いいよ、いらっしゃい。旅立ちに、私達が花を添えてあげる」
「──そうだな」
 ラウルもそっと、指先をのばして花風を吹かす。
 鮮やかな花火と共に、皆を幸せに彩るはずの夏祭。それが血に濡れるというのならば、躊躇いはないから。
 刹那、咲き誇らせるのは『弥終の花』。風に踊る彩と香りで巨躯を怯ませる。
 そこへ奔る壬蔭は『vermiculus flamma』──大気との摩擦によって拳に焔を纏っていた。
 夜闇を照らす紅蓮を棚引かせ、そのまま灼熱の打突を加えると──よろける巨躯へ涼香も連撃。花弁を舞わす剣撃で傷を刻んでみせた。
 唸る罪人は斃れず刃を振り回す、が。椛が身を以て受け止めると、直後にはネフティメスが淡く耀くミストで治療。
 椛が大太刀を構え直すと、ネフティメスもまた即座に攻勢に移り──。
「行きますよ……!」
 地鳴りと風鳴り、轟音を響かせながら渦潮を喚び込み巨躯を呑み込んだ。
 『イクシオン・メイルシュトローム』──ネフティメスはその只中へ剣先を突き出し、雷撃を放って稲妻の光柱を爆烈させる。
「椛ちゃんっ」
「了解しました──!」
 そこへ椛が『地擦り鎌』。グラビティ・チェインを迸らせた刀身を突き立てて大地を抉ると、礫を鋭利な刃と成して竜巻に混ぜ込み巨躯の全身を抉った。
 宙へ煽られた罪人へ、ノチユは銀焔纏う棍を振り上げて。
「死の匂いを撒き散らすなら、お前が死んでくれ」
 天から光を落とすよう、星色の燿きを靡かせて振り下ろす。
 巨体が地に叩きつけられると、アンゼリカはそこへ銃を突きつけていた。
「猶予は与えないよ」
 成すべきことならば、意志は太陽の如く一点の曇り無く。放つ銃撃で一直線に体を貫いてゆく。
 そこへ司が高空から滑空していた。
「これで終わりにさせてもらうよ」
 さあ、この剣技を避けられるかな、と。
 冷静に怜悧に、けれど挑戦的に言ってみせると──優美な細剣を振り翳して風を生み、その圧力を衝撃波へと変えていた。
 巨躯を襲うその鮮烈な波動は『紫蓮の呪縛』。
 避けることも、耐えることも叶えさせずに。深い衝撃で縛り、斬り裂くように巨躯を四散させていった。

●光夜
 賑わいと笑顔と、空の光が夜を満たしていく。
 番犬達が周囲を癒やし、人々を呼び戻すことですぐに花火大会は再開されていた。もう花火も上がっていて──皆の解散と共にアンゼリカも散歩を始めるところだ。
「涼しいね」
 川辺を歩いていると、水面に触れた風が心地良い温度を運んでくれて、戦いの熱をひんやりと冷ましてくれる。
 そうして耀く川面や砂利の感覚を楽しむと──小腹もすいたので屋台へ。ベビーカステラとオレンジジュースを買って川の傍に戻る。
「この辺りかな」
 そこは花火がよく見えて人波からも距離のある場所。
 あむ、とカステラをつまんで仰ぐと……今も美しい色彩の花火が煌めいていた。
「邸で我が最愛の姫の淹れるコーヒーが最高だが──」
 呟きつつ、オレンジジュースを飲んで。
「たまには1人、花火を見ながら紙コップのジュースを飲むのもよいものさ」
 その甘さと冷たさにも風情を感じながら、天光色の瞳に光華を映す。
「……酒を飲めるようになったら、また面白いだろうかね」
 そんな時分も楽しみだ、と。
 ひとりではない未来に、アンゼリカは思いを馳せていた。

 光が空を染め始める中、司も祭りへ歩み出していた。
「壮観だね」
 と、感心交じりに眺めるのは屋台の数々。食べ物も遊戯も沢山あって──司は早速綿あめを買って食べ歩きを始める。
 はむ、と甘味を楽しみつつ──。
「やっぱり、あれは欠かせないかな」
 と、足を止めるのはたこ焼きの店。
 マヨネーズと鰹節たっぷりで買うと、それをつまみながら……焼きそばも見つけて購入。さらにお茶も買ってから川沿いへ歩んだ。
 人影はまばらだけれど、そこは花火が良く見えて──ばん、ばんと小気味良い音と共に空に光が弾けている。
 それ以外のものがない夜の空は、光を幻想的に映えさせて。
「夜空に浮かぶ花火って、本当に綺麗なものだよね」
 実感と共に呟きを零す。
 音のリズムと美しさ、双方を楽しみながら、たこ焼きに焼きそばにと、美味もまた同時に味わって。
「うん」
 心を浮き立たせてくれる、その相乗が祭りの魅力だと。冷静に考えながらも、楽しいのもまた事実だから。
「もう少し見ていこうかな」
 呟いて、司は歩き出す。
 どん、と愉しげな花火の音がそれを送り出してくれるようだった。

 賑わいが増し始める中、涼香は隣へ穏やかに笑みを向ける。
「みかげ、おつかれさま」
「ああ、ありがとう。涼香とねーさんは大丈夫か? 怪我してないか?」
 応える壬蔭がそっと覗き込むと、涼香もねーさんも頷いて。互いの元気が確認できれば、壬蔭は歩み出しつつ振り向いた。
「折角なので花火見ていかないか?」
「うん、勿論! みにいこう……あ、その前に屋台よっていく?」
 というわけでまずは活気溢れる一角へ。
 壬蔭はきょろきょろと見回して、沢山の店々を眺めてから。
「涼香は食べたいもの有ったか?」
「うーん、私はどうしよう……あっ、おいしそう」
 と、涼香が目を留めたのはかき氷とベビーカステラの暖簾。苺シロップと練乳たっぷりのかき氷と、焼き立てのカステラを買っていた。
「素敵なセレクトだな」
「みかげは何にするか決めた?」
 と、笑み返す涼香に壬蔭は──香ばしい匂いのしてくる屋台を見つめて。
「私か……そうだな。烏賊焼きとビールにしようか」
 言って歩むと早速それを購入した。と、戻ると、涼香がねーさんに鮎の白焼きを買ってあげていて。
「え、鮎か……豪華だね」
「せっかくのお祭りだから、ね?」
 涼香の言葉に、ねーさんも嬉しげにそれを受け取っていた。
 それから花火の場所探し。
 暫し一緒に歩いて……静かな川辺を見つけて、そこで並んで眺めることにする。
 程なく、どん、どん、と音と共に空に光の華が咲き始めて──菊に牡丹、様々な色と形が空を彩っていった。
 かき氷の冷たさとカステラの甘味を楽しみつつ、涼香は声に期待を込める。
「猫型の花火があるって聞いたんだけど、みれるかな」
「猫型の……? 初めて聞いた。それは、楽しみだね」
 と、壬蔭が烏賊とビールをつまみつつ仰ぐと──ぽんっ。楕円に猫耳の三角、そしてヒゲまでついた猫の形が空に輝いた。
「わぁ、かわいい」
「本当に猫だな……」
 二人が肯き合っていると、なーお、と。それにはねーさんも、鮎を食べつつ鳴いて応えて……また皆で空を見て、緩やかな夏の時間を過ごしてゆく。

 ドン、と華の咲く音を聞きながら、燈・シズネは屋台巡りの戦利品をぶら下げて川辺へやってくる。
 その姿を、薄縹の瞳に映すラウルは──自分もすぐに傍に駆け寄っていた。
「お待たせ」
「おお! オレも今来たところだ!」
 と、シズネが明るい笑みを見せるから、ラウルも笑みを咲かせて。
「此処ならゆっくり花火を楽しめるね。勿論、コレも」
 言って差し出された袋に、シズネは興味津々。
「何を買ってきたんだ?」
 待ちきれぬ表情で覗き込むと──たこ焼きに、唐揚げに、イカ焼き。ラウルが屋台で買い求めた食べ物がいっぱいで。
「君の好きなもの、沢山あるよ」
「わぁ──!」
 シズネが嬉しさに破顔するから、ラウルも瞳を和ませてシズネの袋を見た。
「シズネは?」
「そうだ、オレはコレを買ってきたんだ」
 と、シズネが目の前に出すそれは──ラウルの顔が隠れるくらい大きく艷やかな林檎飴。
「俺の好きなものを買ってくれたの? ありがとう」
 笑顔で受け取るラウルも、幸せな心に頬が飴みたいに色づいて。そんな様子にシズネも、買ったかいがあったと大満足。
 思えば、お互いの好きなものを買ってくるあたり考える事は同じだったと。見合う二人はまた笑みを輝かせて……一緒に並んで、空に咲き誇る彩りを見つめる。
 それがとても美しくて。
 ──今年も君と夏の想い出を紡げて良かった。
 ラウルが林檎飴を食べながら言えば、シズネはたこ焼きをはふはふと味わいつつ頷く。
「そうだな」
 言葉と共に──このゆるりとした時間がずっと続いてほしいと、密かに願いながら。

 ノチユは巫山・幽子と共に屋台を巡っている。
「年々色んな屋台が増えてて迷うな……」
 呟きつつも、はぐれないよう気遣って。幽子も隣で、離れないよう距離を短くしていた。
 そうしてたこ焼きにかき氷、たい焼きに飲み物も揃えて──川の傍の静かな一角で座って食事をする。
「頂きます……」
 丁寧に言った幽子は、早速かき氷をしゃくしゃく、たこ焼きをはふはふ。食べながら、幸せそうな表情を浮かべている。
「美味しいです……」
 良かった、と。言いつつノチユもベビーカステラを食べて、空を見た。
 快い震動と共に、夜天に光が花開く。橙に碧に紅に、色彩が次々に移り変わるようで。
「夜が綺麗なのは、星空だけじゃないんだよな──」
 瞳に光を映しながら、小さく零した。
 自身の手を握って開き、戦いの感覚をふと思う。
 死の匂いを残すのは、自分もそうなのだろうけど。でも仕事が終わって彼女と食べるものが美味しくて、そして見るものが綺麗だと。
(「ちゃんと、生きてる気がする」)
 高尚なもんじゃない、そう思うけれど、それがうれしくて。
 ふと目が合った幽子が素朴に聞いた。
「エテルニタさんは花火、好きですか……?」
「すきだよ、綺麗だし」
 大きく咲くのも、小さいのが色々瞬いてるのも、と。
 そこで少し思い至って目を向ける。
「……手持ち花火ってやったことないな。幽子さんはやったことある?」
「いえ……」
「そう。なら……今度、やってみたいね」
 ノチユの言葉に、幽子も興味深げにこくりと頷くから。ノチユは仄かに表情を柔らかくして──また天の光を眺めた。

「この時期はこういう行事が多いから楽しいですねー」
 雪のような尾をふんわりと揺らし、椛は並ぶ屋台に声音をわくわくさせる。
 甘い匂い、香ばしい匂い。
 単純に彩りも豊かだけれど……祭りというのは同じものでも場所によって微妙に違うから、その時々を楽しめて。
「眺めてるだけでも飽きないですね」
「そうだね~」
 と、椛の微笑みに明るく頷くのが隣のネフティメス。ぐるりと店々を見遣って、こちらも期待に胸躍る表情だ。
 椛は歩み出しつつ、ネフティメスにも瞳を向けた。
「ネフティさん何か食べたいものとかあります?」
「う~ん。悩むけど……」
 ネフティメスは顎に指を当てつつ、花火を眺めながら食べたいということで、手の汚れないフランクフルトにチョコバナナを買っていく。
「椛ちゃんはどれにする?」
「僕は……」
 椛は少々迷いつつも、ネフティメスのチョコバナナが美味しそうだからと自分も購入。
 さらに葡萄飴に苺飴と、可愛らしい甘味を買うと……芳ばしさに惹かれ、ついでにたこ焼きも加えた。
 食べ物が揃うと、二人は川沿いへ。
 花火も既に上がり始めていて──柳のように枝垂れる光や、滝のように空を埋める輝きを間近で望むことが出来る。
「はむはむ……夏って感じですね」
「うん。本当だね♪」
 椛がたこ焼きや飴を食べつつ仰いでいると、ネフティメスもまたチョコバナナとフランクフルトを齧りながら心同じく頷いた。
 眩く、暖かく、風は涼しくて。
 家ではよくお喋りするけれど、こうしてネフティメスと外出するのが珍しい椛には、一瞬一瞬が楽しくて。
「もう一回屋台に行きましょうか」
 食べ物がなくなると、再度二人で明るい中へ。
 途中で射的の店を見つけると、頷き合って。
「当てますよ……えいっ!」
「わぁ、すごい! それじゃあ私も──えいっ」
 椛がぽぽん、とお菓子セットを落とすと、ネフティメスも続いてぬいぐるみを撃ち落とし……お土産もゲットして、存分に夏を満喫していった。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年7月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 5
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