女海賊は危険極まる無謀者

作者:秋津透

 千葉県、大網白里市。早朝。
 いわゆる九十九里浜の海岸を、今朝までどこで何をしていたのか、日柳・蒼眞(うにうにマスター・e00793)が大欠伸をしながら歩いていく。
「海水浴には、まだちょっと早いかな。だけどサーファー連中ってのは、どの季節のどんな時間にも、必ずいる……え、いない?」
 いつの間にか、視界の中に人の気配がなくなっていることに気づき、蒼眞は慌てて周囲を見回す。早朝の海岸は、靄のかかった薄曇りだったはずが、なぜか南国のように燦燦と日光が降り注いでおり、そこに巨大にして絢爛たる女体……目立つ船長帽とマント以外は必要最低限を少々下回るのではないかという程度の衣装で肉体を覆い、鋭利魁偉な斧剣を手にした、体長約三メートルのエインヘリアルの女戦士が傲然と立っていた。
「おい、そこのチビスケ。ソウマ・クサナギというケルベロスを知らないか。たぶん、エインヘリアルの裏切者だと思うんだが」
 驕慢という言葉をそのまま形にしたような表情と口調で、女戦士は蒼眞に訊ねる。ヤバい、この女はヤバいと思いつつ、蒼眞はごく正直に答える。
「ソウマ・クサナギなら俺だが。何か用か?」
「お前が? ……参ったな。ロビス一族の戦士を次々斃している強いケルベロスがいるというから、いっちょ寝てみて〇〇〇をいただこうかと思ったんだが、チビスケの地球人じゃ話にならない。サイズが合わないもんな」
 不満そうに唸ると、女戦士は斧剣を構えて言い放つ。
「まあ、仕方ない。寝るのは省略で、ぶっ殺して○○〇をいただく。音に聞こえた無謀海賊レティシア・ロビスが、サイズの足りない貴様の相手をしてやろうというのだ! 光栄に思え!」

「緊急事態です! 日柳・蒼眞さんが、いきなり出現したエインヘリアルに襲われるという予知が得られました! 急いで連絡を取ろうとしたのですが、連絡をつけることが出来ません!」
 ヘリオライダーの高御倉・康が緊張した口調で告げる。
「蒼眞さんは、千葉県大網白里市、いわゆる九十九里浜の海岸にいるので、今すぐ全力急行します! 一刻の猶予もありません!」
 そう言って、康はプロジェクターに地図と画像を出す。
「現場はここです。エインヘリアル『無謀海賊レティシア・ロビス』は、以前に蒼眞さんがロビス一族の無謀戦士を何人も倒したと聞いて、興味を持って挑戦に来たようです。本来は、興味を持った相手とは、えー、男女の関係を持ち、その上で、えー、男性器を切り取るのが趣味らしいですが、エイイヘリアルと地球人では、えー、サイズが合わないので、単純に殺して男性器を奪う気でいるようです。所持している斧剣(アクスォード)でゾディアックソードとルーンアックスのグラビティを使い、刀剣士の技能も持ち、体力も腕力も相応に高い、いろいろな意味で恐るべき強敵です。ポジションは、クラッシャー。おそらく一対一では、蒼眞さんの勝ち目は薄いでしょう」
 すると、遠音鈴・ディアナ(ドラゴニアンのウィッチドクター・en0069)が決意を籠めた声で告げる。
「この敵には、何か因縁のようなものを感じます。微力ですが、蒼眞さんの救援と無謀海賊討伐に参加させてください」
「……わかりました」
 大丈夫かなあ、という表情をしながらも、康はうなずいた。
 そして康は、一同を見回して続ける。
「幸いというか何というか、敵は単体で、増援は呼ばず、撤退もしません。相手を斃すか、蒼眞さん……と、救援に入った皆さんが全員斃れるか、どちらかになります。どうか蒼眞さんを助けて、物騒極まるエインヘリアルを斃し、皆さんも無事に帰ってきてください」
 よろしくお願いします、と、康は深々と頭を下げた。


参加者
エニーケ・スコルーク(黒馬の騎婦人・e00486)
日柳・蒼眞(無謀刀士・e00793)
皇・絶華(影月・e04491)
月白・鈴菜(月見草・e37082)
鷹崎・愛奈(死の紅色カブト虫・e44629)
空鳴・熾彩(ドラゴニアンのブラックウィザード・e45238)
メガ・ザンバ(応援歌ロボ・e86109)
 

■リプレイ

●そもそもお前は何者だ?
「今回の敵、レティシア・ロビスについて何か知っているのか?」
 現場に急行するヘリオンの中で皇・絶華(影月・e04491)に訊ねられ、遠音鈴・ディアナ(ドラゴニアンのウィッチドクター・en0069)は首を横に振った。
「いいえ。でも、画像を見たときに、これは違うと思ったんです。このエインヘリアルの女は、ロビスの血を引いているかもしれないけどロビスではない。もしかすると、我が家の伝承に出てくるドレスデンではないかと」
「ドレスデン?」
 絶華が眉を寄せると、ディアナは言葉を継ぐ。
「強欲で策謀を好む海賊の一族です。頭の良い者、悪い者、いろいろいますが、頭の良い者は本当にタチが悪い。伝承では、ドレスデンの一人が私の先祖に匹敵する強さの、鳥の魔獣の力を手に入れて、先祖はものすごく苦労させられたそうです」
「鳥の魔獣……ビルシャナかな?」
 首を傾げて絶華が唸り、ディアナは肩をすくめる。
「わかりません。でも、男性と関係を持った上で性器を切り取るって、戦いとしてみれば騙し討ちでしょう? ロビスのすることじゃないですよ」
「そうか、騙し討ちか……」
 分かったような分からないような表情で絶華が呟くうちに、ヘリオンは現場に到着。話はそこまでになったが。
 よほど気になったらしく、絶華は降下すると同時にエインヘリアルの女に訊ねかけた。
「訊ねるが、お前は本当にロビスの一族なのか? ドレスデンではないかと言う者がいるのだが」
「な、何? なぜ知っている?」
 レティシア・ロビスは、目前の日柳・蒼眞(無謀刀士・e00793)をそっちのけにして、絶華の言葉に反応する。
「確かにあたしの本名は、レティシア・ラァク・ラスト・ロビス・ドレスデン。ドレスデンとしての通り名は4LDだが、なぜお前がそんなことを知っている?」
 いや、そこまでは知らんが、と、絶華は複雑な表情で唸る。
 どうも、すぐには仕掛けてこないと見て、蒼眞も後続の降下時間を稼ぐ意味を含めて訊ねる。
「名前の中にロビスが入ってるということは、お前はロビスでドレスデン、ということなのか?」
「その通りだ! 戦馬鹿ばかりのエインヘリアルの間では、ロビスの名ばかりが有名だが、ドレスデンを知っているとは、お前ら、定命のチビスケの割にはなかなかやるな。シャイターンの血でも混じっているのか?」
 意外に機嫌よく、だがあくまで驕慢に、レティシア・ロビスこと4LDは言い放つ。
「……何をやってますの?」
 降下してきたエニーケ・スコルーク(黒馬の騎婦人・e00486)が、半分以上呆れた口調で呟くと、続いて降りてきた鷹崎・愛奈(死の紅色カブト虫・e44629)が比較的冷静に応じる。
「自分が何者なのか、エインヘリアルに喋らせてるみたいね。まあ、役に立つかどうかはともかく、取れる情報は取っといていいんじゃない?」
 だが、次の瞬間、愛奈と、次に降下してきた空鳴・熾彩(ドラゴニアンのブラックウィザード・e45238)の表情が一変した。
 レティシアは傲然と、とんでもないことを口にしたのである。
「だが、あたしがロビス一族なのも揺るぎない事実だ! なにしろあたしは、あのメテオール・ロビスの娘なのだからな!」
「な、なんだってー!?」
 流星無謀戦士メテオール・ロビスを倒した戦闘に参加した、蒼眞、愛奈、熾彩。サポートに入った絶華の四人が声を揃える。
「それじゃ、地球に来て俺を探したのは父親の仇を討つためか?」
 蒼眞が苦みを帯びた口調で訊ねると、レティシアは驕慢そのものの高笑いをあげた。
「父親の仇討ち? あははははははは! 結果そうなるのかもしれんが、あたしが親父の仇を討つって、そりゃとんだお笑い草だ!」
 そしてレティシアは得意げに続ける。
「親父はエインヘリアルの女を当たるを幸い口説きまくり、できた子供が百人じゃ済むまいという見境なしの男でな。あたしのことも、娘だと全然気づかずに口説きやがったのさ。だからほいほい乗って、寝た後○○○切ってやった」
「あ、相手が父親と承知で寝て、アレをピー……ど、ど、ど変態……」
 き、気持ち悪い、このど変態、一秒でも早く駆除しないと、と、エニーケが呻く。
 しかしレティシアはますます得意げに続ける。
「あたしに○○○切られると、たいていの男は慌ててコギト化して復活再生するんだけどさ。親父は日頃の行いが悪すぎて、下手にコギト化しようもんなら復活させてもらえないと見たんだろうな。○○○なしでも子を産ませられる定命の女に矛先変えて、あげくにケルベロスにぶっ殺されたんじゃ、笑うしかないだろ?」
「つ、つまり、こいつが諸悪の根源……」
 熾彩が呻き、愛奈がぶるぶると全身を震わせる。
 そこへ降下してきた月白・鈴菜(月見草・e37082)が、一途に思いつめたというか、全然空気読まないというか、いきなり蒼眞に向って突っ込む。
「……蒼眞は朝帰り…? ……次はその女の人と…するの…?」
「するわけないだろ!」
 目いっぱい複雑な表情で、蒼眞が言い返す。そこへ降りてきたメガ・ザンバ(応援歌ロボ・e86109)が、こちらは周囲の妙な雰囲気を察してか、蒼眞にごく小声で告げる。
「あー、えーと。蒼眞、なんかおかしなことになってるようだが、同じ男としてここは助力するぜ」
「すまん、助かる」
 レティシアと鈴菜に曖昧な視線を送りながら、蒼眞がメガに礼を述べる。
 そして最後に、ディアナとサーヴァントのウイングキャット『ロコ』が降下し、ディアナはレティシアを見据えて告げる。
「話は聞きました。ロビスとドレスデンの血筋が御自慢のようですけど、どうもあなたには両方の血筋の悪いところだけが出てしまったようですね」
「な、何ぃ!?」
 目を剥くレティシアに、ディアナは冷ややかな口調で告げる。
「ロビスの剛毅もドレスデンの狡猾もなく、エインヘリアルの馬鹿男をたぶらかして性器を切る。ですが、色仕掛けが通じない相手に、あなた、勝ったことがあるんですか?」
「何をほざくか! 貴様らのような定命のチビスケなど、何人いようが!」
 言い放って、レティシアはディアナを攻撃しようとするが、まったく間合いがとどかない。
「貴様、セントールか? 邪魔だ、どけ! どかないと斬るぞ!」
「切る? どこを?」
 レティシアの前にエニーケが立ちはだかり、斬撃を躱す。
「その斧剣、お前の実の父や可哀そうなエインヘリアルの馬鹿殿方の股間以外を切ったことなどありますの?」
 冷ややかに告げた次の瞬間、エニーケのオリジナルグラビティ『ポイゾナスタング』が炸裂する。
「もっと別の言葉を考えていたのですが、実物のお前を見て、話を聞いた後では、この言葉しか浮かびませんわね。ど変態! ど変態! ど変態! お前に生きている価値など、ひとっかけらもありません! 死ね! 死ね! 今すぐ死ね!」
「ぐわっ!」
 エニーケの罵言に籠められた魔力がレティシアの豊満な胸を抉り、勢いよく血が噴き出した。

●お前も犠牲者なのかもしれんが
「くそっ、このあたしが、音に聞こえた無謀海賊レティシア・ロビスが、定命のチビスケどもに……」
 あえぎながら、血みどろのレティシアは斧剣に刻まれたルーンの力で自分を癒す。エニーケの『ポイゾナスタング』のエフェクトで治癒効果が阻害され、本来よりはるかに治りが悪いのだが、レティシアは効果が阻害されていること自体に気づいていないようだ。
(「遠音鈴が見抜いたとおりだ。こいつは、戦闘技量はあっても実戦経験が浅い」)
 蒼眞は声に出さず呟く。ケルベロスの誰よりも早く行動しているのだから、相当の技量はあるのだろうが、その技量をどう使えば勝てるのか、否、生き延びられるのか、このエインヘリアルは知らない。
 そして蒼眞は、返答を期待せずに訊ねる。
「ルイユ・ロビスを俺に差し向けたのは誰か、知っているのなら答えろ」
「ルイユ? あいつは変に物堅かったから、それこそ誰も頼みもしないのに勝手にメテオール親父の仇討ちに行って、返り討ちになったと聞いたが?」
 意外にもレティシアはあっさり答えるが、その答えは蒼眞の期待したものではなかった。
 そこで蒼眞は、ちょっと考えて質問を変える。
「じゃあ、お前はどうやって俺を見つけた? 変な勘違いをしていたが、ソウマ・クサナギがここにいるとお前に教えた奴がいるんだろ?」
「え?」
 言われて、レティシアは初めて驕慢でも傲慢でもない、素直にきょとんとした表情になる。
「ケルベロスのソウマ・クサナギが……あれ? あたしは誰から聞いたんだ、この話?」
(「記憶操作か! またか!」)
 声には出さなかったものの、蒼眞は内心歯噛みする。無謀剣士ルイユ・ロビスや暗黒無謀戦士アステ・ロビス等、エインヘリアル上層部の誰かから疎まれたロビス戦士が、記憶操作をされてケルベロスを討ちに地球に片道派遣された例はこれまでもあった。要するに罪人エインヘリアルと同じで、厄介者をケルベロスに始末させようという悪謀である。
(「とはいえ……この女の場合はルイユと違って、始末したくなるのもわからなくはない」)
 内心で続けると、蒼眞はオリジナルグラビティ『終焉破壊者招来(サモン・エンドブレイカー!)』の構えをとる。
「ランディの意志と力を今ここに!……全てを斬れ……雷光烈斬牙…!」
 別世界の冒険者、理不尽な終焉を破壊するランディ・ブラックロッドの意志と能力の一端を借り受けて放つ一撃が、レティシアの肩から胸にかけて大きく割り裂く。
「く、くそうっ! 話しかけて油断を誘うとは卑怯な!」
(「つーか、戦闘中に話しかけられて油断するなよ」)
 それに、油断してなくてもこの一撃はお前にゃ躱せないよ、と蒼眞は肩をすくめる。
(「しかしタフだな。ま、エインヘリアルの身体能力そのものの高さは、実戦経験と関係ないからな」)
 蒼眞が内心で呟いた時、後ろから鈴菜につんつんと突かれる。
「……蒼眞…ルイユ・ロビスって…誰?…」
「お、俺が倒したロビス一族の一人だよ。もう死んでる。まあ、いろいろと曰く因縁はあるが、それは帰ってから話す。長くなるからな」
 表現に細心の注意を払いながら、蒼眞は答える。
「……いろいろと、曰く、因縁…」
 呟いた鈴菜は何とも言えない表情で蒼眞を見据えたが、それ以上は突っ込まなかった。
 一方絶華は、背負った霊剣「Durandal Argentum」を抜き放ち、蒼眞の斬撃を正確にたどって傷を重ねる。
「ぐわっ……貴様ら、本当に定命の地球人か……なぜ、こんな攻撃が、定命の者にできる……」
「定命だからこそ、限られた時間の中で真剣に修練を重ね、技量を磨くのだ」
 うむ、こういう話なら私にもできる、と、絶華はちょっと落ち着いた声を出す。
 そして続くエニーケは、神斬鋸【ベアグルント】をぶんまわして、レティシアの銅を輪切りにしようとする。さすがに両断はされなかったものの、腹部が裂け内臓が盛大にこぼれる。
「……お……おの……れ……」
 今にも肩が裂けて落ちそうな左腕で、開いた腹部の傷を抑えるレティシアの口からは血がこぼれ、まともに声が出せない。
 その凄惨な姿を嫌悪の目でちらりと見やり、エニーケは冷ややかに嘯く。
「無駄にしぶといですわね、屑が」
「これはもう、とっとと潰してやった方が慈悲かもしれないけど」
 でも慈悲はかけない、と、愛奈がオリジナルグラビティ『スパークルスラッシュ』を放つ。
「光の煌めきからは逃れられないよ!」
 ライトアクスェイバーから放たれた光の刃が、そのまま変形してレティシアを斬りながら拘束する。誰も突っ込んでこないが、この光を放つアクスェイバーは、外ならぬメテオール・ロビスの遺品だったりする。
「ならば私が潰す。慈悲じゃない、見苦しいものを片付けたいだけだ」
 まったく何でこんな大概アレなロビスとばっかり当たるんだ、しかも実は父娘だと? 大概にしてくれ、と内心ボヤキ嘆きながら、熾彩がオリジナルグラビティ『凍結竜言(コオリノコトダマ)』を放つ。
「……凍て付き、眠れ」
 起きてくるな、と念を入れて付け加え、熾彩は力ある言葉を発しレティシアの全身を凍り付かせる。
「これで……?」
「いや、目が死んでいない。しかも、動こうとして氷が軋んでいる」
 絶華が冷静に観察して告げ、熾彩は深々と溜息をつく。
「どこまでしぶとい……」
「これでどう?」
 鈴菜が時空凍結弾を撃ち込み氷を重ねたが、絶華はまだだと首を振る。
「こいつでいけるか?」
 メガがフェアリーブーツから星型オーラを飛ばす。命中して氷の一部が音を立てて割れ、レティシアの口から新しい血がこぼれたが、その両眼から光は失われていない。
「やるだけはやります!」
 宣言してディアナと『ロコ』がそれぞれ攻撃を仕掛けるが、これは外れる。そしてレティシアの斧剣のルーンが再び光り、氷の一部が消える。
「は……は……は」
「もう、何か訊いても答えられそうにないな。では、おさらばだ」
 言い放ち、蒼眞が斬霊刀でレティシアの首を飛ばす。いや、飛ばしたかに見えたが、首は胴から離れない。
「あれ?」
「結局、このロビスは、蒼眞とは特に因縁はないのだな?」
 絶華が念を押すように訊ねると、蒼眞はきっぱり答える。
「ない。メテオール・ロビスの娘なら、むしろ因縁があるのは鷹崎だろう」
「ないないないない! あたしもこんなのと因縁なんかない!」
 愛奈が叫び、絶華は首をかしげながらもうなずいた。
「では、私がとどめを刺そう」
 言い放つと、絶華はオリジナルグラビティ『四門「窮奇」(シモンキュウキ)』の構えをとる。
「我が身…唯一つの凶獣なり……四凶門…「窮奇」……開門…!…ぐ…ガァアアアアアア!!!!」
 皇家に伝わる奥義により、古代の魔獣の力をその身に宿した絶華が、瀕死のレティシアに襲い掛かる。氷と肉片と半分凍った血が飛び散り、誰もがこれで終わったと思ったのだが。
「……仕留め、損なった」
 何とも言い難い口調で告げ、絶華が飛び下がる。
「エインヘリアルの基準で見ても、常軌を逸したしぶとさだ。ダモクレス並みだな。これも血筋のせいか」
「これで生きてるのか?」
 もはや人体としての形をとどめていない、バラバラになった筋肉標本のようなものを見やり、蒼眞が呆れた声を出す。
 すると絶華は、大真面目に応じる。
「おそらくもう何もできないし、一押しすれば死ぬだろう。だが、まだ生きている。このしぶとさだけを武器に、回復せず攻撃で押してこられていたら、一人ぐらいはやられていたかもしれない」
「蒼眞さん。これはあなたを狙って襲ってきたのですから、とどめはあなたが刺すべきではないでしょうか」
 次の攻撃順のエニーケが、もうグロいもの見るのもイヤ、という口調で告げる。
 しかし蒼眞は、これも大真面目に首を横に振った。
「俺に攻撃を回せば、もう一回、この怪物に何かさせる機会を与えることになる。皇は何もできないだろうと判断しているが、リスクは避けたい」
「では……」
 エニーケは視線を回したが、愛奈、熾彩、鈴菜とも目をそらす。そしてメガが、大きくうなずいた。
「エインヘリアルのアベ〇ダ、男の敵だってのは間違いないもんな。俺がきっちり引導を渡してやろう」
 言い放つと、メガはオリジナルグラビティ『斬鋼(ザンコウ)』の狙いを定める。
「斬!」
 気合一閃、真空波の一閃が、筋肉むき出しのトルソーのようになったレティシアの頭部を縦に両断。その瞬間、バラバラになっていたエインヘリアルの人体各部を凍り付かせていた氷が消え、筋肉は蒸発、骨は砕けて微塵に消えた。斧剣だけが暫時残っていたが、いったいどういう仕組みなのか、間もなく煙を噴いて消滅した。

作者:秋津透 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年7月20日
難度:普通
参加:7人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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