向日葵のソフトクリーム

作者:芦原クロ

 農村の広大な畑一面、大輪のひまわりの花が咲き乱れている。
 のどかな農村は観光客で賑わい、人々は明るく美しいひまわりを眺めたり、夏限定のものを販売所で購入したりと、楽しそうだ。
 そこへ、謎の花粉のようなものが漂って来て、1本のひまわりに、とりついた。
 ひまわりは攻性植物化し、動き出しながら巨大化してゆく。
 逃げ惑う人々を捕えては殺し、殺戮を繰り広げる。
 あっという間の惨殺に屍が積み重なり、誰1人動く者も居なくなり、異形は血だまりの中を這いずり回っていた。

「農村のヒマワリが攻性植物化します」
「ミント・ハーバルガーデンさんの推理のお陰で、攻性植物の発生が予知出来た。急ぎ現場に向かい、攻性植物の撃破を頼みたい。放っておけば、多くの命が失われてしまう」
 ミント・ハーバルガーデン(眠れる薔薇姫・e05471)の言葉に、説明を足す、霧山・シロウ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0315)。

 敵に配下は居らず、敵は1体のみ。
 一般人の避難誘導は、警察などが迅速におこなってくれるので、ケルベロスたちの手は借りずに済む。
 ケルベロスたちは攻性植物が現れ次第、迎撃し、戦闘に集中して欲しい。
 少しだけ気を付けていれば、他のひまわりが傷つくことは無いだろう。

「暑いな。ソフトクリームが食べたくなる季節だ。ここの販売所では、向日葵のソフトクリームが有るらしい。向日葵の種が入っていて、食感もクセになりそうな程だ」
 他にも農村ならではの新鮮な果実を使って製造した、焼菓子やジャムやジュースなどが売られている。
 ソフトクリームのフレーバーは、ひまわり、メロン、白桃、梨、スイカ、オレンジ、グレープフルーツなどが有る。
「攻性植物を倒した後に、行ってみたらどうだろうか。……あんたさん達の無事と、討伐の成功を祈っているぜ」


参加者
ミント・ハーバルガーデン(眠れる薔薇姫・e05471)
甲斐・ツカサ(魂に翼持つ者・e23289)
雪城・バニラ(氷絶華・e33425)
新城・瑠璃音(相反協奏曲・e44613)
空鳴・熾彩(ドラゴニアンのブラックウィザード・e45238)
アクア・スフィア(ヴァルキュリアのブラックウィザード・e49743)
佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)
 

■リプレイ


「太陽の方にすくすく伸びてくひまわり、すっごく好きよ!」
 静まり返った現場に到着し、佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)は咲いているひまわりの花を見て、嬉々とする。
「向日葵畑か。壮観で圧倒されるよな」
 空鳴・熾彩(ドラゴニアンのブラックウィザード・e45238)が口を開き、ひまわりを一瞥してから微かに目を細めて、言葉を続ける。
「そんな所を攻性植物なんぞに荒らさせるわけにはいかないな」
 熾彩は警戒心を高め、いつ敵が現れても、即座に戦闘に入れるようにしている。
「避難誘導ありがとう! お陰で気兼ねなく戦えるから、少し待っててね!」
 聞こえるかどうかは分からないが、一般人が避難している方向へ声をあげる、甲斐・ツカサ(魂に翼持つ者・e23289)。
(「ひまわりのソフトクリームですか、何だか興味ありますね」)
 アクア・スフィア(ヴァルキュリアのブラックウィザード・e49743)は楽しみにしている様子で、表情を和らげていた。
「なるべく周囲の畑に被害を与えないようにして、敵を早めに倒したいですね」
「そうね。他のひまわりに、出来るだけ被害を出さない様にするわね」
 新城・瑠璃音(相反協奏曲・e44613)の言葉に、雪城・バニラ(氷絶華・e33425)が頷く。
 すると、急に地面が震動し、なにか巨大なものが迫って来る、感覚。
 敵がケルベロスたちを目掛け、ズシン、と音を立てながら距離を縮めてゆく。
「現れましたね。私達は攻性植物の相手に集中しましょう」
 ミント・ハーバルガーデン(眠れる薔薇姫・e05471)が仲間たちに声を掛け、戦闘開始の合図を送った。


(「私の危惧していた事件が本当に起こるとは驚きましたね」)
 ミントは隙を見せずに、思案する。
(「まぁこれも何かの縁でしょうし、必ずこの事件は私達で食い止めましょう」)
 仲間に合図し、敵を逃したり一般人の居る方向へ行くような状況を作らないよう、包囲する。
 他のひまわりを傷つけないように気を配る、ミント。
「大空に咲く華の如き連携を、その身に受けてみなさい!」
 仲間の姿をした残霊を召喚し、残霊は槍を縦横無尽に振るう乱舞攻撃を仕掛ける。
 それに合わせ、ミントが銃で連続射撃を行ない、最後には槍の突撃と強烈な一発の弾丸を撃ち込む、息がピッタリ合った攻撃が決まる。
「私は仲間の回復やエンチャントに専念するわ。最初は、私自身にBS耐性を付与するわね」
 バニラは宣言通り、形成した盾で自分の護りを強化する。
「攻性ひまわりに太陽を拝ませるのは勿体ない。早々に伐採させてもらうよ!」
 敵の標的が自分に集まるように、と。
 跳躍して天空高く飛び上がったツカサが、虹を纏った蹴撃を叩き込む。
 ツカサは、周りのひまわりに被害が出ないよう気を付けながら、着地する。
「綺麗ではない向日葵は剪定いたします。……亡国の姫、出会う者に祝福を謡う」
 優しい声音で、切なさと強さを交えた姫の詩を響かせ、瑠璃音は前衛陣の状態異常への耐性を強化した。
「私は仲間の回復と、敵への攻撃を半々位の頻度で、行動しますね」
 仲間たちに素早く伝え、アクアは他のひまわりに傷をつけない位置取りをし、ブラックスライムを変形させる。
「スライムよ、敵を貫き、汚染しなさい」
 アクアの声に応え、槍のように伸びたものは鋭く、勢いをつけて敵を貫く。
「命中率が安定するまでは、BSを付与していくわね♪」
 言いながら、レイは宙へ飛びあがり、煌めきを描く飛び蹴りを敵に浴びせ、敵の機動力を奪う。
 一瞬の隙をついて、敵も反撃する。
 炎の光線がツカサを狙って放たれ、ツカサを灼熱の中に閉じ込めた。
「……凍て付き、眠れ」
 回復の時間稼ぎをするべく、熾彩が力を秘めた言葉を発する。
 敵が瞬時に凍りつき、動けなくなる。
「仲間を護る氷の属性よ、加護の力を」
 熾彩の作った好機を逃さず、バニラは素早く、ツカサを治癒した。

 敵の一撃がとにもかくにも強烈で、回復役がバニラ1人だったら、追い詰められていただろう。
 前衛陣が大地に飲みこまれ、手痛くなるも、熾彩に庇われたアクアが、急いで薬液の雨を戦場に降らせ、前衛陣の回復を行なう。
「遠隔の爆破です、吹き飛んでしまいなさい!」
 ミントは敵に状態異常をどんどん付与する戦法で、遠隔地の対象を爆破する。
 負傷や状態異常を受けたら、他のメンバーが治癒してくれると信用しているからこそ、ミントは攻撃に専念出来る。
 敵からのダメージを減らす為、浮遊する光り輝く盾を顕現させたツカサは、先に自分の護りを強化した。
 その後は再び盾を具現化し、アクアを防護させる。
 雄叫びをあげ、敵は無我夢中で、攻撃を繰り出した。
「この心、貴方に届け」
 散扇が捕食したエネルギーは癒す力となり、仲間に分け与える、瑠璃音。
「相変わらず……重いんだからっ……これ……」
 高く飛び上がったレイは、扱い難そうにルーンアックスを振るい、敵を真上から叩き斬る。
「ひまわりに物騒な事件なんて似合わないわ、あたし達が止めてみせるんだからっ」
 敵の背後へ着地すると、レイは振り向いて敵を睨み、強く言い放つ。
 熾彩は足止めの付与数を狙い続けて攻撃を繰り返していたが、時には、回復が追いついていない味方の治癒にも回る。
 メンバーは対策をしっかりこなし、確実に敵を追い詰めてゆく。
「そこです!」
 星型の輝きを蹴り込んでから、素早くバックステップし、敵との距離を置く、瑠璃音。
 激しい攻防戦を繰り広げ、やがて敵が衰退し始めたのをメンバーは見逃さない。
「癒しの花びらよ、仲間を助けてあげて」
 バニラが美しく舞い踊り、花びらのオーラを降らせて、仲間達を癒やす。
「いい加減懲りたかしら? もう寄生なんてしないことね」
 強気に言い放ち、威力の高い攻撃を優先する、レイ。
「いくわよー。トルネード投法!!」
 空高く舞い上がったレイは、デリンジャーを懐から取り出し、勢い良く敵へと投げつける。
「プレッシャーを与えていこう!」
 具現化した光の剣で、敵に斬撃を浴びせる、ツカサ。
「彼の奇蹟、我らに祝福を、敵には呪詛を」
 請願し、歌い上げて敵を呪縛する、瑠璃音。
(「美味しいソフトクリームの為にも、頑張りましょう」)
 きっと、あと僅かで終わるだろう、と。
 アクアは自分を奮い立たせる。
「虚無球体に飲まれて、消え去りなさい」
 アクアが不可視の球体を放つと、敵の右半身がえぐり取られたように消える。
 なるべく戦場が傷つかないように気を付けて戦っていた熾彩は、星空の雫を手に持ち、水晶の炎を発生させて敵を切り刻む。
「ミントさん、後は……」
「ええ、任せてください」
 熾彩の呼び掛けに答えると同時に、青薔薇の稲妻に凍気を纏わせる、ミント。
「雪さえも退く凍気を受けてみなさい」
 ミントは敵を凍結させるほどの、強烈な凍気を纏った杭を、力いっぱい突き刺した。
 それがトドメとなり、敵は完全に消滅した。


「周囲を綺麗に戻しておきましょう」
 後片づけを始める、瑠璃音。
(「ひまわりのソフトクリームとは、滅多に食べる機会もないわね。この際だから、冷たいソフトクリームを頂きたいわ」)
 荒れた場所や、侵食された大地をヒールで修復しながら、バニラは思案する。
「後始末はしておかないとな」
 熾彩も作業を手伝い、終えた頃には一般人が戻って来ていた。
 メンバーが気を配っていたお陰で、ひまわりの花畑も、無事だ。
「後は……ソフトクリームをいただこう」
「私もソフトクリームを食べて涼みたいです」
 熾彩の言葉に、アクアが真っ先に賛成し、販売所へ向かう一行。
「折角だし、ひまわりのフレーバーを」
「私もひまわりのソフトクリームを頂くわ。ひまわりの種って、どんな味がするのかしら」
 熾彩とバニラが興味深そうに、ひまわりのソフトクリームを購入。

「ソフトクリーム、色んなフレーバーがあってどれにしようか迷っちゃうね」
「戦いの後のソフトクリームは一種類だけはもったいないですので、ツカサさんとシェアして何種類か食べてみたいです」
 ツカサが悩んでいると、恋人の瑠璃音が寄り添いながら提案する。
「そうだね。戦いの後だし暑いし、冷たくて甘いものは幾らでも入りそうだから、二つ行っちゃおう! 一つはひまわり、もう一つは店のオススメで!」
 ツカサと瑠璃音はそれぞれ、違うフレーバーのソフトクリームを購入し、4種類のソフトクリームをシェアし合う。
「ひまわりの味ってよく知らないけど、何だか甘い気がするね!」
 ソフトクリームが、いつもより甘く感じるのは、大好きな恋人と一緒に食べているからだろう。
「溶ける前に楽しみましょうね」
 瑠璃音は一度、周囲を見回し、誰も見ていないのを確認する。
「ツカサさん。はい、あーん」
 誰にも見えないようにしながら、ツカサの口にソフトクリームを運ぶ、瑠璃音。
 照れつつ、幸せそうに味わっていたツカサは、瑠璃音が持っているソフトクリームが溶けそうになっているのに気づく。
 瑠璃音の手を優しく掴み、ソフトクリームに一気にかぶりつく、ツカサ。
「手に溶けたのがついたら勿体ないから、だよ?」
 驚いて目を丸くしている瑠璃音に対し、照れくさそうに視線を逸らしながら返す、ツカサ。
「蒸し暑くなってきましたから、アイスクリームがおいしいです」
 瑠璃音は満足げに、にっこりと笑って見せた。
「お土産にジャムも買って帰ろうかな。瑠璃音ちゃん、今度一緒にこれでパンを食べよっか?」
 ソフトクリームを食べ終えると、瑠璃音と手を繋ぎながら、ツカサは販売しているジャムを片手に、尋ねる。
 嬉しそうに微笑んで、瑠璃音は頷いた。

「ん、美味しいですね。何だかナッツみたいです」
 ひまわりのソフトクリームを一口食べ、感想を零す、ミント。
 ひまわりの種は香ばしく、ミントが言った通り、ナッツのような味と食感がする。
「ナッツ系のアイスに近い食感!? 食べなきゃっ、絶対食べなきゃじゃないそれ!!」
 レイは、ひまわりのソフトクリームに興味津々な様子で買いに走り、ソフトクリームを片手に、ひまわり畑へ向かった。
「ひまわりの種も入っているのか、面白いな。それはそれとして、おいしいな」
「ヒマワリの種を食べる機会って、滅多に無いですよね」
 熾彩の呟きに、アクアが反応して話し掛ける。
「冷たくて美味しいですね」
 暑い時期だからこそ、満足感も増す、アクア。
「とても冷たくて、美味しい味わいね」
 口の中に広がる爽やかな味に、バニラは満足げな雰囲気を漂わせていた。
「あんた達、攻性植物なんかにやられないで、どんどん大きくなりなさいよね♪」
 ソフトクリームを食べながら、ひまわりに話し掛けている、レイ。
 青空の下で一面に咲き誇る、ひまわりの花。
「あたしより大きい向日葵があるか探すのも面白そうねっ」
 夏らしい光景を前にして、レイは自分の背よりも高いひまわりが無いかと、探し出すのだった。

作者:芦原クロ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年7月24日
難度:普通
参加:7人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 2
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。