一面に広がる、ラベンダーの花畑。
まるで紫色の絨毯のように、丘一面を彩っている。
訪れた観光客は美しい光景に癒され、開けた広いスペースから、ラベンダーの花畑を眺めている。
小学生ぐらいの兄妹が親から離れ、はぐれないように手を繋いで、ラベンダーをじっと見ていた。
「いい匂いがするよ、お花もとってもキレイだね、おにいちゃん?」
「……おれがラベンダー畑に居るなんて、同級生が知ったら笑われるな」
「どうして?」
少女は愛らしく、小首を傾げた。
「花を見て喜ぶなんて、男っぽくないじゃん。馬鹿にされるよ」
「お花さん、こんなにキレイなのに……見てるとダメなの?」
「大人は良いかも知れないけど、おれらぐらいの男は普通、花を見て喜んだりしないんだよ。女々しいとか、オカマとか、からかわれるんだ」
繋いだ手に、少し力がこもり、溜め息を吐く少年。
視線は真っすぐ、ラベンダー畑に注がれているあたり、花が好きなのだろう。
しかし平穏な日常は、呆気なく壊された。
謎の花粉のようなものがとりついた、1本のラベンダーが動き出し、巨大化する。
悲鳴をあげる少女の前に、兄の少年がとっさに立ちはだかった。
が、異形はツルを伸ばして、少女のほうを先に絡め取り、締め上げる。
やめろ、と。必死に異形を叩いていた少年は、異形が放った光線により、燃えてしまう。
「おれは……兄ちゃんだから、守らなきゃ……助け、なきゃ……」
焼けてゆく激痛の中で、声が小さくなってゆく。
少女が締め殺される際、全身の骨がバキバキと音を立てるのが耳に入ったが、少年の意識は遠のいてゆく。
兄妹の命を奪ったあと、異形は観光客を次々と殺戮していった。
「まだ幼い子供まで、殺されてしまうなんて……」
「ああ。だが、姫神・メイさんの推理のお陰で、予知が出来たぜ。ラベンダーが、攻性植物に変化した。急ぎ現場に向かえば、惨たらしい事件を防げる筈だ」
霧山・シロウ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0315)が攻性植物の発生を伝えると、まだ予知の段階なのだと、姫神・メイ(見習い探偵・e67439)は頷く。
攻性植物は1体のみで、配下は居ない。
一般人の避難誘導は、警察などがおこなってくれる。
ケルベロスたちは降下後、攻性植物を迎撃する形となるだろう。
戦闘に集中していれば、敵の意識も、ケルベロスだけに向けられる筈だ。
今回は、開けた広いスペースが戦場となる。
「放っておけば、多くの命が失われるだろう。あんたさん達なら、確実に討伐してくれると信じているぜ」
参加者 | |
---|---|
片白・芙蓉(兎晴らし・e02798) |
ミスティアン・マクローリン(レプリカントの鎧装騎兵・e05683) |
魅縡・めびる(フェイスディア・e17021) |
雪城・バニラ(氷絶華・e33425) |
姫神・メイ(見習い探偵・e67439) |
シルフィア・フレイ(黒き閃光・e85488) |
兎波・紅葉(まったり紅葉・e85566) |
四季城・司(怜悧なる微笑み・e85764) |
●
(「私が推理していた事件が本当に起こるとは、驚きだわね。まぁ、被害が出る前に手が打てるのは、不幸中の幸いだわ」)
現場に到着した姫神・メイ(見習い探偵・e67439)は、微かに安堵の息を吐く。
ケルベロス以外の人の気配は、一切無い。
その代わりに、這いずる音を立てながら、近づいて来るモノが1体。
禍々しい雰囲気をまとい、獲物を求めている、異形。
(「ラベンダーの花か、あの爽やかな香りは僕も好きだね」)
素早く、敵の背後へ回り込む、四季城・司(怜悧なる微笑み・e85764)。
(「ともあれ、攻性植物になったものは、被害が出る前に倒さないとね」)
敵を逃がさないようにと、司は細心の注意を払う。
異形がツルを鞭のようにしならせる。
「フフフ。間一髪というところかしら!」
誰よりも速く、敵の存在を確認していた為、それをぎりぎりで躱す、片白・芙蓉(兎晴らし・e02798)。
「私達は攻性植物の相手をすることに専念しましょう」
兎波・紅葉(まったり紅葉・e85566)は、敵が一般人の方向へ進むのを阻むように、立ちふさがる。
「敵を取り逃がさない様に注意して、敵を囲む様に陣形を組むわね」
雪城・バニラ(氷絶華・e33425)が小声で仲間たちに伝え、メンバーは敵を取り囲むような形で配置についた。
●
「ではめびる? 後ろは頼んだからね!」
友人にテンション高く声を掛け、凶器で攻撃している帝釈天・梓紗に続いて飛び出し、敵との距離を一気に詰める、芙蓉。
幻の薔薇がひらりひらりと舞う中、剣戟を振るう。
友人に良い所を見せたいが為に、不慣れな剣を扱ってみたが、剣さばきは華麗だ。
「ふよちゃん、すごいの! かっこいいの!」
魅縡・めびる(フェイスディア・e17021)が芙蓉に称賛を送りながら、一生懸命、守護星座を地面に描く。
「大好きなラベンダーの花にとりつくなんて許せないの……!」
めびるは柔らかな光で前衛陣を包み、護りを固める。
「あなたに届け、金縛りの歌声よ」
戦場に、シルフィア・フレイ(黒き閃光・e85488)の歌声が響く。
金縛りを引き起こす、呪われた歌声だ。
敵は動きを封じられ、思うように体を動かせずにいる。
「回復の基盤を固めるね」
敵のBS攻撃を考慮して、司はエネルギーで盾を形成し、メディックのめびるを護る。
「わぁ、司くんありがとう」
人見知りはするが、素直に礼を言える、めびる。
(「昔は外出すら怖がっていた子が今や依頼にまで!」)
そんな友人の姿に、思わず感動する、芙蓉。
「まずはその素早い動きを、封じてあげるわ」
地面を蹴って跳躍したメイが、敵の機動力を奪う飛び蹴りを、炸裂させた。
「この一撃で、氷漬けにしてあげます!」
卓越した技量を発揮し、一撃を叩き込む、紅葉。
「さぁ、凍える世界へと招待してあげるわ」
コールド・サイクロンを射出し、敵を切り裂くと同時に、強烈な冷気で敵を凍てつかせる、バニラ。
感情を活性化し合った者同士の怒涛の連携が終わった、僅かな隙を狙い、敵は体の一部を大地に融合させ、戦場を侵食する。
大地が震動し、数の多い前衛陣をあっという間に飲みこむ。
「子どもの命まで奪おうなんて、許せない!」
侵食された大地から飛び出した、ミスティアン・マクローリン(レプリカントの鎧装騎兵・e05683)が、怒りに満ちた攻撃を放つ。
「今日は大事なお友達も一緒だもの。それに、誰にも怪我はさせたくない……!」
めびるが急いで、前衛陣を治癒する。
「フフフ、余裕よー!」
必死なめびるに心配を掛けまいと、痛くてもそう言って笑う、芙蓉。
こわばっていた、めびるの表情がほんの少し、和らぐ。
自然を愛する、めびるが大好きなラベンダーの花。
それが人に害をなす怪物になってしまったことが、めびるには許せない。
「絶対に倒して、元の平和な花畑を取り戻したい……」
その一心で、めびるは懸命に、仲間たちのサポートに回る。
「ええ、ええ。こんなに美しい場所に、悪い思い出なんか作れないものねっ」
芙蓉はフレンチロップドロップ! を展開し、帝釈天・梓紗も応援動画を使い、回復が追いついていない仲間の治癒を手伝う。
敵の攻撃は威力が高く、かなりの負傷を前衛陣は受けていた。
が、それも想定内の範囲だ。
メンバーは各自、高威力の攻撃を受けた際の対処を、事前に考えていた。
仲間を治癒出来る者は、回復役を引き受け、ダメージと状態異常を敵へ与え続けることに集中する者は、攻撃に徹する。
仲間を失うことを恐れているミスティアンは、仲間の状態を常に気に掛けていた。
「影の弾丸で、侵食してあげるわ」
バニラは攻撃役に回り、相手を侵食する影の弾丸で敵を撃つ。
「私の眼は、欺けないわよ……」
探偵の経験で培われたメイの、鋭い視線が敵に刺さると、敵は萎縮し、動きが封じられる。
(「この畑を、攻性植物に荒らさせる訳には行かないよ」)
敵がラベンダー畑の方向へ吹き飛ばないよう、角度を調整する、シルフィア。
「さぁ、突撃だよ!」
目にもとまらぬ超高速の勢いで、シルフィアは敵に突撃。
吹き飛んだ敵を、美しい花の嵐が襲う。
「花の嵐に、閉じ込めてあげるよ」
司が剣の先端から花をまき散らし、敵の戦闘意欲を奪う。
「遠隔の爆破です、吹き飛んでしまいなさい!」
紅葉は、精神を極限まで集中して突如、敵を爆破させた。
爆炎が広がり、もくもくと煙が立ちのぼり、敵の姿が見えなくなる。
煙の向こう側からなにかが光り、熱線がめびるを狙って放たれた。
回復役を潰してしまおう、と。知恵を絞った敵の、破壊光線だ。
が、あらかじめ、メディックを庇いやすい位置取りを意識し、動いていた芙蓉がすかさず、めびるを庇う。
「ククク、狙い通りね!」
めびるを庇って負傷した芙蓉だが、痛がる素振りも見せず、自信満々な笑みを浮かべている。
メンバーが次々と状態異常を重ねた為、敵は動きが困難になっていた。
光線を放った後は、攻撃を繰り出す様子も無い。
「チャンスよー! 無事終わったら、私はめびると過ごすわーっ」
獣化した手足で、高速かつ重い一撃を叩き込む、芙蓉。帝釈天・梓紗も攻撃に回る。
「みんなを守るため、めびるが頑張って癒さないと……!」
めびるは庇ってくれた礼を告げてから、芙蓉をオーラで包み、傷を癒す。
「きっとここは、みんなの心を癒す場所であるはずだから……!」
この場所を守ろう、と。
めびるは決意をかためた。
「パズルに潜む竜よ、その力を開放し、雷撃を放て!」
一気に畳みかけようと、シルフィアが竜を象った稲妻を放ち、敵を焦がす。
その間にメイは、聖痕の血祭に染み付いた血を、硬化させる。
「血で出来た槍を、受けてみなさい」
槍の如き鋭さを得た聖痕の血祭で、メイは敵の胴を貫く。
続く紅葉は、竜の砲弾を敵に撃ち込んだ。
「華麗なる薔薇の舞を、受けてみてよ」
敵を幻惑する幻の薔薇が舞う中で、司は華麗な剣戟を繰り出し、敵を斬り裂く。
「あなたに生きる資格などない!」
攻撃と共に、敵にそう言い放つ、ミスティアン。
疾風怒濤のごとく、すさまじい勢いでダメージを幾度も受けた敵は、もはや瀕死の状態だ。
「その傷口を、更に広げてあげるわ」
バニラが冷静に小声で言い、空の霊力をまとった武器で傷跡を広げるように、敵を斬り裂いた。
断末魔の声を響かせた敵は地面に倒れて消えてゆき、やがて完全に消滅した。
●
「戦いが終わったので、植物を愛でようと思います」
ミスティアンは三つ編みの髪を風になびかせ、ラベンダーを見に向かう。
メンバーがヒール作業をし、侵食された大地も元通りになった頃には、一般人の避難も解除され、賑やかな光景が戻る。
常に自信満々な芙蓉だが、一般人の保護には全力を尽くす為、被害が無くて良かったと、一人頷く。
(「男の子がお花好きって笑われるのは、本当に偏見よね。男の子も花が好きでも良いじゃないかしら」)
(「ラベンダーの花ですか、まぁ私はお花が好きな事には性別は関係ないと思いますけどね。男の子が花が好きなのは、変ではないと思います」)
小学生ぐらいの兄妹が、予知通りのやり取りをしているのを見て、バニラと紅葉はそれぞれ思案していた。
(「ラベンダーの花は、私も好きよ。ラベンダーの良い香りは心が落ち着くものね」)
シルフィアは微笑ましげに兄妹を見た後、満開に咲いたラベンダーを暫し眺める。
「私はアイスを頂きたいわね」
バニラの一声に、複数の仲間たちが賛同する。
「僕はもう少し、ラベンダーを見て楽しんでおきたいかな」
色鮮やかなラベンダーを見にゆく、司。
「ふう、アイスは冷たくて気持ちいいわね」
「こういう暑い日には、アイスに限るわね」
購入したアイスを食べつつ、頷き合う、バニラとメイ。
「後は、ラベンダーの花畑を楽しみましょうか」
「この綺麗なラベンダー畑を守れて、良かったわ」
メイの言葉にバニラが頷き、二人は丘一面に広がる美しいラベンダー畑を堪能する。
「私もラベンダーの花を買ったり、アイスを食べたりしてのんびりと過ごしていきたいですね」
アイスを食べているメイとバニラを見て、アイスが先か、花の購入が先かをやや迷う、紅葉。
「折角ここまで来たんだからラベンダーを買っていこうかな」
「私もラベンダーの花を購入したいな」
販売所に足を運ぶ司に同意し、シルフィアも店内へ入る。
「わぁ、とってもいい香りだね、凄く気に入ったわ!」
シルフィアは鼻先をくすぐるような優しい香りに、喜ぶ。
「どの花が良いかな……このラベンダーとかとても綺麗だね」
「これは綺麗な花ですね、これ買いたいです」
色鮮やかなラベンダーを司が見ていると、遅れて入って来た紅葉が頷いて購入を決め、数本ラッピングして貰う。
司も同じ花を買い、いい香りと美しい色を見て、顔をほころばせる。
「後は、アイスも食べて楽しみましょう」
シルフィアと司を待っていた紅葉が、2人を誘った。
ラベンダー畑を目で楽しみ、一緒にアイスを食べていためびるが、なにかに気づいたように声をあげる。
「ラベンダー畑を見てて思ったんだけど、このお色、ふよちゃんのおめめと同じ色だね。ふふ」
芙蓉に微笑んで見せる、めびる。
(「優しくて、安心する気持ちになるところもおんなじ!」)
直球で言葉にするのは流石に恥ずかしいのか、めびるは胸中で思うだけにする。
「フフフ、目に可愛く、食べて美味しいなんて存在が最高かしら……ククク、つい買ってしまうわね」
ラベンダーを食べたことがある言い方をし、土産を小脇に抱えて笑っている、芙蓉。
「あ、ラベンダーを買って帰ってー……」
「……あら、お花を買うの? いいわね、私は家を留守にすることもあるゆえ、最近お花は迎えてないのだけど……」
販売所に寄り、ラベンダーを購入しようとしているめびるに、芙蓉が話し掛ける。
「育ててポプリを作ったりしたいな。そのときは一緒に作ろうね、ふよちゃん!」
「ポプリにするの? ……天才かしら! 作るしかないわねコレ!」
めびるの頭を優しく撫でまわす、芙蓉。
大好きな友人に撫でられ、めびるは嬉しそうだ。
「フフフ、最高のお土産が出来てしまったわーっ!」
「色んなものみて、お土産話をたくさん作りたいの。それを聞いて欲しい人……恋人がいるから、えへへ……」
「ククク……めびるは私の次くらいに可愛いわね! 恋人も喜ぶわね。なぜ分かるのかって? ……私が恋人だったら絶対喜ぶからよーっ!」
ほんのり頬を赤く染めながら告げるめびるに対し、芙蓉は終始ハイテンションで、高らかに声を上げるのだった。
作者:芦原クロ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2020年7月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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