海辺の食堂は安くて美味い

作者:星垣えん

●安全志向
 潮の匂いが香る、港町。
「あー。魚の鮮度が違うわ……美味っ……」
「やっぱり獲れたてって美味しいー」
「お刺身とかもう最高じゃない? しかも安いし……!」
 海辺にある海鮮市場の近くに構えられた食堂は、新鮮な海の幸を食っては嘆息をこぼす人たちであふれかえっていた。
 美味い。そして安い。
 立地と店主の腕で魅惑の2点を満たしたその店は、当然ながら評判の店だった。県外からも人が寄ってくるほどで、テーブル席と小上がりの座敷はいつだって満員だ。
 こんもり並んだ新鮮な刺身の盛り合わせ、マグロやらイクラやらウニやらをこれでもかと積みあげた海鮮丼は見るだけでも垂涎が止められない。シンプルなフライや煮付けだって震えるほど美味いし、アサリやシジミの味噌汁も外しようがない味である。
 つまり、何でも美味かった。
「やっぱり安定の定食よなぁ……!」
「刺身とフライとごはんと味噌汁……最高やぁ……」
「しかしそこであえてのマグロ丼も良いと思うんですよ」
「鮭とイクラの親子丼もパねぇっすよ」
 美味すぎる海の幸をばくばくと食う客たち。
 そうして彼らが口をそろえて「ウマウマ」とか言ってるのが悪かったのかもしれない。
『――――ぉぉおおおお!!!』
 遠くから聞こえる野太い声、そして激しい足音。
 ズドドドと地鳴りにも似たそれはあっという間に食堂に近づいて――。
「魚とか馬鹿野郎この野郎! 骨が喉に刺さったらどうするの!!」
 がらりと戸を開けて入ってきた。
 鳥である。いつもの鳥の人である。
「人を傷つける魚とかいう危険物を売りやがるなんざ許せねえ……こんなあくどい食堂はこの俺が綺麗さっぱり畳んでやるぅぅぅぅ!!!」
 ふおおおおお、と両腕をひろげて優美に舞う鳥さん。
 魚は骨が喉に刺さるからダメ――というのが彼の言い分みたいです。

●行くか!
「みんなで海の幸を食べましょう!」
「魚なんかは鮮度が命と聞いたことがある。急いだほうがいいな」
 猟犬たちがヘリポートに姿を見せるなり、待ち構えていた笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)とティアン・バ(煙中魚・e00040)は前置きもねぇままにそんなことを言ってきた。
 なるほどどうやら鳥さんだな、と察した猟犬たちはいちおう2人に確認する。
 すると案の定の鳥さん案件だった。海鮮が美味しい食堂に「魚許せねぇよ魚」とか言って現れた鳥類を処せという話である。そらもう簡単な話である。
 たぶん簡単すぎて時間も余ってしまうだろう。
 信者も連れていない鳥さんだしサクッと解決するはずだ。
 ――と話してから、ねむちゃんは再び「海の幸を食べましょう!」と言い放った。
「魚なんかは鮮度が命と聞いたことがある。急がなければいけないな」
 気持ちソワソワしてるティアンさんもきっちり同じシーンを再現してきた。なんなら少し食い気が覗いてきた気もする。
「お刺身はいいな。丼もいい。これは迷う」
「大丈夫です! 悩んだらどっちも頼めばいいんですよ! 食堂はお安い価格で提供してくれてるみたいですし、じゃんじゃん食べるのが吉だと思います!」
 真剣に考えはじめたティアンにドヤ顔の助言をぶちこむねむちゃん。
 果たして十数秒前まで話していた鳥類のことを覚えているのだろうか。そう思わずにはいられないほど彼女の笑顔は清々しかった。
 しかしヘリオライダーの言うことなのだ。従って間違いはあるまい。
 ということで猟犬たちは厳かに、自身に残された力(所持金)を確認した。
 うん、たぶんいける。
「それではみんな! ねむのヘリオンにパパッと乗っちゃってくださーい!」
「鮮度が命だからな。うむ」
 てってけ駆けてくねむちゃんの背から、じっと視線を猟犬たちへ向けるティアン。
 鮮度が命――再三に聞かされたその文言を反芻しながら、一同はうきうき気分で港町に向かうのだった。


参加者
ティアン・バ(煙中魚・e00040)
桐山・憩(鉄の盾・e00836)
キソラ・ライゼ(空の破片・e02771)
サイガ・クロガネ(唯我裁断・e04394)
日月・降夜(アキレス俊足・e18747)
六角・巴(盈虧・e27903)
肥後守・鬼灯(度徳量力・e66615)

■リプレイ

●罪
「うおおおおおお!!!」
 じっとりした潮風が吹く道を激走する鳥。
 だが、いざ彼が海鮮食堂にたどり着いたとき、1人の猟犬が立ちはだかった。
「あの、お店を襲撃したりするのはやめてもらえませんか?」
 物腰柔らかに鳥を迎えたのは――肥後守・鬼灯(度徳量力・e66615)だ。
 何やらおっとりした風貌に違わず、彼は結構のんびりさんである。骨が喉に刺さるからとか言う鳥さんに思わず親しみを覚えたりもしていた。
「そんなことするより、僕たちと一緒にお魚を食べませんか?」
 とかニッコリ誘っちゃうぐらいである。
 しかし悲しいかな、相手はビルシャナだ。
「馬鹿野郎! わずかな油断を狙ってあいつらは喉にぶっ刺さってくるんだ! もっと注意しなさい!」
「魚の骨が喉に刺さル……?」
 横で会話を聞いていたアリャリァリャ・ロートクロム(悪食・e35846)が、もわんもわんと想像を膨らませた。
 その想像の中で、ビルシャナが「ぐあー」と横たわる。
 そして倒れたその鳥の首に、骨だけになった魚が突き刺さった。
 あまりにもアーティスティック。
「どーいう状況ナノカ!? マッタク、最近のトリは意味不明ダナ!」
「お前の想像のほうが意味不明だろがァァァ!!」
 はー、とかため息ついてくるアリャリァリャにキレッキレでツッコむ鳥さん。何で彼女の想像図がわかったのかは謎だ。
 ところで食事の誘いを断られた鬼灯くんは、肩を落としていた。
「ダメですか……ごめんなさい……」
「えっ、ちょっ」
 伏し目がちに離れてゆく鬼灯。それを見た鳥は凄まじい罪悪感に襲われた。
「やったな」
「ああ、やっちまったな」
「最高にやってしまったな」
「ち、違う! 俺はそんなつもりじゃ!」
 横にスッと並んでくるものの顔は背けるキソラ・ライゼ(空の破片・e02771)、サイガ・クロガネ(唯我裁断・e04394)、日月・降夜(アキレス俊足・e18747)に鳥さんが必死の言い訳を始める。
 しかし取り合う者は誰もいない。
 六角・巴(盈虧・e27903)は吸っていた煙草の火を消すと、代わりに左手から無数の炎の狼を生み出し、その背を撫でた。
「魚は後でやる、先にあっちを食って良いぞ。奴は罪を犯した」
「いやいやいや!? 冤罪! 冤罪で――」
「お前の嘴は言い訳しかできねェのかァ!」
「ハブッシ!?」
 問答無用とばかりにすっ飛んできた桐山・憩(鉄の盾・e00836)の飛び蹴りが横っ面にクリーンヒット! さらに面白いぐらい地面を跳ねてった鳥を炎狼たちが追ってなんかもうめっちゃ噛んでゆく!
「違うってほんと悪気はなかったんだって! ほんとだってー!」
「そうか。わかった」
「いやわかってるならそのナイフを収めアーーッ」
 弁明がすごい鳥さんに惨殺ナイフをさくっとやるティアン・バ(煙中魚・e00040)。
 罪人に権利は、なかった。

 それから猟犬たちはまだ息がある鳥を寄ってたかってボコボコにした後、悠々と食堂に入ってゆくのでした。

●オーダー!
 窓の外に見える、穏やかな海。
 ――には目もくれず、座敷席に陣取ったティアンは店員を呼んでいた。
「お刺身盛り合わせと海鮮丼を頼む」
「かしこまりましたー」
 にっこり笑顔で承る女性店員。
 早々と自分の注文を済ませたティアンは、ちらちらと仲間たちに視線を配った。
「皆は何食べるんだ」
「俺は刺身定食にする。煮付けや焼き魚も良いが、こういう土地ならやっぱり刺身が一番だろうしな」
「貴重な食材を味わえるチャンスだからな。私も刺身定食にするぜ」
「僕もお刺身定食を頼みます。天の声が聞こえた気がしましたので」
「ふむ。なるほど」
 即答してきた巴、憩、鬼灯に目を留めたままティアンが納得の声を零す。
「キソラたちもお刺身か?」
「まあ美味い魚は刺身で食いたいからな。でもみんな定食ってのもアレだし……オレは海鮮丼にすっかな」
「俺はフライの盛り合わせ定食にしたよ。新鮮なアジフライってのを前に食った事があってだな、衝撃だったんだよね」
 覗きこむように見てきたティアンにキソラがメニューを見ながら答え、降夜が軽い思い出話を語りだす。
 すると、そのアジフライの話を聞いているうちにキソラが悩みはじめた。
「確かにフライもいいよな……ああでもヅケも捨て難いし、やっぱり刺身の盛り合わせも食いたい気がする……とりあえずヒレ酒頼むか」
「そんなんで悩んでんじゃねえよ。だからハゲてんだぞてめーは」
「ハゲてない。断じてハゲてない」
 思案に耽っていたキソラが、横槍ぶっこんできたサイガにマジ顔で言い返す。
 ちなみに当人の名誉のために言っておくとキソラは髪が地獄化しているので偽骸をつけているだけである。ハゲてない。ヅラでもない。
「で、サイガは何頼むんだ」
「あー、どうすっかな。思えばこういう形で魚食うこたあんまねかったかもなー」
 ティアンに訊かれたサイガが頬杖ついたまま、目線でメニューをたどる。
 で、結論。
「刺身はキソラのをつまむとして、俺は天ぷらでも頼むかな」
「やらねぇからな」
 間髪入れず被さるキソラの否定。サイガはじろりと目を合わせた。それ以上の言葉は出てこないので、これはもう戦いが始まっていますね。
「何だカよくわからネーが仲良しダナ!」
 けらけらと笑うアリャリァリャが、店員に向けて手を振る。
 そして――。
「まずオススメのお刺身定食とー、握り盛り合わせ! 揚げ物もイイナ、天丼いっておくカ! 海鮮らーめん……コレ絶対美味しいナ! コレも頼む!」
「は、はいぃ……!」
「あとハ――」
 怒涛の勢いでオーダーを吐き出すアリャリァリャさん。
 その凄まじい注文っぷりに、仲間たちがしばらく言葉を失ったのは言うまでもない。

●新鮮ですな!
 つやつやと輝く刺身が、イクラが、ウニが、丼からこぼれかけている。
「すごいな」
「いや、うん、こりゃ半端じゃねぇな」
 眼前にそびえ立つ海鮮丼の存在感に目を奪われるティアンとキソラ。2、3枚めくった程度では到底ご飯にたどり着けないそれは、神々しさすら感じるほどなんかヤバい。
 だが臆してはいられぬ。
 2人は箸を海鮮丼に突っこみ、たっぷりの海の幸と一緒に米を頬張った。
 その途端、ティアンのエルフ耳がぴこぴこ揺れる。
「火を通すのもいいけれど、この鮮度ならティアンは生がいい」
「なー……」
 もぐりもぐりと口を動かしながら頷くキソラ。
 刺身やらイクラやらが渾然一体となって襲いかかってくるそれは、もう抗いようもなかった。抗いようもなく箸が再び丼へと伸びてしまう。
 むろん、それは海鮮丼だけに留まる話ではない。
「新鮮な魚は歯ごたえがなんかスゲーナ!」
「鯵に勘八は今が旬ってんで、脂のノリが絶妙だな」
 長方形の皿に乗った刺身をどんどん口に運んでいるのは、アリャリァリャと巴だ。
 新鮮で締まった身にほんの少し醤油をつけて、舌に乗せる。
 それだけで、肉体は尋常じゃない美味さに痺れていた。
「こいつは炊き立ての白飯がよく合う」
「まったくダナ!」
「すっごく歯ごたえもあり、プリプリとした食感です。これは鮮度が高いからこそですね。とっても美味しいです」
 刺身に合わせてぱくぱくと白飯を食う2人の横で、鬼灯は刺身定食をお行儀よく食べ進めている。刺身からご飯にいけば、続けてシジミの味噌汁を上品に啜った。
「お味噌汁も、貝の出汁がよく効いてますね」
「ああ、しかもなんか落ち着く……」
 ほぅ、と熱い息をつく鬼灯に憩がしみじみ同調する。
 旨味に満ちた味噌汁を啜り、体に活力がみなぎる気分を感じながら、憩はサッと箸でマグロの刺身をすくいあげた。
 で、あむっと食う。
「白身のほうは淡泊な舌触りながら噛む毎に旨味がって感じだったが……こっちの赤身はサクサクと音が聞こえそうな歯応えだな。思ったより酸味が弱いのは新鮮な証か? 醤油にすげぇ合いやがる……」
 じっ、と固まって味に集中しちゃう憩さん。
 しかし彼女に立ち止まっている時間はない。なんせ定食だけど刺身の量が半端じゃないのだ。ぷりっぷりのエビまで頭付きで供されてるのだ。
「このエビ野郎……死んだ海老みたいな目ェしやがって」
「そりゃエビだからな」
 箸で挟んだエビと睨めっこする憩にサイガのツッコミが飛ぶ。
 だが憩はさらりとスルーして、エビをぱくっと食べる。食べ応えある身をもぐもぐと噛んだレプリカントは2回3回と首を振った。
「うーんまい。この太さと艶からしてもうレベルが違うわ……マジでエビだわ」
「そりゃエビだからな」
 再びの塩ツッコミを繰り出しながら、自分の皿に箸を伸ばすサイガ。
 彼の前の器に鎮座しているのは、天ぷらで形成された山だ。
 軽い衣に包まれた白身魚やエビやイカ……それらを豪快に口に放りこんだサイガはむぐむぐと咀嚼する。ただでさえ美味い海鮮にサクサク食感と油の程よい風味が合わさって、飲み下したそばから次の天ぷらに手をつけてしまう。
「衣がつくだけで味が濃くなって感じられんのなんかヤバくね? タレが染み込むからかね」
「確かに、なぜだろうなぁ」
 サイガの言葉に笑った降夜が、ざくっとアジフライを齧る。
 香ばしい衣は小気味よい音をたてて砕けるが、その下に隠れているアジはほっこりと柔らかい。素晴らしい食感のコントラストに降夜も嘆息をこぼした。
「あー、これこれ……イカフライも生臭さ皆無。ソースでもタルタルでも合うし飯もいけるし本当に最高だな」
 ばくばくばく、と気持ちいい食いっぷりを見せる降夜。
 と、揚げ物で歓喜している者たちがいる一方。
「おいしい。これがアブリトロサーモン。トロはとろとろにとろけるのトロ。なるほど」
「ホタテの握りも大振りで甘いゾ! 醤油無しデモいけル!」
 刺身の盛り合わせに手をつけていたティアンが謎の納得をし、ホタテの握りを秒で胃袋に消し去ったアリャリァリャが声を弾ませる。
 満足。
 それぞれ頼んだものを食い進める猟犬たちは大いに満足していた。
 ――が、しかしだ。
「……うむ。天ぷらだの揚げ物だの、火を通したものも、いいな」
 ティアンは普通に、皆が食べているものにもがっつり惹かれているのでした。

●楽しいですな!
 数分後。
「天ぷら、さくさくだな。おいしい」
「なー。刺身とかもいいけどやっぱ火ぃ入れんのも美味いわ」
「いや2人して俺の天ぷら取ってくんじゃねぇよ。お前らもよこせ。とりあえずキソラの刺身全部もらうわ」
「全部はおかしいだろが。おいマジでがっつり持ってくな!」
 ティアンとキソラとサイガはなんかワイワイやってた。ひょいひょい天ぷらを奪われたサイガがキソラの元から華麗に刺身を奪う。そして被害ゼロのティアン。
「オレの刺身もってったんだ……そっちの串もらうな」
「キソラてめー一番ウマいとこ食ってんなよこのハゲ、串やっぱ二本ずつにするわ」
「ティアンもその串、もらえるだろうか」
「俺からどんだけ持ってくつもりなんだよ」
「仲いいねぇ、お三方」
 サイガの注文した串モノを巡ってまた争う3人を見て、ヒレ酒飲んでまったりやってた巴がくすりと笑う。手元にはなめろうの小鉢も見えるんですけど、この人完全に飲みモードになってません?
「まぁ他所にも目が行くのはお約束だからね。若者は好きなだけやりあうといいさ……なんならこれもどうぞ」
「「「これは」」」
 スキンヘッドのおじさんがクールに、手元に置いていた品々を3人にそっと勧める。
 肉厚の貝が使われた浜焼きや酒蒸しはまず目を引いた。加えてカラッと揚がった魚やイカの唐揚げも見るからに箸が進みそうである。
「俺はまぁ腹も膨れたし気にせず食べてくれていい。因みに天ぷらは抹茶塩や岩塩に付けて食べると旨いよ」
「塩か。なら試してみよう」
「んじゃ俺も試してみっかね」
「オレもオレも」
 勧められるまま、浜焼きやら唐揚げを頬張るティアン&サイガ&キソラ。
 3人の食べっぷりを見ながら、巴はヒレ酒をあおった。
「明るい内の定食屋で飲むって背徳感が何とも言えないね」
「確かにそういうのあるかもなぁ」
 ふらりと巴の隣に現れたのは、憩だ。
 皿にのせた鰹のタタキとともに流れてきた女は、同じく片手に持っていたヒレ酒を呑む。
「おー、さすがに良い味がしやがる」
「この旨さを理解出来なかった鳥は、少し哀れだよな」
「ああ、言えてるね」
 降夜がにやりと笑って、やはりヒレ酒を口に流しこむ。
 襲いくる美味さに頬をさらに緩ませると、降夜は手を振って店員を呼んだ。
「こうなるともっと肴が欲しくなるよな。塩辛追加おねがいしまーす」
「塩辛も美味そうだな」
「私にも一口くれよ。一口」
「ああ。もちろんいいよ」
 見合って笑う降夜、巴、憩。
 と、そのときだ。
「……ナァ、そこの小鉢に入ってルの何ダ?」
「ん、こいつか? 気になるんならどうぞ」
 横合いからアリャリァリャが熱い視線を送ってきていた。手元にある小鉢に向けられていることに気づいた降夜はアリャリァリャのほうへ小鉢を滑らせる。
 中に入っているのはアサリのバター炒めだ。
「いいノカ! アリガトな! …………お返しにカジキマグロの兜煮いるカ?」
「いや、それはいい」
 アリャリァリャが差しだそうとしたカジキマグロの頭を見てきっぱりと掌を向ける降夜。
 いやまあ兜煮なんです。けどカジキマグロなんです。なんていうかサイズがもう食べ物のそれではないんです。ぎょろっとこっち見てる気もするし。
「お肉ほろほろでおいしいんダケドな……プルプルコリコリの目玉もおいシイ」
「いや、それはいい」(断固として掌をかざす降夜)
「ならハモの出汁巻卵、食べルカ?」
「じゃ、そいつを貰っとくかな」
 和やかに交渉成立させる2人。
 その様子をじっと眺めながら、鬼灯は両手で持っていた海鮮丼の器を置いた。
「皆さん、いろいろ食べられてすごいです。僕はこの海鮮丼とお刺身で、お腹いっぱいですね……」
 丼と合わせて頼んでいた刺身の盛り合わせを、ぱくぱくと食べる鬼灯。
 その顔は、これぞ幸福とばかりにほのぼのと緩んでいる。定食を食べてから海鮮丼と刺身盛り合わせを頼むのは鬼灯にとっては結構冒険だったが、挑んだ甲斐はあった。
「海の幸、おいしいのです。鳥さんも意固地にならなければよかったのに……」
「うむ。ティアンもそう思う」
「ティアンさん」
 いつの間にか隣に座っているティアン。
 彼女はもごもご口を動かし、パリパリと軽快な音を響かせていた。
 骨せんべいである。
 鳥さんが忌むべきと断じた、まさに魚の骨である。
「おいしい。誰かこれをあのビルシャナに教えてあげなかったのだろうか」
「そんなものがあるんですね。僕も食べてみていいですか?」
「よく噛んで食べるんだぞ。喉にささったらたぶん痛い」
 ぱりぽりしながら鳥みたいなことを言うティアン。
 そんな彼女の言葉が耳に届いた瞬間、アリャリァリャはハッとした。
「ああ! 刺さルって飲み込むときの話カ!」

作者:星垣えん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年7月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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