●ヴァオかく語りき
七月某日。ヘリポートの片隅で。
「おーい、おまえらー! 今度の日曜日って、暇だったりする?」
ケルベロスの一団の談笑に大声で割り込んできた者がいる。
竜派ドラゴニアンのヴァオ・ヴァーミスラックスだ。
「今度の日曜日って、ヴァオさんの誕生日ですよね」
と、一団に混じっていたヘリオライダーの根占・音々子が言った。
「また、ろくでもないことをするつもりですか?」
「ろくでもないことちゃうわー!」
ヴァオの話は確かに『ろくでもないこと』ではなかった。
「俺の知り合いの知り合いが児童養護施設を運営してんのよ。今度の日曜、その施設で子供たちに劇を観せるイベントがあるんだけど、俺はそのお手伝いつうか実質的なゼネラル・プロデューサーみたいなことをやってんだ。劇団の手配をしたりとかさー」
「ヴァオさんが孤児院のイベントのお手伝いをするなんて……あざとーい! そこまでして好感度を上げたいんですか?」
「いや、そんな下心はないから! なーいーかーらー!」
動揺しながらも(図星だったのかもしれない)好感度と縁のないヴァオは皆に紙片を配り始めた。どうやら、手作りの招待状……いや、チケットのようなものらしい。
「よかったら、おまえらも子供たちと一緒に観劇してくれよ」
「私たちみたいな部外者が行ってもいいんですか?」
「ああ、大歓迎だよ。ケルベロスがやってくるのに喜ばない子供なんているわけねえじゃん。それに観客が多いほうが演じる側も張り合いがあるだろうしな」
子供たちと肩を並べて劇を観る――それはきっと楽しい一時になるに違いない。
なにも起きなければ。
はい、起きましたー。
「大変だぁーっ!」
イベントの前日、ケルベロスたちの談笑にヴァオがまた割り込んできた。
「例のイベントに出演する劇団の連中が練習後の反省会でヘンなものを食って、食中毒でブッ倒れちまったんだってよ!」
「あららー」
音々子がしょんぼりと肩を落とした。
「じゃあ、イベントは中止ですねー」
「やだやだやだやだー! 絶対に開催するぅーっ! 施設の子供たちが楽しみに待ってんだからな! でも、今から別の劇団の手配するのは無理だし……どうしたもんかなぁ……」
考え込むヴァオ。
十数秒後、その目がキラリと光った。
「よし! 劇団員の代わりにおまえたちが舞台に立て!」
「無理無理無理無理!」
と、音々子が被せ気味に叫んだ。
「できるわけないじゃないですか! 大道具も小道具も衣装もないし、なんの練習もしてないし……いえ、それ以前に脚本がないんですよ!」
「小難しい脚本なんかいらねー! 勧善懲悪のヒーローショーみたいなノリのやつをアドリブ全開でやればいいんだよ!」
「ヒーローショー?」
「そう! 悪玉がなんか悪さをしてるところに善玉がバァーンと登場して、悪玉をドカァーンとやっつけて、ビシッとカッコよく決める感じのやつ!」
「ヒーローショーをなめてませんか? あまりにも大雑把すぎますよー」
「大丈夫だ。俺も悪役の一人として出演すっからよ。万が一、舞台上で不測の事態が起こったら、スマートにフォローしてやるぜ」
「却って不安なんですが……」
もっともな危惧である。
だが、ヴァオの自信が揺らぐことはなかった。
「大丈夫だってば! 施設の子供たちの中にはデウスエクスのせいで家族をなくした奴も結構いるんだ。そういう子供からすれば、ケルベロスってのは家族の仇を討ってくれたヒーローじゃねえか。本物のヒーローが舞台でヒーロを演じてくれるんだから、少しばかりグダグダなことになっても見逃してくれらぁ!」
「はぁ、そうですか……」
諦め顔で頷く音々子。
そして、ケルベロスたちを見やり、ヴァオには聞こえないように小声で問いかけた。
「『少しばかり』というレベルで済むと思います?」
たぶん、済まないだろう。
とある児童養護施設の運動場に設けられた舞台。
その裏手にケルベロスが集まっていた。
「こんなに沢山の協力者が来てくれるとはな。多くても十六人と踏んでいたが……」
と、妙に具体的な数字を口にしたのは自称『ゼネラル・プロデューサー』のヴァオ・ヴァーミスラックスだ。
「結構な人数だから、四部に分けるか。カッコいい劇を四回連続で観られるとなりゃあ、子供たちもきっと大喜びだぜ」
その自信はどこから湧いてくるんだ? 半数のケルベロスはそう思った。
残りの半数はヴァオ以上に自信満々だった。
●第一部
「皆さん、こんにちわー!」
舞台の上で五嶋・奈津美がマイク越しに挨拶をした。
「こんにちわー!」
客席の子供たちが元気な声を返した。
「さて、今日はこの……」
「ヒャッハー! 水だ、水だぁーっ!」
奈津美の語りを奇声で断ち切り、ヨハン・バルトルトが現れた。鋲付きの肩鎧を装着し、水で満たされた盥を抱えるという謎の芸風。
『たいへんだ。わるものぐんだんがやってきたぞ』
謎のナレーションが流れ、別の悪役たちも登場した。
「おーほっほっほっ!」
ボンデージ風の衣装の空国・モカ。
「へっへっへっ」
黒い全身タイツと覆面という戦闘員スタイルのピジョン・ブラッド。
そして、同じく戦闘員スタイルのシルディ・ガード、イッパイアッテナ・ルドルフ、テレビウムのマギー。
「私は暗黒大魔女モカージョ! チョーやばい魔物を呼び出すための生贄を探しているのさ!」
モカージョことモカの背後に不気味な靄が沸き立った。ヨハンのグラビティによる演出だ。
「おまえたち! 生贄を連れておいで!」
「承知しました、モカージョ様」
子供たちを攫うため、ピジョンが客席に降りた。ヒーローショー定番の客いじり。
うねうねとした不気味な動きで子供たちを怯えさせる(いや、大半の子供はきゃっきゃっと喜んでいたが)ピジョンとは別にシルディも生贄の拉致……ではなく、募集を始めた。
「はい、ボクたちに捕まってみたい人!」
子供たちが一斉に手を上げた。
そこに裏方の長篠・ゴロベエがやってきて――、
「この子なんかどうかな?」
――と、子供を見繕っていく。
「このお兄ちゃん、さっきのナレーターと声が同じー」
そう指摘する子供もいたが、ゴロベエは無視した。
やがて、生贄候補の子供たちが舞台上に並べられた。子供だけでなく、おおきなおともだちも混じっているが。
「ヒャッハー! 生贄はおまえだー!」
「そ、そんな……病気のお母さんがうちで待ってるのに……」
ヨハンに指をつきつけられて泣き始めたのは、おおきなおともだちのクラリス・レミントン。
「お嬢さんがピンチだわ! 誰か、助けてー!」
司会の奈津美が叫ぶ。
すると、二人のヒーローが舞台に現れ、ポーズを決めた。
「あの日の涙を力に変えて! ポメラニマン、参上!」
「天雷の使者! ライトニングライダー!」
ポメラニアンの仮面をつけたハインツ・エクハルトと、バトルクロスを纏った篁・悠である。
「えーい! やっておしまい!」
モカが数十人の戦闘員に命じた。戦闘員といっても、悠が召喚した立像(顔はヴァオに似ていた)だが。
「たぁ!」
「とぉ!」
裂帛の気合いを発し、ヴァオ似の立像を叩き壊すハインツと悠。生贄候補の子供たちも楽しそうに立像を蹴倒していく。
更に第三のヒーローも暴れ出した。
「さすらいのナックルファイター、見参!」
その正体は、先程まで泣いていたクラリス。モカージョ一味を一網打尽にすべく、わざと攫われたのだ。
しかし、敵の数はあまりにも多い。
(「……召喚しすぎじゃね?」)
立像を壊しながら、悠を横目で見るハインツ。
その時、観客の一人――天璋院・かなでがゆらりと立ち上がった。
「私も助太刀します」
「なにやつですか!?」
イッパイアッテナが叫んだ。敬語が抜け切れていないのは御愛嬌。
「名乗るほどの者ではありませんが――」
かなでは観客席を突っ切り、舞台に飛び乗った。
「――プリンセスゴリラです」
「ゴ、ゴリラァ!?」
ミミックのザラキにエクトプラズムのピコピコハンマーを生成させて迎撃を試みたイッパイアッテナであったが、かなでのパンチ(気力溜めを拳に纏わせているので、ダメージはない)を食らい、メタリックバーストの閃光を発して散った。
その間も立像の破壊を続けるヒーローたち。頭上ではウイングキャットのバロンが『がんばれ!』と記された団扇を振っている。
そして、ついにすべての立像が破壊された。
「ケルベロス流星拳!」
「ヒャッハー!?」
クラリスの貫手で吹き飛ばされるヨハン。
「ポジションはクラッシャーです!」
「モカージョ様ぁーっ!」
かなでのパンチで吹き飛ばされるシルディ。
「回転蹴り!」
「蹴られたー!」
悠のキックで吹き飛ばされるピジョン。
「……」
一人で吹き飛ぶマギー。
「ポメラニアンラリアット!」
「ひえー!」
ハインツのラリアットで吹き飛ばされるモカ。
ハインツ自身もその勢いのまま、舞台袖に飛び込むようにして退場した。
●第二部
ティユ・キューブが現れ、立像の破片をかたづけた。波の音らしきものを口にしながら。
「ざざー、ざざー」
そそくさと去った彼女に代わり、大弓・言葉が登場。名もなき一般人の役だが、プリンセスモードを用いてるので無駄に華やかである。
「綺麗な海だわー」
わざとらしい独白でティユの擬音を補強する言葉。そう、第二部の場面設定は海辺なのだ。
突然、その平和な海辺に――、
「ゲシャシャシャ!」
――アジサイ・フォルドレイズが現れた。怪人役だが、ノーメイクである。自他ともに認める強面、なおかつ竜派ドラゴニアンとなれば、メイクなど不要。
「きゃー!」
とりあえず逃げ出す言葉。
「待てーい!」
とりあえず追いかけるアジサイ。
そこに新たなキャストが登場した。豪奢な衣装を着た巽・清士朗だ。なぜか、かき氷の屋台を引いている。
「かき氷屋さん、助けてー!」
「助けてほしくば、このかき氷を食すがいい」
救いを求める言葉に清士朗は無茶な要求を返した。
「これを食せば、心が凍り付き、人を許す心を失ってしまうのだ!」
「ゲシャシャシャ!」
かき氷を掲げる清士朗と大笑いするアジサイ。よく判らないが、世界の危機だ。きっと、そうだ。
その危機を救うべく、ヒーローたちが現れた。
「そこまでよ、ワルモンダー伯爵! ヒーリングホワイト、参上!」
「人々が憩う場での狼藉は許しません! ヒーリングブルー、推参!」
ホワイトはエルス・キャナリー、ブルーは蓮水・志苑。ちなみに『海で休暇を過ごしていたら、敵と出会した』というシチュエーションである。所謂『水着回』か?
「おのれ、ヒーリングガールズ! おまえたち、やってしまえ!」
ワルモンダーこと清士朗の命に応じて、戦闘員たちが飛び出してきた。
「デュワッ!」
まずは一式・要。
「ヒー!」
続いて、喜界ヶ島・鬱金。
「デュデュー!」
最後に浜本・英世。皆、お揃いの戦闘員コスチュームを着ているように見えて、ブーツ等の色を変えているという凝りよう。
そして、彼ら戦闘員トリオとヒーリングガールズの戦闘が始まった。トリオといっても、設定上の人数はもっと多い。要も鬱金も吹き飛ばされる度に舞台袖に消え、別の戦闘員として再登場するというサイクルを繰り返している。英世は隅で呑気に茶を飲んでいるが。
ヒーリングガールズ側も二人だけではない。言葉が頭突きを食らわせて応戦を始めたのだ。本人は『勇気を振り絞って反撃する一般人』のつもりだが、プリンセスモードのままなので『セレブの御乱心』に見える。
「デュワッ! (燃えてきたわー!)」
「ヒー! (落ち着け!)」
役を忘れて本気で戦い始めた要を羽交い絞めにして、鬱金が退場した。ちなみに戦闘時も退場時も観客の視点を意識し、ヒーローを自分の体で隠さないように動いている。戦闘員の鑑と言えよう。
それから間もなく英世も倒され、残るは清士朗とアジサイだけとなった。
しかし――、
「こ、攻撃が利きません……」
――エルスが片膝をついた。『そもそも、清士朗に攻撃してないじゃん』というツッコミは野暮だ。
「ゲシャシャ! どうやら、ヒーローだけの力では勝てんようだなぁ」
アジサイが意味ありげに客席をねめつける。
「皆様、私たちに力を貸してください!」
エルスの肩に手を置き、志苑が客席に呼びかける。
ヴィランの挑発とヒーローの懇願を誰が無視できよう? 子供たちは声を限りに叫び始めた。
「がんばれー!」
「まけるなー!」
「やっちゃえー!」
その声援が力となって――、
「ゲシャー!?」
――アジサイを爆破して吹き飛ばした。実際は当人がブレイブマインを発動させて飛び去ったのだが。
「皆の想い、届きました!」
エルスがすっくと立ち上がる。
「ヒールの力でワルモンダー伯爵を――」
「――改心させましょう!」
エルスと志苑の指先から光線が放たれた。
「うぉー!?」
光線を受けた清士朗はくるりと回転し、王子様のごとき衣装に早着替え。
「ああ……長い夢を見ていたかのようだ」
清々しく笑うワルモンダー伯爵改めイイモンダー王子であった。
●第三部
悪の組織に属する者たちが舞台上にずらりと並んだ。
そのうちの一人――仮面をつけた影守・吾連が子供たちに語りかける。
「さあ、一緒に悪いことをしよう。唐揚げに勝手にレモンをかけたりとか」
「それに夜中まで漫画を読みふけったりとかな!」
と、同じく仮面をつけた鉄・千も悪の道に誘い始めた。本人は悪い顔をしているつもりなのだが、それは誰にも伝わっていない。仮面に隠されているので。
「俺たちの仲間になれば、プリンも食べ放題だぞ」
玉榮・陣内も子供たちに呼びかけた。
しかし、子供たちは誰一人として勧誘に応じない。
「えーい、面倒だ」
陣内は業を煮やした態で客席にずかずかと降り、子供の物色を始めた。だが、二度目ともなると、子供たちも慣れたもの。果敢に陣内を蹴りつけてくる。
子供だけでなく、おおきなおともだちも立ちはだかった。
「プリンを餌に勧誘とは笑止千万。この子たちには――」
比嘉・アガサである。
「――既に手作りプリンを配布済みだ!」
更に舞台にもヒーローが現れた。
「アカリンジャーこと僕、見参!」
新条・あかりだ。衣装は黒革の軍服とピンヒール。そして、得物は鞭。
「ナンデスカ!? ソノ格好ハ!」
陣内がショックで卒倒したが、物語は停滞しなかった。
新たなヒーローが登場したからだ。しかも、カップル。
「俺はグラビマグマ」
「私はグラビマリン」
名乗りをあげながら、そのカップル――水無月・鬼人とヴィヴィアン・ローゼットはポーズを決めた。
「この世に悪が栄えた例しはない!」
「自然の力を操るラブラブな私たち『グラビーザー』が成敗してあげるわ!」
成敗されてなるものかと悪役たちが襲いかかる……と思いきや、懐柔策で対抗した。
「君たちも悪の道においでよ」
いつのまにか用意された椅子に腰をかけ、ペルシャ猫(に扮したオルトロスのイヌマル)を撫でながら、組織のボスのごとき風格を出す吾連。
「そうそう。千たちの仲間になれば――」
千がプリンを差し出した。カップには『ヴァオ』と記されている。なんたる悪逆。
「――他人のプリンを盗み食いするという背徳感を味あわせてやるぞ」
「お断りだぜ! 正直、プリンは欲しいけど」
「ほほう。ならば、これを私の三時のおやつとしよう」
鬼人の返答を聞くと、組織の幹部である月杜・イサギが薄く笑い、第二のプリンを取り出した。そこに記されている名は『あかり』。なんたる非道。
「人から奪ったプリンのなんと美味なことかー、なんだよー」
別の幹部の七宝・瑪璃瑠も邪悪な笑みを見せた。
しかし、あかりは動じない。それどころか、イサギに揺さぶりをかけた。
「正義の味方になったら、もっと美味しいプリンが食べられるかもよ?」
「もっと美味しい……だと?」
「うん。アガサさんの手作りプリンは絶品だからね」
あかりが観客席のアガサを指し示すと、イサギは――、
「では、今日から私も正義のために戦おう」
――プリン一つであっさり改心した。
「わ、わたしを裏切るの?」
あまりにも安い造反に動揺する瑪璃瑠。
その動揺はすぐに怒りに変わった。
「数多の怨念よ! クロケモを蘇らせたまえ!」
瑪璃瑠の呪法によって、クロケモこと陣内がソンビのごとき所作で立ち上がった……が、周囲の子供たちが取り囲み、ぽかぽかと殴りまくった。
「手首のスナップを利かせて! 抉るように!」
子供たちを指導しつつ、自身も陣内にパンチを浴びせるアガサ。
舞台上でも戦闘が始まっていた。千が戦闘員(に扮したパンダやレッサーパンダ)を召喚したのだ。
「たとえパンダでも容赦しないわ!」
ヴィヴィアンがボクスドラゴンのアネリーとともに軽快な音楽を奏で始めた。それに合わせて派手に動き回りながら、鬼人が戦闘員を倒していく。
あかりも鞭を振るい、イサギも剣を振るった。
そして、すべての戦闘員が倒れ――、
「ぎゃふん!」
「きゅー!」
――吾連と千も敗れた(陣内はとっくにKOされていた)。
「おのれぇー! 覚えておけなんだよー!」
べそをかいて逃げ出す瑪璃瑠であった。
●第四部
ティユがまたも舞台を掃除し、無言で去った。
入れ替わるようにして現れたのはジェミ・ニア。ブリーフケースを大事そうに抱えている。
「僕の勤めている研究所がこんなに恐ろしい研究をしていたなんて……早く、皆に知らせなければ!」
説明的な台詞で状況を解説。
そんな彼を悪役たちが取り囲んだ。白衣姿のエトヴァ・ヒンメルブラウエ、マントの襟をこれでもかとばかりに立てたカルナ・ロッシュ、普段と同じ格好のヴァオ、そして、ミミックのいっぽ。
青ざめるジェミを見据えて、ヴァオがなにか言おうとしたが――、
「もう逃げられませんよ」
――カルナが先に口を開いた。
それでもめげずに台詞を吐こうとするヴァオを制して、エトヴァが言った。
「その機密書類を返してもらいましょウカ」
「返さねば……」
と、ヴァオがようやく声を発したが、別の声によってかき消された。
「魔王ヴァオ! あなたの悪事もここまでよ!」
声の主はシル・ウィンディア。いかにも魔法少女といった風の衣装を着ている。
「魔法少女エレメンティ・シル!」
名乗りをあげる彼女の横に仁江・かりんが並び、ブレイブマインを炸裂させると同時に叫んだ。
「世界征服を企む悪い子たちは、ぼくがお尻ぺんぺんしちゃいますよ!」
ブレイブマインの爆煙が晴れると、ステルスリーフを舞い散らせながら、着物と狐の面という出で立ちの櫟・千梨が現れた。両隣に鬼飼・ラグナとボクスドラゴンのロクを伴っている。
「おきつねマン! 一緒に悪を成敗するコン!」
「んー」
ラグナは意気軒昂だが、おきつねマンの千梨はテンションが低い。
そして、最後のヒーローも登場した。
妖精弓を携えた神崎・晟である。
「たとえ魔王でも、膝に矢を受けては引退せざるを得まい」
矢を番えて、ヴァオに狙いをつける晟。子供たちはぽかんとしている。ネットで流行ったフレーズ(と、その元ネタ)を知らないらしい。
「出でよ、我が配下たち!」
ヒーローたちを撃退すべく、カルナが数百人の戦闘員を呼び出した。いや、正確には数百枚だ。それらは紙兵に過ぎないのだから。薄い、小さい、動かないの三拍子。
にもかかわらず――、
「さ、さすがに強い……」
――なぜか、シルは苦戦している。
「でも、わたしはこんなところで負けられないの!」
魔人降臨を発動し、三秒で逆転。
「はい、待ってましたー」
と、薬袋・あすかが黒子のごとく駆け寄り、ゴッドグラフィティを施した。
「魔王、覚悟!」
「悪の総裁『ぶらっくいっぽ』もお尻ぺんぺーん!」
シルが剣(ウレタン製)をヴァオに叩き込み、かりんがいっぽに如意棒を叩きつける振りをした。
「はい、ちょっと待ってねー」
あすかがパリピメイカーを発動させ、二人の背後にベタフラッシュのようなエフェクトを描いた。
「えーっと……悪しき者どもを神の力で浄化せん?」
千梨が呪文らしきものを適当に詠唱すると――、
「うぉー!?」
――カルナが悶絶した。どうやら、利いているらしい。
「た、たとえ、僕がここで敗れても第二第三のぉ……」
すべてを言い終える前に事切れるカルナ。
それを見届け、ラグナが嬉しそうに飛び跳ねた。
「千梨、かっくいー! でも、やっぱり、いつもの千梨がいちばん好きだなぁ」
「俺もいつもの俺が好き。それにいつものラグナもな」
「イチャコラすんな、コラァーッ!」
と、二人のやりとりに怒号で割り込むヴァオ。
そんな彼に向かって、晟が矢(祝福の矢なので、ダメージ略)を放った。
衝撃の事実を告げながら。
「魔王よ、私はおまえの息子だ」
「Nooooo!」
絶叫を響かせながら、魔王は高所から飛び降りるような形で倒れ伏した。
「あ? 奴が逃げます!」
と、ジェミが指さした相手はエトヴァだ。
どさくさに紛れて走り去ろうとした彼はくるりと振り返り、晟と同様に衝撃の事実を告げた。
「私は君たちノ……敵デス」
「いや、知ってるから」
舞台袖でティユがツッコんだが、その声は誰にも聞こえなかった。
子供たちの歓声と拍手が鳴り響いたからだ。
作者:土師三良 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2020年7月28日
難度:易しい
参加:39人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 1/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 5
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