涼しい夏の夜に電気圧力鍋さんがダモっただと!?

作者:星垣えん

●夜のテンションではない
 涼しい夜風が、びゅうと吹く。
 うんざりするような暑さが続く中で、その日は珍しく過ごしやすい夜だった。体を覆うような熱気も姿を潜めて、外を歩けばむしろ心地よささえ感じられる。
 そんな夜の、街の一角。
 人も通らぬ野ざらしの空き地に、圧力鍋が捨てられていた。
 それも電気式の圧力鍋である。火を使わずに圧力調理できる優れものは、普通に考えれば夏場こそ活躍する機会があるだろうに、なぜかそのシルバー調の寸胴ボディを空き地の片隅に横たえている。
 買ってはみたものの意外と使わなかった――的な感じだろう、きっと。
 使い手に恵まれなかった電気圧力鍋は、夏の夜風に晒されるまま静かに眠っていた。
 だがこれが彼の最期ではなかった。
 夜空からふわーりふわーりと、超極小ダモクレスさんが舞い降りてきたからだ!
 ぽてっと着地した蜘蛛っぽいそれはシャカシャカと電気圧力鍋に接近。半開きになった蓋をくぐって内部へと進入を果たした。
 その結果。
「ナベェェェェェェェェェ!!!!」
 復活した。
 汚れたボディもピッカピカになり、直径も2mぐらいになった。
 デカい。普通にデカい。
「ナーベ! ナーベ! ナーベ!」
 おまけにテンションが高い。テンションが高すぎて不気味な踊りを披露しているほどである。あ、ちなみに脚も生えました4本ぐらい。
「アッツリョク! アッツリョク!」
 ぴょんぴょんと跳びはねて、己の力をアピールする電気圧力鍋さん。
 調理すべき食材がないことに気づいて彼が絶望するのは、1分後のことである。

●使ってやりましょうよ
「電気圧力鍋ですか。何を入れたらいいんでしょうね?」
「何でもいいんじゃないっすか? 圧力鍋は万能っすよ!」
 ヘリポートから夜空を見上げながら、犬飼・志保(拳華嬢闘・e61383)と黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)が鍋の食材を語っている。
 深夜に連絡を受けて飛んできたら、これである。
 んなもんだから猟犬たちもさすがに秒で理解した。
 電気圧力鍋とダモクレスさんが合体しやがったな、と。
「2mもサイズがあるならいくらでも入りそうですよね」
「入れ放題っすね。肉とかほろほろ放題っすね」
「お腹いっぱい食べようね、ソラマル」
「――!」
 志保がくすりと笑いかけると、ソラマル(ウイングキャット)はパタパタと翼を動かしながら嬉しそうに鳴き声をあげる。
 完全に食いに行く空気である。
 猟犬たちの雰囲気が緩んだのを見て取ると、ダンテは改めて一同に説明をした。
「お察しのとおり電気圧力鍋にダモクレスがくっついてしまったっす! ひとけがないとはいえ市街地の中っすし、このままだと人々を襲いだすのは必至…………だから皆さんには圧力鍋調理で美味しいものを食べてもらいたいっすよ!!」
 文脈どうなっとんねん。
 そう思うしかなかった。
 人々が襲われるから美味しいもの食べてもらいたいって文脈どうなっとんねん。
「いや皆さんが心配してることはわかるっす。急に言われても食材なんて用意できないって話っすよね……でも安心してくださいっす! 現場に向かう途中に24時間営業の業務用スーパーがあるんでそこに寄ってくっす!」
 頼もしい顔で言いきるダンテ氏。
 どうやら電気圧力鍋パーリィに向けて食材調達の手筈は整っているらしい。横にいる志保も地図を映したスマホを掲げてなんか頷いてる。これ調べたの志保じゃね?
 しかしもう、何を言ったところで予定は変わらないのだろう。
 猟犬たちは諦めて財布の中身を確認した。圧力鍋といえば時短調理だ。しかもダモさんだから信じられねースピードで調理を終える可能性もある。
 たっぷり食材を買いこまなきゃですよね。
「さあ、それじゃ行くっすよ皆さん! とりあえずスーパーに!」
「きっと塊肉なんかも柔らかくほろほろに仕上がりますよね……何を買おうかな……」
 逸るようにヘリオンへ駆けてゆくダンテ&志保。
 かくして、猟犬たちはダモクレスを倒すためにまず業務用スーパーに向かうのだった。


参加者
陽月・空(陽はまた昇る・e45009)
犬飼・志保(拳華嬢闘・e61383)
ルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107)

■リプレイ

●ウッキウキ
 汗もかかぬほど涼しい、夏の夜の空き地。
 ひゅるりと吹く風の音しか聞こえないそこで、猟犬たちと巨大電気圧力鍋は向かい合っていた。
「ダモさん……」
「でっかいダモさん……」
「ナベェ……」
 悠然と見下ろすダモクレスへ、じりじりと距離を詰めるのは陽月・空(陽はまた昇る・e45009)とルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107)だ。
 その眼光は狩りをする者のそれである。
 敵の隙を見つけ、勝利を手にする――そう思ってるんだろうなとしか思えない表情で、2人は両手に持っていたブツを地面に置いた。
 がさりと擦過音を出すそれは、スーパーのレジ袋。
 レジ袋である。
「ダモさん、ダモさん、絶望とかしてないでこれ見て」
「いっぱい買ってきたのですが調理できるでしょうか……?」
「ナベーー♪」
 ダモさんが歓喜して空とルーシィドの見せる袋に食いついた。覗きこむと袋にはキャベツとか大根とか、塊の豚バラ肉とかがぎっしりである。加圧調理のやり甲斐ありそう感が半端じゃない。
「ナーベ♪ ナーベ♪」
「深夜のハイテンションは近所迷惑だよ、使って欲しかったら大人しく準備してて」
「ナベェ……」
 適当に調達したアウトドアテーブルに食材を並べる空が、左右にステップして浮かれていたダモさんを諫める。ダモさんはしゅんとなった。
「すぐ下拵えしますから、待っててくださいね」
「ナベェ!」
 同じくテーブルに食材をひろげていたルーシィドがにこっと微笑む。項垂れていたダモさんは元気を取り戻した。アップダウンが激しすぎる。
 犬飼・志保(拳華嬢闘・e61383)はがっつり重くなっているレジ袋を下ろすと、「あっ」と零してから袋の中の卵を取り出した。
「皆さんがまだ鍋を使わないんでしたら、先に卵の調理だけさせていいですか?」
「僕はいいよ」
「わたくしも構いませんわ!」
「私も別にいいわよ、犬飼さん!」
「ありがとうございます」
 即答でOKした空とルーシィド、そしてローレライ・ウィッシュスター(白羊の盾・e00352)に礼を言い、びーっと卵パックの封を剥がす志保。
 立派な卵を摘まみ上げて、志保はダモさんに差し出した。
「中の黄身は程よく半熟でお願いしますね?」
「ナベェ♪」
 ボディを傾かせたダモさんの開口部へ卵を入れる志保。すべて入れて蓋を閉じるとダモさんはピタッと静かになる。たぶん調理中だと思う。
「あの調子なら問題なく料理はできそうですね」
「聞き分けのいい鍋でよかったわね!」
 安堵する志保の背をぽむぽむするローレライ。
「でも圧力鍋なんて普段使わない……というか料理自体あまりやらないのでちゃんと作れるかは不安なんですよね。念の為、失敗できるように食材は多く買いましたけど」
「ふふ、大丈夫よ。きっと鍋のほうが良い具合にしてくれると思うわ! だからあの子たちみたいに気楽に構えましょ!」
 若干の不安を覗かせる志保に笑って、ローレライが横のほうを指差す。
 そこでは、テレビウムとウイングキャットが短い腕(前脚)で格闘していた。
 シュテルネとソラマルである。小さいのが互いにてしてししている姿は癒やし以外の何物でもなかった。
「ソラマル、暇だからって……」
「まあ料理してる間はやることないし、遊ばせときましょ! あ、そういえば私プリン買ってきたのよ。デザートに食べましょうね!」
 呆れる志保へプリンの入った袋をかざすローレライ。
 と、そのときだ。
「ナベェェー!」
 ダモさんが突然のハイテンションで、天へ叫んだ。
 うん、どうやら卵が注文通りの半熟に仕上がったっぽいっす。

●あれも美味い
 まな板に横たわる卵に、慎重に刃を下ろす。
 分かたれた断面から外界に放たれたのは――とろーっと見事な半熟の黄身。
「さすがダモクレスですね」
 ダモさんが煮た半熟卵の出来栄えに、志保は満足げに頷いた。鍋の中に放り込んだ卵はすべて数分と経たずに茹であがっている。どうやら調理し直す必要はなさそうだ。
「完璧な仕上がりですわ!」
「半熟卵ってどうしてこう美味しく見えるのかしらね!」
「ナベェ!」
 ルーシィドとローレライ、ダモさんがパチパチと拍手をする。そのツッコミどころ満点な喝采に礼を返しながら志保は半熟卵たちをボウルに収めた。
「ひとまず下拵えができたので、どうぞ鍋を使って下さい」
「あらそう? じゃあどうしようかしら……空さん使う?」
「なら使わせてもらおうかな」
 志保の言を受けたローレライがちらりと尋ねると、空が肉だねのみっちり詰まったロールキャベツをトレーに乗せてとことこ歩いてきた。
 食いしん坊ヴァルキュリアが黙々と下拵えしていたロールキャベツは見事な俵型だ。
 しかも50個ぐらいある。
「ダモさん、お願い」
「ナベェー」
 従順に開口部を向けるダモさんに、だーっとロールキャベツを投入する空。
 そこにコンソメをぶっこんで待つこと数分――。
 猟犬たちが囲むアウトドアテーブルには、猛然と湯気をたてる熱々のロールキャベツが出来上がっていた。
 そのひとつを口に入れた空は、何度も首を縦に振った。
「うん、くたくたに煮込まれてて、美味しい……」
「陽月さん! 私もおひとついいかしら?」
「あ、私も食べたいですロールキャベツ」
「あのー、できたらわたくしも……」
「いいよ」
 ばんざーい、と諸手をあげた女性陣が2秒とかからずにロールキャベツをぱくっ。
 スープが染みてひたひたのキャベツが易々と千切れる。その下にはぎっしり密度のある肉だねが待っていて、噛みほぐせば圧倒的な肉の味が口内にひろがった。
 つまり……単純に美味い。
「ロールキャベツも美味しいわね……」
「スープにも旨味がよく出てます」
「ん、いくらでも食べられそう」
 言葉少なに、ひたすらロールキャベツを食うローレライ、志保、空。
 それ単品でも十分に美味い品だったし、スープも染みてて食べやすかったので、3人は何の不満なくロールキャベツを食べ続けていた。
 だが。
「「「……?」」」
 3人が食べるのを止めて、すんすん鼻を鳴らす。
 なにか香ばしい匂いが漂ってきたのだ。やたらと腹が空いてくるそれが醤油の焦げる匂いだと気づいた3人はきょろきょろと辺りを見回した。
 けれど探すまでもなかった。
「焼きおにぎりを用意しましたわ! 醤油を塗ってフライパンでジューっと!」
 どんっ、とルーシィドが大皿をテーブルに置く。
 その衝撃でこんもりと重ねられていた焼きおにぎりの山の頂がごろりと崩れた。焼きたてのおにぎりの強烈なインパクトに、猟犬たちの胃袋もついつい期待でキュッとなる。
「ダモさんで炊きましたから、お米も最高に美味しいですわ!」
「これを……食べていいのかしら!」
「もちろんです!」
 ぱぁぁ、と顔を明るくするローレライに即答するルーシィド。その許可を貰っては食べずにいられないとばかりに3人は焼きおにぎりに殺到した。
 ゴマのちりばめられた焼きおにぎりは、米自体もしっかり味付けされていてどこを食べても美味い。外はカリッと香ばしい醤油味が楽しめて、中にはふんわり優しい味わい。
「これはいいですね……」
「うん……」
「冷たいお茶もありますから、皆さんどうぞ!」
 おにぎりもぐもぐして陶然とする志保と空の前に、さっとお茶セットを並べるルーシィド。キンキンに冷えたそれを飲めば舌がリセットできてさらに食事を楽しめるって寸法だ。
 志保も空も、その細心の気配りに感服するしかなかった。
「これは食が進んじゃいますね」
「うん。これは食べるしかないよ」
「ですわー」
 お茶を片手に焼きおにぎりを取っては食べ、合間にスープしみしみロールキャベツをもぐっと頬張る志保&空&ルーシィド。
 そんな3人は、しかししばらくして気づく。
 もりもり料理を食べていたローレライの姿が、テーブルの輪にないことに。
「さっきまでいたはずだけど……」
「どちらに行かれたのでしょう?」
「まあ可能性があるのは鍋のほうですけど……」
 口をもごもごさせながらダモさんのほうを振り向く3人。
 すると案の定、ローレライがいた。
「ナベェー」
「ダモさん、ご苦労様」
 というか何か煮込んでいたものをダモさんから取り出していた。
 ごろりと、小さめの岩のようなサイズのそれは――。
「お待たせ! 私はローストビーフを作ってみたわ!」
「「「ローストビーフ」」」
 がたっ、と反応する3人。
 るんるんと上機嫌で牛肉を運んできたローレライは、それをテーブルのまな板に置くなりスッスッとスライスした。
 程よい厚みに切られた肉は、美しいロゼ色に仕上がっている。
「これは……完璧なローストビーフですね」
「実はこのローストビーフは父からの秘伝だったりするのよ! 味は、多分太鼓判じゃないかしら!」
 鮮やかな色に舌を巻く志保にローレライがドヤぁと胸を張る。それを横目にルーシィドと空は切り分けられて折り重なったビーフたちに釘付けだ。
「お父様の秘伝……!」
「それは絶対美味しいね。美味しくない秘伝はないよ」
「さぁさぁ、食べちゃいましょ! シュテルネもソラマルちゃんもほらほら!」
 ごろごろレスリングしていたサーヴァンツを手招きしながら、お先にはむっとローストビーフを頬張るローレライ。
 舌に触れた瞬間、体の芯を突き抜ける旨味。
「美味しい……」
 秒もかからずふにゃんと下がるローレライのエルフ耳。
 それを目の当たりにした仲間たちは、もちろん光の速さでローストビーフに食いつくのであった。

●これも美味い
 数分後。
「みんなで鍋を囲むとどうして楽しいのかしらね! もしかしてダモクレスの巧妙な罠にかかってるのかもって気もしてくるわ……」
「はっ!? でしたらわたくしたちはもう、敵の術中に……!」
「美味しい料理で釣るなんて卑怯。そんなことされたら抗議しないと……」
 猟犬たちはたわいない会話をしながら、絶賛食事を楽しんでいました。
 罠とか術中とか卑怯とか言ってるけれど、ローレライもルーシィドも空も料理を食べる手を止めることはありません。機械人形のように動きつづけています。ちなみに今はローレライが作ってくれたビーフカレーを食っています。
 スプーンでひと掬いしたそれの強烈な味にルーシィドは頬を綻ばせた。
「お肉がほろほろですわー」
「電気圧力鍋ってこんなに美味しく調理できるのね……私も買おうかしら?」
「またローストビーフとビーフカレーを作るときは呼んでほしい」
 とうとう自宅キッチンでの置き場とか真剣に考えはじめたローレライに、マジ顔で言ってのける空くん。しかも結構ガチで言ってるからね。めっちゃ期待でキラキラしてる目をローレライに向けてるから。
 と、そんな感じでワイワイしてる一方。
 ダモさんの傍では、志保がレシピのメモを片手にクッキングに励んでいた。
「ここで豚肉を一口大にカット、と……」
「ナベェ」
 ダモさんが温かく見守る中、即席の調理台の上で下茹でした豚バラ肉(塊)をたどたどしい手つきで切ってゆく志保。
「茹で汁は捨てておいてもらえますか?」
「ナベェ」
 志保に言われるまま茹で汁を排出するダモさん。
 空になった内部に切った豚肉を戻すと、志保はジンジャーエールと料理酒、種を抜いた梅干し、薄口醤油と例の半熟卵を入れて蓋を閉じた。
 で、やはり待つこと少し。
「知人直伝、豚バラ肉の梅煮です!」
 どんっ、と自信ありげな調子で志保が大皿を持ってきた。彩りに絹さやも添えられた豚バラの梅煮はもうもうと湯気をあげているが、不思議とその匂いに重たさは感じない。
「何だかさっぱりしてそうね!」
「夏にはよさそう」
「暑い時期はおすすめですよ」
 興味ありげに覗きこむローレライと空の前で、ぱくっと豚バラを口に運ぶ志保。
 メモを見ながらの料理の出来は……百点だった。
「……口の中で豚肉がほろほろと溶けて、梅干しとジンジャーエールの風味が鼻を抜けていく。これですよこれ」
「煮卵も美味しいわね!」
「ん、美味しい……」
 梅煮の軽い味わいに舌鼓を打ち、2つ3つと口にするローレライ&空。
 そこへ、ルーシィドは新たな皿を持ってきた。
「犬飼様は梅干しをお使いになったようですから、わたくしは王道の角煮を作ってきましたわー」
 ニコニコと歩いてきた眼鏡っ娘が卓上に出したのは、豚の角煮である。圧力鍋と言えばまず1番に上がりそうなそれは魅惑の照りを放っていた。
「弱火でじっくり煮込んでもらいましたわ! お肉はもちろん、人参や大根もほろほろです!」
「ん、お肉柔らか……」
「お箸が止まらないわね!」
「がつんと来るこの味もやっぱりいいですね」
 仲間たちの箸が伸びては引っ込み、引っ込んでは伸び……豚の角煮は圧倒的速度で嵩を減らしてゆく。
 ルーシィドも慌てて角煮を食べて、ほろほろの肉に幸せを感じた。
「ホントはお酒も持ってきたかったんですけど……お仕事ですものね。我慢我慢!」
「そういえば、お仕事だったね」
 もぐもぐ頬を動かしながら思い出したかのように言う空。
 彼はしばし考えこむと、ぱたぱたとダモさんのところに走っていって、やがてゆらゆらと白い蒸気を昇らせる容器と一緒に戻ってきた。
「コンソメスープ作ってきたよ。余ってたキャベツとか、皆が使って残ってたお野菜とか入れてきたけど……お酒代わりにどう?」
「わざわざ作ってきて下さるなんて! 陽月様、ありがとうございます!」
「ううん、もともと作るつもりだったから。気にしないで」
「コンソメスープ! 私もいいかしら?」
「私もスープは欲しいですね。いいですか?」
「もちろん。みんなの分、作ってあるから」
「ナベェ」
 人数分のコンソメスープを並べる空。
 それを遠目に眺めながらダモさんはウンウンと頷いていた。
 団欒の食卓を作れた――そのことに、きっと満足感を抱いているんだと思います。

 が、現実ってやつぁ厳しいんすよ。
「ダモさん、ごちそうさまでした。とても楽しいお食事会でしたわ!」
 空き地に虚しく散乱した残骸に、ルーシィドがぺこりと頭を下げた。
 仕事ですからね、うん。
 そら倒しましたよね。ケルベロスとして。
「じゃあお仕事も済みましたし帰りましょうか」
「そうですね」
「食材を買ったお金って……経費で落ちないかな?」
 プリン(ローレライが買ったやつ)をぱくぱく食べながら、何事もなかったかのように帰り支度を始める志保とルーシィド。スーパーでのレシートをしっかり確保している空くんは意外としっかりしている。
 粛々とテーブルやら食器やらを片付ける猟犬たち。
 それを尻目に、ローレライは本日の料理をいくつかをタッパーやらに包んでいる。
「美味しかったし、あの人にも食べさせてあげなきゃね」
 料理ごとに分けたタッパーを重ねて、くすっと微笑むローレライ。
 仲間たちの料理を食べて「美味しい」と笑うさまを想像しながら、彼女は思った。
「やっぱり、圧力鍋買っちゃおうかしらね」

作者:星垣えん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年7月22日
難度:普通
参加:4人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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