ケルベロスが事件の起きそうな場所を捜索するのは良くあることだ。
前の事件のついでであったり、ちょっとした旅行のついでであったりと差はあるが。
「この辺りで何かあるとすれば、ここですか? 他にも……」
影月・銀(銀の月影・e22876)は通りがかった森を大まかに撮影していた。
直感であったり、今までの事件で出現した場所などを参考に、県道の上などからパパっと撮影していく。
「そこですか。ひとまず終わりですね」
そうやって撮影した場所も、たいていは何事もない。
だが……中には本当にナニカが現れることもあるのだ。
『うぃーんういーん。ウ・イ・ン・ドー!!』
バラバラと猛烈な音を立てて、森陰からナニカが飛び出した。
周囲に烈風をまき散らしながら移動するそれは、扇風機にも似ていた。
それにしては大きく、その風速はすさまじかったけれども……。
●
「ここは行ったことがありますね」
「はい。残念ながらダモクレスの事件が起きてしまいます」
銀が思い出しながらつぶやくと、セリカ・リュミエールが頷いた。
「このパターンはどちらです? 街も近いので7mの方もあり得ますが……」
「いえ。廃棄家電の方ですね。誰かが捨てて行ったようです」
そこは県道から投げやすかったらしく、森の中には家電製品や色々なゴミが捨てられているらしい。
今回はその一つが廃棄家電型ダモクレスとなったようだ。
「今回の敵は扇風機がダモクレス化したようです。随分と大型で風が強いので、工場用の扇風機でしょうか」
「まあ捨てるにも運ぶにも邪魔だしな。電気代だって大きいなら馬鹿にならねえだろ」
「いつもの事とはいえ悲しくなるね。ところで能力はどんなものかな?」
ケルベロス達はセリカの言葉に頷きつつも、能力の説明を待った。
「基本的には風で攻撃しますが、格闘攻撃が最も強力な様です」
あくまで形状は参考程度なので、ダモクレスが良く使う技や武器のグラビティが多いとの事だ。
風で牽制したりブレードで切り刻んだりするとのことである。
「罪もない人々を虐殺するデウスエクスは、許せません。被害が出る前によろしくお願いしますね」
「スケジュール次第ですが、了解しました」
「任せとけって」
「その通り~」
セリカが軽く頭を下げて出発の準備に向かうと、銀たちは予定を確認したり、相談を始めるのであった。
参加者 | |
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ウォーレン・ホリィウッド(ホーリーロック・e00813) |
影月・銀(銀の月影・e22876) |
美津羽・光流(水妖・e29827) |
佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969) |
●
山間の道から見下ろすと、そこには森があった。
途中で一同が辿った道筋も、クネクネ曲がっている間に隠れてしまう。
「確かこの辺りのはずですね」
過去に訪れたことのある影月・銀(銀の月影・e22876)は、以前に確認した時の記憶と照合する。
そして候補として提出した写真を取り出し、一枚一枚確認し始めた。
「物を捨て易いってことかな。せっかくの景色なのに残念だよね」
「せやな。山の上なんやけ、もうちっと風でも吹けばありがたいんやが……。そこは敵さんに期待やろか」
ウォーレン・ホリィウッド(ホーリーロック・e00813)の言葉に美津羽・光流(水妖・e29827)は頷き、むせそうなほどの暑さをうっとおしそうにした。
むせるなら良い香りの方が良いし、暑いのは風呂とか酒くらいにして欲しい。
もっともそれは一緒に何かする相手に合わせればの話で、光流としては川の中や冷たい酒の方が慣れているのだけれど。
「寒い国育ちやけ、この暑さはこたえるわ」
「気持ちは判りますが、もう少しだけ我慢してください。それに良いこともありますよ? 人が来なければ巻き込む心配がなくなる」
光流がパタパタと手で仰ぐが、それで風が吹くはずもない。
その間に銀は周囲の確認を済ませる。
「誰も居ないとは思いますが、念のために閉鎖しておきます。……本当は誰も投げ捨てないのが一番なんだがな」
そして銀は殺意の結界を広げ、誰も立ち入らないようにしておいた。
その際に森を汚す人々の事が脳裏に浮かんでしまうのは、自身がシャドウエルフだからなのだろうかと思わず苦笑する。
ここから相手を探しに行っても良いが、敵は町を目指すのでここで待ち構えていればスレ違いがない。
やがてガサガと音がして、ナニカが道の上に上がって来る。
『うぃーんういーん。ウ・イ・ン・ドー!!』
バラバラと猛烈な音を立てて、森陰からナニカが飛び出した。
周囲に烈風をまき散らしながら移動するそれは、扇風機にも似ていた。
それにしては大きく、その風速はすさまじかったけれども……。
「ヘリ……? にしては小さいかな。まあいいや倒しちゃえば」
佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)はイケメン三昧の光景に見惚れていた。
しかし敵が現れて気が付かないほどではない。
だが一人はイケメンの女性であり、男ではないと気が付かない程度にはポンコツであった。
「この辺、なーんかじめじめしてて嫌ね。はやく片づけちゃいましょっ。滴るのは水だけで十分よ!
「夏とはいえサボってはおられへんからな。暑いのは好かんし速攻や!」
レイが足を留めて集中を開始するが、光流は敵味方のグラビティが集う前に動き出した。
そして指先に力を込めて先に解き放つ。
「扇風機相手やったらちょっとは涼しいかもしれへんと思うたんやけど、全然そないなことあらへんかった。このイライラは全力でぶつけさせてもらうで!」
光流はオールバックに成りながらイメチェンする気はないぞと抵抗する。
そして弾いた指先から放たれた手裏剣がねじり込むようにしてダモクレスに突き立った。
『ふぃーん!』
「このイケズが! 許さへんで!」
ダモクレスは刃のようなファンを回転させながら突っ込んできた。
光流には攻撃されなかったもののウォーレンに命中してしまい、むしろ怒りが掻き立てられる。
相手よりも先に攻撃できたのに、今すぐ反撃できない事に腹が立ったのは久しぶりだ。
「まずは牽制からね。みよ、この美脚アタック!」
レイは走りながら敵を蹴りつけて、すかさず蹴り飛ばしてグラビティで敵を縫い留めた。
重力の影響で浮いているはずの一瞬だけ敵が沈むが、このていどで動きを止めるはずはない。
足に誰を攻撃しようか考え始めたようだ。
「……そうはさせん。俺も戦闘自体には参加しよう」
「っ!? イケメンが増えた♪」
銀は幻影で自身の姿を増やし、傷ついた仲間の前に展開した。
分身とはいえイケメンぶりに変わりなく、レイは目がハートマークになりそうな勢いで応援する。
そうだ直ぐ隣に本体が居るんだしとウハウハだ。
それはそれとして戦いは続く。
敵は豪風を吹かせ始めた。
『ぶるーん。どるる……』
「そその前にこれでも食らったらんかい。……西の果て、サイハテの海に逆巻く波よ。訪れて打て。此は現世と常世を分かつ汀なり」
光流が愛刀の刃に指をはわせると、スっと赤い雫が流れ出た。
指の傷と零れ落ちた血に呼応して、空間が割けて仄暗く冷たい海水が溢れ出す。
そして血の着いた指先を振るって波を描くと、あふれ出した水は波となって戦場を走った。
『ぶるーん!』
「っ!?」
そのまま水量で地面に叩きつけようとしたところ、ふわっと光流の全身が浮いたような気がする。
同じ様に吹っ飛びかけたウォーレンと手を取り合って、何とかバランスを取って着地した。
どうやら微妙にすれ違うことで、相殺ではなく時間差で攻撃し合ったらしい。
「あぁ…。いいわ。なんであそこに居るのがあたしじゃないの!? しまったわー。あそこに居れば一緒に空を飛んだり、守ってもらって……もしかしたらお姫様抱っこまでされちゃうかも!?」
レイは想像が逞しい子なのか、キャーキャー妄想に浸っている。
あえていうならば、男同士が手を取り合った時に、自分の姿を重ねる程度には健全であった。
「おっとっとと。次の攻撃よね。あたしの華麗なる銃技みせてあげるっ」
正気に戻ったレイはライフルを構えると今の季節にぴったりの冷凍光線を放った。
最初は僅かに凍り付く程度だが、時間が経てばたつほど効いてくると信じたい。
「火力が高く無いのが幸いだが……あの浮力は脅威だな。まずは一人ずつ行くか」
銀は仲間たちの傷を確認していく。
傷そのものは深くないが、衣を裂かれたり浮足立つようにグラビティで影響を受けているのが面倒だ。
こうして序盤は押され気味ながら、相手が火力型や防御型ではない事もあり何とか持ち直した。
そしてある程度の時間が経った後……。
「こんなクソ暑い中で長期戦なんかやってられるかいな! 早よ終わらせたる!」
長引く戦いに焦れて来た光流は、愛刀に指をかけ一気に引き抜いた。
そしてグラビティを集め始めてりう敵に向かって突進する。
『ブル……ぶるる』
「その前にこれ食らえやあ!」
光流は腰を落として重心を低くし、飛ばされないようにしながら急接近。
力いっぱいに右手で刀を差し込み、ダモクレスのバランスを崩そうとする。
インパクトの瞬間に腰を跳ね上げて突き入れ、左手を添えて深く突き刺した。そのまま腰を回転させて片足を抜くことで、相手の重心を下に下げようとしたのである。
『ぶーん!』
敵はこちらに盾役が居ない事から、遠慮なく前衛陣を攻撃し続けている。
風で動きが止まれば戦い易くなると思っているのだろう。
「あっ。また来た。でも……今回は無事みたいね。でも飛ばないのはなんだかそれはそれで残念」
だが敵が吹き上げる旋風にも前衛陣はフワっと浮かぶだけで済ませた。
レイはその様子をチャンスだと思うと同時に少しだけ残念に感じる。
そういえば風を受けると言えば、せっかく蒸れるのを覚悟してパンツルックで来たのに惜しい。
これだったらスカートでふわっとめくれあがって、きゃっと。かわいらしく悲鳴を上げて、イケメンと視線が合う方が良かっただろうか。
「すまないが攻撃を頼む。こちらもそれに合わせて様子を見るので」
「わ、判ってるわよ。……ふふーん♪ ぼっこぼこにしてあげるんだから!」
銀兄貴(実はネキ)に促されてレイは喜び勇んで攻撃を再開した。
パンツルックなのを良いことに、足を大きく広げて大ジャンプ!
「いくわよートルネード投法!!」
レイは空高くに舞い上がると、懐から取り出したデリンジャーをぶん投げる!
投げつけられた拳銃はクルクルと回転し、ゴツンとダモクレスの名kない飛び込んだ。
ガラガラとファンが拳銃にぶつかって削れていくのは、地味に痛いかもしれない。まあ小指をタンスの角にぶつけた時くらいだろうか?
「……累積している影響が残っているくらいで、今回はあまり負荷を受けなかったな。ようやく効いてきたか」
リボルバーが飛んでいったのを見なかった事にして、銀は冷静に戦況を観察した。
一時的に押されはしたものの、防備を固めた事で徐々に負荷を受ける確率は減っている。
最初はかなり高い確率で受けたが、今ではまったく受けないこともあるくらいだ。先ほどは二人同時に受けたので受けた者も居るが、累積でなければそれほど支障はなかっただろう。
「とはいえ治療できない傷も増えて来た。早めに何とかしたいものだ」
銀はそういうと足元から風を吹かせた。
薫り高い風が吹き、清々しさが仲間たちの負荷を取り払っていくかのようだ。
そこで分水嶺を越えたかと思ったが、なかなか勝利の天秤はケルベロスの方に傾かない。
やはり盾役がいないのでダメージや負荷を直接受けてしまうのと、攻撃重視とはいえ四人しかいないためだ。
「薬も過ぎれば毒……逆もまた然り。……ふう。今のところ何とかなってはいますが……キツくなってきましたね」
「治療ありがとさん。……治しきれん傷がチョイチョイ溜まるのは大変やな」
銀は特性の修復薬で光流を治療を開始した。
DNA自体を螺旋の力で精製し、毒薬が持つ異常活性化も用いることで一気に治療する。
だが表面的な傷は癒せても、体力までは戻せない。敵の攻撃を受けるたびに、直しきれない傷が少しずつ蓄積しているのだ。
「せやけどここで参るわけにはいかんで。こっちが厳しい時はあっちも同じや。先に削って倒しきったる!」
光流はちらりとウォーレンを眺めるが、微笑むだけで口数が少なくなってきている。
向こうも相当に疲労がたまっており、心配かけまいと何も言わないのだろう。だからこそ早く倒して水浴びにでも連れて行こうと奮起したのである。
「暑さ倍増やん……何で俺は炎なんか使ってもうたんや」
カカト落とし気味に強引な蹴りを浴びせ、摩擦で炎を食らわせた。
だが目に見えて火が付く姿はうっとおしく、思考が乱雑気味になっているなと苦笑した。
「暑い……暑いわ。イケメンな兄貴で一杯。兄貴兄貴兄貴と私が居て兄貴が居て……。いけないそういえば分身だった。早く倒さないと」
イケメンの分身体に囲まれて逆ハー状態だったレイは悲しいけれど夢のような時間を終わらせることにした。
いつまでもイケメンを見て遺体が、グロッキーで倒れるようではいけない。
冷凍光線を浴びせて炎に対抗するのであった。……ちなみに炎は味方が付けたもので、相手のパワーUPではないと気が付いたのはその後である。
「後もう少し。後もう少しだけ支えなければ……。あるいはいっそ、こちらに攻撃してくれれば一息つけるものを」
銀は一瞬だけ自身も攻撃するかどうかを悩んだが、あくまで治療優先で行こうと思い直した。
元より相手もまたボロボロなのだ。
あと一息と信じて、薫り高い風を吹かせて先ほど放たれた真空波の傷を癒す。
『ででで、デットリー・ブレイィ!』
「ちょーっと待ってんか! これで……しまいや!」
ダモクレスが体当たりを掛けようとしたところで、光流はバットのように刀を構えた。
そして勢いのままに切りつけると、僅かな差で光流の方が先に直撃する。
その一撃は炎や氷を一瞬だけ舞わせた後、真っ二つに切り割いたのである。
「あーしんど。換気扇の方が愛嬌があったな」
光流は深いため息を吐いて、相手の体当たりで切り割かれた服をパタパタとする。
ムワっとする汗が気持ち悪い。
「あかんシャウトしか持ってきてへん。肉体労働するしかあらへんか」
「こちらの見つけた敵です。俺の方で修復しておきましょう」
光流の言葉に銀が手を上げ、周囲に風を吹かせて修復を始めた。
「これってこっちでいいの?」
「せや。残骸は一か所にまとめて、壊れたガードレールは持ち上げて修復し易くしたるんや」
レイが尋ねると光流は丁寧に教えてあげた。
そしてしゃがむと切り裂かれたガードレールを持ち、それをウォーレンが手伝って霧で覆っていく。
「お疲れ様です。森の方で何か燃えたりしていないかは、俺が確認しておきますね。今回はありがとうございました」
「お疲れさん」
「お疲れ様だね」
「お疲れさまー」
銀は仲間たちにねぎらいの声をかけた後、不法投棄されたゴミを片つけようかと森の方に向かってジャンプした。
スタっと着地して奥へ奥へと向かっていく姿を見て……。
「ああ!? しまったわ。ご一緒します―とか言えば公然とデートできたのに!」
最後の最後まで懲りないレイを見て、サキュバス二人組は顔を見合わせると微笑み合った。
暑くて傷も多く疲れはしたが何とかなった。
かえってシャワーでも浴びたいとか言いながら、ケルベロス達は帰還したのである。
作者:baron |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2020年7月20日
難度:普通
参加:4人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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