作者:星垣えん

●Wind
 うだるような暑さだった。
 正午の草原は、陽を遮るものもなく目が眩むほどである。あまりの明るさに地面の草の緑もぼやけて見える。そしてその緑に照り返される陽光もまた暑い。
 さながら、蒸し風呂だ。
 そんな地獄のような夏の草原に、1台の扇風機が捨てられていた。
 草葉の上に無造作に置かれたそれはひどいボロで、一見しただけでもはや機能が失われているだろうことを察することができる。羽根はすっかり砂や埃にまみれているし、支柱には伸びた植物が巻きついている。
 捨て置かれて久しい扇風機は、じっと陽に照らされるままだった。
 だがそこに、空からふらーりと極小の物体が――ダモクレスが降ってくる。
 毎度毎度、電化製品にとりついてはキャッキャする迷惑者は、期待に違わずボロの扇風機に吸いこまれた。途端、扇風機がぶるぶる震える。
 で。
「フゥゥゥーーーーーーーーーー!!!!」
 扇風機さんが復活した。
 それもただの扇風機ではない。
 ダモクレスさんのすげぇパワーによって全長3mぐらいに巨大化し!
 汚れたボディはピッカピカになり!
 2本の脚が生えてシャカシャカ歩き出し!
 ヘッドに至っては4つに増えて全方位に風を送れるようになったスーパー扇風機だ!
「Fooooooooooooooooooo!!!!」
 テンション爆上げで叫び、ぶおーーーんと風を吹きまくる扇風機さん。
 そのまま彼はしばし立ち止まり、自由に風を出せるようになった喜びをかみしめた。

 凄まじい勢いで揺れる草の中、ぽつんと立っている彼の姿は、かなりシュールだった。

●役立つ季節になってきました
「扇風機ですか」
「扇風機っす!」
「この時季はありがたいですよね」
「そうっすね!」
「ところで扇風機を用意していただいてありがとうございます。助かりました」
「どういたしましてっす!」
 クッソ暑いヘリポートで、羽鳥・紺(まだ見ぬ世界にあこがれて・e19339)と黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)は扇風機に当たりながらかなりどうでもいい話をしていた。
 1台の扇風機を首振りさせ、この猛暑の中で待っていたのでしょう。
 なぜ室内で待機していなかったのか――と思うしかねぇ猟犬たちでしたよ。
「あ、皆さん御足労どうもっす! 実はっすね……」
 一同の姿に気づいたダンテがかくかくしかじかと説明する。
 草原に爆誕した扇風機ダモクレスの破壊、が本日の依頼だった。
 今んとこ何ら被害は出ていないが、放置すればいずれグラビティ・チェインを得るために人を襲うのは必至。そーなる前にやっちまおうって話である。
 が、そこで横にいる紺が口をひらいた。
「破壊することはそう難しくないと思います。けれど長いこと捨てられていた扇風機を思えば、すぐに壊してしまうのも忍びないです。ですからここはせっかくなので涼んでくるべきだと思うんですよね」
「そっすよね。自分もそう思うっす」
 表情ひとつ変えず言ってのけた紺に賛同するダンテ。
 なるほど、とここで猟犬たちは今回の真の仕事内容を察した。
 涼んでくるんだな、と。
 巨大化してパワーアップした扇風機さんで涼んでくる仕事なんだな、と。
「扇風機はヘッドも4つに増えてるっすから、きっと満遍なく皆さんに風が行き渡るはずっす! おまけにでかいっすから風量も相当なはずっす!」
「最近暑い日が続いてますし、たまにはこういうのも必要ですね」
 うむ、とばかりに首を肯かせるダンテと紺。
 かくして、猟犬たちは夏の草原に佇む巨大扇風機に会いに行くのだった。


参加者
ムギ・マキシマム(赤鬼・e01182)
片白・芙蓉(兎晴らし・e02798)
羽鳥・紺(まだ見ぬ世界にあこがれて・e19339)
ウィルマ・ゴールドクレスト(地球人の降魔拳士・e23007)
涼風・茜姫(虹色散歩道・e30076)
山科・ことほ(幸を祈りし寿ぎの・e85678)
 

■リプレイ

●強敵
「Fooooooooo!!」
 晴れ渡る草原に、軽快な音声が響く。
 猟犬たちが駆けつけたとき、ダモさんはもうすげえ昂ってた。
 右に左にと走るダモさんの風を受けた羽鳥・紺(まだ見ぬ世界にあこがれて・e19339)が、乱れる髪を押さえながらムギ・マキシマム(赤鬼・e01182)の顔を見上げる。
「大変です、とても大きな扇風機の出現です。ムギさん」
「あいつが被害が出す前に俺たちで止めてやろう、紺」
 大きな手を紺の肩に乗せるムギ。
 その手に自分の手を重ねて、紺は少し微笑んだ。
「私はか弱く繊細なので戦いは不安ですが、ムギさんが一緒なら頑張れます」
「任せろ。何かあったら俺が守ってやるさ」
 見つめあってしまう2人。
 何となくシリアスな空気である。まるで重大な戦いに臨むかのような、とても巨大扇風機が数十m先をがっしゃがっしゃ歩いてるシーンではなかった。真面目にお仕事しに来たと見えなくもない感じだった。
 だが安心してほしい。
 紺とムギのほんの少し横では――。
「やだーーッおヤバーーい! ねえねえねえ紺! あれかなり景気良いわねーーっ!」
「ハロゲンヒーターじゃなくて本当に良かったー! あざます!」
 片白・芙蓉(兎晴らし・e02798)と山科・ことほ(幸を祈りし寿ぎの・e85678)が全力ではしゃぎ倒していました。芙蓉ちゃんは跳躍が激しすぎてロップイヤーがぴょこぴょこしてるし、ことほちゃんは神的な何かに両手組んで感謝してた。
「この季節にファンヒーターとか来ちゃってたら地獄み深いよね……あっ、でも乾燥と日焼けには気を付けよう」
「フフフ乙女の嗜みってやつね!」
「今日は紫外線も強そうだからなぁ」
「日焼け止め持ってくればよかったですね」
 ハッと気づいたことほの一言で紫外線トークを始める4人。
 よかった。シリアスな空気なんてどこにもなかった。扇風機ダモクレスが出たと聞いて真剣に仕事しに来るケルベロスがいるはずなかったんだ。
 ほら、視線をダモさんのほうに移してみれば――。
「――ここらへんでいいっすかね」
「Fooooooo!」
「あーちょうどいい感じっす。その調子で頼むっす」
 草の上にぴろーっとブルーシートを敷き、そこに座って涼風をくらっているシルフィリアス・セレナーデ(紫の王・e00583)の姿がありました。
 そして、じっと正面から風を受けるウィルマ・ゴールドクレスト(地球人の降魔拳士・e23007)の姿も。
「くっ……も、ものすごい風です……こ、これでは近づけま、せん……」
 何てプレッシャーだみてーな台詞を吐くウィルマ。風でホワイトブロンドの長髪はめっちゃ暴れてるのになぜか目元を隠す前髪だけは下りたままである。
「もうちょい強くするっすか?」
「そうですね」
「Fooooo!」
 シルフィリアスの提案にこくりと頷くウィルマ。
 だが2人がスイッチ類を操作していると、
「これ、試してみよ?」
 涼風・茜姫(虹色散歩道・e30076)が、何やらデカいブツを持ってよたよた歩いてきた。
 小型の冷蔵庫ぐらいありそうな大きさで、キラキラ透明に輝くそれは――。
「氷じゃないっすか」
「いつの間に……そんなものを……」
「扇風機の前に氷を置くと、冷風になるって聞いたから、おっきなの買ってきた」
 ダモさんの前にタライを置き、そこにごつんと氷塊を置く茜姫。
 氷を撫でて届いてくる風は、言わずもがな最高の涼しさを3人に与えてくれた。
「涼しい、ね」
「これはいいです……」
「凄まじい攻撃っす。今回も大変な戦いになるっすね」
 ぶおー、と吹く風で涼む茜姫とウィルマ。その横でシルフィリアスはばりっとポテチの袋を開け、ナチュラルに携帯ゲーム機を起動する。

 完全に、やる気です。

●涼しいっていいよね
「セレナーデさん、そのポテチ貰えますか?」
「いいっすよー。たくさん持ってきたから好きに食べていいっす」
「ありがとうございます」
「やっぱ扇風機にはポテチっすよね」
 一袋のポテチを挟んで繰りひろげられる、紺とシルフィリアスののんびりトーク。
 草原に敷かれた大きなビニールシートの上は、ありえへん空気の緩さだった。そこかしこからポテチを食べるパリパリ音が聞こえてくるほどユルユルだった。
「Foooooo……」
 おまけに敵の声も緩い。ダモクレスの威厳とか全然感じられないぐらい緩い。
 極楽。
 巨大扇風機から涼しい風が供給されつづける草原は、明らかに極楽だった。
 紺の隣でどっかり胡坐をかくムギの眉根が、腕組みしながら唸る。
「う~む、ダモクレスを前にこんなお気楽でいいのかと若干心配にもなるが……」
「ムギさん。ムギさんもポテチどうぞ」
「まあうん、たまにはこういうのもいいよな」
 差し出されたポテチを紺の指からぱくっと受け取るムギ。一瞬で心配とか吹き飛んでる彼は細かいことは気にしない男だ。だいたい筋肉で解決する男だ。
「さて、それじゃゲームに戻るっすか」
 ごろん、とうつ伏せで腕を立てた状態になるシルフィリアス。
 ポテチ食ってゲームする。自宅スタイルで楽しめる環境に彼女はかなり満足していた。
「クーラーが利いた部屋もいいっすけどたまには風にあたるのもいいっすよね」
「そうですね~~……」
 ぶぅぅぅーん、と放たれるダモ風に顔を寄せていたウィルマが頷く。
「あ゛~~~……日本の気候、は、気温はまだ、しも、湿気が強すぎて……でもクーラーは、逆に空気が乾燥、して、しまって……」
「遊べて楽しい。エアコンが幅を利かせようと、扇風機が廃れない理由ですね」
 扇風機に喋るとゆー小学生ムーヴをキメているウィルマの姿に、紺がうんうんと納得した顔で首を肯かせる。
 そう、扇風機は風をメインに据えているので遊び方は豊富。
 さりげなく話を聞いていた芙蓉は、くっくっと肩を揺らした。
「フフフ。ダモクレスの仕業とはいえ扇風機そのものはお無害さま。存分に楽しんでやるのだわヒャアーーッ」
「冷たいミスト発射ー! どう、芙蓉さん涼しい? 涼しい?」
「最高に涼しフワアアァァーーッ」
 ことほが霧吹きで放ったミストが風に乗り、芙蓉の全身をさらう。ぷしゅぷしゅ追加されるミスト風をくらう芙蓉はその場でパタパタと足踏みした。超楽しそう。
 もうね、両腕をひろげるぐらい楽しそう。
「ククク全身に冷感スプレーを吹かしたいまの私には、あらゆる風が最高に『キマる』ってワケ……」
「そんなものまで使っているんですか」
「今日の私は色々と抜かりないわ! もちろん定番も外さないしね!」
 今日イチのドヤ顔で紺に言い放った芙蓉が、しゅたっと扇風機前に正座する。
 そして、すぅ、と息を吸う。
「……可愛くって! ごめんなさい゛! 私よ゛ーーー!」
「これは……外せないですよね゛……」
 震える声で会話する芙蓉とウィルマ。
 小学生が新たに増えた瞬間だった。
「我々はー! 宇宙人ダア゛ーーー!」
 しかもすごいうるさい。いつ呼吸してるんだろうってペースで喋り続けてるからすごいうるさいのが風に乗ってくる。
「賑やかに、なったね」
「まあ芙蓉さんですからね」
 あーあー言ってる芙蓉の後ろ姿を眺める茜姫と紺。その後方で静かにしてるのは崑崙(茜姫のボクスドラゴン)と梓紗(芙蓉のテレビウム)である。並んで風で涼んでるんですけど控えめに言っても可愛い。
 と、そのとき。
「あ、そういえばこの氷、食用なんだって!」
 思い出したように茜姫が立ち上がった。ごそごそと荷物を探った彼女は使い捨ての容器とスプーン、シロップ類をぱぱぱぱっとシートの上に並べだす。
「用意がいいですね」
「うん。夏を楽しむ準備、完璧だよ」
「わーっ、かき氷? 私も食べたーい!」
 感心する紺に、気持ち胸を張る茜姫。会話をしっかり聞きつけたことほはダッシュしてきて早速その気満々だ。一緒に来た藍(ライドキャリバー)も心なしか弾んでる気がする。どうやって食べるというのか。
 茜姫はかき氷機まで取り出して置くと、すすっとタライに置いた氷に近づいた。
 そして、ぺたっと氷に触れた。
「氷、とっても大きい、よね。丁度いい大きさに削ったりも必要、かな?」
「そうだねー。私も手伝うよー」
 振り向いてきた茜姫の視線を受けて、小走りでやってくることほ。かき氷にありつきたいオウガ娘はぐっと服の袖をまくる。
 まだまだ当分、戦う気はねえようだぜ!

●キレちまった
 燦々と降る陽光の下で。
「ヒャアア冷たいわーー!!」
「やっぱり夏はかき氷だよねー」
「うん、かき氷、用意して、よかった」
 芙蓉とことほ、茜姫はしゃくしゃくとかき氷を堪能していた。
 イチゴやレモン、メロンやブルーハワイ、あるいはそれらを混ぜた色とりどりのシロップで少し溶けてるかき氷はまさに一服の清涼剤だ。
「ダモクレスちゃんも、手伝ってくれて、ありがとう」
「Foooooo!!」
 ぽんぽん、と茜姫に撫でられてダモさんが踊る。
 ダモさんのヘッドは1つが蓋を外されて、羽根にはほんのり氷の屑が付着していた。かき氷機で何人分もの氷を削るのは骨が折れそう……て流れでダモさんの回転ファンでガリガリやってもらったのです。
「ダモクレスちゃん、とっても優秀」
「多機能で助かったっすねー」
「さすがデウスエクスですね……」
「Foooo……♪」
 茜姫に微笑まれ、かき氷のスプーンくわえたシルフィリアスやウィルマにも褒められ、ほんのり赤くなるダモさん。照れてやがる。
 猟犬たちのかき氷タイムは大いに盛り上がっていた。
 だが、盛り上がっているのはそこだけではない。
「おおーこれは良い風だ、これなら凧揚げ新記録も狙える!!」
「新記録ですか。では頑張りますね」
「その意気だ、どんどん飛ばすぞ! よしそこだ扇風機、お前の底力を見せてやれ! 行けーテンション上げて、空高くぶっ飛ばせー!!」
 仲間たちから離れたひらけた場所で、ムギと紺は青空に凧を飛ばしていた。ダモさんの風を受けた赤鬼(ムギの凧)と辞書(紺の凧)は、ひらりひらりと天高く踊っている。
 もうね、ほぼデートだった。
「風を感じるならやはり凧あげは最適だな。ちょっと季節外れかもしれないが」
「大丈夫ですよ、ムギさん。凧が青空に浮かぶ様はいつだって清々しものです」
「そうか。そうだな!」
 空を飛ぶ凧から互いに視線を移すムギ&紺。
 もうね、完全にデートだった。
「ふっふっふ、そろそろどちらが空高く凧を揚げる事が出来るか勝負するか、紺」
「望むところです。私の辞書は世界一です」
 挑発的に笑ってくるムギに、凛と受けて立つ紺。
 いったん凧を引き戻した2人が勝負開始とばかりに並走を始めるのを見て、芙蓉はクククと笑ってカメラを取り出した。
「あとでしっかり写真を送りつけてやるわ……この水鉄砲のサビになりたくなければその思い出、大人しく写真に残すことね……!?」
 ウォーターガンをたすき掛けにした戦場キャメラマンが、悪役っぽく笑いながらパシャパシャとシャッターを切る。すごい親切。
 が、彼女は視界の端に見つけてしまった。
「頼むね。あなたの力、信じてるから……!」
「Foooo!」
 ダモさんをじっと見つめたことほが、バッと傘をひらく瞬間を!
「まさか……!」
 息をのむ芙蓉さん。
 そう、扇風機と傘とくれば……導かれる真実はひとつ!
「飛行できない種族だから一回やってみたかったんだよね。傘で風に乗って飛んで、落下傘みたいにゆっくり降りてくるやつ……! ケルベロス用武装傘の頑丈さとオウガの筋力ならいけるんじゃない!? いけるよね!?」
 少し不安げに言いながらも――傘を全開にして風を受けることほ。
 凄まじい風圧が傘を押し、体ごと浮き上がる。常人ならば握った手から傘はすり抜けてしまうだろう。だがことほはオウガの怪力でもって傘を掴みつづけた。
「いってみせる!! 飛べーー!!」
「Foooooooooo!!」
 ユニゾンで叫ぶことほとダモさん。
 2人の気合が重なったとき――ことほの体は、天高く舞い上がっていた。
「や、やったーー!」
「フフフすごいわ……! 映えるわー!」
 傘でぶわーっと遠ざかってくことほを撮りまくる芙蓉。
 もしかしたらこの2人が一番楽しんでいるのでは。そう思うしかねえ光景を、シルフィリアスはポチポチゲーム操作しながら見物していた。
「盛り上がってるっすねー。まああちしはゲームのほうがいいっすけど」
「私も……暑い中、運動は……」
 静かに涼みつづけるウィルマが、シルフィリアスに同感する。シートの上でのそのそ歩くだけのヘルキャット(ウイングキャット)よりも今日のウィルマは運動量が少ない。
 ――が、存分に涼んでいるかというと、実はそうでもないらしかった。
「……もっと……強く……」
 ダモさんのスイッチパネルに手を伸ばすウィルマ。
 その指が操作をした途端、ファンの回転数が跳ね上がる。轟音すら聞こえる風が草原に荒れ狂い、シートがばたばたと暴れはじめる。
 そしてめくれ上がったシートが、ふぁさっとシルフィリアスの顔を覆った。
「!? 待つっすー! いま残機1でピンチ――」
 訴えも虚しく、ゲーム機から残酷な音楽が鳴る。
 ゲームオーバー。
 自失するシルフィリアスの手から、ゲーム機がぽろっと落ちる。

 少しして立ち上がった彼女が、ダモさんに魔力砲をぶっ放したのは言うまでもない。

●良い日でしたね
 10分後。
「2時間を! あちしの2時間を返せっすー!」
「シルフィリアスさん……落ち着いて……」
「そうだよシルフィリアスさん! 気持ちはわからなくもないけど!」
 残機を失った人はまだキレていた。キレながらすでに大破しているダモさんに魔法を撃ちまくっていた。そしてそれを(ゲームオーバーの引き金を引いた)ウィルマや(傘パラシュートできて満足げな)ことほが宥めていた。
 なんだか大変そう、と思いながら、無言で見物していた茜姫が日傘を差す。
「今日は、涼しかった、ね」
「フフフそうね! 次はおこたが怖いわ……!」
 ぴゅーっと水鉄砲を水平に撃ちながら、本日初めての緊張感を見せる芙蓉。すでにその眼差しは半年後の冬を見据えている。何なら自分で見つけてきそうである。
 ――が、先のことは先のことだ。
 今日を存分に楽しんだムギと紺は、草原を歩いていた。
 小脇に持参した凧を抱えながら。
「ムギさんの凧、とても高く上がりましたね」
「なはは、凧揚げの名人とは俺の事よ!」
 明朗に笑い飛ばすムギ。
 紺と一緒に凧あげができて、今日はこれ以上ない日だった。
 だがそれよりも、自分のことよりも、ムギには気にかけていたことがある。
「俺は思う存分楽しんだが、紺は今日は楽しめたか?」
 彼女の心の内を探るように、隣を見下ろすムギ。
 その目を見て、紺は柔らかく笑った。
「ムギさんと一緒なら、いつだって楽しいのですよ」
「……そうか。俺もだ」
 くすくすと笑って、2人はそっと手をつないだ。

作者:星垣えん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年7月21日
難度:普通
参加:7人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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