緩衝地帯、一斉清掃作戦!?

作者:雷紋寺音弥

●忌まわしき悪夢の残滓
 大阪緩衝地帯。かつては、抗性植物との小競り合いが続けられていた戦場の跡にも、徐々に日常が戻りつつあった。
「おい、そっちの様子はどないなっとる?」
「ちいっとばかり建物が崩れとるが、問題ないで。あの忌々しい雑草どもがいなくなって、清々したわい」
 建設重機を指揮する男が、ヘルメットを被り直しながら同僚に告げた。彼らは、この地を復興するためにやって来た土建屋だ。人がいなくなり、廃墟と化した街を修復すべく、国からの依頼を受けて来たのだろう。
「それにしても、こっちは随分と酷く壊れとるな。こりゃ、瓦礫を取り除いたら、ビルを最初から建て直した方がよさ……っ!?」
 だが、作業を進めようとした土建屋の一人がスコップを瓦礫に突き刺したところで、彼の身体を唐突に鋭い触手が貫いた。
「な、なんや!? まだ、生き残りがおったんか!」
「畜生! 連中、しぶとさも雑草並か!?」
 仲間を殺された土建屋達が憤るも、そうしている間にも瓦礫の中からは、続々と攻性植物が出現して来る。このままでは、囲まれて逃げられなくなると察し、現場監督の男が近くに止めてあったブルドーザーに乗って突撃した。
「お、おやっさん! なにやっとんねん!?」
「アホ! ぼ~っとしとらんで、さっさと仲間連れて逃げんかい!」
 グラビティでなければ、デウスエクスを倒すことはできない。そんなことは百も承知で、現場監督はブルドーザーで攻性植物の群れに突っ込んだ。その間に、残る作業員達は全て逃げ出したのだが……果たして、身を呈して彼らを守った現場監督が、帰ることは決してなかった。

●最悪の置き土産
「ユグドラシル・ウォーでの活躍、さすがだったな。あれだけの軍勢を相手に勝利を収められたのは、正に快挙と言ってもいいだろう」
 もっとも、あの戦いに参加していた全てのデウスエクスを撃破できたわけではなく、強力な敵をいくつか取り逃してしまった。それだけでなく、攻性植物は実に厄介な置き土産を大阪緩衝地帯へ残して行ったのだと、クロート・エステス(ドワーフのヘリオライダー・en0211)はケルベロス達に告げた。
「既に知っている者もいるとは思うが、戦争の終結に伴い、大阪緩衝地帯の復興作業が進んでいる。その作業に向かった土建屋達が、休眠状態の攻性植物に襲撃される事件が予知された」
 当然、予知によって工事は中止。今のところ被害は出ていないのだが、この攻性植物を排除しない限り、復興作業を続けることは不可能だ。
「緩衝地帯で眠っているのは、エインヘリアルの策謀術士、リリー・ルビーが使役していた攻性植物だな。『スロウン』と呼ばれる種類の攻性植物で、人間が近づくまで休眠状態で待ち構え、人間が近づいた際に奇襲を仕掛けるよう命じられていたらしい」
 なんとも面倒な代物を残して行ってくれたものだと、クロートは苦笑交じりに溜息を吐いた。スロウンは、個々の戦闘力は低いものの、それでも一般人にとっては脅威である。幸い、獲物の強さを見切る能力はなく、ケルベロスが近づいても奇襲を仕掛けてくるので、囮となって誘き寄せたところを反撃で退治するのが望ましい。
「スロウンの数だが、予測されているだけでも30体近くが1つのエリアに潜んでいるぞ。連中の武器は、鞭のような形状をした両手だ。敵を貫く、縛る、叩くといった単純な技しか持たないが、死角から襲われ続ければ面倒なことになるだろうな」
 1度の襲撃で現れるスロウンの数は、多くても3体。やろうと思えば、単独行動でも十分に撃破できる数なので、あまり固まって動くのは効率が悪い。だが、何の対策もしていなければ、確実に奇襲を受け続け、それだけダメージが蓄積して不利になる。
 敵は狡猾に隠れているため、単に漠然と意識を集中させるだけでは、奇襲を防ぐことは難しいだろう。具体的に、どのような策を用いて対抗するのかをしっかりと考えておかなければ、確実に奇襲されると見て間違いない。
「人が近づくまで休眠状態で隠れ、人が近づくと奇襲してくる……いわゆる、ブービートラップというやつだな。手分けして探索すれば排除の効率は上がるが、その場合は、くれぐれも無策で突っ込むことのないように気をつけてくれ」
 格下の相手とはいえ、数が数な上に連戦となる状況。負傷を抱えたまま単独行動をして、各個撃破されては意味がない。
 入念に作戦を練って、少数精鋭で手早く仕留めるか、それとも常に纏まって行動することで手堅く排除をして行くか。
 どちらの作戦を選ぶかは、全て任せる。そう言って、クロートは改めてケルベロス達に、大阪緩衝地帯に潜むスロウンの排除を依頼した。


参加者
ジョルディ・クレイグ(黒影の重騎士・e00466)
呉羽・律(凱歌継承者・e00780)
斉賀・京司(不出来な子供・e02252)
曽我・小町(大空魔少女・e35148)
リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)
 

■リプレイ

●熱中症には気をつけよう
 瓦礫の広がる緩衝地帯。訪れたケルベロス達は荒れ果てた光景を前に、そこに潜む厄介者を駆除すべく行動を開始した。
「さて、要らぬ置き土産は壊さねば。こういう時は現代語でいやげもの、だっけか?」
「本来なら、用途が不明で役に立ちそうもないご当地土産を指す言葉だけど……あながち、間違ってもいないだろうね」
 斉賀・京司(不出来な子供・e02252)の問いに、呉羽・律(凱歌継承者・e00780)が苦笑しつつ答える。不要な置き土産という点では、確かにどちらも共通するものはあるだろうと。
「まあ、ちょっとスリリングな夏の草むしりってとこかしら?」
「んっ、リリーの置き土産なんて全然いらないよ、頑張ってお掃除するね」
 曽我・小町(大空魔少女・e35148)の言葉に続き、リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)が銃を構えた。もっとも、目の前には未だ敵の姿もなく、どこに潜んでいるかも分からなかったが。
「各自、油断せずに進もう。どこから狙われてもいいように、各々で死角を補い合えるようにな」
 ジョルディ・クレイグ(黒影の重騎士・e00466)が先導する中、他の者達も彼の後に続いて行く。先頭を行く彼の恰好は、消音効果のあるゴムのブーツに、コートの上から全身を覆うマント。関節部の消音対策もしっかりしており、これなら気付かれずに敵の潜む場所へと接近できるだろう。
「大丈夫か、相棒? この天気でその恰好は、随分と辛そうだけど……」
「問題ない……と、言いたいところだが、長時間の作戦行動はオーバーヒートの危険が伴うな。注意しておこう」
 心配する律に、ジョルディが答えた。レプリカントである彼は、人間のような熱中症に見舞われる心配はなかったが、それでも体内温度の上昇に伴う各種内部機器の不調が起きれば、作戦に大きな支障が出る。
 せめて、この作戦が冬であれば、あるいは少し違ったのかもしれないが。夏場にこんな格好で戦わせることを強いる攻性植物を恨みつつ、ケルベロス達は瓦礫の街に潜む危険なブービートラップの排除へと向かった。

●出るか、籠るか
 復興予定地の瓦礫や地下に潜み、獲物を虎視眈々と待ち続ける攻性植物。個々の戦闘力は高くないものの、しかし自分からなかなか姿を現そうとしないため、駆除は遅々として進まない。
「そっちはどう? 何か、怪しい気配とかあった?」
「ん、今のところ、何もないよ」
 相棒のウイングキャットであるグリと共に警戒を続ける小町に、リリエッタは10フィート棒を片手に呟いた。棒の先には鏡がつけてあり、遠くからも狭い場所などを覗けるよう工夫がされていたが、それが敵の姿を映し出すことは、現時点ではない。
「敵が潜んでいるところに、こう……ポンッと何かが浮かんでくれれば楽なんだけどね」
 現実は、そんなゲームのようにはいかないと、律は何気なく石を放り投げた。ケルベロス達は直感的に相手の強さを知ることができるが、それはあくまで自分が視認している相手に対してだけだ。アクションゲームのように、身を隠している敵の頭上にステータスウィンドウが出現したり、敵の居場所に向かって矢印が見えたりするわけではないのだ。
 瓦礫に石を投げたところで、分かるのはせいぜい、瓦礫へどれだけ的確に石が命中するか否かである。このままでは、無駄に時間が経過するばかり。業を煮やしたジョルディは、ついにコートを脱ぎ捨てると、いかにも何かが潜んでいそうな瓦礫の山へ、ミサイルの雨をお見舞いした。
「どうせ除去する瓦礫なら、一思いに吹き飛ばした方が、後の作業も行い易いというものだな!」
 出てこないのであれば、焙り出すまで。果たして、そんなジョルディの読みは正しく、吹き飛ばされた瓦礫の山の中から攻性植物が飛び出して来た。
「現れたか!」
「ん、やっぱり、こっちが近づくか自分が何かされるまで、出てこないつもりだったんだね」
 身構えるジョルディの後ろで、リリエッタもまた銃を構えた。そういうことならば、話は早い。他の瓦礫に狙いを定めて銃弾を放てば、その衝撃に驚いたのか、再び別の攻性植物が飛び出して来た。
「なるほど、確かにこっちの方が早かったかもしれないね。それじゃ、さっさと片付けようか」
 鎖で守りを固める律。これならば、少なくとも咄嗟の奇襲を受けたところで、致命傷を負うことはないはずだが。
「気を付けてね。戦いに夢中になり過ぎて、他のスロウンが潜んでいるところに踏み込んだら危ないよ」
 それでも、考えなしに動き回れば危険なことに変わりはないと、小町が釘を刺した。この場所は未だ敵の勢力圏。相手がどこに潜んでいるとも分からない以上、迂闊に動き回れば、それだけ奇襲を受ける可能性が増すのだから。
 戦いの際は戦いだけに集中したいところだが、今回ばかりはそうもいかない。常に奇襲を想定しつつ戦わねば、足元を掬われることになる。
「……ならば、下手に逃げられても面倒だ。仲間の場所に誘導される前に、ここで叩く」
 京司の鎖がスロウンを縛り上げ、その身体を引き千切らんばかりに締め付けて行く。幸い、敵はそこまで戦闘力も高くなく、数発も攻撃を食らわせれば、簡単に倒すことができそうだ。
「ウゥ……オォォ……」
 不気味な唸り声を上げながら、残るスロウンが一斉に迫って来た。彼らの武器は、その両手から生えた鞭状の蔦。それらを振り回し、あるいは槍のように突き出して攻撃をしてくるものの、やはり個々の強さはケルベロスに遠く及ばない。
「あまり長引かせるわけにもいくまい。各自、一撃必殺で叩き潰すぞ!」
 迫り来る蔦を斧で軽く払い除け、ジョルディが突撃して行く。横薙ぎに払われた戦斧の斬撃は、そのまま回転するジョルディの勢いを乗せ、黒い竜巻となって戦場を駆け抜けた。

●残りは何匹?
 瓦礫や物影に潜み、巧妙に獲物を狙うスロウン達。奇襲を避けつつ戦いを進めるケルベロス達ではあったが、それでも30体という敵の数が、彼らの消耗を激しくして行く。
 人がいないのを良いことに、敵の潜んでいそうな場所へと無差別に攻撃を仕掛ける策。確かに、敵を焙り出すには良い方法だったが、しかし混戦となれば周囲への警戒よりも、目の前の敵へと意識が向いてしまうのは仕方がない。
 そして、戦いの最中であろうとも、スロウン達は情け容赦なく奇襲を仕掛けてくる。なるべく、同じ場所で戦うように努めてはいるものの、この人数では纏まって行動していなければ、誰かが倒されていたかもしれない。
「やれやれ、数が多いと手間取るな」
 額の汗を拭いつつ、京司がぼやいた。その間にも、スロウン達は攻撃を仕掛けてくるものの、伸ばされた蔦を軽く避け、代わりに魔弾を放ち敵の身体を削り取った。
「よし、これでまた減ったね。それよりも……瞳は大丈夫かい、京司?」
「問題ない。この程度なら、まだ戦いに支障はないよ」
 長引く戦いの最中、律は何気なく京司の容態を気遣っていたが、とりあえずは大丈夫のようだ。敵の残りも、後僅か。できることなら、ここまで来て無用な被害は出したくないが。
「はぁ……はぁ……この、しつこい!!」
 蔦で叩き伏せようと襲い掛かったスロウンを、小町が拳で叩き伏せた。衝撃と共に放たれた光が敵を吹き飛ばし、そのまま粉々に粉砕して行くものの、彼女もまた随分と消耗している。
「ん、無理は禁物だよ。こういう時、焦った方が不利になるからね」
 残る1体をリリエッタが撃ち抜き、この辺りにいた敵はなんとか殲滅できたようだ。もう、5体ほどのスロウンを片付ければ、全ての敵を掃討したことになるだろう。
「さて、探索していない場所は、後はあの廃墟だけだが……」
 戦斧を納め、いかにも怪しい廃墟をジョルディが指差した。窓ガラスが割れ、壁に亀裂の入った雑居ビル。周囲の建物の大半は崩れていたが、何故かそのビルだけは辛うじて残っていた。
「……見るからに怪しいわね。グラビティで破壊してもいいけど……どうする?」
 今までと同じく、先制攻撃を仕掛けてみるかと尋ねる小町だったが、他の者達は首を縦には振らなかった。壊そうと思えば壊せるのだろうが、ビルを丸ごと破壊するのは、瓦礫を除去するのとはわけが違う。
「いや、ここは中に入って探すべきだね。スロウンが崩れたビルの下敷きにでもなったら、彼らを見つけるのが却って難しくなる」
 そうなった場合、倒壊したビルの残骸を除去しに向かった作業員が、生き残ったスロウンに襲われる可能性があると京司は示唆した。
 デウスエクスはグラビティによる攻撃以外では死なないため、生き埋めになったところで支障はない。仮に、ビルを倒壊させた結果、残骸の中に逃げ込まれてしまった場合、敵の討ち漏らしが生じてしまう。
「……確かに、一理あるな。どう思う、相棒?」
「多少、危険は伴うけれど、仕方がないね。中にスロウンが隠れているとして……ビルごと纏めて消滅させるなんていうのは、あまり現実的じゃない」
 問い掛けるジョルディに、律もまた自分の意見を述べた。やはりここは京司の言うように、自ら死地に飛び込んで敵を排除するしかなさそうだった。

●暗闇に蠢く
 廃墟と化した雑居ビル。慎重に足を踏み入れると、その中は思いの他に静かだった。
 果たして、この中にスロウンは隠れているのだろうか。曲がり角や扉の影、小さな部屋の隅などを油断なく探るケルベロス達だったが、今ところ敵の姿もなければ、奇襲を仕掛けてくる様子もない。
「残り5体……どこに隠れているのか……」
「できるだけ、固まって動いた方がいいね。何があっても対処できるように」
 足音を殺し、息を潜めながら、ジョルディと律は先頭を行く。リリエッタもまた、10フィート棒の先についた鏡で様子を窺っているが……そんな彼らを嘲笑うように、突如として天井から何かが降って来た。
「……っ! 上からだって!?」
 思わぬ場所からの奇襲に、一瞬だけだが京司の反応が遅れた。槍の如く突き出された伸縮自在の蔦が、彼の肩を鋭く貫き。
「ん、少し油断してたかもね。エアコンのダクトに隠れていたなんて……?」
 天井から伸びた蔦に狙いを定めるリリエッタだったが、そんな彼女の腕にも蔦が絡み付き、そのまま宙吊りにされてしまった。
「まだいたの!? やってくれるじゃな……って、きゃぁっ!?」
 慌てて駆け付けようとした小町に、今度は潰れた掃除用具入れから伸びた蔦が絡み付く。このままでは拙いと助けに向かおうとするジョルディと律だったが、彼らの前にもまた、新たなスロウンが降って来た。
「リリエッタ嬢! 小町嬢!」
「迂闊だったね、これは……。正面や下だけでなく、上も注視するべきだったよ」
 歯噛みしつつも、ジョルディと律は目の前の敵を手早く倒し、残る者達の救出に向かおうとした。が、いくら弱いとはいえ、スロウンとて腐ってもデウスエクス。慌てて仕掛ければ、それだけ急所を狙うことができず、一撃で倒すことが却って難しくなってしまう。
 消耗した状態で、これは少々拙い事態だ。このままでは、リリエッタや小町がやられてしまう。助けたくとも、目の前の敵が邪魔で助けられないのがもどかしいが……彼らには、最後の最後で頼れる味方が残っていた。
「……うにゃぁっ!!」
 小町の相棒、ウイングキャットのグリである。自慢の猫爪が炸裂し、小町を捕らえた蔦ごとスロウンを引き裂いたのだ。
「よし、でかした、グリ! 後は任せて!」
 ここで踏ん張れば、必ず勝てる。ならば、それに相応しい歌で鼓舞せんと、小町は立ち止まらず戦い続ける者達の歌を奏でることで、残る仲間達を奮い立たせ。
「ん……蔦が外れたね。助かったよ」
 脱出したリリエッタが、改めて天井を見上げた。敵はダクトを伝って逃げるつもりのようだが、そうはさせない。
「ルー、力を貸して!  ――これで決めるよ、スパイク・バレット!」
 親友の幻影を呼び出して手を重ね、円環する魔力の奔流を魔弾に変えて射出する。荊棘の魔力を込められた弾丸は、そのまま天井諸共に敵の身体を貫いて、逃すことなく確実に仕留め。
「上から襲ってくるとは、恐れ入ったよ。でも……足元を留守にするのはよくないな」
 いつの間にか、敵の足下へ這わせていたブラックスライムで、京司が自分を襲ったスロウンを串刺しにした。
「こいつらは任せておけ。その代わり、残りは頼んだぞ、相棒!」
 行く手を阻む2体のスロウンを、ジョルディがミサイルの雨で纏めて吹き飛ばす。これで、残る敵は1体のみ。グリの爪で深手を負ったスロウンに、オウガメタルを纏った律の拳が炸裂する。
「これで終わりだ……力を貸してくれ、ノク」
 金属生命体の名を呼べば、躍動する銀色の塊は巨大な拳となって敵を討つ。半壊した窓をブチ破って外に叩きだされたスロウンは、そのまま真下へと落下して、しばらく痙攣した後に動かなくなった。

●無事に帰るまでが任務です!
 ケルベロス達が全てのスロウンを撃破し終えた頃には、既に日が落ちかけていた。
「はぁ~、キツかったぁ……。皆、ほんとお疲れさまー!」
 肩にグリを乗せたまま、小町が大きく腕を伸ばした。相手にしたのは雑魚ばかりとはいえ、それでも数が数だけに、なかなかどうして疲労した。
「まあ、それでも……無事に帰還できて、なによりかな」
 そう言う京司の表情には、何故か少しだけ影が差している。いったい、何を憂いているのか。その胸中までは、誰にも知られることはなかったが。
「しかし……この様子では、当分の間は草むしりが続きそうだな」
「できれば、本格的に暑くなる前に、さっさと片付けたいところだね」
 大阪の復興を早めるためにも、厄介な置き土産は早々に始末する必要があると、改めて確認するジョルディと律。そんな中、リリエッタは壊れたビルや吹き飛ばした瓦礫の山に、可能な限りのヒールを施していた。
「少しでも、お手伝いになればって思ったけど……今はこれが限界かな?」
 さすがに、この一帯を少数精鋭のケルベロス達によるヒールだけで、復興させるのは無理がある。後は地元の人々に任せるべく、彼女もまた仲間達の後を追う。
 30体ものスロウンを相手に、誰も深手を負うことなく帰還したケルベロス達。そんな彼らの凱旋する姿を、赤い夕陽が照らし出していた。

作者:雷紋寺音弥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年7月21日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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