ねむの誕生日~浜辺のお宝ハンター

作者:猫目みなも

「宝探しに行ってみませんか?」
 どことなく目をキラキラさせながら、笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)はケルベロスたちにそう切り出した。どこでどんなお宝を探すのかと問われれば、彼女はいっそうその目のキラキラを強くして。
「シーグラスです! シーグラスってご存知ですか? ガラス片なんかが波に洗われて丸くなった、キラキラの欠片のことなんですけど」
 環境意識の高まりや採集ブームによって一時に比べれば数が減っているとも言われるシーグラスだが、とある海岸でなかなか沢山それが見つけられるらしいと聞いて、それならとケルベロスを誘いに来た――と、そういうことのようだ。
「波打ち際を歩きながら綺麗なシーグラスを探して拾って集めて……っていうのがねむのやってみたい事ですね。海岸沿いのお土産屋さんでは拾ったシーグラスをキーホルダーやペンダント、ブレスレットなんかに加工してもらうこともできるそうなので、素敵なのを見つけたらこっちへ寄ってみるのもいいかもです。……あっ、それと水着を着て磯遊びをするのも勿論とっても楽しいと思います!」
 誰かと競い合って宝探しに興じるもよし、ひとりで黙々と自身の眼鏡にかなう一品を求めるもよし、或いは手に入れたお宝をアクセサリーに生まれ変わらせるもよし――或いは、お宝はさておき浜辺というロケーションを活かして存分に遊び倒すもまたよし。
 相変わらず夢見るように目を輝かせたままそこまで言って、ねむはきゅっと拳を握ってみせる。
「……というわけで、よければねむとご一緒にいかがですか? 浜辺のお宝探しへれっつごー! ですよ!」


■リプレイ

 大輪の花が開いたように、青空に浮かぶ太陽は燦々と力強く輝いている。海面が跳ね返したその輝きを目の中いっぱいに映して、アリシアはふんすと鼻を鳴らした。
「つくも、あげる、おたから、みつける!」
「ぼくも準備はばっちりです!」
「あんまり走って転ぶなよ~!」
 駆け出したアリシアに続いてかりんも飛び出していくのを見守りながら、小さな背中たちにそう叫ぶのは恵。とは言えその声音に咎めるような色はなく、むしろ彼も楽しむ気は満々のようで、そしてそれは番犬部の仲間たちもお見通しのようで。
「ほらほら、恵さんも行きましょう? アンちゃんも!」
「わ、そんなに引っ張らなくても行くよ、行く行く」
 環に手首を掴んで引かれ、アンセルムもまたやや前のめりに海岸を走り出す。水着の上に羽織ったパーカーが、空気の抵抗を受けてふわりと大きく膨らんだ。
「あはは、皆気合十分って感じだね」
 そんな光景を引率組の一員として眺めながら、ベルベットは緩く腕を組んで笑い声を零す。そんな彼女の方を振り返り、波打ち際のかりんがぶんぶんと大きく手を振った。
「ベルベット、すごいです! こっちです!」
「はいはい、何かなー?」
 小走りでそちらへ向かえば、足元で砂が小気味よい音を立てる。宝探しの少女たちと視線の高さを合わせるように低く屈めば、かりんの瞳がベルベットの炎の揺らめきを受けて一層煌いた。
「すごいんですよ! アリシアがさっそくきらきらいっぱい見つけたです!」
「がうっ! おたから、におい、わかった! きらきら!」
 誇らしげに言うアリシアの指先は濡れた砂に汚れていて、一目でお宝を文字通り掘り当てたのだということが分かる。そして小さなお宝を掴み取ることには不慣れな彼女に代わって戦利品を掬い上げたかりんの手の中には、色とりどりのシーグラスが海水に濡れてきらきら光っていた。
「わ、凄い凄い! アタシにも教えてよ、お宝の匂い!」
「! アリシア、おしえる!」
 頼りにされたのが嬉しくて誇らしくて、早速アリシアは地面の匂いをふんふん嗅ぎ取る『捜索活動』に戻っていく。勿論ガラスの欠片の存在を、本当に匂いで嗅ぎ当てているわけではないのだろうけれど――。
「野生の勘ってやつなんですかね? すごいなあ」
 砂の中から見つけた小粒の黄色を空に透かしつつ、環がそんな風に呟いた。その評に同意の頷きを返して、アンセルムは環の手にした最初の宝に目をやって。
「それ、いいね。環の目の色だ」
「えへへへ、そう見えますか? ……アンちゃんのそれは、白砂? 集めてるんですか?」
「シーグラスや貝殻と一緒に詰めようと思ってさ」
 アンセルムが軽く揺らしてみせた小瓶の中で、眩しい程に白い砂がさらさらと歌う。その音の方向を耳聡く振り返って、恵が楽しげな笑みを見せた。
「瓶詰めっていうのもお洒落だなぁ。ベルベットもペンダントにして孤児院の子に配るって言ってたっけ」
「立花は集めたお宝、どうするつもり?」
「トレーに並べたら綺麗そうだよなって。これ真ん中にしてさ」
 言って恵が掲げてみせるのは、大きな緑色のひと欠片。先ほどかりんが恵の目みたいと手渡してきたそれの煌きに目を細めつつ、彼は空いた逆の手で鼻の頭を擦った。
「お返しに何か見つけてあげたいんだけど、シーグラスって初めて探すんだよなぁ」
「時間はたっぷりあるし、ゆっくり探せばいいんじゃない?」
 声の方を振り向けば、波打ち際でひと狩り終えてきたらしいベルベットがそこにいた。お、と目を一瞬大きく見開いて、環がベルベットの戦利品ににんまりと視線を移す。
「ベルベットさんも大漁ですねー」
「お宝の山のありかを教えてもらったからね! これだけあれば、お土産作りにもバッチリでしょ」
 ぐっと親指を立て、小粒なシーグラスがたっぷり入った籠を大切そうにひと撫でした後、ベルベットは年長組に向けて軽く首を傾けてみせる。
「アタシ皆の分の飲み物買ってくるけど、三人は? リクエストとかある?」
「あ、じゃあ俺も行くよ。六人分だし、宝探しのコツ聞きたいし」
 すかさず売店の方へと足を向け、恵が歩き出す。その背中に片手を振りながら飲み物のリクエストを叫んだ環の足元に、とたとたとかりんが駆け寄った。目をきらきら輝かせ、両手いっぱいにお宝を積み上げて、かりんは満面の笑みで戦果を報告する。
「こんなに取れました! このきらきらを身に付けたら、ぼくも環やベルベットみたいなおとなのおねえさんになれますかね?」
 そんな楽しげな喧騒を波音と一緒に聞きながら、トーヤとエリザベスは手を繋いで海岸を歩く。ただそれだけで嬉しくて、そっと絡めた指越しに伝わる互いの鼓動は少しだけ速い。
「何作る? オレは……お揃いなら何でも」
「……おそろい」
 緩めかけ、慌てて力を込めて握り直した指先が熱い。何なら尖った耳の先までも。制御の効かない熱を感じながら、エリザベスはきらきら光る水のおもてについと視線を滑らせて。
「……じゃあ、ブレスレット、とか」
「ん、いいよ」
 ふたり分となると、量が必要そうだ。トーヤが手を引き、エリザベスがそれに続く形で、そうしてふたりの宝探しは幕を開けた。
 寄せては返す波の際をゆっくりと歩きながら、光の反射に目を凝らす。やがて目を射抜いた鮮やかで、そして何より馴染み深い翡翠色に手を伸ばして、エリザベスはそれまでどこか固かった表情を一気に綻ばせた。
「見て、トーヤさん!」
 あったよと上げた声は、まるで幼子がはしゃぐよう。その声音が、表情が何より幸せで、トーヤも深々と頷いた。ひとつ見つかれば近くでいくつも出てくることが多いという話を思い出し、屈み込んで軽く砂を掘れば、トーヤの指先にも赤みがかった茶色の煌きがすぐに触れた。砂を海水で洗い落とし、陽の光に透かして、トーヤは呟く。
「変な話、ただのガラスなんだけど。でも、うん……本当、綺麗だよな」
「……ふふ」
 彼の横顔が嬉しそうなことが、エリザベスにもやはり嬉しい。手の中の宝物と青く輝く海とを交互に見て、深く息を吸い込んで、そうしてエリザベスは唇を開いた。
「綺麗だね」

「海辺生まれダケド、そういやあんま探した事なかったなぁ」
 むしろ海辺でも空ばっかり見てた気がする――そんな風にキソラが呟けば、隣を行くティアンは逆にその瞳に自信の色を滲ませた。
「海辺で何か拾うのは得意だ。まかせてくれ」
「んじゃ、ココはセンセのご指導に乞うご期待ってやつデスネ」
 ざぶ、と波を蹴りながら返された軽口に、ティアンは機嫌よく長い耳を揺らす。故郷でシーグラスがよく見られた場所と言えば、ある程度波が荒くて、小石がそれなりにあって、漂着物が落ちているような砂浜。つまりはこの辺りだとキソラの手首を引いて案内すれば、やはり遊ぶような足取りとは裏腹に、存外真剣な目つきで宝を探す表情が見えた。
「色も形もいろいろあるけれど、キソラは何に加工してもらうつもりなんだ?」
「んーそうだなあ……どんなのが、ってのはなぁ」
 ああでも色はネ、青空の色がイイ。続けられた言葉に、ティアンは足元から頭上へと視線を移す。男の目によく似た色が、視界いっぱいに広がっているのが見えた。再び砂浜に意識を向けながら、少女は納得した風に目を細める。
「ああ、うん、キソラには青がよく似合いだ」
「そ? ……ティアンちゃんは? お目当てあんの?」」
 嬉しげな声と共に、今度はキソラが相好を崩して空を見上げた。その仕草を見届け、ティアンは問いへの答えを返す。
「丸っこくて平たいのがいい。色は……折角だからキソラのに似た青にしよう」
「イイね」
 ならばふたりで、沢山の空色を探して集めよう。そうして宝探しに成功したら、恒例の記念撮影と行こう。約束を証立てるように、ひときわ大きな波が跳ね、透明な雫が宙に躍った。
 さて、揺らめく水面の下では、琢磨とキサナが宝探しの冒険を繰り広げていた。狙うは砂浜ではなく、浅瀬の底に埋まったシーグラス。以心伝心のふたりなら、たとえ発声のきかない海中でも意思疎通は万全な筈! たぶん!
(「あっちにカメがいましたよ!」)
(「確かにありゃあサメだな。殴るか?」)
 泡を吐きつつ琢磨が沖の方を指差せば、キサナはそれにぐるぐると腕を回して応える。どこからか流されてきたらしいサメのおもちゃを力いっぱい殴り飛ばした(そしてカメには気付かなかった)キサナのドヤ顔にもむしろ愛おしさを感じて、今度は琢磨は両手でハートを作り、続いて溺れるような動きをしてみせる。
 ――無論、ケルベロスがこんな浅い海で溺れてダメージを受けることなどありえない。それを前提に、あくまで『愛に溺れた』というメッセージを送ったつもり、だったのだが。
(「心臓か? 心臓だな! 待ってろ、今砂浜まで連れて行って人工呼吸タイムだヒャッホウ!」)
「ぶわっ」
 何をどう読み取ったのか、いきなりキサナは琢磨を抱えてざっぱざっぱと岸まで泳ぎ出す。陸まで連れ去られ、今にも人工呼吸を施されそうな琢磨を目にして、すぐそこで砂を掘っていたねむがあわあわと両手を口元にやった。
「な、なな、何事なのです!?」
「はっは、冗談冗談! ねむ、確かに見つけてきたぜ。海底の――お宝だ」
 言ってキサナが琢磨を解放し、握り締めていた右手を開いてみせる。その中にあったビー玉サイズのシーグラスをねむに手渡しながら、琢磨も悪戯っぽく笑みを浮かべた。
「すみませんね、びっくりさせて。お詫びと言っては何ですけれど」
 良ければ一緒に、水底の冒険を楽しまないか――と。ふたりからの誘いに、ねむは目を輝かせて頷いた。
 大物探し勝負だと先に言い出したのは、どちらだったか。ともあれ、シズネとラウルは波打ち際で宝探しの真剣勝負を繰り広げていた。
 野生の勘に従ってシズネが勢いよく掘り起こした砂の中から、ひとつラムネ色のガラスがまろび出た。追いかけるようにより広く砂を起こせば、更にいくつものシーグラスが続けて顔を出す。色合いも風合いもまるで飴玉のように見えるそれを掌で掬ってじっと見つめるシズネの背中に、不意にはしゃいだような声がかかった。
「ねえ、シズネ見て! 星色のシーグラスだよ」
「おお、本当だ!」
 勝負などその一瞬ですっかり忘れ、ふたりは互いの見つけたお宝を見せ合い、その色合いを重ね合う。ふとシズネの手の中にある黄色や橙色に目を止めたラウルが、くすりと悪戯な笑みを零した。
「食べちゃダメだよ?」
「た……食べるわけないだろぉ!」
 真っ先に連想した物を見抜かれたようで、思わずシズネは勢いよく立ち上がる。その反応に笑って、ラウルはあ、と再び足元に目をやった。そのまま細い指先が摘み上げたのは、淡い青色の大きな欠片。太陽にかざせば柔らかな光を散らすそれを、彼は迷いなくシズネの手に握らせて。
「夏の欠片、あげる」
 握らされた物を確かめ、それが自身の大好きな色だと気付いて、シズネはじわりと目を細める。ありがとうと返し、目の前のラウルを見つめれば、同じ夏空の色が確かにそこにあった。

「……あっ」
 砂浜に、ルーシィドの微かな悲鳴が零れて落ちる。無残に崩れ落ちた砂の城の残骸にしょんぼりと落ちた肩を、リリエッタの小さな手が柔らかく叩いた。
「もう一度、やってみよう? リリ、砂遊びのテクニックなら……ちょっと分かるよ」
「では、レクチャーをお願いしますわ」
 ふたりで集めたシーグラスもふんだんに使って、キラキラで立派なお城を作りたい。完成予想図をしっかり共有したら、いよいよ砂遊びの再開だ。水分を含んだ砂でしっかりとした土台を作ったら、それを少しずつ削ってお城の輪郭を作っていく。やがてシーグラスと貝殻で綺麗に飾り付けられた砂のお城が出来上がる頃、リリエッタの目が海から上がってきたねむを捉えた。そちらへ向かって声を掛け、手招きしながら、リリエッタはちらりとルーシィドに視線を投げる。自信に満ちたサムズアップを返し、ルーシィドもまた駆け寄って来るねむへと手を振った。
「ねむちゃん、見てくださいな! リリちゃんと一緒に作りましたのよ」
「わぁ……お姫様が住んでそうな、すっごく綺麗なお城です! はっぴーばーすでー……?」
 小さな貝殻や小粒のシーグラスでお城の正面に書かれた文字にねむが気付いたところを見計らい、ふたりはこっそりと頷き合う。そうして祝いの言葉と共に、夏色のガラスがふたつ、ヘリオライダーの掌に乗せられた。
「おや、此方にいらっしゃいましたか。ねむさん、お誕生日おめでとうございます!」
 イッパイアッテナもねむの姿を認めて歩み寄り、片手を上げる。その後ろについて来た相箱のザラキの中で、いくつものシーグラスがじゃらじゃらと楽しげな音を立てた。
「ありがとうございまーすっ。宝探し、調子はいかがですか?」
「ええ、楽しく遊んでいますよ」
 イッパイアッテナの言葉を証明するように、ザラキも蓋を大きく開けてその中に収めていたシーグラスを次々掲げてみせる。いかにも自慢げなその動きに、ねむがわぁ、と声を上げた。
「すっごいですね! ねむもそのくらい集めてみたいのです!」
「では、まだまだ宝探しはやめられませんね」
「はいっ!」
 元気よく答えてお宝を探しにまた駆けていく背中に手を振って、イッパイアッテナは小さく笑う。彼女がこれからどんなお宝に出会えるのか――他人事ながら、それが今は何より楽しみだ。
「私も一緒に探すよ」
 ねむの傍らに屈み、そう申し出るのはローレリーヌ。満面の笑みで頷くねむに淡く笑い返して、彼女は小さく首を傾げた。
「ねむちゃんはシーグラスで何かしたいとかあるの? 私はネックレスが作りたくてね」
「実は集めるの自体が楽しくて、あんまり決めてなかったのです。でも、ネックレスも素敵ですね!」
 返答に添えられた笑顔は、やはり眩しい。そのネックレスがねむへのプレゼントになるのだということはまだ秘密にしておいて、ローレリーヌは共にここに来たリーゼロッテと視線を合わせ、頷き合った。
「皆さんが集めているのはこれだったんですね。では、私も一緒に」
 慣れない手つきで砂浜を探り始めたリーゼロッテの指先が、やがてすぐに小さな煌きを探り当てる。三人の視線が一斉にそこへ集まり、そして鮮やかな笑顔が重なった。

 ねむにしっかりおめでとうを伝え、波打ち際での宝探しも堪能して、ピジョンとマヒナは土産物屋に立ち寄っていた。お宝の加工が終わるのを待ちながら並んでベンチに腰を下ろし、煌く海を眺めていれば、ふたりの間を潮の香りを含んだ風が軽やかに駆け抜けていく。
「お宝、手に入ってよかったね」
「うん。……えへへ」
 故郷ではあまり見ることのなかった輝きに夢中になっていた姿を見られていたことを思い出し、少し照れたように頬を染めて、マヒナは一緒に宝探しを楽しんだアロアロのたてがみを撫でる。いくつになってもこういうのは楽しいよねえ、と笑うピジョンの柔らかな声音が心地いい。その傍らで、マギーがどこからか拾ってきたウニの殻を楽しそうに転がしていた。
 と、店の奥からふたりに声がかかり、完成したアクセサリーが手渡される。ハマグリの殻と半月型のシーグラスを組み合わせたキーホルダーを一度目の高さにぶら下げ、次にマヒナの視線の位置までそれを下ろして、ピジョンは目元の笑みを深くして。
「珍しいものではないけど、思い出にね」
「わぁ……!」
 揺らめく青い月のようなその佇まいにしばし見とれた後、ややあってはっと思い出したようにマヒナは自分のシーグラスをお返しのようにピジョンへと手渡した。シンプルな雫型のキーホルダーが、そうして彼の手に確かに握られた。
「これは……とても綺麗な色だね。まるで海のひとしずくのような」
 返された感想は、奇しくもマヒナが伝えたかったそれと同じで――潤みかけた目を手の甲で擦り、マヒナは一番の笑顔でその言葉に頷いた。
「課題は結局こなせなかったな」
 生真面目に眉根を寄せて呟くメイザースに、ロコは微かに笑って眉の端を下げた。
「……そう、やっぱり難しいんだね」
 赤いシーグラスを見つけて、というのが、ロコがメイザースに課したそれだ。白、緑、茶色、様々な色合いを拾い上げてはきたけれど、ふたりも初めから知っての通り、赤いシーグラスは珍しい。ついぞ見つからなかったその色に染まり始めた空にひとつ息をつき、代わりじゃないけどと前置きして、メイザースは握った掌を開いてみせる。
「綺麗な空色の欠片があったよ。揃いのアクセサリーでも」
「なら、これを二つに割らない?」
 シーグラスに二つと同じものはない。それならと言って、ロコは自身の拾った夕焼け色の欠片も掌の上に示してみせる。成程と頷き、土産物屋に背を向けて、メイザースはゆっくりと歩き始めた。
「それなら君の夕空の欠片と半分ずつ交換しよう」
「あぁ。細工はお願い」
 店では出来なくとも、きっと君なら。信頼の言葉と共に彩りを受け渡し、そうしてふたりは帰路につく。
 誰かの打ち上げたビーチボールが、眩い夕陽に一瞬重なる。夏の一日を見送るように、砂浜に影が落ちて――お宝ハンターたちの背を押すように、風が海岸を吹き抜けていった。

作者:猫目みなも 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年7月28日
難度:易しい
参加:23人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 1
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