魔女の住む森

作者:ゆうきつかさ

●埼玉県某所
 森の奥から響いていたのは、悲しげな電子オルガンの音色であった。
 その音色を聞くだけで、不安な気持ちになるほどのモノ。
 それ故に、人々が口々に噂した。
 この森には何かいる、と……。
 人の肝を喰らう魔女がいる、と……。
 実際には、いかにも魔女っぽいホームレスの女性が、不法投棄されていた電子オルガンを鳴らしていたようだが、それすらも噂の域を出ないようだ。
 そんな中、小型の蜘蛛型ダモクレスが、森の中に捨てられた電子オルガンの中に入り込んだ。
 それと同時に電子オルガンが機械的なヒールによって、奇妙な姿のダモクレスと化した。
「デンシオルガァァァァァァァァン!」
 次の瞬間、ダモクレスが耳障りな機械音を響かせ、街に向かうのであった。

●セリカからの依頼
「タキオン・リンデンバウム(知識の探究者・e18641)さんが危惧していた通り、埼玉県某所にある森で、ダモクレスの発生が確認されました。幸いにも、まだ被害は出ていませんが、このまま放っておけば、多くの人々が虐殺され、グラビティチェインを奪われてしまう事でしょう」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
 ダモクレスが確認されたのは、埼玉県某所にある森。
 この場所には、かつて有名が音楽家が住んでいたようだが、いま見掛けるのはホームレスの女性だけ。
 彼女が何者なのか分からないが、近所の人達からは魔女と揶揄されているようだ。
「ダモクレスと化したのは、電子オルガンです。このままダモクレスが暴れ出すような事があれば、被害は甚大。罪のない人々の命が奪われ、沢山のグラビティチェインが奪われる事になるでしょう」
 そう言ってセリカがケルベロス達に資料を配っていく。
 資料にはダモクレスのイメージイラストと、出現場所に印がつけられた地図も添付されていた。
 ダモクレスは機械化した魔女のような姿をしており、悲しげで不安になる音色を奏でながら、ケルベロス達に襲い掛かってくるようだ。
「とにかく、罪もない人々を虐殺するデウスエクスは、許せません。何か被害が出てしまう前にダモクレスを倒してください」
 そう言ってセリカがケルベロス達に対して、ダモクレス退治を依頼するのであった。


参加者
タキオン・リンデンバウム(知識の探究者・e18641)
雪城・バニラ(氷絶華・e33425)
伊礼・慧子(花無き臺・e41144)
アクア・スフィア(ヴァルキュリアのブラックウィザード・e49743)
兎波・紅葉(まったり紅葉・e85566)
佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)

■リプレイ

●埼玉県某所
「まさか、私の予想していたダモクレスが、本当に現れるとは……」
 タキオン・リンデンバウム(知識の探究者・e18641)は仲間達と共に、ダモクレスが確認された森にやってきた。
 その森は魔女が住むと噂される場所。
 実際にはホームレスの女性が住んでいるだけだが、本当に魔女が住んでいるのではないかと錯覚してしまう程、不気味な森だった。
「……いかにも魔女が現れそうな雰囲気ですね」
 兎波・紅葉(まったり紅葉・e85566)が、警戒した様子で辺りを見回した。
 辺りの木々が風で揺れるたび、魔女達の悲鳴にも似た音が辺りに響いた。
 それ音に乗って森の奥から響いたのは、悲しげな音色であった。
「……何だか悲しい音色ね。でも、私達はそんな悲壮な音色には負けないわ」
 すぐさま、雪城・バニラ(氷絶華・e33425)が、殺界形成を発動させた。
 その影響で森の奥からホームレスの女性が、フラついた足取りで、ケルベロス達の前に現れた。
「まったく見ない顔だねぇ。普段なら追い返すところだけど、今は気分が悪いから……。くれぐれも妙な事だけはしないでくれよ」
 ホーレムスの女性が暗く沈んだ目で、ケルベロス達に対して警告した。
 それが何を意味しているのか分からないが、ケルベロス達の背筋にゾッと寒気が走った。
「ここは危険です。……ですから、早く、ここから避難してください」
 タキオンがホームレスの女性を護りながら、警告混じりに呟いた。
 だが、ホームレスの女性は、不満げ。
 まるで自分が森の主の如く、踏ん反り返っていた。
 彼女に一体、何があったのか分からないが、その瞳は悲しげだった。
「危険? 一体、何が危険なのかねぇ……。まあ、いいさ。さっきも言ったが、あたしは気分が悪い。しばらく散歩でもしてくるさ。ただし、あたしがいない間に、何か妙な事をしたら、容赦はしないからね!」
 ホーレムスの女性がフンと鼻を鳴らした後、気分が悪そうにしながら森から出ていった。
「あの女性が魔女……ですか。私も、偶然ケルベロスとして拾われたので今の人生がありますが、そうでなければ、彼女のように……」
 伊礼・慧子(花無き臺・e41144)がホームレスの女性の背中を眺め、複雑な気持ちになった。
 確かに、見た目は魔女っぽいが、実際は非力な女性。
 何の根拠もない噂が独り歩きしてしまった結果、魔女と揶揄されるようになったのだろう。
 その背中に寂しさと悲しみを感じつつ、彼女の姿が見えなくなるまで、その背中を見送った。
「オルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥガァァァァァァァァァァァァァァァァァン!」
 次の瞬間、ダモクレスと化した電子オルガンが、耳障りな機械音を響かせながら、手当たり次第に木々を薙ぎ倒し、ケルベロス達の前に現れた。
 ダモクレスは機械化した魔女のような姿をしており、悲しげで不安になる音色を奏でながら、ケルベロス達に襲い掛かってきた。
「オルガンの音色は好きですけど、ダモクレスと化したオルガンの音は雑音そのものですね」
 それと同時にアクア・スフィア(ヴァルキュリアのブラックウィザード・e49743)が嫌悪感をあらわにしながら、その場から飛び退いた。
「オルゥゥゥゥゥゥゥゥゥガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!」
 そこに追い打ちを掛けるようにして、ダモクレスが距離を縮め、不安な気持ちになる音色と共に、超強力なビームを放ってきた。
「ちょっと! いきなり攻撃をしてくるなんて、酷いじゃない! まだ何もしていないのに……。まあ、これで攻撃する理由も出来たけど……。こんな事をして、ただで済むと思ったら大間違いなんだから……!」
 そう言って佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)が、ダモクレスの放ったビームを避けつつ、一気に距離を縮めていった。

●ダモクレス
「オルガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン」
 ダモクレスが苛立った様子で、ケルベロス達に突っ込んできた。
 そこに迷いはなく、ケルベロス達を殺すという強い意志が感じられた。
「なんで、そんなに苛立っているの? 捨てられた後だって、あんたを使ってくれた人がいたのに……。なーんだ。捨てられた後だって、あんたを使ってくれる人がいるんじゃない。そんな機械とくっついてるより、よっぽどいいんじゃないかしら?」
 レイが不満げな様子で、ダモクレスに語り掛けた。
「オルガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアァァァァァン!」
 だが、ダモクレスはケモノの如く耳障りな機械音を響かせ、再び音符型のビームを放ってきた。
 それは不気味な音と共に、ケルベロス達に襲い掛かり、音符型の痕を刻み込んだ。
「話が通じる相手ではありません! 早くこちらに!」
 その事に危機感を覚えた慧子が、レイと一緒にビームを避け、ステルスツリーを発動させた。
「仲間を護る属性の力よ、盾となれ」
 それに合わせて、タキオンがエナジープロテクションを発動させ、『属性』のエネルギーで盾を形成した。
「オルガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!」
 それでも、ダモクレスは怯まない。
 まるで恐怖の感情が欠落しているのではないかと錯覚してしまう程、迷いはなかった。
 機械型の魔女もダモクレスを煽るようにして、不気味な歌声を響かせ、ケルベロス達を不安な気持ちにさせた。
「この凍気で、貴女を凍結させてあげるわ」
 それを迎え撃つようにして、バニラがクリスタライズシュートを仕掛け、射出した氷結輪でダモクレスを斬り裂き、強烈な冷気で凍てつかせた。
「オルガァァァァァァァァァァァァァァァァアァァァァァァァァァァン!」
 その途端、ダモクレスのボディが凍り付き、機械化した魔女の口から呪いの言葉が漏れた。
「このハンマーの一撃を、受けると良いですよ!」
 それと同時に紅葉が轟竜砲を仕掛け、ダモクレスのボディをヘコませた。
「オルガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!」
 次の瞬間、ダモクレスが耳障りな機械音を響かせ、音符型のアームを伸ばした。
 そのアームは不気味な音を奏でながら、ダモクレス達に襲い掛かってきた。
「いくら腕を生やしたところで、私達は止められませんよ!」
 すぐさま、慧子がシャドウリッパーを仕掛け、影の如き視認困難な斬撃を繰り出し、ダモクレスのアームを斬り落とした。
 斬り落とされたアームは耳障りな音を響かせ、地面を跳ねるようにして転がった。
「オーラの弾丸よ、敵に喰らい付きなさい!」
 続いて、バニラが気咬弾を仕掛け、オーラの弾丸を放って、ダモクレスに食らいつかせた。
「オルガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアン!」
 しかし、ダモクレスは耳障りな機械音を響かせ、狂ったようにアームを振り回した。
 それに応えるようにして、機械化した魔女が、人々を不安な気持ちに誘う音色を響かせた。
「耳障りですね、本当に……」
 その音色から逃れるようにして、紅葉が月光斬を仕掛け、緩やかな弧を描く斬撃で、ダモクレスのアームを斬り落とした。
「……残りは凍らせてしまいましょう」
 その間に、アクアがアイスエイジインパクトを仕掛け、生命の『進化可能性』を奪う事で凍結させる超重の一撃を放って、ダモクレスのアームを氷の中に閉じ込めた。
「薬液の雨よ、皆を清め給え」
 一方、タキオンはメディカルレインを発動させ、薬液の雨を戦場に降らせて、仲間を癒した。
「オルガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアァァン!」
 その事に腹を立てたダモクレスが、壊れたアームを振り回した。
 だが、それは意味のない攻撃……。
 例え、当たったところで、タンコブが出来る程度のダメージしか与えられないモノだった。
「スライムよ、敵を貫きその身を蝕みなさい」
 その隙をつくようにして、アクアがケイオスランサーを発動させ、ブラックスライムを鋭い槍の如く伸ばし、ダモクレスの身体を貫いて汚染した。
「オルガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアァン!」
 その苦しみから逃れるようにして、ダモクレスが音符型のミサイルを放ってきた。
 音符型のミサイルは地面に落下すると大爆発を起こし、大量の破片を飛ばして、ケルベロス達の身体を傷つけた。
「……って、まだ準備が……! なんで重いの、このルーンアックス……。ちょっと待って! せめて振り上げてから……って聞いてないし!」
 そんな中、レイがルーンアックスを振り上げる事を止め、雨の如く降り注ぐミサイルを避けた。
「竜砲弾よ、敵の動きを止めてしまいなさい!」
 それと同時に、バニラがダモクレスの死角に回り込み、轟竜砲でハンマーを『砲撃形態』に変形させ、機械化した魔女目掛けて振り下ろした。
「オルガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン」
 その一撃を喰らったダモクレスが、断末魔にも似た機械音を響かせ、崩れ落ちるようにして動かなくなった。
「皆さんお疲れ様です、お怪我はありませんか?」
 その事を確認した後、紅葉が仲間達に駆け寄った。
 仲間達はみんな怪我をしていたが、深刻なレベルではないようだ。
「……とは言え、なるべく早く修復した方が良さそうですね」
 そんな中、アクアが辺りの様子を確認した後、すぐさまヒールを使って、戦闘で破壊された木々を修復し始めた。
「それなら、電子オルガンのヒールを優先しましょうか」
 タキオンがダモクレスだったモノの中から、電子オルガンのパーツを拾い上げた。
「……そうね。すぐにヒールをかけて、女性に返してあげましょう。どんな理由でも誰かに必要とされるのって嬉しいはずだもん。でも今度からは楽しい曲も弾いてよね♪」
 そう言ってレイがヒールを使い、電子オルガンを修復した。
「……どうか、これからは安らぎを……」
 そう言って慧子が祈るような表情を浮かべ、修復された電子オルガンを眺めるのであった。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年7月7日
難度:普通
参加:6人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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