ビッグホエール追撃戦~水底に潜む巨影

作者:椎名遥

 戦争は終わった。
 不死のレプリゼンタ・カンギは死亡し、ユグドラシルゲートは破壊されて。
 大阪城に根を張り拠点を作り出していたユグドラシルは、枯死と暴走の果てに力を失った。
 要塞ヤルンヴィドは健在ではあるものの、拠点が失われた今となってはこの地にとどまる理由もない。
 時間はかかり、一度ならず戦いも繰り広げられるかもしれないが――それでも、大阪の街は人々の元へ取り戻すことができたのだ。

 ――だが。

 未だ警戒が続く大阪の街から見える、大阪湾の海の底。
 戦争も復興も無縁とばかりに静まり返った海底に、無数の影があった。
 海上を行き来する目に留まらぬよう、動かず、物音を立てず。
 ただの木石と見紛うように身を潜めるその影は――無論、瓦礫や魚などではありえない。
 巨大ダモクレス『ビッグホエール』。
 大阪城の地下港に係留され、討たれることなく終戦を迎えた潜水艦型ダモクレスは、今、大阪湾の底に身を沈めている。
 ――新たな戦いへと向かうために。


「皆さん、『ユグドラシル・ウォー』での戦い、お疲れさまでした」
 集まったケルベロス達を見つめると、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は深々と一礼する。
 大阪城を拠点とする攻性植物との決戦『ユグドラシル・ウォー』は、ケルベロス達の勝利に終わった。
「これによって、地球における攻性植物の脅威は、ほぼ無くなったと言えるでしょう」
 無論、残党の存在もあるために、攻性植物との戦いが完全に終わったわけではないが。
 それでも、大きな区切りを越えたと言えるだろう。
「また、大阪城から姿を消した勢力については、現在も調査と探索を続けています」
 エインヘリアルやダモクレスを始め、大阪城攻性植物と協力関係にあった勢力は多い。
 暴走したユグドラシルと共に姿を消したそれらの勢力が、いずれ新たな動きを見せるということは想像に難くないだろう。
「今はまだ、十分な情報は得られていませんが――その一方で、大阪城周辺に取り残された勢力について、いくつかの所在が判明しました」
 そう言って、セリカは大阪周辺の地図を示すと、その一点にペンで赤印をつける。
「こちらの、大阪湾の底にダモクレスの潜水艦隊が潜んでいます」
 それは、大阪城の地下港に係留されていた『ビッグホエール』型の潜水艦型ダモクレス。
 終戦後の混乱に乗じて、地下トンネルを通り大阪湾へと逃げ延びたものと思われる。
「現在、潜水艦隊は、動力を停止して大阪湾の海底に潜んでいます」
 急いで脱出しようとすればケルベロスの追撃を受けると考えて、ほとぼりが冷めて隙ができるまで身を潜めることを選んだのだろう。
 とはいえ、それは気付かれてしまえば逆に窮地に陥る手でもある。
「動きを止めている今がチャンスです。この機を逃さず、潜水艦隊の撃破をお願いします」
 そう言って、セリカは作戦の説明に入る。
「作戦は、大きく分けて二通りのものとなります」
 一つ目の攻略法は、ビッグホエールと戦い撃破するというもの。
 二つ目の攻略法は、ビッグホエールの内部を制圧して撃破するというもの。
「一つ目の攻略法の場合、動きを止めているビッグホエールに奇襲を仕掛け、そのまま畳みかけて撃破することになります」
 攻撃を受ければ、相手も戦闘態勢に入り迎撃を仕掛けてくるが、最初の一手だけは完全に無防備な状態で受けるために回避も防御もできず、最大レベルのダメージを与えた上での戦いとなる。
 その上で、ビッグホエールはケルベロスの一角を崩して脱出しようとするために、戦闘不能者が出ないように戦う必要が出てくるだろう。
「二つ目の攻略法の場合、ビッグホエールに静かに近づき、非常用の出入り口を破壊して内部に潜入して艦長のいる中枢を制圧することになります」
 動力を切って周囲の索敵も最低限に留められているため、隠密行動に注意すれば予知されている出入り口まで達することは十分可能だろう。
 そして、潜水艦内部は資材が満載されて通路なども塞がれている為、潜入できればその後はほぼ一本道で艦長のいる中枢に向かう事が出来る。
 その上で、艦長である艦隊司令『キャプテン・ホエール』および護衛のガジェットシーカーと戦い倒すことが出来れば、ビッグホエールも自壊して撃沈することとなる。
 どの作戦でも長所もあれば短所もある。そして、どれであっても楽な戦いになることは無いだろう。
 自分達の得手不得手と相談して、作戦を練り上げて。
「どの攻略法を選ぶかは、皆さんにお任せします」
 そこまで語ると、セリカは一旦目を伏せて――そして、顔を上げるとケルベロス達をまっすぐに見つめる。
「それでも、ダモクレスを逃すわけにはいきません」
 司令官や潜水艦と言った戦力だけにとどまらず、ビッグホエールに満載されている資材は、そのまま資源不足のダモクレスにとって大きな利益となる。
 それは、今後の動きでダモクレスが主導権を握ることにもつながりかねない。
 だからこそ、
「ユグドラシル・ウォーの追撃戦です。逃さずここで、終わらせましょう!」


参加者
板餅・えにか(萌え群れの頭目・e07179)
ジュリアス・カールスバーグ(山葵の心の牧羊剣士・e15205)
浜本・英世(ドクター風・e34862)
夢見星・璃音(災天の竜を憎むもの・e45228)
副島・二郎(不屈の破片・e56537)
リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)
ルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107)
狼炎・ジグ(恨み貪る者・e83604)

■リプレイ

 大阪湾の海の底。
 未だ無数の瓦礫が残る中を、ケルベロス達は進む。
(「――」)
 ゆらり、と視界をよぎった影に、狼炎・ジグ(恨み貪る者・e83604)はそっと右手を挙げる。
 それは、打ち合わせていた『止まれ』のサイン。
 僅かな泥煙を残して泳ぎ去る魚影を見送ると、板餅・えにか(萌え群れの頭目・e07179)は後ろを振り返り、
(「大丈夫。気づかれてない。けど、そのあたりは泥が溜まってるから気を付けて」)
 傍らを指さし、ハンドサインと合わせてえにかが伝える情報を、夢見星・璃音(災天の竜を憎むもの・e45228)と副島・二郎(不屈の破片・e56537)は頷き仲間達へと接触テレパスで情報を伝え。
 さらにその後ろを、十分に距離をとって水底を泳ぐルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107)と、彼女の後ろをややぎこちなく泳ぐリリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)がついてゆく。
(「さて、お次は索敵の薄そうな所、死角……」)
 それを確認すると、安全なルートを見極めつつジュリアス・カールスバーグ(山葵の心の牧羊剣士・e15205)は静かに先へと進む。
 岩や何かの残骸の影に身を隠し、時折明滅する戦艦のサーチライトをかわし、静かに、ゆっくりと。
(「まあ、予想通りではあるね」)
 そのまま、見つかることなく出入口まで到着すると、扉から伝わる硬い感触に浜本・英世(ドクター風・e34862)は小さく息をつく。
 流石に、扉を壊せば気付かないはずは無いだろう。
 ――故に、ここからは速攻勝負。
 表情を改め、ジュリアスはえにかと共に得物を構える。
(「ここまで近づけば……雷刃突撃ィ!」)
 突き出す刃が扉に叩き込まれ、駄目押しとばかりにえにかが撃ち込む如意棒が扉を吹き飛ばし。
 衝撃がビッグホエールの巨体を揺らし、休眠状態だった各所に緊急事態を知らせるように赤の光が灯る。
 戦艦が動き出すよりも早く、ケルベロス達は開いた扉へと身を躍らせる。
 破壊された扉をくぐり、もう一つ設置されていた二重のハッチも跳ね飛ばし。
 そうして周囲を見回せば、戦闘も可能なほどに広い通路を埋め尽くす、無数のコンテナや木箱、段ボール箱の数々。
「……資材詰め込みすぎては? いや、先の戦争では火事場泥棒が目的だった?」
 その光景に、ジュリアスは呆れたように呟きを漏らし、
「中枢は――」
「向こうだ」
 警報が響く中、周囲を見回すルーシィドに二郎が応える。
 隔壁の音、周囲の気配、そして何より、
「通路が塞がれるほど資材を積んでるのに非常口への通路だけは確保されている。ヨシ」
 入口を指さし、振り返って通路の奥を指さすえにかの言葉の通り。隠れ潜む余地も無い程に積まれた荷物が、中枢への道を示している。
「行こう!」
 璃音に頷き通路を走りつつ、ジグは拳を握りしめ。
「よく作ったもんだぜ、こんな馬鹿デカい粗大ゴミをよ……」
「ダモクレスのゲート、まだ見つかっていないしね。こんなところで力を付けさせるわけにはいかないよ」
 リリエッタもまた小さく頷いて得物を握りしめる。
 その視線の先、通路の突き当りにあるのは、ひときわ立派な扉――艦長屋。
「さあ――」
「行くよ!」
 そのまま足を止めることなく、ジグとリリエッタが突き出す拳が扉を砕き。
 そうして、ケルベロス達は戦いの舞台へと走りこむ。


 飛び込んだ部屋の中。
 艦長室の中央に立つのは一人の金髪の女性型ダモクレス。
「ようこそケルベロス諸君」
 左右に鋼の兵士『ガジェットシーカー』を控えさせ、潜水艦の艦隊司令『キャプテン・ホエール』はケルベロス達に相対する。
「あら敵司令は予想以上に見目麗しい? やること変わらないですけど」
 ふむ、とジュリアスは息をつき。
 その側で、璃音とえにかは一歩踏み出して、
「お久しぶりだね、大阪城の地下以来かな?」
「あの時はきちんとご挨拶できませんでしたからね。えにかさんです。改めましてよろしくお願いしますぜキャプテン」
 視線を外さず語り掛ける二人に、キャプテンも一度小さく頷くと笑みを浮かべる。
「ああ、君達はあの時の……覚えているとも」
「地下に戦争にと何度もご挨拶の機会があったのに失礼いたしましたね」
「いやいや、こちらこそ何度も客人をタダで返すとは礼を失していたよ」
 肩をすくめて笑うキャプテンに、えにかも笑顔で言葉を返し、
(「護衛は、全部で三体」)
(「逃げ道は……見る限り無い、かな?」)
 その背後では、ルーシィドとリリエッタが周囲に視線を走らせて情報を集め。
 同時に、キャプテンもまた、言葉を交わしながらもケルベロス達へ視線を走らせている。
 交わす言葉は和やかに。
 されど、部屋を満たすのは張り詰めた戦意。
 そして、
「では、そろそろ始めますか」
「ああ、名残は尽きないが」
 そうして一度、えにかとキャプテンは視線を交わし頷き合い。
 直後、
「あの時は警報鳴らされて帰るしかできなかったけど今日は帰る気はないよ!」
「退かざるを得なかったあの一件は不完全燃焼だったのだよ。きっちり始末をつけさせてもらうよ」
 璃音と英世が得物を構えて地を蹴ると同時、
「歓迎しよう、盛大にな!」
 キャプテンが指を鳴らせば、左右に控えるガジェットシーカーが腕に装着されたドリルミサイルを撃ち放ち。
 同時に、天井や壁、床など部屋のあらゆる場所から現れた銃口から銃弾が撃ち出され、
「歓迎ありがとうございます」
「ですが、やらせません――万邪駆逐! 急急如律令!」
 それらをえにかが振るう如意棒が焼き払い、御札を通して善き霊を憑依させたジュリアスが切り払う。
 続けて、距離を詰めようとするガジェットシーカーを二郎が混沌の波で牽制すると共に、周囲の銃口を薙ぎ払えば。
 ルーシィドが超感覚を覚醒させる光を放ち、英世が百戦百識陣を展開すると同時に、
(「キャプテンはクラッシャー、護衛全員がディフェンダーだ」)
「うん。なら――」
 すれ違いざま、二郎から接触テレパスで伝えられた情報に頷きを返し、リリエッタの蹴りだす星型のオーラが、主を庇って混沌の波を受け止めていた護衛に撃ち込まれ。
 そのまま畳みかけようと、璃音がその足に流星の煌めきを宿して踏み込み、
「――いい動きだ」
「――っ!」
 直後、視界の端をよぎった銀光に反射的に身をひねり。狙いを変えて繰り出す蹴撃が、首筋を狙う剣閃をぎりぎりでそらす。
「かわすか。流石はケルベロス、と言ったところか」
「潜入の時は逃げるしかできなかったからね。今日は思いっきりやらせてもらうよ?」
 続けて振るわれる刃をかわすと共に、反撃の蹴撃がキャプテンを退かせ。
 反動で距離をとる璃音に、再度追撃をかけようとするキャプテンの剣をえにかの如意棒が受け止める。
「いろいろ積み込んだみたいですけど、大阪土産の美味しい物もちゃんと買い込みましたかね?」
「もちろんだとも。饅頭からケーキまで余さずね!」
「ご当地限定のコンビニ弁当も良いものですよ」
「ああ、それもいいな。だがそれ以上に――最高の土産は、諸君らの首だろう?」
 ジュリアスも加えて、二人がかりで繰り出す攻撃がキャプテンを抑え込み――それらを振り抜く軍刀が押し返し、左の手でジグを指させば虚空から現れた砲口がジグを狙って火を噴く。
「っ……高くつくぞ、俺の首は」
 されど、倒れることなく砲撃を受け止めて。
 力を込めて得物を握り、振り抜くジグのチェーンソー剣の一閃が、一体のガジェットシーカーを両断する。
「抜錨は済ませたか? 海底へと出航するための錨上げをよ」
「安心していい。この船は沈まないし、途中で客人を降ろすこともないからね!」
 剣を突き付けるジグに、キャプテンもまた軍刀を突き付けて答えを返し。
 そして、両者同時に地を蹴って再度ぶつかり合う。


 銃弾、砲撃、ミサイルにレーザー。
 部屋を埋め尽くさんばかりに乱舞する無数の弾幕を、受け止め、かわし、打ち払い。
「ガラクタごと海底深くに沈めてやる」
 ジグの繰り出すブーストナックルとガジェットシーカーのドリルがぶつかり合い。
 止められながらも踏み込み、突き出すジグの拳がガジェットシーカーを押し返して体勢を崩せば、回り込んだリリエッタの旋刃脚がガジェットシーカーを捉えて跳ね飛ばす。
 同時に、逆方向から璃音が放つレゾナンスグリードが、受け止めたもう一体のガジェットシーカーを跳ね飛ばし、
「いい位置です」
 互いに跳ね飛ばされ、一ヶ所にまとまったガジェットシーカーを狙って、英世はマルチプルミサイルを展開する。
「おっと、それはさせないよ」
 それを放たせまいと、キャプテンが展開する銃口が英世へと向けられる。
 突き込むえにかの如意直突きもかわし、銃弾の雨が英世に降り注ぐも――、
「残念、ハズレわんこです」
 如意棒を避け、わずかに生まれた間に滑り込んだジュリアスが、ルーシィドの大自然の守りを受けながら銃弾を受け止めて。
 その機を逃さず、英世が撃ち込むマルチプルミサイルがガジェットシーカーを撃ち砕き、なおも耐えた最後の一体を二郎のフロストレーザーが破壊する。
「これで残るはキャプテンのみ、だが……」
 凍て爆ぜるガジェットシーカーを見届けることなく、二郎が視線を巡らせた先。
「は、ははっ。素晴らしいなケルベロス諸君!」
 護衛を倒した余勢を駆って、英世が打ち込むマルチプルミサイルを切り払い。
 追いすがるえにかを踏み込みひとつで置き去りにして、キャプテンが駆ける。
 璃音のスターゲイザーを軍刀で受け流し、押し返すと同時に周囲から生まれた銃口が璃音を捉え、
「やらせま――」
「ああ、まずは君から倒させてもらおう」
 割り込み、受け止めようとしたジュリアスへと、その銃口は向きを変える。
「あ、やばっ――おッぶぇ!?」
 無数の銃弾を受け、ジュリアスは大きく跳ね飛ばされて、
「万邪駆逐! 急急如律令! そろそろきつくなってきましたよ!」
「大丈夫です、この状態からでも入れる保険があるんですよ!」
 再度取り出した御札の回復に加え、えにかの保険の勧誘っぽい治癒も合わせて、即座に起き上がると追撃の銃弾をかわしながらジュリアスは距離をとる。
 痛打を受けたとはいえ、まだ余裕はある。
 とはいえ、護衛を倒すまでの間、キャプテンを止め続けていた消耗は決して軽いものではない。
「時間との勝負ですね――ご安心下さい 茨の棘に刺されても あなたがたは決して死にません ただ眠り続けるだけ」
 ルーシィドの袖から溢れ出した緑の茨が仲間達を包み込み――その茨は、一瞬の後には夢のように溶けて消えて、跡形も残らない。
 けれど、そこに残るのはわずかな癒しの残滓。
 傷を癒し、力を回復させて、いましばらく戦うだけの活力を与える夢の名残。
 その癒しを受けて、二郎が撃ち込む轟竜砲が踏み込むキャプテンの足を縫い留めて。
 動きが止まった隙を突いて、飛び込んだリリエッタとジグの降魔真拳がキャプテンを退かせ。
 体勢を立て直すキャプテンを、英世のドラゴンサンダーが押し返す。
「君の手勢は確かに強力だが、故に今ここで沈んでもらうよ、キャプテン」
「それは――光栄だ!」
 パズルを掲げて見据える英世に笑みで応え、再度駆けるキャプテンとケルベロスが激突する。
 ぶつかり合い、相殺し、かわし、逸らし、身を穿っては回復して再度ぶつかり合い。
 そうして、
「……ちっ」
 幾度目かの拳打を受け流され、ジグはわずかに表情をゆがめる。
 彼の手札は、その全てが頑健に属するグラビティ。
 必然、初撃以降は見切りを受けることは避けられない。
 それでも同格が相手であれば、特化した能力で対応できただろうが――相手はビッグホエール艦隊司令『キャプテン・ホエール』。
 戦闘が本領でないとしても、その実力はこの場にいる誰よりも高い。
 繰り出す拳も斬撃も、そのことごとくが空を切り、
「それで終わりか? なら――これで終わりだ」
 拳を受け流され、体勢を崩したジグの首筋へとキャプテンの刃が閃く。
 そして――、
「――捕らえたぞ」
 ガチリ、と鈍い音を立て、紅く光を放つ右腕が刃を掴み取る。
 見切られようが、相手が格上であろうが、わずかでも牙を届かせる目があるならば、それで十分。
 解き放たれる恨みの念が拳を通して巨大な咢を作り出し、キャプテンの身を捕らえて壁へと叩きつける。
「てめぇには水底がお似合いだ。聞いたことくらいあんだろ? 船長は船と運命を共にするってよ!」
 渾身の一撃が轟音と共に船を揺らがせ、ひび割れた壁からは海水が流れ込みだすも――いまだ倒すには至らない。
 それでも、流れは変わった。
「ルー、力を貸して!」
「リリちゃん、力を貸してください」
 ここを勝負所と、リリエッタとルーシィドは視線を交わして頷き合い、互いに手を繋いで魔力を高め。
「……やらせ、ない!」
「いいえ、やらせていただきます」
 それを完成させまいと、立ち上がったキャプテンの撃ち出す無数の銃弾を、紅蓮の炎を纏ったえにかの如意棒が焼き払い。
 炎の残滓が消えるよりも早く、二郎が放つ青黒い混沌の水がキャプテンへと絡みつく。
「――最早、逃れられんと知れ」
 混沌を通して送り込まれるのは『痛み』『冷たさ』『粘つき』を始めとするありとあらゆる『不快感』。
 情報の奔流がキャプテンの動きを鈍らせ、意識をそらし。
「……切り裂け、ギア・スラッシャー!」
「ここで逃がすわけにはいきませんね。お覚悟を」
 英世が操る三枚の歯車状の刃と、ジュリアスの絶空斬。
 閃く四つの白刃がキャプテンを切り裂き、その身を縛る呪縛を倍加させて動きを縛り。
 ――そうして、術は完成する。
 リリエッタとルーシィド。二人の繋いだ手を通して流れる互いの魔力は、循環する中でその密度を高めてゆき。
「――これで決めるよ」
「――これで決まりですわ」
 一瞬だが限界以上まで高まった魔力を込めて、作り出すのは一つの魔弾。
 荊棘の魔力を込め、どこまでも敵を追いかけ喰らい付く死ヲ運ブ荊棘ノ弾丸。
「「スパイク・バレット!」」
 撃ち出す魔弾はキャプテンを捉え、その半身を抉り取り。
 それでもなお、倒れず立ち上がるキャプテンへと、蒼と紫の翼を広げて璃音は剣を向ける。
「……まだ、まだだ」
「終わりにするよ。この手に宿すは星の魂……蹂躙され続けてきた、地球の思い!」
 潜入の時は逃げることしかできなかった。
 戦争の時は相対できなかった。
 これが三度目。ここで終わらせる。
 火・水・風・土・雷・水・光・闇の八属性の魔力が璃音の手の中に収束し、作り出されるのは一振りの巨大な光剣。
 振り抜く光刃はかざす軍刀もろともにキャプテンを切り裂き、
「開け、新世界の扉! ステラーっ、グラディオー!」
 続けて放つ返しの刃が、胴を両断されてなお銃を呼び出そうとするキャプテンを断ち切り、戦いに終わりを告げた。

作者:椎名遥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年7月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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