怪電波に宿りし言葉

作者:ゆうきつかさ

●都内某所
 公園の敷地内に転がっていたのは、ポータブルラジオであった。
 そこはワンコ達にとっての散歩コース。
 毎日ラジオを聞きながら、散歩をしていた男性が落としたまま、見つからなかったシロモノ。
 それが雨ざらしになって、幾つもの年月を重ね、ドロと一体化したモノが、超小型のダモクレスに機械的なヒールを受けた。
「ポータブルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
 次の瞬間、ブルドッグを機械化したようなダモクレスが耳障りな機械音を響かせ、獲物を求めて公園で暴れまわるのであった。


●セリカからの依頼
「ルピナス・ミラ(黒星と闇花・e07184)さんが危惧していた通り、都内某所にある公園で、ダモクレスの発生が確認されました。幸いにも、まだ被害は出ていませんが、このまま放っておけば、多くの人々が虐殺され、グラビティチェインを奪われてしまう事でしょう」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
 ダモクレスが確認されたのは、都内某所にある公園。
 この場所はワンコ達にとっての散歩スポットであり、交流の場でもあったらしい。
「ダモクレスと化したのは、ポータブルラジオです。このままダモクレスが暴れ出すような事があれば、被害は甚大。罪のない人々の命が奪われ、沢山のグラビティチェインが奪われる事になるでしょう」
 そう言ってセリカがケルベロス達に資料を配っていく。
 資料にはダモクレスのイメージイラストと、出現場所に印がつけられた地図も添付されていた。
 ダモクレスはポータブルラジオの電波を受信しながら、何か言葉を発してくるものの、だからと言って知性が高い訳ではないようだ。
 あくまでラジオから発せられた言葉を組み合わせ、それっぽく喋っているだけ……らしい。
「とにかく、罪もない人々を虐殺するデウスエクスは、許せません。何か被害が出てしまう前にダモクレスを倒してください」
 そう言ってセリカがケルベロス達に対して、ダモクレス退治を依頼するのであった。


参加者
ルピナス・ミラ(黒星と闇花・e07184)
カシス・フィオライト(龍の息吹・e21716)
花見里・綾奈(閃光の魔法剣士・e29677)
雪城・バニラ(氷絶華・e33425)
伊礼・慧子(花無き臺・e41144)
海原・リオ(鬼銃士・e61652)
青凪・六花(暖かい氷の心・e83746)
佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)

■リプレイ

●都内某所
「まさか、わたくしが警戒していたダモクレスが本当に現れるとは……。これは人々に危害が加わる前に、わたくしが倒さないといけませんね」
 ルピナス・ミラ(黒星と闇花・e07184)は仲間達と共に、都内某所にある公園にやってきた。
 この場所はワンコ達の散歩コースであったが、ダモクレスが現れるという事で、キープアウトテープを周囲に張って人払いをしておいた。
 そのため、いつも散歩をしているワンコ達が、困り顔。
 『えっ? ここを通ったら駄目なの!? ボクのナワバリがあるのに!』と言いたげな様子でションボリとしていた。
「それにしても、最近はダモクレスの事件が多いね。ともあれ、俺たちは一つずつ事件を解決していくのみだけど……」
 カシス・フィオライト(龍の息吹・e21716)が、自分自身に気合を入れた。
 何かの前触れなのか、それとも偶然なのか分からないが、とにかくダモクレス絡みの事件が多い。
 それでも、最悪の事態になる前に撃破できたのだから、大きな問題になる事はないだろう。
「それにしても、ポータブルラジオがダモクレスと化すなんて……。今はスマホの時代ですから破棄されるのも仕方ないのでしょうけど……」
 その間に、花見里・綾奈(閃光の魔法剣士・e29677)がプリンセスモードを発動させ、人々を励ましながら人払いをした。
「だからと言って、犬たちには何の罪も無いのだから、此処で被害が出てしまうのは可哀そう過ぎるわ。必ず、被害を出さずダモクレスを倒しましょう」
 一方、雪城・バニラ(氷絶華・e33425)は殺界形成を使った後、身振り手振りを使ってワンコ達の説得を試みた。
「……!」
 それでも、ワンコ達は納得していない様子であったが、飼い主にリードを引っ張られ、しぶしぶ公園から離れていった。
「まあ、どんなダモクレスが相手であれ、私は最善を尽くすのみだ。人々に危害を加えるものは容赦しない」
 海原・リオ(鬼銃士・e61652)が、警戒心をあらわにした。
「ポータブルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
 次の瞬間、茂みの中からダモクレスが現れ、耳障りな機械音を響かせた。
「ホンジツハ、セイテンナリ、セイテンナリィィィィィィィィィィイ」
 ダモクレスは機械で出来たブルドッグのような姿をしており、様々な電波を受信しながら、意味不明な機械音を響かせ、ケルベロス達を威嚇した。
「ワオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!」
 それに応えるようにして、近所のワンコ達が一斉に遠吠えした。
 それが何を意味しているのか分からないが、背筋がゾッとするほど、不気味であった。
「このまま放っておいたら大惨事になるわね」
 それを目の当たりにした青凪・六花(暖かい氷の心・e83746)が、色々な意味で危機感を覚えた。
 ダモクレスが何を発しているのか分からないが、ワンコ達が大興奮しているため、笑って済ませる事は出来ないだろう。
「怪電波……の類なのでしょうか? 噂には聞いていましたが、実際のところ、違法電波だったりしたのでしょうか?」
 伊礼・慧子(花無き臺・e41144)がダモクレスの発した音声を録音しつつ、警戒した様子で間合いを取った。
 ダモクレスが発する音声は、大半が意味不明であったものの、何か意味があるようにも思えた。
 そのせいで、ダモクレスが発する音声を熱心に聞いてしまったが、その意味を理解する事は出来なかった。
「ホネツキニク、ダイスキィィィィィィィィィィィ!」
 ダモクレスが空に向かって、魂の叫びを上げた。
「ワォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!」
 それに応えるようにして、近所のワンコ達も魂の叫びを上げた。
「言葉を話すワンちゃんって珍しいけど、倒すしかないわよね。ちょっと可愛いから、勿体ない気もするけど……」
 そう言って佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)が複雑な気持ちになりつつ、ダモクレスに攻撃を仕掛けていった。

●ダモクレス
「イラッシャイマセェェェェェェェェェェェェェェェェェ!」
 ダモクレスが耳障りな機械音を響かせ、言葉の形をしたビームを放ってきた。
 その言葉は意味不明であったが、ケルベロス達に対する敵意だけは感じる事が出来た。
「雷の障壁よ、仲間を護る盾となれ!」
 すぐさま、カシスがライトニングウォールを展開し、ダモクレスが放ったビームを防いだ。
「さぁ、行きますよ夢幻。サポートは、任せますね……!」
 その間に、綾奈がウイングキャットの夢幻に声を掛け、言葉の形をしたビームを避けた。
「……!?」
 同じように夢幻も間一髪のところで避けたが、ほとんどギリギリ、冷や汗もの。
 背筋にゾッと寒気が走ってしまう程、ギリギリだった。
「いくら強力なビームだったとしても、当たらなければいいだけですわ」
 一方、バニラがダモクレスの死角に回り込み、轟竜砲でハンマーを『砲撃形態』に変形させ、竜砲弾を炸裂させた。
「確かに……そうですね」
 それに合わせて、慧子がステルスツリーを発動させ、ステルスリーフの効果範囲を広げる魔法の樹を足元から呼び出した。
「ワタシハ……ワタシィィィィィィィィィィィ……コノケショウスイデ……ウマレカワルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ」
 だが、ダモクレスはまったく怯んでおらず、再び言葉の形をしたビームを放ってきた。
 そのビームは先程と違って、化粧水の商品名になっていたが、おそらく深い意味は……ないだろう。
「私のガジェットの性能を、甘く見てもらうと困るわよ」
 それと同時に、リオが闇断ち紫炎(ヤミタチシエン)を発動させ、鋼鉄をも切り裂く紫色の炎をガジェットから放ち、ダモクレスの身体を炎に包んだ。
「だったら、凍えさせてあげるよ……!」
 続いて、六花が氷の吐息を吐きかけ、ダモクレスの発射口を凍りつかせた。
 その事に気づかず、ダモクレスがビームを放ったが、暴発して発射口が吹き飛んだ。
「ムカツク……イカリバクハツ……ツルペタ……ナイチチ……マナイタ……アホノコォォォォォォォォォォ!」
 次の瞬間、ダモクレスが怒り狂った様子で、ボディの中に収納されていたアームを一斉に伸ばした。
 それはラジオのアンテナのようであり、レイピアのようでもあった。
「何を言っているのか分からないけど、聞こえたわよ。つるぺた、アホの子って……! そもそも、まだ攻撃していなかったのに、なんでそんな事を言われなきゃ駄目なのよ! だから容赦はしないわ。ちょっと可哀そうだと思ったけど……。酷い事を言うなら許さない!」
 レイがスターゲイザーを繰り出し、流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りを放ち、ダモクレスを足止めした。
「薬液の雨よ、仲間を浄化せよ!」
 その間に、カシスがメディカルレインで薬液の雨を降らせ、傷ついた仲間の身体を癒した。
「本当に怒っているんだからね。だから謝るのなら、いまのうち……!」
 レイがダモクレスに語り掛けながら、フロストレーザーを放ち、アンテナ状のアームを凍らせた。
「ナイチチィィィィィィィィィィィィィィィイ! テッパァァァン!」
 しかし、ダモクレスは謝るどころか、レイを挑発ッ!
 その言葉の意味を理解していないのかも知れないか、レイのこめかみが激しくピクつき、わずかに残っていた慈悲の心が消し飛んだ。
「話をするだけ無駄ですね。適当に言葉を並べているようですし……。それよりも邪魔なアームを破壊してしまいましょう」
 ルピナスが仲間達に声を掛けながら、ジグザグスラッシュでナイフの刃をジグザグに変形させ、ダモクレスのアームを次々と斬り落とした。
「オーラの弾丸よ、敵に喰らい付きなさい!」
 それに合わせて、バニラが気咬弾を仕掛け、ダモクレスにオーラの弾丸をぶち込んだ。
「ホンジツハァァァァァァァァァァァァセイテンナリィィィィィィィィィ!」
 その事に腹を立てたダモクレスがアンテナ状のアームを構え、ケルベロス達に攻撃を仕掛けてきた。
「私が攻撃を防いでいる間に、早く……!」
 即座に慧子がエナジープロテクションで、『属性』エネルギーの盾を形成した。
「それじゃ、遠慮なく……。アームをすべて破壊してしまいましょう」
 その間に、綾奈が雷刃突を発動させ、雷の霊力を帯びた武器で、神速の突きを繰り出し、ダモクレスのアームを破壊した。
「魔導石化弾だ、その身を石に変えてやろう!」
 続いてリオがガジェットガンを仕掛け、ガジェットを『拳銃形態』に変形させ、魔導石化弾を発射し、ダモクレスのアームを石化した。
「これでアームも使い物にならなくなったわね!」
 次の瞬間、六花がチェーンソー斬りを仕掛け、ダモクレスのアームを一本残らず斬り落とした。
「ワンコ、マッシグラァァァァァァ! オイシイゴハンヲ、イタダキマァァァァス!」
 その途端、ダモクレスが耳障りな機械音を響かせ、ポータブルラジオ型のミサイルを飛ばした。
 そのミサイルは様々な電波を受信しつつ、次々と爆発を起こして、大量の破片を飛ばした。
「……たくっ! 小賢しい真似を……」
 その事に気づいたリオが、素早い身のこなしで、ミサイルを次々と避けた。
「……無限の剣よ。我が意思に従い、敵を切り刻みなさい!」
 すぐさま、ルピナスが暗黒剣の嵐(アンコクケンノアラシ)を発動させ、エナジー状の剣を無数に創造し、ダモクレスのボディを斬り裂いた。
「ワンコダイスキィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 それでも、ダモクレスは怯む事なく、再びミサイルを放とうとした。
「その言葉を否定するつもりはありませんが、ここで破壊します」
 次の瞬間、慧子が憑霊弧月を仕掛け、無数の霊体を自らの武器に憑依させ、ダモクレスを汚染した。
「デモ……ネコモ……スキィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 その一撃を喰らったダモクレスが、激しく痙攣をした後、崩れ落ちて動かなくなった。
「これで公園も平和を取り戻したかな?」
 六花がホッとした様子で、深い溜息を洩らした。
「これがポータブルラジオ……なのかしら? あたしはスマホでラジオを聞いているから、こういう物ってどんどん廃れていっちゃうんでしょうね。一つのもので何でもできるって便利だけど、なんか、ちょっとだけもったいないかも」
 レイがダモクレスの中にあったポータブルラジオを拾い上げた。
 それはほとんど壊れてしまっていたが、ヒールを使えば修復する事が出来そうだ。
「それにしても、あの言葉に何か意味があったのでしょうか?」
 そんな中、ルピナスがダモクレスの発した言葉を思い出し、不思議そうに首を傾げた。
 何か意味がありそうな気もするが、全く意味もないような気がした。
「深い意味はないと思うけど……違うのかな?」
 カシスが複雑な気持ちになりつつ、ダモクレスだったモノを見下ろした。
 ダモクレスだったモノは、ガラクタの山と化していたが、その間も意味不明の言葉を発していた。
 それは誰かに助けを求めているようでもあり、ケルベロス達を罵っているようでもあった。
 だが、その言葉も次第に小さくなっていき、最後には何も発しなくなった。
「……少し散歩してきますね」
 そう言って綾奈が辺りをヒールしながら、公園を散歩し始めた。
「また再びここが、平穏な散歩コースになりますように……」
 その背中を見送りながら、バニラは祈るような表情を浮かべるのであった。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年7月6日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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