わんこォォーーーー!!!

作者:星垣えん

●ですぞ
 可愛らしいもふもふが、そこかしこの床に座っている。
 都内某所に在るドッグカフェでは、多くの客が愛犬との時間をゆったり過ごしていた。
 誰かと連れ立ってやってきて、歓談しているという姿は多くない。
「これ美味しいねー♪」
「おかわりはダメだよー。最近食べすぎだからねー」
 コーヒーや紅茶で一服したり美味しい軽食を食べながら、連れてきたわんこと戯れる。あるいは人も犬も食べられるメニューを注文して一緒に楽しんじゃう。
 そんな微笑ましい姿が、店内には溢れていた。
 ――しかし、がらんとドアベルを鳴らした男が、その平和を一変させた!
「失礼しますぞ!!」
「いらっしゃいま……せ……?」
 応対に出た店員が、唖然とする。
 鳥だったからだ。
 胡散臭い喋り方で登場したその男が、鳥の人だったからだ。
 しかもただの鳥の人ではない。その手からは無数のリードが伸びていて、彼の後ろには大勢のわんこたちがいるのである。
「ドッグカフェなんて聞いたら、普通はわんちゃんが出迎えてくれるカフェだと思っちゃうでしょう! メイドカフェしかり猫カフェしかり! それをわんちゃん同伴OKぐらいで『ドッグカフェ』ですと!? 寝言は寝てからほざきなさい!!」
 カッ、と言いきった鳥が握ったリードを放す。
 自由を得たわんちゃんたちは店内に疾走。自由奔放に駆け回った彼らに客や愛犬たちはちょっかいをかけられて、店は一気にパニックを引き起こした。
「ふふ、わんちゃんがいっぱい! これでこそドッグカフェですぞぉぉぉぉ!!!」
 ひしめくわんこの鳴き声を聴きながら、鳥さんは満足げに高笑いするのだった。

●鳥より犬
「これは、迷惑だな」
「そうなんっす……大迷惑っすよ!」
 予知を聞いてふむふむするルイーゼ・トマス(迷い鬼・e58503)に、黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)がぶんぶんと首を縦に振る。
 わんちゃんを店に放つなんて。
 店にとっても大変だし、けしかけられたわんちゃんも可哀想だ。
 などと話しこむ2人に『デウスエクスに襲われるなんて危険極まりない』とかいう趣旨の発言は一切出てこない。もしかしたらビルシャナさんはデウスエクスとして認識されていないのかもしれない。
 そう思うしかない猟犬一同である。
「ともかくそういうわけっすから、皆さんにはこのドッグカフェに向かってほしいっす!」
「未然にわんこたちを止めるというわけだな。うむ」
 ようやく本題に入った2人だが、止めるのが鳥ではなく犬になっている。
 大丈夫なんだろうか。ビルシャナの立ち位置とか。
「信者はいないっぽいんで、わんちゃんたちを止めるだけで済む楽な仕事っすね」
 ダンテくん、そこ鳥ね。
 犬じゃなくて鳥ね。止めるの。
「わんこはきっと強敵だ。気を引き締めなくてはな」
 ルイーゼちゃん、だから鳥ね。
 きっと強敵だとか言われなきゃいけないのは鳥だからね。
「いっぱいいるからな。食い止めるのは難しいかもしれない。頑張ろう」
 キリッ、と確固たる眼差しで頷くルイーゼ。
 何を。何を頑張ればいいのだ。わんこ大軍勢を相手に何を頑張ればいいのだ。
 一向にやるべきことがわからねー猟犬たちだった。
 だが事態はどんどん抗いようもなく進んでいくわけでして――。
「さあ皆さん、準備ができたらヘリオンに乗って下さいっす! 自分が責任もってきっちりドッグカフェにお運びするっす!!」
「善は急げと言うからな。早いに越したことはないはずだぞ」
 ヘリオンに走ってくダンテを見送り、うむ、と頷くルイーゼ。
 かくして、猟犬たちはわんこ(を連れた鳥)を止めに行くことになったのだが――。
 割と大変な仕事になることを、このときは知る由もなかった。


参加者
泉賀・壬蔭(紅蓮の炎を纏いし者・e00386)
志場・空(シュリケンオオカミ・e13991)
小鳥遊・涼香(サキュバスの鹵獲術士・e31920)
エルム・ウィスタリア(薄雪草・e35594)
リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)
ルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107)
オルティア・レオガルデ(遠方の風・e85433)

■リプレイ

●運命
 晴々とした日差しが降る、路上。
「不覚ですぞぉぉぉ!!!」
「大人しくして下さい」
 泉賀・壬蔭(紅蓮の炎を纏いし者・e00386)に腕を固められ、鳥さんが地面に押さえ込まれていた。
 なぜこうなっているのかを説明しよう!
 まず鳥さんは犬と一緒にルンルン歩いてきた!
 そしたら店前で、
「わんこカフェとドッグカフェって違うんだね」
「言葉って難しいですわ」
 とか話してたリリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)とルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107)とかちあって「あっ」てな感じで魔力弾をぶちこまれた!
 そしてそこにすかさず壬蔭の飛び蹴りをくらい、現在の状況である!
「卑怯ですぞぉぉ!」
「たくさんのわんこをどこから連れてきたんですか!」
「ちゃんと躾はしましたか? この様子では出来てませんよね」
「腕がもげますぞぉぉ!?」
 ちょこんとしゃがみこんだルーシィドに尋問され、壬蔭に腕をぐいっと極められ、ばしばしとタップする鳥さん。
 しかし彼の訴えが誰かに届くことはない。
『わうっ! わうっ!』
「おそろしいもふもふ……いや、強敵なの。ねーさん、気合をいれていくよ……!」
「わ、わあ……もふもふ。もふもふがたくさん。幸せ空間です」
 すぐそこを歩き回ってる大量わんこを見て、小鳥遊・涼香(サキュバスの鹵獲術士・e31920)はウイングキャットにして親友のねーさんに無意味に頷き、エルム・ウィスタリア(薄雪草・e35594)はひたすらお目目きらきらしている。
 2人ともどこからどう見てもわんこに夢中である。
 鳥さんは悔しげに、嘴で地面を突いた。
「くっ、私の声が聞こえてませんぞぉ……! こうなれば私がわんちゃんより可愛くなるしか方法は――」
「わんこの相手は任せるっす!」
「ぐああああああーーーーっ!!?」
 シルフィリアス・セレナーデ(紫の王・e00583)の異形化した髪におもっくそ齧られ、絶叫する鳥。
「家からたくさんわんこグッズは持ってきたよ!」
「ぐああああああーーーーっ!!?」
 わんこ用のアイテムを抱えた志場・空(シュリケンオオカミ・e13991)から片手間の如意直突きをくらって、のたうち回る鳥。
 彼はやはり悔しげに嘴で地面を突いた。
「なぜです! 私はただドッグカフェという紛らわしい名称を改めてやりたいだけなのに……! なぜ――」
「……邪魔」
「アァァーーーーーッ!!?」
 パカラパカラと(レーシングマシンばりの速度で)路上を駆けてきたオルティア・レオガルデ(遠方の風・e85433)の蹄が鳥の後頭部を踏みつける。
 で、嘴で地面をツンツンしてる状態で喰らったもんですからね?
「んんっ! んむむーっ!」
 地面にぶっ刺さっていました。
「まだ生きてる……」
「しぶといっすね」
「でも殴っておけば倒れるよね」
「んんーーっ!?」
 地面とキスする鳥を囲んで話し合うオルティア&シルフィリアス&空。

 もちろんその絶望的状況から脱する術はなく、鳥さんはシュッと死んだ。

●戯れタイム
 2分後。
 猟犬たちは店内に立ち、惨状を目の当たりにしていた。
『ばうっ! ばうっ!』
「ちょ、えっ!?」
 鳥とかいう束縛から解放されたわんこたちは、思うままフリーダムしていた。
 もうほんと好き勝手に店内を蹂躙してて――。
「わんこ……もふもふ……」
「いけない! 落ち着いて!」
「はっ……こほん。失礼しました」
 危うくエルムがダイブを敢行するところだった。
 本当に危なかった。空が止めてくれなければ今頃は一般人に引かれていただろう。
「しかし数が多いですね」
「うん。しかもみんな動き回ってるから捕まえるのも難しそうだ……よし、ここはいったん私がわんこたちを引きつけよう!」
 言下、エルムの目の前で動物変身――ホッキョクオオカミの姿に変化する空。
 その白い毛並みと立ち姿は実に立派なものだった。
 柴犬サイズだけど。
「かわいい……」
「わふっ、わふっ」
「えっ、ああ、鈴が落ちてますね。これをつけるんですか?」
「わふっ」
 鈴を拾いあげたエルムに、こくりと頷く子オオカミもとい空。きゅっと体に括りつけてもらった彼女は全速力でわんこズに突っ込んだ。
「わふー」
『ばうっ! ばうっ!』
 近づいてきた空に気づき、何頭かのわんこが追いかけはじめる。とてとて小さな歩幅で駆ける子オオカミとわんこが戯れている姿は控えめに言っても可愛かった。
 しかしわんこズには大型犬も混じっていて――。
『ばうーーっ!』
「わふーー!?」
 あっという間に捕獲され、わしゃわしゃされる空。
 尊き犠牲(?)となった勇者を眺めて、シルフィリアスはその辺のテーブルにあったジュースを飲んだ。
「わんこの世界も厳しいっす」
「……うん。分かってはいたけど、収拾をつけるの、骨が折れそう……」
 何十というわんこの数を見てこの先の苦労を想像しちゃうオルティア。
 が、そう思いきや彼女は何やら神妙に考えこんだ。
「……骨……骨、か。それでは、これを……こう……!」
 ハッとなった彼女が取り出したのは骨っぽい犬用おやつ。
 空で遊ぶわんこたちにオルティアはそれを投げ込んだ。骨はころんと床に落ち、反応したわんこたちが空をポイッして群がる。
『わんっ!』
「今のうちに、リードで……確保……」
「わんこはチョロいっすねー」
 大きな体で苦心しながら犬にリードを結び付けてゆくオルティア。その作業を手伝いもせず傍観に徹することができるシルフィリアスは今日も絶好調だ。
 が、仕事をしないわけではない。
「たくさんのわんこを同時に相手はできないっすからね、まずはこれで気を引くっす」
「それは……」
「餌を入れたボールっす」
 訝しげに見てきたオルティアの前で、おやつボールをばらまくシルフィリアス。すると骨おやつ争奪戦からあぶれていた子が光の速さで殺到した。
『キャンキャン!』
「ほーら食べるっすよー。その角度いいっすねー」
 ボールで遊んでるわんこの周囲を回り、シルフィリアスが全方位から撮影を始める。
 シャッターを切る音が絶えることはない。あまりに熱心な仕事ぶりだ。あとで犬好きの友達にでも売りつけるのだろうか。
 一方、少し横では並び立つ壬蔭と涼香とねーさんの姿があった。
「では私たちも事態の収拾に」
 懐からおやつ(鹿アキレス)を取り出す壬蔭。
「そうだね、みかげさん。私もがんばるよ……!」
 壬蔭の横で真剣にボールを取り出す涼香。
 犬カフェを訪れてテンション爆上げになってるカップルに見えなくもなかったよね。
「遊ぶよ~こっちにお出で~」
 ボールを転がし、わんこを誘う涼香。
『わうーっ!』
 てててて、と涼香のボールを追うわんこ。ついでに音の鳴る玩具もぽいぽい放つと、涼香の周りにあっという間に犬が集まる。
 その上を、ねーさんが網を持って飛んだ。
『わんっ!!』
『ばうーっ!』
「ねーさん、その調子だよ!」
 涼香の立てた親指を無言で見つめるねーさん。その間も網はわんこたちのジャンプ攻撃を受けて、括りつけた鈴の音を鳴らしている。
 エルムはその狂騒の中に、膝をついて身を投じた。
「ほら、僕とも一緒に遊びましょう」
『ばうーーっ!』
「元気ですね。顔に飛びついてくるなんて」
 いの一番に反応したわんこを顔に引っつけたまま喋るエルム。犬を顔面に装備したさまは実にシュールだが、彼に振り払う素振りはない。
「もふもふ。もふもふです」
 むしろ喜んでいる。彼が無害であると理解したのか、わんこたちは続々とタックル敢行。瞬く間にエルムは犬の海に溺れてゆく。
「エルムさん羨まし……じゃなくて、みかげさん! 躾けるなら今の内に!」
「わかっているよ」
 ころころとボールを放ち続ける涼香に呼応して、動き出す壬蔭。
 素早く鹿アキレスやら犬用チーズやら容器に分けた男は、それをわんこたちの前に並べた!
『わうわう!』
 当たり前のようにがっつくわんこたち。
 彼らの姿をひとしきりニッコリ愛でた壬蔭は、しかしキリッと表情を引き締めた。
「お座り」
 出来る限り厳然と言い放つ壬蔭。
 だがわんこたちはガン無視。1頭とて壬蔭のほうを向いてくれない。
 壬蔭はおやつの器を取り上げた。
「お座りが出来たらオヤツ食べるよ。してないのに食べちゃダメでしょ」
『うーっ……』
「うーっ、じゃない」
『くーん……』
「くーん、でもない」
 悲哀に満ちたわんこの声にも動じない壬蔭。
「みかげさん、時間かかりそうだね……」
「噛まないから人に慣れてはいそうなんだが……」
「がんばって……!」
 長い戦いを見越した壬蔭に、涼香は両手をぎゅっとしてエールを送った。
 そんな微笑ましい2人の横を、リリエッタがとことこ小走りでわんこを追ってゆく。
「むぅ、中々捕まえられないや」
『わんっ!』
 ブラッシングセットを抱えたまま呟くリリエッタ。元気に走るわんこに鳥以上の手強さを感じた少女は作戦を変え、ドッグフードを取り出した。
「ほらご飯だよ。おいで」
『わんっわんっ!』
 くるりとUターンするわんこ。
 リリエッタはすかさずそこを捕まえ、脇に抱え込んでからリリエッタはもふもふとブラシをかける。
『わんっ!』
「元気なのはいいことだけど、時には大人しくしていないといいご主人様に出会えないぞ」
『わうーっ!』
 優しく毛並みを整えながら、わんこに話しかけるリリエッタ。
 そうしてわんこたちと徐々に心を通わせてゆく猟犬たち。
 ――が、そのとき、化粧室のドアが不穏に「がちゃり」とひらいた。
「夜なべして作っていたわんこ着ぐるみに換装完了ですわ! これでヤンチャなわんこたちを大人しくさせてみせます!」
 ルーシィドだった。
 店内にエアコンが効いていなければこの時季死んでいただろう厚手のわんこ着ぐるみを纏った女は、颯爽と四つん這いになる。
 そして、発進した!
「ワンワン! ワオー!」
 のしのしと四足歩行で繰り出したルーシィド犬!
 果たして人前にその姿を晒して大丈夫なのか!

●てーへんだ
 数分後。
「ワンワン! ワンワン!」
『ばうばうっ!』
「ワンワンワンッ!!!」
『ばうばうばうっ!!!』
 ルーシィド犬は店内の隅っこで、わんこと真剣勝負を繰りひろげていた。
『ばうっ! ばうーっ!』
「ワンワン! ワーン!」
 互いに自分が上だと譲らない2頭。もうお客さんの避難があらかた済んでいて本当によかった。SNSに動画アップされたりしなくて本当によかった。
 テーブルについてのんびりしていたエルムは、甘い珈琲の入ったカップを置く。
「ふふ、ルーシィドさん、楽しそうですね」
『わうっ! わうっ!』
「キミもそう思う?」
 頭の上に乗っかっているわんこを撫でるエルム。彼はすっかりわんこたちと仲良くなっていた。どのぐらいかと言うと6頭に密着されてるぐらいである。全身装備。
「エルムさん……わんこ重くないのかな?」
『キャンキャン!』
 犬が捕まった腕でパフェを食うエルムに、空が大型犬を両手でわしわししながらツッコむ。
 ちなみに動物変身を解いているので、体格的優位は完全に空のほうだ。
「よくも散々もふもふぺろぺろしてくれたな……お返しに今度は私がもふもふしてやる!」
『キャンーーッ!?』
『わうーー!?』
 ひろげた両腕に3頭ものわんこを絡めとり、頬ずりする空。
 そんな動物王国を横目に、涼香と壬蔭はテーブルについている。
「ワンコの相手、疲れたー……」
 ぐったりと突っ伏す涼香。
 犬に舐められたりしたのだろうか、髪の毛はワイルドに乱れている。ついでに言うと涼香の頭上を飛んでるねーさんの毛並みも乱れている。
「沢山舐められたのかな、テカテカだね……後でお風呂はいろうね、逃げちゃだめだよ?」
「おっ、出来たね……偉いね……」
「……ん? みかげさん、そのワンコさんは?」
 ねーさんを労っていた涼香が、壬蔭の足元に視線を移す。そこには喉元を撫でられてウットリしてる秋田犬がいた。おやつを前にしても『待て』ができている。
「いや、結構その懐かれてしまって……」
 膝に上ろうとしてくるわんこを構いながら、壬蔭はちらりと涼香を見た。
「飼い犬だった痕跡もないし、引き取れないかなって……」
「そっか。それじゃブリーダーさんや保護団体さんとかに飼い方のご相談してみる?」
「……そうしようか」
 ふふ、と微笑みあう2人。
 一方――。
「ワンワン!」
『きゃうーっ……!』
 ルーシィドは相変わらずわんことガチバトルを続行していた。なかなか折れないわんこに覆いかぶさって、レスリングみてーにごろごろ回転させたりガブガブ甘噛みしてる姿はもう心配になるしかない。
 が、その無法ムーヴも長くは続かなかった。
「こら。暴れたらダメだよ。めっ」
「あっ、リリちゃん……!」
「? ルーだったの?」
 大きなわんこが傍若無人してると勘違いしたリリエッタが、叱りに来たのである。マブでラブな親友に声をかけられた段で、ようやくルーシィドも我に返った。
「ダメだよ、ルー。周りに迷惑かけちゃ、めっ」
「はい、ごめんなさいリリちゃん……つい夢中になってしまって……」
 ぺこぺこと平身低頭するルーシィド犬。しかしリリエッタの「めっ」が可愛かったのでその顔はほんのり赤らんでいる。ちょっと叱られるのを期待してやがる。
 ――だが、彼女の淡い期待は阻まれることになった。
「いい子、いい子……おやつ、まだ欲しい……? じゃあ、大人しくしてたら、あげる……お座り、お座り……」
 リリエッタたちのほんの少し先で、オルティアがわんこたちに骨おやつを配っていたのだ。
 いや骨おやつで躾を試みていたのだ。
 しかしやはり簡単には言うことを聞かないわけで。
「……お座り、分かる? ええと、こんな感じで、ぺたんって……分か、る……?」
『ばうーっ!』
「あ、あの、待っ……あの、乗らな、あっ、あっ……」
『わうーーっ!!』
「あっ……あっ…………」
 脚を畳んでお座りを実演したセントールに、どばーっと群がるわんこズ。制止しても問答無用で乗っかってくるわんこにオルティアは圧倒された。
「むぅ、オルティアが」
「大変ですわ! ひどくあわあわしてます!」
 ふれあいとか超苦手なセントールを救うべく立ち上がるリリ&ルー。
 だがそのとき!
「わんこはひらひらと揺れ動くものにくいつくっすよね。ほーらひらひらの布っすよー。食いつくが――」
『わうーっ!』
「アーーーッ!!」
 反対側で、布ひらひらさせて支配者の悦に浸ってたシルフィリアスもわんこにもみくちゃにされていた。
 自分の着ている黒ロリドレスが、布以上にひらひらしてるのが誤算だったんや……。
「助けてっすー!」
「……誰か……誰か……」
「2人とも大変だね」
「えぇと……助けますか? リリちゃん」
「そうだね。ついでにもふもふをブラッシングするよ」
 やかましいシルフィリアスと息も絶え絶えなオルティアを見ながら、くすりと笑うルーシィドとリリエッタだった。

作者:星垣えん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年7月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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