ビッグホエール追撃戦~完成品の意地

作者:質種剰

●計画の残滓
 大阪湾。
 キャプテン・ホエール率いるビッグホエール艦隊は、他勢力が次々と大阪城でケルベロスに潰されていく中、6隻での脱出を果たしていた。
 ユグドラシルの暴走に乗じて姿を消した奴らのように綺麗な逃走とはいかなくても、海底に篭って息を潜めることができただけ、壊滅した勢力に比べればマシな状況といえるだろう。
 それでも、逃げる間際に大量の物資や資材を積み込んでいた初動の遅れが、現在大阪湾から動けない艦隊の窮状に繋がったのかもしれない。
「……チッ」
 そう考えれば、気の短いエクスガンナー・オメガなどは、艦隊司令であるキャプテン・ホエールが見ていないのを良い事に、舌打ちしたい気分だった。
「火事場泥棒みたいな事しなけりゃ、逃げるだけなら楽に逃げられてたかもしれねぇのによ」
 エクスガンナー・オメガ——ビッグホエールの1隻を任されている、キャプテン・ホエール配下の艦長の1人である。
 また、かのエクスガンナー計画の到達点にして通過点と位置づけられる機体でもあった。
 現在、6隻のビッグホエール艦は大阪湾の底にて、良く言えば雌伏の時に至って——有り体に言えば遠くまでは逃げきれずに取り残されている。
 ケルベロスたちが散り散りに逃げ去った残存勢力を捜しているせいで、軽率には動けないのだ。
 徒党を組んで追撃されたらひとたまりもないからである。
「これがエクスガンナー計画の完成品の任務かよ」
 実際、オメガの製造をもってして、エクスガンナー計画は完了した。
 しかし、オメガの有無、完成の成否すら、どこに影響を及ぼすこともなかった。
 単なる『完了の確認』としての成果物ゆえに、オメガ自身、ドクター・エータや他のエクスガンナーたちへ何の感慨も抱いていない。
「あーあ、海は静かだねぇ……全く、いい加減耳鳴りがしそうだぜ」
 ただ、潜水艦の動力を切っているのを良いことに、無聊を囲っている現状への文句をぶつくさと繰り返すだけだ。


「皆さん、ユグドラシル・ウォーの勝利、おめでとうございます!」
 そして参戦お疲れ様でした——小檻・かけら(麺ヘリオライダー・en0031)が集まったケルベロスたちを労ってから、本題に入る。
「仕方のないことではありますが、限られた時間の中で全ての戦場を制圧するのはとても難しいであります。それ故、此度の戦争でも多数の敵が逃げ散ってしまいました」
 暴走したユグドラシルと共に姿を消した勢力については、現在も捜索を続けているらしいが、
「皆さんには手始めに、大阪城周辺に残った敵の撃破をお願いしたいのでありますよ」
 と、かけらは言う。幾つかの勢力が、未だ大阪城周辺に取り残されているのだ。
「向かって欲しいのは大阪湾。ビッグホエール級潜水艦が6隻潜んでいるようでありますから、皆さんにはそのうちの1隻を倒して欲しいのであります」
 巨大ダモクレスのキャプテン・ホエールに率いられたビッグホエール級潜水艦隊が、大阪城へ残された大量の物資を積み込んで、大阪湾に脱出したようだ。
「重要な研究成果などは、ジュモー・エレクトリシアンが持ち去ったらしく、彼女らが運び込んだのは『資材や物資』だけでありますが、皆さんがたケルベロスの活躍によって資源不足に陥っているダモクレス勢力でありますから、ただの資材でも貴重でありましょうね」
 現在、潜水艦隊は、動力を停止して大阪湾の海底に潜んでいる。
「慌てて脱出しようとすればケルベロスの追撃を受けると予測して、ほとぼりが冷めるまで海底に潜み、隙を見て脱出しようと目論んでいるのでしょう」
 敵が動力を止めて停止しているチャンスを生かし、海底の潜水艦隊を撃破して欲しい。
「ビッグホエール級潜水艦の攻略方法は2つあります」
 ひとつめの攻略方法は、動力を止めて潜んでいるビッグホエールに静かに近づき、奇襲により最大ダメージを与えること。
「動力を止めているせいで回避ができず、防御力が落ちているのも相まって、奇襲は大きなダメージを与えられる最善手なのであります」
 とはいえ、攻撃予定地点へ着く前に敵から発見された場合、奇襲の効果は低下してしまう。
「攻撃を受けたビッグホエールは、すぐさま臨戦態勢を取ってきますから、そのまま畳みかけて撃破してくださいませ」
 戦闘中、ビッグホエールはケルベロスたちの布陣の一角を崩して、強行突破による脱出を図る。
「もしもサーヴァントを除く戦闘不能が3名以上になった場合、ビッグホエールは強行突破を成功させて脱出してしまいますから、連携やフォローで戦闘不能者が出ないよう気を配りつつ戦ってくださいね」
 ビッグホエールを撃破すると大爆発を起こし、積み込んだ資材や内部のダモクレスと共に撃沈する。
「2つめの攻略方法は、動力を止めて潜んでいるビッグホエールへ静かに近づき、非常用の出入り口を破壊して内部に潜入、内部を制圧してビッグホエールを撃破することであります」
 潜入可能な非常用出入り口は予知で確認されているので、動力を切り周辺の索敵が最低限になっているのを利用して、隠れつつ接近して乗り込んでほしい。
「万一、潜入前に発見された場合、動き出したビッグホエールとの戦闘になります」
 奇襲攻撃が行えない分、攻略法1よりも戦況が不利になり、強行突破される可能性も高くなるという。
「潜入に成功したら、潜水艦内部は資材が満載で通路なども塞がれているために、ほぼ一本道にて潜水艦の艦長のいる中枢へ向かえるであります」
 中枢には、艦長ユニットおよび護衛のガジェットシーカーが乗っている。
「艦長ユニットは、キャプテン・ホエール配下のエクスガンナー・オメガ。両手に構えた光線銃で攻撃してくるでありますよ」
 また、銃で両手が塞がっているせいか、蹴り技で接近戦をこなす器用さも持ち併せている。
 かけらはそこまで言うと説明を締めくくって、
「ビッグホエールの潜水艦隊は、多量の物資を積み込んでおり、逃走を許せば資源不足のダモクレスの利益になってしまうであります。潜伏する程度ではケルベロスから逃れられないことを、どうぞ思い知らせてやってくださいませ」
 彼女なりに皆を激励したのだった。


参加者
立花・恵(翠の流星・e01060)
相馬・竜人(エッシャーの多爾袞・e01889)
神崎・晟(熱烈峻厳・e02896)
皇・絶華(影月・e04491)
瀬戸口・灰(忘れじの・e04992)
氷霄・かぐら(地球人の鎧装騎兵・e05716)
清水・湖満(氷雨・e25983)
ルフ・ソヘイル(嗤う朱兎・e37389)

■リプレイ


 大阪湾。
「さてと、エクスガンナー何某をぶん殴るためにも、まずは中へ乗り込まねえとな」
 相馬・竜人(エッシャーの多爾袞・e01889)は特殊な気流を纏いながらテレビウムを小脇に抱えて、海底に根を据える岩の影へ身を潜めていた。
 気に食わねえからぶっ殺すという短絡的な発想をする性格の人派ドラゴニアンの青年で、言いがかりレベルの因縁をつけて勝手に敵意を燃やすような雑な闘争心が彼の持ち味である。
 今回の敵、エクスガンナー・オメガに対しての敵意も、
(「退きどころの分からないがめつさが気に食わない——よし殺す」)
 という理屈のようだ。
 そんな激しい気性の竜人だが、まるでムササビが枝から枝へと飛び移るように岩から岩へ急いで移動する様は、
「あーもうほんま可愛い尊い」
 彼を慕う清水・湖満(氷雨・e25983)に言わせればそうなるらしい。
 ちなみに湖満は湖満で、いつもの和服とは全く雰囲気の違う、衝撃のイモジャージ姿を披露していた。
 着衣泳に面積が広く重たい和服は適さないと判断しての、衣装チェンジだそうな。
(「これも泳ぐためやさかいしゃあな……痛ったあああ!?」)
 ともあれ、意気揚々とすり足で歩く湖満だが、うっかり裸足で海底の砂利を踏みしめてしまい、あまりの痛みに転がり回った。
「外側ばっか警戒しとると内側から攻め込まれるて、よう染み込ませとこか。裏をかいて撃破目指そ!」
 湖満は思わず涙目になるも、気を取り直して皆に発破をかけた。
 一方。
「潜水艦を襲うというのはなんとも複雑な気分ではあるが……まぁ仕方あるまい」
 神崎・晟(熱烈峻厳・e02896)も、ラグナルが浮いてしまわぬようひっ掴みながら、複雑そうな面持ちで移動していた。
(「隠密気流……今回は水流か?」)
 確かに空気の泡が絶え間なくぽこぽこと沸き立っていれば、目論見に反して人目を引きそうではある。
「それにしても、索敵を削ってまで動力まで切るとなると、よほど資源が足りないらしいな。……コチラにとっては好都合ではあるな」
 隠密気流なのか水流なのか実際のところははっきりしないものの、晟は気配を消す工夫を凝らして、岩などの遮蔽物を頼りに潜水艦へ近づいていく。
「海中は……思ったより静かじゃないのかもな。音が響きやすい故に」
 皇・絶華(影月・e04491)は、暗い水の中にいながらもつい癖で辺りをきょろきょろと見回して進んでいた。
 普段は黒づくめの衣装に身を包んでいる彼だが、今は海の底で目立たないために赤いダイバースーツを着用している。
「む……」
 予め海底の地形を調べて図面に引いていた絶華は、遮蔽物に乏しくとも敵に気づかれにくいルートを割り出そうと思案した。
「さて、大阪城の後片付けといきましょうか」
 氷霄・かぐら(地球人の鎧装騎兵・e05716)は、落ち着いた物言いの中にもやる気を滲ませていた。戦争の興奮冷めやらずといったところか。
 Водяно́й-441を始めとしたダイビングで使う装備一式を揃えたり、水中での呼吸が苦しくないようにスクール水着を着用したりと、海中の移動に対する備えも抜かりないかぐら。
「まぁ、あれだけ集まってたら逃げられもするわよね。とにかく、一つずつ片付けていきましょう~」
 まずは潜入へ成功しないことには始まらない、と気負い過ぎずに肩の力を抜くのだった。
 他方。
「宇宙の次は水中か……ケルベロスはどこでも戦うよな」
 立花・恵(翠の流星・e01060)も、隠密行動を心がけて潜水艦へと接近しつつあった。
 深海での戦闘は今回が初めてなため多少不安な気持ちもあれど、元より真面目な恵は気を引き締めて、潜水艦の正面に入らぬよう注意して進んでいる。
(「ビッグホエールの艦橋から最も遠そうな尾びれ付近から近づこう」)
 また、恵も絶華もソナーによる索敵対策としてハンドサインの使用も視野に入れていた。
「機能停止してる状態でどこまで察知されるのか分からないが……」
 と、索敵される可能性も考えて警戒しつつ進むのは、瀬戸口・灰(忘れじの・e04992)。
「あいつが不穏な動きをしていないか、夜朱もしっかり見ていろよ」
 振り返ってウイングキャットの夜朱がついてきているか確かめて声をかければ、夜朱も事情がわかっているのか、尻尾を揺らして返事してくれた。
「見えてきたな……」
 厚い水の幕の向こうに佇む巨大な鯨を見据えて、灰がぽつりと呟く。
(「ここで敵に資材を持ち逃げされると、止まってた別の企みも動く可能性があるっすね……」)
 ルフ・ソヘイル(嗤う朱兎・e37389)は、倒すべき敵の威容を目の当たりにして、正義感に燃えている。
(「ぜってぇ阻止しねぇとっす!」)
 垂れ耳ウサギのウェアライダーである彼は、仲間を巻き込むべく隠密気流を起こしながら自分は自分で動物形態へと変身、敵に接近を悟られぬよう対策していた。
 ビッグホエール級潜水艦は、何分光の届かぬ海底に沈んでいるため、そのデフォルメされていない鯨のシャープなシルエットも残念ながら目視できない。
 それでもケルベロスたちは器用に尾びれの下を潜り抜けて非常口へ接近し、中に気づかれぬよう武器での打突を始める。
 幸いにも扉はすぐに壊れて、ビッグホエール本体からの反撃を受ける前に中へ入れた。
 全員が侵入したのを確認してから、竜人はヒールグラビティで非常口を修復、海水が流れ込むより早く塞いでおいた。


 かくて、潜水艦ビッグホエール内に無事侵入を果たした8人とサーヴァントの面々。
 中は予知での情報に違わず、そこかしごが資材で埋め尽くされていた。
 積み荷をかき分けかき分け通路を進むと、特に迷うこともなく中枢部の真下へ到着する。
 あまりに呆気ないようだが、実際、艦橋と非常口の通路の確保を優先すれば、積み込んだ物資が多過ぎて自ずと他の通路が塞がれてしまったのだろう。
「侵入者発見」
 しかし、艦橋へと続くエレベーター前にいた護衛のガジェットシーカーたちが、頭部のドリルを回転させながら頭突きしてきた。
「上等だ……ッ! テメエは殺す……!」
 まずは竜人が、抜天を履いた足で身軽に跳躍。
 流星の煌めきと重力宿りし飛び蹴りをガジェットシーカーの脚部へ炸裂させ、奴の機動力を奪った。
「おい」
 ぞんざいな呼び方だろうが素直に頷くテレビウムも、竜人の指示通りに攻撃。
 どうやら黙々とやるべきことをやる仕事人気質らしく、今も淡々とした風情で凶器を手にガジェットシーカーへ立ち向かっている。
「侵入者ヲ排除スル」
 ガジェットシーカーたちの音声や面差しからは、何の感情も読み取れない。
 それゆえ、どれだけ肉体を損傷しようとも痛がるそぶりひとつ見せずに、左手の巨大赤ドリルを回転させながら飛びかかってくる様は、非常に恐ろしかった。
「そうはいかんざk……ぐわああああーーーーッ!!」
 絶華を庇った晟が1体の赤ドリルを食らって、腹部を勢いよく抉られている。
 すかさず反撃とばかりに蒼竜之錨鎚【溟】を構えて、超重の一撃を放った。
 背筋も凍る一打がガジェットシーカーの『進化可能性』をも奪い去って、未来を凍てつかせる。
 ラグナスも晟の意思に忠実に、ルフへ自分の属性を注入した。
「大丈夫っすか? すぐに回復するっす」
 ルフはルフで、慌てて満月に似たエネルギー光球を投げつけ、晟の怪我を治癒している。
「……監視カメラはあるようだが……動いている気配が無いな」
 足に履いた斬狼で鋭く重い飛び蹴りをガジェットシーカーへ見舞うのは絶華。
 戦闘中でも資材にまみれた辺りを見回して、妙な違和感が無いか確かめるのへ余念がない。
「機械ばっかりかと思ったら、意外なものも持って帰るつもりだったのね」
 かぐらは、所狭しと積み上げられた資材の山から、ダモクレスの部品になりそうもない生活物資を見つけて、ダモクレスたちはどれだけ窮状に陥っているのかと驚いていた。
 もちろん、こちらも『砲撃形態』に変化させたドラゴニックハンマーを振り抜いて、竜砲弾をガジェットシーカーへぶち当てる最中の話だ。
「俺の弾は痛いぜ!」
 T&W-M5キャットウォークを構えてばら撒くように弾を乱射するのは恵。
 制圧射撃によってガジェットシーカーたちの足を貫き、動きを鈍らせた。
「ほらよ、隙だらけだ!」
 灰も砲撃形態のハンマーから竜砲弾をぶちかまし、ついにガジェットシーカー1体へトドメを刺す。
「みゃー!」
 夜朱は雄々しく叫ぶと、もう1体のガジェットシーカー目掛けて尻尾の輪っかを飛ばしていた。
「あー、やっと塩臭いのから解放されるやろか」
 湖満はルーンの発動した磔壊を力一杯振りかぶって、光り輝く呪力と共に振り下ろす。
 ——バキャッ!!
 ガジェットシーカーの装甲が景気良く割れて、防御力のみならず大幅に体力も削ぎ落とし、引導を渡した。


「ようこそ侵入者さんよ。狭っ苦しくてすまねぇな」
 エクスガンナー・オメガは、中枢部である艦橋に独りだった。
 出入り口を塞いでいたガジェットシーカーの少なさもさることながら、艦橋に艦長以外の船員がいないのは異様である。
 恐らく、全ての動力を落としているせいで、艦橋にいたはずのガジェットシーカーたちはケルベロスら侵入者を足で捜す羽目に陥っているのだろう。
 そして、自分たちで積み込んだ資材に行く手を遮られ、行くも戻るも難儀しているに違いない。
「お前が艦長か? 退屈そうな顔だな」
 気やすく話しかけるのは灰。退屈そうな顔とはオメガの心情を慮ったものか否か、なんとも絶妙な喧嘩の売り方だ。
「いい加減こんな海底でじっとしてるのも飽きた頃だろ。海の上から引導を渡しに来たぜ」
 ましてや、この時灰が見舞ったのは、影の如き視認困難な斬撃。
 オメガが気づいた時には既に急所を掻き斬っているという、実に鮮やかな手並みである。
 夜朱も猫の足腰を活かして華麗に跳躍、オメガの背中に張りついてバリバリと容赦なく爪を立てている。
「よう、暇してるならちょっと遊ぼうぜ。お前海の藻屑な」
 まるで野球だかサッカーへ誘うような軽い口調で言いながら、竜人はワイルドスペースから光の強弓を召喚。
 雷のように爆ぜ暴れる影の矢がエクスガンナー・オメガの大腿部を射抜いて、相手に雷へ打たれたが如き衝撃を与え、影を縫い留めたかように体の動きも鈍らせた。
「良いぜ。退屈しのぎになりそうだ」
 エクスガンナー・オメガは、余裕ぶった態度を崩さず、艦内に散らばったガジェットシーカーを呼ぼうともしない。
 ケルベロス8人に囲まれたところで、全員を相手に独りで応戦するつもりなのだろう。
 それがエクスガンナー唯一の完成品としての意地なのかもしれない。
「せいぜい楽しませてくれよ!」
 などと両手に構えた光線銃を景気良く乱射する様は、この劣勢な状況含めた戦闘そのものを楽しんでいる節も感じられる。
 ——ビシッ!
 後衛陣がそれぞれ空を切る光の帯に翻弄される中、ラグナスは素早くルフの前へ躍り出て、彼の代わりに負傷した。
 すぐにテレビウムが己が顔面に応援動画を流して、ラグナスの傷を癒す。
「援護するわ」
 自ら改良を施した小型治療無人機を素早く展開するのはかぐら。
 超小型の群体を前衛陣の体や武器へ取りつかせて、彼らの攻撃の精度を間接的にぐんと高めた。
 戦いは続く。
「2丁拳銃っすか~サシで殺りあいてぇ……なんて呑気に言えねぇっす!」
 どこか楽しそうに呟いたルフは、精巧な幻覚で出来た弾を大量に連射。
 すかさず避けんとするエクスガンナー・オメガへ、本命かつ本物の一発を撃ち込んだ。
「ほな、はよくたばってな」
 と、磔壊を構えて冷たく言い放つの湖満。
 ——否、斧の刃を突きつけたと認識した時には、既に音も無くオメガの肩を切り裂いた後だった。残酷な神への賛美の歌は、余韻すら残さぬ静の技だ。
「砕き刻むは我が雷刃。雷鳴と共にその肉叢を穿たん!」
 晟は竜頭の如き得物に蒼雷を纏わせて、超高速の突きを繰り出す。
 巨竜の甲殻すら刻むという神殺しの一業が、エクスガンナー・オメガの全身へ電撃を通すと同時に、より深く傷口を斬り広げた。
「貴様が到達点か。ならば相手にとって不足なし」
 静かに啖呵を切って、古代の魔獣の力を我が身に宿すのは絶華。
「その銃撃……切り捨ててみせる!」
 狂戦士と化した刹那、絶華は反射神経や筋力をも超強化された状態にてオメガへ襲いかかり、宣言通り光線をも斬るつもりで狂ったようにカタールを振るい続けた。
「隠れてたところ悪いけど、嫌な予感は的中だ」
 ゴリッ……と、オメガの急所へリボルバーを押しつけるのは恵。全身に満ちた闘気を推進力に、神風の如き素早さで肉薄したのだ。
「せっかく積みに積んだ資材だけど、お前達には渡さないぜ」
 すぐに銃口が火を吹いて、零距離から銃弾をエクスガンナー・オメガの体内へ捩じ込み、炸裂させた。
「へっ……退屈過ぎて死ぬよりは、ひと暴れできただけ、悪くねぇ……」
 それが、体内の爆発に煽られて突っ伏したエクスガンナー・オメガの、最期の言葉だった。
 恵がリボルバーを器用にくるくる回してからホルスターに収めた、その時。
 ゴゴゴゴゴゴ……!
 ビッグホエール全体が大きく振動を始めた。
 同時に、艦橋に集まっている計器が揃いも揃って点滅を始める。
 ビーッ! ビーッ! ビーッ!
 大音量のブザーと赤い光がアラートを発する。
 艦長ユニットであるエクスガンナー・オメガの死を引き金に、自爆するようプログラムされていたのだ。
「急ぎましょう!」
 慌ててビッグホエールから脱出し、爆発に巻き込まれぬよう水を掻いて距離を稼ぐ8人。
 彼らの後方で、巨大な鯨は腹に溜め込んだ数多の物資を道連れに、大爆発を起こした。

作者:質種剰 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年7月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。