響く音色が心を壊す!

作者:ゆうきつかさ

●都内某所
 その電子ヴァイオリンは、気分屋だった。
 まさに、持ち手を選ぶシロモノ。
 そのため、資格無き者が奏でれば、ガマガエルの大合唱!
 逆に、死角ある者が奏でれば、天使の囁きにも匹敵する音色を奏でるモノだった。
 それが原因で罵られる事も、多々あった。
 『これは紛い物であって、本物ではない』と……。
 それ故に、雑な扱いを受ける事もあり、今では倉庫の片隅で、朽ちゆく寸前であった。
 そこに現れたのは、蜘蛛型のダモクレスであった。
 蜘蛛型のダモクレスは、機械的なヒールによって、電子ヴァイオリンを作り替えた。
「デンシィィィィィィィィィィィィィィィ」
 次の瞬間、ダモクレスと化した電子ヴァイオリンが、耳障りな機械音を響かせ、暴れまわるのであった。

●セリカからの依頼
「霧矢・朱音(医療機兵・e86105)さんが危惧していた通り、都内某所にある倉庫で、ダモクレスの発生が確認されました。幸いにも、まだ被害は出ていませんが、このまま放っておけば、多くの人々が虐殺され、グラビティチェインを奪われてしまう事でしょう」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
 ダモクレスが確認されたのは、都内某所にある倉庫。
 この倉庫には沢山の電子ヴァイオリンが並んでおり、希望すれば貸し出しなども行っているようだ。
 だが、ダモクレスと化した電子ヴァイオリンは、他のものと比べて物凄く癖のあるモノだったため、上手く奏でる事が困難だったようである。
「ダモクレスと化したのは、その電子ヴァイオリンです。このままダモクレスが暴れ出すような事があれば、被害は甚大。罪のない人々の命が奪われ、沢山のグラビティチェインが奪われる事になるでしょう」
 そう言ってセリカがケルベロス達に資料を配っていく。
 資料にはダモクレスのイメージイラストと、出現場所に印がつけられた地図も添付されていた。
 ダモクレスは美しい音色で相手を魅了し、耳障りな機械音で、相手を地獄に叩き落とすようである。
 そのため、油断すると痛い目に遭ってしまう可能性が高いようだ。
「とにかく、罪もない人々を虐殺するデウスエクスは、許せません。何か被害が出てしまう前にダモクレスを倒してください」
 そう言ってセリカがケルベロス達に対して、ダモクレス退治を依頼するのであった。


参加者
ファレ・ミィド(身も心もダイナマイト・e35653)
肥後守・鬼灯(度徳量力・e66615)
佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)
霧矢・朱音(医療機兵・e86105)
 

■リプレイ

●都内某所
「まさか私が警戒していた事件が本当に起るとは驚きだわ。ヴァイオリンの音色は好きだけど、ダモクレスとなったからには倒してしまわないとね」
 霧矢・朱音(医療機兵・e86105)は仲間達と共に、ダモクレスが確認された倉庫にやってきた。
 この倉庫には、幾つものヴァイオリンが保管されているらしく、何度か盗みに入られた事があるらしい。
 だが、ダモクレスと化したヴァイオリンだけは、誰にも見向きをされず、不良品や失敗作などと揶揄されていたらしい。
 しかし、実際には奏者を選んでいただけで、相応しい者達が奏でれば、天使のような音色を奏でるようである。
「ところで、電子ヴァイオリンって、エレキギターのヴァイオリン版なのかしら?」
 そんな中、ファレ・ミィド(身も心もダイナマイト・e35653)が悪の女幹部風の恰好で、不思議そうに首を傾げた。
 いまいち、よく分かっていないのだが、おそらく似たようなモノだろう。
「ヴァイオリィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィン!」
 次の瞬間、ダモクレスが耳障りな機械音を響かせ、倉庫の壁を突き破って姿を現した。
 その姿は、まるでケモノのようであり、機械で出来たバケモノのようでもあった。
「……皆さん、気を付けてくださいね」
 肥後守・鬼灯(度徳量力・e66615)が仲間達に対して警告しながら、警戒した様子で間合いを取った。
「ヴァイオリィィィィィィィィィィィィィィン!」
 その事に気づいたダモクレスが、耳障りな機械音を響かせ、音符型のビームを放ってきた。
 そのビームは幾つもの音符が連なっており、精神的に不安定な音を奏でていた。
 それがブロック塀に当たると、ジュッと嫌な音を立て、真っ白な煙が上がった。
「あの楽器、知っていますわ。和音を純正律に自動補正する機能があるから、平均律と純正律の違いを把握していないと変なところで不協和音になるヴァイオリンですわね。確か海外の設計者がマニュアルを作る前にデウスエクス災害で亡くなってしまい、設計書を見てマニュアルを作った人も、それを翻訳した人も、純正律と平均律の違いを理解していない素人だったせいで、おかしな内容になってしまって、散々な評価になってしまったとか……。新進気鋭の楽器だったんですけれどね」
 ジークリート・ラッツィンガー(神の子・e78718)がダモクレスの様子を窺いながら、少し残念そうにした。
 だが、ダモクレスと化してしまったせいで、その面影は既にない。
 むしろ、人を狂わせるため、間違った進化を遂げてしまったような印象を受けた。
「耳栓して戦った方がいいのかしら? ……でも、もったいない気もするし……。ノリのいい曲なんかかかったら楽しく戦えちゃいそうだから、このまま頑張っちゃおうかしら!」
 そう言って佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)がノリノリな様子で、ダモクレスに攻撃を仕掛けていった。

●ダモクレス
「せっかくなら流行のJ-POPとかアニソン弾いてほしいわね。そしたらテンションも最っっ高で戦えるのに~」
 レイが間合いを取りつつ、ダメ元でダモクレスにリクエストした。
「ヴァァァァァァァァァァァァァァイイイイイイイオリィィィィィィィィン!」
 それに応えるようにして、ダモクレスがポップなアニソンを流し始めたが、それは独自にアレンジされた劣化版。
 原曲が素晴らしい分、イラッとするほど、間違ったアレンジをした曲だった。
「……って駄目よ。全然、駄目じゃない! なんでアレンジするの? そんな事をする必要もないのに……。凄く勿体ない事をしているのよ? それが、どうしてわからないの? それとも、分からないフリをしているだけ? そうだったら、尚更ダメよ?」
 レイが思いっきり残念そうにしながら、ダモクレスに駄目出しをした。
「ヴァイオリィィィィィィィィィィィィィィィィン!」
 しかし、ダモクレスは不満げ。
 さらに独自のアレンジを加え、レイの気持ちをイライラさせた。
 それがダモクレスにとってのベストなのか、全く方向性を改めるつもりはないようだった。
「何を言っても、逆効果のようですね」
 鬼灯が辺りに響く雑音から逃れるようにして、ダモクレスと距離を取った。
「ヴァァァァァァァァァァァァァィォリィィィィィィィィィン!」
 その間もダモクレスはアニソンと言うより、デスメタルチックな曲を響かせた。
 やはり、ダモクレスにとって、これがベスト。
 その証拠にノリノリな様子で、ケルベロス達に攻撃を仕掛けていた。
「ワガママな子は嫌いじゃないけど、ちょっとおイタが過ぎるわね!」
 ファレが間合いを取りつつ、大口径のバスタービームを構えた。
 それはダモクレスですら、『直撃したらとヤバい』と認識するほどのモノ。
「ヴァイオリィィィィィィィィィィィィィィィィィィィン!」
 それでも、ダモクレスは怯まない。
 おそらく、恐怖の感情自体、目の前のダモクレスには、存在していないのだろう。
 再び音符型のビームを放って、ケルベロス達を攻撃した。
「まずは当てることが大事よね。こういう時は光の翼で――っ!」
 それと同時に、レイがヴァルキュリアブラストで光の翼を暴走させ、全身を『光の粒子』に変えてダモクレスに突撃した。
 その拍子に何発かビームを浴びたものの、レイの突撃を止めるほどの威力はなかった。
「ヴァイオリィィィィィィィィィィィィィィィィン!」
 それを迎え撃つようにして、ダモクレスが再び音符型のビームを放った。
 そのビームがケルベロス達を傷つけ、耳障りな音を響かせた。
「Nobiscum deus」
 その事に気づいたジークリートがヴァイオリンを弾き、ジークリート楽団(ジークリートガクダン)を発動させ、波動関数が異なる解に収束した無数の可能世界に存在するジークリート達と共に、楽器や声楽で癒しのグラビティを奏でた。
「エクトプラズムの肉体よ、その身を護りなさい」
 それに合わせて、朱音がボディヒーリングを発動させ、エクトプラズムで疑似肉体を作って、仲間の外傷を塞いだ。
「ヴァイオリィィィィィィィィィィィン!」
 その間もダモクレスは耳障りな機械音を響かせ、電子ヴァイオリン型のアームを幾つも伸ばしてきた。
 そのアームからは耳障りな機械音が響いており、幾つもの音が重なる事なく、自己主張をしている感じであった。
「……このまま放っておくと面倒な事になりそうね。すべて破壊してしまいましょう」
 その事に気づいた朱音が、仲間達に声を掛けながら、攻撃を仕掛けるタイミングを窺った。
 ダモクレスのアームが振るわれるたび、電子ヴァイオリンから不気味な音が響き、ケルベロス達を不快な気持ちにさせた。
「さあ、ここからアゲていくわよ! 景気よく撃ってぶっ壊してヒャッハー! あ――っはっはっはっはっはっ!!」
 すぐさま、ファレが狂ったように笑いながら、重力爆散(グラビティ・バースト)を発動させ、ダモクレスの持つグラビティ・チェインを汚染し、地獄化させる事によって、爆発を伴う激しい燃焼を引き起こした。
「ヴァイオリィィィィィィィィィィィィン!」
 それに対抗するようにして、ダモクレスがケルベロス達にアームを振り下ろした。
「捨て身の覚悟……という訳ですか」
 鬼灯が何やら察した様子で、サークリットチェインを発動させ、地面にケルベロスチェインを展開すると、仲間を守護する魔法陣を描いた。
「……すぐに癒しますわ」
 それに合わせて、ジークリートがヴァイオリンを奏で、「スカイクリーパー」を発動させ、希望の為に走り続ける者達の歌を歌った。
「ヴァイオリィィィィィィィィィィィィィィィィィィィン!」
 その事でダモクレスが、さらに苛立ち、電子ヴァイオリン型のミサイルを飛ばして、耳障りな機械音と共に、大量の破片を飛ばしてきた。
「……よくもやったわね!」
 レイがスーパー神風デリンジャーアタック!(イザノトキノゴシンジュツ)を発動で空高く舞い上がって、懐から取り出したデリンジャーをぶん投げ、ダモクレスの装甲をヘコませた。
「ヴァァァァァァァァァァァァァァァァイオリィィィィィン!」
 それが引き金となってダモクレスが、咆哮にも似た耳障りな機械音を響かせた。
「さあみんな、ヤッておしまい!!」
 ファレがインフェルノファクターで、額に『地獄化した正気の炎』が燃え上がらせた。
「……だったら、跡形もなく消し去ってあげるわ」
 それに合わせて、朱音がディスインテグレートを仕掛け、触れたもの全てを消滅させる、不可視の『虚無球体』を放って、ダモクレスを跡形も残さず消滅させた。
「……何だか少し可哀そうですね」
 鬼灯がガラクタの山に埋もれた電子ヴァイオリンに気づいた。
 それは既に壊れているが、ヒールを掛けた上で、丁寧に磨けば、まだまだ使えそうな感じであった。
「色々なデザインのモノがあって、結構面白いわね、これ」
 そんな中、ファレが倉庫の中を片付けながら、そこに保管されていた電子ヴァイオリンを鑑賞した。
 そこに残っていたのは、オーソドックスなモノばかりであったが、決して悪いモノではなく、扱いやすそうなものだった。
「それにヴァイオリンってお嬢様風で、あたしにピッタリよね♪ 貸し出ししてもらえるなら弾いてみようかしら。きっとあたしの心とおなじ清らかで美しい音色が……出ないわね。そ、そんなはずはないのだけれど……。今日は少し調子が悪いのかしら? そうね。きっと、そうだわ」
 一方、レイは傍にあった電子ヴァイオリンを奏で、耳障りな音を響かせた。
 その音に驚いたレイが恥ずかしそうに頬を染め、小さくコホンと咳をした。
「どれも、まだ使えそうなモノばかりのようですし、このまま持って帰りましょうか」
 そう言ってジークリードがダモクレスだったモノを見下ろし、その中から使えそうな部品を拾い上げると、ゴキゲンな様子で、その場を後にするのであった。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年7月5日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 1/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 2
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