悲恋に終わった恋の音

作者:ゆうきつかさ

●静岡県某所
 廃墟と化した別荘に、電子オルゴールがあった。
 この電子オルゴールに収められていたのは、悲しき恋のメロディ。
 病気で寝たきりになっていた女性が、恋人を待ちながら、聞いていたメロディ。
 だが、彼女が命尽きるまで、恋人が現れる事なく、電子オルゴールだけが残された。
 そして、廃墟と化した別荘で鳴り響くメロディに誘われるようにして現れたのは、蛛の姿をした小型ダモクレスであった。
「オルルルルルルルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
 次の瞬間、電子オルゴールが機械的なヒールによってダモクレスと化し、廃墟と化した別荘の壁を突き破って街で暴れまわるのであった。

●セリカからの依頼
「静城・依鈴(雪の精霊術士・e85384)が危惧していた通り、静岡某所にある廃墟と化した別荘で、ダモクレスの発生が確認されました。幸いにも、まだ被害は出ていませんが、このまま放っておけば、多くの人々が虐殺され、グラビティチェインを奪われてしまう事でしょう」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
 ダモクレスが確認されたのは、静岡某所にある廃墟と化した別荘。
 この別荘には、病弱で色白で美しい少女が病気の療養のため、しばらく住んでいたようだか、病には打ち勝つ事が出来ず、短い生涯を閉じたようである。
「ダモクレスと化したのは、その電子オルゴールです。このままダモクレスが暴れ出すような事があれば、被害は甚大。罪のない人々の命が奪われ、沢山のグラビティチェインが奪われる事になるでしょう」
 そう言ってセリカがケルベロス達に資料を配っていく。
 資料にはダモクレスのイメージイラストと、出現場所に印がつけられた地図も添付されていた。
 ダモクレスは悲しげな曲を響かせながら、まるで思い人を探すようにして、街を目指して突き進むようである。
「とにかく、罪もない人々を虐殺するデウスエクスは、許せません。何か被害が出てしまう前にダモクレスを倒してください」
 そう言ってセリカがケルベロス達に対して、ダモクレス退治を依頼するのであった。


参加者
カシス・フィオライト(龍の息吹・e21716)
花見里・綾奈(閃光の魔法剣士・e29677)
雪城・バニラ(氷絶華・e33425)
アクア・スフィア(ヴァルキュリアのブラックウィザード・e49743)
静城・依鈴(雪の精霊術士・e85384)
シルフィア・フレイ(黒き閃光・e85488)

■リプレイ

●静岡県某所
「……何だか寂しげな場所ね」
 静城・依鈴(雪の精霊術士・e85384)は仲間達と共に、ダモクレスと化した別荘にやってきた。
 既に別荘は廃墟と化しており、まるで巨大な墓標のようだった。
 そのためか、夏場だという間に、背筋にゾッと寒気が走った。
「こんな場所に病弱の少女が……」
 雪城・バニラ(氷絶華・e33425)が複雑な気持ちになりつつ、殺界形成を発動させた。
 空気は新鮮で、自然に満ち溢れているが、それでも何やら寂しげな感じがした。
「その結果、病に勝てず生涯を終えたとは悲しい話ね」
 静城・依鈴(雪の精霊術士・e85384)が、何処か遠くを見つめた。
 それでも、少女は力の限り、生きようとしていたのだろう。
 事前に配られた資料には、思い人を待ち続けながら、何通も……何百通も手紙を書いた事が書かれていた。
 だが、その手紙は届く事なく、別荘に送り返され、その真実を知らぬまま、少女は命を落としてしまったようである。
「随分と悲しい逸話があるようですが、ダモクレスになって、さらに悲劇を重ねるのは間違っています」
 花見里・綾奈(閃光の魔法剣士・e29677)が、警戒心をあらわにした。
 その途端、廃墟と化した別荘から、悲しげな曲が聞こえてきた。
 それは胸を締め付けられるほど、悲しげな曲……。
 聞いているだけで、自然と涙が溢れてくるほど、少女の悲しい思いが伝わってきた。
「少女が大切にしていたオルゴールがダモクレスになっちゃうなんて、そんな悲しい出来事は見過ごす訳にはいかないよね」
 シルフィア・フレイ(黒き閃光・e85488)が、納得した様子で答えを返した。
「その少女も可哀そうだったけど、人々に危害が加わることも、もっと悲しいと思う。だから……被害が出る前に倒してしまおう」
 そんな中、カシス・フィオライト(龍の息吹・e21716)が覚悟を決めた様子で、仲間達に対して声を掛けた。
「オルゴォォォォォォォォォォォォォォォォオオルゥゥゥゥゥゥウ!」
 次の瞬間、ダモクレスが別荘の壁を突き破り、耳障りな機械音を響かせた。
「オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!」
 だが、それは悲しげな少女の悲鳴にも似ていた。
 その上、ダモクレスの上半身は機械化した少女のような姿をしており、下半身は蜘蛛だった。
「ええ……、せめて罪を重ねる前に倒してしまいましょう」
 そう言ってアクア・スフィア(ヴァルキュリアのブラックウィザード・e49743)が間合いを取りつつ、ダモクレスに攻撃を仕掛けていった。

●ダモクレス
「オルゴォォォォォォォォォォォォォオオルゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
 ダモクレスが耳障りな機械音を響かせ、音符型のビームを放ってきた。
 そのビームは、まるで何かの曲を奏でるようにして、ケルベロス達に襲い掛かってきた。
「さぁ、行きますよ、夢幻。サポートは、任せます……!」
 すぐさま、綾奈がウイングキャットの夢幻に声を掛け、ダモクレスが放った音符型のビームを避けた。
 それに合わせて、夢幻がダモクレスを挑発するようにして、まわりを小賢しく飛び回った。
「オルゴォォォォォォォォォォォオオオオルゥゥゥゥゥゥ!」
 だが、ダモクレスはまったく気にしておらず、綾奈に体当たりを繰り出した。
 ……それは捨て身の特攻ッ!
 傷つく事も恐れず、突っ込む姿は、蜘蛛と言うより、猛牛だった。
「……クッ!」
 その拍子に綾奈が膝をついたものの、ギリギリのところで避けたため、致命傷には至らなかった。
「オルゴォォォォォォォォォォォォォォォオルゥゥゥゥゥゥゥ!」
 そこに追い打ちをかけるようにして、ダモクレスが再び突っ込んできた。
「トリックチェインよ……パズルの中に眠る竜よ、その力を開放せよ!」
 その行く手を阻むようにして、シルフィアがドラゴンサンダーを仕掛け、パズルから竜を象った稲妻を解き放った。
「オルルルルルルルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
 その一撃を喰らったダモクレスが、悲鳴にも似た機械音を響かせ、再び音符型のビームを放ってきた。
 音符型のビームはケルベロス達の身体に当たると、焼印の如くジュッと音を立て、そこに禍々しい証を刻み込んだ。
「これ以上、進むのであれば、この炎で焼き尽くすよ?」
 それでも、臆する事なく、カシスがダモクレスの行く手を阻み、グラインドファイアを炸裂させた。
「オルゴォォォォォォォォォォォォォル!」
 それと同時に、ダモクレスの身体が炎に包まれ、上半身の口から悲鳴にも似た音が漏れた。
「スライムよ、敵を貫きなさい」
 その隙をつくようにして、アクアがケイオスランサーを繰り出し、鋭い槍の如く伸ばしたブラックスライムでダモクレスを貫き、汚染した。
「オルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
 その影響で上半身の少女が、まるで泣いているかの如く、どす黒い涙を流し始めた。
「いくら悲しくても、こんな事……間違ってる!」
 その思いを痛いほど受け止め、バニラが瞳を潤ませた。
 だが、ダモクレスに少女の意志は宿っていない。
 ……それは少女の姿をした傀儡。
 そう見えるだけで、彼女の思いが籠っている訳では無かった。
 それでも、彼女の思いが宿っているような錯覚を受けた。
「だから、ここで止めさせてもらうわよ」
 依鈴が一気に間合いを詰め、ダモクレスにスターゲイザーを炸裂させた。
「オルゴォォォォォォォォォォォォォォォォオルゥゥゥゥゥゥゥゥウ!」
 その途端、ダモクレスが耳障りな機械音を響かせ、オルゴール型のアームで、ケルベロス達を殴りかかってきた。
 そのたび、少女の悲鳴にも似た音と共に、悲しげな曲が辺りに響いた。
「ブラックスライムよ、敵を飲み込んでしまいなさい!」
 その逃げ道を塞ぐようにして、依鈴がレゾナンスグリードを発動させ、ブラックスライムを嗾けた。
 それに応えるようにして、ブラックスライムがダモクレスに飛び掛かり、その巨体を丸呑みしようとした。
「オルゴォォォォォォォォォォォォオオルゥゥゥゥゥゥゥウ!」
 しかし、ダモクレスは耳障りな機械音を響かせ、オルゴール型のアームを振り回し、ブラックスライムを払い除けた。
「逃がしませんよ、絶対に……!」
 その行く手を阻むようにして、アクアがクリスタルファイアを仕掛け、熱を持たない『水晶の炎』でダモクレスのボディを斬りつけた。
「オルルルルルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
 その痛みから逃れるようにして、ダモクレスが真っ黒な煙をブスブスと上げた。
「みんなで倒そう。悲しみの連鎖を断ち切るために……!」
 そこに追い打ちをかけるようにして、カシスがスターゲイザーを繰り出した。
「確かに、そうね。断ち切りましょう、私達の手で……!」
 それに合わせて、シルフィアもスターゲイザーを放って、ダモクレスのアームを破壊した。
「オルゴォォォォォォォォォォォォォォォォルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
 それでも、ダモクレスは怯まない。
 残ったアームを狂ったように振り回し、ケルベロス達に迫っていった。
 それは無駄な足掻きであったが、相手を殺そうとする強い意志が感じられた。
 そのため、どんなに傷ついても、怯む事はない。
 いくら装甲が傷つこうとも、ダモクレスに迷いはなかった。
 ただまっすぐケルベロス達を狙い、力の限り攻撃を仕掛けてきた。
「エンジェリックメタルよ、私に、力を……!」
 次の瞬間、綾奈が戦術超鋼拳で、全身を覆うオウガメタルを『鋼の鬼』に変え、ダモクレスの装甲を破壊した。
「……いまのうちに癒しておくわね。次はいつになるか分からないから……」
 その間にバニラがローレスフラワーズで戦場を美しく舞い踊り、仲間達を癒やす花びらのオーラを降らせた。
「オルゴォォォォォォォォォォォォルゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
 それと同時に、ダモクレスが耳障りな機械音を響かせ、オルゴール型のミサイルを放った。
 ダモクレスから放たれたオルゴール型のミサイルは、地上に落下すると爆発し、大量の破片を飛び散らせた。
 飛び散った破片は、鋭く尖った刃の如く、ケルベロス達の身体に突き刺さった。
「……さすがに、これは厄介ね」
 その攻撃から逃れるようにして、シルフィアが警戒した様子で物陰に隠れた。
「とにかく、コアを……破壊しましょう!」
 アクアがミサイルを潜り抜け、ダモクレスに轟竜砲を叩き込んだ。
「……そのためには、この装甲が邪魔ですね。いますぐ剥がしてしまいましょうか」
 続いて、アクアがスカルブレイカーを仕掛け、高々と跳び上がって、ルーンアックスを振り下ろした。
「オルルルルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
 次の瞬間、ダモクレスの装甲が弾け飛び、無防備なコア部分があらわになった。
「オルゴォォォォォォォォォォォォォオオオオルルゥゥゥゥ!」
 だが、ダモクレスに迷いはない。
 無防備なコアが剥き出しになっても、ダモクレスに躊躇いはなかった。
「さぁ、断罪の時間だよ。無数の刃の嵐を受けよ!」
 それに合わせて、カシスが断罪の千剣(ダンザイノセンケン)を発動させ、罪を浄化する力を持ったエナジー状の光の剣を無数に創造し、ダモクレスのコア部分にザクザクと突き刺した。
「オルゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォル!」
 その一撃を喰らったダモクレスが、断末魔にも似た機械音を響かせ、崩れ落ちて動かなくなった。
「こんな最期を迎えるなんて……。何だか悲しいわね。こんな事……だれも望んでいないのに……」
 バニラが複雑な気持ちになりつつ、ダモクレスだったモノを見下ろした。
 ダモクレスだったモノはガラクタの山と化しており、決して動く事はなかった。
 ただ、そこにあるオルゴールだけが、今にも音色を響かせそうな勢いで、カチカチとゼンマイの音を鳴らしていた。
「少女を……弔ってくるわ。この近くに、お墓があるようだから……」
 依鈴がダモクレスの残骸の中にあったオルゴールを拾い上げ、その足で少女の墓に向かって歩き出した。
 その途端、オルゴールから響き渡ったのは、本来流れるはずだった音色であった。
「これで、オルゴールも少女と一緒に眠ることが出来たら良いわね」
 そう言ってシルフィアが、依鈴の背中を見送るのであった。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年7月4日
難度:普通
参加:6人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。