薄紅の時間

作者:崎田航輝

 さらさらと花々が靡いて美しい色彩を見せている。
 夏も本番に差し掛かり始める庭園。散歩道に咲く花も夏の彩を帯び始め、鮮やかな色彩に揺れていた。
 その美観だけでも、人を集めるには十分だけれど。
 魅力的な甘い芳香を漂わせて──人々の足を向かせる建物がある。花園に囲まれた一軒のカフェだ。
 スイーツが人気のその店が、この時期提供するメニューは旬の桃のスイーツ。
 花のようなタルトに、果実たっぷりのパフェ。涼やかなソルベに、ワインが薫るコンポート、ピューレを使ったブランマンジェまで。
 ピーチティーにジュースにと飲みものも豊富で、訪れる人々は夏景色と共に、薄紅色の美味を楽しんでいた──と。
 そんな庭園へ、長い影を伸ばす巨躯が踏み入ってくる。
「花に人間、短い命達……」
 脆いものこそ踏み潰し甲斐があると思わないかい、と。
 愉快げにぎらりと剣を抜くそれは、黒色の鎧の罪人、エインヘリアル。
「無為に散って糧となる。その瞬間が僕は好きだよ」
 だから斬られるといい、と。まずは刃を振り抜き邪魔な花を切り捨てる。
 そうして悠々と、庭園を真っ直ぐに突き進むと──逃げゆく人々の背へと、笑みを浮かべながら剣を振り上げた。

「桃が美味しい季節になりましたね」
 イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)はケルベロス達へとそんな言葉をかけていた。
 なんでもとある庭園の一角にあるカフェでは、旬の桃スイーツが人気であるとか。
「ですが……そんな場所へ、エインヘリアルの出現が予知されたのです」
 アスガルドで重罪を犯した犯罪者。コギトエルゴスム化の刑罰から解き放たれて送り込まれる、その新たな一人だろう。
 放置しておけば人々が危険に晒される。
「人々の命を守るために。この敵の撃破をお願いしますね」
 戦場は店にほど近い散歩道。
 幅は広いため戦いに苦労はしないはずだ。
「なお、人々については警察の協力で事前に避難が行われます。こちらが到着する頃には皆が逃げ終わっていることでしょう」
 戦いに集中できる環境だと言った。
 周囲の景観にも傷つけずに倒すこともできるはずですから、とイマジネイターは続ける。
「無事勝利した暁には、皆さんもカフェで過ごしていってはいかがでしょうか」
 食べ物に飲み物に、豊富な桃のメニューが揃っている。庭園の景色を眺めながら多彩な美味で寛ぐことが出来るでしょうと言った。
「そんな時間のためにも是非、撃破を成功させてきてくださいね」
 イマジネイターはそう声音に力を込めた。


参加者
オペレッタ・アルマ(ワルツ・e01617)
ノチユ・エテルニタ(夜に啼けども・e22615)
伊礼・慧子(花無き臺・e41144)
鹿目・きらり(医師見習い・e45161)
日下・魅麗(ワイルドウルフ・e47988)
長田・鏡花(アームドメイデン・e56547)
リュシエンヌ・ウルヴェーラ(陽だまり・e61400)
佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)

■リプレイ

●彩園
 木漏れ日に鮮明な花々を映えさせる、色彩の庭園。
 花香りに混じって漂う甘い匂いも、一層夏の到来を実感させて──鹿目・きらり(医師見習い・e45161)はおっとりとその店に目を向けていた。
「桃の美味しい季節になりましたね」
「うん。旬の桃スイーツ、楽しみだよ」
 日下・魅麗(ワイルドウルフ・e47988)も明るく頷いて期待の心を滲ませる。
 それでも振り返って、前方を見つめて──。
「まぁ、その前に人々に危害を加えるエインヘリアルを倒すのが先決だね」
 言いながら、道に顕れる巨躯の影をみとめていた。
 それは陽光にも赫かぬ闇色を纏った罪人、エインヘリアル。
「黒い鎧の騎士様? なんか雰囲気からして強そぅね……や、ビビってなんかないわよ?」
 と、佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)は言い聞かせるように呟いて。真っ直ぐに走り出して戦いの間合いへ入っていく。
 そうして道へ立ちはだかれば──罪人は此方に気づき、喜色を滲ませて刃を構えた。
「花ばかりでなく、人まで。脆く儚い、摘むべき命に溢れていて嬉しいよ」
「──それより」
 と、その巨躯の視界に、夜が訪れたように星屑が瞬く。
 跳びながら髪を昏く煌めかす、ノチユ・エテルニタ(夜に啼けども・e22615)。夜風を奔らすように、星灯りを従える蹴撃を叩き込んでいた。
「モロに一撃食らってる自分の脆さに気付けよ。僕らの糧にすらなれない自分の弱さにさ」
「……言ってくれるね」
 罪人はよろけながらも、挑発に柄を握りしめる。
「なら、試してみるかい。短命が弱きものだと、すぐに判る」
「だから好き勝手にしてもいいって? あんた、素顔かっこよさそーなのになーんにもわかってないわね!」
 直後、響く声は巨躯の頭上。
 ふわりと跳んだレイが翻り、靭やかに脚を伸ばしていた。
「──弱いものいじめはもお終わりよ」
 瞬間、蹴り下ろす一撃で罪人の脳天を打つ。
 巨躯はよろめきながらも、剣先を花へ突きつけていた。
「弱ければ斬られる。花も同じだ。脆ければ摘まれるのは道理だろう?」
「──いいえ、いいえ」
 オペレッタ・アルマ(ワルツ・e01617)はそっと首を振る。花を見つめて、表情こそ変わらねど──ゆらゆらと何かを湛えて揺れる瞳で。
「咲きほこるそのすがたは、ひたむきに今を駆け抜ける、証。決して、アナタに手折られる為にあるのではありません」
「そのとおりですっ! 人に危害を加えるのはもちろんだけど、花をだめにするのだって許せないのっ!」
 リュシエンヌ・ウルヴェーラ(陽だまり・e61400)もまた、翼猫を飛び立たせると──。
「ムスターシュっ! 全力でぺしゃんこにするわよっ!」
 応えたムスターシュが羽ばたいて皆の守りを固め、敵を討つ態勢を十全に整えた。
 その頃にはオペレッタも地を踏んで廻るように。
「すみやかに――『排除』します」
 パ・ド・ドゥを演じるように、すらりと手を伸ばして巨躯へ衝撃を齎した。
 傾ぐ罪人へ、きらりも光の塊を瞬かせる。変遷する色彩を宿すそれは、意志の侭に一直線に飛来して。
「まずはその動き、封じてあげますよ」
 眩しく弾けながら巨躯の足元を撃ち払う。
 罪人は鈍化しながらも刺突を打った。が、そこへ影が降りるように立ちふさがるのが伊礼・慧子(花無き臺・e41144)。
「通しません。一応これでも騎士の端くれ、なのですから」
 静かな言葉と共に見据えると、刃を抜いて防御態勢。剣撃を正面から受け止めながら、全身に込めた力で衝撃と負傷を抑えてみせた。
 直後にきらりの翼猫、サターンが柔らかな翼で治癒を行えば──リュシエンヌも鎖を踊らせて魔法円を描き守りと癒やしを与えていく。
 その頃には魅麗が混沌の翠光に霊気の赫きを交えていた。
「霊弾よ、敵の動きを止めてしまえー!」
 瞬間、閃いた光の弾は巨躯の足を削いで静止させる。
「今だよー!」
「ええ」
 その一瞬に、長田・鏡花(アームドメイデン・e56547)も黒髪をさらりと煌めかせて巨躯の懐へ飛び込んでいる。
 罪人は漸く剣を振り上げるが、遅い。
 鏡花は淡い表情のまま、ベルトに格納された生体金属を装甲へ展開。腕を深色の鋼を纏う武器と成して──。
「──全力を以て攻めさせて頂きます」
 業風を伴う鋭き打突。鎧を砕く一撃に、罪人は後退して膝をついた。

●決着
「……やってくれるね」
 浅い呼吸と共に、罪人は掠れた声を零す。
 無駄な抵抗を、と。声には憎しみに、愚かさを嗤う色を含んでもいた。
「花も人間も。脆く儚い命なら、抗おうともすぐに散ってしまうのに」
「……脆いんだから、儚いから。出来るだけ生かしてやれよ」
 ノチユは返しながらも、そんな考えは最初から存在しないのだろうとも判っている。
 故に奔ると、星色の刃を滑らせ敵の膚を抉る。無意味に摘まれる命は、どうしたって見逃せないから。
(「後ろを見てばかりのクセに──」)
 自分で判っているからこそ、罪人と、そして己へも嘲りを浮かべながら。
 刻まれた衝撃に下がった巨躯は、抗うように刃を振り上げていた。
「退かないさ。命を斬るのは、悦びがあるからだ」
「歪んだ嗜好を持つのは勝手ですが」
 と、滑り込むようにその横合いへ迫っているのが鏡花。
「実際に害をなすなら駆除しなくてはいけませんね」
 言葉と共に拳を握り込みながら、コード入力を実行している。
「ナックルモードに移行」
『──《ready!》』
 ベルトからのコール音声が返ると同時、連動したガジェットが拳打形態へ変形。鋭さと堅牢さ、そして艶めきを帯びた武器へと生まれ変わり。
「無為に命が散る様が好きなら、先ずはご自分が散っていただきましょう。行きます──ハイボルテージ・インパクト」
 振りかぶって叩きつける衝撃は『重圧拳打』。鈍い音を響かせて、苛烈な衝撃で巨躯を吹き飛ばした。
 そこへきらりが樹杖を突きつけている。
「聖なる力よ、天啓よ、私の力となり敵を貫きなさい!」
 天より降りた力を、眩いビームと成すそれは『ホーリースナイプ』。閃くエネルギーの塊が巨体を貫き地へ墜とす。
 罪人は唸りながらも、起き上がり剣へ冷気を溜めるが──眼前へ慧子。
「氷の技を使われるのは、黒い鎧がこの日差しで加熱するからでしょうか」
 寒暖の感覚がおかしくなりそうですね、と。
 挑発の声音に、罪人が感情を動かせば──生まれた隙に慧子は一閃、霊力に煌めく斬撃を見舞った。
 血を零しながらも罪人は波動を返す、が。
 きらりが受け止めてみせれば、慧子が『ステルスツリー』。後への期待も相まって、桃の木を伸ばして芳香で前衛を癒やす。
 リュシエンヌも光のヴェールで治癒を進めると。
「あと少しですっ!」
「──ええ」
 オペレッタがこつりと踵を鳴らす。
 すると高らかに響くブザーと共に、構築投影された舞台が幾つもの景色を巡らせた。
 頁を捲るよう、色も彩も光も移り変わって。魅せる『Replica』は眩い希望を与えるよう、きらりの傷を祓ってゆく。
「『これ』は、しっています。ひとも、花も、限りあるゆえに、煌めくこと。そして、とても強いことを」
 故に手折られはしないのだと、オペレッタは敵へ未来を語る。
 リュシエンヌも頷いて『Coin leger』。
「これでビリビリするといいのっ!」
 注ぐ光の粒子で巨躯を縫い止める。
 罪人が止まった一瞬に、レイは懐からデリンジャーを出していた。
 それは揺らがぬ決意の顕れ。
「あんたの死を看取ってあげるわ。それがあんた達を選んだヴァルキュリアの仕事だもの」
 微かに憂いを秘めながら。投擲する一撃は『スーパー神風デリンジャーアタック!』──痛烈な打力で瀕死に追い込む。
 同時にきらりは槍へ雷光を纏わせていた。
「この稲妻で、痺れてしまいなさい!」
 繰り出す光の刺突で巨躯を貫通すれば──視線を合わせた魅麗が頷き、零距離へと迫る。
「これで終わりだよ。重い一撃を、食らえー!」
 揺らぐ混沌を漂わせ、握り込む拳は頑強な狼のものと成る。瞬間、振り抜く一打は強烈に、罪人の命を砕いて霧散させていった。

●薄紅
 揺れる花々の間に、笑顔が行き交う。
 戦いの後、番犬達は人々へ無事を伝えて明るい賑わいを取り戻していた。
 甘い香りを漂わすカフェにもまた多く客足が向かうから、皆が歩み出す中、きらりも魅麗へと振り返って。
「さあ、せっかくですからカフェでのんびりしていきましょう?」
「うん。スイーツ、楽しみだなぁ」
 ほわりとした声音に、魅麗も爛漫に応えて。二人で並んで歩み、からりとドアベルを鳴らして店内へ入ってゆく。
 その一角に座ってメニューを開くと、沢山の白と薄紅色が見える。
「沢山あって、迷いますね」
「そうだね。どれも美味しそうだなぁ」
 きらりが笑みつつ顎に指先を当てていると、魅麗もまた悩ましげに瞳を動かしつつ。そんな時間もうきうきするけれど、魅麗は艶々の一品に目を留めていた。
「私はこのタルトが欲しいなぁ」
「タルト、とても素敵ですね。では私は……」
 と、きらりが陽色の瞳で見つめるのはパフェ。他にも迷ったけれど、最後にはその魅力に惹かれて注文する。
 それぞれの品がテーブルに置かれると、戴きますをして実食開始。
 きらりはまず、緩やかなすり鉢型の器にたっぷりの果実が乗ったパフェを、じっくり見つめて楽しんで。それからクリームとさいの目の桃を一口。
「このパフェ美味しいです!」
 果汁入りのクリームはリッチな甘味で、果実は新鮮で優しい味。その美味に、思わずほっぺを押さえていた。
「美味しそうだね。それじゃあ、私も」
 と、魅麗もタルトを頂く。たっぷりの果実の載ったそれは、きらきらの白桃色で生地が隠れてしまうほど。
 口に運ぶと、じゅぷりと果汁が弾けて……その甘味と、ほろりと解ける生地の芳ばしさがベストマッチ。
「ん、甘くて、とろけるみたいで。最高だよ」
「少し、交換しませんか?」
「いいね。それじゃあ遠慮なく」
 きらりが穏やかにパフェを差し出せば、魅麗もまたタルトを一切れ移してあげて。二人で二つの甘味を楽しんでいった。

 庭園もカフェも、両方楽しみたいからと──慧子は花を望める席にやってきていた。
 風を感じられるそこは、涼やかで花の香りも感じられて。
「ここ、良いですね──おや」
 と、丁度そこに、花が降りるようにふわりと座るオペレッタの姿を見つけたから、慧子は歩み寄る。
「ご一緒していいですか?」
「ええ、もちろん」
 そっとオペレッタが応えるから、慧子は同席。共にメニューを選び始めた。
 慧子は桃が好物。いつもよりちょっと欲張りに、パフェにコンポートにブランマンジェと、目についたものを注文していく。
 そんな姿を見つめつつ、オペレッタもオーダー。花のようなタルトの一切れを頼み──品がやってくると紫水晶色の瞳を仄かに煌めかせて。
「では、いただきましょう」
 みずみずしさを湛えた果肉と、さっくりした生地とをフォークで切り分けて。小さな唇を開けて、はむり。
「……!」
 ひろがる美味しさに、ほのりと頬を淡薔薇色に染めあげた。自分の内奥を精確に表す事はできないけれど、浮かんだ言葉は。
「花が、咲くようです」
「とても美味しそうですね。私のも……ん、冷たくて美味しい」
 慧子はパフェのアイスを口に運び、滑らかなひんやりさを楽しんで。
 コンポートのつるりとした食感と深い甘味を堪能すると、ブランマンジェのぷるぷる感と、濃厚な桃ソースに舌鼓を打っていた。
 その姿に、フォークを置いたオペレッタもまた冷たいものが恋しくて。
 魅惑の追加オーダーをと手を伸ばし、ひんやりなめらかなソルベと、果実そのものを味わうジュースで視線を右左させて。
「どちらがよいでしょう?」
 悩みうつろうひとときまでもを堪能してゆく。
 すると慧子が思いついたように──。
「両方はどうでしょう。私も沢山頼みましたので……少しずつシェアしませんか?」
「……ええ、では、少しだけ」
 オペレッタもこくりと頷いて。また暫し、薄紅の時間を共にしてゆく。

「桃ってこんなにスイーツになるんだ」
 花々を前にした席で──ノチユはメニューを眺めながら感心に呟く。共に座る幽子も、熱心に写真を見つめながら頷いていた。
「きっとどれも、美味しいです……」
「何でも、すきなの頼んで」
 と、ノチユが勧めれば幽子はお礼を述べつつパフェとタルトを選ぶ。ノチユはソルベとピーチティーにして、一緒に注文。品がくると、共に食べ始めた。
 幽子はパフェをあむあむ、タルトをはぐはぐ齧って満足げ。
「とても美味しくて、素敵です……」
「よかった」
 その微笑みを、ノチユは眺めつつ……自身もソルベを一口。冷たい甘さが爽やかで、すっきりする。
「こってり甘くないのって、夏にいいね」
 美味に季節を感じながら、外を見て。そこに前とは別の花を見つけたから、指していた。
「あの花って、なんていうの?」
「白い花が薄雪草で……黄色い花は、ルドベキアです……」
 幽子が見つめながら言うと、ノチユはそっかと呟いて。
「お礼におかわり、頼もっか」
「良いのですか……?」
 嬉しげな幽子にうん、と応え、ノチユはまた幾つか頼んであげる。
 ふと戦いの時のことが、過るけれど。それでも仕事を片付けて、こうして幸せそうな彼女と、彼女のように笑いあう人々と、夏の花の色を眺めれば──よかった、なんてほっとして。
 そんなノチユの安心を感じたように、ふと幽子も和らいだ顔を向けるから。
 心を知ってもらえたことが光栄で嬉しくて。染みる冷たい甘さを味わいながら、ノチユはまた一口、ソルベを食べていた。

「馬には蹴られたくはないけど、なーんか気になっちゃうわね♪」
 ノチユ達のテーブルを遠目に見つつ……レイもカフェの席についたところだった。
 呟きつつも、メニューを広げれば意識は集中。桃は大好きだから、目に入る品はどれも魅力的に映る。
 と、丁度店内へと入ってくるのが──鏡花。歩んできつつ丁寧に声をかけた。
「お隣、良いですか?」
「ええ、どうぞ!」
 レイが快く笑むと、鏡花は失礼しますと述べてから席につき、メニューを見つめる。中から目を留めたのは──。
「パフェにピーチティーに……」
 更にオススメがついているものも食べたくなって、タルトを選んだ。
「いいわね。私は……パフェもいいけど、ソルベも捨てがたいし──」
 レイも少々悩むけれど、食欲も旺盛なお年頃。うんと頷くと、全部頼んじゃおっと、と明るく頷いて。
「そこのイケメンな店員さーん、これちょーだいっ」
 パフェもソルベもドリンクも、纏めて食べたいものを注文した。
 品が並ぶと……レイは早速ぱくりとパフェを食べる。
 クリームと共に、ざっくりと入った果実が果汁を溢れさせ何とも美味で。ソルベは口の中でさっと解けて爽風の如き甘味を残してくれた。
「んー、旬の時期の桃って瑞々しくって甘くって大好きっ♪」
「確かに、とても美味ですね」
 と、鏡花も同意に頷く。
 パフェのアイスには、たっぷりと桃のピューレがかかっていて、濃密な甘さを感じられて。ピーチティーは茶葉の芳ばしさに、華やかな桃が香って仄かな甘味も丁度良かった。
 鏡花はそうして食べつつも、話題がないからと少々ぼんやりしていたけれど。
「あ、此方のスイーツ、美味しそうですが量が問題で──ご一緒にいかがでしょう」
「もちろん!」
 レイが頷けば、注文して。夏の甘味をまた一緒に、楽しんでゆく。

「うりるさん、お待たせですっ」
 リュシエンヌは迎えに来た最愛の旦那様──ウリル・ウルヴェーラに駆け寄っていた。
 優しく抱き留めたウリルは、柔らかに微笑みながら。
「お疲れ様。ムスターシュも頑張ったみたいだね」
 翼猫も労って、返る鳴き声にも笑みを返す。
 そうしてリュシエンヌがウリルに腕を絡めると……カフェへ。涼しい席にて、漂う甘い香りの中でメニューを開いていた。
「どれも美味しそう~、うりるさんは何にする?」
 並んで座って、共に迷うのも楽しくて。リュシエンヌは写真を見てわくわく。
「二人が何を食べたいかかな。俺はオマケのようなものだからね」
 頼んだスイーツの半分くらいはルルに行くような気がするし、と。笑うウリルだけれど、リュシエンヌは首を振り。
「うりるさんはオマケなんかじゃなくて、メインだもん。ね、何にする?」
「そうだな……なら、桃のコンポートが少し気になるだろうか」
 求められればウリルも決める。ムスターシュがパフェを選ぶと、ウリルは悪戯っぽく笑んでみた。
「ルルは3つくらい頼む?」
「うんっ。タルトに、ソーダ水……こっちのケーキも」
 ちょっと照れつつも、リュシエンヌはこくっと頷き決定。
「テーブルの上に桃の花畑ができそうね」
「確かに豪華な花畑になりそうだ」
 その前に全部乗るかな、と。
 心配しつつも、品は卓を綺麗に埋めて花園のよう。リュシエンヌの希望で、溢れんばかりの桃を前に三人で記念写真を撮った。
 嬉しそうな妻とムスターシュの笑顔に、ウリルも嬉しくなるから。
「それじゃあ、食べようか」
 楽しい時間に感謝しつつ堪能。
 ウリルが大人味のコンポートを味わえば、リュシエンヌは花のようなタルトと涼やかなソーダ水、果実たっぷりのケーキを楽しんで。
 ムスターシュがぱくぱくとパフェを食べるのを見つつ、夫婦で笑み合って。始まったばかりの夏の時間を、ゆっくりと過ごしてゆく。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年7月10日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 2
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