応援姿は法被に限る!

作者:ゆうきつかさ

●都内某所
「いいか、お前等! 応援姿は法被に限る! 俺達が応援するのは、頑張っている者達だ!」
 ビルシャナが大通りに信者達を集め、自らの教義を語っていた。
 信者達はビルシャナに洗脳されており、法被姿でテンションMAXであった。
 だが、応援される方は、イイ迷惑。
 とにかく、うるさく、耳障り。
 思わず『応援するのは、いいから帰ってくれ!』と言ってしまう程、ウザいモノだった。
 それ故に、ビルシャナの姿を見ただけで、逃げ出してしまう程。
 みんなビルシャナと関わりたくないのか、一定の距離を置いているようだった。

●セリカからの依頼
「地留・夏雪(季節外れの儚い粉雪・e32286)さんが危惧していた通り、ビルシャナ大菩薩から飛び去った光の影響で、悟りを開きビルシャナになってしまう人間が出ているようです」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
 ビルシャナが確認されたのは、都内某所にある商店街。
 ここで働いている人達を応援しているようだが、店側からすればイイ迷惑ッ!
 迂闊に笑顔でも見せれば、そのまま神輿に乗せられ、商店街を練り歩く事になってしまうため、みんな関わりたくないようである。
「今回の目的は、悟りを開いてビルシャナ化した人間とその配下と戦って、ビルシャナ化した人間を撃破する事です。ただし、ビルシャナ化した人間は、周囲の人間に自分の考えを布教して、信者を増やしています。ビルシャナ化している人間の言葉には強い説得力がある為、放っておくと一般人は信者になってしまうため、注意をしておきましょう。ここでビルシャナ化した人間の主張を覆すようなインパクトのある主張を行えば、周囲の人間が信者になる事を防ぐことができるかもしれません。ビルシャナの信者となった人間は、ビルシャナが撃破されるまでの間、ビルシャナのサーヴァントのような扱いとなり、戦闘に参加します。ビルシャナさえ倒せば、元に戻るので、救出は可能ですが、信者が多くなれば、それだけ戦闘で不利になるでしょう」
 セリカがケルベロス達に対して、今回の資料を配っていく。
 信者達はビルシャナによって洗脳され、商店街の人達を応援しているものの、どうして応援しなければいけないのか、まったく分かっていないようである。
 そもそも、頑張っている人の基準が、ビルシャナの気分次第なので、色々な意味で頭の上にハテナマークが浮かんでいるようだ。
 そのため、説得する事は難しくないので、あれこれとツッコミを入れておくと良いだろう。
「また信者達を説得する事さえ出来れば、ビルシャナの戦力を大幅に削る事が出来るでしょう。とにかく、ビルシャナを倒せば問題が無いので、皆さんよろしくお願いします」
 そう言ってセリカがケルベロス達に対して、ビルシャナの退治を依頼するのであった。


参加者
オリヴン・ベリル(双葉のカンラン石・e27322)
地留・夏雪(季節外れの儚い粉雪・e32286)
心意・括(孤児達の母親代わり・e32452)
佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)

■リプレイ

●都内某所
「……随分と、ここは賑やかですね」
 オリヴン・ベリル(双葉のカンラン石・e27322)は寝ぼけた様子で仲間達と共に、ビルシャナが確認された商店街にやってきた。
 商店街は活気に満ち溢れており、あちこちから威勢のいい声が聞こえてきた。
 その声を掻き消すようにして聞こえてきたのは、ビルシャナ達の応援歌であった。
 それはまるでカエルの大合唱!
 ただ騒げばいい感じで大声を出しているため、まわりのテンション急降下と言った感じのモノだった。
 それでも、ビルシャナ達は一生懸命になって応援しているらしく、悪意は微塵も感じられなかった。
 その分、厄介と言えるモノで、普通に注意しただけでは、納得してくれないような感じがプンプンと漂っていた。
「みんな頑張っているようね。それなのに、あんな大声を出して……。あれじゃ、邪魔をしているだけじゃない」
 佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)が、呆れた様子で溜息をついた。
 商店街には色々なモノが売られており、レイが探していた商品も、店頭に並んでいた。
 近所に大規模デパートが出来た事もあってか、みんな気合が入っており、品揃えで勝負を挑んでいるようである。
 そのため、普通の店では売られていないようなモノも並んでおり、それを眺めているだけで、あっと言う間に時間が過ぎてしまう程だった。
「応援をしたいという想い自体は良い事なのですが、間違った手段で突き進んでしまうのがビルシャナさんの悪い所ですね……」
 地留・夏雪(季節外れの儚い粉雪・e32286)が複雑な気持ちになりつつ、ビルシャナがいる方向に視線を送った。
 ビルシャナとしては、商店街の人達を応援する事で、かつての活気を取り戻そうとしているようだが、どう考えても邪魔をしているようにしか見えないため、何とも言えない感じであった。
 もう少し、お互いに話し合って、歩み寄る事さえ出来れば、正しい方向に進む事が出来そうだが、そうするためにはビルシャナを倒す必要があった。
「まあ、とにかく、ビルシャナの話を聞いてみましょうか。どうせ、くだらない事を言うと思うけど……。本気で商店街の人達を応援したいのであれば、ビルシャナになるべきではなかったわね」
 そう言って心意・括(孤児達の母親代わり・e32452)が、仲間達を連れてビルシャナの所に向かうのだった。

●商店街
「フレー、フレー! 商店街ッ!」
 ビルシャナ達は法被姿で、商店街の人達を応援していた。
 だが、商店街の人達は、揃いも揃って、困り顔。
 それとは対照的に信者達が調子に乗って、神輿を担いでいるため、みんなゲンナリとしている様子であった。
「ちょ、ちょっとタンマー! そりゃぁ、応援っていいことだと思うわよ。そもそもあたしみたいな美少女が目の前にいたら、全力でペンライト振りたくなるのもわかるもの♪ でも、どう見たって、みんな迷惑しているでしょ? 冷静になって、皆の顔を見て! 誰も喜んでいないじゃない! それなのに、応援って……。せめて、TPOで空気は読んで! わかった!?」
 そんな中、レイがビルシャナ達の前に立ち、色々な意味でダメ出しをした。
「フレー、フレー!」
 しかし、ビルシャナ達は、動じない。
 『自分達の考えに間違いはない』と言った感じで、商店街の人達を応援していた。
「確かに、法被な姿は、おめでたくて元気をもらえるかも、しれません。でも、それは気持ちが入っていてこそ、です! まわりを見てください。みんな目が死んでいる! これじゃ、ただのおめでたい格好をしたいだけの人、です……! そもそも、商店街のみなさんの、どこを応援したいのです、か? そこが的外れだったり、中身がないと、商店街の人もうれしくないです、よ」
 オリヴンがビルシャナの声を遮って、信者達に問いかけた。
 だが、信者達は何も答えない。
 まるで何かに取り憑かれた様子で、商店街の人達を応援していた。
「これが答えだ! フレー! フレー!」
 ビルシャナがオリヴンを一瞥した後、再び商店街の人達を応援し始めた。
 答えは言葉よりも、態度と言った感じであったが、さすがに限界のようである。
「頑張っている人々を応援したい、それは僕も同じです……。でも、応援の方法が良くないと思います……!」
 夏雪が真剣な表情を浮かべ、ビルシャナの前に陣取った。
「……何が言いたい」
 その途端、ビルシャナがイラっとした様子で、夏雪をジロリと睨みつけた。
 そんな空気を察した信者達がビクッと身体を震わせ、怯えた様子で身を寄せ合った。
「お祭りなら法被で大声を出すのは正しいかもしれません……。ですが、例えば試験前の人々が勉強で集中したい、そんな時に騒がしいと気が散りますし、お祭り気分なのも失礼です……。今回の商店街の場合でも、活気自体は良い事なのかもしれませんが、人類の敵であるビルシャナさんが商店街にいるだけで、人が寄って来なくなってしまい、営業妨害になってしまうんです……。本当に応援をしたいのなら、目立つ服も着ず見えない所で静かにしてあげた方が良いのです……」
 その視線に気づいた夏雪が、言葉を選びながら、諭すようにしてビルシャナ達に語り掛けた。
「みなさんも、ありません、か? 『がんばれ!』って言われても、『どうがんばるの?』とか、『もうがんばってるよ!』って思う事。……そう、みなさんに足りないものは法被じゃありません! 商店街に対する愛なんです……!!」
 その言葉に付け加えるようにして、オリヴンが信者達に訴えかけた。
「それじゃ、駄目だ! 意味がない! やっぱり、応援は目立ってナンボ! むしろ、目立たなければ、意味がない!」
 ビルシャナが全く悪びれた様子もなく、キッパリと断言をした。
 それに合わせて、まわりにいた信者達が『フレー、フレー!』と、再び応援し始めた。
「そもそも、『法被=応援』っていう人は、そんなにいない気がするんだけど……。それに、応援といたら、チアガールでしょ!」
 括がバサッと服を脱ぎ捨て、チアガール姿で胸を張った。
「た、確かに……」
 これには信者達も、納得。
 ビルシャナよりも先に答えを返し、何やら納得ムードであった。
「お、お前は何も分かっていない! 応援と言ったら、法被! それは太古の昔から決まっている事だ!」
 ビルシャナがムッとした様子で、括をジロリと睨みつけた。
 一体、何を根拠にそんな事を言っているのか分からないが、とにかくイライラ。
 ムカムカしている様子であった。
「お祭り気分で応援の何たるかを分かっていない法被姿に負けてられないわ! 私もチアガールとしてケルベロスの皆を全力で応援しちゃうわよー! レイちゃんやオリヴンくんも頑張ってー! ファイト! ファイト!」
 それに対抗するようにして、括がケルベロス達を応援するのであった。

●ビルシャナ
「ええい、邪魔をするな!」
 ビルシャナがイラついた様子で、超強力なビームを放ってきた。
 それは相手を高揚させる超強力なビーム。
 少し浴びただけでも、テンションアゲアゲになってしまう程、超強力であった。
「大丈夫……。何ともない、です……」
 そのビームを浴びた夏雪が晩夏の雪融け(バンカノユキドケ)を発動させ、粉雪状のグラビティを周囲に展開した。
 もちろん、そのまま放置していても、大した影響がある訳では無い。
 それでも、念のため。
 変なテンションでは戦いたくはないようである。
「うぐぐ……、こうなったら! お前等、やるぞ! 皆殺しだ!」
 ビルシャナが殺気立った様子で、信者達を煽った。
「フレー、フレー!」
 だが、信者達の答えは、応援。
 教義的に考えれば、正しい行いではあるものの、それはビルシャナが望んだ答えでは無かった。
「それじゃ、信者さんは大人しくしてくださいね。その間にビルシャナさんを倒してしまいますから……」
 オリヴンがテレビウムの地デジと連携を取りつつ、ビルシャナの注意を引いた。
 それに合わせて、地デジが応援動画を流し、オリヴン達を援護した。
「負けて……たまるかぁぁぁぁぁ!」
 ビルシャナがムッとした様子で、再びビームを放ってきた。
 だが、そのビームに当たったところで、テンション、アゲアゲ!
 支障が出るどころか、メリットしかない攻撃だった。
「さあ、回復のお時間ですよー」
 それと同時に、括が仲間達に声を掛け、心意式密封法(ウライシキミップウホウ)で、グラビティと想いを込めた包帯を、傷ついた仲間達に巻き付けた。
 続いて、ウイングキャットのソウも清浄の翼で、仲間達に傷を癒した。
「なーくんも、しっかりビルシャナを言い負かすのよー! がんばれ! がんばれ!」
 その間も、括がチアガール姿で、ばるんばるんと胸を揺らして、仲間達を応援しまくった。
「それじゃあ……いきますよ」
 次の瞬間、夏雪がボルトストライクを仕掛け、ビルシャナを拳で殴りつけ、爆発で追い打ちをかけた。
「ぐきゃああああああああああ!」
 その一撃を喰らったビルシャナが断末魔を響かせ、血溜まりの中に沈んでいった。
「頑張っている商店街の皆さんを応援するために、色々なお店に寄ってみましょうか……」
 その途端、夏雪がホッとした様子で、仲間達に声を掛けた。
「んー! 応援してたら良い汗かいちゃったわねー。家に帰ったらお風呂でさっぱりしたいわね! 全力で応援してあげたんだから、久しぶりになーくんも一緒に入ってもらうわよー!」
 そう言って括が夏雪を見つめて、ニコッと笑った。
「え……?い、いえ、僕ももうそういう年では……あっ、そんな……」
 夏雪の奮闘虚しく、括によって家まで連行。
 そのため、夏雪が何やら叫んでいるものの、その言葉が括に届く事はない。
「それじゃ、あたしはこの辺で……」
 そんな中、レイが紙袋を大切そうに抱きかかえ、そそくさとその場を後にするのであった。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年7月2日
難度:普通
参加:4人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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