餃子、飲めます

作者:星垣えん

●歯とかいらねえっすよ
 深夜2時。
 人々が眠りについた住宅地に、いまだ煌々と明かりの点く家があった。
「餃子できるよー」
『はーーい!!』
 キッチンとリビングとで和やかなやり取りが行われるが、残念ながらその光景は日常とは程遠い。まず深夜に餃子がヤバい。
 あと、調理してるのが鳥の人というのもまたヤバい。
 しかしまぁ、言うまでもなく、リビングの人たちはまったく気にしないわけで。
「はーいシソ餃子だよー。こっちは梅を効かせてあるからね、暑くても食べやすいよー」
「ふぅー! 餃子だぁー!」
「食らうぜぇぇぇぇーーーーーー!!!!」
 とか大歓迎している有様です。
 左手にタレをひろげた小皿を、右手に箸を装備した決戦態勢の男たち。熱々の餃子をためらいなく食おうとする彼らは間違いなく鳥さんにアテられている。
「ぷりぷりのエビ餃子もあるよー。こっちは納豆と筍を合わせてみたー。洋風もありなんじゃないかと思ってベーコンチーズを入れた揚げ餃子もあるよー」
「あー想像するだけで美味そうー!」
「パリッパリの揚げ餃子キター!!」
「いくしかねぇよ! 深夜2時だけどいくしかねぇよ!」
 鳥さんの供給により、食卓に続々並べられてゆく餃子たち。焼き餃子から水餃子、揚げ餃子などなどそのバリエーションも豊富だ。
 この料理スキルを見るに、どうやら餃子に関してはこだわりがある鳥さんっぽい。
 自らもテーブルの席につくと、鳥さんは缶ビールを開けた。信者たちもそれに続いて手元の缶ビールをプシュッとやる。
 そして各々、缶を掲げて、言った。
「さあ、今日は飲もう!」
『飲もーーーう!!』
 隣り合う者たちと缶をぶつけ、ぐいっとビールを呷る男たち。
 万感こめた息を深々と吐いた彼らは、箸で餃子を取った。
 そのまま流れるようにタレをつけて口に運ぶと、噛みしめて溢れ出る肉汁を――。
「んぐっ」
 味わわない!
 ひと噛みもせず、喉に流しこんだァ!
「いやー、この餃子喉越しが良いですね!」
「いくらでも飲めちゃう……」
「ふふっ、そうでしょそうでしょ。飲みやすくしてるからね。どんどん飲んでね。餃子って飲む物だからね。飲み物だから。噛むとかありえないから!!」
 己の信条を語りながら、鳥さんもまた餃子をごっくんする。
 餃子は飲み物。
 そう信じる鳥と男たちの餃子飲み放題パーリィは、盛り上がる一方であった。

●餃子食いにいこうぜ!
「餃子を飲む奴がいたのか……」
「いたみたいです!」
「アンタはそんなふうに育たないようにね」
「わかりました!」
 ぽんと頭に手を置いてきた塩谷・翔子(放浪ドクター・e25598)に、笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)がビシッと手を上げる。
 どうやら平和な仕事みたいで何よりです、と猟犬たちもほんわかした。
「餃子は飲み物だって言ってるビルシャナは、自宅に信者さんを集めて餃子パーティーをしちゃってます! 夜も遅いのに餃子を食べちゃうなんていけません! ですからみんなの手でパーティーを止めてきてください!」
「あんな固形物を飲み込むなんて危ないからね。ここはひとつ、アタシらケルベロスが助けてやろうじゃないか。あと餃子も食べてこよう」
 猟犬たちに頼んでくるねむの横で、けろっと言いよる翔子。
 夜も遅いのに餃子なんて、って言った隣の子の話を聞いていたんでしょうか。餃子を食ってくる気満々じゃないですか。
「餃子はいっぱいありますからね! 食べてきていいと思います!」
 ねむちゃん!? 自分の言ったことを撤回しないで!?
「でも食べる前に、ビルシャナは倒してくださいね! 信者さんも10人いますけど……たぶん餃子を思い思いに美味しく噛んで食べてたら目を覚ますと思います! お仕事もこなせてお腹も満たせるおいしー話です!」
「食べるだけで勝手に正気に戻ってくれるなら楽な話だねえ。向かう道中で酒でも買いこんでいこうか……」
 すでに酒宴の算段を立て始めている翔子さん。
 この時点で猟犬たちは完全に理解した。
 あ、今日は好き勝手に餃子食いながらわいわいできるんやな、と。
 であるならば善は急げだ。
 猟犬たちはねむちゃんに熱い視線を送り、ヘリオンを飛ばしてくれるよう暗に伝えた。
「わかりました! ねむが夜空を翔けてみんなを餃子の家にお連れしますね! 現地にはいろんな種類の餃子も用意されてるみたいですから、楽しんできてください!」
 ぴこっ、と可愛らしく敬礼するねむちゃん。
 かくして、猟犬たちは餃子を食らうために夜のフライトに臨むのだった。


参加者
塩谷・翔子(放浪ドクター・e25598)
一之瀬・白(龍醒掌・e31651)
水瀬・和奏(フルアーマーキャバルリー・e34101)
栗山・理弥(見た目は子供気分は大人・e35298)
朧・遊鬼(火車・e36891)
仁江・かりん(リトルネクロマンサー・e44079)
陽月・空(陽はまた昇る・e45009)
犬飼・志保(拳華嬢闘・e61383)

■リプレイ

●げきとうのよかん
 暗闇の住宅地。
 塩谷・翔子(放浪ドクター・e25598)はたんまりと酒類を詰めた袋を持ち直した。
「さぁて、気合を入れて仕事しないとねェ……!」
「気合を入れる方向が間違ってる気しかしないんだが……」
「え?」
 後方からジト目を向けている栗山・理弥(見た目は子供気分は大人・e35298)に振り返り、髪を掻く翔子。
「……いや、ちゃんとソフトドリンクもあるからさ、許して」
「そういう話でもないんだが……」
「僕は烏龍茶にしたよ」
「……」
 ビニール袋からペットボトルを出したのは陽月・空(陽はまた昇る・e45009)だ。もう餃子しか見えてないヴァルキュリアに理弥は言葉もない。
 烏龍茶を仕舞い、眼前の鳥ハウスを見上げる空。
「食べさせてくれる鳥さんは良い鳥さん、食べさせてくれない鳥さんは悪い鳥さん。今日は良い鳥さん、沢山食べよう」
「ラーメンとチャーハンもセットで付いてきたら、もっと嬉しいですよ!」
 お目目ぎらぎらさせる空の横で、仁江・かりん(リトルネクロマンサー・e44079)がいっぽ(ミミック)と一緒にぴょんぴょんと無邪気に飛び跳ねる。
 朧・遊鬼(火車・e36891)は鳥ハウスの様子を探るために耳を澄ました。
 聞こえてくるのは『喉越し』とか『飲む』とかおよそ餃子とは遠い単語である。
「餃子を丸のみとは……鳥らしいと言えばらしいな」
「いや、いくらなんでも餃子は飲めないでしょう、固形物ですよ?」
 真面目な顔して言いきる水瀬・和奏(フルアーマーキャバルリー・e34101)。
 餃子は飲み物――とか言ってる鳥さんがいるなんて、俄かには信じられない話だった。
「出発前にいろいろ説明されましたけど私は信じてませんよ?」
「まあ、その点は直に見てみればわかりますよね」
 あくまで疑う和奏の横を通りすぎ、鳥ハウスの扉を開ける犬飼・志保(拳華嬢闘・e61383)。
 で。
「こんばんは、邪魔するよ!」
「どわぁぁーーーーっ!!?」
 容赦ないケンカキックで居間のドアをぶち破ったァ! ぶっ飛んだ扉が頭上を掠め、鳥と信者たちがびくんと椅子から跳ね上がるゥ!
「だ、誰!?」
「気にしないでください」
「ドアを破られたのに!?」
 ガタッ、と椅子から立ち上がる信者たち。
 しかしそこへ、一之瀬・白(龍醒掌・e31651)が「わぁーっ!!」とか言いながらテーブルに駆け寄る。
「色んな餃子があるねぇ……僕、餃子だーいすき!」
「食べる気!?」
「人の家に上がり込んできて!?」
 わーわーと白くんのフリーダムっぷりにツッコむ信者たち。
 それを静かに見ていた和奏は――。
「……の、飲んでる……!?」
 吃驚していた。
 ツッコみながらも餃子をちゅるりと飲んでる信者を見て吃驚していた。
「なんとしても目を覚まして貰わなくては……!」
 気を引き締める和奏。
 その瞳には、何だかよくわからない使命感が、燃えていた。

●喉が危ない
「呑もーーう!!」
 卓上に響く楽しげな声。
 しかしその声は、信者たちのものではない。
「あー、皮のモチモチと羽根のパリパリ、絶妙の触感だわ中から野菜と肉汁があふれ出すのも堪らない。此処でビールを流し込むとね……いやー夏っていいね!」
 冷えたビールをグラスで呷る翔子である。
 羽根つき餃子と揚げ餃子が並ぶ皿を箸でつつき、そのジューシーな味を楽しんでは黄金色の酒を喉に流しこむ姿は――どう見ても飲み屋の客です。
 しかも彼女は一人客ではない。
「パリパリの餃子とこんがり揚げ餃子、どっちも美味しいです!」
「噛むとどばっと熱々の肉汁が出てくるね。火傷しないように気を付けて噛まないと」
 両隣ではかりんと空も普通にもしゃもしゃ食ってる。
 焼き餃子はカリッと焼き上げられながらも中はもっちりジューシー。揚げ餃子はカラッと揚がった食感が香ばしくて焼き餃子とはまた違った味わいがある。
 ぱくぱくと餃子を口に放りながら、かりんは鳥さんに憧れの眼差しを向けた。
「こんなに美味しく餃子を作れてすごいです!」
「うん……さすが鳥さん」
「アンタに会えてよかったよ大将」
「んふふ。そうでしょ」
 空と翔子にも褒められ、上機嫌になる鳥さん。
「でも餃子は飲み物だから飲まないとね。難しかったら水餃子から試してみる?」
「ん、水餃子いただくね」
 普通に鳥さんから水餃子を受け取る空。
「本場だと定番なのは水餃子だからね……ん、皮のプルプル感が増して、噛んだ時の感触が違うね。中の具材がキャベツなのか、白菜なのかでも味が違うから、楽しい」
「おっ、この水餃子はセロリが入ってるのか。噛む度にセロリの香りがたちあがる……アンタいい腕してるよ大将。だからこそ咀嚼しないってのが勿体無いなーこんなにウマいのに」
「だから飲めってぇぇーーー!!!」
 クアアーーッ、と咆哮する鳥さん。
 噛んでるからね。空も翔子も噛んでるからね。
「食レポとかいいから飲め! 餃子は飲むものなんだから!」
「ぼく、このチーズの揚げ餃子が好きです! ケチャップ付けると美味しいですし、コーラとの相性もバッチリです!」
「お前もォォォーーー!!!」
 嬉しそうに揚げ餃子の皿を掲げるかりんにすかさずツッコむ鳥。
 激おこである。出しても出しても噛みやがる猟犬たちに鳥さんは激おこである。
 が、それをスルーできるのが猟犬たちの強さだ。
 鳥の怒りとかツッコミとか我関せずで、餃子で口パンパンにできるのが空の強さだ。
「餃子とビールは合うらしいけど、それって餃子のたねにビールを混ぜてみても美味しいのかな。もしくは、蒸す時の水分とか」
「どうだろうねェ……ん、シロも食べるかい? はいよ」
 むぐむぐと爆食いする空に返しながら、足元でちょろちょろしてたシロ(ボクスドラゴン)に餃子を差し出す翔子。
 目の前でちらつくそれをシロはパクッ。
 そしてゴクッ。
「……あれま。一飲みしたせいで胴体が餃子の形になってるわ。ま、いいか」
「――♪」
 餃子を丸呑みして小躍りしてみせるシロ。
 その「やったったぜ」って感じが、まずかったのかもしれない。
「――!」
「……あれれ? いっぽ、どうしたのですか?」
 足元でいっぽがゴロゴロしてるのに気づくかりん。
 いっぽはエクトプラズムの腕をわちゃわちゃさせて苦悶していた。どうやらシロの真似して丸呑みした餃子がイイ感じに詰まったらしい。
「やっぱり、しっかり噛んで食べるのは大事なのですね。それに美味しいものはすぐに飲み込んだら勿体ないですよ。作ってくれた人に感謝してちゃんと味わうべきです!」
「な、なるほど……」
「確かに詰まらす危険はあるか……」
 高速ゴロゴロするいっぽを見て、背を冷たい汗が伝う信者たちだった。

●いいから噛め
「そもそも餃子を飲むだなんて、餃子の流儀に対する冒涜です」
「……何だと?」
 ぴくりと鳥と信者たちを反応させたのは志保だ。
 飲むのは冒涜とさえ言ってきた女に、鳥たちは反論すべく身を乗り出す。
 そのときだ。
「……こ、これは……! 皮もモチモチ、それでいて焼けた部分にはパリパリの羽根まであって……そして、噛めば溢れかえるジューシーな肉汁……! もう最ッ高じゃないですか……!」
 焼き餃子を頬張った和奏が、聞こえよがしに食レポを始めた。
 もぐもぐもぐと口を動かすその顔はまさしく至福。身震いすらしそうな勢いで餃子の肉汁を味わった和奏は、ごくんと飲みこんでから熱い息をつく。
「これならいくらでも食べられちゃいますね」
「いくらでもって……大丈夫なの和奏さん? カロリーとか……」
「カロリー? 知りませんね……」
 恐る恐る訊いてきた白から目を逸らし、遠くを見つめる和奏。
 体重を気にする女子らしい女子は、追及を逃れるように信者へ流し目。
「……で、皆さんはこんな美味しい餃子を噛まずに飲み込んでいると……正直、人生の半分どころか99%くらい損してるのでは……?」
「99%も……!」
「馬鹿な……損してるはずは……」
「損してるに決まってるじゃないですか」
 狼狽える信者たちへきっぱり言い切る志保。
 彼女はそこら辺を歩いていたソラマル(ウイングキャット)を呼び寄せると、手近にあった水餃子を与えた。もちろんソラマルははむはむと噛む。
「……やっぱり噛んじゃうよね。餃子は喉越しを味わう物じゃなくて、口で味わう物だもんね」
 指で自分の唇に触れる志保は、自身もまた焼き餃子を口に運んだ。
「パリパリ香ばしい皮と、中のジューシーな餡。それをタレに付けて肉汁とのマリアージュを楽しむ物じゃないですか?」
「肉汁とのマリアージュ……!」
「肉汁の甘味とタレの塩気と酸味がたまりませんね。そして後味は辛口の焼酎でリセット……くぅー、これでまた餃子が楽しめます!」
「焼酎まで!」
 普通に飲みだした志保を見て、ごくりと喉を鳴らす信者たち。
 明らかに猟犬たちの食レポに惹かれている。
 鳥さんは慌てて餃子を飲みはじめた。
「ほ、ほら! 見てよ飲めるよ! 噛むとか面倒くさいじゃん、パパッと飲んだほうが――」
「そんな丸呑みをするなど……先程のイッポの姿を見ていなかったのか! 子供やルーナが真似したらどうするのだ!」
 カッ、と眼を見開いて怒鳴る遊鬼。
 その鋭い目力とは裏腹にめっちゃ口もぐもぐしてる男は、卓上で餃子と戯れてるルーナ(ナノナノ)を見やった。そしてルーナが一心不乱に揚げ餃子をサクサク食べてるのを見て胸をなでおろした。
「ルーナは此方の揚げ餃子が好きか、ちゃんとよく噛んで食べるのだぞ?」
「――♪」
 ピッ、と了解の挙手をするルーナ。可愛い。
 ルーナの食べ姿をひとしきり愛でると、遊鬼は信者たちを睨みつけた。
「このルーナの顔を見ればわかろう。味もそうだが、食べる音や肉、野菜、肉汁の旨味や皮の噛み心地が楽しめる……呑むだけでは勿体なかろう?」
「そ、そうっすか、ね……」
「ほぉ……このプレーンも旨いが、梅シソが入っておるのもさっぱりしておって旨いな……んんっ……閉じ込められた肉汁もたまらぬな」
「あぁっ! さっぱり梅シソがっ!」
 狙っていた梅シソを遊鬼に奪われた信者ががっくり膝をつく。
 しかし梅シソ餃子をもぐもぐする遊鬼の顔は恍惚そのものだ。これはやはり餃子を噛むべきなのではないだろうか、と信者たちは思いはじめていた。

●達人と学会員
「噛むべきなのか……」
「ああ、噛んだほうがよさそうに見えるよな……」
「いや違う違う。飲んだほうがいいって! ほら皆で餃子飲も――」
「そんな食べ方しちゃだめでしょ、ばかちーん!」
「ぐあーーっ!?」
 信者たちの前で餃子を丸呑みしようとした鳥を、白がばちこーんと平手打ちでぶっ飛ばした。鳥は脳天から壁に激突したけど大丈夫だ。グラビティじゃなくて肉体言語だから。
「しっかり噛んで食べないと、消化に悪いよ!? あと丸呑みしちゃったら皮に包まれた濃厚な肉汁が味わえないじゃん!?」
 テーブルをばんっと両手で叩く白が、熱々の水餃子を手元に寄せる。
「全く、これだからパンピーは……いいかい、僕の食べ方をよーく見てるんだよ?」
 はむっと頬張る白。
 当然、噛んだ瞬間、熱い肉汁が口の中に零れだす。
 しかし白はパンピーではないので動じない。額に汗を浮かべながらも巧みにハフハフして食べごろの温度まで持っていき、ごくっと呑みこんだ。
「……ふぅ、どう? 美味しそうに見えるでしょ?」
「熱そうっていうほうが強いけど……まあ確かに」
「美味そうは美味そうだな」
「これが、正しい餃子の食べ方さ……食は一人で楽しむものじゃない、皆で美味しそうに食べてこそさ!」
「そっちの水餃子も旨そうだな…一人占めするでないぞ、ツクモ」
「あ、ごめんね遊鬼さん。でもまだいっぱいあるから!」
 堂に入った食べっぷりで信者たちを揺さぶった白が、フッとクールな顔しながら箸をカチカチさせてる遊鬼に水餃子を差し出す。
 その間、鳥さんは横槍を入れてこなかった。
 なぜか。
「餃子といえば浜松餃子! てなわけで、作ってくれよ浜松餃子!」
「ぐいぐい押しつけてくる!?」
 理弥が、買いこんだ食材を問答無用で押し付けていたのである。
 押しがヤベェもんだから鳥さんも大人しくキッチンに籠るしかなかったんや。
「どうして俺がローカル餃子を……」
「薄皮で、餡はキャベツと玉ねぎと豚肉。浜松で生産が盛んだったんでそのまま餃子の餡に使われるようになったらしいぜ。フライパンに丸く並べて焼くのが伝統的な焼き方な、あ、茹でもやしも忘れずに!」
「しかも注文が多い!」
「いちおう言っとくけど、俺、別に浜松餃子学会の回し者とかじゃないぜ。ちなみに浜松餃子の定義は3年以上浜松在住で浜松市内で製造してる餃子だから正確にはお前が作っても浜松餃子じゃねぇけど……まあいいか!」
「浜松トークがすごすぎるよォ……!!」
 隣で監視がてらマシンガントークしてくる理弥に困り果てる鳥さん。
 この浜松民から逃れたい――その一心で鳥さんは神速で浜松餃子を焼き上げ、理弥くんに献上しました。
「んーキャベツ多めであっさりしながらも噛めば噛むほど、豚肉のコクと玉ねぎの甘みが感じられていくらでも食えるぜ。もやしと一緒に食うと脂っこさがリセットされてまた箸が進むんだよなぁ……」
「よかったね……じゃあ俺そろそろ居間に戻っ――」
「持ち帰り用も頼むな」
「クッソォォーーーーー!!!」
 まだまだ帰還は許されなかった鳥さん。
 ちなみに居間に戻れた頃には信者たちはすっかり正気に戻って去っていました。

 十分後。
「さ、それじゃたくさん餃子を持って帰ろう!」
「お土産たくさん持っていくのですよ!」
「残すのも勿体ない故、な」
「正直これ以上食べると後々怖いんですけど……仕方ないですよね美味しいですし」
 白の号令を合図に、かりんが、遊鬼が、和奏が、テーブル上に残った餃子をタッパーに詰め詰めしてゆく。
 鳥は死んでいた。
 サクッと死んで、腕によりをかけて作った餃子も奪い尽くされんとしていました。
「今回もありがとう、鳥さん。美味しかった」
「土産の餃子もたくさん作ってもらえたし、良い仕事だったなー」
 亡き鳥さんを悼んで瞑目する空。その腕にはテイクアウトに作ってもらった冷凍餃子と生餃子がしっかり抱えられている。その隣では理弥が遅ればせながら揚げ餃子をむぐむぐ食っている。
 いい感じに飲んで温まってきた翔子は、外に出て夜風に当たった。
 そして、腹を撫でて言う。
「ようし、2軒目いくかな」
「いいですね。食べ足りないし飲み足りないし、私も一緒に行っていいですか?」
 ひょこっと出てきて聞いていた志保が、ニヤリと笑む。さんざっぱら焼酎を飲んでいたはずの女は、しかしケロリとしていた。
「いいよ。夜は長いし、じゃんじゃん飲もうじゃないか!」
「もう3時ですけどね」
 がっと志保の肩に腕をかけ、歩き出す翔子さん。
 酒飲みの夜は、ここから始まる。

作者:星垣えん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年6月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 3
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