天現寺家に、楽しい空気を

作者:塩田多弾砲

「弁護士のおじ様は、海外に?」
「はい、麗奈様」
 天現寺邸。同・居間。
 麗奈は、車椅子の麗美と、メイドとともにいた。姉、麗美は、少しづつではあるが、回復に向かっているという。
 だが、まだ完全に回復するめどは、残念ながら立っていない。
 かつては快活な性格で、「ぐへへ」などと同級生の女子たちとセクハラめいた事もしつつ、女子校生活を過ごしてきた麗美。
 彼女がこうなったのは……、
 麗奈のすぐ後ろに、その原因の一つであるビハインド……天現寺雷花が姿を現した。
「……私がケルベロスになって、半年くらい? ……雷花姉様を迎えに行ってから、全てが始まった、のよね……」
「ええ……旦那様と奥様が、麗美さまの妹である雷花様を引き取りに向かわれた事から……でしたね」
 メイドの言う通り、麗奈の姉、麗美には、双子の妹がいた。それが彼女、雷花。
 雷花は生まれてからすぐ、流産し子供が埋めなくなった叔母へ養子に出されていた。愛情につつまれ成長した雷花だが……デウスエクスの起こした破壊活動は、叔母家族の命を奪う。
 孤児になった雷花を迎え入れんと、麗奈の両親は麗美とともに、迎えに行ったのだが……、
 その日、麗奈だけは風邪をひいていた。もし同行していたら、事故に巻き込まれ死んでいたか……麗美のように、両親が死ぬ様を見てしまったかもしれない。
 詳細は不明だが、デウスエクスが出現し、それが元で大規模災害が発生。崩れたビルの下敷きになり、両親が一瞬で死に、肉片になる様を二人は見てしまったらしい。
 麗美はそれを見て、心を閉ざしてしまった。雷花もまた、ビハインドになってしまった理由は、そこにあるようだが……その辺も不明。
 そして麗奈にも、自宅にエインヘリアルが。それを撃つべく、喰霊刀を手にして立ち上がり……、それが、彼女を戦いの場へと誘う事に。
「……戦いの練習もしなきゃだし、勉強も……家の相続とか、もっといろいろしっかりしないと……」
「……あの、お嬢様。そういえばそろそろ、お誕生日……」
「……ごめんなさい昴さん、そうだったわね……」
 でも、私を祝うより……、と、続けた。
「……日頃、お世話になってるケルベロスの皆さんをお呼びして、うちでささやかな食事会でもしましょう」

「……と、こういうわけでして」
 麗奈はケルベロスの事務所にて。
 ささやかながら、自分の誕生日を祝うので、もしよかったら……と、申し出ていた。
「場所は、自宅の御座敷で……。いろいろとお菓子や料理を用意して、皆さんで食べながら楽しめればと思います。かくし芸とかありましたら、そういうのも披露して、わいわいと楽しくできればいいかなと」
 参加してくれるなら、ささやかでいいので一人一品、なにか食べ物を持ってきてくれると嬉しいです……と、麗奈は付け加えた。
 何でも構わないが、豪華なものでなくともいいらしい。
 たとえば、近所の商店街の肉屋で売ってるコロッケとか、町中華のお持ち帰りメニューの餃子や肉野菜炒めとか、お気に入りの駄菓子詰め合わせとか、その程度で良いとのこと(もちろん、豪華であっても一向にかまわないが)。
「好き嫌いはありませんから、どんなものでも結構ですよ。それに……私の誕生日を祝うというより、日頃お世話になってるケルベロスの先輩諸氏に楽しんでいただければと思います。まだお知り合いになってない方も歓迎です。これからケルベロスとしてまた仕事をご一緒する事もあるでしょうし、ご挨拶代わりにうちに来ていらして、親しくなれればと」
 持ち寄りがなくとも、天現寺家の方で料理やお菓子を用意するので、ただ食べて騒いで楽しんでもらうだけでもいいらしい。リクエストがあれば、ある程度は彼女自身やメイドが作るという。
「……それに、楽し気な空気は、姉の……麗美姉様の回復にも良いと思いますので。両親を亡くしてから、このような機会もなく……私の家はちょっと『空虚』なので」
 それゆえ、皆で楽しくなるひと時を過ごせれば、これ以上になく嬉しいです……と、麗奈は締めくくった。
「というわけで、急な話で済みませんが……よろしければ来ていただけませんか?」
 よろしくお願いしますと、麗奈はぺこりと頭を下げた。
(「……お姉様も、来てくれるかな、来てくれますよね。……エッチなパーティは、後で、二人きりで内緒でしたい、な」)
 などと、ちょっぴり期待しつつ。


■リプレイ

●ちょっとした落胆
「ううっ……確かに、急な話ですし、私自身も皆さんと面識がある方ではないですが……」
「ま、まあ……ドンマイ」
「……気にしない。予想外の事が起こるから、人生面白い」
 誕生日に来てくれた、二人の友人……氷川美芳と宇引田夢生が、落胆した様子の天現寺・麗奈(地球人の妖剣士・en0313)の肩をぽんっと叩いた。
 急だったためか、ケルベロスの皆を誕生日に招待したものの……来てくれることになったのは二名だけだった。
 たった二名とはいえ、来てくれることに関しては、とてもありがたい。
 しかし……正直なところ、冷やかしでもいいからもう1~2人ほどは来てくれるのでは……という『期待』があった。
 友人二人の言葉を聞いても、麗奈は肩を落とし落ち込み中。
「……私、ケルベロスの皆さんに避けられてるんでしょうか?……避けられてるんでしょうね、そうでしょうね……(しょぼん」
「あー、ほらほら。元気出してって。避けてるというより、単に知られてないだけじゃあないかな。それにほら、なんか大きな戦いがあるとかないとか言われてるし、そっちに忙しくて来れなかっただけじゃないかなーって」
「それに、某学園のアイドルグループだって、最初の評価はゼロだった。ゼロを1にする、その心意気」
「ええ、そうですね。そうですけど……」
 二人の言う通り、自分は任務に参加した数も少ないし、知名度はほぼゼロ。
 わかってはいるけど、やっぱりちょっと残念だと感じ、麗奈は落ち込みモードに。こんなんで、楽しい空気など出せるのだろうか。
 そんな事を考えていたら、
「……だーれ、だ?」
 後ろから目隠しされた。後頭部には、柔らかな感触が。
「……え?」
「……誕生日、おめでとう。心からお祝いするわ」
 振り向き、見上げたら。豊かな裸の胸を持つ、サキュバスの美女の姿が。
 弓月・永凛(サキュバスのウィッチドクター・e26019)。麗奈を色々な道に引き込んだ、サキュバスの女性。
「お姉様……今日は、来てくださり、ありがとうございます」
 そのまま、彼女の裸の胸、その谷間に……顔を埋める。
「……ケルベロスの皆は、あまり来られなかったようだけど……その分、たっぷりと……ね?」
「……はい♪」
「うふっ。それに、麗奈ちゃんのお友達も……どう『仲良く』してるか、後でちょっと聞かせて、ね?」
「……はい。……って、逆バニー姿? 裸だし、見えちゃってるし……」と、美芳は顔真っ赤。
「……こないだ読んだ、官能小説のシチュみたい」と、夢生はもじもじ。
 そして、永凛の後ろには。
「お誕生日、おめでとうね」
 ヴァルキュリアの少女が、立っていた。
「私、リフィルディード・ラクシュエル(刀乱剛呀・e25284)よ。よろしくね」
 ぼんやりした口調だが、その両胸は大きく形も良い。大きな緑色の瞳が、麗奈を見つめていた。
「あ、ケルベロスの方、ですね。今日は来て頂き、ありがとうございます。楽しんでいただければ、幸いです」
「ん。かくし芸、楽しみにしてて」
 そう言って、周囲を見回した。
 たいそうな屋敷だが……『贅沢』さは感じられない。調度品に派手さは無いが、地味すぎでもない。どことなく、生前の家主の趣味の良さが伝わってくる。
 そういえば……、
「皆様、今日はお忙しい中、お嬢様の誕生日に来ていただき誠にありがとうございます」
 リフィルディードの思索は、家の奥からやって来たメイドの声に遮られた。
 メイドは眼鏡をかけた、麗美とほぼ同年代の女性。そして彼女は、車椅子を押していた。
「…………」
 車椅子に座っているのは、麗奈の姉、麗美。
 しかし、やはり……あまり反応は示さない。
「……麗美さんは、まだ……」
 永凛が心配そうに言葉をかけるも、
「ええ。最近は麗美姉様も、少しは元気だったんですが……ここ数日、また元気がなくなったみたいで……」
 少し回復の兆しを見せるも、また前の状態に戻る。けれど、少しだけ容態は良くはなっている……と、『三歩進んで、二歩下がる』ような感じなのだという。
 天現寺家の屋内に、重苦しい空気が漂い始めたが、
「……それじゃ……お座敷はどっち?」
 その空気を払拭せんと、努めて明るい声でリフィルディードが問いかけた。

●まずはごちそう、そしてかくし芸
 座敷は広かった。かつては親戚一同が集まって、宴会やその他色々な行事を行うのに使われていたらしい。
 しかし、ここ最近は客が誰も来ない。閑散として、どこか寂し気にも感じられる。
 その広い座敷の中心には大きな座卓が置かれ、卓上には飲み物と食べ物が並べられていた。
 その中には、ニンジンを用いたケーキにプリンが。永凛が持ってきたものだ。
「ほら、こないだの逆バニー姿だから、うさぎでニンジン、ね」
「わあ……綺麗な橙色ですね。ありがとうございます」
 それに並び、リフィルディードが持ってきたものが。
「私のは……オードブル。スーパーで売ってるやつだけど……」
 それは、オードブルの詰め合わせ。
「ありがとうございます。……あ、これ。私の好きなやつです。テリーヌにチキンロールに、合鴨ローストも!」
 こちらも、高評価。
「私のは、近所の肉屋のコロッケ! 私の大好物!」
「お気に入りの缶詰セット。お勧めはウインナーと牛肉の大和煮。それと、このコンビーフ」
 美芳と夢生の持ち寄りも、その隣に並んでいる。
「これは、麗美様と私から……」と、メイドが手作りのバースデーケーキを運んできた。
 ささやかながら、料理が揃い、人もそろった。
「それじゃあ……」と、皆で囲まれ、
 ここに、麗奈の誕生日のお祝いが開かれた。

 皆にケーキが切り分けられ、食べ物や飲み物も行き渡り、皆でそれを口にしては談笑する。
「ねー、リフィルディードおねーさんはなんで、ケルベロスになったの?」
 美芳が隣のケルベロスに訊ねるも、
「……秘密」
 と、人差し指を口元に当て、微笑み誤魔化す彼女。
「……気になる。きっとすごい過去がある?」
 夢生も美芳に続き、ちょっと食いつくが、
「……まあ、戦場にいた、とだけは言っておきますね。あ、このコロッケとウインナー缶、美味しいです」
 と、はぐらかした。
「くうーっ、言わないところが大人っぽいなあ」
「ミステリアス。多くを語らない、でもそこがいい」
 と、憧れの目で見る中学生二人。そんな二人に、
「もう一つだけ、教えてあげます。……可愛いものが好きよ」
 近づき、ぎゅっと抱きしめるリフィルディード。
「……ひゃっ!?」
 そんな二人よろしく、麗奈もまた永凛にぎゅっと後ろから抱きしめられていた。
「うふふ、ほら、食べさせてあげる。あーん」
「あーん、……おいしいです、お姉様」
「気に入ってもらえたようで何よりよ。じゃ、今度は麗奈ちゃんから『あーん』ってしてくれる?」
「あ、はい……あーん」
「はむっ……うん、美味しいわ。このバースデーケーキ。メイドさん、腕がいいのね」
 ちらりと横を見ると、そのメイドは麗美に食べさせていた。
 麗美は、口元に食べ物を運ばれると、わずかな量を含み、飲み込んでいる。
 が……、その様子は、『回復している』とは思えない。医師として彼女を見ると、どうにも……、
『生命力』が、あまり感じられない。生きようとする意志のようなものが、どこか希薄な気がするのだ。
 そして、メイドの献身。その献身には……どこか、仕える者以上の何かがあった。
「……お姉様?」
 麗奈に呼ばれ、我に返るが、
(「もう少し、何かできればいいんだけど」)
 そう思わざるを得ない、永凛だった。

「……はいどーぞ、夢生さんの好きなSFやで?」
「なんやこれ?」
「蒸気機関車、通称SFや」
「それ言うならSLや、いい加減にしなさい」
「「どーもー、ありがとーございましたー」」
 と、かくし芸の披露でまず行われたのが、美芳と夢生の漫才。
 それなりにウケはしたが、麗奈はともかく、麗美の顔に反応はない。
「…………」
 永凛は、彼女を一瞥し、ちょっと気になった。
 きっと麗奈が『楽しい空気を』と求めていたのは、おそらく自分の誕生日を祝うというより……姉のためという理由の方が強くはなかろうか。
「……じゃ、次は私ね」
 と、思索しているうちに、リフィルディードのかくし芸の準備が完了。
 美芳と夢生の二人の漫才が行われているうちにと、用意していたのだ。
 座敷に面した庭に、ちょっとした射的場が完成し、皆の視線がそちらへと向かう。
 リフィルディードは、射的用の玩具の拳銃を手に取り、
「さて、お立合い。百発百中の拳銃の腕前、とくと御覧じろ」
 六連発のリボルバーで、まずは六つの標的……並べられたキャラメルの箱へと射撃。
 六発全部に命中。
「続いて、ダルマ落としの射撃をば」
 続いての標的は、五段あるダルマ落としの玩具。
 くるりとガンスピンした後、再び六発を、今度は連続で射撃。
 一番下の段のみが順番に撃たれ、弾かれる。ダルマはそのまま倒れる事無く、下の段全てを弾き飛ばされ、尻餅をついた。最後の一発で、ダルマも後ろに倒される。
 最後は、大き目のぬいぐるみ。置かれた後、ぬいぐるみに一発命中させるも、びくともしない。
「このぬいぐるみ。この通り、一発だけでは倒せません。ですが……」
 数丁の射的用の拳銃を用意すると……、
「はっ!」
 それを端から両手に持ち、二丁拳銃でぬいぐるみに撃つ、撃つ、撃つ!
 二丁を空にしたら、用意した別の拳銃二丁に持ち変え、再び撃つ、撃つ、撃つ!
 大きなぬいぐるみも、流石にぐらぐら揺れて、そして……。
 こてん……と、ひっくり返った。
「おおー、おねーさんスゴイ!」
「やります、イケてます!」
「す、すごいですよ、すごいですね!」
 美芳と夢生、そして麗奈は、その鮮やかな腕前に目を見張った。
「はい拍手」と、気取ってガンスピンするリフィルディードだが、
「あ」
 スピン中、指から拳銃がすっぽ抜け、そのまま顔に命中。
「……銃なだけに、顔にガンっと当たっちゃいましたー。これがホントの顔(ガン)面なんちゃって」
 これには全員大笑い。
 そして、
「…………」
 リフィルディードは見た。麗美がわずかに、微笑みらしきものを浮かべたのを。

●エロス=生命の舞
「それじゃ、今度は私の番ね。メイドさん、用意は?」
「はい、出来てます」
 別室……フローリングの会議室のような場所に移った皆は、
 そこに、一本のポールが備え付けられているのを見た。
「それじゃあ……Music Start!」
 同じく、用意していた音源を用い……、
 永凛が、ポールに絡みつき、踊り出した。
「これは……ポールダンス?」
 麗奈の言う通り、それは『ポールダンス』。
 永凛の身体が細い柱を中心に、魅惑的に動き、回りはじめた。
 音楽に合わせ、永凛の身体が動き、その手足が時には蠱惑的に、時には力強く脈動する。
 棒を両手で掴み、片手で支え、両足で抱え、片足だけで絡み、手足を大きく開いて、身体の動きを見せつける。
「……なんだか、かっこいい……」
「……ヌードなのに、やらしい、だけじゃない……」
 美芳と夢生もまた、それを食い入るように見ていた。確かに永凛はほぼ全裸に近い、逆バニー姿。当然、胸や下半身も丸見え。
 ほぼ全裸故に、淫靡さは当然あった。が、ポールダンスの動き、堂々とした永凛の動きが内包していたのは……淫靡さ、いやらしさだけではなかった。
 淫靡さに加え、生物自体が有する『生命力』そのもの、『死=タナトス』の対極にある『生=エロス』の力強さが、そこにはあった。
 まるでそれは、芸術作品の裸婦像が己の裸体を用いて、命の力強さを歌い舞っているかのよう。
 しばしの間、永凛のダンスは皆の目を奪い、そして……、
「……お粗末でした」
 永凛のダンスが終わり、皆の拍手が……その場に響いていた。
 そして麗美もまた……永凛の舞を……見つめていた。

 その後も、誕生日会はしばらく続き、
 日も暮れ、夜に。
「……みなさん、今日は……ありがとうございました」
 麗奈の挨拶で、お開きとなり、
「……今日、永凛さん来るって聞いたから、さ……」
「……うちには、お泊りするって、伝えてる……」
 二人は恥ずかしげに、そんな事を。
「はい、お二人の分の御布団も、ご用意しております」
 ちなみに、永凛の分は既に用意済。
「ふふっ……それじゃあ、二次会、する?」
 永凛の問いに、麗奈たちは恥ずかしげに……、
「……(こくっ」
 無言のまま、頷いた。
「……それじゃあ、私はこれで……」
 それを見た、リフィルディードは。
 麗奈に近づき、その耳元に、
「……今晩は、もっと乱れちゃうのかしら?」
 囁いた。
「え……あ、あの! その……」
 赤くなる彼女を見て、微笑むリフィルディードだった。

●そして……
「は、恥ずかしいです、お姉様……」
「ふふっ、きれいよ。麗奈ちゃん」
 夜。
 永凛は麗奈の自室で、今まで撮りためていた麗奈の艶姿を……スライドにして壁に写していた。
「わー、えっちだー……」
「……足、あんなに広げてる……」
 同席している美芳と夢生は、それに釘付け。
「麗奈ちゃん。この写真撮った時の事、覚えてる? あの時は……」
 そして、思い出話の最中、
「……れい……な……」
「麗美お嬢様! 急に立っては……」
 立って歩いてきた麗美と、
 彼女を追って、メイドとが、麗奈の部屋に入って来た。
「……麗美、姉様……?」
 そのまま、麗奈のもとに近づき、崩れ落ちるようにして……、
 麗美は、妹の胸元に。
「お、お姉さんが……」
「ど、どうしたの……?」
 友人二人も、それに驚き、
「……麗美、さん……」
 永凛は、悟った。
 麗美が、言葉を取り戻したのだと。麗奈の想いに、答えてくれたのだと。
 先刻には感じなかった、『生命力』、『生きるための意思力』。そういったものが……今の麗美には、確かに感じられた。
「……れい、な……わ、わた、し……」
「姉様! もういいの! ……お帰りなさい、姉様……」
「……た、ただい、ま……れい、な……」
「……姉様……姉様、姉様……姉様っ……」
 たどたどしい言葉の姉を抱きしめ、麗奈は……、
「……ああ、あっ……ああーっ! あああーっ!」
 泣いた。
 吠えるように、命を感じさせるように、泣いた。泣き叫んだ。
「……麗奈、ちゃん。良かった……」
 永凛は、ようやく再開できた姉妹を祝福するかのように、
 二人の肩を抱き寄せ、もらい泣きしつつ……微笑んだ。
「……麗奈ちゃん……良かったね!」
「……お姉さんも、良かった………」
「お嬢様……良かったです……」
 美芳と夢生、そしてメイドもまた、涙を流し、
 その光景を、優しく見守っていた。

「はあっ、はあっ、はあっ……あんっ!」
 その頃、リフィルディードは。
 身体の疼きを覚え、行きずりの男たちに抱かれながら、
(「あっちは、どうなってるかな……あっ」)
 麗奈の事を、思っていた。

作者:塩田多弾砲 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年6月30日
難度:易しい
参加:2人
結果:成功!
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