夏の姫沙羅

作者:芦原クロ

 女性に人気の、花を扱った雑貨店。
 涼しげな花模様のグラスや、フラワーアクセサリー。
 詰め込まれた花が透けて見える、ボタニカルフラワーキャンドル。
 火を灯さずに飾れるタイプのアロマキャンドル、ボタニカルアロマサシェ。
 香りは、ジャスミン、ラベンダー、ローズなど。
 色とりどりのグラデーションカラーが美しく、涼しげで爽やかなプリザーブドフラワーのリース。
 ガラスで作られた可愛らしい花は、スズラン、バラ、ヒマワリなどの種類が有る。
 店内は女性客で賑わい、贈り物用や自分用にと購入している。
 そんな雑貨店の庭に植えられている、1本のヒメシャラ。
 ツバキに似た、小ぶりの愛らしい白い花を咲かせるヒメシャラは、華やかで魅力的だ。
 何処からか漂って来た、謎の花粉のようなものが、とりついた。
 すると、ヒメシャラは動き出して巨大化し、店を破壊して、人々に襲い掛かった。
 逃げ惑う無力な人々を弄ぶように殺め、殺戮の限りを尽くした。

「ヒメシャラか……花も綺麗だが、ヒメシャラは幹の美しさから、アオギリやシラカバと並んで日本三大美幹に数えられているな」
「そのヒメシャラが攻性植物化したようだ」
 霧山・シロウ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0315)の言葉の後に、空鳴・熾彩(ドラゴニアンのブラックウィザード・e45238)が重要かつ、簡潔な説明を足した。
「空鳴・熾彩さんの推理のお陰で、予知が出来たぜ。感謝する。……あんたさん達には、急ぎ現場に向かい、攻性植物の撃破を頼みたい。放っておけば、多くの命が失われてしまう」

 敵は、1体のみ。配下は居ない。
 警察などが一般人の避難誘導を迅速におこなってくれる為、ケルベロスたちは降下後、攻性植物を迎撃する手はずとなる。
 戦場は、雑貨店の前になるだろう。

「死傷者を出さない為にも、どうか、確実に撃破してくれ」
 頭を下げて、締めくくった。


参加者
天司・桜子(桜花絢爛・e20368)
伊礼・慧子(花無き臺・e41144)
レイナ・クレセント(古代の狭間・e44267)
空鳴・熾彩(ドラゴニアンのブラックウィザード・e45238)

■リプレイ


「誘導の手はずは整っているので、戦闘区域にうっかり迷い込む人がいないよう殺界形成を行います」
 店の前に到着すると、伊礼・慧子(花無き臺・e41144)は殺気を放つ。
「花が綺麗というのはよく聞くが、幹の美しさで称えられる花というのは初めて聞いたな。そんな感性もあるのだな、興味深い」
「桜子も初めて聞いたよー、奥深いよね」
 関心する空鳴・熾彩(ドラゴニアンのブラックウィザード・e45238)に、天司・桜子(桜花絢爛・e20368)が話し掛ける。
(「ヒメシャラかぁ、可愛い花を咲かせるのだけど……攻性植物になったからには被害が出る前に倒してしまわないとね」)
 花が好きな桜子は、気持ちを切り替える。
(「日本三大美幹かー、何とも壮大なものが攻性植物になっちゃったね」)
 レイナ・クレセント(古代の狭間・e44267)が思案していると、なにかが這いずり回る音が聞こえて来た。
「まぁ、それはそれとして、攻性植物化したなら倒さねばならないな」
(「人に被害が出る前に、倒してしまおう」)
 熾彩の言葉にレイナは胸中で同意し、攻性植物の相手に専念しようと決める。
 全員、敵の迎撃準備は出来ている。
 姿を現した敵は、ケルベロスたちを前にし、まるで獣のような呻き声をあげた。
 一方的な殺戮を行なおうと、ツルを振るう。
 後方に飛ぶようにして、難なく避けた桜子。
 避けられたツルは地面を叩き、押し潰す。
「桜子は、敵への攻撃に専念するよ」
 敵が一般人のほうへ向かわない様に、と。
 攻撃をし続けることで、敵の注意を引きつける作戦だ。
「桜の花々よ、紅き炎となりて、かの者を焼き尽くせ」
 敵が次の攻撃に出る前に、桜子が創り出した無数の桜の花弁が、敵を囲む。
 美しい桜の花弁は紅蓮の炎へと変わり、敵を燃やす。
『グオオオッ!』
 炎を振り払おうとするかのように、敵は暴れ、咆哮をあげた。


「癒しの属性よ、仲間を護る力となって下さい!」
 生み出した盾で、先ずは自分に耐性を付与する、レイナ。
「雑貨店に被害が及ばないよう気を付けましょう」
 慧子も盾を形成し、敵が与える状態異常に備え、護りを強化する。
「……凍て付き、眠れ」
 竜の言霊により、敵を瞬時に凍らせて氷の中へ閉じ込める、熾彩。
 が、次の瞬間、炎の光線がほとばしり、氷は溶け、砕け散る。
 敵の放った破壊光線は、先刻の仕返しとばかりに、桜子へ命中した。
 全身に力を込め、転倒こそ防いだものの、負傷はまぬがれなかった。
「回復はお願いね。桜子たちが、相手だよ!」
 負傷しても桜子は止まらずに駆け回り、永劫桜花にエネルギーを注ぐ。
「永劫桜花よ、敵を絡み取ってしまえー」
 ツルクサの茂みのように変形した永劫桜花は、敵に絡みついて締め上げる。
「誰も倒れないのが一番ですので、敵のクリティカルの威力を鑑みて判断は早めに……」
 砲撃の形態に変形させたハンマーを構え、轟く砲弾で敵を撃ち抜く、慧子。
「回復は任せて下さい」
 レイナが桜子の負傷を癒している間、敵は頭らしき部分をそちらに向けていた。
 嫌な予感が働いた熾彩は、レイナの元へ走り出す。
 敵の身体の一部が発光し、一瞬で灼熱の光線が放たれる。
 熾彩はレイナを庇い、傷を負う。
 敵は間違い無く、回復役のレイナを、狙っていた。
「大丈夫ですか!?」
「これぐらい、何ともないな」
 痛む負傷箇所を片手で押さえながらも、熾彩は氷結輪を射出し、敵を切り裂き、強烈な冷気で凍てつかせる。
 動ける力はまだまだ残っていると、熾彩は実際に行動で、レイナに証明して見せた。
 ほっと安堵の息を吐き、レイナはすぐさま、熾彩の傷を癒やす。
「敵のBS攻撃にも注意を払いましょう」
 状態異常が重ならないよう、こまめに回復を耐性を駆使する、レイナ。
 敵はツルで地面を叩いて威嚇し、枝は伸びて鋭いものと化し、愛らしかったヒメシャラの面影を完全に消した。


 そこに居るのは、禍々しく変形した、殺気に満ちあふれた異形。
 空気も重々しく張りつめたものに変わり、圧倒されそうになるが、ケルベロスたちは一歩も退かない。
 敵を逃がすつもりも、一般人の居る方向へ進ませるつもりも、一切無い。
 ここで必ず撃破する――そう心に決めていた。
 敵は執拗に回復役のレイナに攻撃を繰り出し、その度に、ディフェンダーの慧子と熾彩が庇う。
 だが敵は順調とはいえず、重ねられる状態異常により、行動を次第に阻まれてゆく。
「機動力を削ぎ続けましょう」
 慧子が雲雀殺で緩やかに弧を描き、斬撃を放つ。
 急所を的確に斬り裂く攻撃に、敵は苦しげに暴れ回る。
 周囲に被害が出ないよう、気を配りながら戦っていた熾彩は、敵に向けて光線を放ち、敵の意識を自分へと向けさせた。
 もっとも警戒していた、催眠の状態異常が掛かった際は、皆それぞれ率先して打ち消す。
 長い間、交戦が繰り広げられた。
「少人数だから時間も掛かるのでしょうか」
 攻撃の手は休めず、慧子がややうんざりした様子で、呟く。
「このメンバーなら勝てるよ! 必ず撃破しようね」
 桜子が持ち前の明るさとポジティブ思考を発揮し、仲間たちを鼓舞。
「桜子さんの言う通り、頑張って倒します。絶対に負けたくないです」
 負けず嫌いの気質が有るレイナは、言葉に力がこもりまくっている。
 幾度も攻防を繰り返し、ダメージと共に、状態異常も敵に食らわせる、攻撃主体のメンバー。
 敵は確実に衰退して反撃の回数も、大幅に減り、動きはより鈍足になってゆく。
「桜子は雑貨店に立ち寄りたいんだから、早く倒れてー!」
 あと僅か、それでもしぶとく存在し続ける敵に、桜子が声をあげる。
「私もお買い物と洒落込みたいところです」
 同意した慧子は、視認困難な影の斬撃で敵の急所を掻き斬った。
「この地に眠る死霊たちよ、癒しの力を分け与えよ」
 状態異常が蓄積した者に、回復と解除を行なう、レイナ。
「早く片付けて、雑貨店を楽しもう」
 詠唱を終え、凍結竜言を展開して敵を氷に閉ざした熾彩が、仲間たちに告げる。
「いくよー! このハンマーで、叩き潰してあげるよ!」
 敵が吹き飛んでゆかぬよう、桜子はインパクト・ブラッサムを上手く調整し、エネルギーを噴射して加速すると共に、上空へ上がってゆく。
 敵の真上から、振り下ろしたハンマーで勢い良く、敵を叩き潰した。
 強烈な攻撃に耐えきれず、敵は完全に消滅した。


「戦闘痕は、ヒールで修復しておくね。私も雑貨店に入りたいなぁ」
 破損個所を修復しながら、レイナが楽しみだというように呟く。
「……幹の美しさに注目したことは……そういえば、あまりなかったように思います」
 慧子は殺界形成を解除し、避難していた一般人も戻り、平穏な日常の光景が広がる。
「木の葉を操る種族としてこれが盲点だったのは手痛いです。反省は次に活かすとしましょう」
 1人反省している慧子の手を、桜子が両手で優しく包み込む。
「皆で雑貨店にいこうー」
 柔らかな笑顔を浮かべ、明るく誘う桜子。
 内気で引っ込み思案なところがある慧子には、その明るさが眩しすぎたのか、片手で自分の目元を覆った。
 店員も客も戻った雑貨店へ、入ってゆくメンバー。
「折角だから、何か買っていこうかな? 何がいいだろうか……」
 熾彩は、数多く有る商品を、見て回っている。
「アロマキャンドルとか興味があるよー」
「蚊取り線香めいたアロマのお香はあるんでしょうか?」
 アロマキャンドルのスペースに、桜子と慧子が向かう。
「虫除け用かな? あ、書いてある。これじゃないかな」
 桜子が手にしたのは、虫が嫌うアロマオイルが使われているものだ。
 香りもすっきりとしていて、暑い時期にはピッタリだろう。
「こっちは、とても綺麗なキャンドルだね、一つお土産に買おうかな?」
 桜子は目にとまったキャンドルを、迷わず手にした。
 透ける花々が美しいので、見た目も楽しめる、ボタニカルフラワーキャンドル。
「花模様のグラスとか良さそうだね」
 レイナは、涼しげな模様のグラスを見ていた。
 その隣のスペースは、ガラスで作られた愛らしい花が並んでいる。
「ガラスの花、綺麗だな。よし、これにしよう」
「花の種類も決まりました?」
「ああ、バラの形のを買うことにするよ」
 レイナの問いに対し、ガラスのバラを見せる、熾彩。
「私は……この綺麗な模様、一つは持っておきたいなぁ」
 少し迷ってから、レイナは美しい花模様のグラスを購入することに決めた。
 そんな2人を呼ぶ、桜子。
「慧子さんがね、夏めいた物を買いたいって言ってたからね、色々見てたんだけど。これ! なんだと思う?」
 桜子が嬉々として見せたのは、花弁が青いガラスで出来た、涼しげでオシャレな物。
「これね、蚊取り線香入れなんだって。キレイすぎだよね」
 不思議がるレイナと熾彩は、桜子から答えを聞かされて驚く。
「美しい装飾品だと思いましたが、蚊取り線香入れ……無駄にオシャレですね」
 レイナが驚きから、目を丸くする。
「髪留めやイヤリングもキレイなんだよ」
 先に見ていた慧子の周りに集まり、桜子が見るようにと促す。
 髪留めには短い鎖がつき、動くと、鎖の部分がキラキラと輝く。
 アクセサリーの花は、ヒマワリ、アサガオ、アジサイ、プルメリア、ハイビスカス……と。夏の花が揃っている。
 どれも涼しげな色合いや形をしており、夏の時期にピッタリだ。
 見ているだけで楽しめる花の雑貨を、眺めたり購入したりと、和気あいあいとしながら堪能するのだった。

作者:芦原クロ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年6月28日
難度:普通
参加:4人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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