死せる狂戦士の生還

作者:秋津透

 千葉県館山市、海岸道路。深夜。
 青白く発光する体長2mくらいの浮遊する怪魚……下級死神が3体、ゆらゆらと泳ぎ回る。
 その軌跡が魔法陣のように浮かび上がると、その中心に背に大剣を斜めに背負った半裸の巨漢、エインヘリアル戦士が召喚される。
 そして、召喚されて実体化すると同時に、エインヘリアル戦士は全身を震わせ凄まじい哄笑をあげる。
「ギャハハハハハハハハ! 斬ルゼ! 斬ルゼ! 斬ルゼ!」
 その戦士の名は『笑斬のギルアデ』。重罪人として地球に放逐されたが、ケルベロスの手で斃され、今、下級死神によって知性を失った姿でサルベージされたのだ。

「千葉県館山市の海岸道路に魚型の下級死神三体が出現し、皆さんが斃した罪人エインヘリアル『笑斬のギルアデ』をサルベージする、という予知が得られました」
 ヘリオライダー高御倉・康が、深刻な表情で説明する。
「死神は『笑斬のギルアデ』に周辺住民を斬らせ、グラビティ・チェインを補給した上で連れ去るつもりのようですが、そんな真似をさせるわけにはいきません。今から急行すれば、『笑斬のギルアデ』がサルベージされた直後に間に合いますので、下級死神もろとも撃破してください。場所は深夜の海岸道路上なので、周辺に人気はなく、車両等が通ることもありません」
 そういって、康はプロジェクターの画像を示す。
「『笑斬のギルアデ』は、ばかでかいゾディアックソードを背負っており、以前の戦いでは武器のグラビティの他に、デストロイブレイド(頑健 近単 破壊+【怒り】)を使いました。知性を失った状態でサルベージされているので、回復等はしない可能性がありますが、絶対にしないとは言えません。エインヘリアルの常で異様にタフなうえに、単純な体力はサルベージで強化されていると思われます。下級死神は三体、ドレイン効果のある噛みつき、自己ヒールとキュア、毒の弾丸を吐くようです。こちらも大した知性はありませんが、明らかに劣勢になると『笑斬のギルアデ』とともに撤退しようとする可能性があります」
 そして、康は硬い表情のまま告げる。
「死神とエインヘリアルの関係もよくわかりませんが、思惑通りにさせるわけにはいきません。どうか、よろしくお願いします」


参加者
日柳・蒼眞(うにうにマスター・e00793)
皇・絶華(影月・e04491)
コクマ・シヴァルス(ドヴェルグの賢者・e04813)
ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)
ギュネヴィア・イリオン(レプリカントの鎧装騎兵・e32996)
 

■リプレイ

●まずは様子を……見て正解だった?
「今回の依頼なんだが、まず最初の一ターンは相手に行動させてから動きたい」
 ヘリオンで現場に移動する途上、日柳・蒼眞(うにうにマスター・e00793)が同行するメンバーに告げた。
「もちろん、ギルアデだっけ、エインヘリアルの攻撃で誰かが危なくなったら、すぐヒールしなくちゃいかんが、攻撃を仕掛けるのは、下級死神が行動を終えてからにしたいんだ」
「それは、いきなり撤退に走られるとまずい、ということか」
 皇・絶華(影月・e04491)が訊ねると、蒼眞は真顔でうなずく。
「その通りだ。なんせ、相手のポジションがわからん。死神三体はディフェンダーじゃないかと思うんだが、だとすると、攻撃仕掛けて庇いに入られると、どうしてもダメージが偏る。いきなり一体潰れて、残り二体が魔空回廊開きだしたら、始末に悪い」
「うむ。確かに、庇いに入られてしまうと、均等に削るというわけにはいかんな」
 絶華が唸り、コクマ・シヴァルス(ドヴェルグの賢者・e04813)が応じる。
「賛成じゃ。幸いと言っていいのか知らんが、こちらは五人でサーヴァントなし。下級死神が見ただけで恐れるような外見の者もおらんし、対峙しただけで逃げにかかられることはなかろう。ならば、敢えて後手を引き様子を見るのは良策じゃ」
「下級死神なら、ディフェンダーだとしてもそれほど耐久できるわけもなし。一気呵成に潰してしまった方がよろしいのでは?」
 ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)が、お嬢様口調で過激な提案をすると、蒼眞は苦笑して応じた、
「俺が心配してるのは、サルベージされたエインヘリアルもディフェンダーで、死神を庇いに出られた場合なんだ。ディフェンダーの庇いは自動的で、本人の意思や知性は関係ないからな。偶然、最善の防御……こちらからすれば最悪の防御をされないとは限らない」
「そんな、四体全部ディフェンダーなんて……」
 ありえるのでしょうか、とミリムが唸ると、ギュネヴィア・イリオン(レプリカントの鎧装騎兵・e32996)が、レプリカントならではの冷静な口調で淡々と告げる。
「今回、デウスエクス側の意図は我々との戦闘ではなく、一般人を虐殺して撤収することだと、ヘリオライダーから説明がありました。ならば、全個体が其々の意思に関わらずディフェンダーとして配置されるのは、充分にありえることと判断できます」
「取り越し苦労で済めば、それに越したことはないんだが、どうもイヤな予感がするんだ」
 蒼眞の言葉に、ミリムは表情を引き締めうなずく。
「想定される最悪の事態に備えよ、というのは戦いの鉄則ですわね。蒼眞さんの提案、同意いたしますわ」
 そして、ヘリオンは現場に到達し、深夜の海岸道路に妖しく光る魔法陣のようなものに向け、五人のケルベロスは次々に降下する。
 すると。
「ギャハハハハハハハハ! 斬ルゼ! 斬ルゼ! 斬ルゼ!」
「うわっ!」
 魔法陣から飛び出してくるような感じで、半裸のエインヘリアル『笑斬のギルアデ』が蒼眞に向かって殺到する。
 予想以上の速度に、まともに一撃されるのを蒼眞が覚悟した瞬間、ディフェンダーのコクマが割って入る。
「やらせはせぬわ!」
「ギャハハハハハハハハ! 斬ルゼ!」
 哄笑とともにギルアデはゾディアックソードを振り下ろし、コクマは右腕の義骸装甲で正面から受ける。
「ダメージは、どうだ?」
 ごく冷静な口調で絶華が訊ね、コクマも訥々と応じる。
「かすり傷……とはさすがに言えぬが、さほどではない。ディフェンダーかどうかはわからぬが、こ奴、クラッシャーではなさそうだ」
「ふむ……」
 今回参加のメンバーでは唯一、生前のギルアデと闘ったことのある絶華は、真剣な表情でエインヘリアルを凝視する。
「筋力は上がっているのかもしれんが、強さを感じないな。ポジションのせいか、執念が衝動に堕したせいか……」
 絶華が呟く間にも、三体の下級死神が傷ついたコクマに襲い掛かり噛みつこうとするが、コクマは素早く身を躱す。三体目が、がき、と空を噛んで引き下がると同時に、蒼眞が低い声で告げる。
「それじゃ、こっちの番だ……まとめていくぜ、桜花剣舞!」
 あまり俺の柄じゃないが、と呟きつつ、蒼眞は華麗な桜吹雪の幻影を伴う斬撃で、下級死神を薙ぎ払う。
 すると、死神の一体が別の死神を庇い、更にギルアデがもう一体の死神を庇う。
「うわ……予想大的中かよ。嬉しくないけど」
 仲間を庇った死神が粉々に砕け散るのを見て、蒼眞は憮然とした表情で唸る。
 一方ミリムは、厳しい表情で叫ぶ。
「全員ディフェンダーとは、なんと姑息な! ですが、お前たちの企みは既にお見通しですわ!」
 私が見通したのではないのがちょっと悔しいですが、と言葉には出さずに付け加え、ミリムはオリジナルグラビティ『王虎アルギオスの紋章』を放つ。
「ぬおおぁあああ!!」
 お嬢様然とした容姿には少々不似合いな気合声とともに、ミリムの額に「とある別世界で最強と謳われた剣闘士」の力を込めた魔術紋章が浮かぶ。
 そしてミリムは凄まじい勢いで、残る二体の下級死神とギルアデに向け殴りこむ。
「くらえ、王虎鉄拳!」
 直撃された下級死神が、見事に粉微塵になる。しかし、もう一体の死神はギルアデに庇われる。二倍のダメージを受けたエインヘリアルは顔を歪めるが、斃れるには至らない。
「ふむ……」
 コクマは少し考えたが、身体を高速回転させて死神に突撃する。しかし、これもギルアデが庇う。
「しぶといのう」
 蒼眞殿の策に従っておらねば、危ないところであったわ、とコクマは唸る。
 続いて絶華が高空へ跳んで死神に重力蹴りを見舞うが、これもギルアデが庇う。
 最後にギュネヴィアが、ゲシュタルトグレイブを無数に分裂させて降り注がせ、庇いは生じなかったものの、ここまで無傷の死神を潰すには至らなかった。
「非常識な粘りだが、まあ、一応は想定内だ。次のターンで、魔空回廊を開けるまでに潰せれば……えっ!?」
 死神を注視していた蒼眞が、目を丸くして絶句する。
 なんと、ギルアデがゾディアックソードを一閃させ、死神を両断したのである。
「ギャハハハハハハハハ! 斬ルゼ! 斬ルゼ! 斬ルゼ!」
「催眠にかかっていますね。私のゲイボルグ投擲法が効いたのか……いや、おそらく蒼眞さんの桜花剣舞の効果でしょう」
 ギュネヴィアが冷静に分析し、蒼眞は何ともいえない表情で吐息をついた。

●死神にサルベージなんぞ、されるもんじゃない。まったく。
「斬……ル……ゼ!」
 ケルベロスたちの猛攻でずたずたになったギルアデが、それでも猛然とゾディアックソードを振るうが、コクマは難なく斬撃を躱す。
「単調なんじゃよ。と言っても、知性を失った身ではわかるまいなあ」
 むしろ哀れむような口調で、コクマが告げる。ギルアデは、ゾディアックブレイクとデストロイブレイドで攻撃してくるのだが、どちらの「頑健」なのでケルベロスには容易に見切られてしまう。
「ディフェンダーだからしぶといのはわかるが、そろそろ終わりにしてもいい頃合だろ?」
 呟くと、蒼眞はオリジナルグラビティ『終焉破壊者招来(サモン・エンドブレイカー!)』を発動させる。
「ランディの意志と力を今ここに!……全てを斬れ……雷光烈斬牙…!」
 理不尽な終焉を破壊する力を持つ「とある別世界の冒険者」ランディ・ブラックロッドの意志と能力の一端を借り受け己の身に宿す事で、短時間かつ限定的にではあるがその力を揮う。蒼眞の一撃はエインヘリアルの胸部を深々と断ち割ったが、それでもギルアデは斃れない。
「まったくもう、逃げる方策もないというのに、いつまで無駄に粘る気ですか!」
 ミリムが、腹立たしいのとうんざりしたのが半々のような口調で言い放つ。
「さぁ死になさい! 今! すぐ! 死ねぇえええ!!」
 呪詛じみた気合とともに叩きつけられたルーンアックス『暴斧Beowulf』の一撃は、頭を割るか首を吹っ飛ばすかという勢いだったが、僅かに逸れて肩口から胸に喰い込む。それでも普通なら十分に致命の一撃だが、エインヘリアルは斃れない。
「まったく! もう!」
「守るもののないディフェンダーというのは、哀れなものじゃな」
 呟くと、コクマはオリジナルグラビティ『月薙ぎ(ハティノジュウリン)』を放つ。
「我が手に従うはスルードゲルミル! 貴様も斬ることを娯楽としているのであれば、我が刃にて死した後に潰える事を冥府の誉れとするが良いわぁぁぁぁ!!!」
 鉄塊剣『スルードゲルミル』の刀身に青白い水晶の刃を纏わせて巨大剣化。そのまま敵に突撃して真横に薙ぎ払い戦艦をも切断する一撃を敵に打ちこむ。斬撃は見事に決まり、エインヘリアルの腹部が背骨もろとも完全に両断された、と見えたが。
「斬……ル……ゼ……」
 呻くギルアデの口から、がぼおっ、と大量の血が吐き出される。そして、両断された腹部切断面から大量の血が噴き出し、そのまま傷口を固める。
「やれやれ、ここまでくると、往生際が悪いとかいう問題ではないのう」
「エインヘリアルというのは、そういうものだ。とにかく確実に死ぬまで、どこまでも斬って叩いて潰すしかない」
 言い放って、絶華がオリジナルグラビティ『四門「窮奇」(シモンキュウキ)』を発動させる。
「覚えていないだろうが、この技、一度見せている。貴様が知性を持って復活してきたのなら、対策を講じているかもしれんが、それはない。……無残だな」
 呟くと、皇家に伝わる奥義により、絶華は古代の魔獣の力をその身に宿す。
「我が身…唯一つの凶獣なり……四凶門…「窮奇」……開門…! …ぐ…ガァアアアアアア!!!!」
 異様な叫びとともに、絶華はギルアデに躍りかかり、凝血でかろうじて繋がっている腹部を容赦なく切り刻む。ひとたまりもなく傷口が割れ、エインヘリアルの巨体が両断されて崩れ倒れるが、絶華は構わず上半身に攻撃を続け、太い首を両断して首級を挙げる。
「ガアアアアアアッ!」
「これは、さすがに死にましたね。皆様、ご苦労様でした」
 ギュネヴィアが冷静に告げ、一同に向け軽く頭を下げた。

作者:秋津透 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年7月1日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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