やぶ蚊、死すべし!

作者:ゆうきつかさ

●栃木県某所
「これで我が家は安泰ッ! もう二度と大量の蚊に悩まされる事はない!」
 家主にとって、やぶ蚊は最強最悪の敵だった。
 雑草まみれになった庭は、既に奴等のテリトリー。
 その場に転がったバケツの中は、奴等の産卵場所。
 それが分かっていても、今までは近づく事が出来なかった。
 そう思えてしまう程、やぶ蚊が多く、バケツの所に辿り着く前に返り討ち。
 故に、家主は考えた。
 奴等に対抗するための武器が必要である、と……。
 そのため、迎え入れられたのが、液体電子蚊取りであった。
 液体電子蚊取りのおかげで、家主がやぶ蚊に刺される事も無くなった。
 しかし、家主が仕事の引っ越す事になり、液体電子蚊取りは持っていかれる事なく放置された。
 その液体電子蚊取りに蜘蛛型の小型ダモクレスが入り込み、機械的なヒールによって、新たなダモクレスが誕生するのであった。

●セリカからの依頼
「八点鐘・あこ(にゃージックファイター・e36004)が危惧していた通り、栃木県某所にある山奥にある家で、ダモクレスの発生が確認されました。幸いにも、まだ被害は出ていませんが、このまま放っておけば、多くの人々が虐殺され、グラビティ・チェインを奪われてしまう事でしょう。そうなってしまう前に、何としてもダモクレスを撃破してください」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
 ダモクレスが確認されたのは、栃木県某所にある山奥にある家。
 この辺りには大量のやぶ蚊が出るらしく、人が住むには適していないようである。
 ただし、この家の近くにはキャンプ場があるため、ダモクレスがそこにいる一般人達を襲って、グラビティチェインを奪う可能性があるようだ。
「ダモクレスと化したのは、液体電子蚊取りです。このままダモクレスが暴れ出すような事があれば、被害は甚大。罪のない人々の命が奪われ、沢山のグラビティチェインが奪われる事になるでしょう」
 そう言ってセリカがケルベロス達に資料を配っていく。
 資料にはダモクレスのイメージイラストと、出現場所に印がつけられた地図も添付されていた。
 ダモクレスは巨大な蜘蛛のような姿をしており、大量のやぶ蚊を地獄に叩き落としていきながら、キャンプ場に向かう可能性があるようである。
「とにかく、罪もない人々を虐殺するデウスエクスは、許せません。何か被害が出てしまう前にダモクレスを倒してください」
 そう言ってセリカがケルベロス達に対して、ダモクレス退治を依頼するのであった。


参加者
八点鐘・あこ(にゃージックファイター・e36004)
伊礼・慧子(花無き臺・e41144)
佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)
ミアン・プロメシュース(瑠璃の処罰者・e86115)

■リプレイ

●栃木県某所
「うわ……、見るからにヤバイ感じがするし……。そもそも、あいつらって気づいた時にはプンプン近くを飛んでくるから嫌なのよ。一度見失ったら絶対見つからないし……次元の狭間とかに隠れてんじゃないかしら?」
 佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)は嫌悪感をあらわにしながら、ダモクレスが確認された山奥にある家に向かっていた。
 その途中、幾つもの蚊柱を見かけたものの、ユスリカ達はメスを呼び寄せる事に夢中で、ケルベロス達にはまったく興味をしていていなかった。
 だが、やぶ蚊達は、別だった。
 久しぶりに御馳走に瞳をランランと輝かせ、躊躇う事なく、まっしぐら!
 のこぎり状の針を突き立て、一心不乱に血を吸い始めた。
「ある意味、やぶ蚊は暗殺者だと思うのですが……。あまり共感やら同情の余地はないので思いっきり殺しましょう」
 その事に気づいた気づいた伊礼・慧子(花無き臺・e41144)が殺界形成を発動させた後、情け容赦なくやぶ蚊を叩き潰した。
 その途端、自分達の目的がやぶ蚊を殺す事でなく、ダモクレスと化した液体電子蚊取りを倒す事に気づいた。
 しかし、やぶ蚊は、おかまいなし。
 時間無制限の吸い放題タイムが始まったのではないかと錯覚する程、ケルベロス達に夢中であった。
「こうやって腫れたとこに爪でバッテンつくるのは、ちょっと痛気持ちいいのよね……。痒さって変な気持ちよさがあるから困りものだわ」
 そんな中、レイが蚊に刺された部分に爪でバッテンを作り、複雑な気持ちになった。
 嫌いじゃないが、だからと言って、やぶ蚊が好きという訳では無い。
「……と言うか、やぶ蚊を殺しまくるなら放っておいてもいいのでは……。ん? でも、ダモクレスと化した事で、人間も殺しまくるのでは……。駄目です、それは駄目なのです!」
 八点鐘・あこ(にゃージックファイター・e36004)が、ハッとした表情を浮かべ、自分の中に芽生えた感情を掻き消した。
 毛皮があるので多少なら刺されても大丈夫かと思っていたが、やぶ蚊達は肉球や耳などを狙い、狂ったように血を吸った。
 そのため、やぶ蚊に対する殺意が、あこの中にも芽生えてきた。
「やぶ蚊は人類にとって大変な脅威と聞きますが、それを駆除するための道具とはいえ、ダモクレス化したものを放置はできませんね」
 ミアン・プロメシュース(瑠璃の処罰者・e86115)が、覚悟を決めた様子で山奥にある家を睨みつけた。
「カトリィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 次の瞬間、ダモクレスが耳障りな機械音を響かせ、家の壁を突き破って、ケルベロス達の前に現れた。
 ダモクレスはケルベロス達を襲っていたやぶ蚊を殲滅し、大量の死骸をシャワーの如く浴びていた。

●ダモクレス
「この場合、さすがと言うべきでしょうか。何やら壊してしまうのが勿体ないような気もしますが……」
 慧子が警戒心をあらわにしながら、ステルスツリーを使い、ステルスリーフの効果範囲を広げる魔法の樹を足元から呼び出した。
「カトリィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 その間に、ダモクレスが超強力なビームを放ち、辺りにいたやぶ蚊達を次々と倒していった。
 状況的に考えれば、ケルベロス達と戦う事よりも、やぶ蚊を倒す事に全力を注いでいるような気もするが、ここで油断は禁物。
 ケルベロスを無視している訳では無く、自分の力を見せつけているようにも見えた。
「い、いまのうちに準備を整えておくのです!」
 すぐそま、あこが『さがしもの行進曲(サーチングマーチ)』を歌って、捕食者として特化した食肉目ネコ科の獲物に対する執念を宿した。
「あー、もう! やぶ蚊が邪魔で集中できないじゃないっ!」
 一方、レイは大量のやぶ蚊に襲われ、斧をブンブンと振り回した。
 それを嘲笑うようにして、大量のやぶ蚊がレイに纏わりつき、身体のあちこちを刺してまわった。
「カトゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥリィィィィィィィィィィ!」
 次の瞬間、ダモクレスが超強力なビームを放ち、レイのまわりに纏わりついていたやぶ蚊を全滅させた。
 だが、レイの身体は……無傷。
 その事に違和感を覚えつつ、ダモクレスを睨みつけた。
「カトゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥウリィィィィィィイ」
 その視線に気づいたダモクレスが、再びビームを放ってきたが、死んだのは、やぶ蚊だけ。
 しかし、レイはビームの直撃を喰らっても、傷ひとつなかった。
「こんな事をしたって、無駄よ、無駄! 絶対に御礼なんて言わないんだから! あー、もうむかつく! また、やぶ蚊が集まってきたっ!」
 レイがイラついた様子で、大量のやぶ蚊を振り払った。
 それでも、やぶ蚊達はブンブンと耳障りな音を立て、レイの血を吸いまくった。
 そのたび、ダモクレスがビームを放ち、レイに纏わりついていたやぶ蚊の命を奪っていった。
「まさか、このダモクレスがやぶ蚊を呼んでいる……訳ではありませんよね。とにかく、倒してしまいましょう。ダモクレスが罪のない人々を襲い前に……」
 それと同時に、ミアンがアイスエイジインパクトを仕掛け、生命の『進化可能性』を奪う事で、凍結させる超重の一撃をダモクレスに放った。
「カトリィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィイ!」
 その事に腹を立てたのか、ダモクレスが液体電子蚊取り型のアームを、幾つも伸ばしてきた。
 その影響でダモクレスのまわりにいた大量のやぶ蚊達が、地面に落下して小さな山をあちこちに作っていった。
「ま、まさかキャンプ場に……!」
 その途端、ミアンがハッとした表情を浮かべ、ダモクレスをジロリと睨みつけた。
 ダモクレスは人の気配を感じたのか、それとも大量のやぶ蚊を見つけたのか、キャンプ場を目指して移動を開始した。
 おそらく、それは本能的なモノ。
 『やぶ蚊、死すべし、慈悲はない』と言わんばかりの勢いで、超強力なビームを放ち、行く手を阻むやぶ蚊達を倒していった。
「まったく、もう! いい加減にしてよね、本当に……!」
 その行く手を阻むようにして、レイがペイントラッシュを仕掛け、激しく塗料を飛ばして、ダモクレスの前面を塗り潰した。
「カトゥリィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 それに驚いたダモクレスがパニックに陥った様子で、狂ったようにビームを放った。
 その影響で、次々とやぶ蚊達が死んでいき、ケルベロス達に降り注いだ。
「こ、これは嫌な雨なのです!」
 あこが嫌悪感をあらわにしながら、身体に降り注いだやぶ蚊の死骸を払った。
 ウイングキャットのベルも、鬱陶しそうにしながら、やぶ蚊の死骸に猫パンチを繰り出した。
 だが、やぶ蚊の死骸は振り払う事が出来ない程……大量だった。
「またダモクレスがキャンプ場の方に……!」
 その事に危機感を覚えた慧子が月光斬を繰り出し、緩やかな弧を描く斬撃で、ダモクレスの急所を的確に斬り裂いた。
 それと同時に、ダモクレスのコア部分が剥き出しになり、淡くボンヤリと光を放った。
「カトゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥリィィィィィィィィィィィィ!」
 その途端、ダモクレスが敵意を剥き出しにして、ケルベロス達を狙ってミサイルを飛ばしてきた。
 ダモクレスから放たれたミサイルは大量の破片と共に、周囲にいた大量のやぶ蚊を殺していった。
「本当に、やぶ蚊を殺す事だけに特化しているようですね。だからと言って、放っておくわけには行きませんが……」
 慧子が降り注ぐやぶ蚊の死骸を掻き分け、ダモクレスに攻撃を仕掛けていった。
「カトリィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィイ!」
 ダモクレスは、やぶ蚊を殺す事を最優先にしているようだが、それを邪魔するのであれば、ケルベロスであっても容赦はなかった。
 自らの怒りをミサイルに籠め、ケルベロス達に向かって、雨の如く降らせていった。
「やぶ蚊を殺してくれるのは有難いのですが、ミサイルは御遠慮なのです」
 あこがベルと一緒に身を屈めながら、ダモクレスのミサイルから逃げていった。
 だが、ダモクレスは執拗にあこ達を追いかけ、ミサイルの雨を降らせていった。
「……ですが、狙いは私達に変わりました。このままキャンプ場から離れて行きましょう!」
 慧子がダモクレスを挑発しながら、キャンプ場から離れていった。
「それなら、うまく水辺に誘導すれば大量のやぶ蚊を殺せるのでは……!? ついでにころしまくるのです!」
 その事に気づいたあこが、ダモクレスを引きつけるようにして、水辺に向かって走り出した。
「カトリィィィィィィィィィィィィィィィィ」
 その挑発に乗ったダモクレスが、行く手を阻むやぶ蚊達を蹴散らし、あこ達に迫ってきた。
「にゃんこパンチなのです!」
 それを牽制するようにして、あこが獣撃拳を繰り出し、ダモクレスのボディに拳の痕をつけた。
「カトゥリィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 それでも、ダモクレスは、水辺を目指した。
 ……大量のやぶ蚊の気配を感じ取り!
 ダモクレスは真っ直ぐ水辺に突き進み、そこにいた大量のやぶ蚊を一掃した。
「それでは終わりにしましょう。……処罰を執行します」
 次の瞬間、ミアンが処罰執行(ジ・エンフォースメント)を仕掛け、ダモクレスに無造作で無慈悲な処罰の一撃を繰り出した。
「カトリィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 その一撃を喰らったダモクレスが完全に機能を停止させ、土煙を上げて崩れ落ちた。
 それと同時にダモクレスを覆うようにして、大量のやぶ蚊が降り注いだ。
「……あんたは夏の英雄よ。胸を張ってヴァルハラにお往きなさい……。きっと今年の夏の夜空には蚊取り座が輝くはずよ」
 レイがダモクレスの最後を看取り、真っ直ぐ空を眺めた。
 ダモクレスだったモノは、大量のやぶ蚊の死骸に埋もれ、まるで埋葬されているような感じになっていた。
 そんな中、ミアンは周辺環境に障りない範囲での除草作業とゴミ処理を行うのであった。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年6月19日
難度:普通
参加:4人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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